私は揺れる車内から流れる車窓をウキウキ気分で眺めていた。
突如告げられた温泉療養。
理由は良くわからないが、隊長も一緒なので素直に嬉しい。ただ、問題があるとするならば、隣に座るフェイトちゃんである。
いや、一緒に行くのは良いのだ。何だかんだ彼女と一緒に居るのは楽しいし。
でも、最早間違いないであろう確信がある。
フェイトちゃんも隊長が好き。
だけどいくらフェイトちゃんと言えど。
むう‥悪いけどここは譲れないよ。
今回の温泉は良い機会である。
多分、フェイトちゃんもアクションを起こす気だろう。
私も今回ばかりは少し勇気を出して、迫ってみよう。
何もせずに、指くわえて見てるだけなんて、私には出来ないから‥。
でも、せっかくだし温泉も楽しもう。
何だか遠足みたいでわくわくするの。
「フェイトちゃん‥楽しみだね?」
「うん‥」
隣に座るフェイトちゃんの手を握りながら話し掛ければ、彼女も花が咲いたように頷き微笑む。
くっ‥やっぱり可愛いの‥。
「小学校の時の遠足はお仕事で一緒にいけなかったから‥すごく、楽しみなんだ‥」
小学校時、遠足のお便りを貰ってから、後日、泣きそうな顔で行けない。と、伝えてきたフェイトちゃんを思い出す。
その時、彼女は既に、嘱託魔道師として働き出していたから‥それは‥贖罪も兼ねていたから、当時のリンディさん達でもどうにも出来なかったらしくて、ただ静かに涙を流すフェイトちゃんを三人で慰めたっけ。
「だいぶ、時間掛かっちゃったけど、あの時のリベンジだね‥?」
「なのは‥うん‥!‥うんっ!」
と、また涙を滲ませる、フェイトちゃんの頭をそっと撫でてあげる。
「えへっ‥ありがとう‥なのは‥」
「私はなんにもしてないの‥今回もなんで、いきなり温泉行くのか知らないし‥あっ‥でも、アリサちゃんやすずかちゃんには内緒ね‥遠足のリベンジはみんなで一緒にって約束だったし‥」
「クスッ‥そっか‥うん‥わかった‥」
「そうだっ!なのは‥おやつ交換しよっ♪」
「おっ‥お約束だね‥フェイトちゃんわかってるね‥!」
「うん‥ちゃんと300円以内で用意してきたんだ‥!」
「じゃあ先ずは私から‥」
と、フェイトちゃんはリュックサックを開けて中をごそごそ。
「私のターン!最後までチョコたっぷり!トッポだよ!」
「良いね‥!ならば私はこれ‥!」
と、私が出したのは‥
「みんな大好き茎わかめ!」
「なん‥だと‥」
「続いて私のターン!王道‥それにつけてもおやつはカール!チーズ味‥」
「きゃー!良いね!なのは、チーズ味大好き!」
「クスッ‥だと思ったんだ‥エイミィとアルフと一緒に選んだ、このチョイスに隙は無いよ‥」
「ならば私はこれ!」
「みんな大好き!都こんぶ!」
「なん‥だと‥」
そんなこんなで、私達は行きの車内を楽しんだ。
フェイトちゃんは
茎わかめを早々に平らげて、
「すっぱい‥シャキシャキしてる‥でも、美味しい‥。だけどこれじゃない感が酷い‥」
と、うわ言のように昆布をくわえながら繰り返していたけど。
なのはよくわかんないの!
◆◆◆
「「温泉だあー!」」
と、二人で手を取り合い、万歳しながらハモる美少女二人に俺は苦笑する。
やってきたのは、ミッド郊外の老舗温泉旅館。
何故かフェイトとシャマル先生が付いてきていたが、
当日朝、集合場所にまるで当然といった体で表情を輝かせて、集合していた彼女達を追い返す事なんて出来るわけもなく。季節は秋の行楽シーズン。冬も間近ということもあり、
急遽の、人数追加の連絡はヒヤヒヤものだったが、旅館の方には、快くOKいただき、感謝感激ハゲあられである。
因みに、キューブとレオーネは置いてきた。
だって、仕事はしないとだし‥。
それを伝えた時のあいつらの顔は夢に見そうなほど絶望していたが、
結局は納得してくれ、留守を預かってくれた。
普段はアホだが、ちゃんと仕事はする大人なのだ。
普段はアホだが。
レオーネに至っては、
「留守中の仕事をしろというが‥別に、サボってしまっても構わんのだろう‥」
等と言っていたので、すこぶる不安だが。
出る前にA4用紙一枚にぎっしり埋められた、第1回選択希望お土産リストなる物を渡されたが‥こんなものを作るくらいなら仕事しろ。とは流石に突っ込めなかった。
許してくれ‥ここはお前らに任せて、俺は先に行く!
せめて土産くらいはなんとか‥と、お土産リストを眺めていると、
饅頭はともかく、タペストリーとか、熊の置き物とかホントに欲しいの?
あと、キューブよ‥二人の思い出、プライスレス(ほっこり)。ってなんだよ。
だが、レオーネ‥てめーはダメだ。シャマル先生の下着‥ってこれはあかんだろ‥。俺はリストの紙をビリビリに破いて捨てた。
こんな紙を持っていること自体ギルティである。
あ。お土産わかんなくなったな‥まあいいか‥。
キューブは兎も角、レオーネには土産話で十分だろ‥。てか木刀だな。うん木刀に決めた!
男は俺一人なので、俺は当然一人部屋だ。寂しくなんかないんだからねっ!
と、一人寂しく部屋に荷物を置いて、今の益体もない思考に行き着くわけである。お茶請けに置いてあった饅頭の包みを剥がし、口に入れる。
美味いな‥。甘いモノは良いよね‥人生を豊かにしてくれる‥。‥おいおい‥あっという間に全部平らげてしまったぞ‥。
お茶をすすりながら一息つき、窓の外を眺めれば、既に紅葉も終わり。
まるで俺の頭のような裸の枝が寂しい木々が、並んで立っている。‥ってやかましいわ!
のんびりするのもたまには、良いもんだな‥と、更に持ってきた非常用糖分をほおばる。
高町の休息のためとはいえ、俺自身も、少し疲れていたのかもしれない。
年甲斐もなく、温泉にワクワクしている自分がいた。
しみじみと、部屋の中に響くのは、自分の茶を啜る音だけという静謐が妙に心地よい。
が‥そんな静謐を破るかのように、部屋の外からタタタタと、音が近付いてきた。
ふう‥と、俺はため息を付いて、湯呑みを、置いた。
と同時に、シパーン!と部屋の襖が開かれた。
「隊長隊長!お風呂いこーっ!」
「お、おう‥」
元気良く入ってきたのは高町。
‥こいつ、本当に疲れてるのかな‥?
自信無くなってきたわ‥
ハヤクハヤクと、俺の腕にしがみついてくる高町は喜色満面で、もし尻尾が、あるならブンブン振られているであろう程に身体全身で、楽しさを表現しながら、俺の腕を引っ張る。
「ハヤクハヤクー!入り放題‥ううん‥ハゲ放題なんだから少しでも入らないと勿体ないの!」
「なんで合ってたのに態々言い直したの‥そんなパケ放題みたいに言われても、全くお得感無いからね?」
と、腰を上げない俺に業を煮やしたのか高町はキュッと唇を結ぶと、ガシッと、俺の首へ腕を巻きつけ、抱きつくように、身体を預けてきた
子供故に全く重くない。ないのだが、高町も、もう11才。体型はまだまだお子様そのものなのだが、なのだが、
顔立ちはそろそろ女の体を為してきているので、抱き付かれて、顔同士が近づくと、流石に、どぎまぎしてしまう。
そんな、俺の精神状態を知ってか知らずか‥高町は俺の首に顔を埋め、スンスンと嗅ぎだした。‥ いや、ちょっ‥
流石に嗅ぐのはダメだろ‥。
俺が堪らず抗議の視線を向けると、
高町はそんなものは知らないとばかりに顔を背けてしまう。
その結果、真赤に染まった耳が露になり、それが幾分ハゲに、冷静さを取り戻させる。
そんな彼女にハゲは何処か並々ならぬ決意を感じ、仕方無くさせるがままにする。
「やれやれ‥あまえん坊だな‥高町は‥」
というハゲの言葉になのはは一瞬で顔を赤く染め、ハゲを睨みながら唸り出し、目に涙を滲ませる。
どうやら、お姫様のお望みの言葉では無かったようだ。
泣く子には勝てん。と、ハゲはため息を吐くと、ようやく腰を上げた。
なのはをしがみつかせたままで。
二人の身長差で自然となのはの足は地面を離れ、
それでも彼女は抱き付いたまま離れない。
全く重さを感じないなのはの身体に多少の驚きを感じつつ、ハゲは自然となのはの腰へ、腕を廻し、バランスの安定を図る。
当然二人の身体は更に密着し。
それに比例するように、なのはの顔は赤くなっていく。その内、湯気でも出そうだな。等とハゲは考えつつ、どこか嬉しそうに笑う彼女から目を逸らす。
どうしたもんかと考えながら、少し様子を見たが、なのはは離すもんか。とばかりにハゲへ抱き付く力を強めている。仕方ないかと、嘆息しそのまま、風呂に迎おうとするが。
少し前なら、微笑ましい光景で済んだ筈なのだが、
少女ももう11才。
年齢だけで見れば、子供がじゃれているだけとも言えるが、少女の身体はもう蕾ではなくなりかけていて、世の男の夢。と、言い換えられる場所に関してはノーコメントにするが、腰はしっかりくびれ、尻も丸みを帯び始めている彼女の身体は、最早子供と割りきるには成熟し過ぎてしまっていて‥。
そんな彼女と、このままの体勢で公共の場を歩く?
‥ないだろ。流石に。と、そのくらいの判断が付く程度にはハゲは冷静だった。
ポンポンと、彼女の腰を優しく叩けば、
なのはも流石にそこを押し通すつもりは無かったようで、いや、彼女も、恥ずかしかったのだろう。素直にハゲを開放する。
開放した瞬間、彼女の胸には一抹の寂しさが去来したのだが、そこは微塵も表に出さずに、ポーカーフェイスを貫いたのは彼女の負けん気の強さ故だろうか。
そして、二人して浴場へ、歩き出した。
道中、
「えいっ」
と、小さく声をあげてなのはが腕にしがみつて、手を絡ませてきたが‥
先程、ノーコメントにした場所の質量が嫌でも感じられて、
ハゲも流石に動揺する。
羞恥に顔が熱くなりながら抗議の声をあげるが‥。
「お、おい‥」
が、なのはは意に関せず、
ドヤ顔で、
「ハゲてんのよ‥」
等とのたまってきた。
「その宣告今必要ある‥?」
尚も俺の突っこみを無視し、腕への力を強める彼女に、まぁいいか。と、させるがままにさせる。
ハゲも男であり、この状況が不快なわけではないのだ。
ただ、今まで、子供と割り切り、娘のように可愛がってきた少女の突然の距離感の変化に戸惑いを感じはするが、そこは相手が思春期の少女である。
こんなこともあるかと‥嫌われているよりはマシであろう。と結論付けた。
「ちょっとー!なのはの制服‥隊長のと一緒に洗わないで!って言ったでしょー!ハゲたらどうするのー!マジ卍‥」
等と言われるよりは百倍マシであろう。
「隊長ー隊長ー!」
と、ハゲの手を握りながら朗らかな笑顔で呼び掛けてくるなのはを見て、ハゲは切に思う。
守りたい‥この笑顔‥と。
何時か反抗期が来るかもしれないが、とりあえず今は天使である。
「そうだっ!お風呂あがったらハゲンダーッ!‥食べよう?」
「そんなアイスはない」
等と小悪魔のような笑顔のドヤ顔で突っ込み待ちをしてくる高町に律儀に返せば、彼女も本当に楽しそうに笑う。
他人から見れば、仲の良い父娘に見えるであろう二人はゆっくりと‥まるでこの時間を何時までも楽しみたいのだ‥というかのようにゆっくりとした歩幅でお風呂を目指す。
「でも‥なのは‥隊長と一緒にアイス食べたいの‥」
と、再び話しを戻すなのはになるほどそういうことかとハゲは笑う。
「ようはアイスを奢れってことか‥高町もなんだかだんだんレオーネに、にt‥」
「ちぇりお!」
と、高町はハゲの言葉を遮るように右拳をハゲの腹に撃ち込む。
利き腕でない右腕にしたのは、彼女なりの遠慮だろうか‥。何はともあれ、利き腕でもない、少女の細腕から繰り出される拳はハゲの筋肉に覆われた腹部にはいささかのダメージも与えられる筈もなく。
「hahaha」
と、ハゲは両手を上げ、煽るように笑っていた。
「隊長‥女の子にそれは酷い侮辱なの」
初めて見るなのはのとてつもない怒気にさしものハゲも焦り出す。
お前のそれもレオーネにたいがいな侮辱してるけどな。とは、思うだけに留めたのは、ハゲの英断だったかもしれない。
「ふんだっ‥」
と、高町はハゲから顔を逸らすと、先に歩き出した。それでも、繋いだ手は離していないのがなんとも微笑ましい。
高町に手を引かれながら、後ろを歩くハゲの鼻に漸く、硫黄のような、匂いが立ち込めてきて、
ハゲはワクワクしだしていた。
「隊長には私の傷ついた心を癒す義務が発生したの♪」
等と、微塵も傷ついたように見えない笑顔で高町は振り返る。
「異義あり」
「却下するの」
形ばかりの異義も即答で却下されてしまい、ハゲは黙る。
「何がお望みだい?お姫様?」
「くるしゅうないの」
「隊長にはこの温泉中、ずっとなのはと一緒にいてもらうの」
等と高町は言うが、その時には再び前を向いていたので、どんな顔でそんなセリフを吐いたのかわからないが、とりあえず耳は真赤であった。
「愛いやつめ」
と、高町の頭を撫でてみれば、う~!と唸られてしまう。視線で返事を急かしてくる少女に嘆息して、頭から手を放し、
まぁいいか。と、承諾すれば、
ならばよし。と高町は天使のような微笑みで、はにかんでくる。
その笑顔はとても可愛くて、思わずハゲは頬が熱くなる。
そして照れ隠しに歩調を速めるのだった。
温泉に入らなかった‥だと。
ちょっといちゃいちゃさせようと思ったらこれだよ‥(。>д<)長くなって話自体が進まないパティーン(´д`|||)まあこれが私の作風(半ギレ)この感じを愛してくださいm(__)m(ガンギレ)開き直り
すみませんm(__)m次回はまた日曜日。