ラウside
「弱すぎだろ」
足元に倒れる敵だった受験生を見下ろして、自分の手の中にある黒いマカロフを握り直す。
ラウの本来の武器は素手だ。それも手袋ではなく、特注の籠手を装着しての格闘戦。だが、ラウは試験が始まってから一度も素手を使っていない。それどころかマカロフ一丁で全員を排除してきた。それはラウの強い、という証明でもあるが、他の受験生が弱すぎるということでもあった。
「試験は残り30分か」
ラウが居るのは東京湾に浮かぶ人口島に作られて国家資格、武装探偵通称『武偵』を育成するために作られて学校。東京武偵高校の入試に来ていた。
教授ことシャーロック・ホームズから、一度っきりの人生なんだ。学生生活くらい経験しておくべきだろう、という言って犯罪者組織イ・ウーから送り出された。
階段を下りて下の階を見回すも人影は見当たらないが、気配だけは感じ取ることができた。
「出てきたらどうすか」
コンクリートがむき出しになった柱の影から出てきたのは大人だった。
「気配を消していたつもりなんだがな」
「受験生な訳ないから、監視官ってことすか」
「ああ、監視カメラで見てるだけじゃ、評価が付けられない項目もあるからな」
なるほど、教師というのはなかなか大変なもんだな。
うんうん、と一人でに納得していると発砲する音が聞こえ、正面の監視官の手に持つ拳銃からゴム弾が飛んできていた。
「おっと!」
マカロフを素早く発砲し、飛んできていたゴム弾に衝突させた。お互いに衝突したゴム弾が双方はあらぬ方向に飛んで行った。
「そんな方法で防ぐかよ!」
監督官の予想していなかったゴム弾の防ぎ方に驚きながらも後ろに素早く下がりながら、拳銃を構え直していた。
流石は監督官。判断が早いな、でも、この手はどうやって防ぐかな。
「攻撃してきたってことは、攻撃しても文句は言われない、っか!」
右手にもっていたマカロフを監督官の拳銃に向かって投げつけた。
人間は集中している時や、極度の緊張にある時に、思いもよらない出来事が起こると思考が止まる。俺がやったのはそれだ。
銃は飛んできた、という思いもよらない出来事は戦闘という緊張状態にある監督官を止めるには十分な効果を発揮した。監督官はギョッとした顔をしながら、無意識に投げられてマカロフを避けようと体を捻り。捻ったことで拳銃の狙い逸れて隙が生まれた。
「隙あり!」
俺はマカロフを避けて、バランスを崩している監督官の腹目掛けて前蹴りを繰り出した。
監督官はぐふ!と変な声を上げて、吹っ飛び。壁にぶつかると動かなくなった。
「やり過ぎた感はあるけど、まあ、最初に撃ったのはあっちだからな」
床に転がっている俺のマカロフを拾い、脇のホルスターに戻して、また移動を再開した。
その後、何度か部屋を移動したも、強い人が通った後なのか何人もの受験生が地面に倒れ。大抵の奴は気絶して、数人は直接攻撃を受けたのか、うめき声を上げていた。
「まともに戦える相手だといいな」
通路を抜けて部屋の中を覗くと、丁度、監督官との決着がついた所のようだ。男には息切れも見られない。俺と同じように監督官を相手に戦い、余裕をもって勝利した。多分、ここに来るまでに倒れていた受験生を倒したのは、この男だろうしな。
「この階はもう、俺と君しか残っていないようだね」
何と言うか、紳士っぽい喋り方。
腕時計で残り時間を確認すると約10分。ゆっくり戦っている時間はないか。
「時間ないから、始めようか」
「銃もナイフも抜かないのかい?」
男は俺が武器も抜かない事に疑問に思ったのだろう。
ポケットから黒い手袋を取り出し、両手に装着。
「時間ないからさ。大丈夫、素手の方が俺は強いから」
手を開いて閉じてを繰り返し、手袋の装着具合を確認。そして両手の拳を握る。
この入試が始まってから初めて、拳を構えた。
「ならこっちも、素手で行こうか」
男も俺と同じように、拳を構えた。
「俺はラウ・リセン」
「遠山キンジだ。よろしく」
先に動いたのは俺の方だ。
まずは、小手調べ。
キンジと俺との距離は普通に歩いて三歩はある。だから、一気に距離を詰めた。
縮地という移動方法がある。簡単に説明するなら上半身を動かさずに、地面スレスレを滑るようにジャンプする技だ。こんなものが実戦で使えるのか、と素人なら思うものだが、直接攻撃をするには距離が重要なものだ。離れればその分、移動する時間も必要なる。縮地は移動する時間を歩数と言ってもいいだろう。それを無くして一歩で移動する。何より、相手がいきなり近づいてきたら相手はびっくりするものだ。
「ほいっと!」
ボォン!と縮地の加速と体重を乗せた右ストレートは、見事にキンジの体に命中した…そう命中はした。当たる瞬間に、拳と体の間に腕を入れて防御されたのだ。
「まさか、縮地しながらそのまま攻撃してくるなんてね、思ってなかったよ」
「なら、地味に防御してる、お前はなんだよ」
反射速度が異様に早い。これが教授の言っていたヒステリアス・サヴァン・シンドローム略して『HSS』の力か、羨ましね全く。こちとら、地獄のような訓練と偶然の産物で手に入れた特殊技能しかないって言うのによ。生まれた時からのチート持ち、とか神様はどんだけ差別をするのやら。
「時間にも余裕なんてないし、サクッと決着をつけようか」
手は握らず、手刀の形にして、左手は腰に添える。右手は前に突き出す。
キンジは俺の見たことのない構えに警戒しながらも、腰を落とし、攻撃より防御に向いた構えを取った。
「
手を手刀にすることで、受け流しと同時に攻撃に優れ。無駄に力を入れないことで、動きが遅くなることを防ぐ。
「変わった構えだな、体の軸が綺麗に体の中心を通ってる。それじゃ、移動に向かないってことはカウンター系の体術か。まぁ、時間もないし乗ってやるよ」
互いに覚悟は決まったと僅かに笑い、戦いは再開された。
右手から掌底を繰り出し。それは狙い通りにキンジに体に直撃すると、キンジの体は回転扉のように打撃の衝撃を利用して回転し、加速した拳が返ってきた。
「うぉ!そういう仕組みか!」
「君の予想していた通り、カウンター系の構えだよ」
腰に添えていた左手が自然に動いて攻撃を防御するが、また、その防御の衝撃を利用して回転しながら攻撃を繰り出してきた。
そこからはループだ。
俺が両手で攻撃と防御を一緒にするのに対して、キンジは受けた攻撃を利用して、一撃を繰り出してくる。
攻守ともに優れてラッシュと攻撃を受ける度に威力が増していくカウンター。
他人が入る余地のないインファイト。
そのラッシュは僅かなズレで瓦解した。俺が攻撃をワザと体で受けたのだ。
「っぐ!、決着と行こうか。酉の型・
威力が強化された拳を体で受け止め、攻撃と防御に分けていたスタイルから両手で攻撃する構えに転じた。
両手の平を合わせて合唱。相手に打ち込む両手がズレないようにして、両手を同時に前に突き出した。
両手から繰り出される掌底は衝撃を効率よく相手の体内を駆け巡る。より相手を”破壊”することに優れて技だ。力の入れ具合によっては吹っ飛ばしたり、行動不能にする程度に威力を抑えることもできる。
俺が攻撃をワザと受けたことで、回転が止まってしまったキンジは僅かに速度が緩み、両羽《りょうば》
「ゲホ!ゲッホ!なんで絶牢が上手く機能しなかった…」
「回転扉は、片方から力が掛かることで回転するだろ。左右から同時に同威力が加わったら回転しないのは道理だ」
「数分で絶牢が見抜かれるなんてな」
はぁ~、と溜息を吐き出したキンジ。
『そこまで!試験は終了や!』
乱暴な声で試験の終了がアナウンスされた。
これならランクAは確定だな。