ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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112話

 来る――来る――大量の敵が、来る――

 

 『神の盾(イージス)』から、『ターター』から、『チャパラル』から放たれる大量の光線を受けながら、ゴーレム人形が、迫ってくる。

 

 光線は、戦闘のゴーレム人形達を、驚異的な命中率で次々と墜としていく。日頃からの訓練の賜なのか、それとも、ゴーレム人形の性能のせいなのか、バタバタと墜ちていくゴーレム人形達。

 

 だが、いかんせん数が多く、墜としても、墜としても、ゴーレムの群れが空から消え去ることはなく雲の代わりに空を覆っている。

 

 それに、先頭から撃ち墜としているとはいえ、ゴーレム達の足を完全に止められているわけではなく、徐々に徐々に、学院との距離を詰めて迫ってくる。

 

(ちっ…数が多過ぎやろ…やはり味方の数が少な過ぎるから足止めできない)

 

 標的のデータをモノリスに送るために、目を左右、上に忙しく動かしながら、ジョセフは舌打ちする。

 

 ゴーレム人形達がさらに迫ってくれば、対空銃架に据えられた大口径の重機関銃が火を噴き、学院の教授や特務分室、≪魔導士の杖≫を装備した生徒達が迎撃をするだろうが、それでも防ぎきれるのかわからないぐらい、数が多い。

 

 徐々に迫ってきているためか、前方に展開している、連邦軍の指揮官が重機関銃の銃手に大声で構えるように指示を出す。それを聞いた銃手は、弾薬を薬室に装填し、上空に銃口を向ける。

 

 やがて、ゴーレム人形達が重機関銃の射程圏内に入っきた…その時。

 

 屋上に据えられた重機関銃の銃口から一斉に火が噴いた。

 

 ドドドドドドドドドドドドドド――ッ!ただでさえ、轟音が鳴り響いているのに、そこに重機関銃の重く低い銃声が鳴り響き始めたため、屋上はさらに騒がしくなる。

 

 上空に向かって打ち上げられていく無数の光線と銃弾。

 

 その様は、まさに『数の暴力』。

 

 ひたすら、ただひたすら火力に物を言わせて敵を討ち倒す。物量さえあれば、単純だが、凶暴的な弾幕。

 

 こんな弾幕の嵐に突っ込めと言われたら魔導兵でも裸足で逃げ出すかもしれない、そういわしめるほど激しい弾幕が展開されている。

 

 隣国は、こんな国と半年前に戦争していたのか。そんな思いが生徒達、教師陣はそう思わずにいられなかった。

 

 百年前までは帝国の植民地だったのに、今や巨大宗教国家を半年あまりで膝を屈させるまでになった連邦という国に誰もが半ば戦慄するのであった。

 

「おい、誰じゃ、連邦の事を”魔導不毛の地”とか、”魔導後進国”って言ったやつは?出てこいや」

 

「あ、あはは……」

 

「あれのどこが魔導後進国なんじゃい!?後進国どころが先進国じゃぞ!」

 

 頭上に、無数の火線や光線が飛び交う中、バーナードは誰へともなく突っ込み、クリストフは苦笑いする。

 

「それよりも、バーナードさん、そろそろ僕達の出番ですよ?」

 

 頭上を見ると、敵の大群が連邦軍の迎撃を受けながらも、迫ってくる。

 

「どれ、わしらも動こうかね。はぁ~、にしても敵が多いのう」

 

 バーナードがそう言うと。

 

 その直後、連邦軍の迎撃に加わるように、特務分室、生徒達、教師陣も迎撃を開始するのであった。

 

 

 

 上昇する――上昇する――ぐんぐんと上昇する――

 

 グレン達を背中に乗せたセリカドラゴンは、地上との重力の鎖を完全に振り千切り、圧倒的な力強さをもって、大空をどこまでもどこまでも上昇していく。

 

 このパワーとスピードに比べれば、人間の飛行魔術など、なんと矮小で貧弱なものか。

 

 上から下へと圧倒的に叩き付けてくる冷たい激風が、みるみるグレン達の体温を奪い、その強烈な威力で目も開けていられない。

 

 その天に昇る猛加速は、まるで止まることを知らない。

 

 力強くセリカが一つ翼をはばたかせるたび、ぐんと上に引っ張り上げられるように、速度を上げて上昇していく。

 

 もし、グレン達が予め呼吸補助の魔術を喉に付呪していなかったのならば、急激な酸素濃度減少と気圧変化で、あっという間に高山病と呼吸困難に陥っていただろう。

 

「く…ぅ……」

 

 グレン達が暴力的な加速上昇にひたすら耐えていると。

 

『……乱気流に入る…一気に抜けるからな?』

 

 不意に、セリカのテレパシーがグレンの脳内に入電した、その瞬間。

 

 セリカドラゴンがさらに、一際強く羽ばたいて、グレンの体がさらに、ぐんと上空に押し上げられ――

 

「ぐ――ぅ――ッ!?」

 

 視界が、真っ白に染まると同時に、今までとは違う殴りつけるような嵐がグレン達を襲った。乱気流が渦巻く分厚い雲の中に突入したらしい。

 

 ますます強くなっていく風圧に、上下感覚も肌の感覚も次第に失われていく。

 

『おいおい、へばるの早いぞ、根性見せろよ――ッ!』

 

 セリカの叱咤を心のよるべに、必死にその背にしがみ付く。

 

 高く。さらに高く。さらに、さらに高く――

 

 吹き荒ぶ風が体をもみくちゃに弄ぶ――実際には、ほんの十数秒の事なのだろうが、グレン達にとっては無限にも等しい時間の果てに――

 

 そして――

 

 ――――。

 

 ――。 

 

 ――急に、視界が開けた。

 

「――ッ!?」

 

 そこは――どこまでも無限に広がる、蒼穹の空と。

 

 眼下に広がる雲の絨毯と、それより彼方の地上の風景。

 

 頭上には、天頂に輝く太陽光を乱反射させる、雄大な幻影の城があって――

 

 大パノラマで展開される、圧倒的な空の世界。

 

 まるで、世界の中心に自分が居るような――そんな錯覚さえ覚えるその光景。

 

 身を切るような風は、相変わらず冷たく激しいが――それが些細になるほどの絶景が、グレンの心を魂を掴み、圧倒していた。

 

『……見とれている場合じゃないぞ、グレン』

 

 セリカドラゴンが前方に向かって首を振れば。

 

 その遥か前方に見えるは――≪炎の船≫。常に自分達を見下していたあの忌まわしき存在が――今は自分達と同じ目の高さにあった。

 

 びゅうびゅうと後方に吹き荒んでいく風と、ばさりばさりと力強い羽ばたきの音だけが支配する世界で――グレンはそれを真っ直ぐ見据えるのであった。

 

「……いよいよか……」

 

 グレンがごくりと息を呑むと。

 

『……ッ!?…掴まってろッ!』

 

 急にセリカドラゴンが一同に警告を発し、猛速度で急旋回を始めた。

 

「ぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――ッ!?」

 

 その瞬間、≪炎の船≫の側面の幾つかが、キラッキラッと紅く光り――

 

 圧倒的熱量を持った、真紅の極太光線が数本、セリカへ真っ直ぐと高速殺到した。

 

「のわぁあああああああああああああああ――ッ!?」

 

 先読みで素早く回避軌道を取ったため、極太光線達はセリカを大きく外して、背後の積乱雲に大きな穴を幾つも穿って通り過ぎたが――

 

 近くで目で見て、肌で感じたその熱線の圧倒的エネルギー。

 

 ……直撃したらと思うとぞっとする。

 

「ちぃっ!?≪炎の船≫の対空砲火かッ!?」

 

 セリカドラゴンが大きく旋回し、視界が90度傾いた状態で、グレンが叫いた。

 

 魔術的視覚を強化すれば、確かに船の側面に魔導砲らしきものが何門も設置されている。

 

 どうやら開閉式のようで、扉のように砲門が開いて、砲が頭を覗かせ――

 

「また来ますよ!?」

 

 背後のシスティーナが警告の声を上げる。

 

 すると、≪炎の船≫の側面の幾つかが、またキラッキラッと紅く光り――

 

「ギャ――――――――――――――――――ッ!?」

 

 今度は急降下からの急上昇の軌道で、過ぎる無数の熱線砲撃をかわしていく。

 

『ちっ…思ったより威力があるぞ、アレ…まるで小規模な【メギドの火】だな』

 

「な、なんですとぉ!?」

 

 セリカの言葉に、グレンが素っ頓狂な声を上げた。

 

『拙いな…貰ったら一撃で落とされる。こりゃ強引に突っ切るのは難しいな』

 

「マジかよ…≪炎の船≫に、そんな隠し球があったとはな……ッ!?」

 

 クリストフ曰く、≪炎の船≫内の空間歪曲のせいで、外部からは解析しきれない部分が多々あったそうだが…よりにもよってこんな厄介なものがあったとは。

 

 そうこうしているうちに、≪炎の船≫の方向から、大量の豆粒に似た何かが、空を埋めつくすような数で迫ってくる。

 

 件のゴーレム人形――今、地上に投下されているタイプより腕の翼が大きく、より飛行に特化したタイプだ。

 

 恐らく、セリカドラゴンの迎撃のために放たれたものだろう。

 

「ここで、団体様のお出ましだぁあああああ――ッ!?」

 

「グレン、うるさい。システィーナを見習って。すごく静か」

 

「う、うーん…大きな星が…見える…むにゃ……」

 

「そいつ気絶してるだけだろ!?っていうか、起きろ、白猫ォオオオオ――ッ!?」

 

「し、システィ、しっかり!?」

 

 セリカドラゴンの背中の上が、てんやわんやしているうちに。

 

『ちっ…また砲撃が来るぞ!しっかり掴まってろよッ!』

 

 セリカが警告のテレパシーを鋭く発して。

 

 片翼をばさりと羽ばたかせ、再び超高速の急旋回軌道に入った。

 

 猛烈な遠心力が、グレン達を振り落とさんばかりの勢いでかかり――

 

 その尻尾を追うように、無数の熱線が次々と連続で過ぎっていく。

 

 そして、セリカドラゴンが熱線砲撃の回避機動に手をこまねいているうちに。

 

 無数のゴーレム人形達が、セリカドラゴンとの距離を詰めていくのであった。

 

「くそ…囲まれた…ッ!やるしかねえか……ッ!」

 

 遥かな空の上で、壮絶な空中戦が始まるのであった――

 

 

 

 

 

「二時方向、二機、急降下!」

 

 地上では――

 

 連邦軍、帝国軍、魔術学院の生徒達と教師陣の迎撃により、激しさが増していた。

 

 マクシミリアンを司令塔にした『神の盾』はゴーレム人形達が距離を詰めてきたため、解除し、すでに個々で迎撃に参加している。

 

 ジョセフは、その最中、上空に二体のゴーレム人形が南館めがけて急降下してくるのを視認し、重機関銃の銃手に大声で告げる。

 

 銃手はそれを聞いて視認するや、素早く上空に銃口を向け、引き金を引く。

 

 四丁の重機関銃から放たれた大口径弾は、ゴーレム人形の胸部に集中して吸い込まれるように向かい、ゴーレム人形を撃ち落とす。

 

「ジョセフ!後ろッ!?」

 

 すると、ウェンディがジョセフに警告を叫ぶ。ジョセフの背後に一体のゴーレム人形がジョセフめがけて、鉤爪を突き出して襲いかかってくるが――

 

「知ってる」

 

 ジョセフは後ろを振り返らずに、そう言い、予めロックオンして仕掛けていた『チャパラル』でゴーレム人形の胸部を撃ち貫く。

 

 胸部を撃ち貫かれたゴーレム人形は霧散する。

 

「お前こそ、頭上に注意やで――ッ!?」

 

 ジョセフは大鎌を召喚するとそれを大きく横に振りかぶり、空に向かって投げる。

 

 投げられた大鎌はぶんぶんと横回転しながら、ウェンディの頭上にいたゴーレムを真っ二つにする。大鎌はブーメランのように左方向に曲がり、その途上にいた何体かのゴーレム達を上半身と下半身に真っ二つにしながら、ジョセフの元に戻ってくる。

 

「す、凄い……」

 

 ジョセフの迎撃に、ウェンディはしばらく見惚れるが――

 

「ボサッとすんな!」

 

 ジョセフから腕を掴まれて声を荒げられて我に返る。

 

「さらに三体!ウェンディ、お前は、右端をッ!テレサ!ウェンディが撃った後に左端をッ!俺が真ん中をやる!俺の合図に合わせろ」

 

 ジョセフは矢継ぎ早にウェンディとテレサにそうまくし立てると、上空に向かって左手の指を上空から急降下してくるゴーレム三体に向ける。

 

 やがて、三体が急降下してくる。

 

「ジョセフ――」

 

「――まだ」

 

 ウェンディがいつまでも合図を出さないジョセフを心配そうに振り向くが、ジョセフはまだ合図は出さない。

 

「そのまま――」

 

 三体のゴーレム達がそのまま急降下し――

 

「くっ……」

 

「そのまま――」

 

 ゴーレムが急降下し――

 

 やがて、屋上に降り立とうとした、その時。

 

「≪発射(ファイア)≫ッ!」

 

 ジョセフが、真ん中のゴーレムめがけて『チャパラル』を放つ。

 

「≪術式起動(ブート)貫通雷閃(ライトニング・ピアス)≫ッ!」

 

 それに続き、ウェンディが≪魔導士の杖≫を掲げ、規定の呪文を唱える。

 

 すると、黒魔【ライトニング・ピアス】が起動し、杖の先から雷閃が空へ飛んだ。

 

 『チャパラル』から放たれた雷閃が真ん中のゴーレム人形に、【ライトニング・ピアス】の雷閃が右端のゴーレム人形を撃ち貫き…光り輝くマナの霧と砕けて散滅する。

 

 残りの一体は、そのまま回避機動を取ろうと右に横転するが。

 

「≪術式起動(ブート)爆破炎弾(ブレイズ・バースト)≫ッ!」

 

 ジョセフの言う通りに少し遅らせてテレサから放たれた黒魔【ブレイズ・バースト】の火球が放たれ、右端のゴーレム人形に着弾、爆発し、霧散する。

 

「フゥ――ッ!二人ともやるなぁ!」

 

 ジョセフが二人に惜しみない称賛を送る。

 

「い、いえ……」

 

「それは、貴方の采配が……」

 

 プロの軍人であるジョセフに褒められて嬉しかったのか、ウェンディとテレサが少し照れくさそうにそう言おうとするが――

 

「おっと」

 

 ジョセフは上半身を捻り、振り向きざまに『チャパラル』を二発放つ。その先には二体のゴーレム人形が交互にジョセフ達の頭上を飛んでいた。

 

 ジョセフが放った『チャパラル』はロックオンしていなかったため、標的を外し、ゴーレムは回避機動のため右に旋回しようとするのだが。

 

 旋回したその時、二体のゴーレム人形はそれぞれ一発の雷閃に打ち貫かれ、霧散する。

 

 雷閃を放ったそれぞれの主は、ジョセフと同じく南館を持ち場にしている≪コネチカット≫のダーシャと≪メリーランド≫のアリッサ。

 

 二人は、頭上のゴーレム人形が自分達の射線に入ったため、素早くロックオンし、『チャパラル』を放ったのだ。

 

 二人のみならずジョセフもそうだが、視界に入ってくる敵を視認・対処しながら、音で敵の方角をある程度察知しているように訓練されている。そのため、今回のように頭上にゴーレム人形が来ているのを音で察知し、そこにいると思われる敵に振り向き、攻撃していたのだ。

 

 ゆえに、連携して攻撃をしたわけではなく、偶然、ジョセフが追い払ったゴーレムを二人が撃ち落としたというだけなのだが――

 

(す、凄い……)

 

 それを連携しているという風に勘違いしてしまったウェンディがデルタの三人を交互に見やる。

 

 それぞれ顔を見ておらず、しかも言葉を交わさずに連携しているという高度な技量をやってのけているように見えてしまったのだ。

 

 だが、例えそうだとしても、一連の動きは一種の芸術のような研ぎ澄まされており――

 

(いつか、私も、ジョセフとあのように……ッ!)

 

 いつか、自分もジョセフとこういう連携を取りたいと、ジョセフ達のその動きにそう胸中で思うのであった。

 

 

 

 

 

 一方、空中では――

 

『カ――ッ!』

 

 セリカドラゴンがその大口を開き、炎の吐息を放つ。

 

 放射状に広がる炎が、前方のゴーレム人形の群れを、まとめて焼き払う。

 

「≪猛き雷帝よ・極光の閃槍を以て・刺し穿て≫――ッ!」

 

 目を覚ましたシスティーナが、黒魔【ライトニング・ピアス】を放つ。

 

 風を切って空を翔けるセリカの背後から迫ってきたゴーレム人形達を、雷閃が、片端から落としていく。

 

「≪白銀の氷狼よ・吹雪纏いて・疾駆け抜けよ≫――ッ!」

 

 グレンの放つ黒魔【アイス・ブリザード】の凍気と氷礫の嵐が、横合いから迫ってくる飛行人形達を薙ぎ払い――

 

「ん――」

 

 雲の中を抜けざま、リィエルが雲から大剣を高速錬成し――

 

「えい。攻撃魔法」

 

 それをぶん、と投げつける。猛烈な縦回転がかかった大剣は、ぎりぎりまでセリカドラゴンに迫っていた飛行人形を両断し、そのまま空の果てまで飛んでいった。

 

「ま、また来ますッ!?」

 

 その刹那、遥か遠く前方の≪炎の船≫の側面が、再びチカチカッっと紅く光り――

 

『ちぃ――ッ!?』

 

 咄嗟に、セリカドラゴンがぐるりと螺旋を描いて横転し、進行軌道を左へ素早くずらす。

 

 そのまま一気に空を飛翔し、≪炎の船≫とその距離を詰めようとするが――

 

 チカチカチカッ!

 

 ≪炎の船≫の砲撃は止まらない。

 

 セリカドラゴンの鼻先を殴りつけるかのように迫ってくる、無数の熱線。

 

『ああもう、うざいなッ!』

 

 翼を羽ばたかせ、急上昇――

 

 そのまま、大きく宙返りして、上下逆さまの状態でその空域から一旦、大きく離脱。

 

 上下逆になったグレンの視点から見れば、セリカを追い越すように頭上を過ぎっていく無数の熱線。

 

 セリカドラゴンはそのまま、横転しつつ斜め旋回し――反転、再び≪炎の船≫を正面に見据える。

 

 だが、そんなセリカドラゴンへ、再び四方八方から殺到するゴーレム人形達。

 

 猛速度で急旋回し、それを振り切りにかかるセリカドラゴン。

 

「ああ、くそっ!一向に距離が縮まらねえなッ!」

 

 セリカドラゴンの背の上で、グレンがもどかしそうに歯噛みする。

 

「これじゃ突入前にくたびれてしまいますっ!なんとかしないと――」

 

『すまん…あの対空砲火がある限り、近付くのは不可能だ。グレン、どうする?』

 

「ちっ……」

 

 グレンは魔術的な視覚で、遥か先の≪炎の船≫を見やる。

 

 ≪炎の船≫の船体の脇にある砲門。そこは開閉式の扉になっていて、熱線を放つ瞬間だけ開き、その後、すぐ閉まってしまう。そのため、魔術狙撃で潰すことすら出来ない。

 

(くそ…ッ!どうしたら……ッ!?)

 

 変身魔術は大量の魔力を消費し続ける。ドラゴンのような強大な存在ならば、尚更だ。

 

 このままでは、いずれセリカが時間切れとなり、何も出来ずに撤退するしかない…グレンの背中をそんな焦燥の炎が焦がしていると。

 

 ――その時だった。

 

 グレンの視界の端を、地上から天に向かって真っ直ぐ昇る、一筋の光の線が灼いた。

 

「――先生、あれはッ!?」

 

「ああ…今のは…【ライトニング・ピアス】…?一体、誰が……?」

 

 しばらく、グレンは突然、空を昇った雷閃の残像をぼんやりと眺め……

 

 やがて、なんらかの合点がいったように、にやりと笑って言った。

 

「……セリカ、頼みがある」

 

『なんだ?』

 

「今から、俺の指示するとおりに飛んでくれ。…多分、お前は、俺が気でも狂ったんじゃないかって思うかもしれん…だが、信じてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今回はここいらで。

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