桃井さつきinハイキュー!!   作:睡眠人間

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ビーチバレー

「青い空! 輝く太陽!!」

「白浜のビーチ! うおおおおッ海だーー!!」

「海だ海だーーーーッッ」

「夏だあああああッッ!!」

 

 夏合宿最終日。予定していた地獄のメニューを最後までやりきった稲荷崎高校男子バレー部は、合宿所近くのビーチに来ていた。

 目の前に広がるのは真っ青な海。どこまでも突き抜けて高い晴天の空。眩しく輝く太陽。直射日光を受けて真珠色に煌めく砂浜。海風が吹いて、木々がサワサワ揺れる。

 まさにザ・真夏という景色だ。これはテンションが上がる。ぶち上がる。ずっと合宿所に缶詰状態だったので、青が眩しかった。

 いや外周とか肝試しとかでそれなりに夏の風景は楽しんでいたけど、夏の海というのは特別なのだ。

 今回は異例中の異例である。

 

「18時から海の家貸切でBBQ! それまでは自由にして良し! 一般客の迷惑になること・怪我に繋がることだけは絶対すんな。稲荷崎の名前を背負っとるんやからな。大会前にヘマしたらアカンで!」

「き〜〜っつい練習によぉくめげずに食らいついた! ホンマにえらい、頑張った! あとは夏っぽいこと全部楽しんでこい!! ………ほんじゃ、解散ッッ」

 

 監督とコーチが号令を出すと、男たちはワッと各々が自由行動を……するのではなく、バレー部の集まりの最後列、ある一点に向かって集まった。

 真夏のビーチに咲く至宝の花を拝みに行ったのである。

 つまり桃井の水着姿を見に行ったのだ。まあどうせ人目を気にして競泳水着みたいなやつとか、Tシャツやパーカーを上から着ていて、肌の露出なんてほとんどないだろうけど……。

 それでも抑えきれない淡い期待を胸に、男たちは桃井の姿を一目見ようと集まって。

 

「おっ……」

 

 それ以外言えなくなってしまう。男たちの期待を遥かに上回る現実がそこにはあった。

 今の彼女は、水色のビキニ姿だった。豊かな胸がビキニのしなやかな曲線に柔らかく収まり、きゅっと引き締まったくびれまで完璧なラインを描いている。

 夏の陽光の下で眩く輝くのは、つるんとした白い肌。腰まで届く桃色の髪を三つ編みでおさげにしているので、それが潮風に舞うと、麦わら帽子に白いワンピースを着た幻想まで見えた。

 Tシャツや制服の上からでもわかる暴力的なプロポーションが、今、惜しげもなく披露されている。なんと刺激的な光景か。

 

「おっ……」

「おっ……」

「おっ……?」

 

 みんな「おっ……」としか言わなくなってしまったので、桃井は眉間にシワをつくった。

 ちなみに「おっ……」というのは「おっ(ぱいデッッカ……)」を何とか腹の底に押し留めている名残である。

 彼らは背が高いので、桃井と話す時は必然的に彼女を見下ろす形になることが多い。つまりビキニに包まれた、前に大きく膨らんだおっぱいが眼前にあるのだ。ものすごい吸引力である。視線が勝手にそこに固定されるから、必死に抗うので精一杯だった。

 胸元のリボンとか腰のリボンとか、解けたらどうなるんだろう……とドキドキする。

 

「お……お……」

「お……?」

 

 おっぱいから強制的に視線を剥がせば、アイドルみたいに可憐な顔立ちが怪訝そうに見上げている。どちらを見ても心臓に悪い。

 なので男たちの目線があっちへこっちへフラフラする。

 これは仕方がない。男子高校生だから仕方がない。無欲な男なんてこの世には存在しないのだ。清廉潔白の代名詞のような存在である北でさえ、予想外のビキニ姿に顔ごと逸らしている。

 最終的に部員たちは、ああ、自分たちはなんて恵まれているのだ……と神に感謝し、空を仰ぐ。

 

「泳ぎに行かないんですか?」

「お、お……おお、およ、泳ぐ、泳ぎマス」

「なぜ敬語なんです? というか、言われてなかったのに全員水着着用って……」

 

 なんと部員全員が持ち物になかった水着を持ってきていた。この謎の熱意に感動して、監督は遊泳を許可したのだ。

 その流れに逆らえず、先ほど桃井は水着をわざわざ購入した。サイズが合うものがなくて、この水色のビキニになってしまったのだ。

 二・三年生らは合宿所の近くに海があると知っていたので、鞄に海パン一枚を忍ばせていた。そして一年生も、もしかしたら桃井と水遊びする機会があるかも……なんてドキドキして水着を準備していた。

 言われてなくても水鉄砲なんかを持ってくる男たちである。水遊び・海水浴で使える道具を勝手に持ち込んでいた。

 それから暫くして。

 

「あっ! 冷たっ、意外と冷たいな!」

「アランっこっちやこっち!」

「わぷっ、ちょ、顔に水かけんなアホ!!」

「武器使用禁止! 路成だけ水鉄砲持っとるのズルいやん!」

「おい、あんま遠くに行ったらアカンよ」

「はーい北さん!!」

「泳げる奴らはええなぁ。俺は浮き輪で浮かぶので十分や」

 

 海に入って互いに水をかけ合ったり、水鉄砲で撃ち合ったり。競い合って遠くまで泳いだり、持ち込んだ浮き輪でプカプカ浮いたり。

 

「俺ヤバいところまで埋められてへん?」

「死体みたいに埋められたいって言ったのは侑の方なのに?」

「そんなお願いしてへんわ! 砂風呂やってみたいってだけで!」

「おっぱい作ろうやおっぱい。バケツプリンふたつ分!」

「ダッハッハッハ!! 傑作やなぁ、写真頼むわ!」

「もう撮ってる。銀にも送ろっか」

 

 砂を掘って侑を埋め、身動きの取れなくなった片割れのおっぱいを作ったり。その様子を写真や動画に撮って、腹を抱えて大爆笑したり。

 彼らは各々で思う存分夏のビーチを満喫している。

 砂風呂から脱出した侑は、全身についた砂をパラパラはたき落として、キョロキョロ辺りを見回した。

 

「あれ? 桃井は?」

「向こうで一年同士でビーチバレーしとる」

「はぁぁ!?」

 

 桃井のおっぱいを考えないようにするあまり、本人のことをすっかりさっぱり頭から消してしまっていた。

 その間に真夏の女神はビーチバレーに誘われており、侑はスタートダッシュに失敗したのだ。

 ここで桃井を同じ砂遊びグループに入れることに成功すれば、そのまま海で水をかけ合ったりなんてできただろうに……。

 そのあと何やかんやで全てがうまくいって、夕陽が沈んだ幻想的なビーチで目と目が合っちゃってキスしたりなんかできたかもしれないのに……。

 

「理石くんナイスキー!」

「桃井も! むっちゃ上手いやん!」

 

 しかし現実は非情である。桃井は仲良く同級生同士でビーチバレーを楽しんでいた。一年生の男子生徒たちはきゃっきゃっウフフと薔薇色の青春を送っている。

 今は、クラス対決ということで1年3組の二人と、1年4組の桃井と理石が試合をしていた。女子がペアな理石側が不利かと思われたが、意外にも得点は4組の方が勝っている。

 ラインの周りに立つ他の一年生たちが野次を飛ばして、とても盛り上がっていた。

 

「いいぞいいぞ! そのまま行けーーッ」

「おい誰かサングラス持ってきてへんの?」

「俺あるから貸すわ」

「ありがとー……って何やこのデザイン! ちょけんなや!」

「いいじゃない。理石くん、それかけてやったら?」

「何でやねん! こんなん集中できひんわ!」

 

 桃井がいるので男の子たちは手加減しているのだ。しかし手抜きではない。本人もそれがわかっているから、この時間を純粋に楽しむことに専念している。

 また桃井でもスパイクが決まるように"ネットを下げて"おり、それも楽しい要因の一つだった。

 はたから見ると、ただただ仲良しの友達同士がビーチバレーで遊んでいる。そんな微笑ましい感じだった。

 

「あっ、風!」

 

 3組の部員が声を上げる。自分がサーブしたボールは風に吹かれフラフラ動き、アウトになってしまったのだ。

 

「またか! ホンマ厄介やなぁ」

「風と砂な!! 普段と環境が全くちゃうわ」

「うん。これは興味深い……」

 

 陽射しを浴び続けて温かくなった砂を素足で踏んで、桃井はパッと顔を上げた。

 風が吹いているのでボールが攫われてしまい、サーブもトスも何もかもが思った通りにいかず、全員苦戦している。だから身体能力に差がある桃井でも、持ち前の分析力で選手たちに追いつけた。最速で風を読んだのが彼女だったからという理由もある。

 砂の上だから走りにくいし跳びにくい。2対2だからテキトーに動いていたら勝てない。風に身を委ねる適応力も求められる。

 インドアであれば手練れの選手たちが、ビーチではこんなにも翻弄される。

 いいな、ビーチバレー。難しくて、面白い。

 桃井の頭の中で、箇条書きにしたメモが増えていく。

 

「前前前ッ」

「うぎゃーー!!」

「うっわ顔から突っ込んだ」

「砂まみれやん!」

「大丈夫? 怪我してない?」

「ペッペッ、口ん中入った、最悪や……」

「洗い流せ洗い流せ」

「あ、よかった。大丈夫そう。砂のおかげだね」

 

 レシーブの体勢が崩れ、ざふっと砂に頭から突っ込んだ彼に怪我は一つもない。ふわふわした砂が守ってくれたのだ。まあ足をとられたのも砂が原因だが。

 

「砂浜トレーニングいいな……」

「!!」

 

 桃井がボソッと呟くのを、面白サングラス越しに理石は見ていた。

 柔らかい砂は衝撃を吸収し、関節にかかる負担を軽減してくれる。それにグラグラして不安定だから、体幹を鍛えるのに丁度いいだろう。下半身への負荷も期待できる。

 なんとかしてトレーニングに組み込めないだろうか……と桃井は考えているのだ。

 

「今度ビーチバレーの本探そう」

 

 今日だけでビーチバレーの全ては理解できない。ちゃんと勉強しようと桃井は決意する。

 ビーチバレーは非常に興味深いが、練習に取り入れるのは難しいだろう。まず環境がない。それに彼らはインドアの選手だから、砂に慣れて床が怖くなるなんて論外だし。

 ルールや反則事項はインドアと別なことも多く、はじめのうちは、ごちゃごちゃになってしまうかもしれない。

 ボールにも違いがあり、インドアと違ってビーチバレーのボールは柔らかく、1cmほど大きい。普段慣れ親しんだボールと違うから、特に繊細な感覚を持つセッターを混乱させる恐れがある。

 だが、それ以上に得られるものがあった。

 

「ね。2対2、やってみてどうだった?」

 

 3組vs4組を勝利で終え、理石とハイタッチをしてコートを離れた桃井は、一緒に試合をした三人に質問する。ビーチバレーを終えた後の体は砂まみれで、これから落としに行くのだ。

 質問された三人はサングラスを外して「しんどい!!」と口を揃えた。

 

「ちゃんと次を考えんとボールが繋がらん! 相手チームの動きも頭に入れとかんと詰む! 見るのと考えるので両方しんどい!!」

「俺トス苦手やねん……桃井はそれわかってて、俺にトスさせようと相方の方にボール返したやろ……」

「すぐには攻撃態勢を整えれんし、あっこに届くってわかってても体が追いつかへん。二人しかいないって想像より大変やなぁ」

「なるほどなるほど、しんどいんだね……」

 

 桃井も自分の体に鞭を打ってやったので、しんどいと嘆く三人の気持ちはよくわかった。

 そう、2対2は本当に素晴らしかった。自分の苦手をカバーしてくれる相手がいないから、全部自分でどうにかしなければならない。つまり対応力が磨かれる。

 先を考えなければ詰むので、同時に思考力を鍛えるのにも適している。

 かなりキツいけど、その分効果が見込めそうだ。

 

「じゃあ普段の練習にも取り入れよう! 貴重な意見をありがとう!」

「えっ」

「ガチ?」

「激アツやん」

 

 これでもう一段上の地獄が生まれるというわけだ。彼らは笑顔の桃井に悲観的なことは何も言えなくなってしまう。とりあえず適当に相槌は打ったけど、と三人は顔を見合わせる。

 

「桃井、まぁたバレーのこと考えとる」

 

 まさか遊びで誘ったビーチバレーからトレーニングの着想を得るなんて思わなかった。

 夏合宿中、桃井はとても働いていたから最終日のご褒美くらい自由に遊んだらと思っていたのに。四六時中バレーのことしか考えてなくて、結局遊びもバレーに繋げてしまった。

 桃井は一体どんな脳みそをしているんだろうか。三人は生真面目にそんなことを考える。

 

「じゃあ、シャワー浴びた後にまた集合だね。日焼け止めも塗り直さないと」

「あ! あー……」

「? なに?」

 

 突然理石が大声を出して言い淀むので、桃井は首を傾げて言葉を待つ。

 日焼けしてヒリヒリ赤くなった皮膚が、それ以外の理由でキュウウと赤く染まる。

 

「その、そ、み、水着、カワイイわ。ホンマに……」

「! あ、ありがとう」

 

 そう言われて、桃井が恥ずかしそうに身を捩った。

 水着に着替えて到着したばかりの時とは、今の格好は明らかに違う。ビーチバレーでたくさん動いたから、綺麗にアレンジした髪も崩れているし、全身砂まみれだ。今の自分はボロボロなんだと気づいて、見られることに羞恥心を抱く。

 水着を褒めるだなんて、ビーチに到着した時なら素直に受け取れるのに。

 髪ボサボサで砂で汚れた今の姿をかわいいと言われるのは、なんだかとても恥ずかしい。

 しかし。

 

「ビーチバレー、同じチームですごい楽しかったし。桃井が全力でやっとる姿が、キラキラしとった、から……」

「……、」

 

 理石が続けてそんなことを言うので、驚いて言葉に詰まってしまう。

 人が一生懸命な姿は輝いて見える。その気持ちは桃井にもわかる。

 バレーに打ち込む彼らの横顔が、汗まみれで息苦しさに顔を歪める泥臭い姿勢が、どこまでも煌めいて眩しいからだ。

 それを自分に当てはめられるなんて、そんなの……。

 

「理石くん。メンタルトレーニングの成果出てるね」

「え? あっ、そ、そうか? 本貸してもろたし、成長しとるんやったら嬉しいわ」

「うん。…………キラキラとか、よくそんな恥ずかしいこと、みんなの前で言えるね!!」

「はっ!? あっ、ちょっと!?」

「あーあ、逃げてしもた」

「桃井それ自分にブーメランやぞー」

 

 恥ずかしさに耐えられなくなった桃井がダッシュで女子更衣室に駆け込んでいく。

 その様子を三人はぽつんと立ち尽くして見ていたが。

 

「いやお前桃井のこと狙っとるんか!? 俺ら仲間やろ!! 抜け駆けする気か!?」

「アホなこと言うなや! か、かっ、かわいいと思ったから伝えたかっただけやし! 同じクラスの友達やから! そんなんやないわ!!」

「あーー良かった! ホンマ良かった!! 言っとくけど桃井のあの反応は脈なしやからな! アイツの彼氏、バレーやから!!」

 

 理石の両肩を二人が掴んでガタガタ揺らし、騒ぎ立てるのだった。

 この後、砂を落とし終わった彼らは合流して、そのまま浜辺で水をかけ合ったり、浮き輪でプカプカ浮いたりして夏の海を満喫していく。

 桃井と同じグループを形成した一年生たちは、その座を上級生に譲らず。そして桃井も友達と海で遊ぶのが本当に楽しくて、BBQまでの自由時間は、彼らの忘れられない青春の1ページとなるのだった。









アンケートへのご協力、ありがとうございました。参考にさせていただきます。
今のところ梟谷とも鴎台とも試合をする確率が高いですが、どうなるかわかりません。先の展開がどうなるか楽しみにしていてください。
いよいよIH編が近づいているので、原作をめちゃくちゃ読み返してます。
本当に面白い漫画ですね……読む度にしみじみ思います。
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