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「戻ってきた……」
一週間、という予定を少しオーバーしてしまったが約三週間で鎮守府へ戻ってきた。自分が思っていたよりも会議が長かったのもあるが、久しぶりに会う同期、先輩、後輩と顔を合わせたのが楽しくて少し長めにあちらにいた、というのが内訳だ。
元々、大淀には伸びるかもというようなことは伝えておいたので俺が戻らないことによる弊害はないと思う。まあ、大淀たちにかける迷惑は相当なものなのかもしれない。その辺はあとで合わせておこう。
「テートークー!」
鎮守府に入ると視界が一瞬で覆われたと同時に後ろへ飛ばされた。
「久しぶりネー!」
「金剛、ただいま」
上に乗った金剛が涙目を浮かべている。よく見れば金剛以外にも何人も後ろに控えている。
「皆さん提督がいなくて寂しかったんですよ」
「大淀、すまないな迷惑をかけた」
「いえ、私はそんなに……」
珍しく歯切れの悪い言い方の大淀。恐らく俺が留守にしていたことが原因で慣れない仕事をさせられたのが原因だろう。それは大淀だけじゃないはずだ、長門や霞も同じように疲れているはずだ。
金剛の抱きつきから逃れ、駆逐艦の子たちからも逃れようやく執務室にたどり着いた。
執務室には誰もいない。この時間帯、工廠などの設備点検に出かけているのだろう。
綺麗に整頓されている机を見る。書類が綺麗に仕分けられ、見やすくまとめられている。三週間前の俺の机よりも整えられていてなんとも情けない気持ちになる。
ふと、机の上の手帳が気になった。俺の私物ではない。何となく手に取って中を覗く。これは、日記だ。
中に書かれていたのはこの鎮守府に来てからの出来事だ。
「……これは、霞の日記か」
内容はありふれたものだった。
姉妹艦との再会、仲のいいもの同士の交流や俺との仕事。俺に関して書かれているのは『仕事が遅い』だとか『整理整頓ができない』など、みっともないことばかり。
「ん、これは最近のか?」
ペラペラとページをめくっていくとつい最近、二週間前の日記を見つけた。俺が大本営に行ったときのものだ。
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11月3日
『今日からあいつが鎮守府を留守にする。大本営からの招集らしい。皆少しだけ気分が落ちていた』
11月4日
『あいつがいない執務室は初めだった。長門さんも大淀さんも二人とも忙しそうにしていた。かく言う私も慣れないことばかりで少しだけ忙しかった』
11月5日
『暁たちがあいつがいなくて寂しいらしく、執務室に来ることが多くなった。長門さんが仕事そっちのけで相手をしていたことが印象的』
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その後もペラペラとめくっていったが、鎮守府内で目立った事件事故はなかったようだ。
俺が帰ってくるはずだった日の日記を見つけた。
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11月10日
『あいつが帰ってこれないそう。本当にクズ』
11月11日
『私しか見ないものだから告白しようと思う。私はあいつが帰ってくることを楽しみにしてた。少しだけだけど。やっぱりあいつがいないことで鎮守府に活気が無くなっている。それが嫌だっただけ』
11月12日
『いつ帰ってくるか、という連絡は依然としてない。なんでなの』
11月13日
『最近、肌寒くなってきたからあいつの服を羽織ってる。暖かくていい匂い。一枚持って帰ろう』
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そこで一旦読むのをやめた。雲行きが怪しくなってきたからだ。
確認のためクローゼットを開く。確かに一枚無くなっている。どうやらここに書かれているのは本当の事のようだ。
何故、霞が。……いや、考えるだけ無駄か。あとで聞いておけばいいだけなのだから。
…………やめておこう。
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『帰ってこない』
『大本営で何かあったのかもしれない。大淀さんや長門さんはそんなことないって言うけれど本当かわからない。何か連絡があればいいのに』
『あいつがいないだけでこんなになるなんて思ってもいなかった。もしこのまま帰ってこなかったら……』
『おかしい。何も連絡が無い。なんで?』
『もしかして捨てられた?私のせい?やめて、置いてかないで』
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「……………………大問題だ」
どう解決しようか。一歩間違えれば手遅れ、いや既に手遅れな気もするが……まずは霞に会わないことには始まらない。誰かに相談すべきだろうか……。
ガチャ、と扉が開く音が聞こえ咄嗟に手に持った手帳を机の上に置いた。
入ってきたのは霞。少しだけ気まずい。
「……帰ってたの」
「あ、ああ。少し予定より長かったけどな」
話を切り出そうにもいざ本人を目の前にするとそれはむずかしい。
「ねえ」
「なんだ?」
「もうどこにも行かない?」
「いや……それはわからないな。今回みたいに大本営からの通達があれば行かなければならないからな」
俺がそう言うと霞は顔を伏せた。「そう」と短く呟いたあと霞はお茶を入れに背を向けた。
手帳のことは気づいていない様子。これを返してもいいものか、俺から返せば中を見られたことに勘づくだろう。どうすれば……
霞が持ってきたお茶を飲み、今後について考える。まず、第一にやらなければならないのが霞のケアだろう。
日記を最後まで読んだ訳では無いが、あの様子だとかなり不安定なのかもしれない。
霞の日記をバレないように内ポケットにしまう。霞に気づいた様子はない。ぼーっと窓から空を眺めているだけだ。
「霞、俺はちょっと鎮守府の様子を見て回ってくる」
「そう」
そう言って執務室から出る。気分転換と様子見、そして相談者探しを兼ねている。
霞も一緒に連れていくべきだった、と気づくのはもう少しあとのことだ。