「……お前の腕があったらさ。日向の持ち味っていうか才能っていうか……なんかうまいこと使ってやれんじゃないの!?」
菅原の真剣なアドバイスに、しかし影山は「なんかうまいことって、なんだ!!!」と内心慌てふためいていた。
部活参加を賭けた3対3は、思いの外均衡状態にある。
一年生同士の実力を測ることが目的の為、日向・影山チームには田中が、月島・山口チームには澤村が入ることとなり、試合はスタートした。
前半、中学レベルをとっくに追い越していた影山のサーブに相手チームはかなり手を焼き、スパイクを打たずとも点差は如実に開いていた。
天才リベロである西谷でさえ「俺でも取れるかわかんないっス」と言う影山のサーブに、東峰は目を見開く。
けれど三年生としての意地を見せた澤村の決死の守備により、流れは変わる。そして高さのある月島のブロックに悉く攻撃を塞がれた日向の失点はあっという間に膨らみ、ついには逆転されてしまった。
そんな中、試合を見守っていた菅原が影山に伝えたのだ。
日向の武器を影山のトスが殺しているのではないか、と。
「技術があって、ヤル気もありすぎるくらいあって。何より……周りを見る優れた目を持ってるお前に、仲間のことが見えないはずがない!!」
その時、影山の思考が固まった。
北川第一で、否、バレーボールを始めた時からずっと、答えを教えられ続けたからだ。そのせいで思考する癖が影山に定着していなかった。
菅原のアドバイスも、その先にある模範解答も、常に桃井が用意してくれていた。だから考える必要はなかった。
そもそも桃井は悩みに到達する前にその芽を摘んでいたから、どうしたらいいかわからないというごく当たり前の状況に、影山は酷く戸惑う。
頭の中でアイツならどうする、選手の得手不得手を判断し、最適なパターンをあてがうアイツなら何を選ぶ……と考えてから。
「っ!」
「うおっ!?」
「影山!? なぜにビンタ!」
自分の両頬を思いっきり叩いた。自然と「桃井なら……」と考えた自分をぶん殴ってやったのである。
アイツに頼らないで、一人で強くなるって決めただろ。
ぐる! と体を回転させて影山は日向を見た。
周りと比べて明らかに小さく頼りないその体は、しかし試合中となると驚くほど俊敏に動き、高く飛ぶ。
『居るぞ!!』
『でもちゃんとボール来た!!』
スパイクを打てることが幸福であるかのように、自分にトスが上がること以外欲しいものなんてないみたいに、日向は夢中になってボールを追う。
そんな日向のプレーを思い返すと、影山の中で一つの筋道が見えた。
コイツの身体能力を生かす……つまり、コートの全てを置き去りにするようなスピードもバネも殺さない攻撃方法。
そんな夢のような手段が、あるのだとしたら。
「……俺はお前の運動能力が羨ましい!!」
「はっ!?」
「だから能力持ち腐れのお前が腹立たしい!!」
「はああっ!?」
鼓動がうるさい。自ら選んだ選択肢が正しいのかどうか、まるでわからない。
そうか、アイツはずっとこんな気持ちだったのか。正解にできるかどうかを全てを選手に委ねて、その怖さを微塵も見せずに、毅然とした強い微笑みを浮かべて試合の行方を追っていたのか。
……知らなかったな。
「それなら、お前の能力。俺がぜんぶ使ってみせる!」
アイツが選手を分析して全ての能力を見透かしたように。
俺は俺の能力をフル活用して、日向のぜんぶを生かしてやる。
「お前の一番のスピード、一番のジャンプで、とべ。ボールは俺が持って行く!」
烏野で日向と再会した時、突っかかられて思考が及ばなかったが、よく考えれば桃井が日向の進学先を知らなかったとは思えないことに気づいた。恐らく奴は、日向が烏野志望だと知った上で影山に烏野進学を薦めたのだろう。
最初からアイツ仕組んでやがったな、と一言言ってやりたくなる。
日向に説明しながら、影山はふとこれがある種の初めての挑戦だと感じた。
桃井が関与せず影山だけで考え、形にした新しいバレーボールの形。この攻撃が成功したら俺は一つ強くなれる。
そうして生まれた超速攻──後に変人速攻と呼ばれる世界にただ一つの攻撃は、影山の特別な成功体験として胸に刻まれることとなった。
「うお!」
「ホントだスゲー! 写真でけー!」
IH予選を目前に控えたある日のこと。部活を終えてさあ帰るかというところで、上級生が何やら騒がしくしているところを目撃した日向と影山は、なんだなんだと近づいた。
「なんスか!? どうしたんスか!?」
「ホレ」
輪の中心にいた田中に見せられたそれは、月刊バリボーだった。上級生たちが盛り上がっていたページを目の前に広げられた日向が、目を引く見出しを読み上げる。
「高校注目選手ピックアップ……?」
「今年の注目選手の中でもとくに注目! ってなってる全国の3人の中に、白鳥沢のウシワカが入ってんだよ」
「白鳥沢って影山が落ちた高校!!」
「うるせぇ!!」
ムカついた影山は日向が持つ雑誌を取り上げ、なんとなくページをめくった。
ウシワカって誰? と説明を受けている日向や田中の会話は、まるで耳に入らない。
何故なら影山の目に映る月刊バリボーの紙面に、幼馴染の姿があったからだ。
「あいつ……」
「ん? どーした影山」
「さつきが載ってます」
「え!!」
「桃井さつきが!?」
「見せろ見せろ!」
ひったくるようにして西谷と田中が雑誌を奪い取り、周りに見えるように一面を見せた。中学バレー界でかなりの認知度を誇っていた彼女の名前に興味を惹かれ、帰りかけていた部員たちはゾロゾロと集まってくる。
「すっげ、インタビューされてる。しかも結構長いな」
「さつきスゲーっ!」
「ひょっとして日向、桃井さんと知り合いなの?」
「ハイ! 友達です、中学の試合を見て、俺のプレー褒めてくれたんです!」
にぱっと明るく答える日向に、影山はふぅんと思った。まあアイツが日向に目をかけていたのは知っているし、俺の知らないところで親しくしていても不思議ではない。
昔から自分の見えないところで交友関係を増やしてきた女だ。何やら西谷や東峰とも関わりがあったようで、影山は飲み込めない何かを無理やり喉奥に押し込んだ。
「影山はあれだろ? 同じ中学だったんだろ?」
「……はい」
「いーよなぁ、三年間あんな美女と一緒だったなんて」
「羨ましいぜ。なあ龍!」
「ああノヤっさん!」
中学どころか幼馴染なのだが、それを言えば面倒なことになるからやめてと桃井に口酸っぱく言われたのを思い出し、影山はうぬんと唇を尖らせた。
「彼女、今年のIHで優勝する気満々だなぁ。他校の分析に力入れてるって」
「この高校去年のインハイでも春高でもすごい強かったもんな。俺でも知ってるレベルだし」
「強敵、ですよね……」
「同じ県にいないだけマシでしょ」
弱気に呟いた山口に同意する月島。先輩たちも同じようにして難しそうな顔をしている中、日向だけがきょとん顔を晒している。
「ぶん……せき? 強敵? なにが?」
桃井のことを全く知らない日向がピンと来ていない様子だったので、菅原が教えてあげようと口を開いた瞬間。
「えっ……えええぇぇぇぇ!!?」
「ぅわあ! なんだよ大地、おっきな声出して!」
「いやいやコレ、コレ! 注目している高校んトコ!!」
澤村が大慌てで指差した箇所、記者に「今大会で注目しているのはどのチームでしょうか?」という質問に対する桃井の返答は、全員が仰天するチームだったのだ。
「からすの」
「烏野って、ウチのこと……?」
「バカ言え、どっか違う県のチームだろ。同じ名前の」
「ああ、だよなぁ焦った……」
「もー大地が急に叫ぶから」
「す、すまん旭……びっくりしちゃって」
アセアセと頬をかく主将の後ろから雑誌を見下ろした月島は、呆れたように断言する。
「いや、烏野なんて名前の高校、他にないですよ」
「ツッキー……てことは、桃井さんが注目してるチームって……」
「このチーム。そうなんでしょ、王様?」
影山はすぐには答えず、ぎゅっと眉根を寄せて思案していた。
注目しているチームに烏野を挙げた桃井は、理由として「爆発的な攻撃力を持つチームになるから」と述べている。
詳しいことは省略されているからわからないが、桃井は烏野を攻撃力の高いチームだと評価しているみたいだった。
高度な分析能力を持つ桃井のコメントに喜ぶチームメイトを横目に、影山の背筋には一本の氷柱のようなひんやりとした冷たい感触が走っていた。
爆発的な攻撃力を持つチームに
まるで未来を予知するかのような言い回しだ。嫌な予感がする。桃井のそばで彼女の選ぶ言い回しをずっと聞いていた影山だからこそ感じることのできる、違和感。
並外れたパワーの東峰や田中を擁する烏野に新たに加わった変人速攻という武器は、確かに高火力な攻撃のため、桃井がそう評するのも当然だ。だから先輩たちは普通に受け取り、喜んでいる。
未だ公式試合にはお披露目していない変人速攻が彼女にバレているのも、突出した情報収集能力を持つのだから何らおかしくない。おかしくない、はずなのに。
何かがおかしい、と直感が告げる。
ごくりと唾を飲む。
他にも彼女の言う魅力的なチームがたくさんある中で、わざわざ烏野というチームを口にした目的。
それはつまり「お前を見ているぞ、マークしているぞ」という意思表示に他ならない。
「ハッ、上等だ。必ず打ち負かしてやる」
桃井と戦えるのは全国大会という大舞台しかない。
そこまで勝ち上がって見せろ、そういうメッセージなんだろコレは。
正しく意味を理解した影山が急に不敵な笑みを浮かべたので、その怖い笑顔に周りは若干引いた。
すると、ワクワクして注目しているチーム名にばかり目を向けていた日向が、くりっとした瞳をさらに輝かせる。
「あああああぁぁぁ!!!」
「ぎゃ! 今度は日向かよ!」
「何だよ一体……」
「こ、こここここの、さつきが期待してる選手!」
さつきが期待してる選手?
まあ俺だろうな……他にいないだろ、と至極当然のロジックで顔を真顔に戻した影山が、ウキウキと雑誌を読もうとかがみ込んだら。
「お、おれ! おれの名前!!」
「はぁ?」
「さつきが期待してる選手! おれ!!」
「ハアアァァ!!?」
日向が震える指先で示した通り「期待している選手ですか……烏野の日向翔陽選手です」という文言がバッチリ書かれている。
「ほ、ホントだ……えっすごいこと書かれてんぞ」
「日向選手はいずれ日の丸を背負う選手になります、だって……」
「ジャパン!? コイツが!?」
驚愕の眼差しを一身に受ける日向は、うずうずドキドキと興奮を隠せないでいる。
けれどそんな日向を見て、影山を除いた全員が「いや……流石にそれは……」と冷静に思うのだった。
だって、この日向である。
レシーブは素人に毛が生えたようなもので、普通の速攻もこの間使えるようになったばかり。コースの打ち分けもまだまだだし、サーブなんて影山の後頭部に直撃してたし。
そりゃ身体能力はずば抜けているけど、この身長で、この拙さで、どうして将来の日本代表などと確信めいたことを言えるのだろうか。
ひょっとして桃井さんって実は大したことないのでは?
これはこの先桃井のインタビューを読んで、烏野、特に日向を警戒したチームが揃って思うことだった。
あの桃井さつきが期待する選手がこんなもんか。隣の一年セッターの方がやべえじゃん、となるのである。
事実、変人コンビ以外の烏野のメンバーも神格化されつつあった桃井さつき像は崩れ、等身大の高校生くらいなんだよなぁ、間違うこともきっとあるよなぁと微笑ましく感じてしまう。
「あー……まあなんだ、日向。あんま間に受けんなよ。俺たちはお前はすごい選手だって知ってるから」
「えっ!? なんですか急に!」
「全国クラスで日向より強い奴はいくらでも居そうなのにな」
「期待してる選手ってことだから、初期値0のコイツが選ばれたんじゃないですか」
「友達だからってサービスで名前出してくれたんじゃないの? 単細胞は目立つの好きでしょ」
「ああ、珍獣枠的な」
「月島山口コラ! せっかく人が喜んでるのに!!」
うがぁ! と日向が吠える。が、小柄な日向では大した怖さにならず、からかわれることに変わりはない。
ひとしきり威嚇したところでそういえば影山がさっきから静かだな、と日向がそちらを見れば。
「ひっ」
何やら黒い炎を纏い殺人級の気配を漂わせる影山に、全身が震えた。
「か、影山……くん?」
「日向ぶっ飛ばすカンプなきまでに負かす」
「こわ! さ、さつきに選ばれなかったからって嫉妬すんなって!」
「嫉妬じゃねぇ!! 腹立ってんだよ!!」
何はともあれ、IH予選を勝ち抜いてさつきに会い(影山からは連絡しないし向こうからも連絡が来ないので)、真相を聞かねば……!! そんな決意を漲らせ、影山は日々練習に取り組んだ。
そうして迎えた予選。
安定した上級生組の基盤に支えられつつ変人速攻を織り交ぜた烏野は快進撃を続け、青葉城西を下し、決勝戦に進出。
しかし全国三大エースの一角たる牛島若利誇る白鳥沢に敗北し、全国大会への切符を手に入れることは、ついになかった。
桃井がいるチームが全国大会進出を果たしたと影山が聞いたのは、連絡を取り合っているらしい日向からだった。
そして、舞台は宮城から離れ。
遠い西、兵庫に移る。
日向からの「全国大会がんばれ!」というメッセージを見つめ微笑んだ桃井は、スマホをポケットにしまった。
「行くで、桃井」
「はい。北先輩」
ということでin稲荷崎です。
かなり、本当にかなり悩みましたが描きたいストーリーに一番近いのが稲荷崎でした。この高校にした理由は色々ありますがいずれ本編で明かされます。お楽しみに。
次回からIH編始めてキャラガンガン出していこうかなとも思ったのですが、桃井が入学したストーリーを書ける場所がこの辺にしかなさそうなので、in稲荷崎した春頃の時系列に逆戻りします。
以下、ハイキュー!!風人物紹介の桃井in稲荷崎ver.です。
稲荷崎高校 1年4組
バレーボール部マネージャー
身長:161cm 体重:ヒミツ(高校1年4月現在)
誕生日:5月4日
好物:さくらんぼ
最近の悩み:関西弁に慣れない
パワー1
バネ2
スタミナ3
スピード3
テクニック4
頭脳5
プロフィールは黒子のバスケをリスペクトして、パラメータ以外はほぼそちらに合わせてます。