なるべくあの者共に気付かれぬように。
あの諍いの場へと近づいて、落ちこぼれ騎士とやらの顔を拝んでやるとするか。
……ん?何で魔王である我が、そのようなことをせねばならぬのだ?
何もコソコソせずとも、堂々と拝んでやればよさそうなものではあるのだが。
しかして我がその姿のまま、不用意にあの者共へと近付けば。
町の者達と同様の反応が返ってくる事が容易に想像できてしまう。
ええい!何か妙に納得がゆかぬが。
なるべく気配を悟られぬよう。
足音を立てぬように近づいていくしかあるまいか。
むう…なれば仕方がない。
ちと魔力を大幅に消費してしまうが故に、これはあまり使いとうなかったが…。
【浮遊】の魔法を使うしかあるまいて。
≪吹き統べし風の精霊の王よ、我の身を地の引より解き放いて…≫
(フワッ…)
んんっ!ぬおぉぉ…。
やはり上位魔法である故に魔力の消費がかさむのぉ。
あまり長くは保ちそうにない、用だけをなるたけ早よう済ませるとしよう。
『この落ちこぼれ騎士!』
などと蔑まれていたほどの男子だからな。
なよなよしく情けない面持と体格を持った軟弱者を想像しておったのだ。
結果としてその予想は、ほとんど当ってはいた。
ただ一点を除いては。
『キア!お前も騎士の息子なら、魔王を倒しにいけよ!』
キア?という名前を呼ばれているその落ちこぼれ騎士は。
体型はひょろっとしてなよなよしく。
手や脚に筋肉などほとんどついてはおらず。
その身に鎧や盾などを付けられるのか疑問にすら思えるほどの貧弱さで。
おおよそ”騎士”という肩書など冠することは出来ないほどだった。
だがな…だが、それよりもさらに軟弱だと思える原因は…。
『なんでお前は、そんな女みたいな顔してやがるんだよ!』
『情けない顔しやがって、お前のその顔見てるだけでムカつくんだよ!』
……少年なのか!?
一瞥してそう思えた程に。
その者の面持は、まるで純真な童のようなそれだったのだ。
どう見ても、どう贔屓目に見たとしても、騎士などには絶対に見えない。
ひ弱そうな少年がそこに立っていた。
あの者が、英雄の息子だったというのか!?
周りを取り囲んでおる者たちが、情けないだのと蔑む気持ちもわからなくない。
我も同じ立場ならば、早々に詰っておったかもしれぬ。
だがしかし…あの者たちの口ぶりから察するに。
貴奴が騎士の血筋だというのは確かのようだ。
『…………え?』
……むぅ!?うぉぉ!?
キアと呼ばれていた少年が。
気配に気が付いたように、突然にこちらの方を見てきた。
い、いかん!
(ガササッ)
咄嗟に、たまたま近くに生えていた大草の影に隠れた。
慌てていたので草が浮遊の魔法により飛び散ってしまっていたが。
『おい!お前、どこ見てんだよ?』
『あ…ご、ゴメン!なんだかあの野原の辺りに、何か魔力の気配が…』
『魔力だぁ?何も感じないぞ』
『え…そうなのかなぁ、確かにあの辺りに風の精霊が…』
『そんなの何処にも居やしねぇだろうが!』
『誤魔化そうとしてんじゃねぇぞ!』
なんだとぉ…。
他の者どもはまるで気が付いておらぬ様子なのに。
貴奴…キアという者は。
我の姿よりも先に、風の精霊の気配を感じておったというのか!?