ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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108話

 負傷者達の手当て。生徒達の混乱の沈静化。

 

 そして、外部との連絡の試み、各種情報収集。

 

 様々な作業と準備を経て、対≪炎の船≫緊急対策会議が行われたのは、不安冷めやらぬ生徒達が、ようやく眠りにつき始めた真夜中過ぎ…日が変わってからであった。

 

「では――次に、学院の大型魔導演算器を使用し、僕が霊脈回線を通して、フェジテとその周辺の情報を分析した結果を、ここにご報告いたします」

 

 帝国宮廷魔導士団特務分室所属≪法皇≫のクリストフによる状況分析結果報告から、その緊急対策会議は始まった。

 

 学院の大会議室に、急造された対策本部に集うのは、アルザーノ帝国魔術学院学院長リック=ウォーケンを筆頭とし、ハーレイやツェスト男爵、セリカを代表とする比較的負傷の少ない講師や教授陣。体調不良のイヴを除く、帝国宮廷魔導士団特務分室組、連邦陸軍第一特殊部隊デルタ分遣隊組。

 

 他にも、一連の事件の中心にいた、グレン、システィーナ、ルミア、リィエル(始まる前から船をこいでいるが)。そして、学院生徒達の代表として、学院生徒会執行部の生徒会長リゼ=フィルマーなどが参列していた。

 

「……――このように、今、このフェジテ全域が解呪不可能の断絶結界に、遥か上空から地中深くまで囲まれており…外部との連絡を取ることも、外部からの援護を期待することも不可能な状況です」

 

 クリストフが各種様々な魔術的分析結果を簡潔に報告しつつ、総括した。

 

「つまり、明後日…いえ、もう日が変わりましたから明日ですね。明日の正午、あの≪炎の船≫がフェジテへ落とす【メギドの火】を防ぐには…我々だけで、あの≪炎の船≫に乗り込み、魔将星≪鉄騎剛将≫アセロ=イエロを打倒するしかありません」

 

「なんていうことだ……」

 

 その場に集う、講師や教授達が揃って頭を抱えるしかなかった。

 

「ふーむ、ところでクリ坊。今、フェジテ市民の様子はどうなっているかの?」

 

 椅子に背を預け、足を机の上に投げ出しながら話を聞き流していたバーナードが、重苦しい沈む場の雰囲気を完全に無視して、クリストフへ聞いた。

 

「その件に関しましては、先ほど、フェジテ警邏庁長官ロナウド殿に打診しました。昨日早朝から続く数々の災害事件の上に、突然、空に出現した謎の船…一時的な市民の混乱はあったようでしたが、今はフェジテ警備官と天の智慧研究会の掃討作戦で展開していた連邦軍が総出で、二十四時厳戒態勢で市内を警邏し、その混乱を抑えているようです。今の所、大きな暴動はないとのこと」

 

「そうか、そりゃあ、よかったわい。いやー、フェジテの警備官と連邦軍は実に優秀じゃな」

 

「ですが…人の口に戸は立てられず、あの空の船がフェジテを焼き尽くす…そんな噂が市民の間に徐々に流れ始め、緊張が高まってきてもいるそうです。また、連邦軍がいるため、外国の軍隊に占領されている感じが緊張に拍車をかけているらしいです。いつまで秩序を保てるか…とにかく、警邏庁は市民の不安と混乱を抑えるのに手一杯という状況でした」

 

「ふむ…まぁ、それは仕方ないのう」

 

「ちっ…俺達は嫌われ者かよ……」

 

 それを聞くと、デルタの中から舌打ちしながら悪態をつく者がいた。

 

 二十代前半の、髪をオールバックにした青年、ナンバー3≪ニュージャージー≫のユージン=オキーフからだった。

 

「……アメリカ人は世界の嫌われ者だからな」

 

 それを、フランクは今さら何とも思っていない感じで言う。

 

「……学院の生徒達も同様です」

 

 すると、生徒会長のリゼも発言を始めた。

 

「生徒達は全員が魔術師。元々、日頃の鍛錬の賜が、大きな混乱は避けられています。ただ、精神的負荷は大きく…緊急待機令でいつまで、学院に留めておけるか……」

 

 緊急待機令とは、曲りなりにも帝国に所属する魔術師である生徒達を、有事の際、その解決に必要な人手にあてるための処置であり、れっきとした生徒達の義務であった。

 

「むむむ、どのみち…あの≪炎の船≫を早くなんとかする必要があるのぉ」

 

「何とかする以外あるまい…明日の正午には、フェジテは地図から消えるのだから」

 

 リック学院長の総括に、さらに重苦しい沈黙が、会議室にのし掛かる。

 

「……話を続けます」

 

 クリストフが、一同の心に整理に必要な間を充分に取って、言葉を続けた。

 

「魔術的解析の結果、あの≪炎の船≫は『同位相異次元空間にある船を、マナでこの同次元空間に物質化したもの』だと判明しました。そして、船を物質化するマナの出所が、件の魔人であるとも」

 

「……つまり?」

 

「魔人を倒せば、≪炎の船≫は存在を保てず、元の同位相異次元へと帰還します」

 

「ならば話は早い!学院が所有する飛行魔術の魔導器を集めろッ!こちらから乗り込んで、奴を叩いてやればよいッ!」

 

「それは、難しいと思いますよ」

 

 ハーレイが勇ましく宣言するが、ホッチンズが首を振りながら、否定した。

 

 ホッチンズもクリストフと共に、魔術的解析をしていた。

 

「なぜだ!?」

 

「解析によれば、あの≪炎の船≫の内部には、空戦用の飛行型ゴーレム人形が多数配備されており、単純に空から攻め込んでも、敵の圧倒的な空戦力の前に、人間は近づく前にバラバラにされるのがオチです。

おまけに、あの船の内部には、解析・解呪不可能な空間歪曲が検知されています。どうやら、簡易的な付呪ではなく、≪炎の船≫そのものに組み込まれた防衛機構であり、不正規の侵入者を阻む空間結果のようなものかと」

 

「まさか……?」

 

「そのまさかです。あの船に乗り込んでも、肝心の船内にわ攻め込めないということです。つまり…今の状態では何をしても倒せないということです」

 

 クリストフ、ホッチンズの報告は、その場に集う者達をさらなる絶望へと叩き落とした。

 

 敵の本拠地が保有する圧倒的な戦力と、防衛能力。

 

 さらに、それらを突破した果てに待ち構える、魔人という最強の敵。

 

 こんな状況で、どう勝利を掴めば良いのか?この歴史上のどんな知将、名軍師でも不可能なのではないか?

 

 会議に集う誰も彼もが、深い溜息を吐いた…その時だった。

 

「……船に乗り込むことはできるぞ」

 

 ぼそりと、そんな事を呟いた者へ、一斉に注目が集まった。

 

 セリカだった。

 

「ああ、私なら…敵が放つ有象無象の空戦力を突破できる。ついでに、何人かをあの船に連れていくこともな」

 

「セリカ君。それは本当かね?」

 

「おい、いくら第七階梯の貴様でも、地上戦と空中戦ではわけが違う…今は、断絶結界のせいでアルザーノ帝国空軍御用達の神鳳(フレスベルク)一騎すら召喚できないんだぞ?」

 

 ハーレイがいかにも眉唾だと言わんばかりに、反論する。

 

 神鳳とは、巨大な鳥の魔獣だ。白鳥にも似た長い翼と長い首、煌びやかな飾り羽根とその全身の流線的なフォルムが美しい鳥であり、翼で風を操る能力を持っている。

 

 そんな神鳳を戦闘騎鳥に育成調教し、支配魔術で操って大空を斬るように翔ける神鳳騎兵の最大戦速は、隣国レザリアの天馬騎士(ペガサスナイト)、北東のドラグリアの竜騎兵(ドラグーン)とは比較にならず、北メリゴ大陸のアメリカ連邦の槍騎兵(ランサー)すらも、一段劣るなど、事実上の全世界中の空戦力における、空の王者であった(戦闘騎鳥の保有数は連邦が世界最大なのだが。しかも、技術的にはまだ未熟だが、航空機の配備も着々と進んでいる)。

 

「所詮、人間は地に立つ者。いかに貴様が巧みな飛行魔術を使えたとしても、元々、空を飛ぶ兵器として設計されたものには勝てん!そもそも、今の貴様はすでに肉体的にも霊魂的にも、満身創痍だろうが!」

 

「お?くくく…私のこと心配してくれるのか?ハーレイ」

 

「だ、誰が貴様のような旧時代の魔女の心配などするものかッ!?」

 

 肩を震わせておかしそうに笑うセリカに、ハーレイが激昂する。

 

「心配すんな。別に飛行魔術で無謀な特攻しようってわけじゃない。空で戦うなら、空に相応しいモノを持ってくればいいわけだ。だが、コレ、準備に時間がかかるのが難点だな…そうだな…急いでも…明日の正午くらいまでかかる」

 

「「「「駄目じゃん!?」」」」

 

 途端、その場の人間が、セリカへ総突っ込みするのであった。

 

「あのな…セリカ君…君、わかってるのかね?」

 

 ツェスト男爵が呆れたように言った。

 

「明日の正午には【メギドの火】がフェジテに降ってくる…君の手段が何かは想像も付かないが、そんなに悠長に待っていたらお終いだよ?」

 

「だがそれは、裏を返せば、正午に降ってくる【メギドの火】を防げてしまえば何とかなるんだな?」

 

 不意に、壁に寄りかかるマクシミリアンが話を割って入る。

 

「あー、そうだなぁー、だから、ああー…【メギドの火】を一発くらい耐えられればなぁー、何かそんな手段はないかなぁー?」

 

「そんなんあるわけないじゃろ…相変わらず無茶苦茶言うのう、セリカちゃんは」

 

 バーナードも呆れ顔で溜息を吐き、マクシミリアン以外、周囲もそれに倣って同意するが。

 

「一発くらい何とかなんないかなぁ?なんとかできれば、私があのクソ魔人を倒す戦力を、あの船まで連れていってやれるんだけどなー?なぁー、ハーレイ?なぁー?お前、アレ、何とかする手段、何か知らないかぁー?なぁー、ハーレイ?」

 

 なぜか、セリカは頭の後ろで手を組み、ニヤニヤしながら、ハーレイに絡み始める。

 

 対するハーレイは、鬱陶しそうに歯噛みしていた。

 

「……ハーレイ君?」

 

「まったく…目聡い魔女め……ッ!」

 

 何かを察したリック学院長の促しに、ハーレイが眼鏡を押し上げながら、発言した。

 

「【メギドの火】は…条件付きではあるが…恐らく防げる」

 

「「「「何だと!?」」」」

 

 ハーレイの驚愕の発言に、場の視線が一斉に集まった。

 

 すると、ハーレイは、何かの金属片を懐から取り出し、机の上に置いた。

 

「それは?」

 

「あの忌々しい魔人が砕いた≪力天使の盾≫…その破片だ」

 

 どうやら、あの戦いの後、ハーレイは破片を拾って、独自に調査していたらしい。

 

「元々、これは日緋色金(オリハルコン)製…並大抵のことでは破壊不可能故、内部に通う術式構造など把握できん。だが、やつが砕いて断面が見えたおかげで、何とか解析が可能になった」

 

「ハーレイ君、解析できたのかね!?≪力天使の盾≫はかなり古い時代に作られた、最早、失伝魔術の産物ともいえる代物なのに……」

 

「ええ、何とか。この盾のエネルギー還元力場…完全再現は、流石に不可能だが、その劣化レプリカ的なものは、私の専門分野…収束、拡散系の魔術知識を総動員すれば…突貫工事でも、明日の正午までに再現するのは不可能ではないはずだ」

 

 ざわざわ、と。ハーレイの信じられない発言に場がざわめく。

 

「だが、これをフェジテの防御結界として利用するには、超一流の結界魔導技術が必要…残念ながら、私はその分野には少々疎い…そこでだ」

 

 ハーレイは、クリストフをちらりと流し見た。

 

「おい、そこの若造…貴様、確か、クリストフ=フラウルと言ったな?フラウル家と言えば…結界魔術の世界的大家のはず。

 貴様が、この私に技術協力をするならば、【メギドの火】を防ぐ盾をフェジテの上空に張ってやる…この天才ハーレイ=アストレイの名にかけてな。…どうだ?」

 

「そういうことなら、是非、僕に協力させてください」

 

 どこか不機嫌そうなハーレイに、クリストフは微笑みながら応じるのであった。

 

「お、おお…少し、希望が見えてきた……」

 

「だ、だが、まだ問題は山積みだぞ!?≪炎の船≫内の歪曲空間はどうする!?」

 

「話を聞けば、解呪は不可能で……」

 

 そして、次なる問題について、再び場が過熱し始めたところで。

 

『≪炎の船≫の歪曲空間?バカバカしい。あんなもの簡単に突破できるわ』

 

 不意に、どこか疲れ切った、退廃的な言葉が場に響き渡った。

 

「ナムルス!?」

 

 グレンが思わず席を立つ。

 

 一同の視線の集まる先…会議室の隅に、異形の翼を持つルミアに瓜二つの少女――ナムルスが、いつの間にか立っていたのだ。

 

「き、貴様は一体、誰だ!?」

 

「い、いつの間に……ッ!?」

 

 ナムルスを知らない会議の出席者は、そのナムルスの異様な姿に恐れ戦くが……

 

「大丈夫だ、胡散臭ぇこと、この上ないが…そいつは味方だ」

 

 グレンが強引にその場を収め、ナムルスに話を続けさせる。

 

「おい、ナムルス。どういうことだ?あの≪炎の船≫の歪曲空間を突破できるってのは…本当か?」

 

『ええ、本当よ?彼女の…ルミアの真の力を使えばね』

 

 今度は、ルミアへ一同の視線が一斉に集まった。

 

「ルミアの真の力…?『感応増幅者』か?」

 

 もうルミアの『異能』の存在は、この会議に出席する者は皆、把握している。

 

 先の『マナ堰提式』を起動する際、あれだけ派手に能力行使をすれば、当然だが。

 

『……そんなものじゃないわよ』

 

 グレンの問いを、ナムルスは鼻を鳴らして否定した。

 

『貴方達が、えーと?カンノーゾーフク…だっけ?とにかく、それと勘違いしている力なんて、ルミアの持つ真の力から漏れ出る一片の光に過ぎないわ』

 

「……マジかよ。そりゃ一体、どんな力なんだ?」

 

『流石にこの場での説明ははばかられるわね。この秘密の共有は、もっと信頼おける間柄だけに限定したいわ。まぁ、確実なのは”≪炎の船≫内の歪曲空間は突破可能”…今の貴方達には、それで十分でしょう?』

 

 そんなナムルスに、会場の人間の誰もが、その正体を口々に問い詰めるが、当のナムルスは何を問われても、無言。最早どこ吹く風であった。

 

(まぁ、だろうとは思ったよ)

 

 会議室の隅で壁に寄りかかっているジョセフはそんな光景を冷めた目で見ていながら、物思う。

 

(そもそも、『タウムの天文神殿』の件もそう、天の智慧研究会が血眼になって狙っているのもそう。ルミアがただの『異能』ではないとうことはわかっていた)

 

 でなければ、魔人アセロ=イエロになったラザールがここまでするはずがないからだ。

 

 そして、恐らくこれでルミアはただの『異能』ではないということは、デルタ――独立十三州のメンバー全員が知ることになった。

 

(できれば、このことは連邦の人間には、伏せてほしかったのだが、状況が状況だから仕方ないか……)

 

 連邦の人間にルミアのことを知る人が多ければ多いほど、中央情報局の連中の耳に入るかもしれない。そうなったら、ルミアは天の智慧研究会と連邦政府の二者に狙われる恐れがある。

 

 何度も言っているが、連邦は天の智慧研究会が血眼になって狙うような、いわば、ただじゃない『異能者』に対しては、どんな手段を使ってでも『招待』する国である。

 

「とりあえず、歪曲空間の方はナムルスの言う通り、ルミアに任せるとして、次の問題に入りましょうぜ?ていうか、こっちの方が肝心なんですけど」

 

 そんなジョセフの発言に、場の一同が再び押し黙る。

 

「そうだ…”どうやってあのクソ魔人を倒すか?”…最後にして最大の難問だ」

 

 再び、場を重苦しい沈黙が支配した。

 

 誰もが、絶望しているのだ。あの魔人は強すぎる。次元が違う。

 

 あの魔人を倒す手段なんか、この世のどこにもないのではないのか?と。

 

 ただ一人、マクシミリアンは何か知っているような、そんな表情を出すが、ジョセフを見るたび首を横に振る。

 

「白猫…お前を、この場でもっとも魔導考古学に長けた者として聞くぞ…童話『メルガリウスの魔法使い』で、正義の魔法使いは≪鉄騎剛将≫アセロ=イエロを、一体どうやって攻略したっけか?」

 

「そ、それは……」

 

 システィーナは慎重に記憶を探る。

 

「さっきも言いましたけど…物語の主人公である正義の魔法使いは、何度かアセロ=イエロと戦いましたけど…結局、彼はアセロ=イエロを撃破することは、最後まで出来ませんでした」

 

「そう…か…確か、そうだったと思ったんだよな……」

 

 グレンが深い溜息を吐く。

 

「あっ!でも、今、思い出したんですけど…物語の終盤…魔王の支配する死と絶望の都『魔都メルガリウス』での、正義の魔法使いと魔将星達の一大決戦で…アセロ=イエロは、とある人物に倒されていました!」

 

「……とある人物?だ、誰だそれは!?」

 

 僅かに見えた希望に、グレンがシスティーナへ期待したような表情を向けるが。

 

「わ、わかりません…ロラン=エルトリアの書いた『メルガリウスの魔法使い』は基本的に、物語の伏線と、前後の流れの整合性がとれた、非常に完成度の高い話なんですが…そこの部分だけ、何かがおかしいんです」

 

「は?どういうことだ?」

 

「えっと、その…何の前触れも伏線もなく…その章で、正義の魔法使いの”弟子”がいきなり登場するんです。今までそんな存在の気配、まったくなかったのに」

 

「で、弟子ぃ~~ッ!?ま、まさか……ッ!?」

 

「はい、アセロ=イエロは、その弟子が倒しました……」

 

「はぁ!?なんだそりゃ!?一体、どうやって!?」

 

「ええと…その…その倒し方も意味不明で…”その弟子が、小さな棒でアセロ=イエロの胸を突いたら、突然、アセロ=イエロは死んだ”って……」

 

「ご都合主義過ぎるだろ!?しっかりしろよ、ロラン=エルトリアッ!?」

 

「それと、意味不明で思い出したんですけど、もう一つありまして……」

 

「はぁ!?まだあるのかよ!?ほんと、どうしたんだよ!?」

 

「その内容が”ある者が作った魔剣ならば、アセロ=イエロを倒せるかもしれないと。それは、存在概念を神鉄だろうが何だろうが物質を問わず『消して』しまう魔剣で、その魔剣は実体を持たないものとして認識されており、弾かれない。また、その魔剣は意思を持っており、気に入った者には力を与えるが、気に入らない者だったら、魂を喰らい尽くす。”と。結局、その魔剣は、今後の物語には一切出てきませんでした」

 

「はぁあああ――ッ!?何、その世界の理をねじ曲げて、ねじ曲げて、ねじ曲げまくった魔剣はッ!?概念ガン無視し過ぎだろッ!?」

 

 グレンが頭を抱えて喚いていると。

 

「一体、何の話だ?グレン=レーダス」

 

 グレンとシスティーナの謎のやりとりに、ハーレイが不快そうに鼻を鳴らす。

 

「いや…その、ハーレ…ハーデス先輩。実は奴ら魔人の攻略ヒントは、なぜか、童話『メルガリウスの魔法使い』の中にあること多いんっすよ……」

 

「おい、貴様。今、普通に私の名前を言いかけたよな?なぜ、言い直した?」

 

「しかし、駄目っすねぇ…今回ばっかりは、マジで参考になりません……」

 

「無視するな貴様ァアアアアアアアア――ッ!?」

 

 ハーレーダビッドソンがヒステリーを起こすのを尻目に、グレンは溜息を吐いた。

 

「ふん…所詮、童話は童話だ。そんな物に縋るな、現実を見ろ」

 

 と、その時、今まで押し黙っていたアルベルトが、不意に口を挟んだ。

 

「い、いや、だがよ…お前は知らないだろうが、これが案外……」

 

「現実を見ろ、と言った」

 

 グレンの言葉を、アルベルトは冷ややかに斬って、捨てて……

 

「俺は、その件の魔人を倒す手段に、一つだけ心当たりがあるんだがな、グレン」

 

 そんな事を淡々と言うのであった。

 

「なっ!?それは本当かね!?」

 

 場の視線が一斉にアルベルトへと集まるが。

 

「…………」

 

 アルベルトの鷹のように鋭い視線は、じっとグレンを突き刺している。

 

 必定、アルベルトに集まった視線が、グレンへと徐々に集まってくる。

 

 視線がグレンに集まり始めると、当のグレンは微かに苦々しく表情を歪めた。

 

「ぐ、グレン君…ひょっとして、君…まさか……?」

 

 すると、グレンは目を閉じ、一つ深呼吸をする。

 

 そして、先ほど、目に焼き付けた光景を思い出す。

 

 ルミアと二組のクラスの生徒達の、固い絆の、尊い光景を――

 

 何度も何度もその光景を思い浮かべ…脳裏に焼き直し……

 

 そして、グレンは目を開き、意を決したように言った。

 

「進言が遅れてすんません。やつを倒す可能性のある手段は…ある」

 

「ほ、本当かね!?」

 

「ああ…多分、この世界で、俺だけにしか出来ねーことだ……」

 

 途端、おおぉ、と場が沸き立つ。

 

 【メギドの火】を防ぐ手段、≪炎の船≫へ乗り込む手段、そして、魔人を打倒する手段。

 

 ようやく、この状況を打破するピースが揃ってきたのだ。

 

 先ほどまでの葬式のような雰囲気とは打って変わって、希望に沸き立つ会議室。

 

 だが、しかし――

 

「……先生?」

 

 ルミアは気付いた…グレンがどこか、暗く陰鬱な表情をしていることに。

 

 ルミアがそんな疑問を解決する暇もなく。

 

「それでは…セリカ君や、ナムルス君、グレン君の手段の妥当性を検討しつつ…あの魔人を撃破するための具体的なプランをこれから皆で打ち立てていきましょう」

 

 リック学院長が総括し、再び場に白熱した議論が展開されていく。

 

 その作戦会議は、夜の東空が白むまで続くのであった。

 

「……大佐」

 

 ジョセフは何か物言いたそうな表情で、マクシミリアンに言いかける。

 

 マクシミリアンはそんなジョセフに振り返り、ジョセフを見るが――

 

 やがて、首を横に振り、前に向き直るのであった。

 

 そして――

 

 

 

 






今回はミズーリ州です。

人工613万人。州都はジェファーソンシティ。主な都市にセントルイス、カンザスシティ、スプリングフィールド、ジョプリンです。

愛称は疑い深い州です。24番目に加入しました。

ミシシッピ川沿いにある多数の町は、ヨーロッパからの移民の影響を強く受けており、現在でも当時の教会や町並みが多く残っています。

特にセントジェネビーブやそこから1時間後程の場所にあるケープジェラートなどはフランス系移民の影響が強く、大きな教会や狭い街路など美しい町並みが見られ、知られざる観光地であります。

東にセントルイス、西にカンザスシティという大都市を抱える州で、ちょうどアメリカ大陸の臍に当たり、東西で文化もすっかり入れ替わるという、いわばアメリカ版関ヶ原です。

竜巻の通り道にもなっており、年間で必ずといっていいほど被害が出ます。

セントルイスはバドワイザーのアンハイザーブッシュやかつての航空会社、マクドネル・ダグラス社などで有名です。

あとは色々問題を起こす化学企業モンサントの本社もあります。近年は黒人暴動でも有名になってしまったが、シンボルとして有名なゲートウェイアーチなどがあり、観光客も多い場所です。

カンザスシティは古くから畜産と小麦の集散地として繁栄し、現在もシカゴに次ぐ規模の先物取引所があります。


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