ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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いやぁ、投稿が遅くなってしまいました。

決して飽きたわけではありませんよ?ただ、レッドデッドリデンプション2にはまってしまっただけですよ?

……すんませんでしたぁああああああ――ッ!?


113話

『……くっくっく……』

 

 ≪炎の船≫の最深部――玉座の間にも似た、制御室にて。

 

 魔人は、頭上に写し出される、空の映像を眺めながら、ほくそ笑む。

 

 まさか、たかが愚者の民が、生意気にもそのような手段で空へ攻め込んでくるとは。

 

 どこかで見たことあるような光景に、魔人は一瞬、面食らったが。

 

 落ち着いた魔人が、玉座の傍らの火器管制モノリスを操作し、対空砲火を放てば、案の定、あのドラゴンはこの船に近づくこともできず、無様にてんやわんやだ。

 

 魔将星の記憶によれば、遥か過去にも、似たような手段でこの船に攻め込もうとした魔術師がいたらしい。人間のやることはいつも変わらない。まったく馬鹿げた話である。

 

『くくく…その内、近づけないことに業を煮やして、破れかぶれの突撃に来るぞ…あの時と一緒だ』

 

 魔人がそうほくそ笑んだ、その瞬間。

 

 頭上の映像に、金色のドラゴンが翼をばさりと羽ばたかせ、≪炎の船≫を目指して、一気に突進をかけてくる光景が映っていた。

 

『ふん、見たことか。…良い的だ』

 

 魔人は、火器管制モノリスを操作し、≪炎の船≫に搭載されている全魔導砲の照準を、一斉に金色のドラゴンへと合わせる。

 

『ふっ…すべてはかわせまい…終わりだ』

 

 魔人がモノリスに魔力で文字を描き、発射命令を送る――

 

 

 

 

「来たぞぉおおおおおお――ッ!?」

 

『ちぃいいいっ!お前、私が死んだら、責任とれよ!?』

 

 魔導砲が発射された瞬間、セリカドラゴンは猛突進から、グレンの指示通り高速旋回。

 

 ドラゴンの壮絶なパワーで、強引に進行方向を90度、右舷に傾ける。

 

 そんなセリカドラゴンの後を追うように、乱射された熱線が追いすがる。

 

 熱線は、セリカドラゴンの尻尾が引く雲を断つように、次々と過ぎっていく。

 

「だ、駄目ですッ!?追いつかれますッ!」

 

 システィーナが悲鳴を上げた。

 

 連続で過ぎっていく熱線は、一射ごとに、みるみる内にセリカに追いついてくる。

 

 やがて、尾の先を掠め始め、尾の根元を掠め――

 

「や、やられます――ッ!?」

 

 やがて、過ぎる極太熱線の熱が、肌で感じられるほど近づいてきて――

 

『クソ…駄目か……ッ!?』

 

 追いすがってくる熱線が、ついに腹部を掠めたとき、セリカも死を覚悟して――

 

 システィーナ達がそう覚悟した――まさにその時だった。

 

「……あれ?」

 

 最後のとどめとなる一射が――なかった。

 

『なんだ…?不発か?』

 

 一同が不思議そうに目を瞬かせていると。

 

「くくく…まぁ、やってくれるだろうって、思ってたけどよ…アホかよ」

 

 ただ一人、グレンが訳知り顔で、笑うのであった。

 

 

 

 

 

 地上――

 

 戦いの最前線となるアルザーノ帝国魔術学院校舎から少し離れ――

 

 学院で最も高い建造物である転送塔、その屋上に、とある集団があった。

 

 グレンのクラスの男子生徒セシルや、二年次生ではシスティーナに並ぶ成績を誇る一組のハインケルを始めとする、厳しい選抜で選ばれた十数名――援護狙撃部隊だ。

 

「…………」

 

 そして、そんな彼らを率いるアルベルトは、空を鋭い目で睨んでいた。

 

 アルベルトは奇妙な杖を携えていた。

 

 人の身長を悠に超える長大な杖だ。その造形は小銃に似ている。表面には無数のルーンが刻まれており、脇には六角形の小さな窪みがあり、魔晶石がはめ込まれている。

 

 そんな杖を、アルベルトはまさに小銃のように構え、遥か空の彼方へと向けている。

 

 周囲の生徒達は、そんなアルベルトをぽかんと目を丸くして見ていた。

 

「報告。…早くしろ」

 

「あ、は、はいっ!」

 

 アルベルトの淡々とした促しに、セシルは慌てて遠見の魔術でに意識を戻し、確認する。

 

「め、命中。左端の砲、大破!」

 

「成る程……」

 

 アルベルトは杖の脇に突いていたレバーを引く。

 

 すると、魔力切れの魔晶石が杖から外れて落ち、新しい魔晶石をそこに嵌める。

 

(グレンが一定速度で砲に対して水平に飛び…何の工夫もない一斉掃射をさせてくれたおかげで、開門から発射までのラグ…一発当てたことで、彼我の距離、角度、着弾までの時間…必要な情報は、全て見切った)

 

 アルベルトが再び頭上に杖を掲げると、その先端に目も眩まんばかりの眩い蒼い光が、球状に集まり始める。

 

「ならば――容易(イージー)だ」

 

 アルベルトがそう呟いた瞬間、その杖の先から、蒼い光が一条の極太レーザーとなって放たれ、空を真っ直ぐ駆け昇った。

 

 この杖は、アルベルトが、本当にいざという時に使用する魔術狙撃用の杖だ。

 

 その名も、魔杖≪蒼の雷閃(ブルー・ライトニング)≫。

 

 機能は単純、これを通して放つ魔術狙撃の威力を極限まで増幅する。

 

 対人用というより、対物用の狙撃魔導器であり、今回、帝都から出撃する際、アルベルトは念のために、この杖の使用申請を出し、圧縮凍結して携行してきたのであった。

 

 アルベルトが放った蒼い閃光は、空を遡る流星となって、雲の果てに吸い込まれ――

 

「……報告」

 

 蒼の雷閃を放ったアルベルトは、その着弾結果も見ずに、空になった魔晶石を杖から外し、新しい魔晶石をはめ込み、次弾の準備を淡々と行う。

 

「は、はいっ!すみませんっ!さっきの右隣の砲に着弾、大破ッ!」

 

「良し」

 

 それからは、もう完全に作業だった。

 

 アルベルトは次から次へと空に向かって撃ち、魔晶石を取り替えて、さらに撃つ。

 

 唖然としている生徒達が、遠見の魔術で見守る中、その悉くが命中。

 

 ≪炎の船≫の魔導砲が、次々と大破していく。

 

 狙撃チャンスは、砲門が開かれ、熱線が放たれるほんの一瞬だけ。どの砲門がいつ開くかはまるで予想が付かず、発射から着弾まで数瞬のラグが存在し、難易度は極大。

 

 だが――

 

「ふん…砲の撃ち方は単調…おまけにグレンも敵の砲撃を絶妙に誘導している。読むは容易い。目を瞑っても中る。…容易(イージー)だ」

 

 アルベルトはその悉くを見切り、予言者のように狙撃を中てていく。

 

 セシルはそんなアルベルトの姿に震えが走る思いだった。

 

(す、凄い…ッ!一応、アルベルトさんは、僕に狙撃観測手を命じたけど…この人なら、僕なんて要らない!なんて凄い人なんだ……ッ!)

 

 グレンの指導によって、魔術狙撃の才能が徐々に開花しつつあったセシルだからこそ、常人の何倍も、アルベルトの技量の凄さがわかる。

 

 セシルは特段、軍に入りたいわけでも、魔導兵になりたいわけでもない。

 

 ただ、遠くの物に、狙って中てる――単純に優れた魔術の知識だけでは決してなしえない、一種の芸術のようなその研ぎ澄まされた技術、その美しさに――

 

 ただただ、子供のように憧れるのであった。

 

 

 

 

(……うそーん)

 

 南館で上空の様子を遠見の魔術で(戦闘の僅かな合間に)見ていたジョセフは、アルベルトの狙撃の技量に呆然としていた。

 

 地上から上空に、無数の蒼い雷閃が昇っていたため遠見の魔術で見たら、蒼い雷閃が≪炎の船≫を完全につるべ撃ちしていた。

 

 グレン達を乗せたセリカドラゴンに向けて乱射していた≪炎の船≫の砲門の悉くが、片端から潰されていく。

 

 こんな人間離れした狙撃をやってのけられるのは、世界でもアルベルト一人しかいない。

 

 だが、こればかりはアルベルトだけの功績とはいえないだろう。

 

 上空のゴーレム人形を数体、火だるまにした後、再び遠見の魔術でセリカドラゴンを見やる。

 

 セリカの動きは≪炎の船≫の砲門を開けさせるために、わざと突進させている。そして堪えきれなくなって砲門を開くと――

 

 その瞬間、アルベルトの蒼い雷閃が鋭く飛来し、その魔砲を破壊する。

 

 グレンとアルベルトの、言葉すら交わさない連携が、≪炎の船≫を完全にやり込める。

 

(あんなに離れているのにもかかわらず、あの連携…恐ろしすぎるやろ……)

 

 そもそも、≪炎の船≫のあの対空砲火は、想定外のトラブルだったはずだ。

 

 だというのに、アドリブでの完璧なる対処…呆れ半分、敵に回したくないという恐れを抱くジョセフであった。

 

 やがて、≪炎の船≫の魔導砲が全部潰れ、グレン達の行く手を阻む最大の障害がなくなった。後は、≪炎の船≫の突入するだけだ。

 

 ≪炎の船≫の空域には、無数のゴーレム人形が大挙していたが、大した障害にはならないだろう。

 

(後は、乗り込んであのクソ野郎を地獄に落とすだけ…先生、なるべく早く終わらせてくださいよ)

 

 ジョセフは今回の戦いは長期戦になればなるほど、自分側が不利になるとわかっていた(これは、連邦軍も帝国軍も教師陣もわかっているはずだ)。

 

 ジョセフは、再び校舎南館に視線を戻し、大鎌を数体のゴーレム人形に向けて、ぶん投げるのであった。

 

 

 

 

 

「≪術式起動・爆破炎弾≫ッ!」

 

 カッシュが≪魔導士の杖≫を掲げ、規定の呪文を唱える。

 

 すると、黒魔【ブレイズ・バースト】が起動し、杖の先から火球が空へ飛んだ。

 

 火球は見事、空から降下して来るゴーレム人形に着弾、爆破し…≪炎の船≫同様マナで物質化されているゴーレム人形は、光輝くマナの霧と砕けて散滅する。

 

「すげぇな、この杖…これが軍用魔術…?なんか怖くなってくるぜ……」

 

 カッシュは戦々恐々としながら、先刻から煙を上げる杖を見つめていた。

 

 この≪魔導士の杖≫には、基本三属と呼ばれる軍用魔術――黒魔【ライトニング・ピアス】、【ブレイズ・バースト】、【アイス・ブリザード】――の、三つの魔術式が組み込まれており、使い手がその呪文を習得していなくても、使い手の魔力と規定の呪文、そして、多少の訓練で、その魔術を起動することが可能になる…という代物だ。

 

 戦時下などの有事の際、学院の生徒達を即席の魔導兵として運用するため、帝国政府が密かに、学院に大量に保管させている魔導器である。

 

 無論、高位魔術師になればなるほど、威力が常に一定で、三つの呪文しか使えず、呪文の即興改変も出来ず、どうやったって二節詠唱以下にならないこの杖はお払い箱だが…今の学院の生徒達には、絶大な力を与えてくれるのであった。

 

 そもそも、魔術師が隊伍を組んで一斉砲火を浴びせる――それだけで、ただの軍隊(連邦軍以外)とは比較にならないほど”強い”のだ。

 

 もっとも、連邦軍のように遠距離から無数の砲弾の雨を降らされたら、その限りではないのだが。

 

「――≪術式起動・貫通雷閃≫ッ!」

 

 カッシュの隣で、ギイブルの杖を掲げ、呪文を唱える。

 

 杖から放たれた雷閃が、迫り来る飛行人形を、撃ち落とす。

 

「無駄口叩いてる暇があったら、どんどん撃ち落とせよ」

 

「わ、わかってるよ!≪術式起動・爆破炎弾≫――ッ!」

 

 屋上の柵には連邦軍が銃弾の弾幕を形成し、その後方に沿って並ぶように布陣した生徒達は、空から大量に舞い降りてくるゴーレム人形達を校舎に近づけまいと、必死に攻性呪文で弾幕を形成し、撃ち落としていく。

 

 空を飛び交う無数の火球が、雷閃が、氷嵐が、銃弾が、魔術学院校舎の上空に、圧倒的な弾幕を形成する。

 

 一列目の生徒が攻撃担当。

 

 そして二列目の生徒は――防御担当。つまり二人一組(ツーマンセル)一戦術単位(ワンユニット)編成の応用だ。

 

「「「「≪光り輝く護りの障壁よ≫――ッ!」」」」

 

 二列目の生徒達が両手を頭上に掲げ、声を揃えて一斉に呪文を唱えれば、生徒達の頭上に、光の魔力障壁が大きく形成され――

 

 ドドドドドッ!

 

 空のゴーレム人形が、その単眼から放ってくる熱線の悉くを防ぐ。

 

「ひるむなッ!」

 

 障壁と熱線がぶつかり合い、一列目の生徒達に走った動揺を、カッシュが叱咤する。

 

「対抗呪文とこの防護ローブがありゃ、そう簡単に死なねえよッ!それよりも攻撃の手を止めるなッ!一匹でも多く落とせッ!」

 

 カッシュのように、士気の高い勇敢な生徒や……

 

「フン…≪術式起動・爆破炎弾≫!」

 

 生徒の中では圧倒的に抜けた撃破数を積み上げていくギイブルなどの存在もあって、実戦経験がほぼ皆無な生徒達でも、なんとか敵の攻勢をしのげている。

 

「やれやれ…あの時、先生に二人一組・一戦術単位習っておいて、よかったぜ……」

 

「……癪に障るが、それには同意するね」

 

 敵を捌きながら、カッシュとギイブルがそんなことを言い合う。

 

 だが、舞い降りてくる敵の数は多い。どうしても討ち漏らしは出てくる。

 

 そんな弾幕を抜け、ゴーレム人形が時折、屋上に降り立ったり、校舎の壁に取り付いたりしてしまう。

 

 だが。その時は――

 

「フゥハハハハハハハハハハハハハ――ッ!行けぃ、グレンロボォオオオオ――ッ!」

 

『俺ノ生徒ニ手ェ出シテンジャネーヨ!』

 

 オーウェルが遠隔操作するグレンロボが、拳闘でゴーレムを粉砕し――

 

「ァアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッ!」

 

 降り立ってくるゴーレム達を、叫びながら軽機関銃で乱射し、風穴を空けまくるティム――

 

「≪凍れ・雑魚共≫ッ!」

 

 呪文を詠唱すると氷吹雪が巻き起こり、降り立ってきた周囲のゴーレム人形を凍らせるアリ――

 

「ほいほいほいっとぉうッ!」

 

 東西南北の側面の壁を、重力を無視して自在に駆け回るバーナードが、マスケット銃と鋼糸を振るい、あっという間にゴーレムをバラバラにしていく。

 

 バーナードの動きはフリーダムだ。鋼糸をワイヤー代わりに、ブランコの要領で一瞬で校舎の表から裏へと回ったり、引っかけるところも何もない壁を、蹴り上がって――

 

「ほぁあああああああああああ――ッ!」

 

 右の剛腕を振るい、壁に取り付くゴーレム人形の胴に、その拳を叩き込む。

 

 その拳のインパクトの瞬間、爆炎の魔術が起動し、人形が爆発四散。

 

 そして、空中でバーナードは、再び鋼糸を放ち、それをワイヤー代わりに伝って、別の校舎へと一気に飛んでいく……

 

 別の校舎の壁に着地した…その時。

 

「うひょ――ッ!?」

 

 バーナードの頭上すれすれで炎の波が、ゴーレム人形を飲み込む。

 

 炎の波が過ぎ去った後はゴーレムは跡形もなくなり、校舎の壁や窓は無傷だった。

 

「こりゃぁあああああ――ッ!≪ジョージア≫ッ!?わしを燃やす気かッ!?」

 

 バーナードが、炎を放った人物に向けて、髪の毛を抑えるそぶりをしながら、言う。

 

「ワリぃ、ワリぃ。まぁ、生きてるから大丈夫やろ?」

 

 その人物――フランクは悪びれることもなく、校舎の壁を自在に駆け回っていた。

 

 鋼糸を使って飛び回っているバーナードとは違い、フランクは自身の足元に炎弾を着弾させ、その爆発を活かして校舎の壁を飛び回っている。飛んでいる最中でも、足元に結界を張り、そこに炎弾を着弾させ、その爆発で壁に着地していた。

 

「なんなんだ、あの二人の変態機動…あれが本当に人間の動きなのか……?」

 

「ていうか、総指揮官が前線で戦うなよ……」

 

 頼もしいことこの上ないが、あまりにも人間の想像と常識を超えたそのアクロバティックな動きに、カッシュもギイブルも呆れるしかなかった。

 

「見とれている場合ではないぞッ!少年達よッッッ!」

 

 その間にも、グレンロボが軽快なステップから放った右ストレートが、屋上に降り立ったゴーレムを次々と真っ二つに粉砕していく。

 

 オーウェルが遠隔令呪魔術で操作するグレンロボは、そのポンコツな外見からは想像も付かないほど精緻で滑らかな、超高速戦闘機動を可能としていた。

 

 明らかに、近代レベルの魔導人形に出来る動きではなく、その拳闘スタイルの立ち回りはまさにグレンと遜色ない。オーウェルの魔導人形操作術も非常にハイレベルだ。

 

「フッ!懐に入った敵は、このオーウェル=シュウザーに任せるがいいッ!」

 

 そんな意外な追加戦力もあって、生徒達は押し寄せるゴーレム達を撃退していく。

 

 だが、このように生徒達が有効的に敵を迎撃できるのは、やはり――

 

「撃ち落とせ、一騎でも多く」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 転送塔の屋上に陣取った、アルベルト率いる援護狙撃部隊の功績が大きいだろう。

 

 学院の校舎に向かう敵ゴーレム人形の数を、生徒達による魔術狙撃の水平掃射で、徹底的に減らしていく。

 

「≪雷槍よ≫」

 

 校舎で戦う生徒達の危ない場面も、まるで戦場全域を見渡すかのような広域視野を持つアルベルトの狙撃が、徹底的にフォローする。

 

 そして、狙撃班の生徒達の中で際立った活躍をするのはセシルだった。

 

「≪術式起動・貫通雷閃≫ッ!」

 

 取り付かれたように、狙撃に没頭するセシルの命中率は、明らかに一つ抜けていた。

 

「……凄いな。…俺も負けていられん」

 

 隣のハインケルの感嘆の呟きも、今のセシルには届かない。

 

(皆のために…僕に出来ること…僕に出来ることを……ッ!)

 

 校舎で戦う仲間達を思って、セシルはさらに狙撃作業に没頭していく――

 

 

 

 

 

「「≪術式起動・凍気氷嵐≫ッ!」」

 

 ウェンディとテレサが並んで杖を掲げ、凍気を嵐を放ち、空の敵を薙ぎ払う。

 

「くう…ッ!きりがありませんわねッ!」

 

 薙ぎ払っても、薙ぎ払っても、すぐに次なる新手が迫ってくる。

 

 ふと、ウェンディが息を整えつつ周囲を見渡せば、生徒達、連邦軍、屋上の集う誰もが、必死に空に向かって銃弾や攻性呪文を放っていた。

 

「一体、いつまで続ければ……」

 

「ウェンディ!後ろッ!?」

 

 テレサの警告にウェンディがはっと振り返れば、そこには討ち漏らし――屋上に降り立ったゴーレム人形がいて、ウェンディに鉤爪を振り上げて襲いかかってくる。

 

「ひっ!?」

 

 突然のことに、ウェンディは身を竦めて、硬直するしかなくて。

 

「ウェンディッ!」

 

 そんなウェンディを、テレサが抱きつくように庇った――

 

 次の瞬間だった。

 

「――ふ!」

 

「くたばれぁあああああああ――っ!」

 

 突如、横合いから飛び込んできた疾風と烈風が、テレサの背中に爪を突き立てようとしていた人形を、バラバラに破壊していた。

 

「危ないところでしたね」

 

「……油断してんじゃねーぞ、アマ共……」

 

 抱き合うウェンディとテレサが気付けば、そこにはリゼとジャイルが、ウェンディ達を庇うように立っていた。

 

 リゼは、細剣――魔力が付呪された本物の真剣――を構えてその身に渦巻く風を纏い、片手半剣を無造作に担ぐジャイルは、よほど強固な身体能力強化をその身に施しているのが、普段以上に力が漲っていた。

 

「あ、貴女は、生徒会長のリゼ先輩ッ!?」

 

 ウェンディの驚く前で、リゼは風のように細剣を操り、次なる敵を蜂の巣にし――

 

「ぼさってすんな、てめぇらのアホ講師はンなこと教えたか!?」

 

 ジャイルが壮絶な腕力に任せて剣を振るい、次なる敵を上下に両断する。

 

 そして、ガキィッ!と。音がしたのでウェンディとテレサが背後を振り返ると。

 

「おいおい、四人とも前ばっかり向いちゃアカンでしょ」

 

 そこにはジョセフが大鎌を担いで立っていた。大鎌の刃には胸部を貫かれたゴーレムがジタバタと手足をバタつかせている。

 

 ジョセフはゴーレムが刺さったままの大鎌を180度振り回し、ゴーレムを投げるように空に飛ばした。飛ばされたゴーレムは別のゴーレム人形と激突し、落ちていく。

 

「西校舎の方はどうなってるんです?会長」

 

「西校舎の戦況は、ハーレイ先生と連邦軍のおかげで非常に安定しています。私とジャイルさんは他の足りないところを補えと、遊撃を言い渡されましたので」

 

「そうですか、そりゃ助かります。なんせここはなぜか敵がうじゃうじゃ降りてくるもんですから」

 

 西校舎の戦況をリゼから聞いたジョセフは、そう言う。

 

 ジョセフ背後から、ゴーレム人形が鉤爪を上げて襲いかかるが、横合いから無数のナイフが高速で飛んできてゴーレムを穴だらけにする。

 

 ジョセフはナイフを放った人物――ダーシャに親指を上に立てる。

 

「了解、了解…ウェンディとテレサはそのまま空の連中を撃ち落としてくれ。俺と会長とジャイルで討ち漏らした敵を片付けるから。というわけでお二方さん、どちらが多く倒せるか競争してみます?」

 

「ふふ、いいですね。乗りますわ」

 

「面白れぇ…おい、そこのアマ共。わかったなら、さっさと空のクソ共を撃ち落とせッ!」

 

 そして、ジョセフとリゼとジャイルは張り合うように、屋上に降り立った討ち漏らしの敵を、掃討していく。

 

「ウェンディ」

 

「ええ…もう大丈夫ですわ」

 

 テレサとウェンディがうなずき合い、再び空に向かって、呪文を撃ち始めた。

 

 一方、ジョセフは敵を掃討しながら、右手で敵を焼き払っている特務分室室長をちらりと流し見ていた。

 

 

 

 

(私は――一体、何をやってるの!?)

 

 イブが右腕で炎を振るい、空から迫り来る敵を片端から焼きながら、歯噛みしていた。

 

(この私がいながら、連邦軍に加勢されて――この子(ウェンディ)達を危険に晒して――ここが頼りないと生徒達に加勢までされて――ッ!この≪紅焔公(ロード・スカーレット)≫ともあろう者が、なんて無様な――ッ!?)

 

 本来なら、この校舎の防衛など、イブ一人で十分だったはずだ。

 

 この程度の質の敵が相手ならば、多少無茶をすれば、東西南北の校舎を全て一人でカバーすることすらできたはずだ。

 

 なのに――≪紅焔公≫としてのあの絶対的な力が、今はまったく出ない。

 

 眷属秘呪は、なぜか上手く機能しなくなってしまったし、肝心要の左手で魔術を振るうことも出来ず、右手で放つ魔術は、なぜかいつも以上に遅いし、弱い。

 

 何より身体が重い。心が重い。なんだかうまく動いてくれないし、やけに疲れて…苦しい。もう何もかも投げ出して…足を止めて休みたい。

 

 脳裏にちらつくは、蔑むように心の奥底を覗き込んでくる、狂える≪正義≫の眼。

 

 そして、まるで何かに失望したように流し見てくる、元部下(グレン)の冷たい眼……

 

(どうしちゃったのよ…私、一体、どうしちゃったの…?私、もう……)

 

 だが、イグナイトの名にかけて、イグナイトのために。

 

 それだけをよりどころに、イブは弱った炎を振るい続ける――

 

 

 

 

 そして、校舎内では――

 

「うぉおおおおお――ッ!皆、もっと気合い入れて、魔力を注げぇえええ――ッ!」

 

「先生達や皆は、もっと大変なんだぞぉ――っ!?」

 

 カイやロッドなどの結界維持組となった生徒達が、校舎内に描かれた紋様に手を当て、フェジテ上空の【ルシエルの聖域】へ、必死に魔力を送っていた。

 

 時折、空から降ってきた敵のゴーレムが窓に張り付き、窓に張った阻塞結界を押し破って、校舎内部へ進入しようとしてくる。

 

「ひぃ――ッ!?」

 

 だが、そんなゴーレム達は、外を縦横無尽に飛び回るバーナードとフランクや、アルベルトの魔術狙撃で、際どいところで撃破されるが…進入されかかるその都度、生徒達は心臓が握り潰されそうな恐怖に駆られる。進入されても対処するために自動銃を構えている複数の連邦軍兵士がその度に身構えるから尚更だ。

 

 それでも、外で戦う皆がなんとかしてくれると信じて、生徒達は校舎から逃げず、ひたすら結界維持のための魔力を捧げ続ける――

 

 

 

 生徒達、教師陣、帝国軍、そして、連邦軍。

 

 彼らが全て一丸となって、空からの攻勢に徹底抗戦を続ける。

 

 今、戦況は――完全に拮抗していた。

 

 

 

 






今回はアーカンソー州とルイジアナ州です。

アーカンソー州は人口301万人。州都はリトルロック。主な都市にリトルロック、フォートスミス、フェイエットビル、パインブラフなどです。

愛称は自然の州で、25番目に加入しました。

「アーカンソー」という名前はクアポー族の言葉で、「下流の人々の土地」を意味する「アカカズ」、あるいはスー族の言葉で「南風の人々」を意味する「アカカズ」をフランス語風に発音したのがアーカンソーです(元々はフランス領ルイジアナの一部でした)。

 アーカンソーの発音については、州選出の2人の上院議員の間で、片方が「アーカンザス」を主張したのに対し、もう一方が「アーカンソー」を主張するという論争がありました。結果、1881年の州議会立法で公式に「アーカンソー」と決められました。

 最も貧しい州といわれた州でしたが、当地出身のビル・クリントン大統領がそれなりに活性化政策を勧めたお陰で多少はマシになったとか。

 全米随一の温泉地で全米最小の国立公園でもある、ホットスプリングスがあるのもココです。

 ウォルマートの本社があるのもこの州です。

 天然のダイヤモンドが採れる唯一の州でもあります。


 次はルイジアナ州です。

 人口466万人。州都はバトンルージュ。主な都市にニューオーリンズ、バトンルージュ、シュリーブポート、ラファイエット、レイクチャールズ、モンローなどです。

 愛称はペリカンの州で、18番目に加入しました。

 お名前でわかると思いますが、元フランス領で1803年、ルイジアナ買収でアメリカ領になりました。そのため、州の行政区画として通常はカウンティが用いられるのですが、ルイジアナだけはパリッシュという行政小教区(元はキリスト教の小教区を意味していた)がカウンティ相当として使われていたりなど、フランス植民地時代の影響を強く受けています。

 他にもフランス(本国及びアカディアというメイン州東部とカナダのノバスコシア州に相当する地域)やスペイン(ヌエバ・エスパーニャ)の混合文化、インディアンや西アフリカから奴隷として連れてこられたアフリカ系アメリカ人の文化の影響など、アングロサクソン系のアメリカ人が流入して州に昇格する前に、他州とは異なった文化が形成され、今日に繋がっています。

 ルイジアナはルイ14世に由来し、大まかに言えば、「ルイに関するもの」を意味しています。

 フランス領ルイジアナはフランス植民地帝国の一部として、現在のモービル湾からカナダとの国境の北にまで延び、カナダ南西部の小部分を含む広大な領土でした。

因みに18世紀前半のカナダを含むヌーベルフランスの人口は約九万人。対して、お隣のイギリス領アメリカ植民地(いわゆる13植民地)の人口は百万人超…なあにこれ……

 ニューオーリンズは全米有数の観光都市として有名だったが、歴史的な町並みは無事だったものの、ハリケーンカトリーナで深刻な被害を受けてから、治安の悪化から立ち直れていません。

 シュリーブポートは映画産業が盛んで、南部のハリウッドと呼ばれています。

 バトンルージュは1992年10月17日にハロウィンパーティに出掛けていた日本人留学生が郊外で射殺された事件で、すごく悪い意味で日本人に知れ渡った都市です。



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