ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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100話執筆中に思ったこと

フェジテ最悪の三日間という大騒乱になるって?なら、もっと大事にしちゃえ。


101話

『おめでとう、グレン。第一の課題、無事にクリアだ』

 

「死ね!?お前、死ね!ホント、マ ジ で、死ねッッッ!」

 

『でも…僕が君に提示した口上文とは随分違ったみたいだけど?せっかく、連中の怒髪天を衝くような、芸術的で挑発的な煽り口上を提示してあげたのに……』

 

「やかましいっ!舌噛むわ、ボケッ!」

 

 ジャティスの言葉を無視し、大通りをものもの凄い勢いで駆けながら、グレンが叫く。

 

「ええい、どけッ!有象無象ッ!」

 

 叫びながら、グレンは空に向かって拳銃を発砲する。

 

「きゃああああああああああああああああああ――ッ!?」

 

「うわぁあああああああ――ッ!?た、助けてくれぇえええええ――ッ!?」

 

 銃声を聞いた人々が、我先にと逃げていく。

 

 そうして、開けた隙間を突っ切るグレン。

 

 中央区五番街ラークル大通りは今、まさに大混乱の極みであった。

 

「おい!?あの行動に、一体、なんの意味があったんだよ!?ド畜生!」

 

 ”フェジテ警邏庁舎前広場で、指定した犯行声明文を高らかに読み上げ、爆破テロを行う”――それが、ジャティスグレンに課した『第一の課題』であった。

 

「待てぇえええええ――ッ!?グレン=レーダスッ!」

 

「止まれぇえええええええ――ッ!?凶悪犯め!」

 

 そのお陰で、グレンは今や完全に警備官達に捕捉されており、警備官達が大挙、群れをなし、猛然とグレンを追いかけてくる始末であった。

 

「てか、さっきから街のあちこちで銃声やら爆発音とかがしているんだが、何が起きてるんだ!?」

 

 さっきからフェジテのあちこちで銃声等が響き渡り、人々達は悲鳴を上げながら、逃げまどっていた。

 

 にもかかわらず、警備官達はそんな異常事態を気にも留めず、グレンを追いかけている。

 

 この時、警備官達と、天の智慧研究会≪急進派≫の殲滅のため展開している連邦軍との間で銃撃戦が繰り広げられているが、グレンはそんな事を知る由もない。

 

「クソッ!お前、さてはアレだな!?やっぱ俺に恨みがあるんだな!?そうなんだな!?」

 

 激流のように後方へ流れる街の光景を尻目に、グレンが喚き散らす。

 

『何を馬鹿な。僕は私怨による復讐などという無駄で無意味で下らないことはしない…これは全て、もっと崇高な目的のためなのさ。信じてくれ(トラスト・ミー)

 

 だが、切羽詰まるグレンとは逆に、ジャティスはどこまでも楽しそうだ。

 

『でも…ああ、本当に助かるよ…君のおかげで、こちらの仕事も捗りそうだ』

 

「はぁ!?てめぇ、一体、何を言って――ッ!?」

 

『それじゃあ、続いて『第二の課題』だ、グレン……』

 

 グレンの問いには答えず、ジャティスは一方的に次なる指示を出した。

 

『次は…そうだね。”僕が良いと言うまで、絶対に警備官に捕まるな”…これだ』

 

「はぁ!?てめぇがこの状況を作り出しておいて、何言ってやがる――ッ!?」

 

『手段は問わない。何だったら警備官を殺しても構わない。市民を人質に取るのもありだ…とにかく捕まるなよ、グレン…君が捕まったら、ルミアの命はない』

 

「ちぃ――ッ!?」

 

 忌々しい。悔しい。腹が立つ。呪わしい。

 

 こうして憎きジャティスに意味不明な命令をされて、それでも、それに従うしかないこの状況が、グレンは何もかもが苛立たしく、腹立たしい。

 

「白猫ッ!聞いたか!?一定時間、警備官達との鬼ごっこだとよ!?」

 

『は、はいっ!』

 

「なんとしても逃げきる!ナビ頼むぞ!」

 

『わかりました!早速ですが、前方五十メトラ先の曲がり角から、警備官達が隊伍を組んで迫ってきてます!その服飾店に入って!その裏口から路地裏へ――』

 

「了解だッ!」

 

 そう返して。

 

 グレンは、走る方向を直角に変え、服飾店の中に飛び込むのであった。

 

 警備官達が隊伍組んでいた所が、やがて連邦軍と警備官達が交戦状態になったのはそれからすぐのことであった。

 

 

 

 ――撃ちまくる。

 

 とりあえず、撃ちまくる。

 

 ジョセフは今、西地区――住宅街で道を挟んで警備官達と交戦していた。

 

 住宅の塀を盾にし、隙を見ては半身乗り出し、小銃を撃ち込む。

 

「クソ、マジでなんなん……ッ!?」

 

 ジョセフは悪態をつきながら、クリップに五発まとめられた銃弾を再装填する。

 

 ジョセフ達は西地区で掃討作戦を進めていた途中、警備官と遭遇。

 

 瞬間、警備官達はジョセフ達を見るなり問答無用で攻撃を仕掛けてきたのである。

 

 不意討ちに等しい初撃はなんとか躱したものの、多数の後続の警備官達が到着し攻撃し、現在に至っている。

 

 これは、自分達だけではなく、フェジテ中に展開している、連邦軍全部隊も、突然の攻撃を受け、あまりにも突然の事態に初動が遅れ、少なからぬ犠牲者を出してしまっていた。

 

『なんだこれ!?一体、どうなってやがる!?』

 

『なぜ警備官がこちらを撃っているんだ!?上の連中は話をつけたんじゃないのか!?』

 

『どうしますか!?こちらも撃ちますか?でないと殺られます!』

 

『くぅ…撃て、撃つんだ!でないと自分達が殺されるぞ!』

 

『クソったれがッ!……ッ!?ジョーンズ!後ろに警備官が…ッ!?こっちだ!こっちに退避――』

 

 通信機ごしに伝ってくる味方の混乱ぶり。それは、阿鼻叫喚の地獄だった。

 

「クソッ!」

 

 ジョセフはそんな様子を聞き、舌打ちする。

 

 装備の質は断然こちらが有利だ。

 

 連邦軍の装備は通信機はもちろん、ボルトアクション式小銃、半自動小銃、短機関銃、ショットガン、軽機関銃など、最新鋭の重火器や装備なのに、警備官はごく一部の警邏官僚を除いた一般警備官の標準装備は細剣とパーカッション式の、連邦軍が装備している自動式拳銃に比べたら旧式の回転弾倉拳銃、そして、帝国軍の軍服や連邦軍特殊部隊の戦闘服と比べれば性能は劣るが、防御効果や身体能力強化が付呪されている制服だ。

 

 この混乱が収まれば、連邦軍はすぐに圧倒できるものなのだが――

 

「ジョセフ!後ろからも敵の増援が――ッ!?」

 

「はぁ!?マジかよ!?」

 

 前方の敵を銃撃戦を展開している最中に、後方からも挟み撃ちにするように警備官が展開してきているのだ。

 

(なんだこれ?連中、妙に的確過ぎる……)

 

 ジョセフは前方の警備官達に向かって、塀に立て掛けてあった短機関銃を取り、乱射しながら、思う。

 

 たかが、と言ったら失礼だが、本当にこんな展開の仕方はたかが警備官が可能なのだろうか?

 

 ジョセフらデルタもそうだが、その他の特殊部隊もかなり実戦経験を持つ、いわば精鋭中の精鋭部隊だ。

 

 いや、そもそも連邦は必ずどこかでドンパチしている国なのである。そのため、軍全体の練度は世界的に見ても高い、戦争のプロだ。

 

 しかし、警備官達は、まるで一つの生き物であるかのような、不可解なほど意思統一された連携で、連邦軍とやり合っているのである。あのレベルの連携、通信機を用いて連絡を取り合って作戦行動する連邦軍だって不可能な動きだ。

 

(……まさか)

 

 ジョセフは他の場所で起きている銃撃戦の状況を、通信機ごしに確認し、頭の中で整理する。

 

 状況を整理し、相手が『通常』の警備官だと想定して、連中の行動を割り出す。

 

 その結果――

 

(……確か、左手の路地裏から、大通りに出てこちらに合流する部隊があったな……)

 

 各地で散開した状態では、各個撃破される恐れがあるため、いくつかの部隊と合流、作戦を続行するという話なのだが……

 

「アリッサ。こちらに向かっているはずの味方に連絡を取ってくれ。今どうなってるのか知りたい」

 

「……?わかった…けど、なんで?」

 

「多分、その部隊、連中に囲まれて身動きが取れないはずだ」

 

「え?」

 

 ジョセフの言葉に、アリッサが珍しく戸惑うような反応を返してきて……

 

 しばらくすると。

 

「貴方の言う通り、彼らは囲まれて動けない…いつの間にか回り込まれている…なんで?」

 

「……やっぱりな」

 

「え、どういうこと!?なんで、わかったの!?」

 

 ダーシャの驚きを他所に、ジョセフは一人、思索に耽る。

 

(この不自然過ぎる警備官の動き…これは、ひょっとすると……)

 

 ジョセフは塀から少し身を乗り出し、向かい側の警備官の方を覗く。

 

 やはり、これは。

 

 ジョセフは嫌な予感を覚えると。

 

「ジョセフ…四方八方から敵…囲まれた」

 

「――ッ!?」

 

 内容は非常にマズいものなのだが、アリッサは淡々と告げる。しかし、その顔は、いつの間にいたの?という驚きの表情だった。

 

(……これは)

 

 すると、異常なまでに統率力のある警備官全体の動きを聞き、ジョセフはある確信に至った。

 

 この先回りされているような、先読み配備のされかたは――ありえない。

 

 たとえ、どんなに指揮の上手い指揮官に統率されても…指揮される側は人間。どんなに訓練しようが、戦場に駆り出されようが、その連携には、指揮の伝達連携には、限界と埋めきれないタイムラグというものが必ず存在する…そういうものだ。

 

 だが、今、通信機から、ダーシャやアリッサから聞かされた展開のされかたは、普通の人間には無理だ。

 

 それこそ――何らかの魔術によって、全員が無意識下の意思共有でもしていない限り。

 

(あの警備官達…あの様子を見る限り、社交舞踏会の様に傀儡になっている…わけではない。そんなあらかさまな異変があれほどの大勢の警備官に仕込まれれば、上は必ず気付く…なのに、この非人間的統一感……)

 

 ジョセフはこの銃撃戦の裏側を推察する。

 

(となると、支配されていると本人に気付かせない暗示魔術か…警備官達は知らない間に強力な暗示で共通深層意識野を通して無意識のうちに意思統一されていると思っていい。そして、その支配者たる者が、その群の警備官を個のように動かしている…そんなとこか)

 

 つまり、誰か一人に指示や情報を飛ばせば、共有された深層意識下を通して、それをノータイムラグで、全体が共有できるというわけだ。

 

 そして、その違和感に誰も気付かない――無敵の指揮術である。

 

(”暗示による無意識下の意思統一”…これほどの大規模な数の警備官相手にそれをやってしまうということは…下手人は恐らく相当な技量を持った魔術師ってことになるんだが)

 

 となると、その正体は?

 

 ここまで考えると正体はもうわかったも同然だった。

 

 ”戦争のプロ”相手に正面からドンパチしてでも、消そうとしているのだから、連邦軍の存在はよっぽど自分達には不都合なのだろう。

 

 そう思っている連中なんざあの組織しかいない。

 

「ホッチ、西地区で一人になっている奴がいるのかドローンで調べてほしいんやけど、できる?」

 

『一人?西地区でか?いや、できなくはないが……』

 

 ジョセフは通信機で、ホッチンズに捜索を依頼すると、困惑にも似た反応が返ってくる。向こうでも、かなり激しい銃撃戦の様子が伝わってくる。

 

「ああ、住宅街とか人気のないところで一人不自然にいる奴や。そいつがこの銃撃戦の黒幕かもしれん」

 

『了解…といっても、もう見つけた。お前達のところからそう遠くない二ブロック先の人気のない住宅街に一人発見した。お前が求めていたのは恐らくそいつだろう』

 

「流石、仕事が早いこと…了解。んじゃ、そいつを潰してくるわ」

 

 ジョセフは通信を切ると、塀に張り付いて、応戦している二人に。

 

「二人とも、ここから出るぞ」

 

「それって、敵中突破しろと?」

 

 短機関銃から発射される拳銃弾をバラまきながら、言うダーシャ。

 

「そういうこと。この路地裏に連中の指揮官がいる。まぁ、その正体は天の智慧研究会の連中だが」

 

「あぁ、そういうことね。だから、いきなり発砲したりとかなんでかなと思ってたけど、連中が操っているなら納得だわ」

 

「どうやって、行くの?」

 

「あの向かい側を突っ切るしかないな。あそこなら他のところより手薄だから、突破できるかもしれん」

 

「オーケイ。じゃあ、三人でその指揮官を吊るして差し上げましょうか」

 

 かなりのお怒りなのだろう、目が完全に据わっているダーシャ。

 

「よっしゃ、んじゃ、合図出すでー」

 

 二人の了承を得たジョセフは、向かい側の家の敷地内の様子を見。

 

 連中の火線が弱まるタイミングを見計らって――

 

「よし、それ突っ込め――ッ!」

 

 弱まったタイミングで、ジョセフ、ダーシャ、アリッサは住宅敷地内から飛び出し、短機関銃を乱射しながら、通りを横切るのであった。

 

 

 

 

 

 ――フェジテ西地区の某所。

 

 すぐそこでは激しい銃撃戦が繰り広げられている中、人気のない住宅地を悠然と歩きながら。

 

「……やれやれ、随分と手間取ったが、そろそろ終わるかな」

 

 フェジテ警邏庁警備官、ユアン=べリス警邏正は、所持する各通信魔導器から送られてくる、グレンの追跡情報を頭の中で演算し、勝利を確信していた。

 

 連邦軍との戦闘では、装備の質は向こうが上なのだが、不意討ちに成功したため、今のところ互角の状況に持ち込んでいる。

 

「ふっ…ラザール様の手を逃れたグレン=レーダス…まさか、こうもあっさりと始末できることになるとは…案外拍子抜けだ」

 

 そう、ユアン=べリス警邏正…上司からの信頼厚い、警邏官僚の若きエリートである彼は…天の智慧研究会『急進派』に属する外道魔術師であったのである。

 

 今回の計画は、隠形のままに遂行することに意味がある。組織の人間が表立って動くわけにはいかない。なればこそ、警邏庁に密かに取り入っているユアンの出番だ。

 

(私の暗示魔術は世界一だ。何人たりとも、私の暗示から逃れる術はない。警備官の彼らは、自分が操られているということに気付いてすらいない……)

 

 今、警邏庁の警備官で、ユアンの部下の全員が、ユアンの暗示魔術の影響下にある。

 

(現場の暴走で、警備官が凶悪犯罪者に向かって発砲、業務上過失致死。手を下した警備官は懲戒免職、僕は記者会見で遺憾の意…まぁ、そんな落とし所だろう)

 

 情報によれば、相手は【愚者の世界】という変則魔術以外に取り柄のない三流。

 

 ならば、警備官のような者達こそ、彼の天敵。

 

(連邦軍の場合、連中は表立った抗議はできない。なぜなら、これは非公式な作戦なのだから。損害が出ようが、部隊が壊滅しようが文句は言えない。一方、僕達は正体不明の武装集団がフェジテを襲撃したと公式発表すればいい。ふっ…魔術師の強さとは、単純な戦闘能力ではない…無論、それも一つに数えられるが、大切なのは、己が目的を達成するための、”手札の強さ”なのだよ……)

 

 そういう意味では捉えれば、己が望む状況を暗示魔術であらかた組み上げることが可能なユアンは、最強クラスの魔術師と言っても過言ではない。

 

(さて…そろそろ、連絡が来る頃だと思うんだが……)

 

 ちょうど、ユアンがそう思った…その時だ。

 

 所持している通信魔導器に、現場の警備官達から入電があった。

 

「こちら、ユアン警邏正。現場の様子はどうだ?ホシはちゃんと逮捕したか?まさか発砲などしてないだろうな?いくら相手が許しがたい凶悪犯とはいえ、そんな人道にもとる蛮行、≪私は許可していない≫からな?」

 

 暗示を乗せて、そんな白々しいことを言いながら、ユアンが嬉々として応じるが……

 

「……?…な、なん…だと……ッ!?」

 

 耳に飛び込んできた報告は、とても信じられないようなものだった。

 

「グレン=レーダスを見失った…ッ!?馬鹿な…ッ!ありえない……ッ!」

 

 ユアンが慌てて手元の地図を見る。何度確認しても間違いない。あの包囲網から逃れるのは不可能だ。どこにも逃れる道などない。なのになぜ――

 

「そ、そうか、わかったぞ、やつは地下だッ!≪命令≫だ!今からその周辺の下水道設備の入り口を徹底的に封鎖――」

 

『しかし――地図上では、あの周辺に下水道に通じる入り口はありませんっ!』

 

「そんな馬鹿な!?ええい!なら、もっとよくホシを探せッ!三班と五班は――」

 

 通信器を通し、ユアンは苛立たしげに、部下達へ指示を飛ばしていく。

 

「……一体、どうなっているんだ…ありえない、ありえないだろう!?」

 

 しばらくして、指示を飛ばし終えたユアンが、語気荒く通信を切った。

 

「……くそ、隠形を重視して指揮に徹し、私が表立って動かなかったのが、裏目だったか…こんな離れた場所にさえ、いなければ……ッ!」

 

 ユアンが悔しげに歯噛みしていた…その時だった。

 

 かつん。

 

 不意に、ユアンのいるその薄暗い路地裏に、靴音が響いた。

 

 かつん、かつん、かつん……

 

 ゆっくりと近付いてくる靴音に、ユアンが振り返れば……

 

「こんにちは…ようやく見つけたよ、ユアン=べリス警邏正……」

 

 そこには、山高帽とフロックコートをまとった奇妙な青年が姿を現していた。

 

「な…何者だ、貴様は……ッ!?」

 

「フェジテ警邏庁に件の組織の内通者がいるのは掴んでいた…その内通者が、暗示魔術で警邏庁の半数以上を支配しつつあったことも」

 

 誰何に応じず、奇妙な青年は淡々と一方的に言葉を続ける。

 

「だが、誰が内通者なのか…それだけはわからなかった…なぜなら、君の暗示魔術と隠形は完璧に過ぎた…暗示支配の出所が誰なのか…まるで僕に掴ませなかった。すごいよ、誇っていい。君は恐らく世界一の暗示魔術の使い手だ…だが……」

 

 次の瞬間、青年の相貌には、凄絶な狂気に満ちた笑みが浮かんでいた。

 

「奢ったな、ユアン。愚かにも、君は暗示魔術を使って指示を出した…それをやれば、確実に不自然な動きが警備官に出る…なら、指揮系統を洗えば、必ず支配元に辿り着ける…そう”読んでいたよ”、天の智慧研究会ぃ…かは、はははははは……」

 

 低く響く壊れた嗤い声。吹き荒れる歓喜と、殺意と、憎悪と、狂気。

 

 ありとあらゆるドス黒い感情が、暴力的なまでにユアンを殴りつける。

 

 拙い。この男は拙い――天の智慧研究会の第二団≪地位≫たるユアンをして、そう思わせる圧倒的な闇が、その青年の全身から、ぶすぶすと滲み出していた。

 

「な…何のこと…だ?天の智慧研究会…だと?わ、私は警邏庁の……」

 

「ご託はいらないよ、クズが。ただ、死ね。ゴミのように」

 

 ゆるりと左手を振りかざす、青年――ジャティス。

 

「ちぃ――ッ!?」

 

 それを警戒し、距離を取って攻性呪文を唱えようと、ユアンが素早く跳び下がり――

 

「うぎゃぁああああああああああああああああああ――ッ!?」

 

 突如、空間に盛大に咲いた、血華。

 

 ユアンの後方から隊伍を組んで突進してきた無数の天使が、その手の槍で、ユアンの両手両足を滅多刺しの串刺しにし――地面に引き倒していたのだ。

 

 そして、その槍に赤い稲妻が漲り、それが伝わってユアンの身体を縛り上げる――

 

「うぎゃああああ――ッ!?な、なんだこれは!?身体が動かないぃ……ッ!?」

 

 昆虫のように、無数の槍で地面に縫い付けられたユアンが悲鳴を上げる。

 

「くっくっく…人工精霊【彼女の御使い・磔刑】…その槍に貫けれた君の動きはもう、魔術的に封殺された……」

 

 そして、ジャティスは仕込みステッキから細剣を抜き放ち……

 

 それを、ユアンの眉間へ冷酷に突き付けた。

 

「ひ、ひぃッ!?た、助けてくれぇえええええ――ッ!?い、命だけは……」

 

「おや?なら、君は自分の罪を認め、懺悔し、悪事から足を洗うと…誓えるかい?」

 

「ち、誓う…だから命だけは……ッ!」

 

 すると、ジャティスはどこまでも昏く笑って……

 

 再びユアンの凄惨な悲鳴が路地裏に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





こんなもんで。
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