評価されていてとても嬉しかったです(語彙力
鈍色の空を見上げ一人、黄昏れる。少しずつ降ってきた雪が草花を白く染め、冬の始まりを知らせている。門から見る鎮守府はやけに大きく、初めの頃と比べてよくここまで成長したな、と感じさせてくれる。
数日前に来た知らせにより、これから大本営へと向かわなければならなくなった。
鎮守府の運営に関しては長門、大淀、霞に一任しているため心配はない。提督不在で出撃させるわけにもいかず、艦娘たちは事実上一週間の休みを与えられる。もちろん、鎮守府の外に出ることは許されることではないが、彼女たちにとって休暇は特別なものだろう。
邪魔をするわけにもいかず、俺が不在だということは書類のみで伝えた。いちいち口で伝えるのも鬱陶しいと思ったからだ。
「提督、お気をつけて」
「ああ、あまり仕事はないと思うが……大淀、よろしく頼む」
見送りは大淀のみ。朝早く、ということもあり、駆逐艦の子たちは起きてはいない。雷にはお見送りをさせろ、と言われたが、子どもを早く起こすわけにもいかず、こうして大淀のみに見送られているわけだ。
「何かあれば大本営の方に連絡を頼む」
静かに見送られ、俺は鎮守府をあとにした。
やはり見送りは静かな方が楽だ。
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鎮守府からあいつがいなくなる。
そんなことは私が来て以来初めてのことだった。
朝早くに出て行ったらしく、雷や金剛さんなんかからは批判の声が相次いだけれど、その辺りは上手く大淀さんが抑えてくれた。
あいつのいない執務室はいつもと変わらない。
私とあいつには会話はないから。
出撃や遠征はなく、仕事も簡単な書類仕事だけ。正直、一週間もかからない簡単な仕事ばかり。書類よりも大変なのはあいつがいないことによって荒れるであろう鎮守府を制御すること。こればかりは私だけではどうにもならない。
出撃はない、と言っても敵が攻めてこない訳ではない。そのために臨時司令官となった長門さんは朝から頭を悩ませていた。
敵が攻めてきた訳ではない。ある意味敵なのかもしれないけれど。
「提督はあまりミスをしない方だ……しかし、今回の判断は少し、いや、大きなミスだ……」
滅多に座れない提督の椅子に座れることにテンションが上がっていたのも束の間、長門さんは鎮守府が荒れゆくことに悩んでいた。
原因はもちろんあいつ。あのクズが朝一で出て行ったせいでお見送りができなかった、と嘆く人たちが大勢いたのだ。
今生の別れでもあるまいしそこまで荒れることでもない。なんて思っていたけれど、私達は軍艦。戦地に行ったまま帰ってこない、なんてことは日常的に有り得た話だ。その感情が今も消えない艦娘は多い。だからこそ今こうなっているのだ。
私だってそういう経験が無いわけではない。けれど、別にそんなに大げさにする事でもないと思う。
「霞、私はこれから食堂に皆を集めて陸奥と一緒に説得してくる。仕事の方を進めておいてくれるか」
そう言って長門さんはツカツカと食堂へ向かっていった。
仕事の量はそこまでじゃない。きっとすぐに終わらせられる。
持ってきていた手帳を開く。
これは日記だ。
私がこの鎮守府に来てからの日々を毎日欠かさず書いている。それを見返すのが私の趣味になっている。
「霞ちゃん、入りますよ」
ノック音が聞こえて慌てて日記を閉じる。別に見られて困ることは書いていない。でも日記を見られるのは少し恥ずかしい。
部屋に入ってきた大淀さんは疲れ切った様子でソファに倒れるように座った。
大淀さんは唯一あいつを見送った。その事が原因で金剛さんにあらぬ疑いをかけられ、魔女裁判的なものにかけられていたとかなんとか。
「提督がいないとこんなになるなんて……少しは予想してましたけど……」
「お疲れ様、あいつのせいで私たちの仕事の量が増えるなんて酷い話よ」
大淀さんはあまり人前では見せないようなため息をつき、大きく伸びをした。
「そう言えば、霞ちゃんは寂しくないの?」
「はぁ?寂しいわけないでしょ」
私は金剛さんたちとは違っていわゆる、提督ラブ勢と言われる人たちとは違う。
確かに、あいつが一週間もいないなんていう経験はしたことが無い。けれど、たかが一週間だ。別にあいつがいないからと言って私の生活が大きく変わるわけではない。
「んー、寂しくなったらいつでも部屋に来ていいからね」
「だから!寂しくないのよ!」
大淀さんの冗談を流し、私は話をそらすためにお茶を入れに立ち上がった。
あいつが帰ってくるまで、あと七日。特に感じることは何も無い。