高町さんは甘えたい。   作:stan

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Rを付けずに、少女達を絡ませる、たったひとつの冴えたやり方。


ハゲと温泉②

脱衣場から出てみれば、流石に冬の陽気。

 冬の冷気は容赦ないようで、裸にバスタオルを腰に巻いただけの、頭に至っては遮るモノのないハゲの肌は凍えるしかなくて。

 ハゲは、両手で両肘を擦りながらひとつ身体を震わせる。

 

「おっと‥貸し切りかい?」

 

 見渡す限り、他に客はいないようで、この広い湯船を独り占め出来るとくれば、更にワクワクしてくるもので。

 白いもやのような湯気の温かさに誘われ、湯船に近寄る。早く入り身体を暖めたい所ではあるのだが、先ずは身体の汚れを流さなければと、はやる気持ちを抑えて、手拭いを湯に浸し、石鹸を身体に擦り付けていく。

 寒さに耐えながら、手早く身体を洗い流し、そそくさと湯船の温度を確かめながら、足から浸かっていく。

 冷えた身体の芯から温められていく感覚。

  思わず大きく息をついてしまう。

 こういう時、髪が無いのは利点でもある。なんせ、行程をひとつスキップ出来るのだから。

世の中の髪がある連中に告げる。

 そう。お前らには、速さが足りない!と。

 ゆっくりと湯船に腰を下して肩迄浸かり、彼は漸く付いた人心地に大きく息を吐く。

 

「ふーい‥いーいゆーだーなっと♪」

 

「アハハン♪」

 

 と、突如響いた甘い声の合いの手にハゲは固まる。

 横を見ればいつの間にやら、隣にはなのはが居た。

 バスタオルを巻いているとはいえ、透き通ったお湯の中では、身体のラインが丸見えで。

 また、いつもと違い、ツインテールを下ろした彼女はいつもより大人っぽく見えて、額から、うっすら上気した頬を伝い、形の良い顎に流れる、輝く一雫すら艶かしくて。

 ハゲは思わず頬を赤く染めながら、つい、なのはから視線を逸らす。

 

「おまっ‥なにやってんだ?」

 

「頭流しに来ました」

 

「いうにことかいて、このやろう‥」

 

 いつものように言ってやった。と‥彼女はドヤ顔で、無くはない胸を張るモノだから、ハゲは再びなのはから顔を背けるしかなくて。

 

「‥いらねーよ」

 

と、苦しまぎれに何とか返事を搾り出せば、

彼女は更に笑顔を深めて、

 

「あれー?あれれー?どうしたんですかー?隊長ー?顔が赤いですよー?」

 

「のぼせたのかもな‥」

 

「はえーよハゲ」

 

「おまえな‥」

 

流石にひと言文句言ってやるかと、ハゲがなのはに振り向いた所で、ザバリとなのはが立ち上がる。

 バスタオルを巻いているとはいえ、濡れて張り付いたそれは、彼女の女の身体を強調していて。

 更に足をあげて、湯船から上がる彼女を凝視するわけにもいかず、ハゲは慌てて再び目を逸らす。

 湯船から出た彼女は彼を扇情的に見下ろし、あまり目立たない胸を寄せて、刹那の谷間を作り出し、それをハゲに見せびらかすかのように、

上半身を見せびらかすように、彼を下から見上げるように、こちらに屈んで来ていたが、

 窮屈なその体勢では常に寄せたままとはいかぬようで、

 寄せては返す波のように、屈むと同時に、ハゲにとっては、幸か不幸か‥なのはにとっては無情にも谷間は露と消えていた。

 だが、不屈の彼女は諦めない。めげることなく、立っては寄せ、再び屈んでは、がっくり。を繰り返す。

 ハゲがそんな茶番を微笑ましく見ていた刹那、ハゲの眼光が鋭く細くなる。

 

「高町!右に2歩ずれろ!」

 

突如、ハゲは叫んだ!

 

高町は谷間作りに苦心しており、

 一瞬、何を言われたかわからなかったが、

 ハゲの言葉は、いつもの訓練時と同等の、真剣さを孕んでおり、自然と彼女の身体が反応した。

気付いた時には言われた通り、右へと二歩分、身体をずらしていた。

 その刹那、なのはの左側を金色の二条の魔力光が貫いた。

そう。なのはが動いていなければ、直撃していたであろう、コース。

 高町は焦る。

‥敵襲っ?!

  一体誰が?!

 不味いことにレイジングハートは脱衣室だ。

いや、それよりもだ。

 

 光線を自分がかわした事で、その結果は‥?

 そう。射線上にはハゲがいた。

 っ!隊長っ!

悲痛な思いで、高町はハゲに手を伸ばす。

 ―最早、今このタイミングで自分が出来る事はない。そんな残酷な答えだけが、瞬時に導き出されているにも関わらず、それでも彼女は手を伸ばす。

 そして彼女は目撃する。

こんな状況下でも、不敵に笑う彼を。

 

「リア‥弾くなよ?」

 

《no problem!》

 

 ―見えなかった。

 彼女は目を瞑ったわけではない。

 それでも、ハゲの右手が揺らめいたようにしか見えなかったのだ。

 いや、それも視認出来たわけではない。

ハゲの右腕部分の風呂の湯が大きくさざめいたので、右腕を使ったのかなと予測しただけに過ぎない。そして彼女はその予測が当たっていた事を知る。

 何はともあれ、ハゲはその場に無事に立っていた。

その右手には一本の棒?いや、バールのようなものを握り締め、そのバールのようなものの緩く曲線を描いた側の二又の先には先程の金色の魔力弾が挟まっていて、バチバチと火花を散らしている。

 

 あれが隊長の得物。

 

 他称:バールのようなもの。

 

 正式名称は知らない。

 見た目で、みんなそう呼称しているだけである。

 

 

 隊長が言うには‥元々、摩力を帯びたバールのようなもの(デバイス)に更に二重に自身の魔力を覆わせる事によって、あの二又の先の方では相手の魔力弾を壊すことなく挟んで、固定することが出来、そして、その固定している間に自身の魔力で浸食し、相手の魔力弾を自分の支配下に置く事が出来るそうだ。もう一方の反対側の先の細く尖っっている方では相手のシールド魔法に突き刺し、そのまま引き剥がす事も貫通することも可能にしているらしい。

 なんて無茶苦茶なと、聞いた時は思ったけど、私はいつも模擬戦であのバールのようなものにボコボコにされているのだから。

 あれは私のような魔法主体の中~遠距離型には天敵のような得物である。

 

「さて‥どうしたよ?フェイト?」

 

 隊長の言に振り返れば、

そこにはフェイトちゃんがバスタオルをマントのように首で縛って、背中に纏って、まるで、小学校のプール時のような格好で、ドヤ顔でバルディッシュを構えて立っていた。

うーん。そのタオルの纏い方、なのはも昔よくやったけど‥流石はフェイトちゃん。何処か間抜けな格好のドヤ顔も可愛いの。

 そう。今の魔力弾はフェイトちゃんのモノだったのだ。

フェイトちゃんは何も答えず、此方に向けてゆっくりと歩き出す。

 

「高町‥」

 

その無言の迫力に軽く圧された私に隊長が声を掛ける。

 

「はい」

 

「言っとくが、お前は魔法禁止な?」

 

「ヱ"っ?」

 

「当たり前だろ。お前はここに何しにきたと思ってんだ?」

 

 言われてみれば、そうなのだが、今の状況で魔法禁止って。私‥死んじゃうんじゃないかな?

やがて、フェイトちゃんが私に肉薄するほどに近い場所で止まる。

 近いっ!近いよっ!

 

「フェイト?」

 

そんな私の不安をよそに、隊長はフェイトちゃんにも問い掛ける。

 フェイトちゃんは隊長の呼び掛けに、コクリとひとつ頷く。

 そして、私をひとつ睨むと、

 右手を身体の左側へと、大きく振りかぶると‥

 

「フェイトちょーっぷ!」

 

と、私の喉元へと、逆水平チョップを繰り出してきた。

ぐはっ‥天龍式は‥ずるいの‥。

私はあえて、胸を張り、そのチョップを受け止めるが、喉元に命中し、たまらず、後ろにさがる。

が、そこで退く私でもない。

 高町家の名に掛けて、肉弾戦でも、負けられないの!

 たたらを踏んだ足に力を込めて、踏ん張り、上半身を起こす。その反動のままに、私は左拳を突き上げる。

 

「なのは‥!ぱーんち!」

 

私の渾身のボディブローがフェイトちゃんの鳩尾を捉える。

 

「んぎっ!」

 

フェイトちゃんは一瞬苦しそうな声を出すが、それでも、動きは止めない。

 素早いバックステップで距離をとられてしまう。

 くっ。流石はフェイトちゃんである。

 あの速度には魔法無しじゃとてもついていけない。

距離を取った所で睨み合う私と彼女。

 目の前に立ち塞がるは生涯最高の親友にして最強の好敵手。

 そう思っているのは、私だけか。いや、フェイトちゃんもきっとそう思ってくれているだろう。

 お互い、隙を探るように、円を描くように、距離を保ったまま、ゆっくりと横へ歩く。

 

 わかる。彼女の考えてることが。

 

 

お互いの呼吸がシンクロするように同調していく。

 

 

―吸う。―吐く。

―吸う。―吐く。

 

 わかる。彼女の考えていることが。

 その息遣い、立ち居振舞から伝わってくる。

―やがて‥私達は動きだけでなく思考迄、同調していく。

 

脳裏に浮かぶは数日前、彼女と一緒に見たTV番組。

 まだ仲が良かった頃の私達。

 ‥ああ。友よ。最早、私達は戻れないのか。

 いつの間にか、フェイトちゃんの呼吸が感じ取れなくなっている。

 いや、呼吸を止めているのだ。

呼吸をするというタスクすらも、煩わしいと、私の隙を探す事に集中しているのだ。

 彼女らしからぬ博打だと思った。

彼女の息が限界を迎える迄、私が隙を見せなければ私の勝ちだ。

その時、フェイトちゃんの右足が、霞むように動いた。

 同時に何かが飛んでくる。

なんてことはない、ただの石鹸である。

落ちていた石鹸を足で蹴っただけ、虚仮威しにも程がある。

 こんなもの簡単に腕で弾ける。

だが、何故か一瞬、私の反応は遅れた。

心はどう動くべきかわかっているのに!

脳の指令に身体が従わないのだ。

その結果、私は小さく。ごく小さくだが、体勢を崩した。

 そしてフェイトちゃんも動いた。

 

「ば~か~や~ろ~!」

 

やはり、フェイトちゃんも其れを考えてたんだね

笑いを堪えながら、私も、受けて立つ。

 

「こ~の~や~ろ~!」

 

そう。数日前、私達が一緒に見てたテレビ番組は女子プロレス。

とても熱い試合で、私達は二人して、拳を握り締めて、見入っていたっけ。

 フェイトちゃんが覆い被さるように両手を此方に向けてくる。

 私も同じような形で受けて立つ。

ガシッと、ロックアッブの体勢で組み合い、お互い、押し合い圧し合い。

力はほぼ互角。

 だが、フェイトちゃんは私の髪の毛を掴んできた。痛みに軽く涙が滲む。

 私も負けじと、フェイトちゃんの髪の毛を掴み返す。

 そこからは組んずほぐれつ。

 髪だけでなく、果ては頬っぺたすら掴んで、無理やり口をだらしなく拡げたり。つねってみたり。

 

 最初のうちは互角だった。

 でも時間が経つにつれ、旗色はどんどん悪くなっていった。

 こちらは息が上がっているというのに、彼女は呼吸ひとつ乱していない。

 

 いつの間にこれ程の差が付いたのだろう。

 少し前迄は体力面でも、そんなに差はなかった筈なのに。

 今の彼女は力、速さ、体力。体幹の強さ。あらゆるハード面で、私を上回っていた。

 劣勢を意識しながらも、苦しまぎれに私が尚も伸ばした手は空を切り、

彼女のはためくバスタオルを掴んでしまい、

 勢い余って、バスタオルを引き剥がしてしまった。

 

 

◆◆◆

 

旅館に着き、割り振られた部屋を探し、部屋名を確認しながら、おっかなびっくりと、部屋へと足を踏み入れる。

中には当然人はいない。

私は背後にいるであろう相部屋のパートナーに声を掛ける。

 

「ねえ。なのは‥部屋‥ここで合ってるよ‥n‥」

 

 私は言葉を最後迄言えなかった。

何故なら、突然私の全身をピンク色の魔力の帯が縛り付けたから。

 

 これは‥バインドっ!?

 そしてなのはの姿は消えていた。

くっ‥やられたっ!

 先手を打たれてしまった‥。

なのはの行動は手に取るようにわかった。

何故なら、

 隙を付いて、私がやるつもりだったからだ。

だけど、まだ慌てるような時間じゃない。

彼女は、アルファードさんとお風呂に行くつもりだろう。

 目的地がわかっているなら、焦る必要はない。

 クールに‥クールにいこう。

 私は心を落ち着けて、バインドの解除に取り掛かった。

大丈夫。だって私には秘策があるのだから。

 

========フェイト回想========

 

「ほほ~う?温泉ねえ?

良いですとも!このエイミイちゃんにお任せあれ!

これを着て迫れば、フェイトちゃんの魅力ならイチコロコロリだぜ!ロリだけに!」

 

「せ、迫る?」

 

「ん?んっふっふ~♪」

 

「良いですとも!迫り方迄きっちり先生が面倒みましょう!」

 

「はいっ!エイミイ先生!」

 

私は姿勢を正して、メモを片手に正座をする。

 

「必要事項は3つ!」

 

「3つ!」

 

「先ずはぁ!頬染めてえ!」

 

「頬‥染め‥?!」

 

どうしよう‥いきなりどうすればいいのかわからないよ。

 

「目を潤ませてえ!」

 

「‥目っ!?」

 

またわからない。どうしよう。瞬きしないで目を乾かせばいいのかな‥?

 

「首傾げてえっ!」

 

良かった。漸くできそうな事だ。

 

「はい!リピートアフターエイミイしてね♪」

 

「私に夜の教導して下さい!」

 

「わたっ‥?!」

 

私はよく意味がわからなかったけど、とにかくメモをとることには成功した。

 その後、エイミイは突然現れたクロノに拳骨を食らって、どこかに連れて行かれてしまったけど。

 

===========回想終了=======

 

気づけば私を縛っていたバインドは霧散していた。

 ―流石私。

 そして私は荷物から、エイミイに持たされた、秘密兵器を取り出した。

 

◆◆◆

 

私がフェイトちゃんのタオルを引き剥がしてしまってから、私は目を疑った。

フェイトちゃんのタオルの下から現れたのは‥紺色の布地。

胸の前面には白地に ふぇいと と、平仮名で表記されており。

そう。それは‥世間一般でいう、スク水だった。

 唖然とする私。

 フェイトちゃんは恥ずかしそうに、頬を染めながら、両手を腰の後ろで組むようにして、胸を張りつつ、チラチラと隊長を見ていた。

 ハッとして私は隊長を振り返る。

すると隊長は顔を赤らめて、フェイトちゃんから顔を背けていた。

ときめき☆喰らいまくりっ!‥

 なのワ、見てわかった。

 やられたっ!

 悔しいけど‥今のフェイトちゃん。超‥エロい!

 とても同い年とは思えない私には無い、あの双子山。

 そして、少し小さめをチョイスしているかのように、色々食い込んでいるスク水の彼女はとても艶かしくて‥あざとかった。

 

―完全‥っ!敗北っ‥!。

 私は思わず‥片膝を付いてしまう。

 すると、その瞬間を狙っていたかのように、フェイトちゃんが一気に私へダッシュして、距離を詰めてきた。

 

 しまっ‥!

 そこでまた私の反応は遅れる。

フェイトちゃんの動きは見えているのに、身体が動かないのだ。

 私が反応するよりも早く、フェイトちゃんは私の地面に付いた左膝に右足を掛け私の動きを縫い止める。

 そして、その勢いのままに、私の顎を左膝で蹴りあげた。

顎に走る鈍い痛みと共に目の奥で火花が散り。

 そこで私の意識は刈り取られた。

 

 

 

 ―目が覚めると、知らない天井だった。

 

「起きた?‥何処か痛む所はないかしら‥?」

 

優しく掛けられた言葉に見れば、シャマルさんがいた。

 私は‥どうしたんだっけ?

 私の怪訝そうな顔を見て、シャマルさんは苦笑して、

「アルファードさんじゃなくて、ごめんなさいね‥」

 

と、言われてしまう。

 勘違いされてしまったようだ。

いや、強ち勘違いではないけれども。

 隊長‥そうだ!隊長は‥?!

 

「あの‥私‥?後、隊長は‥?」

 

「なのはちゃんはフェイトちゃんの一撃を食らって昏倒しちゃったの‥」

 

「そしてアルファードさんはフェイトちゃんにお願いされて、近くの運動場にトレーニングに行ってるわ‥」

言葉足らずな私の問いに、シャマルさんはゆっくりと、答えてくれる。

 

「そう‥ですか‥」

 

 フェイトちゃんに負けた。

 でも‥それよりも私は‥この場に隊長が居ない事の方が寂しくて。悔しくて。悲しくて。

 

「私も‥」

 

「ダメです」

 

 身体を起こそうとするが、シャマルさんがピシャリと、NOを突きつけてくる。おまけにバインドで縛るという念のいれようだ。

私はあきらめて、頭を枕に下ろす。

 

「診察の結果、異常は無いけれど、倒れた時に頭を打ってる可能性もあるの‥お願いだから、今は安静にしてちょうだい‥」

 

シャマルさんは泣きそうな顔でお願いしてくる。

 彼女は本気で心配してくれているのだ。

 

「わかりました‥」

 

「ねえ?なのはちゃん‥少し‥お話‥良いかしら?」

 

「はい」

 

「今回の温泉療養‥なのはちゃんの為なの‥ちゃんとわかってる?」

 

 え?初耳である。

 

 私が目をパチクリとしていることで、シャマルさんは察したようで、ひとつ溜め息を吐く。

 

「やっぱりあの人は優しいわね‥なのはちゃんは幸せ者ね‥」

 

「あの人?‥其れにこの温泉が私の為って‥?」

 

「あの人はアルファードさん。温泉療養に

関しては‥ちょっとこのデータを見てちょうだい」

 

と、言われて見せられたデータは私の訓練データをプリントアウトしたものだった。

 

「これは‥内緒ね」

 

と、シャマルさんは人さし指を口の前で立て、ウィンクをひとつ。

 相変わらず可愛い人である。

内緒というのは、データをプリントアウトして、持ち出した事だろう。

隊長が言っていた。このデータはデータベース室以外では見れないのだと。

つまり、シャマルさんは今回、禁忌を冒したということになる。

 しかも、私の為に。

申し訳ない気持が頭を支配する。

 

 

そのデータを見て、私は愕然とする。

 

「‥わかった?あなたの射撃精度、反射速度‥どんどん下がってる‥訓練の最初は変わらず、良い成績を出してるから、一回一回の訓練結果では、そこまで、差は出てないでしょうけど‥回数を重ねる毎に、反射速度も射撃精度も落ち始めるのが速まってる‥何故だかわかる?」

 

 私はフルフルと首を振る。

 

「それはね‥疲労なの‥」

 

「え?」

 

確かに、訓練で疲れはするけど、

そんなに深刻に疲れた事はない。

 というか疲れない訓練なんて意味無いと思う。

私の疑問が、顔に出たのか、

シャマルさんは首を横に振ると、答えを話しだす。

 

「これは‥アルファードさんも同意見なのだけど、あなたは疲れているの‥それも、自分で知覚出来ない程の、表面的なモノでなく、深層の疲労‥

なのはちゃん‥あなたは‥凄い子。普通の人なら、魔力が足りなくて、出来ない筈の事でも‥あなたは出来てしまう‥。魔力運用の才能なのでしょうね‥本来、出来ない筈の事が出来てしまう‥それは、凄い事であり、凄い才能だけど、正しくはないの‥それは、その分身体に無理をさせているのだから‥アルファードさんは無理なトレーニングをしているあなたを止められなかった‥本人の頑張りを否定したくないからと‥でも‥私は医者として、それは看過出来ません」

 

シャマルさんの話は私には衝撃だった。

 才能があるから‥出来てしまう‥それが問題だと、言われても‥じゃあどうしたら良いのか解らない。

それに、自覚症状が無い事が余計に私を混乱させた。

 だってそうでしょう?自分に不調があったとして、

それを自覚出来ないんじゃ、どうすれば良いのか解らない。それで止めろといわれても止められない。

そんな私の葛藤を見透かしたかのように、シャマルさんは更に言葉を紡ぐ。

 

「不調を自覚出来ない?じゃあ、さっきのフェイトちゃんとの戦いを思い出してみましょうか?本当に問題なかった?」

 

「それは‥」

 

言われて、私は愕然とする。

 そうだ。さっきのフェイトちゃんとの戦いで、私は自分の身体を思い通りに動かせなかったじゃないか。脳の指令を身体が無視するという、初めての感覚。あれが、シャマルさんのいう、疲労によるものだとしたら‥。

あれが、本当の実戦だったら‥。

怖い考えが脳裏を過り、

 私はひとつ身震いした。

 

「シャマルさん‥じゃあ私はどうしたら良いの‥?」

 

「それは‥」

 

 シャマルさんは俯き、口を結ぶ。

 そんな彼女に私は俯きながら言葉を重ねる。

 

 自分には、このやり方しかないのだから。

 今更、これを否定されてしまっては、私はもう‥魔法を使えない。

 すがるような想いで私は口を開く。

 

「でもね‥シャマルさん‥私は確かに、無理をしてきたのかもしれないです‥でも‥無駄じゃなかった!闇の書の管制プログラムさんと、戦った時だって、通すべき無理だったと‥私は思うの‥。お父さんがね‥言ってたの‥助けを求める人がいて、なのはが助けてあげられる力を持っているなら、全力で助けなさいって‥」

 

◆◆◆

 

「そう‥素敵なお父様ね‥」

 

ここでシャマルは説得の手立てを失う。

 なのはが狙ってか知らないが、持ち出した一例の通り、かつて、彼女に無理無茶をさせたのは、他ならない自分達なのだから。

 そしてそんな彼女の無理、無茶により、愛する主はやても、自分達騎士一同も救われて、今も幸せな生を過ごせている。

 それになのはも常に無理をする訳ではない。

大抵の事なら、彼女は、無茶をする必要もなく、解決してしまうだろう。

 彼女が無理を通すと決めたなら、そこには、助けを求める人々がいるのだ。そして、無理を通す必要がある時なのだろう。

 

 そう。かつての自分達のように。

 そして、覚悟を持って、無理を通し、助けてしまうのだろう。

 そう考えてしまうと、もうシャマルにはなのはを止められない。

 しかし、それでも、彼女にも医者の矜持というものがある。

かつて、自分達を救ってくれた大恩人。

 そんな彼女のイノセントな想い。

 ―彼女の想いを尊重したい。‥叶えてあげたい。

 ―また、そんな彼女が与えてくれた、医者としての新たな人生。その医者としての使命感、誇りもまた、シャマルが今最も大切にしたいモノのひとつだ。

 この捨てられない、2つの想い‥無形の物がシャマルの心を板挟みにした。

 この苦悩。苦しくも悩ましいこの想い。これも、なのはが与えてくれたモノだ。かつて、闇の書の守護騎士プログラムの一部であった頃には望むべくもなかった、正に生きている証。どちらもそう簡単には選べるものではない。

 それでもシャマルは決断をしなくてはならない。

このまま、見てみぬ振り等、もっての他だ。

もし、今見てみぬ振りをして、この先、彼女が怪我でもしようものなら、いや、怪我で済めば良い方だ。

彼女が身を置く世界は、蟻の穴程の隙が命取りになる、そんなシビアな世界なのだから。

もし、彼女が命でも落とそうものなら、私はこの先どうやっても償いきれない。

 主はやてに相談したいという甘えも一瞬頭に過った。

いっそ命令してもらえれば、楽なのに。と‥

だが、あの心優しき主の事だ。

 親友の安全と想いを天秤にかければ、

 より一層、あの小さい身体を小さくして、思い悩む事は想像に難くない。

 愛する主にそんな心労は掛けたくない。

それに彼女は決めていた。人間として、精一杯生きようと。

そう。この苦悩すらも、受けいれて、しっかり悩んで、自身の選択に誇りと、覚悟を持って、生きようと決めていたのだ。見てみぬ振りをするとしても、それを選択したのは自分なのだと、後に胸を張れるように。流されて、選択する事は、後悔の温床になる。それは騎士として永き時を繰り返し、生きてきた彼女が得た答えだ。

 

「んなもん簡単だよ‥」

 

悩み、悶える私の後ろから、声がした。

 私が振り返ると‥

 そこには‥ハゲがいた。

 

「ゆっくり、ちゃあんと休みながら、着実に鍛えれば、良いんだよ‥人間が成長するのに必要なのは、過不足の無い、チャレンジだけだ‥」

 

「高町よ‥お前はまだ子供なんだから、そんなに急がなくたって良いんだよ‥」

 

「隊長‥でも‥過不足の無いチャレンジって‥?」

 

「バーカ‥んなもんは俺が考えてやるよ‥だからよ‥高町‥腑甲斐無い教官で悪いが、もう少し俺に時間をくれや‥」

 

「はいっ」

 

そう答えたなのはちゃんは先程の重い悩みから解放されたように、いつもの笑顔で朗らかに笑っていた。

彼の答えは明朗だった。

 無茶を無茶でなくしてしまえば良い。

鍛えて、そして強くなれば、無茶は無茶でなくなる。至言だ。

とても難しい事だと思うのだけど、

それを聴いたなのはちゃんは笑顔だ。

露程も彼の言葉を疑っていない

元より、彼女にはそちらの方が性に合っているのだろう。自覚出来ない無茶をするなと、押し付けるより、単純に努力して、頑張った方が解りやすくて、彼女には合っていると思った。

 

―ああ。良かった。

―この笑顔が曇らなくて。

 そして彼はゆっくりなのはちゃんに近づくと、その小さな頭に優しく手を置いて、

 

「お前はちゃんと俺が鍛えてやる。‥んで、そんなお前をちゃんとシャマル先生がケアしてくれる‥お前は一人じゃねえんだ‥だから安心しろ‥ちゃんとお前に助けを求めてる人の所に、一直線で、最短距離で行けるようにしてやるから‥」

 

「‥ゲーハー‥」

 

「台無しだな!おい!」

可笑しいのを必死で堪えるようにドヤ顔で呟いたなのはちゃん。

アルファードさんは怒ったように、なのはちゃんのほっぺたをつつく。

 でも、私にもわかる。彼は全然怒ってない。

 この二人は、これが、ニュートラルなんだろう。

先程の重苦しい雰囲気等、なかったかのように、明るい笑い声が部屋を染める。

 

あらあら‥なのはちゃんたら、もうすっかり安心したように、緩みきった顔をしてるわ。

まるで、今にも、寝てしまいそう。

 良いわ。今はゆっくりおやすみなさい。

 しっかり休んでさえくれれば、ちゃんと私がベストコンディションに戻してみせるから‥。

 それにしても彼は凄い。

あの安心感と、説得力は何処から来るのだろう。

 そういえば、ヴィータもいつの間にか彼には懐いていたっけ‥。

 はやてちゃんもお世話になったみたいだし‥

いつか‥ちゃんとお礼しないと、いけないわね‥ふふっ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も読んで頂きお疲れ様ですm(__)m長くなってしまいすみませんね。
 シャイニングウィザード(閃光魔術師)はフェイトそんにピッタリの技名よね(///ω///)♪
 次回はまた来週の日曜ですm(__)m
解んない人はググって下さいな。割と有名なハゲの技です。

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