私はビルの上から、眼下で繰り広げられる、若きFW達の奮闘を見下ろしていた。
「よーう、お疲れさん」
そんな能天気な声と共に現れたのは、アルファードさんだ。
欠伸を噛み殺しながら、ペチペチと頭を叩きながら、片手を上げてくる。
「お疲れ様です」
私はそんな彼を敬礼で出迎える。
「どうよ?今度の若いのは?」
「いいですね‥はやてちゃんが厳選しただけありますよ‥」
「へえ‥鬼の教導官樣がお褒めになるほどかい‥」
そう言って、彼もFW達を見て目を細める。
「やめてくださいよ‥」
教導といえば、私はこの人に教導してもらったのだ。故に、頭が上がらない。
確かに鬼の教導官なんて言われる事もあるが、
私の教導はこの人から学んだものだ。
だから私が鬼だというなら、それはこの人のせいなのだ。
貰い手が居なくなったら、どうしてくれるのだ。
是非、責任を取ってもらいたい。
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それは‥私がまだ管理局に入局したばかりの頃‥私がまだ自分の戦闘スタイルも確立出来ていなかった頃のお話。
局内の訓練室で私は倒れ伏していた。
当時、その類い稀だという魔力素養を認められ、鳴り物入りで入局した私は、当然のように、行き詰まっていた。
管理局には魔道師ランクというものがある。
これは、魔力値だけで得られるものではなく、魔力に属した問題解決能力を試される。
この時私はSランクの試験に落ち続けていた。
当時の管理局でいえば、まだSランクは数人しかおらず、AAランクでも一目置かれる程の狭き門。
まだ子供だった私は、簡単に言えば、持て囃されていた。もう十分だ。‥なんて言葉を周りの大人は掛けてくれたけど。
それでも私は、諦めたくなかった。
このレベルで十分。と妥協することは簡単だったけど‥。
でもそれはできなかった。
何故なら、友だちのためだ。
自分が生涯付き合うと見定めた親友達。
彼女達は何の因果か、犯罪者のレッテルを貼られてしまった。
確かに、いけないことはしたのだ。
だが、それに深く関わった身として言わせてもらうなら、仕方の無いことだったのだ。
そうせざるをえない理由があって‥事情があって。
そう‥必死に生きただけなのだ。
だから私は決めた。一生彼女達と友だちでいようと、寄り添おうと、決めたのだ。
そんな彼女達は、今も必死に頑張っている。
一人は執務官という狭き門を目指して、猛勉強中で。
一人は贖罪のためにと、特別捜査官として、色々な部隊を渡り歩き、色々な次元世界の人々の暮しを守っている。
そんな格好いい二人と友だちで居るためには、
妥協した自身では足りなくて。
そう思って、何とか疲労で重くなった身体を起こせば、そんな私に声が掛けられた。
「反省は終わったか‥?」
目の前には、ハゲがいた。
しかも、憮然としたハゲだ。
「うっ‥くっ‥」
この人は今私が所属している部隊の隊長さんだ。
今回私がお願いして、訓練に付き合って貰っている。
未だ、疲労のせいで立ち上がれない身体をよじりながら、歯をくいしばって、顔を上げる。尊敬する彼に、みっともない姿を晒してしまっている事が悔しくて、恥ずかしくて、私は、軽く涙が滲んでしまう。
彼はそんな私の涙にギョッとしたように目を見開くと慌てだす。
「ど、どどどうした?何処か痛めたか?!」
そんな彼が可笑しくて、微笑ましくて、優しさがくすぐったくて、私は自然と微笑んでしまう。
疲労も少し抜けた気がする。
「大丈夫です。アルファード‥隊長」
「そ、そうか?」
ホッとしたように息を付く彼に尋ねる。
「私‥才能無いんでしょうか‥?」
と、彼は訳がわからないといった顔をして、
「なんでそう思うんだ?」
と、聞き返してきた。
「だって‥何度やっても隊長さんに勝てないし‥」
私は行き詰まっていた。
だからつい‥ポロッと、弱音を溢してしまったのだ。
「そりゃ俺は隊長だしな‥良いか?隊長ってのはな‥部下の良いとこも悪いとこも全部把握してないと、務まらねえんだよ‥」
彼はそんな私の弱音を珍しいモノでも見るように、パチクリと目を瞬くと、少し考えて話しだした。
「良いところも、悪いところも全部‥?」
私は思わず、反芻してしまった。
何か‥何かヒントを貰っているような‥
この閉ざされた視界を、行き詰まったレールを晴らす光が差したような、
漠然とそんな事を思ったが、自分の中で上手く答えにならず、それは霧散してしまう。
「わかるか?つまり、お前の良いとこを出させないように、悪いとこを攻撃出来るんだから、俺が勝つのは当たり前なんだよ‥」
「なにそれー!ずるいの!」
「hahaha」
両手を広げて笑う彼に腹が立ち、
「笑うなー!このハゲー!」
あ。やらかした。
つい思った事を口にしてしまった。
隊長をハゲ呼ばわりである。
流石に怒られるかと、恐る恐る彼をみると、
彼はキョトンとしていた。
と、そっと彼は私の頭に手を置くと、
「ついてきな‥」
とだけ言って、身体を翻した。
あー‥やっぱり怒られるー‥
それはそうだ。彼が優しい人だというのは、もうわかっているが、
いや、優しい優しくないの話しではない。
礼儀、敬意の話しだ。
子供だから仕方ないなんて思われただろうか。
彼に嫌われたくない。そんな風に思われたくない。
それは嘘偽りの無い気持ちで。私の心を後悔が締め付けた。
そんな自己嫌悪の中、私はトボトボと、彼の後を付いていく。
やがて、彼が入ったのは私が知らない部屋。
私がキョロキョロしていると、彼が教えてくれる。
「ここはデータベース室だ。まだ入ったこと無いだろ?」
彼の言にコクリと頷きを返しながら、周りを見渡していると。
「ここにはな、全局員の戦闘データや訓練データがあるんだ‥まあ、当然だが、閲覧するには部隊長権限が必要だけどな‥それと、見れるのは、この部屋の中でだけだ。訓練データ‥その都度の訓練成績、結果、総評なんかはその場で確認するもんだが‥ここでならこういう見方も出きる。」
そう言って彼が具現化させたデータは、私の今迄の全ての訓練成績だった。
「誰もが一回一回の結果をみて、その都度反省するもんだがな‥ここまで積み重ねたモノを見るヤツはそうは居ないぜ?」
そう言われ、私は今迄の自分の訓練成績を見ていく。
確かに、こうしてグラフで偏向等を分かりやすくされると、よくわかる。
「どうだ?」
「あはは‥やっぱり、私‥ダメダメですね‥」
そう答えると、彼はひとつタメ息を吐き、
「なら‥こうしたらどうだ?」
そう言って、彼はデータをチョイチョイと、操作する。
操作する時に、身体が近づき、彼の匂いがフワリと鼻孔を擽る。
甘いモノが好きだからだろうか、少し甘い香りがした。身体が近付いた事を全く不快に思わず、それどころか、少し、故郷の士郎さんを思い出してしまった。
なんで?士郎さんハゲてないのに。
そんな事を考えていると、何故か、心臓がひとつ高鳴った。
それを契機と、鼓動が高鳴りだす。
何故だろう。少し、顔も熱い気がする。
病気?
するとデータが、更に細分化された。
私は慌てて、意識をそちらに戻す。
そこで私は気付く。
「これ‥私‥この時は、射撃の命中率が悪いのに、この時は‥全弾命中させてる‥?!」
「そうだ‥確かに、お前には才能が無い‥」
わかっていた事だけど、尊敬する彼に改めて言われると、やはりショックだ。
私が目に見えて落ち込むと、
彼は慌てたように付け加える。
「だがな?才能の無い事を頑張る余り、他の大事な才能を潰してないか?」
「どういう‥事ですか?」
大事な才能?解らない。才能無い事なら、余計頑張らないとダメじゃないの?
一生懸命考えながら私が問い掛けると、
「お前には確かに近接戦闘のセンスがない。だがな、お前には空間把握の才能がある‥」
「空間把握‥?」
「ああ‥それは‥遠距離射撃をする上で、これ以上ない才能だよ‥」
「遠距離射撃‥」
反芻するように呟くが、彼は尚も私から目を逸らさず、語り続ける。
「考えろ‥お前が射撃魔法を外した時と全部命中させた時の差を!」
そう言われ、私は再びデータに目を落とす。
‥そうか。私は近接戦闘、相手に距離を詰められた時に射撃の精度が落ちているのだ。
逆にこれも!この時も!遠く離れた場所からの射撃魔法の精度は悪くない。
隊長が言いたかったことはこれなのだ。
確かに、今迄私は相手が距離を詰めてきた場合はその場で踏ん張って張り合っていた。
でもそれは‥自分の才能。そう‥遠距離での自分の優位性を潰していたのだ。暗く、澱んでいた視界が開けた気分だ。
早速、レイジングハートと共に、必要な魔法を調べなければ。
そう‥遠距離でひたすら相手を撃ち抜く為の魔法を!
「あれ?‥でもちょっと待って?」
「良いとこ出させないように悪い所をつきまくるって‥かなり‥えぐくないですか?‥」
当時の私はまだ10歳になった辺り。
それ故の幼さが出た。
負けず嫌いな性格もあった。
納得いかない事には、全力で反抗して、今ならば、絶対考えもしないけど、若気の至りとでも言うのだろう。
その時の私は隊長がわざと意地悪をしている‥なんて考えてしまったのだ。
生意気盛りな子供の言を受けて、
こともあろうに隊長は‥
「hahaha」
なんて、またもや両手を広げて、惚けた顔で笑うものだから、
当時の私は余計にカチンときて、
「笑うなー!このハゲスティックハゲー!」
‥多分、私はサディスティックハゲと言いたかったんだと思う‥。
何はともあれ、私はまたやらかしたと思った。
流石に怒るだろうと、恐る恐るチラリと彼を見れば、‥彼は何事もなかったかのように、いつもの優しい眼差しで私を見てくれていて。
‥思えば、この時辺りからだったと思う。
私が抵抗無く、彼にハゲと言い出したのは‥。
多分私は線を引いてしまったのだ。
この人には、ここまでは大丈夫。‥と。
無論それはただの甘えである。
いくら相手が怒らないからって、目上の人相手に例え子供といえど、ハゲだのなんだの暴言が許される訳じゃない。
子供心にもそのくらいはわかっていたと思う。
それでも、一度引いてしまった線を無かった事にするのは、容易でなくて。
何より、その甘えともいえる関係がとても心地好くて‥何故部隊の皆が隊長をからかうのか漸くその時私は理解したのだ。
許容して貰える。ということ。
‥それが、こんなにも心地好いだなんて。
私はこの時漸く、部隊の一員になれた気がしたのだ。
私がそんな事を思いながら、黙っていると、
ふと、彼が不安気に口を開いた。
「その‥な。悪かった‥。お前をけして嫌いなわけじゃない‥。これが、俺の教導なんだ‥」
私が黙っていたので、
私が傷付いたと、勘違いしたのだろう。
本当になんて優しい人なんだろう‥
この時の私はそんな事を思った気がする。
そして、とても心が暖かくなったのだ。
「隊長の‥教導‥」
私はその言葉を胸に刻み込むように、反芻した。
「ああ‥現場に出れば、危険はたくさんある‥いつでも俺が傍にいてやれるわけもない‥それこそ、命のやり取りすら、あり得るんだ‥お前が進む道はそんな過酷な道だ‥そんな道の上でお前を最後に守れるのは結局お前自身だけなんだ‥」
「その時、必要になるものは‥勿論、戦技もそうだが‥それ以上に必要なものがある‥何だか解るか?」
あまり見たことの無い、彼の真面目な雰囲気の問い掛けに私は首を横に振る。
戦技よりも必要なもの‥解らなかった。
「考える力だよ‥出来ない事があったとき、どうして出来ないのか。どうすれば出来るのか‥これを常に考えなきゃいけない。千思万考‥これが俺の教導の前提だ」
「確かに、答えを先に教えてやるのは簡単だ‥だがな、先ず悪い所をきっちり叩いて、自分で考えさせた方が結局そいつの血肉になるもんだ‥戦場から生還出来るヤツってのは、結局そこんところをしっかり鍛えた奴だけだと俺は感じてる‥」
千思万考‥
まさに今私がSランク試験に落ち続けている事への解だと思った。と、子供ながらにその言葉を心のタンスに刻み込んだのを覚えている。
「隊長‥!ありがとうございました!」
私は居てもたってもいられず、隊長に御辞儀をして、部屋を飛び出した。
「ぉー廊下はあんま走るなよー」
なのはが出ていったドアを見つめながら、アルファードは一人呟いた。
「やれやれ‥俺もまだまだ、甘えなあ‥」
ヒントを出しすぎてしまった。
彼の教導の根底は、今話した通りだ。
だが、年端もいかない少女がおよそ自分が知る限り、初めて漏らした弱音と涙。
それに動揺してしまったのは間違い無い。
教導をしていて1番辛い事は、教え子が自分の才能に気付かないまま、潰れてしまうことだ。
彼から見て、なのははセンスの塊だった。天才といってもいい程の空間把握能力。
そして、ほとんどの魔法を使いこなせるであろう、魔力キャパシティ。
自分の才能に気付けば、中~遠距離から、相手に何もさせずに、終わらせるような、前代未聞の戦闘スタイルを確立させるであろう。
《そうですね‥でも私はそんなMasterが好きですよ‥》
誰にともなく呟いた事にまさかの愛デバイスから答えを返され、彼は気不味そうに自分の頭をペチペチ叩く。
「へっ‥そうかい‥あんがとよ‥『リア』」
「あいつは、強くなるな‥」
お読みいただきありがとうございますm(__)m
次はまた次の日曜に出す所存。
多分、前作同様周1投稿になると思います。