ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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122話

 学級都市フェジテから北へ、駅馬車で四日、早馬で二日ほどの距離に。

 

 城壁に囲まれた帝国最大の都市、帝都オルランド――アルザーノ帝国の首都はある。

 

 その帝都の中央には、女王陛下の居城であり、帝国における政務の中心地である、フェルドラド宮殿が存在する。

 

 今、その宮殿の一室で、帝国の事実上の最高決定機関たる『円卓会』の会議が行われていた。

 

 部屋の中央に据え置かれた円卓、そこに現女王であるアリシア七世と、王室に忠誠を誓十二名の会員が席に着き、今後の国政について熱心に議論を行っている。

 

 会員達はその誰しもが、帝国を支える軍・政財界の重要人物であり、皆、歳月を経て得た経験に裏打ちされた威厳と風格を持つ、海千山千の猛者達ばかりであった。

 

「――以上が、エルミアナ元・王女殿下に関する情報統制と処置の結果です」

 

「ご苦労様です」

 

 報告を受け、アリシア七世が素っ気なく応じた。

 

「異能者ということは割れてしまったようですが…王家の出という素性が、帝国側では信頼に足る者達の間でのみの共有に収まったことは幸いでした。連邦の彼女に対する動きが気になるところですが……」

 

「……ということは?」

 

「ええ。情報統制を強化しつつ、引き続きエルミアナを学院に封じてください。彼女には件の組織を釣る餌としての利用価値がまだありますから。処分するよりそちらの方が、国益に繋がるでしょう。けど、もし素性が割れた時、もしくは連邦が彼女に対して不審な動きをしたその時は…()()()()()()?」

 

 そのアリシア七世の冷徹な目と言葉に、海千山千の会員達の背筋に寒気が走った。

 

(陛下……)

 

 単眼鏡の老紳士――女王府官房長官グラッツ=エドワルド侯爵は、形だけでもそう言わねばならないアリシア七世の心中を察し、痛ましげに表情を歪めた。

 

「それでは、次の議案を」

 

「……は」

 

 すると、軍服に身を包んだ赤毛の男が立ち上がった。

 

 この場に集う猛者達の中でも一際大きな存在感と威圧感、威厳を放つ男だ。

 

 油断も隙もない巌の表情、顔に刻まれた向こう傷、胸元にある無数の勲章が、彼がくぐり抜けてきた数々の修羅場を証明していた。

 

「私からの議案は、手元の資料の通り兼ねてから提案していた――」

 

「イグナイト卿…貴公はまだ、軍拡を主張されるか!」

 

 途端、エドワルド卿はうんざりだとばかりに、書類の束を卓に叩き付ける。

 

「今、軍事費がどれだけ国庫を圧迫しているか、貴公ならば当然、ご存じだろう!?」

 

 だが、その男――女王府国軍大臣兼、国軍省統合参謀本部長アゼル=ル=イグナイト公爵は、悠然と応じた。

 

「わかっていないのは貴様だ、エドワルド卿。かつて、≪ワルドの金獅子≫と呼ばれた貴公も随分と老いたようだな」

 

「な、なんじゃと!?もう一度言ってみい、若造!?」

 

「昨今の世界情勢を鑑みるがいい。特に、我らがアルザーノ帝国と、かの忌まわしきレザリア王国との、古来連綿と続く確執を」

 

 アルザーノ帝国と、その隣国であるレザリア王国。

 

 この二国家こそ、北セルフォード大陸の覇権を争う二大国家である。

 

 領土は左程大きくないが、進んだ文明と優れた魔導技術・工業技術を国家の主幹とし、国全体が王家を中心に一致団結して高い政治力を持つアルザーノ帝国。

 

 広大な領土を利用した第一次産業を国家の主幹とし、宗教戦争で併合した様々な人種を聖エリサレス教によって統一し、聖エリサレス教会を中心に全てが動くレザリア王国。

 

 その二つの国家の国力は、今、完全に拮抗している状態だ。

 

「お忘れか?アルザーノ帝国王家の始祖は、隣国のレザリア王国王家の系譜に連なっている。それゆえ、帝国と王国は、互いの国家の統治権について常に対立してきた。

 さらに帝国王家の統治正統性を保障する我らが帝国国教会を、レザリア王国を事実上支配する聖エリサレス教会教皇庁は連邦聖公会と共に異端認定しており、両教会の関係も非常に悪い……」

 

 帝国国教会と聖エリサレス教会。

 

 元々はまったく同じ『エリサレス教』から、二つに分かれた宗教組織だ。福音主義のバルディア派(新教)と、儀式・礼拝(典礼行為)に重きを置くカノン派(旧教)。

 

 前者を奉ずるのが帝国国教会とそこから分離した連邦聖公会、後者を奉ずるのが聖エリサレス教会である。

 

 ざっくばらんに言えば、神と聖書さえ敬えばそれで良いというスタンスで戒律も緩く、他宗派とも共存できるのが前者。神と聖書には絶対服従すべきだというスタンスで戒律も厳しく、他宗派とあらば殺してでも排除に動くのが後者だ。

 

「レザリア王国は、様々な国や民族を、宗教戦争によって併合し、巨大化していった歴史を持つ。その多種多様な人種を、信仰によって辛うじてまとめ上げている。彼奴等は王国とは名ばかりの、事実上、聖エリサレス教会が支配する巨大宗教国家なのだ」

 

「そんなことは、ここにいる誰もが知っておる!それと軍拡とどういう関係が――」

 

「かの教会の支配に限界が来ている…そう仰りたいのですね?」

 

 事実のみを淡々と確認するアリシア七世の言葉を受け、イグナイト卿が言葉を続ける。

 

「御意の通り。最早、信仰心で民を支配する時代などとうに終わっている。近年、かの王国では、元々バラバラな国民達からついに不満が噴出し始めた。

 だが、かの国の王家の権威はすでに失墜しており、さらに数か月前のアメリカ連邦との戦争の敗戦により、レザリア王国はたちまち内部分裂の危機だ。しかし、かの教会は四十年前の奉神戦争時代の権勢が忘れられぬと見える」

 

 そして、イグナイト卿が円卓会の会員達を見渡して、仰々しく言った。

 

「……ここまで話せば、諸兄らもおわかりだろう?」

 

「なるほどねぇ。バラバラな味方を一つに纏めるにゃ、敵の存在…それも、明確に大義名分を掲げられ、おまけに適度に強敵で、適度に勝てそうな敵を作るのが一番だ。はっはーん…教会の連中、連邦にボコボコにされたから、まーた、俺達に目ぇつけ始めたってわけかい?」

 

 派手な伊達姿の傾き老人――帝国老舗マフィア『西マハード会社』を牛耳るルチアーノ家現当主エイブラム=ルチアーノ騎士爵がおどけて言った。

 

「その通りだ、ルチアーノ卿。連中は我が国に対して統治権、異端認定…掲げられる大義名分が山とある。莫大な利益を生む西マハード大陸との貿易海路確保の意味でも、我が国を併合する経済戦略的意味は大きい。

 王国民への反帝国教育も徹底しており、戦争を吹っかけ、国民の不満の矛先を向けさせるには、我が国は最善の相手だ。昨今、彼の国の帝国に対する政治的圧力の背景はまさにそれだ。…違いますかな、女王陛下」

 

「……ええ、イグナイト卿の言う通りです」

 

 神妙な表情で、アリシア七世女王陛下が言った。

 

「近年、レザリア王国は露骨に武力を背景にした外交戦略を我が国に取っています。今は王国側の穏健派有力者と密かに連携して、これをいなしていますが…第二次奉神戦争勃発の危機は、残念ながら年々高まっていると判断せざるを得ません」

 

 かの聡明な女王陛下の判断に、会員達の間に微かな動揺が走る。

 

「ふっ。聞いただろう?女王陛下の御言葉を。だからこそ、我々はそのいざこざという時のために今から備えておく必要がある」

 

「し、しかし――ッ!それなら、連邦がいるじゃないか!彼らの軍事力さえあれば、かの国だって――」

 

「その連邦にも問題があるのだ、エドワルド卿よ」

 

 アメリカ連邦。

 

 百年前、アルザーノ帝国から独立し、その後領土を拡大し、今や世界有数の大国となった国家。

 

 帝国から受け継いだ魔導技術と、一部の分野では世界最先端をいく工業・科学技術、南部の広大な土地を中心とする第一次産業を擁する、世界有数の経済大国であり、同時に常時百万の人員を擁する連邦軍を持つ、世界有数の軍事大国である国家、それが連邦。

 

 なるほど確かに、エドワルド卿の言う通り連邦を完全に味方に付けることができれば、先の戦争で痛手を被ったレザリア王国も露骨な武力を背景にした外交をしなくなるし、帝国の国庫を圧迫させるほど、軍拡をする必要はない。

 

 だが――

 

「近年、連邦では工業など第二次産業を中心とする北部諸州と、畜産農業など第一次産業を中心とする南部諸州に分かれて、対立している。原因は、連邦政府が今後執る貿易面の方針と経済面の南北の格差が広がっていることだ。

 そして、現在、連邦は来る二年後の大統領選挙へ向けて民主党と共和党の二つの政党が準備を進めている」

 

 民主党と共和党。

 

 帝政と王政が珍しくない世界の中で民主主義をとる連邦は、四年に一度、大統領選挙がある。

 

 連邦の大統領は、一期四年の、最大二期まで着任でき、一期四年が終わると選挙が行われる。その選挙で現職の大統領が再選されれば、引き続きあと一期続けることができるという仕組みだ。

 

 その中で、連邦の二大政党である共和党と民主党は、それぞれ、大統領を目指す者を大統領予備選挙で候補を一人に絞る。

 

 そして、それぞれ大統領候補を決めたら、本選で有権者の投票数が多い者が大統領になれる。

 

「大統領選挙…外交面では『力』による秩序と強力な同盟関係による安全保障策が基本であり、連邦の国益を優先させ、一方で内政面では建国当初からの伝統を順守する保守政党・共和党と、国際主義で死刑制度廃止・伝統的結婚制度維持反対・宗教多様化容認などの所謂、リベラル思想の民主党。今、両者は次期大統領の座を巡って着々と準備を進めている」

 

「そ、それがどうしたというのだ!?」

 

「……民主党が公約に掲げている奴隷解放…これによって連邦が分裂する恐れがある」

 

「……ッ!?」

 

「先も言った通り、連邦は北部諸州と南部諸州は経済的な構造による格差で対立が深まっている。工業が主体で一般労働者が占められている北部はともかく、畜産農業が主体の南部では大部分が奴隷によって占められている。その中で、民主党が公約に掲げる奴隷解放に関する法案が通ったら…言わなくてもわかるであろう」

 

「なるほどねぇ、法案が通ったら、南部諸州にとっちゃ死刑宣告にも等しいからなぁ…最悪、南部諸州は反発して連邦を脱退するかもしれねぇ。だが、そんなの北部の連中が許すはずもなく、バババーンッ!内戦勃発ってわけかい?」

 

「その通りだ。確かに連邦に敵対しようと思う国家は皆無に等しい。だが、その国でも内実はそういう危機にあるということだ。仮に連邦で内戦が勃発した時、王国はここぞとばかりに帝国に圧力をかけるだろう。その時に何も備えていないという事態はあってはならないのだ」

 

「し、しかし――ッ!貴公ら武断派…最近、図に乗りすぎではないですかな!?」

 

 イグナイト卿の言葉に、あくまでもエドワルド卿が食い下がる。

 

「イグナイト卿…貴方を筆頭とする最近の武断派の横暴は目に余る!先日、教導省の貴方のシンパも暴走し、強引な富国強兵策・教育改革を断行、マキシム=ティラーノという極端な武力至上主義者をアルザーノ帝国魔術学院の学院長へ就任させるという無茶苦茶な人事を行ったそうではないかっ!それというのも、貴方が――」

 

 だが――

 

「私は、イグナイト卿の判断を支持する」

 

「同じく。イグナイト卿の仰る通り、隣国への対策は必須でしょう」

 

「それに、多少強引だが、その教育改革は我が国にとって必要なことではないかね?」

 

 つい最近、この円卓会に入会した会員達から、たちまちイグナイト卿を支持する声が上がった。その数、メンバーのちょうど半数。

 

 帝国政府には、様々な派閥が存在するが、大きく分けると国軍省や強硬派議員を筆頭とする『武断派』と、魔導省や穏健派議員を筆頭とする『文治派』に分かれている。

 

 彼ら武断派の目的は明確だ。

 

 さらなる富国強兵策の推進――そしてあわよくば、レザリア王国との開戦と、かの国の併合――そして、将来、連邦に対抗できる軍事力の確保。魔術学院の方針転換はその第一歩だと言えよう。

 

「き、貴公ら、わかっているのか!?これ以上の軍拡は、経済の破綻を招きかねないのだぞ!?それにアルザーノ帝国魔術学院は、かの偉大なる第十三代女王アリシア三世が創立した、我が国が世界に誇る伝統の――」

 

 エドワルド卿が厳然と反対するが――

 

「……致し方ありません。この一件、イグナイト卿の意向を汲みましょう」

 

 観念したように、アリシア七世が息を吐いた。

 

「へ、陛下…ッ!?しかし、それでは……」

 

「今は本当に大事な時期なのです。武断派と文治派で争っている場合ではありません。それに…歴代女王でもっとも聡明と謳われたアリシア三世ならば、この国難に際し、学院の方向転換をきっとお許しになることでしょう」

 

「くっ……」

 

 アリシア七世の判断と決定に、エドワルド卿が痛ましそうに押し黙る。

 

 恐らく平時であれば、女王はイグナイト卿を筆頭とする武断派を、その卓越した調整手腕で押さえ込むことができるだろう。

 

 だが――今の女王は、レザリア王国とアメリカ連邦との外交調整と根回しに忙殺されている。国内の派閥争いの調停まで、とても手が回らない。

 

 イグナイト卿もそれを理解して、ここぞとばかりに自分に有利な方策を差し込んできているのだ。

 

 この状況を女王の無能・怠慢とあざ笑うことは誰のもできない。

 

 女王の外交手腕がなければ、帝国はもうとっくの昔にレザリア王国と戦争状態か、連邦と王国が帝国を戦場に争っていたか、それとも連邦の属国になってたかのどちらかだ。

 

(それにしても、なぜだ・最近はなぜ、こうもイグナイト卿の…武断派の思惑通りにことが進んでしまう…ッ!?これではあまりにも……)

 

 エドワルド卿が己の無力感に打ちひしがれていると。

 

「あっははははは――っ!いやぁ、さすがだなぁ、イグナイト卿!見事な手腕だ。そりゃこの状況じゃ、アリシアちゃんも、お前さんの案を無視できんだろうさ」

 

 楽しそうに声を張り上げるルチアーノ卿がいた。

 

「ルチアーノ卿。女王陛下の御前ぞ。口を慎め」

 

「おっと、失敬失敬。何せ、一応貴族の肩書き貰っちゃいるが、基本ウチはヤクザもんでねぇ、育ちが悪い。多少の無礼は許してくれや、エドワルド卿よ」

 

 そうおどけて、ルチアーノ卿は一瞬、アリシア七世を流し見る。

 

「…………」

 

 それを受けて、アリシア七世が無言で目配せすると、ルチアーノ卿はにやりと笑って…イグナイト卿に向き直った。

 

「さて、イグナイト卿よ。お前さん、最近、随分とお手柄続きよなぁ?先のフェジテ最悪の三日間…その時、お前さんはフェジテそっちのけで自ら軍を動かし、天の智慧研究会『急進派』に繋がっていた円卓会のメンバー…三大公爵家の一角、アンドリュー=ル=バートレイ公爵を、その証拠引っつかんで捕らえたよなぁ?」

 

 押し黙るイグナイト卿へ、ルチアーノ卿がまくしたてる。

 

「勢い余ってバートレイ卿はぶっ殺しちまったが、さすが、前≪紅焔公≫にて、現帝国軍の大元帥様…今や、アンタは帝国の大英雄だ」

 

「…………」

 

「で、『文治派』の最有力者だったバートレイ卿…噂によりゃ、奴さん『蒼天十字団』なる闇組織をも運営してたとも聞くが…まぁ、死人に口なし。今となってはその真相は闇の中だ。

 重要なのは、バートレイ卿が失脚し、そのシンパが軒並み芋づる式で捕縛されたせいで、政府内の『文治派』の立場と発言力は下がり、『武断派』が完全にハバを利かせるようになりやがったってこった。

 バートレイ卿らの後釜に円卓会や議会に入ってきた連中も、謀ったように全員『武断派』…いわば、お前さんの子飼いさ」

 

「……何が言いたい?ルチアーノ卿よ」

 

「どーも都合、良すぎねえか?お爺ちゃん、そう思うんだが?」

 

 厳めしい表情で睨み合うルチアーノ卿と、イグナイト卿。

 

「なぜだ?なぜ、お前さんはバートレイ卿と天の智慧研究会の繋がりを看破できた?しかもフェジテ最悪の三日間…帝国政府としても、先の事件に不安を抱く国民の士気高揚のため、お前さんの英雄的功績を大がかりに公表せざるを得ない、あまりにも最高すぎる、デキすぎたタイミングで、バートレイ卿を捕らえることができた?」

 

 しん…ルチアーノ卿の問い詰めに、会場が静まりかえる。

 

「なぁ、イグナイト卿よ」

 

 ルチアーノ卿が、ぼそりとイグナイト卿に問いかける。

 

「おいちゃんさぁ、ボケかけた足りない頭で必死に考えたんだけどよぉ?…もし、万が一、帝国と王国が戦争うっちゃらかすとして…誰が一番得するかねぇ?」

 

「…………」

 

「連邦?まぁ、確かに連中にしてみれば帝国と王国が互いに潰し合ってくれれば、その後、だーれにも邪魔されずにこの大陸に自分の影響力を広げられるからなぁ…しめしめだろうよ。だけど、なーんか違う気がするんだよなぁ。…そういえば、イグナイト公爵家ってよぉ…帝国王家の遠縁…いわば、分家筋ってやつだよなぁ?」

 

 ルチアーノ卿の発言が円卓会議室内を凍らせる。動揺と困惑を走らせる。

 

 だが、当のイグナイト卿は、まったく動じず…平然と無言を貫くだけだ。

 

「なぁ、イグナイト卿…お前さん、何か妙な野心抱いちゃ……」

 

 ルチアーノ卿の目が信じられないほど冷たく鋭くなりかけた…その時だ。

 

「お止めなさい、ルチアーノ卿」

 

 アリシア七世が、ルチアーノ卿を一喝する。

 

「イグナイト卿は、帝国に仇為す逆臣バートレイ卿を捕らえ、我々の宿敵たる天の智慧研究会に多大なる損害を与え、我らが帝国に大いなる貢献を果たしたのです。憶測だけでその戦功を貶めるのは、この私、アルザーノ帝国女王が許しません」

 

「おっと、おっと、すまねぇ、アリシアちゃーん。いやぁー、年寄りは疑り深くなっていけないねぇ…反省反省っと……」

 

 おどけるルチアーノ卿を尻目に、アリシア七世は会する一同を見回して神妙に言った。

 

「皆さん。これからの帝国は、隣国への対応を含め、大変難しい時期をなるでしょう。こんな時だからこそ。我々は一致団結し、この国難に当たらなければならないのです…帝国に住まう全ての国民の未来のために。

 今まで帝国に尽くしてくれたバートレイ卿の裏切り…大変痛ましい事実はありましたが、それでも我々は歩みを止めるわけにはいきません。これからもこの帝国のため、この未熟な私に皆様の力添えを、どうかよろしくお願いします」

 

 そう言って。アリシア七世は、あえて自ら殊勝に頭を下げることで、場の不穏な空気の一切を払ってしまう。

 

 そして、女王の帝国の未来を一心に思うその心と姿に、文治派も武断派も関係なく、女王に対する忠誠をより強固なものにしていくのであった――

 

 

 

 

 

 

「――と、先日に起きたフェジテで起きた騒動の報告は以上です」

 

 連邦、バージニア州フェアファックス郡、某所にて――

 

 三階建ての建物のカーテンを締めきった一室にて、二人の男がそこにいた。

 

「エルミアナ王女…異能者ということで王室から追放されたらしいが――」

 

「――その追放された王女を件の組織はどんな犠牲を払ってでも狙っている。…実に興味深い」

 

「ただの異能者、ではないな。もし、そうならば、彼女をぜひ『招待』したい。きっと、この国を気に入るだろう」

 

「そうだな。だが、()()()()()。帝国政府は彼女を、件の組織の餌にしている。『招待』するのはその後でよかろう」

 

 くっくっく…と笑う背広のスーツ姿の男。

 

「そういえば、帝国では『文治派』の重鎮、バートレイ公爵が失脚したそうだ。帝国軍に殺されてな」

 

 もう一人の男は、テーブルに置いてあったカップに口づけながら、話題を王女から帝国政府に変える。

 

「アンドリュー=ル=バートレイ公爵。帝国三大公爵家の一角、バートレイ公爵家の当主で『文治派』の最有力者。天の智慧研究会と繋がってたらしいな」

 

「左様。しかも彼は『蒼天十字団』を運営していたという噂も……」

 

「『蒼天十字団』…?ああ、天の智慧研究会と裏で繋がっている秘密機関か……」

 

 背広のスーツ姿の男は、壁に立てかけてある絵画を見ながら、呟く。

 

「その『蒼天十字団』は、『武断派』の筆頭、イグナイト卿に接収されたそうですよ?」

 

「アゼル=ル=イグナイト公爵か…彼は最近、活躍しているではないか」

 

「ええ、気味が悪いと思うほどに……」

 

「しかも『蒼天十字団』は、一回、リィエル=レイフォードという少女を拉致しようとしたよな?」

 

「『Project:Revive Life』の唯一の完成形ですからな、彼女は。実験サンプルにしたかったらしいですよ?」

 

「それをイグナイト卿は接収した…”興味”があるな」

 

「ええ、私も大変”興味”が御座います」

 

 二人の男は、壁に立てかけてある一枚の絵画を見ながら、言う。

 

「王女の他にも”興味”が出てくるとは…いやはや、かの国は実に面白い」

 

「王女の件もですが、イグナイト卿が進めようとしている計画にも”参加”してみましょう」

 

「そうだな、”参加”してもらうとしよう。そして、ありがたく”頂戴”しよう…そう、全ては、偉大なる『建国者達』のために――」

 

 スーツ姿の男がそう言うと、二人はその絵画に跪き――

 

「「英知の父の導きがあらんことを」」

 

 二人はそう呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。
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