あのキアという少年…今、風の精霊と口にしておった。
周りを取り囲んでいる者共は魔力にすら気づいておらぬのに。
あの者は精霊の気配から我の【浮遊】を感じ取っていたということになる。
害をなすためではなき故に、質量はあまりない魔法なのであるが。
貴奴はそれを、この遠距離でも感じ取ったのか…。
そしてその名を口にして、気配を感じられるということは。
風の精霊の存在を、そしてその魔法をよく知っていることに他ならぬ。
……。
一つ、試してみるか?
≪この地を吹きすさべし風の精霊よ…刃となりて…≫
魔法の発動による魔力の放出を、最低限にまで抑えながら。
その場にて【風の刃】で、すぐ脇の辺りに生えている草を刈ってみた。
『……ん!?』
貴奴が身体ごと、こちらの方を向いた。
むっ!やはり気付いた!?
この遠距離ならば、音も聞こえてはおらぬはず。
しかも貴奴は発動と同時に感知していた!
『やっぱり…君達、気をつけて!』
『あぁ?一体どうしたってんだよ?』
『あっちに何かあんのか?』
『うん…今、確かに強力な風の魔法の気配がした…あそこに何か居るのかもしれない!』
いかん!このままでは気付かれてしまう!
慌てる必要などないのに、何故かもう見つかってはいけない気分で居た。
こうなれば仕方がない。
早急にこの場から立ち去った方がよいやもしれぬ。
【浮遊】したまま、その場から急ぎ後退し。
そしてその状態で、重ねて別の魔法の詠唱を始めた。
≪地の聖霊よ…我の身をかの地の引より解き放いて…≫
【飛翔】の魔法で出来る限り低空飛行で、その場より飛び立って離れた。
これならば、あの者達から我の姿は捉えられてはおらぬはず……うぬっ!?
何か身体の周囲に違和感を感じてきた気がしていたのだが。
魔王っぽくと気合を入れて身に纏っていた魔王装束が少しずつ破れだしている。
しまった…【浮遊】から【飛翔】へと魔法を無理に繋いだせいなのか。
風と地の精霊の魔法が混同し、少々暴走しているようだ…。
こ、これではいかんな…早急に城へと戻らねば。
半裸のままで飛翔する姿を、誰かに見られてしまうかもしれないではないか。
そんなことになっては、もう…お嫁になどいけぬようになってしまう!!
考えている間にも服からビリビリと破滅の音がしてくる。
ひいぃぃぃ、む、胸元の布が破れだしてきたではないか!?
風の精霊たちよ!もうこのような無茶な発動のさせ方などせぬと誓うから。
せめて城まで、我の衣服をもたせてくれぃ!!