桃井さつきinハイキュー!!   作:睡眠人間

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今回の話で100話目に到達しました。すごいことです。おめでたいので作者が書いてて楽しい話を書きました。

桃井についてマウント合戦する男たちの話です。
特別回なので何でもあり。
桃井と影山が幼馴染であることは本編では限られた人しか知りませんが、今回の話でだけみんな知ってます。そんな感じで色んな話が皆に知れ渡っています。フワッと読んでください。

場所については、原作の最終回の見開きをイメージしてください。まんまその通りです。知らない人は調べてくださいね。

この話は後に番外編の章に移動させます。





100話記念特別編

 あ、コレって明晰夢ってやつなのかな、と桃井は思った。

 稲荷崎高校男子バレーボール部マネージャーとして、粉骨砕身で努力してきた疲れが出てきたのかも……と思う。稲荷崎高校はつい最近、IH予選を勝利で終え、IHに向けて新たに特訓を重ねている。

 桃井も例外ではなく、かなり忙しくしていた。家に帰り用事を済ませると、気絶するように眠る日々だった。

 

 そして現在、目の前に広がるのは、人、人、人。大きな体育館に、ギュウギュウに人が詰め込まれている。

 彼らは皆、高校男子バレーボール部の選手やマネージャー、監督らだった。桃井の知らないチームの選手もチラホラいて、ソワソワドキドキする気持ちが抑えられない。

 そして目を引くのは、体育館のステージにくくりつけられた横断幕。

 烏野の"飛べ"、稲荷崎の"思い出なんかいらん"をはじめとして、各校の横断幕が体育館のステージを一周するように、ぐるりと囲んでいるのだ。

 こんな場所は知らない。これだけの人数を集める理由にも主催者にも心当たりはない。

 初めて見る光景に、桃井は「これは夢かな」と思った。ほっぺたをつねろうかと手を動かした時、

 

「?」

 

 桃井が立ち尽くす体育館の出入り口の扉越しに、誰かの声が聞こえた。

 

「大規模合同合宿も本日最終日!! もり上がって参りましょう!!」

 

 鴎台高校三年・リベロ・上林鯨一郎が張り切って扉を開けた。

 そこから真っ先に入場してくるのは、烏野の副キャプテン・菅原。他にも変人コンビが互いを押し合いながらコートに向かい、澤村と黒尾がまたもや互いを腕で牽制し合いながら歩いていく。

 

「祭りじゃ祭りじゃあーっっ!!!」

 

 菅原が飛び跳ねる勢いでコートへ進んでいった。

 な、何だこの空間は……と桃井は動揺しながら、「夢なら何でもありなんだな」と思う。

 この話は夢の中なので、何でもありなのである。ご承知おきください。

 

 

 

 

 

 

「え? え? え?」

「は? は? は?」

 

 侑と及川がものすごい顔で睨み合った。イケメンと自他共に認める顔立ちを、地上波に映して大丈夫かな? と心配されるレベルにまで変形させて、威嚇している。

 あ……ついにこの二人が出会ってしまったか、と角名はスマホを構える。いつ出会うんだろう、いつ目を合わせるんだろうとワクワクして、しれっと侑のストーカーをしていてよかった。

 この二人は、絶対にお互いを意識していたはずなのに、今出会うその瞬間まで、まるでお互いをいないものとして振る舞っていた。

 そして人垣がサッと割れて互いの顔が見えたその瞬間、同時に接近し、メンチ切ったのである。

 

「顔ヤバ、インスタに載せたい」

 

 動画を撮りながら角名は笑う。

 この二人、見るからにどうしようもなく相性が悪い。

 

「あ、宮治……クン? だっけ?笑 なんかおんなじ顔したもう一人とかぶって全然名前出てこなくてゴメンネ笑」

「いやいや笑 治やなくて侑ですわ笑 中学ん時に全国大会で試合したと思うんですけど、やっぱ年離れてると記憶の老化も早いんスかね笑」

「一個しか違わないじゃん笑 あー侑クンね、間違って覚えちゃってたみたい。試合に勝ったからかな? もういいやと思って名前忘れちゃってた笑」

「試合は負けたかもしんないスけど、セッターとしては負けてないかなって思います笑 てか及川サン、高校に入ってから全然名前聞かなくなったっスね。長期休養とかしてました?笑笑」

 

 語尾に(笑)を満遍なくつけて、及川と侑が煽り合う。ついさっきまで侑と幽体離脱ごっこをしていた治は「……? 知らない人です。同じ顔しただけの赤の他人です」と他人を貫こうとして、白布に背中を叩かれた。白布のツボに入って、面白かったのだ。

 ニコニコニコニコ互いの神経を逆撫でしながら、侑はそういえばこの人に言いたいことがあった、と思い出して、目を弓形に細める。

 

「そうや、及川サンに会ったら一言お礼を言おうと思ってたんです」

「へぇ。君って人に感謝を伝えることができるんだ。特技なの?笑」

「いえいえ。及川サンには大恩があるんですわ。……桃井を稲荷崎に連れてきてくれて、おおきに笑」

「!!!!」

 

 侑が嫌みたらしく言って、及川は雷に打たれたようなリアクションをした。

 及川が桃井の才能を発掘したおかげで、彼女はアナリストとしての道を開き、巡り巡って稲荷崎への進学を決めてくれたのだ。

 だからいつかお礼を……盛大に煽ってやろうと決めていたので、侑は忘れずに成し遂げた。

 これは及川に大ダメージである。しかし、そのくらいで凹むほど及川の精神は柔くない。故に、フッと真面目な顔に戻った。

 

「あー、まあね? 俺と先に出会わなければ、そもそも桃ちゃんは稲荷崎なんかに行ってないけどね??」

「!!!!」

「俺が桃ちゃんを分析のスペシャリストとして見出したから、君たちは彼女と出会えたんだよ? 全部俺のおかげだよ? そりゃ感謝して然るべきだよね?」

「ん……? そ、そうやけど……」

「じゃあ態度が変じゃない? ありがとうございますって言う時、頭ひとつ下げないの? 特技なんだよね?」

「と、特技やないわ……」

 

 しかし真面目に及川にそう言われると、なんかそうだな……という気持ちにさせられる。黒尾ほどではないが、及川もなかなかに口が回る詐欺師じみた性質があった。整った顔面パワーと自信に満ちた言い回しがそうさせる。

 なので侑も及川に押され、"あの人に騙されて気付いたら借金1000万"……ではなく、気づけば頭を下げていた。

 遠くから様子を見ていた銀島が「すげぇ!」と叫ぶ。侑は人に謝るのが下手くそなのに、見事な90°のお辞儀をさせられていた。

 

「ちょ、そこの君。撮って。スマホならガラケーと違って高画質でしょ」

「えっ? あ、ハイ、撮ってます」

「よし。後で画像ちょうだいね。……イェーイ! 侑クン、及川さんに頭が上がらないの図!」

 

 侑に頭を下げさせた及川が満面ピースをする。その様子を角名は命じられるまま撮った。

 彼は北川第一時代の桃井の先輩。しかも直接的に彼女を指導し、桃井の分析の基礎を共に作り出した男である。

 及川のセッターとしての力量は、桃井の分析と非常に相性がいい。その手腕は他のスパイカー陣同様、桃井の才能を完璧に扱ってみせる。それは侑にすらできない真似だった。

 この男、強い。侑はギリと歯噛みをして、言葉のナイフを振り上げた。

 

「いやでも及川サン、桃井にフラれたやん」

「ぐはッッ」

「今はすっかり普通の先輩後輩やん。何ならそっちの男前の先輩との方が桃井は親しいやろ」

「がはッッ」

 

 痛恨の一撃である。及川は胸を押さえて悶え苦しんだ。

 その通りである。及川は中学三年の冬に桃井に告白したが、フラれてしまった。それ以来彼女とは若干距離が空いている。

 告白する前までは、部内で最も彼女に信頼されている男だと自負していたけれど、フラれてからはどう見ても他人行儀になった。

 今はすっかり昔の話で、及川と桃井は互いに意識せず会話できるようになったが、まだ岩泉の方が彼女とは親しげなのは否めない。

 

「あ? 俺か?」

 

 他校の後輩と揉めやがって、と岩泉が割り込もうとした。しかし自分に矛先が向いたのを理解して、及川を殴るために握っていた拳をほどく。

 岩泉が低く言った。

 

「お前らは告白する勇気もないだろうが。そんな奴が、勇気出した奴を笑えんのかよ」

「うぐッッ」

 

 侑が身悶えした。

 男たちは皆、あわよくば桃井に彼女になって欲しかった。恋愛的に好きとか好きじゃないとか放っておいても、人として後輩としては大好きだし、こんなにカワイイ子なら彼女にしたいと願うのは、男子高校生として当たり前のことだった。

 しかし告白したところで「部活で忙しいので高校卒業するまで彼氏作りません」とフラれるのが目に見えているので、言わなかった。言わなければ親しい先輩の枠でいられるのだ……。

 その関係性を壊しても次のステップに進もうとした及川の勇気は、誰かに馬鹿にされるものじゃない。

 岩泉の言う通りだ。

 

「及川サン……サっセン」

「謝るならちゃんと謝れよ!!?」

 

 侑に雑に謝られて、及川が憤慨した。

 と、そこへ。

 

「俺は桃井に最も警戒されている」

 

 ぬっと輪に入ってきたのは牛島だった。

 彼らは桃井の話をしている! と会話の切れ端を拾い上げて、桃井に関することならば、と名乗りをあげたのだ。

 周りからすれば、会話の流れをぶった斬る空気の読めない男と見られても、牛島には関係がない。

 及川と岩泉が「ウワッ出た!」という顔をする。

 

「あっち行ってろ、桃井と同じチームになったことねェ奴はこの会話に入れねーんだよ」

 

 岩泉が小学生のようなことを言った。牛島相手となると彼はガキになる。及川が援護射撃を送るように、岩泉の一歩後ろに立って「そうだそうだー! バリア張ってまーす!!」と野次を飛ばす。

 生まれてこの方バリアを張られた経験がない牛島は、ムッとして反論した。

 

「桃井は、いつか絶対に俺と同じチームになると言った。問題はない」

 

 桃井が中学三年生の時、白鳥沢の練習を見学しに来た話を引っ張り出す。

 そう、牛島は桃井と同じチームになったことこそないが、かなり近しい関係にあるのだ。

 桃井が中学に入って初めて分析をした相手は牛島だし。彼女の予測を初めて打ち破ったのは牛島だし。「強烈なスパイクが忘れられない」とまで言われたし。あと「好き」って言われたし。

 侑はそれらの事実に「きょ、強敵……!!」と震えて、しかし強気な笑顔で最初の話を掘り返した。

 いつの間にか、誰が桃井と親しいのかを競う勝負が始まっていた。

 

「てか警戒って何なん、何の話です?」

「最大限に警戒されているということは、それだけ奴は分析のために、俺に時間と集中力を使うということだ」

「!!」

「桃井の有する時間には、計り知れない価値がある。それらが最も俺に使われているということは、俺について考える時間が長いとも言える(お前たちと違って)」

 

 言われてみれば、確かに。GW合宿で白鳥沢と練習試合をすると分かった時、桃井が最も時間を割いて分析していた相手は牛島だった。だから彼についての資料が一番分厚く、頭に入れなければならない情報も多かった。そんな記憶を侑は思い出して、ぐぬぬ……と口をモゴモゴする。

 そして及川と岩泉は、青筋を立てて沈黙した。

 牛島は常にマジだ。本気と書いてマジと呼ぶような男なのだ。悪気があって言っているのではない。それがものすごく腹が立つ。

 ちなみに()の中身を牛島は言っていない。ただ背景に文字を背負っていたのを、青葉城西の二人は勘づいた。

 この男は話が通じない。人としての思いやりが欠如している……。そんな酷いことを考えていると。

 

「何の話すか」

 

 影山の登場である。

 桃井の幼馴染で、生まれた時からそばにいる存在。実家が隣同士で家族ぐるみの付き合いは良好な関係で継続中。

 影山がいるから桃井はバレーボールに夢中になり、影山の才能の果てが見たいから桃井はマネージャーになった。

 そして今、影山の隣に立ちたい、誰にもその場所を譲らない……と桃井は稲荷崎に進学し、全力を出してサポートに徹している。

 影山は桃井の心の中に最初からいる男。何があっても揺らぐことはない、鋼の信頼関係で結ばれた最上の男。

 この男には誰も勝てないし、初めから他の者たちの敗北は決している。

 牛島以上に話が通じない男が出てきて、鳥肌が立った侑と及川が大きく取り乱した。部室にGが出てきた時のような反応速度で悲鳴を上げる。

 

「うわーーーッ、出た出た出た禁止カード!!」

「帰れ帰れ! お前の出る幕はねーよッ」

「影山、下がってろ」

「そういうのは、よくないと思う」

 

 岩泉が厳しい顔で下がるように指示をして、牛島は真面目な顔をして「よくないと思う」と二度繰り返した。

 影山は彼らに追い払われて「??」という顔で立ち去った。名セッター同士で会話していたから交ざりたかったのに……という気持ちだ。彼らが桃井についてマウントの取り合いをしているなんて、影山は知らなかった。

 気づけば、強制的にこの勝負から降りることとなったのだ。

 先輩命令で帰らされ、影山が烏野の輪に戻る。「お! 及川と宮侑が喋ってる! 行ってこいよ、なんかいい話聞けるかもしれないぞ〜」と菅原が背中を押してくれたのに、達成できなくてションボリした。

 

「何ィ!? アイツらに帰れって言われただと!! 許せん、監督に言いつけてやる!」

「スガ、落ち着けー」

 

 張り切って行った影山が悲しそうにしているので、菅原は話を聞いて憤慨し、すぐに澤村に宥められた。

 さて、影山は出禁になった。

 これ以上の強カードは出てこないだろう……と男たちが睨み合っていると、赤いユニフォームの男が近づいてくる。

 愉快犯の黒尾である。

 

「アラアラまあまあ、そんなに桃井ちゃんを取り合いしたいんだ。それなら俺たちだって負けてませんよぉ?」

「クロやめて、本当にやめて」

 

 黒尾は孤爪の首に腕を回していた。強制的に連れてこられて、孤爪は顔を真っ青にさせている、

 

「彼女を音駒に誘って見学まで繋げたのは俺ですしぃ? 桃井は稲荷崎の脳ポジでしょ? 背骨で、脳で、心臓でしょ? コイツは音駒の脳ですよ? 同じ脳同士、通じ合うものがあるんじゃないですかねぇ」

「の、脳??」

 

 どういうこと?? と侑が困惑している。及川や岩泉も同じような反応で、孤爪はカッと羞恥を感じた。

 さっきまで変な人たちが変なことを言い合っていたのに、黒尾のセリフで急に普通の人の立場に戻ったので、"脳"呼ばわりって恥ずかしいことだと痛感させられたのだ。

 孤爪も本来ならそちら側の人間なのに、黒尾に連れられているせいで、おかしい側に立たされた気持ちになった。

 今すぐここから立ち去りたい。

 

「知らない、この人知らない人です。帰ります」

「研磨ァ!?」

 

 よって、孤爪は黒尾を知らない人扱いして人だかりから消えた。牛島側に回ろうとした白布のツボにまたもや入って彼は崩れ落ちたので、川西が「白布さっきからどうした!?」と心配する。

 

「うおーーー!? 俺は? 俺もなんかあるよ! てか何の話ーーッ?」

 

 騒ぎを聞きつけて、何も理解していない木兎がドシドシ話に割り込んできた。赤葦が通訳としてそばに控えている。

 黒尾は赤葦にまず話しかけた。彼には話が通じるからだ。

 

「桃井ちゃんについて、マウント取り合う遊びしてんの」

「彼女が聞いたから嫌がりそうですね、やめてあげたらどうですか」

「面白いからヤダ。てか本人は?」

「あっちの方で、鴎台の白馬選手と角川学園の百沢選手を並べて、山本の妹さんと一緒に騒いでます」

「2mには誰も勝てねーよなぁ」

 

 桃井は「これは夢の中だから何をしても許される……」と思い、初対面の2mの選手を並べて悦に入った。高さは正義、高さは力、高さは誰にも負けない魅力なのだ。

 彼女は影山のことも何もかもを忘れて、目の前の選手に夢中になり、山本の妹である、あかねと手を取り合ってキャイキャイ言った。

 急に他校のマネージャー・選手の妹に呼ばれた2m越えの二人は、「いやあそんな大したことじゃ……」と照れ照れしている。

 

「なるほど。つまり互いに桃井とどんな繋がりがあるかを比べて、誰が一番彼女と親しいかを争っていたんですね」

 

 どうでもいいな……と心底思いながら、赤葦は木兎にわかりやすく説明する。小学生でもわかる説明だったので無事理解し、木兎は勢いよく手を挙げた。

 

「ハイ! ハイハイッ!! 俺、進路指導の先生やった!!」

「あー悪い木兎、嘘はダメなんだ。わかるか?」

「嘘じゃねーしッ! 黒尾バカにして言ってんだろ!」

「へースゴイネ」

「信じてない!!?」

「木兎さんッ」

 

 木兎がショックを受けて倒れそうになるのを咄嗟に支え、赤葦は弁明する。

 

「いえ、今回は本当ですよ。俺もその場にいました」

「どういう場だよ。進路指導って、桃井ちゃんが中3の時だろ? 宮城と東京じゃ会う機会ないじゃん」

「彼女が音駒の見学に来た帰り道に、俺たち偶然会ったんですよ」

「あん時かァ! てかそうだったの!? 教えてよ!」

「えっ? 何それ、俺知らない。桃ちゃんどんだけ知り合い増やしてんの」

「三年前のJOCに桃井って観客として来てたろ? その時、俺も知り合ったわ」

「夜っくんまで!?」

 

 場は混沌を極めていた。些細な繋がりを持つ男たちが続々と名乗り出てきて、大変な騒ぎになり始める。

 

「佐久早はー? 交ざんなくていいの?」

「いい」

「あ、そう」

 

 2階のギャラリー席から騒ぎを見下ろし、古森が従兄弟の名を呼べば、佐久早はすげなく答える。

 その割にはスッゲー見てんな……と古森は思った。指摘したら嫌がってどこかに行ってしまいそうだから言わないけど、めちゃくちゃ人だかりの方見てんな……と。

 参戦したいならすればいいのに。単純にそう思って、古森はぴか! と電球が光った時のように笑った。

 

「まあ俺らIH決勝で試合するしな! その時にたくさん桃井ちゃんと話すだろうしまだ絡みはセーブするよな!」

「? 本編のストーリーそこまで行ってないだろ」

「そうだった!」

「お前ら何の話してんの??」

 

 井闥山の主将、セッターである飯綱がジャージをコロコロしながら振り返った。

 

「侑は何してんねん」

 

 騒ぎを聞きつけて輪の中に侑がいると知った北は、そこへ向かいながらぼんやり思う。

 桃井は俺の実家で風呂入って飯食って腹出して寝てたな、と。

 稲荷崎高校で桃井に最も信頼される男以上の、強い手札を持っているのである。

 とんでもない男だった。

 

「だから、何の話してんですか」

「飛雄ちゃんはマジで家帰れ」

「あの! おれ! おれだって言いたいことあります!」

 

 もう一度影山がチャレンジしたが、及川にもう一度追い返された。

 代わりに輪の中に頑張って入っていった日向が、人混みを抜けられてぷはっと大きく息を吸って言い出す。

 周りは「ああ、言ってごらん?」とナメている。影山以上の手札を持つ男はこの場にいない。だから日向なんて雑魚に等しかった。それは他の男たちも似たようなものだけど……。

 

「さつきはおれのファンって言ってくれました! だから、おれにとってのファン第一号ですっ」

「弱い」

「出直してこい」

「相手にもされないっ!?」

 

 日向は勝負の場に立たせてもらえなかった。他の人たちに、それを言うなら桃井は俺のファンでもあるし……とペイッと弾かれてしまったのである。

 影山は強制的に勝負の席を引きずり下ろされ、日向は席を用意してもらえなかった。似た者同士の変人コンビだった。

 しかしこのくらいのことで挫けるような男ではない。諦めの悪さと勝利への執着が人一倍ある日向は、グッと腹の底から声を出した。

 

「じゃあ! バレーで勝負するのはどうですか!」

「! ……」

 

 この勝負が一体何をもたらすなんて、日向は知らない。全然わかっていない。でも負けるのは嫌だから話に乗った。そして彼は相手にもされなかった。それが悔しくて、すごく嫌で、兎にも角にも叫んだのである。

 これは見事に的を射た発言だった。

 この場にいるのは全員バレーボールの選手。そして話題のあの子はバレーボールが大好き。その中で頂点を極めれば、彼女の心を射止めることができるだろうと。

 日向の提案は一理あるものとされ、本人に打診された。

 

「……はっ? え? 何してんですか、何巻き込んでるんですか」

 

 桃井は嫌そうに言った。

 2m選手の観察に忙しくて、邪魔をされたのが迷惑だったからだ。

 私がどうのこうので騒いでるんじゃなくて、私をダシにして騒いでるだけじゃん……と多くの男たちの本質を見抜いており、付き合うのが面倒だった。

 

「この後白馬選手と百沢選手がスパイク打ってブロック跳んでくれるんです……邪魔しないでください……」

 

 死ぬほどノリ気じゃなかった。羽虫を見るような顔で男たちを睥睨すると、駆け寄ってきたあかねにパッと笑顔を見せる。

 ここは夢の中なんだから、我欲のまま生きると桃井は誓っていた。相手が先輩だろうと誰だろうと関係ない。

 

「さつきちゃーん! 二人が準備できたってー!」

「あかねちゃん、ありがとう! すぐ行くー!」

「ちょ、ちょっ! ちょっと待ってッ」

「話だけ聞いてッ!」

 

 侑と及川が桃井の片腕ずつを掴み、桃井は身動きが取れず岩泉に助けを求めようとした。だが。

 

「勝負を志願した連中、学校もポジションもバラバラやねん。学校ごとに試合できるほど人数集まってへんし……」

「だから学校混合でチーム組んだらどうかなって。それを桃ちゃんに決めて欲し、」

 

 及川が言い終える直前、桃井のまとう雰囲気がガラリと変わった。めんどくさ……ダル……というギャルみたいな気怠さが掻き消えて、やる気に満ち溢れたスポーツマンみたいな活気を取り戻したのである。

 あれっ? と二人が思わず手を離す。

 すると桃井は、パン! と音を立てて顔の前で手を合わせ、極上の笑顔を見せたのだ。キラキラした後光が射すくらい眩しい笑顔だった。

 

「わ、私が……? 私がチームを決めていいんですか……?」

「う、うん」

「だ、誰でも選べるんです……? この中から……??」

「全員やない、けど……いや……」

 

 侑は考える。ここで桃井に良いところを見せれば、好感度は上がるのでは? この男どもの足並みから一歩二歩先に進めるのでは? と。

 その為ならば、どんな困難も厭わない。土下座だって何だってしてやる。

 俺はやる! やってやる! そう決意して、侑はグッと親指を立ててサムズアップした。

 

「任せとき」

 

 男の甲斐性を見せる場だ、と大耳から学んだことをやってみせたのだった。

 つまり。桃井はここにいる全てのチームから好きな選手を選び、チームを決めることができるという。

 宮城は烏野、青葉城西、伊達工業、白鳥沢、条善寺、和久谷南、新山女子その他身内など多数。

 関東は音駒、梟谷、井闥山、戸美、森然、椿原、生川などその他多数。

 さらには稲荷崎、鴎台、狢坂などなど。

 各校の監督とコーチ、マネージャーまで揃い踏みだ。

 あと新旧小さな巨人もいるし。社会人チームに所属している人(月島の兄)もいるし。熱心に応援する選手の身内(田中の姉や、リエーフの姉)もいるし。

 この中から好きにチームを決められる……??

 桃井はクラッとして、頬を薔薇色に染めてうっとりした。

 

「ドリームチームが作れちゃう……!!」

 

 桃井と関わりが深いとなれば、当然桃井も彼らのバレーボールが漏れなく好きである。

 つまり中3の時に白鳥沢を見学して思ったような「影山と牛島が同じチームだったら嬉しいなー」が通るのである。

 この瞬間、桃井はチーム登録の全権利を得た。普段どれだけ歪み合っている選手たちでさえ、桃井が「同じチームになれ」と言えば従う。

 夢のような権力だった。

 

「か、影山くん。影山くんを軸にします。影山くんのバレーが見たい」

「おん」

「翔陽くんは同じチームに。変人速攻見たいし……となると。あ、ど、どうしましょう。あの、影山くんと牛島さんを同じチームに……いえ、及川先輩と牛島さんの組み合わせも見たい……」

「げぇっ」

「双子速攻と変人速攻で対決できる……? え、もしかしてセッターを入れ替えて、侑先輩と翔陽くんの速攻、影山くんと治先輩の速攻が見ら、見られる……?」

「桃井落ち着け!」

「ま、待って……2mの百沢くんは……? チームに入ってもらえるの……? 白馬さんも……? 190cm以上の選手だけでチームを作ることもで、できる……?」

「関係ない人巻き込もうとしてる!」

「岩泉先輩と木兎さんもいてほしい……いえ北先輩も……こ、交代は?? 控えの選手も決めて良いんです? リベロも……西谷さんと夜久さん欲しい……というかみんな欲しい……」

「正気を失い始めた」

「青根さんと天童さんと黒尾さんと月島くんと昼神さんと大耳先輩で別れて三枚ブロック対決してもらえる……? 星海さんと翔陽くんで小さな巨人対決も……??」

「ぽ、ポジションすら見境なくなってる……!!」

 

 桃井は興奮してしまい、あらゆるパターンを呟くだけのマシーンになってしまった。

 誰も声がかけられない。しかし動揺する人混みを掻き分け、唯一古森が桃井に話しかけた。古森は佐久早の従兄弟でこういうことには慣れており、話しかけづらい相手・場面でも声をかける勇気を持つ男だった。

 

「あ、一応ポジションシャッフルする案もあったっぽいよ? 俺らユースん時もやったしさ。そういうのも面白いかもー」

「そうですね、とても面白いと思います。でも影山くんはセッターなので、彼をそれ以外のポジションにつかせる気はありません。ご提案ありがとうございます」

「わー、すっげぇ綺麗に"余計なこと言ってんじゃねーよ"って返された……」

「ヤな女」

「!? そ、そんなつもりは」

 

 古森は冗談のつもりで言ったが、佐久早がマスク越しに低く呟いたので冗談にはならなかった。

 慌てて否定する桃井に少し思うところがあり、侑は彼女に近づく。

 これだけ悩んで迷って決められない桃井は、とあるポジションの人を一人だけ選べと言われたらどうするのだろうか。

 俺を選んでくれるだろうか。俺だといいな、と思いながら聞く。

 

「じゃあ、1チームだけ桃井が選ぶてなったら、桃井はセッター誰にすんの?」

「影山くん」

 

 即答だったので侑と及川はキレた。




好きなところだけ書かせてもらいました。楽しい息抜きでした。



いつも作品を読んでくださりありがとうございます。
皆様の応援のおかげで、100話という節目を迎えることができました。
関覧、しおり、ここ好き(文章スライドして♡押すやつ)、お気に入り登録、感想など、心からたくさんのエネルギーをもらっています。
これからも皆様と一緒に物語を紡いでいけたら幸いです。
引き続き応援をよろしくお願いいたします。



この物語を投稿し始めたのは2018年10月です。7年前とかですかね。原作だと38巻が発売され、ゴミ捨て場の決戦がリアルタイムで展開していた頃です。
そのゴミ捨て場も映画化し、次の劇場版・スペシャルアニメ化が決定しています。まだまだ楽しみなことがたくさんですね。

自分は過去編からちまちま小説を書いて、原作軸に到達する頃には原作と大きく世界が変わっている……なんて展開が大好きで、今作品もそのようになりました。
その頃は高校をどこにするかも決めておらず、また過去編でたくさんキャラクターを出せるのが本当に楽しく、夢中になって更新しました。
ここ最近は原作軸の内容でもあるので、初期の巻を読み直すと懐かしい気持ちにもなります。そしてハイキュー!!は本当に面白く素晴らしい作品だなと感じます。
好きという気持ちだけで突っ走るのは大変難しいことですが、ハイキュー!!の彼らからもらったたくさんの元気を胸に駆け抜けていきたいですね。

ここまで長くお付き合いをいただき、本当に本当にありがとうございました。
幕間のあとはIH編です。あの学校やあの学校やあの学校との試合が始まり、時はどんどん進みます。作者が一番ノリノリで書いていくので、ぜひ楽しんでいってくださいね。



ついでにX(@mmhaii054m)に投稿しているイラストの一部投稿
全て自分絵です。苦手な方はご注意ください。
・及川さんが桃井をお姫様抱っこする
【挿絵表示】

・湿度のある影山と桃井
【挿絵表示】

・仲良し幼馴染の影山と桃井
【挿絵表示】
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