桃井さつきinハイキュー!!   作:睡眠人間

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それぞれのIH予選
烏野VS青葉城西


 青葉城西高校、男子バレーボール部の部室にて。

 バレー部の男たちは明日のIH予選準決勝、対烏野戦に向けて、徹底的な分析をしていた。

 このチームは主将を県内No. 1セッターである及川が務め、副主将とエースは相棒の岩泉が担っている。このコンビを軸とし、総合力の高いメンバーで主力を固め、チームとしての完成度は県内一位の実力を誇った。

 

「で、4月に練習試合やった時からさらに強くなっていると覚悟しておいて。特に9番10番の神業速攻。チビちゃんは普通の速攻も打てるようになってるから、惑わされないように注意すること」

 

 及川が烏野の試合動画を一時停止して言う。部員たちは真剣な顔をして話に耳を傾ける。その様子をミーティングルームの後方で見守るのは、監督とコーチだ。

 青葉城西男子バレーボール部は、他校と比べると特殊に見える部分が多い。

 例えば、毎週月曜をオフにして、部活動を大切にするよう意識させている。そしてもう一つ。

 

「サインが簡単だから区別はつくけど……変えられたら厄介だな」

「向こうはこちらが気づいたことに気づいていない。発覚させるタイミングは考えた方がいい」

 

 松川と花巻が画面から目を逸らさずに言った。

 青葉城西の特徴の一つは、スカウティングがほぼ選手だけで完結することだ。この習慣は、桃井と深く影響し合った及川や岩泉が発端となり、いつの間にか強敵との試合では欠かせないものとなっていた。

 そのため、練習中は会話とフィードバックを徹底的に行う。特に及川の代が入学して以降、この取り組みは加速し、チームの強みとして定着した。

 その強みとは対応力だ。どんな攻撃を受けても崩れず、揺らがず、どっしりと構える力強さである。

 

『あ……そ、っすよね。ちゃんと自分で考えないと……。……頑張ります!!』

『ぅへー……いつも答えをすぐ教えてもらってたんで、苦手です。わざわざコミュニケーションとるのも』

 

 金田一と国見のように、桃井と同じ代の北川第一出身の選手は、それが不得意だった。思考力が落ちているというか、考えることやコミュニケーションを最初から放棄しているような、それが癖づいている人間だった。

 間違いなく桃井と三年間を共にした影響だ。最初から正解を教えられてきたのだから、当然のことだろうけど。

 そういうのを見ると、桃井が宮城に残らなかった理由が、手に取るようにわかる。

 

「チビちゃんは囮として非常に優秀。でも意識し過ぎるのもよくないね。神業速攻の時はチビちゃんのマークは一人だけにしよう」

 

 及川は、今年度初の練習試合の様子を思い出す。

 相手は烏野高校。及川が監督に「今後間違いなくベスト4に食い込んでくるダークホース」と進言し、練習試合が実現した時のことだ。

 まさか"影山をセッターとしてフルで出すこと"を条件にされるとは思わなかったが、おかげで神業速攻という武器を予選前に確認することができた。収穫は大きい。

 

『インハイ予選はもうすぐだ。ちゃんと生き残ってよ? 俺はこのクソ可愛い後輩を、公式戦で同じセッターとして正々堂々叩き潰したいんだからサ』

 

 練習試合には及川は途中から参加したが、烏野の強さはなかなか侮れない。

 そもそも"落ちた強豪、飛べない烏"なんて不名誉な呼び名は、彼らにはそぐわないのだ。

 主将である澤村の守備力や精神的支柱としての存在感は、なかなか目を見張るものがある。及川のサーブにも反応が良く、レセプションに注意すべき逸材だ。

 影山にポジションを譲った元正セッターである菅原の情報は少なく、去年の春高予選で見かけた程度しかない。その時の印象は、堅実で真面目なセッター、という感じ。明日の試合に出場するかわからないが、飛び道具ではないだろう。

 

「そして、東峰旭。彼とは中学の時JOCで同じチームだったことがあるんだけど、攻撃力は岩ちゃんに勝るとも劣らない。スパイク強烈だから、吹っ飛ばされないように」

 

 東峰は不遇時代の烏野をたった一人で支えた傑物だ。間違いなく烏野の攻撃の核として、警戒すべき一人である。

 二年生にも厄介なのがいる。千鳥山出身の天才リベロ、西谷。下手すると県内No. 1のリベロの実力がある。男気に溢れ、背中で語る烏野の守護神。

 同じく二年の田中も、攻撃力と精神的な猛々しさには素晴らしいものがある。次世代の烏野エースは彼だろう。

 二人の声かけとメンタリティはチームの士気にも関わる。先に黙らせることができれば、烏野の空気は沈み、流れを掴める。及川がサーブで狙う相手は決まった。

 

「で、トビオね。烏野の最高身長の眼鏡ノッポ君とは、相性悪いみたい。過去の映像を見ても、彼とはコミュニケーションが上手に取れてる感じはなかった。眼鏡ノッポ君はそつなくこなすってタイプで、ブロックの核にはなってない。崩すならここかな」

 

 三年前の中総体決勝で、及川は牛島に勝利したことがある。しかしそれは桃井がいたおかげだと彼は認識していた。

 だったら、桃井がいなくても牛島に勝てると証明したい。

 勝利の女神がいなくたって、実力で勝利を掴める男であると信じたい。

 だから烏野には絶対に勝つ。天才アナリストが消えた天才セッターを、再起不能なまでにメッタメタにへし折って……。

 

「及川」

「……何? 岩ちゃん」

「目の前の相手が誰か、見誤るなよ」

 

 ギラギラに煌めく野生的な眼差しは、睨んでいるようですらあった。頬を引っ叩くような迫力の岩泉に正面から見据えられ、及川は理性的に微笑んだ。

 

「わかってるよ。明日の試合に負ける気はない。アイツにサーブを教えて、アイツが扱えなかった桃ちゃんを100%使ってみせたのは俺だよ?」

 

 俺が喉から手が出るほど欲しかったものを、生まれた時から持っているお前が憎い。それを自ら手放したんだから、その後悔を眼前に突きつけてやりたかった。

 

 

 

 

 

 

「アレ桃井さんじゃない?」

「は、ガチ?? ここ宮城だぞ」

「いやアレ、ピンク髪の子。えっ桃井さんじゃないっ?」

 

 青城二年、矢巾が興奮して同学年のリベロである渡に言った。一人で観客席を指差して騒いでいる。

 矢巾はかわいい女の子が好きなので、話に聞く桃井のことも顔まで知っていた。普通に大会で本人を遠くから見たこともある。トレードマークの桃色の髪は目立つから、目で追いかけやすいのだ。

 

「あー、本人じゃないよ」

「及川さんッ!?」

「ありゃ桃井の母親だな」

「岩泉さんも!? てか母親!? あれで!?」

 

 及川と岩泉が冷静に言った。過去に応援に来てくれた桃井母と直接挨拶をしたことがあるので、遠目からでもはっきりわかった。「あの人ずっと見た目の若々しさ変わんねえな〜」ともはや怖い気持ちである。

 同じく桃井母と直接喋ったことがある金田一や国見も、「また桃井のお母さんが娘と間違われてる……」と慣れた顔をしていた。

 

「あっ気づいた」

「お母様〜〜〜!」

 

 観客席にてカメラ機材をガチャガチャする桃井の母親は、青城メンバーに気づいてニコニコと手を振る。離れているからはっきりとは見えないが、高校生の娘がいるとは思えない風貌だ。

 及川が大型犬のようにはしゃいで手を振り返し、岩泉にボールで殴られた。それを横目に、矢巾はニヤけた面を一生懸命に引っ込める。

 

「へ〜〜……桃井さんのお母さんなんですね……動画撮るほど俺らのこと応援してくれるんスね……」

 

 本人はバレー部マネージャーだし、母親もバレーを好きなのかな……気合い入れなくちゃな……と浮ついた気持ちになり、矢巾は前髪をササッと整える。

 しかし桃井母の存在に、及川や岩泉、金田一や国見といった北川第一出身の選手は、顔を強張らせた。

 

「こりゃ、アイツに分析されんな」

「影山目的でしょう」

「あーークッソ、負けねェ」

 

 岩泉がニッと笑って腕を組み、国見が淡々と呟いて、金田一が悔しそうに肩を振るわせた。

 桃井母は、桃井が中学生の頃から時折大会に顔を出し、のほほんとした様子で娘の指示通りに公式試合の動画を撮影していた。全ては娘にお願いされたからである。

 どうしても観戦できない試合があるとき、桃井は他のマネージャーや身内に頼んで動画を撮ってもらう。今や本人が宮城にいないので、今回は母親に来てもらったのだろう。

 

「桃ちゃんは本当に飛雄ちゃんが好きだねぇ……」

 

 今日の試合を後で桃井に見られると思えば、腑抜けた試合はできないなと、しゃっきりとした心地になる。

 及川の胸の中で燃え上がる勝負への熱が、さらに高まるのを自覚した。

 ウォーミングアップの時間となり、青葉城西と烏野はそれぞれアップを始める。

 

「あっ、すみませーん!」

「ん?」

 

 及川が足元に転がってきた烏野ボールを拾うと、全く同じタイミングで同じボールに手を伸ばした相手がいた。

 パッと顔を上げると、そこには凹ましたい男No.2がいる。影山である。

 

「これはこれは……桃ちゃんに見捨てられた飛雄ちゃん!」

 

 影山にボールを取られる前に自分の手の内に収めた及川は、意気揚々と煽り出した。

 北川第一出身の選手は、影山と桃井が幼馴染であることを知っている。桃井が宮城に残らなかった理由なんて、客観的に見れば影山が見放されたからと思うのが自然だった。コート上の王様が嫌になったんだろ、と。事実は真逆だが。

 金田一や国見は何かを勘付いていたので無言を貫き……岩泉は、桃井の選択に周りが文句を言うなと憤った。

 

『飛雄ちゃんがどこまでいけるのかを見たくなったんです』

 

 そして及川は、桃井が影山を見捨てるはずがないと理解していた。彼女の進学先……稲荷崎には"宮侑"がいるらしい。なら多分、影山の供物にでもするのかな、と勘づくくらいには、状況を冷静に把握している。

 では何故影山を煽ったのかと言えば、いつまでも桃井の一番に居続けるこの男がムカつくからだった。

 案の定影山は煽られたことに気づかず、きょとんとした顔だった。無警戒の音色が口から発せられる。

 

「俺はさつきに見捨てられてないです」

「じゃあなんでお前は置いていかれたのさ」

「あいつが先を走るのは、ずっと前からです。置いていかれるのは、悔しいけど、今までと同じ」

 

 影山の声色は、だんだん静かに落ち着いたものになる。瞳は深海を映すかのように、遠くを見ていた。その目がやがて及川に向けられる。

 息を呑むほどに力強く、覚悟を秘めた眼差しだった。

 

「だから俺は今のままじゃダメだ。さつきが隣にいてくれるってんなら、あいつの隣に居ていいと思える強い俺でいたい」

 

 及川の額に青筋が立つ。ああ本当に……この男の才能、思考、性格、構築する全部に虫唾が走る。腹の底から沸き出る怒りと憎しみに、衝動に身を任せてしまいたくなった。

 そんな及川の激情を知らぬまま、影山は言い放つ。

 

「あいつに追いつきます、必ず。だから今日は勝ちに来ました」

 

 

 

 

 

 

 試合は進む。互いに1セットずつ獲得し、今や第三セット終盤、19-18。烏野が劣勢である。

 ピンチサーバーとして召喚された山口だが、一週間の特訓も虚しく、ジャンプフローターサーブはネットを越えることなく、自チームのコートにボールを落としてしまう。

 今日一番の緊張から解放され、必死に攻撃する烏野。青葉城西に食らいつき、なんとか同点に持ち込んだ頃には、25-25になっていた。

 青葉城西がブレイクしない限り、今度は烏野が常に優位に立った状態だ。しかし。

 

「あっ……!」

「ここで及川のサーブかよ……」

 

 苦悶の顔で澤村が呟いた。ここまで何点もサービスエースを決めてきた及川が、サーブを打つ順番が回ってきたのだ。まさしく絶望のターンである。

 影山は後衛に回り、サーブレシーブに備えるのは西谷と田中の二人。特に西谷の両肩にプレッシャーがのしかかる。守備専門の自分が取れなかったら、コート内にいる理由はないからだ。

 俺よ、奮い立て。鋭く息を吸って構えると、西谷は万全の態勢をつくる。

 

「さっきの……12番くん。まさかジャンフロで来るなんてね。予選で一度も出していなかったし、最近練習し始めたのかな?」

 

 及川は烏野コートの向こう、12番の山口に目線を向ける。それに山口が気づくことはなかった。

 この場にいる誰もが、及川は次もジャンプサーブを打ってくると思っている。否、岩泉を除いて。

 

「俺がお手本見せてあげるよ」

 

 不穏な囁きを残して、及川はサーブトスを上げる。

 その姿勢。その助走。打つ時の姿勢。全てがこれまでの及川のサーブとまるで違っていた。

 ───ジャンプフローター!?

 

「なっ!?」

 

 烏野コートに今日一番の動揺が走る。当然だ。及川がここでジャンプフローターサーブを打ってくるなんて、知らなかった。打てるとも知らなかった。

 ここまで周到に隠してきたもう一つの武器に、やられた! と指先に冷たい感覚が伝わる。混乱の息を吐くので精一杯だった。咄嗟のことに、体が硬直している。

 しかし。

 

「───んなろッ」

「!」

 

 西谷は反応してみせた。ジャンプサーブに備えた配置と体勢、そして心境だったから、動けたのは奇跡みたいなものだ。

 しかしこの土壇場での反応速度が、西谷が天才と言われる所以である。

 フッと足がボールの落下地点に向かい、オーバーの構えで西谷はレシーブしようとした。

 

「ぐっ」

 

 けれど、ボールは西谷の指を掠めて、コートに落ちていった。西谷が鋭く舌打ちをして、ガバッと勢いよく頭を下げる。

 

「くそ、すんませんッ」

「いや……いやいや! 今のよく反応できたな!」

「やっぱすげーわ西谷……」

「あげれなきゃ意味ないです」

「俺なんか動けなかったぜ……すまんノヤっさん! 次こそは俺も!」

 

 東峰と澤村が駆け寄るも、西谷は責任感から悔しそうにするばかりだ。田中に鼓舞するように声をかけられて、ようやく切り替えられた西谷が、眉間の冷や汗を拭った。

 西谷はジャンフロが苦手だ。そしてオーバーハンドパスも苦手だ。その両方の不得意が音を立てて攻め込んでくる。……正直、恐怖に近い感情を覚えた。

 

「へえ。リベロくん、ジャンフロ苦手なんだ。じゃあ次からはこっちで攻めるね」

 

 及川は一度の対応で、西谷が苦手とする部分を見抜いた。

 ならば当然、攻める。手を抜くつもりは一切無い。こちらにも余裕なんか微塵もないから。全力で勝ちに行くに決まってる。

 次のサーブは西谷が辛くも上げ、影山が繋ぎ、東峰が攻撃するも相手に拾われてしまう。

 厳しく……長いラリーだった。そういう攻撃が積み重なり、得点はついに両校とも30点台に突入する。その間、疲弊した青葉城西を支えたのは、国見だった。

 

「金田一も、国見ちゃんも、お前が扱えなかった選手は、俺が生かす。お前にはできないことが、俺にはできる」

 

 及川が白い歯を見せて強気に笑った。

 国見は無駄を嫌う。効率良く・燃費良く・常に冷静が彼の裏の武器であり、その性質を深く理解し、100%を引き出してみせたのだ。

 影山にはそれができなかった。

 試合中に普通に笑う国見を、影山は見た記憶がなかった……。

 

「あんたみたいな人に、どうやって太刀打ちすれば……」

 

 足元から崩れ落ちるようなような感覚のまま、影山は及川を見た。そして、ああ、と思い出す。

 さつきの情報収集や分析能力を見出して、選手が使えるように育てたのが及川さんだったな、と。

 小学校を卒業するまで自分だけに注がれていた彼女の愛を見つけて、磨いて、他者へ分け与えるよう仕向けた人。この人がいなければ、さつきはずっと俺のそばに居たんだろうな、と思う。

 

 でも、アイツはもうここにはいない。

 だから俺は勝たなくちゃいけないんだ。

 

 

 

 

 烏野は勝った。試合は終わった。

 しかし、影山には勝った実感がまるでなかった。及川の背中が広すぎる壁のように立ちはだかり、どれだけ点を重ねても超えられない気がした。

 セッターとしてスパイカーの欲しいトスに100%応えているか、応える努力をしたのか……あの人のプレーを見ていると、自分が間違っているような気さえした。

 そんな影山のメンタルがたった一日で回復するわけがなく。

 

 翌日のIH予選決勝、VS白鳥沢戦において烏野は、完膚なきまでにボコボコにされる。

 影山にとって、とても厳しい一戦だった。








原作よりも強化された青葉城西ですが、烏野も当然強化されてます。
脱落期間のない東峰や西谷、原作より若干意識が変わった日向、桃井の影響でめちゃくちゃ強化された影山など、パワーバランスが変化してます。

原作の烏野vs青葉城西戦、本当に大好きです。どちらが勝ってもおかしくなかった。しかしこの世界線では、このような結末になりました。

IHどこと試合するか

  • 稲荷崎VS梟谷
  • 稲荷崎VS鴎台
  • トーナメントいじって両方やれば?
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