この街はサイレントヒル。
アメリカのメイン州にある寂れた観光地。
霧に包まれた静かな街。
その霧の中に、男が一人。
彼の名はジェイムス・サンダーランド。
ジェイムスは鉄パイプを手に、道路の中央で突っ立っていた。
車1台走らない異様な街だからこそ出来ることである。
大きくため息を吐くと、近くの建物に入り、トイレの鏡に向かい合う。
私は正気だ。そうだろ?ジェイムス。
三年前、妻メアリーは病死した。間違いない。
あれ以来、私の日常は酷く色褪せたものになった。
酒に溺れ、あちこちでトラブルを起こして八つ当たりをした。
今では私に同情する者などいないだろう。
しかし、昨日。一通の手紙が届いた。
「あいまいな眠りの中で 夢見るのはあの街 サイレントヒル。いつか二人で行こうと約束しておきながら 私のせいで叶わなかった。私は今もそこにいる。あの思い出の場所で あなたを待っている」
手紙にはそう書いてあった。
差出人の名前は、メアリーだった。
彼女の字だ。間違いない。
私は正気だ。
もしまた会えるなら、何をしたって会いに行く。
私は正気だ。
とても冷静だ。
街には化け物がいた。
なぜそんな存在が実在しているのか。
私にはわからない。
しかし、そんなことはどうでもいい。
きっと、軍が作った生体兵器とかなのだろう。
事故か何かで逃げ出したのだ。
そうに決まってる。
それに、本当のところはどうでもいいのだ。
メアリー…君さえ無事なら、それでいいのだ。
きっと、彼女はあの思い出のホテルにいる。
避難しているのだ。
途中で立ち寄ったアパートには彼女の服を着たマネキンが置かれていた。
目をつぶり、メアリーの姿を思い浮かべる。
ああ…メアリー…。
私は正気だ。間違いなく。
ザザザ…ザ…
携帯ラジオが突然鳴り出す。
ジェイムスは建物から飛び出すと、すぐに鉄パイプを構える。
このラジオは化け物の探知機なのだ。
原理などジェイムスには知るよしもなかったが、大して気にもしていなかった。
探知機の代わりになる、ということ以外、彼にとってはどうでもいいことだった。
霧の向こうから、何かが近づく。
ギィ…ギィ…
金属を引き摺るような音。
あ…あいつだ!
ジェイムスはさっきまでの勇ましさから一転、全身から汗を吹き出しつつ全力で走り出した。
逃げたのだ。
現れた怪物は角錐状の巨大な兜を被って顔を隠した、筋肉質な男性のような姿をしていた。
服装は白いトレンチコートのようだが、袖がなく両腕が露になっている。
身の丈ほどもある巨大な鉈を手に、ゆっくりとジェイムスを追う。
ジェイムスはこの怪人に攻撃が通用しないことを、身をもって知っていた。
アパートで運悪く遭遇してしまったのだ。
そのときは突然鳴り響いたサイレンと共に去っていったのだが、また同じことが起きるとは限らない。
はぁ、はぁ
どれだけ逃げただろうか。三角頭の怪人の姿はなかった。
ジェイムスは息を整えると、また、ホテルを目指して歩き始めた。
人一人いない。
やはり全員避難したのだろうか?
と、またしてもラジオのノイズが鳴り出した
ザ…ザザ…
く、くそ、しつこいな…
「あああ…あ」
異様な声を発しながら、霧の向こうから、人型の何かが近づく。
なんだ…
なんだ、こいつは。
腐った死体?
昔、ナイトオブザリビングデッドという映画を見たことがある。
蘇った死体が人に噛みつき、噛まれて死んだ人間もよみがえる…。
「それ」は両手を前に伸ばしながら、ゆっくりと近付いてくる。
喰ワセロ…
声が聞こえた気がした。
だからどうした。
こっちはメアリーに会いたいだけなんだぞ?
ふざけるな。
メアリーに会わせろ
メアリーに会わせろ
メアリーに会わせろ!
気付けばジェイムスは「それ」を鉄パイプで何度も殴りつけていた。
死ね。死んじまえ!
八つ当たりだった。
更に「それ」が5体現れる。
ジェイムスは拳銃を取り出す。
そして躊躇なく撃ち殺していった。
爽快だった。
爽快だ。
ザマアミロ。
誰かが耳元で囁く。
殺してやるのがせめてもの情けよ。
相手のためになるのよ。
こんな姿で生きるよりは
殺してやるのが救いになるのよ。
ジェイムス、そうでしょう?
「ああ、そうだな、マリア。その通りだ」
「さあ、行きましょう。奥さんとの思い出の場所に」
ジェイムスはまた歩き出す。
思い出の場所を目指して。