目が覚める。
朝だ。
カーテンの隙間から溢れる光が、程よく部屋を彩っている。
起き上がると、見慣れた自室の風景があった。
何千、何万と見た、小綺麗な部屋。
無感動にそれを眺めて、枕脇に置かれたスマホを手に取る。
真っ黒の画面がパッと輝き、灰色の風景に白い『10月12日 金曜日 7:01』という文字が表示される。
何千、何万と見た、文字の羅列。
心の奥底で、僅かに落胆したのがわかった。そんな感情が自分に今だ残っていたことに驚き、少し笑った。
ベットから起き上がり、部屋を出る。
薄暗いキッチンへたどり着き、流し台の下の扉を開き、包丁を取り出す。
冷たい重みだ。
手慣れた手つきで包丁を逆手に持ちかえる。
そのまま迷うことなく、自身の腹部大動脈があるであろう場所に包丁を降り下ろした。
▽▲▽
代わり映えない学校生活を送る中、その日も同じような一日だった。
朝7時に起きて、学校に行く支度をし、自転車で高校へ向かう。
授業を受け、帰りにスーパーで夕食の食材を買いい、夕食を食べ、宿題をし、夜の10事には眠る。
そんな、なんの刺激もない、平凡な日々のひとつのはずだった。
次の日に目覚めるために、眠る筈だった。
そうして目が覚めたのは、次の日ではなく、同じ日だった。
10月12日。
それが、俺が囚われた日付け。
明日を失い、今日を彷徨い始めた日。
そして、今日も。
「……はぁ」
スマホ画面に表示される『10月12日 金曜日 7:01』の文字に、思わずため息を吐いた。
そんな日が、いつまでも続いた。
いつか終わるだとか、長い夢でいつかは覚めるだとか、そんな事を思いながら、流れない日々を過ごした。
10日、20日、30日。
それ以降は、数えるのをやめた。
いつか元に戻る可能性を信じて、同じ日付を同じように過ごした。
今思えば、よくもまあ気が狂わなかったものだと思う。
そうして数えきれない同じ日々を過ごして、俺はようやく悟った。
『このままでは、変わらない』と。
気付いた瞬間、己の摩耗を自覚した。
いつからだっただろうか。自分の意思が消えたのは。
いや、いつだってそうだった。
ただ同じ日々を過ごしているだけだったのは、日付が変わらなくなる前からそうだった。
「……あーあ、本当に変わってなかったんだな」
今までは。
だが、これからは、違う。
「____今日を、終わらせてやる」
長い間放置して、錆び付いた歯車が、ようやく動き始めるように。
俺は、明日を目指し始める。
「……あー、えーっと…………今日は寝るか」
とりあえず寝た。
『摩耗』と『磨耗』。
あまり区別されてはないそうですが、このような説があるそうです。
意として起こしたマモウは「磨耗」。
知らない間に起きたマモウは「摩耗」。