ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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十章に入りますよ


第10章
106話


『グレン、これは試練よ』

 

 赤く、紅く、朱く燃え落ちる空の下で。

 

 神々しくも禍々しい、異形の翼の少女は厳かに告げた――

 

『貴方は、これから起きる災厄を、生き延びなければならない――』

 

 どこまでも昏く、深い奈落の闇を湛えた瞳で。

 

『未来と――そして、過去のために』

 

「はっ…冗談、きついぜ」

 

 対するグレンは乾いた笑いを浮かべるしかない。ナムルスの禅問答に付き合ってやるには、その光景はあまりにも非現実的に過ぎた。

 

『ははははははははははは……』

 

 目の前には、特濃の闇を纏って嗤う魔人――

 

 頭上には、破滅を運ぶ真紅の箱船――≪炎の船≫。

 

 空も、大地も、何もかもが鮮血のように赤い、終末のような世界。

 

「……なんだよ、これ?なんなんだよ、これ……?」

 

 嗚呼、まるでお伽噺だ。夢と現実、狂気と正気の境界を融解させるようなその光景に、グレンは己の理性がズタズタに削れていくのを、呆然と傍観するしかなく。

 

「なんなんだぁぁぁぁ――」

 

 崩壊した自我を、絶叫と一緒に吐き捨てようとした――その時だ。

 

『グレン、呑まれないでッ!気をしっかり保ってッ!』

 

 間一髪、ナムルスの一喝が、グレンの正気をぎりぎりで繋ぐ。

 

 不意にグレンの目と鼻の先に現れた、ナムルスの昏い憤怒に燃える退廃的な双眸が、まるで気付けの火を見たように、グレンを我に返らせる。

 

「ぜは――っ!ぜは――っ!ひゅ――っ!ごほっ、げほっ……」

 

『まったく…人間の精神っていちいち薄弱ね。…世話が焼けるわ』

 

 過呼吸で咽るグレンを、ナムルスが蔑むように一瞥する。

 

 我に返ったグレンは、全身の毛穴が一斉に開き、大量の冷や汗が全身を舐める不快な感触を堪えながら、周囲を見渡す。

 

 周囲の状況は、グレンと似たり寄ったりであった。

 

 セリカ、ツェスト男爵、リィエルですら、常識がこの馬鹿げた現実についていけず、呆然と思考放棄をしている。

 

 ハーレイに至っては「アリエナイ、アリエナイィィィ」と頭髪を両手で激しく掻きむしり、その大切な毛根に多大な損傷を与えていることにまるで気付いていない。

 

 学院校舎から様子を窺っていた生徒達も同様、ただ忘我する者、幼児退行して泣き喚く者、挙げ句の果て、失神者や失禁者まで出てしまっている有様だ。

 

 そんな誰もが自我崩壊の阿鼻叫喚に翻弄されている中で――

 

『……さて、そろそろ本題に入ろうか』

 

「……ッ!」

 

 ルミアだけが、臆せず動じず、毅然として、魔人と対峙していた。

 

『さて、ルミア=ティンジェル…貴女に恨みはないが、死んでいただく』

 

 魔人は、そのフードの奥から昏く光る双眸でルミアを突き刺しながら、そう告げた。

 

『我らが大導師様のために。そして、私が信仰する神のために!』

 

「……神…ですか?」

 

 ルミアの返しに、魔人が頷いた。

 

『その通りだ、『双生児の器』よ。確かに、今世の貴女は『空の巫女』に、限りなく近づいてはいる…だが、まだ不十分なのだ…私の信仰は、神には、もっと完璧なる『空の巫女』が必要なのだ……』

 

「『双生児の器』…?『空の巫女』…?それは一体……?」

 

『次の貴女。次の次の貴女。次の次の次の貴女。『空の巫女』が完全なる存在となるまで繰り返させてもらう…我らが今まで、そうしてきたように』

 

 魔人の言葉の真意は、何一つわからない。理解できないが――

 

『偽りの巫女よ。その命、捧げよ…我が、大いなる主のために!』

 

 魔人はルミアを殺すつもりである――それだけは、その漲る殺気から理解できた。

 

「……させねえよ」

 

 グレンは、気の萎えた身体を必死に鞭打ち、ルミアを背後に庇うように立った。

 

「テメェの言ってることも、神サマとやらも、何がなんだかサッパリわかんねーがな…ルミアには指一本触れさせねえ…てめぇは俺が倒す」

 

 グレンは拳銃の銃口を、ぴたりと魔人へ向ける。

 

『よかろう。やってみるがいい…この≪鉄騎剛将≫アセロ=イエロに対してッ!』

 

 魔人が、今気付いたとばかりに、グレンへ悠然と向き直る。

 

 途端――大気が、更なる死闘の予感に震えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 マクシミリアンを筆頭に、デルタはアルザーノ帝国魔術学院に急行している。

 

 中央区から北区へ大通りをただひたすら駆けていく。

 

 そして、学院に着いた時、彼らが見た中庭の光景は――

 

「……マジかよ……」

 

 その光景は、あまりにも悲惨なものだった。

 

 今、中庭にはグレンとルミアがいたが――

 

 グレンは右手が悲惨な状態になっていたし、ハーレイやツェスト、セリカ、クリストフ、システィーナはマナ欠乏症に喘いでいる。

 

 酷いダメージに血反吐を吐いて倒れ伏す、バーナード、リィエル。

 

 辛うじて二の足で立つものの、手痛い負傷を負ってしまったアルベルト。

 

(なんだこれ!?学院の連中だけならまだしも、アルフォネア教授と特務分室の連中が来ているにもかかわらずこの様なん!?)

 

 ジョセフはその惨状を見て、ルミアの前に立ちはだかるまったくの無傷の魔人らしき者を見る。

 

 頑健な漆黒の全身鎧に身を包み、その上から緋色のローブで全身を覆っている。フードから覗くバイザーの奥は無限の深淵色を湛え、その表情は窺えない。

 

 その全身から立ち上がる闇色の霊気。まるで闇そのものが辛うじて人の姿を取ったかのような――そんな魔人が、セリカ達の前に顕現していたのだ。

 

「……ラザール」

 

 その姿を見て、ジョセフは舌打ちする。

 

「大佐」

 

「はぁ~…これ終わったら、給料爆上げしてくんないかな~?」

 

 この惨憺たる状況をマクシミリアンはそうぼやき、中庭に向かうのであった。

 

 

 

 一方、中庭では。

 

(……こんなやつ、どうしろと?)

 

 グレンは、惨憺たる周囲の状況を見渡し、絶望感に足下が崩落するような感覚に囚われていると。

 

「もう止めてくださいッ!」

 

 いよいよ耐えきれなくなったらしいルミアが、そんな声を張り上げていた。

 

「貴方の狙いは私でしょう!?私を殺してくださいッ!」

 

「お、おい!?ルミアッ!?」

 

「あ、貴女、何言って――」

 

 グレンとシスティーナの制止の声を聞かず、ルミアは訴えるように続けた。

 

「私が死ねば、貴方は満足なんでしょう!?だったら、私を好きにしてくれて構いません!だから、お願いしますッ!もう、これ以上、皆を――」

 

 その時――

 

「成程ねー。ジョセフの言う通り、こりゃ世話の焼けるお嬢ちゃんだ」

 

 ルミアの懇願を遮るように男性が話しながら、ルミアの前に出て、魔人と対峙する。

 

 二十代の坊主頭の飄々とした、まるで若き頃のバーナードと似たような男。

 

 黒のロングコートに、黒を基調にした軍服、ベレー帽という出で立ちの男は、まるで魔人に臆することなく対峙している。

 

(何だ?この男…?敵…ではなさそうだが)

 

「やぁ~ラザールさん。お久しゅうございます…ああ、そうか。今はアセロ=イエロだったか」

 

 男はおちゃらけたように魔人に向かって話しかける。

 

 圧倒的な存在感を持っている魔人に対して、まるで再会した友人のような話し方だ。

 

『む。貴様は……』

 

「あ、申し遅れました。アメリカ連邦陸軍第1特殊部隊デルタ分遣隊所属、ナンバー1≪デラウェア≫のマクシミリアン=テルミドールと申します」

 

 その男――マクシミリアンは、自己紹介しベレー帽を取り、紳士のような優雅な礼をする。

 

「ふん…やっと来たか」

 

「ああ…随分と遅い登場なこって」

 

 連邦軍の登場に、アルベルトとグレンがそう呟く。

 

『ふん…連邦が…今さら何しに来た?』

 

「いやぁ、実は我らが大統領が是非とも貴方に会いたいっていうもんですから、『招待』しに来ましてね」

 

 マクシミリアンはそう言うと。

 

 途端に、周囲の空気が氷点下に下がった、ような気がした。

 

「ていうわけで、連邦に来てもらいまっせ。理由はお分かりですね?」

 

 そう言うと同時にマクシミリアンは、ポケットに手を突っ込んで、魔人と対峙するのであった。

 

 周囲もジョセフを始め、十二人が魔人を取り囲む。

 

『マクシミリアン=テルミドールと言ったな…残念だがその願い承諾しかねる』

 

「ほう?」

 

『私の目的はルミア=ティンジェルはもちろん、大導師様の大いなる悲願達成の生贄にするため、この場の連中を皆殺しにし…そして、フェジテを滅ぼす』

 

「ふーん…やれるもんならやってみなはれ。…まぁ」

 

 普通なら魔人のこの非情な宣告に絶望が襲うはずなのだが。

 

 マクシミリアンは、相変わらず飄々とした表情で言い――

 

「――あんたは≪喋ることはできても、動くことはできないからな≫」

 

 なにやらわけのわからないことを魔人に言っていた。

 

 そして――

 

『いざ神妙に、逝ねッ!』

 

 魔人がマクシミリアンの頭部に向けて、手刀を振り落とす。

 

 対するマクシミリアンは――にやりと笑ったまま、まるで何をしてくれるのか楽しみにしているような、魔人相手に余裕の表情だ。

 

「おい、お前!?よけ――」

 

 グレンから見たら、マクシミリアンはぼーっと突っ立ているように見えたのだろう、避けるように警告するが、もう遅い。

 

 そして、魔人の手刀は、マクシミリアンの頭部に――

 

「………」

 

「………あ、あれ?」

 

 振り落とさなかった。

 

 そもそも、魔人は動いていなかった。

 

 いや、この場合は――

 

『むぅ――ッ!?』

 

 魔人は身体を動かそうとするが、動かない。まるで首から下は銅像になってしまったかのように、足に根っこが張ってしまったかのように動かないのだ。

 

「……は?」

 

 グレンは今の光景を目を点にして硬直している。

 

 グレンだけじゃない、セリカもシスティーナも、学院の関係者は全員、魔人の身に何が起きているのか、マクシミリアンが何をしたのか、まったくわからず、硬直している。

 

(あいつ、魔人の動きを封じた…?一体、何を……)

 

 対する、マクシミリアンはにやにやと笑って。

 

「どうしました?うちを真っ先に殺すんじゃなかったんですか?」

 

 白々しく魔人に言う。

 

「ああ、なるほど。そういうことか、せやったら、動かないほうがいいですよ?動いたら≪ちょっとの衝撃で転んじゃいますから≫」

 

 その瞬間。

 

 魔人の身体が突然動き出した。

 

 突然身体が自由になった魔人は一瞬、戸惑うが、すぐさまマクシミリアンに手刀を振り落とそうとするが――

 

『ぬぉ――ッ!?』

 

 パァンッ!乾いた銃声が鳴り響き、銃弾が魔人に当たる。

 

 だが、魔人の身体は神鉄できている。銃弾なんて砂利石みたいなもので、魔人には何の障害にもならない。

 

 そう、普通ならば。

 

 だが、魔人は銃弾を背中に受けた瞬間――

 

 ズサァアアアア――っと、盛大に転んだのだ。

 

「な――ッ!?」

 

 グレンは信じられないような目でその光景を見た。

 

(嘘だろ!?ダメージは入っていねえが、銃弾一発でこんなに転ぶか、普通!?)

 

 まさに有り得ない瞬間だった。

 

「ああ、すんません、すんません。ここはもしものために≪立たないほうがいいですよ≫?」

 

 マクシミリアンが笑いながら、そう言った途端、今度は魔人は立てなくなり――

 

「次は≪両腕が動かなかったりして≫(笑)」

 

 その言葉の後、魔人の両腕は動かなくなったり――

 

 まるで、マクシミリアンから強制的にそうさせられている、そんな感じがした。

 

(あの男、暗示魔術であのチート野郎を操っているのか!?ていうか、接敵した瞬間にここまで操れるか?普通…あ、有り得ねぇ……)

 

 今まで、グレン達を子供扱いさせてた魔人が、今は、マクシミリアンという連邦軍の軍人に玩具のように遊ばれまくっている。

 

(ジョセフもそうだったが、この男はそれ以上に大概なやつだ。こんなやつ、絶対に敵に回したくねえ)

 

 こいつら、マジモンの化け物だろ、と。グレンは思いながら、頬を引きつる。

 

『ぐぅ――ッ!?おのれぇ、小癪な真似をッ!?』

 

 散々遊ばれているせいか、とうとう、魔人の堪忍袋の緒が切れ始める。

 

 さっきまで見せていた余裕の雰囲気はどこへやら、今は怒りに震えているのがわかる。

 

 やがて、一瞬の隙を見つけた魔人は、そこを突き、マクシミリアンに突進する――

 

 ――まさにその時であった。

 

『待ちなさい。アセロ=イエロ』

 

 マクシミリアンと魔人の間に、亡霊のように現れた者がいた。

 

『いえ、貴方は本質的には、あのアセロ=イエロとは違う存在だから…今世の名前で呼んだ方がいいのかしら?となると、確か…ラザール、だっけ?』

 

『む。貴女は…まさか……ッ!?』

 

『”名無し”よ。今世ではそう名乗っているわ』

 

 背中に異形の翼を抱く少女――ナムルスが、疲れたような表情で魔人と対峙していた。

 

「……何者だ?ルミア=ティンジェルと瓜二つのようだが?」

 

「知らん。だが、敵じゃない」

 

 眉を顰めるアルベルトから零れた問いに、グレンが素っ気なく応じる。

 

『それよりも話があるわ、ラザール。…今は退きなさい』

 

 そんなグレンとアルベルトを余所に、ナムルスが淡々と魔人へ言った。

 

『魔人を我が身に降臨させたが故だろう…今の私は、貴女が何何者なのかよく理解できる…だが、貴女に倣い、敢えて”名無し”と呼ばせてもらおうか』

 

 すると、魔人はそう前置きして……

 

『さて、ナムルスよ。今は退けだと?愚かな。交渉とは対等の者同士が行うものだぞ?』

 

 ナムルスに向かって、殺気と威圧感を漲らせる。

 

 だが――

 

『舐めないで、坊や』

 

 ナムルスがそう凄んだ…その瞬間。

 

 ず、と。重く冷たく昏い特濃の闇が、辺りにのし掛かった――そんな感覚があった。

 

 確かに彼女はそこに在るのに、立ちこめる深い暗黒が、彼女の存在認識を頑なに拒ませる。一見、可憐な少女の姿は、深淵から切り取った闇の人形に過ぎないことを本能が理解する。魔人がまるで幼子に思えるような穢れと邪悪が、そこに顕現したのだ。

 

『たかが魔将星如きが…あの子から貰った紛い物の力で…たかが人間をやめた程度で粋がらないことね…この私に対して』

 

 ナムルスの、この世界全てを呪うように歪んだ声色が、鼓膜を掻きむしる。

 

 そして、暗闇にすっと朱を引くように薄ら嗤い、ナムルスはその白い手を差し出した。

 

 その途端、辺りを包んだ幻視の闇を払わんばかりの、圧倒的な黄金色の光が、ナムルスの手から放たれ――場に居合わせた者達の目を灼いた。

 

「な――なんだッ!?何が起きた!?」

 

 魂を掴む闇から不意に解放され、グレンが叫ぶ。

 

 気付けば、ナムルスの掌の上には、”黄金色に光輝く鍵”が浮いていた。

 

『≪黄金の鍵≫だと!?馬鹿な…貴女にはまだ、そんな力が残っていたのか!?』

 

 ナムルスが見せた”鍵”には、魔人も意表を突かれたらしかった。

 

『ええ、そうよ。わかるでしょう?貴方達が持っているような”紛い物の鍵”ではないわ。世界に二つだけある”本物の鍵”…その内の一つ』

 

 暗く蔑むように嗤いながら、ナムルスが告げる。

 

『ラザール。貴方…”紛い物の鍵”で、何とか魔将星と魂融合したのはいいけど…まだ、マナ不足で融合が不完全よね?なぜなら、グレンが邪魔したから』

 

『………』

 

『身体を失い、かつての力をほとんど失った私だけど…今の貴方程度と刺し違える力くらいはあるわ…私という存在概念の完全消滅を覚悟すればね……』

 

『…………』

 

『今は退きなさい、ラザール。貴方の力が完全安定したその時に、改めてルミアを殺せばいい。貴方にとっては、今、私とやり合うより、その方が確実だと思うけど?』

 

 すると、しばらくの間、重苦しい空気がその場を支配して。

 

『……いいだろう。今は大人しく退こう』

 

 やがて、魔人はそう呟いて。

 

『≪■■■■・■・■■■■……≫』

 

 得体の知れない言語で、何事かを呟くのであった。

 

 

 

 ――その時。

 

 地上にいるグレン達には、何が起きたか想像だに出来なかったが。

 

 フェジテ上空の≪炎の船≫の船底に刻まれた紋様から、無数の赤い光が放たれていた。

 

 その赤光は、フェジテを囲む城壁をもの凄い速度で、ぐるりとなぞり――

 

 なぞられた端から、巨大な真紅の光壁が形成され、天空に向かって高く聳え立つ。

 

 地上にいるグレンは、地平線の彼方が紅く燃え上がるようにしか把握できなかった。

 

 

 

 

「何や、この赤壁は……」

 

 四方八方の地平線と空が、ぐるりと満遍なく真紅に染まるその情景に、ジョセフは猛烈に嫌な予感を覚えながら、呆然と眺める。

 

「今、何しやがった、テメェ!?」

 

 グレンも同じ嫌な予感を覚え、魔人へ吠えかかるように問いかける。

 

 だが、魔人がその問いに答えることもなく。

 

『……さらばだ、愚者の民草共よ。精々、残り少ない生を謳歌すればいい……』

 

 光に包まれた魔人が、そのまま円柱状の光の中を通って、空へと昇っていくのであった。

 

 その小さくなった姿は、そのまま≪炎の船≫の中に吸い込まれていく――

 

「さて……」

 

 その様子をマクシミリアンは見届けると、まだ二本足で立っているアルベルトのところへ向かう。

 

 グレンとナムルスが何か喋っているが、ジョセフは二人が何言っているの気付かないほど、空を睨む。

 

「……マジで殺す。あいつだけは絶対に殺す」

 

 誰にも聞かれることなくそう呟くと。

 

『ジョセフ』

 

 グレンとは話し終えたのか、ナムルスがジョセフの前に現れる。

 

 ナムルスは無言でジョセフを見つめ――

 

「……何や?」

 

 殺意を抑え、ジョセフはナムルスを見るが。

 

『……やっぱり…”アレ”を持っているのね』

 

「――ッ!?」

 

『ジョセフ。グレンもだけど、貴方もあのアセロ=イエロを倒せるはずよ。いや、”貴方はアセロ=イエロ…というよりも、ラザールを完全にこの世から消すことができるかもしれない”』

 

「…………」

 

『なんで、貴方に”アレ”を持っているのか、聞きたいけど…まぁ、”あの子”は気まぐれだから、それでなのかもね』

 

 そう言って、ナムルスはジョセフに背を向け、歩き去っていくのであった。

 

「……アレか」

 

 周囲が肉体的、精神的な疲労に襲われて脱力しへたり込んでいく中――

 

 ジョセフは人知れず、そう呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

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