いつかin青葉城西も書きたい(ボソッ)
むしろ宮城県エリアに限定しなくてもいい(大声)
時期は中総体終わった中三の夏です。
夏が終わった。諸々の大会が終わり引退式も済んで一区切りがついてからも、飛雄ちゃんのバレー人生が終わるわけではない。夏休みも残り少ない中、彼は宿題そっちのけでバレー三昧である。ちなみに彼を支えると決めた私もだ。
学業に不安しかない飛雄ちゃんだが白鳥沢からの推薦を幸いもらえそうだ。私は学力を落とさないように勉学に力を入れ、課題はとっくに終了し参考書を解いている。まあ推薦もらえそうだし、ひとまず志望校は白鳥沢で確定だろう。県内のどこを探してもあれほど指導者や設備が整った高校はないからね。一年の頃はあんなに噛み付いてしまったけれども切らないでくれた鷲匠監督の寛大なお心に感謝したい。手のひらクルックルで笑ってしまうな。
そんなわけでバレーをしようにも学校の体育館は使えなくて、じゃあどうする? となってしまい、やって来たのは小学生の頃に使用していた公園の小さなコート。懐かしむように目尻を和らげた飛雄ちゃんが近づくとゆうに頭一つ分以上ネットを超えていて、成長したなあとしみじみ思う。高さを調整しようとする彼を手伝うべく日陰から足を踏み出した時だった。
キキィ───ッと自転車のブレーキが勢いよくかかる音がして振り向くと、初めて見る顔に目をまばたかせる。
容赦なく降り注ぐ陽光の下で鮮やかなオレンジ色の髪が揺れ、当人の荒い呼吸に合わせて忙しなく動く。ありえない、と驚愕に見開かれた瞳は彼の心情を表していた。汗を垂らしているのは暑さのせいだけではあるまい。それを証明するかのように震える指が飛雄ちゃんに向けられ、叫んだ声は一瞬裏返った。
「なんでいる!!?」
「あ? ……お前は、たしか」
そこで言葉を切る飛雄ちゃんは難しい顔をして押し黙った。その一方で私は誰だろうかと首を傾げる。
飛雄ちゃんが少なからず反応するということはバレー関係者なのだろうが、困ったことに全く見覚えがない。脳内データベースにも引っかからないということは名のある強豪校の選手じゃないし、かといってエナメルバッグから覗く黄と青の球体は紛れもないバレーボールだ。
うーん。どこかで会ったことあるような。見覚えのあるオレンジの頭を凝視し彼の顔をじっと観察すると、その視線に気づいてこちらを見てボッと顔を赤くする。うん、彼とは間違いなく初対面だ。あちらも私を知らないみたい。
だってバレー選手で私を見た人はだいたいまず顔を青くするからね。どいつもこいつも失礼すぎる。
「クソ下手くそなやつ!!」
「なっなんだと!?」
唐突にカッと叫んだ飛雄ちゃん。失礼すぎるな。険悪モードに突入する二人の間に割り込んで微笑みを浮かべた。
「まあまあ落ち着いて。えーと、あなたは誰? 飛雄ちゃんの知り合い?」
「知り合いなんかじゃねえ! ……です」
「多分同い年だから敬語外そ? 私もそうしていいかな」
許可が取れたので改めて話を聞く。
自己紹介をすると彼は日向翔陽と名乗った。
「雪ヶ丘中? 今年バレー部ができたばかりのところだよね。控えの選手すらいない……」
「そう! おれはそこのキャプテンだった! 念願叶ってようやく試合ができたけど、その試合で俺は負けた……」
バチバチ火花が散る飛雄ちゃんと日向くん。どうやら中総体の試合で一悶着あったらしい。
あー、そりゃ知らないわけだ。軽く調べて警戒すべき選手はいないと判断して切り捨てたもの。試合は後輩のマネージャーちゃんに任せていて、私は自由に移動して他校の分析をリアルタイムでしてたから北一の初戦はビデオでも確認していない。パンフレットで一瞥して日向くんに見覚えは一応あったがそれも忘れていた。
「コート上の王様を倒すって決めて、イズミンからネットがある公園があるらしいって聞いて来たのに。まさかお前がいるとはな……!」
コート上の王様。その言葉に眼光を鋭くした飛雄ちゃんにそっと視線を滑らせる。重苦しい吐息と浅く噛んだ唇、わずかに俯いた彼の横顔に陰が落ちる様を見ていると、過去になったはずの疼痛が蘇ってくるようで息を詰めた。
だがすぐに上げられた顔には一切の痛みも苦しみも残ってはいない。そのことに、救われるようだった。
「ああ? 下手くそなやつが何言ってんだ。俺が先に来たから使うのは俺だ。お前はどっか行ってろ。ボールの扱いド素人がよ」
「はぁああああ!? そ、れはそうだけど! これからどんどん上手くなんだよ!! あとお前に言われて帰るのシャクだから帰らない!!」
飛雄ちゃん、言い過ぎ。なんて窘めようとしたけど日向くんも大概だ。何この二人。勝手にヒートアップしていくし暑いんだけど。もう日陰行ってもいい? バレーしないなら帰っていい?
「じゃあわかった! 俺と勝負しろ。ギャフンと言わせてやる」
どうやらレシーブ勝負で決着をつけることにしたようだ。勝ったほうがこのコートを使える、なんて条件までつけて。飛雄ちゃんのただでさえ凶悪な目にギラリと光るものを見つけて嘆息する。あーあ、なんでこんなことに。男の子ってホント単純なんだから。
「桃井さんはジャッジお願いしていい?」
「うん、いいよ」
まあ審判する必要もないとは思うが見ておくとしよう。もしかしたら日向くんは上手いのかもしれない。そんなことを考え始めたら可能性に思考は傾き出した。
そもそも何か引っかかりがなければ飛雄ちゃんは記憶しない。とことんバレーに厳しい彼の関心を引くモノを日向くんは持っているはず。
となればなんだろう。技術……はないな、構えヘッタクソだし。体格は言わずもがな、私と身長はそう変わらないし小柄だ。じゃあ身体能力? なんかすばしっこそうだし。
何かしらと見守る視界で飛雄ちゃんは完璧なサーブを放つ。大会でもトップクラスの威力を誇るボールを日向くんは取れずに尻餅をついてしまう。
「あちゃー、大丈夫?」
心配して駆け寄るも、日向くんは悔しげに歯噛みして大丈夫!! とやけっぱちに叫んだ。女子に情けないところ見られた、って感じかな。
その後も何度もサーブレシーブできなくて正直見るに堪えなかった。でも日向くんは諦めない。不屈の精神は燃え盛るばかりで思わず目を細めた。飛雄ちゃんが目をつけたのはここかも知れない。
北一と雪ヶ丘の試合は結果だけ確認していた。試合時間はわずか三十分。点差はすごかった、くらいだけど。
チャラチャラした後輩くんが「弱かったっすわー」なんてほざくから叱ったなあ。練習は手を抜くのに相手を罵る元気はあるんだ? って。うーん、つい本音が出ちゃうのよね。あの子涙目になってた。反省反省。
しかしまあ、これ以上発展しようのない勝負をしたって時間の無駄である。
「もう勝負はいいんじゃない? 飛雄ちゃん、セッターの腕磨きたいでしょ、日向くんにボール上げてやったら」
「は? なんで俺が」
「え、マジで?」
案の定眉根を寄せる飛雄ちゃん。対してソワッと反応する日向くん。両極端な表情を交互に見て言う。
「日向くんはきっと練習する相手も環境もなかったんだよ、だから上手になれなかった。飛雄ちゃんはトスの技術を高めたいけれど、スパイカーがいないんじゃいずれ躓いちゃう。相互に利益があるのなら一緒にやったって」
「ぜってー嫌だ」
言い終わらないうちに断言されてしまう。だよねー、そう来ると思った。
「勝負は俺の勝ちだ。お前は帰れ」
「もー、そんな頑なにならなくても……」
実力はあっても精神は不甲斐ない男なんてたくさんいた。日向くんは実力に乏しいけれど屈強な精神を持つ見込みのある子である。私が応援したくなるのは後者で、ついつい口を挟んでしまう。
でもさすがは男の子というか。日向くんは拳を握ったあとに、絞り出すようにして告げるのだ。
「……わかった。明日はおれが使うからな!」
「ああ!? 早い者勝ちに決まってんだろーが!」
「じゃあおれが先にここに来てやる!」
キーコーキーコー自転車を軋ませて帰っていく日向くんに手を振り、不機嫌そうにサーブを打つ飛雄ちゃんをしらーっとした目で見て。
「……なんだよ」
「別に何も」
男の子ってバカだなあって思っただけだ。
バカだなあっては思ったけど、まさかここまでバカだとは思わなかった。男子の皆さん、一括りにしてごめんなさい。コイツらが例外です。
「………ぉ、おれ、の、ヒュー、がぢ、だ……」
「ゲホ、ゲホッ、ぼげが……、はぁーっ」
問題です、今何時でしょうか? なんと朝の5時でーす。ラジオ体操もやってないよ。なんなのバカなの、そこそこ近隣に住む私たちはともかく日向くんは何時に家を出発しているんだ……。
公園に着くと二人が寝っ転がって死にかけている。準備しておいた飲み物とタオルを与えてふぅと一息つく。
夏休み終了まで残りわずか。しばらく続いた勝負に日向くんは初めて勝った。じゃあ、飛雄ちゃんはどうするのだろう。帰るのかな。今まで日向くんは負けてもコートの外側で一人で壁打ちならぬ幹打ちとかしてたけども。レシーブ練習に付き合ったりもしたので日向くんと打ち解けることができてよかった。
「おっしゃ影山! おれにトス、上げてくれよ!」
眩しい笑顔で頼まれてポカンとする飛雄ちゃん。すぐにハッとなってふざけるなと言い返した。
「なんでテメーなんかのために……!」
「本当なら勝負に負けたお前はコートは使えない。でも諦めたくないだろ? トス上げてくれよ、お前セッターじゃん! なあ!」
上手いなあ、セッターなんでワード入れたら飛雄ちゃんはが断ることはないだろう。日向くんは気づいていないけれど確実にスイッチを入れた。ならば私も。
「日向くんの言う通りだよ。朝っぱらからわざわざここまで来てさ、何もしないで帰るの?」
いい加減飛雄ちゃんのスパイカーの為に上げる実際のトスを見たい。思わぬ加勢にこちらを見る目が鋭くなった。途端勢いをしぼめる日向くんと違って、そんなものは慣れっこである。ニコニコと満面の笑みを浮かべると、深い深いため息ひとつ。
「……お前はまずレシーブを人並みにできるようになれ」
「あ、それなら大丈夫」
「桃井さんに手伝ってもらって、上達した!」
「ねー」
日向くんと顔を見合わせ笑顔を交わす。本当か? 真偽を見定めようとする黒瞳をしっかり見つめ、ゆるりと唇に弧を描く。
「試してみる?」
「全然ダメじゃねえか」
「でも人並み以上にはなったでしょ?」
飛雄ちゃんからのボールを散々レシーブして屍と成り果てた彼を拝み、しょうがないじゃないと微苦笑する。
「私は男の子みたいな速さもパワーもない。せいぜい取りにくいところを徹底的に狙うくらいしかできなかったの」
中学に上がる前までは飛雄ちゃんと並ぶくらいはできていたのだが、分析を主としてからはめっきり運動する機会が減り体力も随分と衰えてしまった。
だから比較的感覚を取り戻しやすいコントロールを重視して嫌なところばっかり打ったり投げたりしたら、日向くんには「やりづらい! 返しにくい! 難しい!」と散々言われた。全然、全く、これっぽっちも気にしていないけれど、練った戦略と同じことを言われてショックだったりする。
おかげでストレス耐久度上がったでしょ。力がなくたって戦える手段はあると示したかったの。日向くんが気づいているかは別だが……あの様子だと理解していないなあ、悲しい。
「なんだか飛雄ちゃんが一回しか戦わなかったのに、よく覚えてた理由がわかった気がする」
日向くんが地面に伏した途端コート外に出る律儀さを微笑ましく思いつつ見やれば、飛雄ちゃんは一人で練習を始めていた。さて、私は勝敗に関係なくコート内外を移動できるので日向くんの様子を見よう。
彼と向き合えばそれだけ新しい発見がいくつもあった。
自分で言うのはあれだけど、いやらしいボールにも食らいつくのは当然で、こっちがヘロヘロになっても「ボール落ちてない!」と練習続行を所望する。ごめんね日向くん、私の体力は有限なんだ。君たちと比べないで欲しい。毎日一山越えてこの公園までやってきて、一日中動きまくって、笑顔で自転車で一山越えて帰っていく姿は正直ゾッとする。体力底無しかな……。加えてバネと瞬発力、反射神経は申し分ない。野生の塊というかなんというか、ここまで俊敏な選手はそういないだろう。拙い技術を補うは圧倒的運動センス。惜しむらくは体格だ。身長が欲しい。それさえあればスターになっていた。
とはいえないものねだりしたってしょうがない。今やれることを磨くのみだ。
「日向くーん、起きてる?」
「……はっ! レシーブ練!!」
「さっきあれほど飛雄ちゃんにしごかれてまだやるの?」
「うん。一回だけトス上げてくれたし、もっと頑張ればもっとトスが上がるだろ!」
やる気に燃える日向くんの口元はどこか緩んでいて顔にも喜色が滲み出ているようだ。そのことを指摘すると、悔しさと恥ずかしさを混在させた表情ではにかむ。
「三年になるまで他のバレー部員いなくてさ。こうして一日中バレーを誰かとすんの、初めてなんだ! それが嬉しくて。……その相手が王様なのはイヤだけど」
「君たち仲良くなる気ないわけ?」
「ない! アイツはライバルで敵だから!!」
輝かしい笑みと溌剌とした語気で元気よく言い切られつい笑顔がこぼれた。
「桃井さんもありがとう。ずっと練習付き合ってくれて」
「こちらこそ。日向くんが成長する過程を見れるの、すごく楽しいよ」
幼少期を思い出すようで自然と優しい声色になる。バレーを好きになってから七年が経つ。背丈が伸びて映る世界も大きく変化した。見上げるほど高くあったネットは正面にあり、コロコロ転がすボールの大きさも徐々に大きくなっていく。男子に負けず劣らず動き回っていた体は運動をやめてから能力を落としていった。
失ったものの代わりに得たものは、私を構築する全てとなって今に至る。
穏やかな心地でいると、日向くんは淡々とした口調で口を開いた。
「なんでそこまでやってくれるの?」
どこまでも純真無垢な瞳に射抜かれて背筋が粟立つ。少し首を傾げて疑問を抱く顔には気迫すら感じられた。口角は上がっているけれど目は笑っていない。かといって怒っているわけでもなく、ただ不思議でたまらないから答えを探している。それだけのようだった。
似ている、と直感的に思う。私の答えは決まっていた。いつぞやと同じく、祈るように、願うように、目を閉じて囁く。
「どこまでいくか、見てみたいから」
この世界に産声を上げたばかりの君は、何を想い成長するのだろう。
『もうそろそろ限界だろ! 終わりに───』
『まだっ、ボール、落としてないッ!! 手加減すんな!!』
十五分以上ひたすらレシーブの練習をして苦しそうにもがく日向くんは言葉を遮って叫んだ。カチンときた飛雄ちゃんがボールを遠くに飛ばしても、諦めなかった。
独りだけ本気の彼に対抗しようと、アイツが諦めたボールを諦めなかった。
体力を限界まで振り絞り、アイツが諦めた一歩を諦めなかった。
恵まれた体格や優れた身体能力。そういうのとは別の武器。
「苦しい。もう止まってしまいたい」
そう思った瞬間からの、一歩。
私が、飛雄ちゃんが、求めていたのは彼だった。
本気に本気をぶつけてくれる相手が欲しかった。
同じ熱量を持つ誰かに焦がれて仕方なかった。
もし私が男の子で飛雄ちゃんと並ぶ選手だったらどれほどよかっただろう。きっとコート内で喜びを分かち合えた。もっと強くしてあげられた。
その『もしも』を体現した希望が目の前に形を成して存在している。これほど嬉しいことはない。
たった一度だけ上げられたトスはフワッと天空に舞い上がり、そして、地に堕ちる。ボールの芯を捉えた感覚に大喜びの日向くんに、ジッと自分の手を見つめて考え込む飛雄ちゃん。
二人は出会って変わり始めた。でも、飛雄ちゃんはあのことを心の奥で引きずったままだ。
答えのない問いの答えを探している。
「……日向くん。もっと強くなりたいよね」
「ああ! モチロンだ!」
「じゃあ、強い人たちと戦いたいよね」
「ああ! ……仲間いないけど」
そういいながらもチラッと飛雄ちゃんのほうを見たのを私は見逃さなかった。ニヤリと悪い笑顔でスマホを取り出しスケジュールを確認。実現できるかわからないけれど、やってみる価値はある。
「桃井さん? なんかコワイ笑顔なんだけど、どうしたの?」
恐る恐る聞いてくる日向くんに、極上の微笑みをたたえた。茶目っ気たっぷりにウインクする。
「私に任せて」
39巻読みました。星海の過去にそっか〜〜となりましたが修正する気力がないので放置します。元気な時にもしかしたら直すかもしれません。
原作開始期よりも過去から始まるの大好きなので(というか高校時代から書こうとしても原作のイメージが強すぎて書けないです)、中三から日向魔改造が始まります。その分原作よりもある程度強くなり、原作とは違った道を歩むことになるでしょう。
IF桃井さつきin烏野高校・真の今後の展開
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①北一メンバーとバレー
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②(リクエスト展開なし)
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②(リクエスト展開あり)