お待たせしました。主人公がもし青峰にinしたら。書いてみました。中の人がほぼ別人です。
こんがり焼けた小麦色の肌に青みがかった短髪。ぱっちり開いた活発そうな瞳も青色で、まさに健康優良児といった風貌。だが頭の中はてんで乏しく、鏡に映った顔をぽかんと口を開けて眺めることしかできていない。間抜けな顔をした少年……私が、そこにいた。
「はああああああああ!!?」
ちょっと待て! これ青峰大輝だよね!? アニメで見たような黒さはしてないけど、凶悪な人相はしてなくて元気いっぱいって感じの少年だけど、間違いなく、こいつは青峰大輝だろう。
「嘘だろ……」
幼い少年の声は私の思ったことを翻訳して音になる。あら、勝手に男性口調になっちゃうわコレ。じゃあ心の中じゃ女性でいよう。いつまでも乙女心を忘れちゃいけないわ。
ん? 男……?
はっとなって目線を鏡から外し、自分の体を見下ろす。半袖Tシャツに半ズボン。昨日転んだから膝小僧に絆創膏が貼ってある。うん、記憶は正常だ。コレ正常って言えるの? まあそんなことは置いといて。
胸元をペタペタ触り、そりゃ小学生だもの無いに決まってるよね、と自分に言い聞かせ。それでも拭いきれない新感覚にどこかで悟っていた。
……そっと、股ぐらに手を伸ばす。
───幼くも男の象徴がそこにはあった。
「ァァァァアアアアア!!!」
断末魔の叫びを喉から絞り出し、私は……いや、俺は、青峰大輝に憑依した事実を受け入れるしかなかった。
ピンポーンとインターホンが鳴り、反射的に玄関の扉を開ける。
「大輝! バレーする──」
「飛雄おおおおぉぉ!! 俺っ、俺が俺になってるぅううう!! なんか変なのついてるぅぅううう!!」
「……なに言ってんだオマエ」
影山飛雄───俺の今世での幼馴染は、バレーボールを両手に抱えたまま汚物を見るような顔で縋りつく俺を見下ろした。
公園に連れられる間に冷静になった。
そうだ。俺の名前は青峰大輝。小学二年生。バスケットにハマって幼馴染の飛雄を誘って楽しんでいたら、今度は飛雄がバレーにハマり、最近は公園のコートに通っている。
幼馴染、ねえ……と俺をほっといてバレーをし始めた飛雄を見た。やり始めたばっかでヘタクソだ。あんまり当たんないし当たったとしても変なところにナヨッと落ちる。
「ぐ……もう一回だ……」
アイツが幼馴染ということは、可愛くてボンキュッボンで俺のことをずっと心配してくれる相棒にゾッコンの桃井さつきは何処へ?? 俺ヤだよ野郎が幼馴染なの。どうせなら美少女だろうが! 美少年は求めてないんだよ! 飛雄と並ぶと俺の肌の黒さが目立つんだよ! 背は俺の方が高いがな!!
「ふんぬっ」
青峰大輝は黒子のバスケという漫画のキャラクターだ。でも幼馴染は違うやつだし、俺の出身地は宮城だ。この世界は何なのだろう。黒子のバスケではないことは確定だしな。あー……なんか考えるのダリィな、やめよ。飛雄を見てたら体がウズウズしてくる。
「おい、飛雄。俺もやりてー」
「ちょっと、待て! あと少しで打てそうなんだよ」
「へーい」
待て。今、考えるのを放棄した? この俺が?? まさかコレ……青峰大輝の学習能力の限界なのか!?
愕然とする。俺はバカでいるのはごめんだぞ。考えて考えて頭良くなってやるんだ。青峰大輝という器に引っ張られるなよ、俺。もう既に馴染み始めているけどな!!
固く心に誓っていると、飛雄がこっちに歩いてくる。
「なんだ、もういいのかよ。んじゃ明日はバスケな」
「ちょっとだけ休むだけだ! スパイク打つのムズカシーんだ!」
「へー、どうだかな。お前がヘタクソなんじゃねーの?」
「ちがう。そんなに言うならやってみろよ!」
ズイ、と飛雄がバレーボールを差し出してくる。その顔は『どうせ無理だろうけどな』と雄弁に語っていて、普段尖っている口元が笑っていた。
おう。喧嘩売ってんのか? 買ってやるぞ??
「上等だ。一発でやってやる」
なんてったってこの体は青峰大輝だ。キセキの世代とまで呼ばれたスーパープレイヤー。とんでもない才能の塊である。野性とかゾーンとか何かそういうの能力あったよな? じゃあできるっしょ。俺は青峰大輝だし。
そう思っていた時期が俺にもありました。
「ぅおおっりゃあああ!!」
スカッ!! いっそ気持ちがいいくらいのフルスイング。ボールの感触は一切なく、虚しく俺の腕は空を切る。
「ハハハ! 大輝てめっ、あんなこと言ったくせに全然できねーじゃねーか!」
「うるせえな! あとちょっとで感覚掴めそうなんだよ、黙ってろ!」
腹抱えて笑う飛雄に吠えて、もう一度だ! とボールを構える。
くそ、飛雄は一応当たりはするのに、俺が当たらないなんてことがあっていいものか。いや、よくない。
あっれおかしーな?? スパイク打つなんて朝飯前だと思ってたわ。朝飯たらふく食ったからかな。そりゃ無理だわ。うん、素直に頷いちゃう青峰の頭はヤバイ。
なんでできねーのかな。ちょっと考えてみる。
空振るってことは打つタイミングが間違っているわけで。タイミングを間違うってことは、ボールが落ちてくる位置に腕を振れてないとか、そのジャストにぶち当たってないわけで。あとボールを上げるのヘタクソだわ俺。バスケのシュートなら結構上手いし飛雄よりできるのにな。
よくわかんねーけど、まずはこの腕に当たるまでボールを待つことを始めてみよう。
「見てろよ、次は成功させてやる」
「おう、楽しみにしてるぜ」
あー! また笑いやがった!! いいぜ見てろよ、飛雄よりすげースパイク打ってやるからな。
ふんっと鼻息。よし、やるか。
まっすぐボールを上げて、落ちてくるのを待って、思いっきり、力いっぱい、打つ───!!
「おっ」
「ぁぁあああ!!?」
バチンッ!! いい音と共に、ボールの芯を捉えた感触が掌に広がる。おおおおお! できたぞ!! 飛雄みてーにヒョロヒョロした感じじゃなく、しっかりした勢いを持って飛んで行ったボールに俺大喜び。なんだこれ、楽しいな!!
「見たか飛雄!! ホラ、あれ! ボールびゅーんって飛んだぞ、なあ!」
「………見てない」
「嘘つけ! 『ぁぁあああ』つったの聞こえてっから!! お前目ェ思いっきり逸らしてるからな、嘘つくのヘタクソか!」
「う、うるせえボゲッ!! あ〜〜クソッ、先こされたぁああ!!」
ハッハッハ!! 仁王立ちで大笑いすると、さらに悔しそうな顔した飛雄がボールを拾ってスパイクを打ち始める。
「おいおい、そんなムシャクシャしながらやったってできないぜ? 俺が教えてやろうか? ん?」
「だまれ。しんでも言わねー」
「んなこと言ってたら一生できないかもな? 今は俺の言うことに従ってたほうがお利口だろ? な?」
「ぐっ、ううぅぅ………」
マジで嫌そうな飛雄。奴の中で今、プライドと向上心が秤にかかり、ぐらぐら揺れている。ははは、すげぇ優越感。
そうこうしていると死ぬほど小せぇ声が零れ落ちた。
「…………………スパイクおしえろ」
「教えてください」
「は?」
「人に物を頼む時は敬語が基本だろ。言えるよな?」
どこまで許されるのかなと悪戯心が湧いてきて、ニヤリと悪い笑みを浮かべて言ってみる。
飛雄はぐっと拳を握って俯いた。あちゃあ、さすがにダメそうかなーと呑気に考えていると。
「…………ぉ」
「?」
「───おしえてくださいコラァアア!!!」
やけっぱちに叫んだその声があまりに大音量だったからか、すぐそばの木々から烏が二羽羽ばたいていった。
そんな感じでバレー特訓の日々がスタートした。バスケをしたい気持ちもあったけど、バレーも面白れーじゃん! と単純な俺は思い、この日常に特に不満はない。
あと青峰ってバスケの天才だったけどバレーじゃどんなんかなって。スパイクのコツ掴むの早くて、他のプレーできない気しないけどさ。
まあ俺すごいし? 飛雄よりかスパイク打つの上手いし?? バスケだけじゃなくてバレーでも強い的な? 俺やっぱ天才なのでは??
そう思っていた時期が俺にもありました。
「飛雄、打てぇえええ!!」
「打てるかああぁぁ!!」
俺が上げたボールは見当違いな方向にポーンと飛んでいく。わー、すげー飛ぶ。
「ちゃんと俺んトコに向かってトス上げろよこのヘタクソ!!」
「うるせえ! なんかどっか飛んでいくんだよ、セッター難し過ぎんだろ!」
「お前もようやく理解したか。セッターは難しいけど面白くて楽しいポジションなんだよな!」
「おー、そうだなそうだな」
「返事テキトーだろ」
「うん」
ある日、飛雄がセッターに挑戦してみたいと言ってきた。よく知らんけどいいんじゃね? とやらせてみた。奴は破茶滅茶うまかった。
なんつーか、ボールがしっくりくるんだよな。ここしかないってところに絶対トスが上がる。コイツやばい! スゲー! ってなったけど、同時に飛雄にできることなら俺にもできるはずだと思った。
『セッター教えろ!』
『おう、いい…………じゃねえ』
『あ? なんでだよ』
『教えてもらいたい時はケーゴだろ? なあ、大輝』
『………てめぇ』
『言えねーのか?』
『…………。……教えてクダサイ』
なんてやり取りもあり、俺もセッターに挑戦してみたんだけど。
「もういいや、俺スパイク打つからお前セッターな」
「はあ!? まだ練習し始めたばっかだろ!」
「いいって。俺ァ苦手なのより得意なの伸ばしたいんだよ。お前にとっても悪い話じゃねーだろ?」
俺は俺が好きなスパイカーをやって、飛雄は飛雄が好きなセッターをやる。ほら、ぴったりじゃん。レシーブとかサーブとかも練習するけど、やっぱ派手だし気持ちいいしスパイクって最高だわ。
「あとジュニアチーム入ろうぜ! ここの公園、人いねーけどオンボロネットだし。いい加減体育館でやりてー」
「そうだな、俺ももっと上手くなりたい。ジュニアチームか……ウメー奴いんのかな」
「そりゃいるだろ。んでさ、大会出たりしてさ、勝って勝って勝ちまくろーぜ!」
「おう。約束だからな!」
コツン、と拳をぶつける。互いに眩しいくらい笑顔を見せ合って、俺たちは夢を見て、がむしゃらにバレーをした。
あれから、数年。
入ったジュニアチームで『お前らならもっと上と戦える』と言われ、色々紹介してもらった。コーチには一生頭上がんねぇ。ありがとう、おかげで俺も飛雄も物凄い速さで成長していって、たくさんの『できる』を習得していった。
小学生の間に飛雄と色んなとこ回って、中学生、高校生、さらには大人まで、とにかく練習に練習を重ねた。俺たちの熱意に向こうも本気になってくれて、めちゃくちゃ楽しいバレーができた。バレーがもっと大好きになった。
数々の大会で『宮城の天才コンビ』と名を轟かせた俺たちだけど、やっぱり全国大会になると強い奴がいっぱいいるわけで、勝って負けて勝って負けてを繰り返して、俺たちはさらに強くなった。
白鳥沢にスカウトされた。他の中学校も俺たちに声をかけてくれてたけど、飛雄と話し合って白鳥沢に決めた。
県外に出るのと県内に通うのとじゃ教育費全然違うし、既に遠征費とか何やらで家族にはいっぱい迷惑をかけている。家庭を想ってのことだ。
あと、白鳥沢にはスゲー人がいる。どうしてもあの人と同じチームになってみたかった。
「秋山小出身、青峰大輝です! バレーは小二からやってます! よろしくお願いしアッス!!」
「同じく秋山小出身、影山飛雄です! ポジションはセッターです! 小二からバレーやってます、よろしくお願いします!!」
「あっズリィ! 俺もっ、俺は白鳥沢のエースになります!!」
『セッター魂』とプリントされたシャツに違わぬ主張をした飛雄に対抗して叫ぶと、ざわ……ざわ……とコソコソ話をする先輩たち。いくら優秀なスカウト入学者だからって、アイツに勝てるのか? といった感じだ。あと、俺も『エースの心得』Tシャツ着てるからそれもあるかもしれん。
その人は何を考えているのかわからない顔で、じっ、と俺を見ている。
牛島若利。白鳥沢のエースで、俺の倒したい人そのイチ。左利きで、すげぇパワーがあって、高さもあって、何よりエースであることに絶対的自信を持つ、名実共に白鳥沢の大エース。俺エースって何回言ってんだろ、まあいいや。
「俺、アンタ、じゃなくて、牛島サン倒したくてここに来ました」
しばらくして牛島サンに話しかけるチャンスを見つけたので、えいやっと突撃した。周りがえっ!? とびっくり仰天している。そういや新入部員みんなこの人には話しかけづらいって言ってたもんな。俺には関係ねーけど。
「小学生のとき、スゲー奴いるなって思って。生憎試合したことなかったっスけど」
「……青峰大輝。それから影山飛雄。お前たちの噂は聞いている」
「マジっスか!」
どんなどんな!? ワクワクして聞いてみた。
「とにかく速い。そして精密。どんな無茶な位置でも、どんな無茶なトスでも、全てを打ち、全てを点に変える。お前の速さ、影山の正確さ、両者が噛み合った速攻は誰にも止められないと……もっぱらの噂だった」
「噂っつーことは、見たことないですか?」
「ああ」
よっしゃ! ラッキー!
俺はそばを通りかかった飛雄を捕まえて力任せに引っ張る。
「ぐえっ、おい、離せ!!」
「んじゃ、今からミニゲームやりましょうよ! 先輩対俺たち一年生で!!」
思いの外声が響いたみたいで、ざわ……! ざわ……! と大きな騒めきが広がっていく。ほとんどが『何言ってんの??』って呆れてるけど、構いはしない。
「意味がわからない。それをして何の得がある。速攻を披露したいのなら、新入生同士のゲームが予定されているだろう」
「それじゃ意味ないです。アンタたちと戦わないと」
「……お前は何を望む」
お、牛島サンの人間味のあるとこ初めて見た。つっても嫌そうに眉をひそめただけだけど。
「俺たちが勝ったら、次の試合からスタメンにしてください。新入生チーム六人、いやリベロ入れたら七人? とにかく全員」
あ、二つ目みっけ。驚きの顔。
いやだってよ、完全に巻き込む形になるわけだし、そいつらに旨味がないと流石にだめだろ? それでも巻き込まれてくれる優しい人いねーかな。
「はあ? 青峰、何言って……」
「───お前たちが負けたら? そのペナルティはなんだ」
先輩を遮って牛島サンは問う。
いい加減にしやがれボゲ!! と喚く飛雄を解放して、ニッと笑む。
「先輩たちが引退するまで、試合には一切出ません」
「…………なるほど」
ふむ、と顎に手をやって考える仕草をする。すげなく却下されるのを正直覚悟していた俺からすれば、意外だった。牛島サンはそういう『無駄』を嫌うと思っていたから。
「大輝! 何ふざけたこと言ってんだ! 試合に出ないなんて……俺はセッターだぞ!!」
「それは重々承知してるわ。セッターは飛雄以外いないもんな。でもさ、何を戸惑う必要があんだ? 勝てばいい話だろ。即試合に出れんだぞー」
「ああ、そっか」
そっかじゃねえよ。コイツ馬鹿じゃん。この勝負、牛島サンの言う通りまったくもって無意味なんだぞ。
まず俺と飛雄はスカウトされて白鳥沢に入学した。他の学校と差を広げる為か破格の好待遇でだ。この時点で白鳥沢の即戦力扱いなのはわかる。次の公式戦までには必ずユニフォームが与えられていたことだろう。
俺はそれをドブに捨てようとしている、ように周りには見えるだろう。敷いてもらった既定路線を外れてわざわざ険しい道を往くのだから。
うん、改めて、俺アホじゃん。だってチームとして仕上がってる先輩たちが普通に強いに決まってるし。俺もここに来てビビッた。気迫が全然違うもん。牛島サンは別格に違う。もはや異次元。
でもさ、その先輩たちに俺たちの速攻が通用するのか、試したくてワクワクする。
どれだけ他人に愚かだと謗られようがどうだっていい。俺は俺がやりたいバレーを、大好きなバレーを、死ぬほど楽しみてーだけだ。
目の前には怪童、ウシワカ。
そして全国屈指の強さを誇るチーム。
我慢なんてできるわけなかった。
「いいだろう。青峰大輝。影山飛雄。お前たちの挑戦、受けて立つ」
そして、夏。
白鳥沢学園中等部は全国大会の覇者となる。
アンストッパブルな青峰は影山の求める速さや高さに余裕で対応できますし、なんなら「もっと速くトス上げられねーのかよ! おっせぇ!!」とか言って超速攻が完成します。やがて「王様」と「暴君」なんて呼び名がつくことでしょう。まさに相棒ですね。
予想以上に滾ったので余裕があるとき続編書きたいです。