あなたの秘書艦   作:天寝子

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あらすじにもありますが一応、〈病み夜の鎮守府〉とは別の話です。
章タイトルからわかるかもですが色々な艦娘たちを書ければなあ、と思っています。


例の如く、感想、評価、PVあれば踊り狂います。


秘書艦 霞 編
秘書艦 霞


「触らないでちょうだい!」

 

 そう言って手を払い少女は去っていった。去る直前に「クズ!」と罵って。

 ツンデレ、なんてものではない。心の底からの言葉だった。少女の発した言葉は嘘偽りなく、少女の本心だった。

 

 

 

 俺と霞の間に会話はない。

 彼女が秘書艦になってもう一年にもなるが、会話らしい会話は今まで一度たりともなかった。

 

 仕事において最も重要なものは何か――

 

 ――コミュニケーションである。

 

 そう教わってきた俺にとって霞という少女はとても扱いにくい存在だった。

『嫌い』という訳ではない。少なくとも俺は彼女のことが『好き』だ。

 けれど彼女は違う。

 鎮守府内で俺のことを本心から『クズ』と罵るのは霞以外にはいないはずだ。それは今まで艦娘とのコミュニケーションを欠かさなかった俺だから言えること。

 

 霞は手に持った書類に目を通し、重いため息をつく。

 彼女は自分に厳しく、他者にも厳しい。それ故に他者へのあたりが強く、勘違いされやすい。

 けれどそれは彼女の優しさ故のことなのだ。

 そんなことを本人に言ったところで相手にもされないだろうが。

 

「何、ジロジロ見ないでちょうだい。仕事、終わってないでしょ」

 

 俺に見られていたことに気づいたのか、気づいていたのか、彼女は子どもが見れば怯んでしまうほどにキツい目付きで俺を睨んだ。

 蛇に睨まれた蛙、という言葉を理解するのにこれほど最適な体験はないだろう。

 

 霞に言われた通り、仕事を終わらせるべくすぐに視線を書類に戻す。

 朝から細かな文字列に目を通しているせいでとてもじゃないが集中できない。

 目頭を抑え、軽く揉む。すぐに目を開くがやはり元には戻っていない。

 

「すまないが仮眠を取らせてくれ」

 

「そう、じゃあ私は部屋に戻るわ」

 

 俺の許可を待たず、霞は執務室をあとにした。

 

「難しいな……」

 

 本当に、難しい。

 

 

 □□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

「霞ちゃん、ですか……」

 

「最低限俺の指示を聞いてくれればそれでいいんだが」

 

 翌日、仕事を終え俺は大淀と二人、執務室にいた。少し相談があって呼び出したのだ。

 俺の悩みの種である張本人は浴室や工廠の点検に回らせてある。

 

「提督から何か言われても答えないで、と……」

 

 ――先手を打たれていた

 

 大淀は申し訳なさそうな笑みを浮かべる。

 気にするな、俺がそう言うと大淀は更に申し訳なさそうに下を向いた。

 大淀と霞の仲の良さは俺も重々承知している。それは例え提督であろうとも蔑ろにしていいものではないということも。

 大淀がダメなら足柄か、とも思ったがそれも同様、恐らく霞は自分と仲の良い艦娘全てに手を回している。

 

 大淀は「申し訳ありません」と何度も謝っていたが、仕事が残っているというので部屋へ返した。

 一人になった部屋で年甲斐もなく悩んでしまう。年頃の小さな娘を持つ父親なら同じような悩みに遭遇するのではないか、と考えるがそれはそれで話が別か。

 

 この鎮守府に就いてもう何年も経ち、殆どの艦娘とは仲良くなれたと思っている。もちろん、これは俺が勝手に思っていることであり、艦娘からしてみればキモイと思われているのかもしれない。

 コミュニケーションは毎日欠かさず、駆逐艦の子たちとも毎日遊んでいる。一度海に出れば彼女たちは侵略兵器として見られてしまう。人々からのそんな視線によるストレスを少しでも軽減できれば、と思って始めたことだが、いつの間にか俺の趣味へと変わっていった。

 

 お堅い軍服の上着を脱ぎ、無造作にソファに放り投げる。ワイシャツの裾を捲り、息苦しくないようにボタンを外す。

 秘書艦である霞の前ではこんなにラフな格好はできないが、一人であるというのなら大丈夫だろう。こちらの方が俺としては昔を思い出せるので楽なのだ。

 無意識のうちに出てきた重苦しいため息は俺の中に蠢いていた何かを全て持っていってくれたようで、仕事の疲れからか俺は睡魔に襲われてしまった。

 一度、ソファに寝そべると驚くほど簡単に瞼は閉じた。

 

 

 

 

 目覚め、時計を確認する。眠る前、大淀と話をしていたのが確か昼2時頃だったはずだ。それから俺は3時間近くも寝ていたらしい。

 秋も終わり頃、日は短くなり外は暗い。執務室の中はいつ間についていたのかは知らないが、電気がついていた。

 

「……起きたの」

 

 扉の軋む音を響かせ入室してきたのは霞だ。今朝顔を合わせたときとは違い、髪を解いている。

 初めて見る霞の姿を前に呆気にとられていると霞は嫌そうにしながらも俺の前に座った。

 テーブルの上で書類をトン、と整理し、それを渡す。そこにまとめられていたのは今日点検させていた浴室や工廠についての艦娘たちの生の声だ。

 

 浴場を広くしてほしい、露天風呂が欲しい、なんで混浴はないのか、工廠の耐久度をあげて欲しいなどなど。いったい誰が言ったのか、と思うようなことまであり、見ていて少し楽しかった。

 

「これで今日の仕事は終わり。私は部屋に戻らせてもらうわ」

 

 顔を合わせたのは……いや、目を合わせたのはほんの数秒、霞はすぐに顔を逸らし俺の視界から外れた。

 扉が閉まる軽い音が執務室に響く。

 いつの間にかテーブルの上に置いてあったコーヒーは俺好みの味がした。

 

 




短め。
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