桃井さつきinハイキュー!!   作:睡眠人間

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日常回的なワチャワチャが書いてて楽しかったので、今回ほとんどそれです。本題は次回。





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「角名、角名」

「ん」

「ここ何にした。問5」

「あー……B」

「マジか。俺C選んでんねんけど」

「治、問題文ちゃんと読んだ? ひっかけだよココ、先生がテストに出すって言ってたじゃん」

「寝てて聞いてへんかったわ」

「バカ?」

「じゃあコレは?」

「A。自信ないけど」

「よし」

「あ、最悪。点落とした」

「失礼やぞさっきから」

 

 2年1組の教室にて、治と角名は先程終えたばかりのテスト問題の回答確認をした。合ってるかな、間違ってるかな、という不安を解消するためにやっているだけで、治は点数に関心がなかった。多分どうせ赤点だし。

 前期中間試験最終日、最終科目を終えた生徒たちは解放感で満ちている。この後は部活に行くなり、遊びに行くなり、生徒たちの自由というわけだ。

 まあバレー部の二人は部活があるので、それまでちょっと時間を潰しているだけだけど。

 そこへクラスメイトの女子生徒が二人、近づいてくる。揃って目がパッチリしたかわいい顔立ちで、手入れされた髪を綺麗に巻いている。学年でも人気のある女の子たちだった。

 

「治くん、角名くん、答え合わせしとんの? ウチらも交ぜてー」

「ええけど、俺のは多分間違ってるで」

「アハ。ええわそんなん。最初から期待してへん」

「はっきり言うじゃん。まあ同意だけど」

「ねー。あっ、ここの答え一緒! やったぁ」

「てかさぁ、この後空いとる? テスト終わりにパーっと遊ばん?」

「あーごめん、今日部活」

「えーそうなんや。大変やなぁ。じゃあ空いとる日いつ? この四人で遊ぼ?」

「しばらくは無理や。部活あんねん」

 

 やたらと距離が近い彼女たちと話をしていると、教室の入り口辺りがザワッとした。気になって角名がそちらを見れば、ちょうど扉付近に立つクラスメイトの友達が、教室側を背にして誰かと話している。

 ちらちらそいつの肩越しに見える頭髪はピンク。見間違えるはずがない、桃井である。

 

「治、あれ。桃井が来てる」

「……!!」

 

 角名が入口の方を指差すので、治は顔を向けて、ギクッ! とわかりやすく動揺した。

 試験期間の初日にケンカをして以来、双子は桃井に謝っていなかった。

 ちゃんと謝ろう謝ろうと双子は決意したが、なかなか尻に火がつかず、今日を迎えてしまっていた。じゃあ部活が始まる前に桃井の教室に行って謝ろうと決めたが、腰が重くて実行に移せない。片割れが呼びに来るかと思いきや全くその気配がないので、侑も治と同じように尻込みしているのだろう。

 双子は、双子でケンカすることがほとんどだった。だからわざわざ「ゴメン」と頭を下げなくても、なんとなく自然と仲直りしていた。

 じゃあ他人とケンカした時はどうかと言えば、別に他人に嫌われてもいい侑は放置、治も自分が悪くないと思って謝りに行かない。仲直りがヘタクソな双子なのである。

 そんなわけで、今回の件に関しても、どうすればいいかわからなくてXデーを先送りしていた。

 そうしたら相手の方からやって来た。

 どうしよう。

 

「……? どうしたの」

 

 角名は、双子が桃井とケンカしたのを知らないので、治が顔を強張らせる理由がわからなかった。

 どうせ桃井がうちのクラスに来た理由なんて部活関連に決まっているんだから、構える必要はないだろう、と。

 しかし角名の予想に反して、入口に立つクラスメイトがこちらを向いて、想定と違う呼び出しをした。

 

「治ー! 桃井さんがお前に大事な用があるから、来て欲しいって!」

 

 彼が言った瞬間、教室はシン、と静まり返った。

 治がガタン! と音を立てて立ち上がり、角名は目をカッと開いて固まった。周囲の反応も角名と似たり寄ったりで、「えっ!」と興奮を抑えるように口元を手で覆う。

 大事な用で呼び出しって、ま、まさか告白……? というリアクションだった。みんな小さな声で「マジ?」「嘘っ」と沸き立っている。

 男子たちの「俺たちの桃井さんが!」「治許せん! 双子許せん!」「侑にも飛び火しとるやん笑」「それは自業自得」というザワザワした声もした。

 しかし桃井は教室の入り口に立って、冷静に言い放つ。

 

「いえ、治先輩に大事な用はないです。男子バレー部の招集です。今日の部活は、体育館じゃなくて、視聴覚室に来てください」

 

 桃井がただ招集しに来たのを、入口の生徒が勝手に改竄して吹聴しただけだった。

 紛らわしいことを! 一瞬本気にしたわ! と2年1組の男子バレー部たちは嫌そうな顔で、荷物をまとめ始めた。視聴覚室に行く為だ。部活開始まで時間はあったが、暇だったし教室はガヤガヤうるさいからそっちに行こうとしたのである。

 角名も同じようにテスト用紙をファイルに入れていたが、治が立ち上がったまま微動だにしないので、流石に不審に思った。

 

「治?」

「…………」

 

 声をかけても返事がない。あれっ? となって速攻の時のように上半身ごと斜めらせて、治の横顔を確認する。

 

「うわ」

 

 角名は低い声を出した。

 治の顔は真っ青だった。去年、大事な合宿と治の補習が重なって、北に「なんで日程かぶるってわかっとったのに赤点とったん??」と説教されている時と同じくらい、可哀想だった。

 それでもやっぱり、治がここまで追い詰められる理由がわからない角名は「先行くよ」と彼を置き去りにした。さっきのも、入口に立つ生徒にからかわれたのを桃井は否定しただけなのに、と。

 しかし治は、桃井の言葉に強い拒絶を感じ取った。

 あの日のケンカのせいで、めっちゃ嫌われてる! と感じたのだ。

 

「も、桃井! ゆ、許してっ、堪忍してください!」

「あっ治くん!?」

 

 話しかけてきた女の子二人が目に入らず、治は大慌てで教室を飛び出していった。

 残された2年1組の生徒たちは、ただ困惑して顔を見合わせるばかりである。

 

 

 

 

 2年1組が終われば、次は2年2組だ。桃井はたった数メートル離れた次の教室にズンズン進んだ。

 その後ろを2年1組の男子バレー部がついていく。

 治が捨てられた子犬のような顔で桃井に引っ付くが、桃井は無視をした。完全に治が見えていないような振る舞いだった。

 そして2年1組の時と同じように、2年2組の札が掲げられる出入り口でダラダラ駄弁る生徒に話しかける。

 

「すみません。今お時間よろしいでしょうか」

「えっ!? あ、ウン!!」

 

 話しかけられた生徒は「えっ……桃井さんが俺に話しかけてきた……もしかして告白……??」とドキドキして、胸元に手を当てて彼女の言葉を待つ。

 

「男子バレー部の皆さんに伝えたいことがあって……どなたか呼んでくださいませんか?」

「あ……ウン」

 

 なんだ告白じゃなかったのか……と見るからに落ち込んだ男子生徒は、しかしクルッと体の向きを変えて、張り切った声で呼びかける。

 

「侑ー! 桃井さんがお前に大事な話があるってー」

「!?」

 

 2年2組の教室内が静寂に包まれたのが、廊下にいてもわかった。

 ああ、俺らの時もこういう感じになったんだ、と角名は理解して、桃井から少し離れたところに立っている。

 学校の花を独占する男子バレー部へのちょっとした復讐なのだ。忘れた頃にやってくるから、毎回ああそうだったと思い出す。

 男子バレー部の誰かを呼んで話があると伝えているのは、正しいから憎らしい。台詞に悪意があるので許されないが。

 

「え、侑……?」

 

 さて2組の教室では、銀島がちょっとドキッとしながら侑を見ていた。彼も例に違わず「こ、告白……?」と思ったからだ。銀島はとてもいいヤツなので、嫉妬とか恨みとかは一切なく、祝福しようと思ってこの後コンビニで何を奢ってやろうかと考えた。

 しかし侑は、治と同じように青ざめた顔で立ち尽くしている。有罪を言い渡された時のように、頭の中を真っ白にさせて。

 

「いえ。侑先輩に大事な話はないです。男子バレー部の招集です。今日は体育館じゃなくて視聴覚室に集合してください」

 

 話はないとキッパリ言い切った桃井に、アッ謝ってないから嫌われてる! ブタ呼ばわりしたの根にもってる! と汗をダラダラ流して侑は硬直した。

 今までブタ呼ばわりした女の子なんていくらでもいるのに。言った相手の顔すらもう覚えてないのに。桃井が相手とならば話は違った。

 緊張して手汗がすごいことになっている。歯と歯の間からスースー息をして、グアッと腹に力を込めた。

 

「桃井! 俺が悪かったから許してくれぇ!」

「侑!?」

 

 やがて侑は泣きつくようにして飛び出していった。銀島は優しいので、自分のと侑の分の荷物を抱えて、あっと思って振り返る。

 

「スマン! 出かける話はまた今度な!」

 

 そして好青年の笑みで教室を出た。

 残された、侑と銀島を遊びに誘っていた女子生徒は、ええ……? と首を振って眉をひそめるばかりだった。

 ただ1組も2組も、「桃井って一年生、双子をあそこまでビビらせるってヤバイ女なのかな……」という認識を持った。

 双子の形相が、妻に浮気がバレた夫みたいな感じだったからだ。慌てて追いかけていったので、二人とも上履きは片足投げていた。

 

 

 

 

 

 そんな感じで、桃井は2年の教室全てを回って男子バレー部に招集をかけた。

 「今日の部活の集合場所は、体育館ではなく視聴覚室です」とただ伝えているだけで「今すぐ来い」という意味ではなかったが、何故か全員ついてきた。

 誰かが「一年生の桃井が先輩の教室を回って伝言するの大変やろ? 俺らで手分けするわ」と言えば済んだのに、双子の様子がおかしくて、二年生は気まずそうな顔で桃井の後ろを歩くのみである。

 そして桃井自身もそれに何も言わなかった。不自然なくらい前だけを見て、キビキビ歩いて働いている。

 

「お前ら何か悪いことした?」

 

 尾白のいる3年5組に着く頃には、男子バレー部の大名行列みたいになっていた。運動部なので周りに注意されることなく、邪魔にならないよう自分たちで二列まっすぐに整列し、桃井の後ろに控えている。

 ただその先頭の双子が情けなく眉を下げているので、一応尾白は桃井に聞いてみた。

 

「? 何のことですか?」

「あっあんま触らん方がええんやな。了解したわ。そんで、用って何?」

「男子バレー部の招集です。今日は体育館じゃなくて、視聴覚室に集合してください」

「おう。わかった。他の連中に共有しよか?」

「あと2クラスで終わるので大丈夫です。ありがとうございます」

「そう?」

 

 そして尾白ら3年5組の男子バレー部の生徒たちは、荷物を持って最後尾に並んだ。そろそろ一年生を除いた全男子バレー部員たちが集うので、その列は長く、最後尾は階段辺りになる。

 3年6組にも声がかかったようで、そのうち尾白のもとに赤木がやってくる。

 

「アラン! この列何?」

「わからん。男子バレー部の列? 桃井が呼び出ししとったから」

「いや呼び出しちゃうやろ。伝言してくれてんねん」

「あっそやな。じゃあ何で俺ら列に並んでんの?」

「? あ、確かに。桃井に並べって言われてへんのに」

 

 二年生がずらっと桃井の後ろに行儀よく並んでいたから、なんかそうした方がいいのかなと、つい三年生も倣ってしまった。

 

「まあ桃井が全員に伝えた後、視聴覚室に向かうやろ。知らんけど」

 

 赤木が楽観的に言った。

 男子バレー部の二列の後ろの方にいけばいくほど、不思議な顔でなんとなく並んでいる者ばかりだった。事情を知らずとりあえず並んだ男たちだ。

 あとちょっとした非日常にワクワクしている。今日でかったるいテストが終わったのも喜ばしかった。

 

「何やこの列……」

 

 しかし何の関係もない一般生徒からすれば、学内最強の運動部が列をなして待機しているのは異様な光景だ。威圧感が凄まじい。加えて見上げるほど長身の生徒が多いので、周りは怖がって距離を置いた。

 目つきの鋭い生徒も多数混じっており、はたから見れば妖怪が集合しているみたいだった。多分みんなぬりかべとかに分類される。知らんけど。

 

「い、一体何が始まるんや……」

 

 一般生徒はこの隊列に息を呑んで走り去っていく。

 百鬼夜行の先頭はバレー部の頭たる主将だなと決めつけていたので、隣をサッと通り過ぎて、驚愕した。

 先頭はキャプテンの北ではなく、大エースの尾白でもなく、一年生の女の子だったからだ。

 強面の男たちを侍らせる(事実は勝手に後ろをついてこられてる)桃井を、みんな二度見して立ち去った。結構面白い景色だなとも思って、怖がる気持ちと合体してすごくドキドキする。

 噂で聞いたけど、バレー部を全国大会で優勝させるために県外から来たって本当なのかな、と思った。

 

 

 

 

 

 結局、桃井は男子バレー部の二年生と三年生を引き連れて視聴覚室についた。先に桃井に場所変更を伝えられ、着席していた一年生はぎょっとする。

 後ろに強烈な先輩たちを従えて歩いてくる桃井が、最も迫力を伴っていたからだ。

 

「席はご自由にどうぞ」

 

 桃井はそれだけを言って演台の方に向かった。資料を共有したり作戦会議をしたりする時、機材をいじれるように桃井のポジションは大体そこなので、今更誰も疑問には思わない。

 今回もそんな感じかな、IH予選近いし……と各自が納得して、学年もポジションもバラバラに散っていく。

 

「あっ北さん!」

「俺は後ろ行くわ」

「ではこの席どうぞッ」

 

 北が最後方の席に腰を下ろすと、一年生たちは小さく「ギャッ」と喉の奥で悲鳴を上げ、慌てて席を譲った。主将なのだから、もっと前の方に座ればいいのに……そんな思いが一瞬頭をよぎったが、先輩相手に口に出せるはずもない。

 ただ、いつもなら絶対に選ばないような最後方の席に北が陣取ったことで、周囲の部員たちは怪訝な視線を交わした。普段の北は、チーム全体を掌握するように最前列か中央に座るのが常だったからだ。

 そんな周囲のざわめきを意に介さず、北は冷静に全体が見渡せる位置に座り、さてどうなることか、と腕を組んだ。この場で唯一、桃井の企みを把握している北は、事態がどう転ぶかを静かに見守り、もし危うい展開になれば即座にサポートに回るつもりだった。

 

「お、揃ったな」

「お疲れ様ですッ」

「おうお疲れー」

 

 監督とコーチが遅れてやってきた。声を揃えて挨拶する部員たちに軽く手をあげ、ササッと最後方の位置に着席する。

 北が先にその辺りに座った影響で、ちょうど席が空いていたのだ。とはいえ監督らが指示を何も出さずに座ってしまったので、部員たちは「??」という顔でキョロキョロする。

 生徒主導で何かやるから先生は監督に来ただけ、みたいなテンションだったからだ。文化祭に向けた準備の時間で、最初に何やるかを決める時のような、そんな感じ。

 

「そういえば、何で今日って体育館やなくてココ集合なん?」

 

 銀島が言った。桃井に呼ばれたから集まったけど、場所変更の目的も、今から何をやるかも知らない。とりあえず荷物は全部持ってきたが……。

 全員そんな気持ちだったので、落ち着きなくザワザワし、とりあえずスクリーン前に立つ桃井を見る。

 自分たちよりも白鳥沢と仲がいい後輩マネージャーに、今から何すんの? という視線が集まった。スカウティングとかかな? なんて。

 以前からできていた変な雰囲気がここに来ても流れ出し、微妙な間合いが生まれてしまった。

 

「…………」

 

 それらの目線を一身に受けて、桃井はずっと緊張していた。

 この後やること・伝えることで頭がいっぱいになっていて、試験終わりから今ここに立っている間の記憶が疎かだ。「視聴覚室に部員を集める」目的を果たすので精一杯だったので、男子バレー部の百鬼夜行の先頭にいたなんて、最後まで気づかなかった。

 心臓は早鐘を打っていて、指が震えている。

 

『私の言葉はチームの士気に関わりますから。みんな、私を信用し、能力を認めてくれているから、言葉に耳を傾けてくれる。だから……いい事ばかりを言わなければと。そう思うんです』

 

 過去、音駒を見学させてもらった時に、黒尾と研磨に言ったことだった。

 桃井は自分の気持ちや考えを正直に言うことに、少なからず苦手意識を持っている。

 彼女の言葉は正義で、絶対的な正しさだった。それはコート上の王様と庶民の対立構造ができた一因であり、指導する上で必要になる面もあった。

 だけど、いつまでもそのままじゃいられない。

 今まで積み上げたものを壊すんだ。

 勇気を振り絞って、桃井は小さく息を吸った。







アンケートへのご協力ありがとうございます。
二つ名はかっこいいのでつけたいのですが、なかなかかっこいいのが降りておらず悩み中です。公式に取り上げられるくらい有名な名前でもいいし、選手だけの間で噂話として広がる名前でもいいなと思います。
"最強の囮"、"コート上の王様"、"烏野の守護神"、"大王様"、"怪童"……初期でパッと思いつくだけでもこんなにありますし、やっぱりかっこいいもんですね。
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