高町さんは甘えたい。   作:stan

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今回はなのはさん出番少なめ。


ハゲと部下と貍。

「なのスケ~♪」

 

「あっキューブ副隊長♪」

 

私がはやてちゃんと管理局の廊下を歩いていた時の事。たまたまそこで懐かしい顔とすれ違い、笑顔で駆け寄る。

お互い相手の存在を確かめるかのように、両手で触れ合う。

 

「お疲れ様です。八神三佐」

 

と、急に真面目モードに切り替わり、敬礼するキューブ副隊長。

 見れば、こちらも真面目な顔で敬礼を返すはやてちゃん。

 

「お久しぶりやね。キューブ三尉。」

 

「あれ?二人は知りあいなの?」

 

私は素朴に沸いた疑問を呈す。

すると二人はにっこり笑って。

 

「「私の元カノです」」

 

等と同時に宣った。

私が口をパクパクしてると、何が可笑しいのか、二人して噴き出しながら、視線を交わし合う。

 数瞬後、はやてちゃんが手を挙げて話し出した。

 

「せっかくやし、食堂でもいかへん?」

 

「あら?ナンパ?こんな良い女を誘うんなら、もっと誠意を見せて下さる?」

 

「せやな。おうおう姉ちゃんマブイなあ。茶ぁでもシバきにいこうや。」

 

「あらあらいけない人。お仕事は大丈夫なのかしら。」

 

「いけずなこと言う姉ちゃんやなあ。せっかくの機会や。多少サボっても、罰は当たらへんやろ。多分バレへんよ‥バレなきゃ‥サボリやないんやで‥」

 

と、悪い顔ですり寄るはやてちゃん。

 

「いや。その理屈はおかしい。クスッ‥けど、上官にそこまで誘われたなら、仕方無いですものね?御馳走になりますわ‥」

 

 それに対して、キューブ副隊長は優雅に笑って返してみせる。

 その笑顔はとても可愛くて、綺麗で。私は思わず、はあ~‥と、感嘆の吐息を漏らす。

 

「ホンマいけずな姉ちゃんやで‥」

 

そんな彼女に苦笑するはやてちゃん。

 

 と、二人は肩を並べて、歩き出す。

 ポカンとした私を置いて。

 

「なのスケ?何やってるの?早くいらっしゃい?」

 

「はーい♪」

 

私は微笑みながら、二人の背中を小走りで追い掛けた。

 食堂で、3人掛けのテーブルを確保し、思い思いの飲み物を準備。

 

「さて‥」

 

三人とも席に着いたのを確認して、はやてちゃんが口を開いた。

 

 

=========はやて回想========

 

 もう‥10年位前やろか。あの頃、私は、闇の書事件の贖罪として、特別捜査官として、色々な部隊を渡り歩いていたんや。

 家族である騎士達と離ればなれになるのは悲しかったけど。

 色々な部隊を渡り歩くのは、とても良い経験になったし。

 私にとっては、強ちマイナスな事ばかりでも無かったんよ。

 色々な所に知り合いも出来たしな。

グレアムさんというしっかりした後楯もあったから、犯罪者のレッテルでどうにか‥いうんは‥過激なのは、あんまり無かったわ。

 そんな時や。たまたま、あるシンジケートを追っている時に同じく追っていた、ある部隊と合同捜査をする運びになった。

 それがアルファードさんの部隊や。タイミング的には、まだなのはちゃんが配属される前やな。

 

「八神はやてです。この度は捜査協力を受け入れていただき、感謝致します」

 

「‥こりゃ随分と可愛い娘がきたな‥俺は‥この部隊の隊長のアルファードだ。よろしくな」

 

そう言って敬礼をくれた隊長は‥ハゲていた。

 年齢的にはまだ初老位に見えるのだが、綺麗にツルリとハゲていた。

 そして、人好きのする笑顔が印象的な人だった。

 

「んじゃ早速、お互いの情報の共有がてら、捜査会議といこうか」

 

「はいっ」

 

 

「―なわけで、ここが奴らのアジトの可能性が高い」

 

「―には、はぐれ魔道師が数名いるという情報があります」

 

「―推定ランクは―」

 

「―質量兵器は―」

 

 あれよあれよと会議は進み。

 私の微々たる情報も汲み取って貰い、そこから更に詳細な相手の状況を割り出していく。

 流れるようなその会議の進行速度に私は舌を巻いた。

 会議に参加している人は其々、違う観点を持ちながら、違う角度から、推理を進めて行く。

一人で足りなければ、二人、三人と、推理を重ね‥。

 まるで、会議に参加している全員が一人の人間であるかのような、錯角さえ覚えつつ。

 

 ‥うーん‥。

 

「と、このような意見が出ているが編成について、八神捜査官はどう思う?」

 

‥私は顔に出していたのだろうか‥

 私が正に編成について、不安に思った瞬間にアルファードさんから意見を求められた。

 

「は、はいっ。敵アジト内は決して広いとは言えず、敵はぐれ魔道師達との混戦も予想されるのではないかと申し上げます。故に、囲まれないような、また、囲まれた時のリスクヘッジが必要かと‥」

 

と、何とか危惧点の要点をまとめ、発言を絞り出せば、

 ファシリ役の隊長は優しい眼差しで大きくひとつ首肯き。

 

「‥そうだな。編成と作戦をもう少し、練ってみようか」

 

「「はいっ」」

 

 私はホッとひと息ついて、腰を下ろす。

 

 そして、程なく会議はお開きになった。

私はといえば、未だに座って、会議中の内容をメモっていた。

 つ、疲れた‥。こんなに密度の濃い捜査会議は初めてだった‥。

 

「よーう。お疲れさん」

 

と、隊長が声を掛けてきてくれた。

 私は何とか立ち上り、敬礼する。

 

「初めてで疲れたろ?」

 

「‥はい。驚きました‥」

 

「でも、良い意見出してたな‥参考になったよ‥」

 

なんて、お褒めの言葉もいただき、少し気が軽くなる。

 

「き、恐縮ですっ!」

 

「あーっと‥今回、合同捜査だけど‥その間一時的にこの部隊に編入‥というのは聞いてるかい?」

 

「はいっ!聞いてます聞いてます~」

 

 あれっ‥あかん。

 

「フッ‥なんだそれ。方言か?」

 

 私は何故か、つい方言を出してしまっていた。

 公的な場ではあまり出さないようにしていたのに‥。

「あっ‥失礼しました!はいっ。私の出身では無いのですが、両親の影響でして‥」

 

私は羞恥に頬を染めながら、元々小さい身体を更に小さくする。‥って、誰が小さい身体やねーん。

 

「ほーん。良いじゃないか。‥気にすることないさ‥ご両親との大切な思い出なんだろう?この部隊内では気にすることなく使いな‥」

 

「は、はいっ!恐縮です!」

 

 とても優しく笑う人だと思った。

‥なんだか、おとんを思い出してしまうような‥。

 だから、つい方言が出てしまったのかもしれない。

 いや、私のおとんはハゲてへんけどな!

 あんま覚えてへんけど‥多分。

 

「おーい‥キューブ!レオーネ!ちょっと来てくれ!」

 

 私が何だか軽いノスタルジーに浸っていると、隊長が二人の男女を呼んだ。

 程なくやって来た彼女ら二人は、私に向き合うと、にっこり笑って、敬礼をした。

 

「この二人を今日から、八神の教育係として付ける」

 

「「よろしく~」」

 

 女性の方がキューブ。とても可愛らしい容姿の人だと思った。出るとこ出て、引っ込むとこ引っ込んで、男好きするスタイルである。なんてうらやまけしから‥ゲフン。勿論、私も大好きだ。

 男の方がレオーネ。

 此方は何とも言えず、なんと言うか、雰囲気イケメンという言葉がピッタリだった。

 

「よろしくお願いいたします」

 

私は深々と二人に頭を下げる。

 

 

★★★

 

 この部隊に来てから早一ヶ月。

 書類仕事にもひととおり慣れ始め。

 私は奇妙な違和感を感じていた。

 それが何かはわからないのだが。

 

「おーい。まめた~♪」

 

「たぬて~?これ20部程、コピーしといて~?」

 

「それだああ!?」

 

「わお。ビックリした」

 

私の渾身の叫びに戦くキューブさん。

 

「もう‥何ですか?まめたって?」

 

「はやてちゃんてさ~何だかまめたぬきみたいで可愛いな~って。だからまめた♪」

 

 なんて可愛い顔で微笑みながら言われてしまった。

 その無邪気ともいえる笑顔に私は毒気を抜かれてしまって。

 

「で‥そっちは?」

 

ギロリと、音がしそうな勢いで、レオーネさんを睨み付ける。

 

「はやてちゃんて狸みたいで可愛いじゃん?だからたぬて♪ほら可愛い♪」

 

 こっちも笑顔でそんなことを宣うのだが。

 こっちは無邪気どころか邪気を感じる。毒島さんが気付くレベル。

 

「却下」

 

私は冷たく言い放った。

 

「ていうかレオーネさん?それ‥私の事‥マイルドにディスってますよね?」

 

「ええ?めっちゃ誉めてるつもりなのに‥」

 

等と、本気で落ち込むレオーネさん。

 あかん。この人ホンマもんのアホやわ。

 本気であれで誉めてるつもりっぽい。

 ぷいっと、私は顔を背けて、その場から立ち去る。

 

「ああ~待ってよはやてちゅあ~ん‥」

 

そんな情けない声を背後から浴びせられ、私は思わず小さく噴き出してしまう。

 悪い人では無さそう。なんて考えも片隅に沸いてきて。

 

 

「あっ?笑った!今の笑顔めっちゃ可愛かった!」

 

アホの癖に目敏い、彼のそんな指摘に顔が熱くなる。‥が。

 

「マジで可愛かった~♪狸も裸足で逃げ出すレベル!」

 

「それ(貍扱い)をやめいゆーとるんじゃあああ!?」

 

と、私はスナップを効かせて、手の甲を思い切り空気に叩き付けて、振り返り、ツッコミをしてしまう。

 そんな全力のツッコミをしたのは、久しぶりで。

 

「プッ!あはっあははははは!」

 

私はそんな自分が可笑しくなり、思わずおもいきり笑ってしまって。

 そんな私をポカンと見つめる二人。

 

「あっ‥すいません‥」

 

 思えば、今まで、ずっと気を張り詰めていた。

 特別捜査官なんて大層な役職名はあっても、

所詮は只の便利屋的な扱い。

 今回みたいに、部隊に編入することはあっても、 元犯罪者 として、腫れ物を扱うような扱い。

 本当に仲間として受入れられた事は無かった。

 前述した通り、表立って嫌がらせ。なんて事はなかったが。

窮屈な思いはしてきたのだ。

だが。ここはどうだろう。

 先ず視線。

他と違い、腫れ物に触るような、好奇の視線というものがない。仕事面でも純粋に1番の後輩。というか、下っ端のように扱ってくれる。

 さっきのレオーネさんに至っては、油断すると、自分の仕事を押し付けて、サボろうとしてくる。

 キューブさんは、とても優しい。私を陰からサポートしてくれているのを感じている。

 こんなに大口開けて笑ったのなんて、何年ぶりだろうか。

 私は目尻の涙を拭いながら、律義に言葉の続きを待ってくれている二人に更に言葉を続ける。

 

「この部隊っておかしいですね‥」

 

「ちょっと待って。まめたちゃん。レオーネはともかくどこら辺が?」

 

「姐さん‥流れるように俺を除外するのやめて?」

 

「あんた一人で部隊の名誉が守られるんなら本望でしょ?」

 

「えっと‥お二人は私の事をご存知ないですか?」

 

「「狸?」」

 

「なんでや!どう考えても狸関係ないやろ!」

 

「「スマソ」」

 

「仲良いですね‥」

 

「そう!俺と姐さんはなかy‥ダアンッ!」

 

と、キューブさんが突然私に壁ドンをしてきた。

突然の事に私がビクビクしていると、

見た事も無いような、冷たい目で‥

 

「まめた♪人には言って良いことと悪いことが有るんだよ?」

 

なんて言われて‥私は涙目でただ、頷く事しか出来なかった。

 

「姐さん‥今の行動で‥僕ちょっとわからないことが、あるんですけど‥」

 

「黙れ」

 

「イエスマム」

 

力関係は恐ろしい程にハッキリしていた。

 

「実は私は―」

 

‥ああ‥。話してしまった。

 これでまたここでも、腫れ物みたいな扱いになるかもしれない。

‥だが。例えそうだとしても。

もし、相手が知らないのであれば、黙っていて良い事ではない。

ましてや、こんなに良い人達が相手ならば尚更。

 

「「ふーん?」」

 

‥でも帰ってきたリアクションは私の予想とはまるで違っていて。

 

「えっ?あれっ?私‥説明‥ヘタでした?」

 

「いんや?つまり、まめたがあの有名な闇の書事件の関係者ってことでしょ?」

 

「はい‥」

 

「で?それが何か?」

 

「何かって‥」

 

予想の斜め上の反応に私は戸惑う。

 

「関係者は関係者。首謀者じゃない。それに、まめたはこうして今ちゃんと贖罪の努力をしてる‥はい。レオーネ?何か問題ある?」

 

「ありません。先生!」

 

キューブさんのノリに小気味良く返すレオーネさん

‥ああ。この人達は―

‥嬉しかった。

 事件云々でなく、今の私を見てくれている。

 そう考えると、自然に涙が溢れてしまって。

 今迄は、闇の書=八神はやてだったから‥。

 

「うっ‥うっ‥うえぇ~ん‥」

 

私は思わず、キューブさんの豊満な胸に飛びこんでしまった。

とても、柔らかかったです。

 その胸は豊満であった。

 キューブさんは優しく私を抱き止めてくれて。

そしてその横では何故かレオーネさんが両手を広げて、憮然としていた。

 いや、何でやねん。

 何で抱きついて貰えると思ったん?

 その姿がとても滑稽で、私は泣き笑いの様相に。

 そんな私の後頭部をキューブさんはずっと優しく掻く様に撫でてくれていた。

 何だか、お姉ちゃんみたいや‥。

 

「よしよし‥色々‥辛い思い、してきたんだね?まめた‥良く頑張った‥」

 

優しい声が頭上から掛けられる。

 でもやっぱり、まめた呼びは納得が行かない。

 

「でももう大丈夫。ここではそんなことは気にしないでいいからね?もし、なんか言ってくるようなヤツがいたら‥私に言うんだよ?私が‥守ってあげるから‥」

 

 と、ひときわ強く、抱き締めてくれるキューブさん。

 あったかいなあ‥

 

「そうそう‥俺達も、元 脛に傷 持ちだし‥」

 

‥へ?

 

「余計な事言うんじゃないよ‥」

 

「でも姐さん‥こういうのは、最初の方で言っとくべきで‥」

 

「そ、そうなんですか?」

 

私は二人を交互に見るが、とても、犯罪を犯しそうな人には見えない。

 

「あーまあね‥」

 

と、キューブさんは気不味そうに頬をかきながら、口を開いた。

 

「この人、こうみえて武闘派でさ‥隣の人と、ご近所トラブルになってそこのオバチャン殴っちゃったんだよ‥」

 

キューブさんが話す前に、割り込む形でレオーネさんがニヤニヤしながら、事情を暴露していた。

 

「ええ‥」

 

私の中での優しいお姉ちゃんイメージが‥。

 

「滅!」

 

「メッツコーラッ!?」

 

と、赤い顔で、レオーネさんに正拳突きを打ち込むキューブさん。

 あえなくレオーネさんは、腹を抑えて、その場に崩れ落ちた。

 

「レ、レオーネさんは‥?」

 

 こんな惚けたアホみたいな男にも、犯罪に手を染めるようなシリアスな理由、背景があるのだろうか?

 全く想像が付かない。

たいがい、失礼な話ではあるのだが。

 

「ああ‥こいつはね(姐さん勘弁して!)貼ってあった「咲」ってアニメのポスターを下から覗き込んで、何でパンツが見えないんだ‥とか、口走っていた所を近所の小学生に防犯ブザーを鳴らされて、補導されたんだ」

 

キューブさんが説明しているところにレオーネさんが割り込んだが、キューブさんは全く動じる事なく、淀みなく、説明してくれた。

 

「‥は?」

 

 胸を抱くようにして、自然と1歩下がった私は悪くない。

 しかも咲て‥。何故だか余計に嫌悪感が沸いてしまった。

 

「ああ?!はやてちゃん引かないでえ!あ…でもはやてちゃん‥咲ちゃんに声が似てr‥(滅!)ぷるぁっ!?」

私ににじり寄ってきそうだったレオーネさんの顎に再び、流れるようなキューブさんのストレートが綺麗に入り、またもや崩れ落ちるレオーネさん。

 

 私はそんな二人を見て笑ってしまって。

 そして、御腹を抑えて、笑う私を二人は優しげな眼差しでソッと見つめてくれていた。

 レオーネさんはこっちみんな。

 それ以来、私はこの二人を中心に部隊にも打ち解けられて。

 

 

 

★★★

 

 

「おいーす?八神?」

 

そんなある日、隊長が声を掛けてきてくれた。

 

「あっ!お疲れ様です!アルファードさん!」

 

「おつかれさん。だいぶ、環境にも慣れてきたみたいだな?」

 

「お蔭様で。みなさんに良くしてもらってます」

 

そんな私の返答に満足そうに彼は頷くと。

 

「そういや八神は部隊長志望なんだよな?」

 

「はっはいっ!非才の身ですが、いつかは、自分の部隊を持ちたいです!」

 

「うん。八神ならきっと大丈夫。」

 

 

この人に言われると、何だか自然とその気になってしまう。安心するというか‥。

 

 

「恐縮です」

 

 

「この部隊にお世話になっているうちは、アルファードさんを目標にして、勉強させていただきます!」

 

 

と、私が言うと、彼は難しい顔をして。

 

 

「八神‥俺なんかを目標にしちゃダメだ‥。もし、目標にするんなら、キューブにしときな‥」

 

等と言われてしまった‥。

 その理由はすぐにはわからなかったけど。

 

 

★★★

 

 

 

 

―楽しい日々は早く過ぎ去るもので。

 私達は早くもその日、シンジケートのアジトに突入の日を迎えていた。

 

「ここが、奴らのアジトで間違い無いな‥」

 

「ハッ」

 

 不気味に口を開けた洞窟の前で隊長が言い放ち、

それにキューブさんが追随する。

 

「よし。キューブ。お前とレオーネは八神のサポートにつけ。チーム編成はいつも通りだ」

 

隊長の号令にザザッ!と、チームが動く。

 どうやら、隊長とキューブさん、レオーネさんを其々分隊長として、分隊×3の一個小隊がいつもの編成らしい。

 私は前以ての希望通り、キューブさんの隊へ。

 隊長に言われた通り、彼女を観察したくて、志願したのだ。

 洞窟の奥へと歩きながら、緊張している私を見兼ねてか、キューブさんがソッと耳打ちしてくる。

 洞窟の奥への歩みは止めないままに。

 

「まめた♪心配しないで平気だよ♪隊長がイケると判断したんなら、先ず間違いなく平気だから」

 

 言葉の端端から、キューブさんの隊長への信頼が伺える。

 まあ。まだ日が浅い私から見ても、この部隊は優秀だと感じている。

 隊長の指揮能力を勉強させてもらう。経験を積む為。くらいのつもりでの、気軽な参加であった。

 私が平静を取り戻し、キューブさんに微笑み、頷いてみせると、

キューブさんは更に耳に口を寄せてきた。

 

「あ。でも隊長は基本的に『かかれ!』しか言わないから気を付けてね」

 

「‥は?」

 

なにそれ‥何処の柴田さん?

 何も気を付けようがないんですけど。

 

「この部隊での行動の基本は自分でどうう動くか考えよう!だから」

 

 へ?

 

 通常、隊での行動時は上官の指示に従って、連携して動く事が基本である。

 各々で、考えるのは良い。

だが、人の思考なんて千差万別。

現場での正解はそれこそ無数にあるだろう。

 その時々で一致するなんて事‥成功する確率は恐ろしく低いんじゃ‥無いだろうか?

 私は不満が表に出ていたのだろう。

 キューブさんが更に肩を抱いてくる。

 

「ま。倣うより馴れろってね。とにかくやってみてよ。まめたは、自分で考えてその場その場で、最善と思う行動をしてくれたらいいからさ‥後は私達がフォローするから‥」

 

「は、はあ‥」

 

「大丈夫。失敗しても、隊長が何とかしてくれるから」

 

「‥わかりました‥」

 

私が渋々頷いた所で、

 洞窟の風景が開けた。

‥天井が高い。

大きめの広場のようになっている。

 この広さは自然のモノじゃ無い。間違いなく、人の手が入ってる。

私は洞窟の壁に手を添え、確認しながら、エリアサーチを作り出して、更に内部へと跳ばす。

 其処で私は気付く。

 そんな私を囲むように、分隊のみんなが周りに詰めてくれていることに。

 しまった。私ったらなんの警戒もなく‥!

 もし、スナイパーや、敵魔道師に待ち伏せでもされていたら‥!そう思うと、自分の迂闊さを呪うしかない。

 だが、分隊のみんなはどうだろう。

 なんの声も掛けずにのこのこと、勝手な独立行動した私をなにも言わず、フォローしてくれているのだ。指示があったわけでは無いだろう。

 つまり各自が自分で‥私の護衛をするという選択をしたのだ。

こんな、部隊のムーブがあり得るのか‥。

 

「サーチの結果は?」

 

と、何でも無いことのように、キューブさんが問うてくる。

 そうだ。みんなは私のサーチをフォローしてくれているのだ。

 私は直ぐにサーチに意識を戻す。

 

‥これは‥?!

  既にこちらを囲むように動かれている?!

 しかも!予測より、数が多い!?

 

「予測よりおよそ10人程度、数が多いです!こちらを囲むように展開してきています!」

 

私は簡潔に状況を報告する。

 すると、それまで黙っていた隊長が口を開いた。

 

「部隊を薄く広く展開してかかれ!」

 

それを受けて、一瞬の逡巡後、キューブさんが叫ぶ。

 

「まめたの護衛に3人付いて!残りは広く展開して、突破口が開けた所に順次戦力投入!敵を一ヵ所に誘導して纏めるよ!」

 

そして、キューブさんは私を見る。

 なるほど。其処で私にまとめて殲滅しろと。

 私が頷くのを待たずに、分隊のみんなは既に展開を始めていた。

 なるほど。応用的なムーブを求められる時だけは、隊長が簡単な指示を出す。そして各分隊長のみならず、下士官に至るまで、みんなはその指示を最大限汲み取って、即座に適切な行動。

 こりゃ、強いで‥。でも‥参考には、ならへんな‥。だってこんなん‥一朝一夕の部隊じゃ、よう‥やれへんで。

 でもいつか‥自分の部隊を持てたなら‥!

なんて、目標を固めながら、私は魔力弾を作り出して、戦場を広く見つめる。

勿論、何時でも、フォローに入る為にだ。

‥ま、必要ないやろけどな‥。

と、私よりも若干戦場に近い位置で、流れ弾をなんなくいなしながら、どっしりと戦場を見つめる、隊長を見て思う。

 

「ウオオアアアアー!?タンマタンマアーー!」

 

突如戦場を切り裂く悲鳴に私が構えれば、

 視線の先にはレオーネさんが全くピンチになっていないのに叫んでいた。

 意外にもレオーネさんは強い。

 普通の犯罪者やはぐれ魔道師ごときでは、彼に傷ひとつつけられないだろう。

ただふざけているだけなのだ。

 あれはただの構ってちゃんなのだと最近解ってきた。

 そしてやはりいつもの事なのだろう。

 誰も彼の悲鳴に反応していない。

キューブさんの方を見てみれば‥

 

「ウオオォォーラアアアー!?!?逃げる奴は犯罪者だあー!逃げねえ奴はー!訓練された犯罪者だあー!?オラオラオラオラーー!?」

 

と、非殺傷モードのマシンガンを乱射していた。

 間違いなく彼女は武闘派だった。

 かと思えば、

 

「うし、此処まできたならもうちょいだ!増援が来るまで、現状維持だ!お前ら!気合入れろ!一ヵ所に集めるぞ!」

 

なんて、他のメンバーを鼓舞したりする。

 暴走してるかのように、他のメンバーを引っ張りながら、その実、戦場を冷静に観察して、効果的な指示も跳ばす。隙が見当たらない。

 なるほど。確かにキューブさんは私の目標だ。

 

そして程なく、敵集団は私から少し離れた所に、まとまった。

 先ず、キューブさんの分隊が敵包囲網を食い破り、そこに、流れるようにレオーネさんの分隊が雪崩れ込み、敵包囲網を寸断。敵は総崩れで、散り散りになり、形勢を立て直そうと、合流を選択。其れが、計算されつくした、させられた選択とも知らずに、奴らはまんまとこちらに用意されたスペースに合流して固まった。

 さあ。出番だ。

私は一歩踏み出し、

 

「‥詠唱入ります」

 

と、私が宣言するより早く、私の目前に大きな背中が立ちはだかった。

その頭は、ツルリとハゲていた。

やだ…。安心感、半端ない。

 さて。何で行くか?洞窟内だし、炸裂、爆発系は無し。

 ならば、純粋な魔力エネルギーでの殲滅が望ましい。なら‥決まりだ。リィンがいないから、手加減と調整が難しいけど‥範囲、威力共に最少設定にすれば、平気だろう。多分。

 

「みんな!少し奴らから離れてな!」

 

 

「―遠き地にて、闇に沈め!」

 

『Diabolic Emission!』

 

本来は術者を中心に摩力攻撃エネルギーを放つ魔法なのだが、私は固有資質により、遠隔発生を行える。

 私の言の葉に答え、奴らの中心点から半円型の摩力エネルギーが発生し、拡がり、奴らを飲み込んでいく。

 この魔法は相手のシールド魔法も阻害するので、はぐれ魔道師も一網打尽にできるはずだ。

 そして、その予想通り、摩力エネルギーがおさまった後には‥死屍累々。シンジケートの奴らが根刮ぎ倒れていた。

 ‥若干、こちらの部隊のみんなも倒れていた。

 だから離れてって言ったのに‥

 

「巻添えごめんなさい~‥」

 

うう‥やっぱリィンがおらんとダメダメや‥。

 

巻き込んでしまった仲間に飛びながら近付き謝り、救助してまわる。

 

「うっひゃー!はやてちゃんすっげー!」

 

「これがSランク‥もう軽々しくまめたなんて呼べないねこりゃ‥」

 

と、キューブさんとレオーネさんが称賛をくれる。

 私は照れ臭い思いで、言葉を返す。

 

「そんな‥良いですよ‥まめたで‥今まで通りで‥」

 

「了解‥たぬてちゃん♪」

 

「だからそれはやめろやあああ!?」

 

と、私のツッコミが空しく響いた所で、

隊長が更に指示を出した。

「よっしゃお前ら!かかれかかれーい!」

 

 ここでアルファード隊長。まさかの死体蹴りを選択。

 私がポカンとしているうちに、

分隊のみんなは‥

 

「よっしゃ!死体蹴りじゃあああ!」

 

と、蹂躙を始めていた。

‥なんて恐ろしい部隊‥っ!

 

 

 

=========はやて回想終了=====

 

「―とまあ、そんな馴初めです」

 

なんて、はやてちゃんは話していたけど。

 いやいや。何処にも元カノ要素無かったよね?

担がれただけかと、私が呆れた目線を向けていると、

ガシッと、はやてちゃんのこめかみに2つの拳がセットされた。

 ていうか、キューブ副隊長だった。

 

「ていうかまめた~?誰が武闘派だって~?」

 

「いたいイタイイタイ!姐さん許して~!し、死ぬ!痛すぎて死んでまう!」

 

と、はやてちゃんは涙目で助けを求めるように、逃げながら、こちらを見てきたけど。せっかくだから私はスルーを選ぶの。

だって‥二人共、とても楽しそうなの。

そして、食堂には、

 

「こ、殺されるう~!?あ、貴女を、犯人です~~!?」

 

という、はやての断末魔がひびいたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございますm(__)m
うーん。やはりはやてを書くの楽しい(///ω///)♪
だから、今回も長くなっちゃったけどちかたないね。許してプリーズ。しかし、参ったね。
 隙あらば、ヒロインにしたくなってしまう(笑)
 はやてったら恐ろしい娘!?(´艸?`|||)

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