ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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九巻を読んで思ったこと


……これ、どうつなげよう…わかんないよ、パトラッシュ……


99話

 

 アルフォネア邸崩壊から、数時間後――時分はまだ暗い、明け方頃。

 

 フェジテ中央区に居を構える中年の男、セイン=ファランドは、いつものように折り目正しくスーツに身を包んで自宅を出ると、勤め先へと真っ直ぐ向かった。

 

 朝霧漂う薄暗いフェジテの街中を、颯爽と肩で風を切って歩いていく。

 

「お早う、セインさん。今朝も早いねえ」

 

「ええ、お早うございます、ラウルさん」

 

 いつものように犬の散歩で早起き老人と、いつもの場所ですれ違い、いつものように挨拶を交わし合う。

 

「毎朝、毎朝、こんなに早くて…貴方は本当に立派なお方だ」

 

「あはは、市民の皆様のことを思えば、このくらい雑作もないことですよ」

 

 セインはフェジテ行政庁に勤めるしがない中間管理職の一役人だ。だが、その誠実な人柄と実務に実直な態度から、同僚達や上司、部下、周辺住民達からの信望は厚い。

 

 だが、そんなセインには秘密があった――

 

(ふん…やれやれ、愚かしいクズどもの相手をするのは疲れる……)

 

 老人と別れるや否や、そんなことを平然と思うセイン。

 

 彼の正体は、密かに行政庁に入り込んだ、天の智慧研究会のスパイだったのである。

 

(今度の計画は順調…これが成れば、我ら『急進派』が、あの愚かしく怠惰な『現状維持派』より、大導師様へ多大なる貢献をすることができる…くっくっく……)

 

 やがて、セインは隠れ蓑的な勤め先であるフェジテ行政庁市庁舎へと到着する。

 

 フェジテ行政庁が本格稼働するのは、午前9時からだ。

 

 早朝ゆえに、玄関口が閉じられた市庁舎内には、市民は当然、役人の一人すらいない。

 

 セインは管理職の職員にのみ所持を許された鍵を使って、市庁舎の裏口から、市庁舎内へと侵入する。そういうことをしても、誰もセインを咎めないし、問題にもしない…それだけの信頼と実績を、セインはすでに築いている。

 

「……さて。いよいよ計画は動き始めた。今日も念入りに調整しておくか……」

 

 セインは市庁舎の地下へと向かう。彼の卓越した認識操作と異界化の術を駆使し、誰も気付かない、気付けなくなるように作った、秘密の地下室への階段を下りる。

 

 やがて、セインは階段の突き当たりにある妙な小部屋へ侵入する。

 

 その小部屋の床には、どこか禍々しい造形の法陣が敷設されていた。

 

 法陣儀式魔術の天才であるセインが手ずから構築したその法陣は、数日前からとある邪悪な目的のために稼働を開始し、今は圧倒的な魔力が漲って循環している――

 

 ――そのはずだった。

 

「……なん…だと……ッ!?」

 

 それを見るなり、セインは目を剥いた。目の前の光景が信じられなかった。

 

 つい先日まで、漲る莫大な魔力と共に、法陣が稼働していたはずなのに……

 

「そ、そんな…馬鹿なッ!?私の法陣が…『マナ活性供給式』が解呪されているだとぉッ!?一体、誰が!?どうやって……ッ!?」

 

 ありえない。ありえなさすぎる。

 

 まず、この場所が誰かに割れるというのがありえず、万が一、割れたところで、解呪は非常に大掛かりな儀式が必要だ。さらに万が一、解呪の憂き目に遭った時のために、セインの奥義を尽くして、解呪を阻む無数のプロテクト術式を組んだいたのだ。

 

 一日や二日で解呪するのは不可能だ――何か特別な能力でも使用しない限り。

 

「く、くそぉ…ッ!い、一体、何がどうなって……ッ!?」

 

 セインが力を失った法陣の前で、絶望に頭を抱えていた…その時だ。

 

 セインはふと、気付いた。

 

「……あれは…なんだ?」

 

 法陣の中心に、宝石が一つ、ちょこんと置かれていることに。

 

「わ、私はあんなもの置いた覚えはないぞ?いつの間に……?」

 

 セインがその宝石の正体に思考を巡らせる暇もなく。

 

 カッ!

 

 その宝石は突如、圧倒的な光を上げて白熱し、セインの視界を真っ白に染め上げて――

 

 一体、何が起きた?――そんな思考すらも白く焼き尽くして――

 

 

 

 ――早朝、未明。

 

 フェジテ中央区にて、大地を震わせるような轟音が響き渡り――

 

 フェジテ行政庁市庁舎が何者かの爆破テロによって、完全に倒壊するのであった。

 

 

 

 

「……始まったか」

 

 市庁舎の倒壊の様子を見ながら、ジョセフは領事館の屋上で呟いた。

 

 そんなジョセフの背後に複数の人影が迫る。

 

「ジョセフ、ジャティスは?」

 

「彼なら今、動きました。これから、フェジテは大騒乱状態になるでしょう」

 

 背後の男の問いに、ジョセフはそう答えながら、振り返る。

 

 背後にいた集団の先頭にいた男は、ジョセフの上司であるマクシミリアンだった。その他にもフランクやティム、ダーシャ、ホッチンズもいる。

 

 彼らだけではなく、他に七名いる。

 

 彼らはマクシミリアンと共に帝都オルランドを拠点に活動していたデルタのメンバーだ。

 

 そう、今、フェジテにはジョセフやフランクたフェジテ駐在組だけではなく、帝都駐在組も集結していたのだ。

 

 今、ここには十三人――『デラウェア』、『ペンシルベニア』、『ニュージャージー』『ジョージア』、『コネチカット』、『マサチューセッツ』、『メリーランド』、『サウスカロライナ』、『ニューハンプシャー』、『バージニア』、『ニューヨーク』、『ノースカロライナ』、『ロードアイランド』――通称、『独立十三州』が集結していた……

 

「来ましたね」

 

 空を見上げれば、十機ぐらいの大型の機影がフェジテ市街地に向けて飛んでいるのが確認できた。

 

 恐らく、乗っているのは陸軍特殊作戦群の連中だろう。

 

「ああ、これから一騒動起こすことになるぞ……」

 

 マクシミリアンがぼそりと呟くと、自分の部下達を見る。

 

「よし、これから任務を開始する」

 

 一通り見渡した後、マクシミリアンがそう宣言する。

 

「任務は陸軍特殊作戦群と海軍と海兵隊の武装偵察中隊と共同で、フェジテ各地に潜伏している件の組織、『急進派』の掃討・壊滅だ。先の社交舞踏会で捕縛された第二団≪地位≫の≪魔の右手≫からの取調べにより、連中の潜伏先は割れている」

 

 マクシミリアンは任務の内容を通達した後、間を置き、続ける。

 

「今回、ジャティス=ロウファンの情報により、ここフェジテに『急進派』の中心人物である第三団≪天位≫のラザール=アスティールがいることがわかった。陸軍のお偉いさんはラザールを捕縛・もしくは殺害を命じた。俺達だけではなく、フェジテに展開される全部隊にだ」

 

 ラザールがフェジテのどこかにいる。それを聞いた瞬間、全員に緊張感が漂い始める。

 

 やっとだ。

 

 やっと、ニューヨークの無差別テロの首謀者を見つけたのだ。一年、総力を上げて血眼になって探していた憎き敵がやっと姿を現したのだ。

 

 失敗は許されない。誰もがそう思っている。

 

「三人一組で今回は当たってもらう。それでフェジテ中の敵を全員、敬意を持って…皆殺しにしろ。以上だ」

 

 マクシミリアンがそう言うと――

 

 しゅばっ!と、マクシミリアンの前から散開していった。

 

 全員が任務を開始したことを見届けると、マクシミリアンは、空を見上げる。

 

 空からは、陸軍特殊作戦群の連中がパラシュート降下している。

 

「……終わらせるぞ…あの惨劇を、俺達、連邦の手で……ッ!」

 

 誰ともなくそう呟いていた。

 

 

 

「……遅いですね…アルフォネア教授……」

 

 重たい沈黙に耐えかね、システィーナがぼそりと呟いていた。

 

「…………」

 

 だが、テーブルを挟んでその斜向かいの席についているグレンは、無言を貫いている。

 

 かち、かち、かち……

 

 殺風景な石造りの手狭な部屋の中、壁の柱時計だけが、規則正しく無機質に響き渡っている。テーブルの上に灯したランプの火がゆらゆらと揺れる。

 

 ここは、アルフォネア邸の地下から下水道の通路を通って、とある特定の道順を通らねば辿り着けないような魔術的仕掛けが施された先にある、秘密部屋だ。

 

 いざという時のために、セリカが造った部屋で、燃料や保存食などが完備されており、一ヶ月は誰にも気付かれずに潜伏することが可能な空間であった。

 

「ひょっとして、教授ったら道に迷っているんじゃ…だから、こんなに遅く……」

 

 重く押し黙り続けるグレンを気遣うように、システィーナがそんなことを言うが。

 

「それはない」

 

 語気強く断言するグレンを前に、それ以上は何も言えなくなってしまう。

 

 かち、かち、かち……

 

 ただ、時間だけがいたずらに流れていく。

 

 システィーナが壁の柱時計を見る。針が示すは――午前5時過ぎ。

 

 いつの間にか、もう夜が明けてしまったのか…そんなことを思った時だ。

 

「……そろそろ…現実を見るべきかもしれないな」

 

 不意に、グレンが頭を上げ、ぼそりと言った。

 

「姿を現さない。通信魔術にも出ない。何らかの手段による連絡の一つもない…鼠の使い魔を送って様子を見に行かせたら…何が起きたのか、屋敷のあったはずの場所は更地の焦土だ。辛うじて見つかったのは…セリカの衣服の焦げた切れ端だけ」

 

「………ッ!」

 

「状況から明らかだ。セリカは…恐らく…もう……」

 

「そんなっ!」

 

 がたんっ!と椅子を蹴ってシスティーナが立ち上がる。

 

「あのアルフォネア教授に限って、そんな――ッ!?」

 

「魔術師の格上喰らいなんてよくある話だ。実際、昔の俺が良くやっていた」

 

「…………ッ!?」

 

「それに知ってるだろ?今のあいつは…昔ほど無敵ってわけじゃねえ」

 

 肩を竦めながら、グレンがゆっくりと席から立ち上がる。

 

「ったく、偉そうに俺にご高説垂れてこの様…まぁ、あいつもそろそろ寿命だったってこった…まぁ、仕方ねぇ。俺をそろそろ動くか……」

 

「そんな言い方、酷い!先生は教授のことが心配じゃ――」

 

 反射的にそう言いかけて、システィーナは死ぬほど後悔した。

 

 気付いてしまったのだ。顔はなんでもない風を装ってはいるが…グレンが堅く握りしめ、微かに震わせている拳…その手に血が滲んでいることに。

 

「あ…ごめんな、さい……」

 

「いや、いい。…お前のおかげでなんとか冷静でいられるんだ……」

 

 グレンにとって、セリカは母親代わりであり、師匠であり、憧れの魔術師だ。

 

 そんな、精神的支柱の人間が生死不詳――本当は誰よりもグレンが焦り、慌てふためきたいはずなのだ。

 

 だが、システィーナの手前、そんなことはできない。なけなしの大人の矜持がなんとかグレンの思考を平静に保っている…そんな状態だったのである。

 

「ジャティス…天の智慧研究会…なぜ、こいつらが同時に動いているのか…まぁ、何にせよ、ルミアを助けるなら…こいつらとの激突は避けられねえ」

 

 どろり。グレンは自分の心が、音を立てて濁るのを感じた。

 

 それは、どす黒く、悍ましいものではあるが…久しく忘れかけていた、懐かしい感覚だ。その感覚は、まるでグレンが過去に失った力を呼び覚ます呼び水のようで――

 

「……ルミア…セリカ……」

 

 すると、グレンは身体に蘇った懐かしい力に任せ、妙に据わった声色で呟いた。

 

「……クソ共が…絶対、許さねぇ…必ず俺がこの手で……ッ!」

 

 そして、この隠し部屋の出入り口に向かって、歩き始めるが……

 

「駄目です」

 

 そんなグレンの背中へ、システィーナが駆け寄り、不意に抱きついていた。

 

「……なんだ?白猫」

 

「そっちに行っちゃ、駄目です」

 

「はぁ?行かないと出られねえだろ」

 

 少し苛立ったようなグレンの返しに、システィーナはしばらく無言を以て応じた。

 

 そして……

 

「……大丈夫です」

 

 システィーナはグレンを引き留めるように抱きしめたまま、力強く言った。

 

「ルミアも、アルフォネア教授も…二人ともきっと無事です」

 

「気休めも大概にしろ…一体、どこにそんな保証が?状況から判断すりゃ――」

 

「大丈夫ったら、大丈夫です」

 

 語気を強めるグレンに一歩も退かず、システィーナは断言して続ける。

 

「今…また、先生が遠くに行ってしまいそうな気がしました。そっちに行っちゃ駄目です、先生。…行かないで」

 

「――ッ!?」

 

 システィーナに右手を握られて、グレンは気付く――いつの間にか、自分が軍時代に愛用した拳銃を固く握りしめていたことに。

 

「私の知ってる先生は、そうじゃないんです。戦うなら…いつものように、ただ、誰かを助けるために戦って下さい…ルミアとアルフォネア教授がこんなことになって、先生が平静でいられない…そんなことわかってます…それでも……ッ!」

 

 そんなシスティーナの懇願するような表情が――グレンの記憶の隅を突く――

 

 

 

 ――だめだよ、グレン君。そっちに行ったら、だーめ。

 

 ――グレン君が目指していたものは、そうじゃないでしょう?

 

 ――大丈夫、不安にならないで。

 

 ――誰だって、一時の感情で道を見失いそうになることなんてあるんだから。

 

 ――もし、グレン君が道を間違えそうになったら…その時は、私が連れ戻して……

 

 

 

 しばらくの間、グレンは茫然と何かの物思いに耽る。

 

 宿敵ジャティスの登場とセリカの件が、自分を思った以上に追いつめていたらしい。

 

「……悪い。俺、やっぱ、冷静じゃなかったわ」

 

 頭の冷えたグレンは己の肩越しに、にっとシスティーナへ笑いかける。

 

 あの、どろどろと濁った感情はいつの間にか、まるで嘘のように消えていた。

 

「そうだな。ルミアにうぜぇストーカーがまとわりつくのはいつものことだしな。それにセリカのやつが、みすみすやられるわけがねえ。…そうだよな?だったら、俺はいつものように二人とも助けてやるだけ…それでいいんだろ?白猫」

 

「先生……」

 

 そして、安堵したように微笑むシスティーナが、グレンを離す。

 

 すると、何か思うことがあったのか…グレンは照れたように言った。

 

「……なんつーかさ、そう言えば、お前って…その、なんだ?いつも的確に、俺を前へ導いてくれるよな…?以前の結婚騒動の時もそうだった…お前が俺を、無理矢理引っ張って…日向の世界に連れ戻してくれてよ……」

 

「……え?」

 

「普段の生活だって、お前がいなかったら、俺、もっと、だらけてただろうし…お前の説教のおかげで、俺を少しだけ人間的にマシになっているような気がする……」

 

「ちょ、ちょっと…ど、どうしたんですか?急に!?」

 

「うんにゃ。今、なんとなく、ふっと思ってただけさ。多分、俺にとって、お前は……」

 

「せ、先生にとって、私は……?」

 

 システィーナはなぜか顔が紅潮するのを感じながら、グレンの言葉の続きを待つが。

 

「………、…いや、なんでもねえ」

 

 そんな続きに、システィーナはどこか、ほっとしたような、それでいて残念だったような…不思議な感覚を覚えるのであった。

 

「とにかく、だ。…話を戻すぞ」

 

 グレンも気恥ずかしいのか、頭をかきながら、強引に話題を変える。

 

「白猫。お前はとりあえず、家に帰れ。リィエルを看てやってくれ。もしくは、ジョセフを頼れ。あいつが側にいるなら安心なはずだ。ルミアは俺が必ず救いだす。…ああ、俺はもう大丈夫だ。頭は冷えた」

 

「先生!私も一緒に――」

 

「駄目だ、お前の申し出は嬉しいが…今回ばかりは嫌な予感がするんだよ。何か、このフェジテで、とてつもないデカいことが動いている…そんな気がする。」

 

「で、でも!だったら、なおさら一人より、二人の方が――」

 

 と、システィーナが抗議した、その時だった。

 

 キン、キン、キン――部屋内に、金属が反響するような音が、ふいに響き渡った。

 

「この音は…通信魔術の着信音!?セリカか!?」

 

 グレンは自分の通信魔導器…半割れの宝石を、ポケットから取り出す。

 

 だが、その宝石には、なんの反応もない。

 

「……俺のじゃねぇ…?じゃ、なんの音だ……?」

 

 謎の着信音の出所を探るように、グレンとシスティーナが周囲に注意を払う。

 

 やがて…それに気付いたシスティーナが、恐る恐る自分のスカートのポケットの中へ…手を入れた。

 

「……せ、先生…これ……ッ!?」

 

 システィーナの手には、点滅して着信音を立てている、半割れの宝石があった。

 

「わ、私、こんなの知らない…私のじゃない……」

 

「貸せ!」

 

 半ば確信に近い予感と共に、グレンはシスティーナの手からその宝石――謎の通信魔導器をひったくり、もどかしく操作する――

 

『やぁ、グレン。…ご機嫌いかがかな?』

 

 宝石を耳につけるや否や、ねっとりとした言葉が、グレンの耳に潜り込んでくる。

 

 忘れもしない――あの男の耳障りな声だ。

 

「……ジャティス……ッ!」

 

『くくく…久しぶりだねぇ、元気だったかい?』

 

 ぎり…と、グレンの歯ぎしりする音が、小さく部屋内に響き渡った。

 

『グレン。取り急ぎ、君がいの一番に聞きたいことを伝えよう…ああ、大丈夫、心配要らない…ルミアは無事だよ。なんだったら……』

 

『えっ!?せ、先生!?先生なん……』

 

 一瞬、ルミアの声がグレンの耳に飛び込み、たちまちフェードアウトしていく。

 

『……どうだい?グレン。少しは安心できたかい?』

 

「てめぇ……ッ!」

 

 先ほど、システィーナのお陰で引っ込んだ黒い感情が、再びどろどろと鎌首をもたげてくるのを必死に振り払う。

 

「どういうつもりだッ!?今回はルミアを攫って、こうして俺に接触し…一体、何を考えてやがるッ!?それに、あの天の智慧研究会の連中はなんだッ!?どうして、ジョセフの通信魔導器を白猫のポケットに入れたッ!?てめぇ、まさか連中とグルになって――」

 

『は?僕が天の智慧研究会(あの下劣なクズ共)とグル?いくら僕が尊敬する君でも、言っていいことと悪いことがあるぞ?グレン……』

 

 一瞬、激しい憤怒が通信魔導器ごしに伝わり、グレンの鼓膜を焦がした。

 

『まぁ…今は時間が惜しい。話を進めようか……』

 

 だが、すでに気を取り直したのか、飄々とした楽しげな雰囲気が、宝石型の通信魔導器ごしにグレンを煽ってくるのであった。

 

『ゲームをしよう…グレン』

 

「ゲーム…だと?」

 

『これから僕が出す課題を、君がこなす…そういうゲームだ。君が僕の要求に答え続ける限り…ルミアの命は保証しよう。だが、君がその課題をこなせない、課題を放棄したその時は…ふっ、わかりやすいだろう?…どうだい?』

 

「ちっ…信用できねえな。そもそも、さっきのルミアは本当にルミアの声か?魔術的に誤魔化す手段はいくらでもあるぜ?もう一度――」

 

 グレンはなるべく会話を長引かせ、より情報を引き出そうと試みるが……

 

『ははははは…抜け目ないね。流石だと言いたいところだが…今の君に、僕の要求を呑む以外の選択肢がありえると本気で思っているのかい?』

 

 お見通しらしかった。どうやら向こうの方が一枚上手らしい。

 

「……くそ……ッ!」

 

『そう堅く捉えないでくれ。ただ、僕は君に少し手伝ってもらいたいだけなんだ…このフェジテを救う手伝いを、ね』

 

「……、………は?フェジテを…救う?」

 

 グレンには、ジャティスの言っている意味がまるで理解できなかった。

 

「おい、そりゃ一体、どういう――」

 

『さぁ、時は金なり!僕達には、もう時間が残されていないんだ!早速、君に課題を出そう…まずは――……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回から米国面を紹介していきたいと思います。

まず最初はサターンVロケットです。

「月に人類を送る」アポロ計画で使われたロケットです。

 現在でも世界最大の打ち上げロケットであり、その全長はなんと110.6m。打ち上げセットをすると、高層ビル並の高さになります。大きさも然ることながらパワーも絶大で、低軌道に118トンもの物資投入能力を持っています。

 因みに、日本が誇る大型ロケット、H-2Bロケットが全長56.6m、低軌道投入能力が19トンである点と比較すれば、いかに巨大でハイパワーであるかがわかります。

 さすがにこれ程のロケットはアメリカの財力にも響き、アポロ計画(20号まで予定していた)は17号までで終わってしまいました。だって、一発5億ドル、当時の日本円の相場ですら180億円、現代の価格なら約600億円もするんですよこれ(因みに、H-2Bロケットは一発約150億円です)。


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