ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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ちょっと、編集中に一部ルビがしっかり反映されていないかもしれません。ご了承ください(多分、文字数の関係だと思うんですけど)。

というわけで、どうぞ。


125話

 一方、魔術競技場フィールド内では――

 

(本当に、イヴのやつ、どういうつもりなんだ!?)

 

 グレンは、すっかり意気消沈してしまった自分の生徒達を前に、イヴに対する不満と苛立ちを隠しきれなかった。

 

 ジョセフが去った後、二組がしばらく練習していると、ザックを筆頭にした模範クラスがやって来た。

 

 どうやら一度二組の生徒達と試合をしたいと、模範クラスの一人、メイベル=クロイツェルという女子生徒が提案したのだ。

 

 グレンは断ろうとしたが、イヴがなぜか承諾。

 

 あれほど、絶対勝てないとか言っていたイヴが模範クラスとの試合を承諾したので、試合を開始したのだが。

 

 結果は、二組の惨敗。

 

 二組の生徒達は手も足も出せず、数多くの修羅場をくぐりぬけてきたシスティーナですらも、メイベルに敗北(こっちの場合、明らかにメイベルの動きが学生離れし過ぎていたのだが)。

 

 そして、現在。

 

 見れば、このあまりの屈辱と敗北感に、涙すら浮かべている生徒もいる。

 

 当のイブは、いつもの冷たいすまし顔で、淡々と手元のボードに何かを書き連ねていた。

 

(はぁ…こいつら…ショックだったろうな……)

 

 ちらりと、システィーナを見る。

 

 システィーナも茫然自失して、膝を抱えてしゃがみ込んでおり…ルミアをリィエルが、何事かを言って慰めているようであった。

 

 結局…皆、根底に”自信”があったのだ。

 

 いくら指摘されようが、本人ですら気付かない”過信”があったのだ。

 

 なにせ、自分達は先のフェジテが滅ぶか否かの大事変を戦い、生き抜いたのだから。

 

 だが、今や――そんななけなしの自信は、完全に破壊されてしまった。

 

 グレンはそんな生徒達に何か声をかけてやりたかったが…なんと言ってやればいいのかわからない。どうしても言葉が口を突いて出ない。

 

(……ああ。つまりなんだ。俺もショックなんだな……)

 

 魔術は人殺しの道具。

 

 グレンは常日頃、そう主張する反面、自分の運命を切り開く知恵としての魔術を…教えてきた…つもりだった。

 

 だが、敗北した。

 

 魔術は人殺しの道具であると徹底的に教えられ、鍛えられてきた者達に。

 

 無論、わかる。知恵としての魔術を完成させるには…生徒達はまだ若すぎる。

 

 こんな年齢で真の魔術師として完成できるほど、魔術は底の浅いものではない。

 

 だが――

 

(やっぱ、悔しいぜ。すまねえ、お前ら。俺が力不足なばっかりに……)

 

 どうにもやりきれないものがあった。

 

 グレンが悔しげに拳を握り固め、俯いた…その時だった。

 

「や、止めてくださいましっ!」

 

「な、いいだろ!?な!?な!?」

 

 女子生徒の悲鳴と、軽薄な男子生徒の声が上がった。

 

 顔を上げて見れば――

 

「ぶ、無礼者っ!わたくしに触らないでくださいましっ!」

 

 模範クラスのザックとその取り巻きが、ウェンディに絡んでいるのが見えた。

 

「堅いこと言うなよ、可愛い子ちゃん?なぁ?なぁ?俺、どうだったよ?カッコ良かったろ?惚れちゃったろ?これから俺達とお茶でもどう?」

 

 ザックが嫌がるウェンディの腕を掴んでいる。

 

 取り巻き達が、ウェンディの身体を嫌らしい目でなめ回すように見ている。

 

「は、放して!放してくださいまし!嫌ぁっ!」

 

 先ほどの試合で、自分が手も足も出なかった相手にこうも囲まれて、ウェンディはすっかり怯えて震えていた。

 

「貴方達!ウェンディに何をするんですか!?」

 

 テレサが助けに入ろうとするが――

 

「そいえば、お前もスッゲェ美人だよなぁ?」

 

「スタイル抜群だしねっ!ねぇ、君も俺達とどう?」

 

 彼女も取り巻きの生徒達に阻まれ、手を掴まれ、身動きが取れなくなってしまう。

 

 自分達より圧倒的に強いと、先ほど、文字通り痛いほど証明した連中だ。

 

 二組の生徒達は及び腰で、それを遠巻きに眺めるしかない。

 

「お、おい!お前らふざけんなよっ!ウェンディ達を放しやがれっ!」

 

「……いい加減にしろよ」

 

 ただ、カッシュとギイブルだけが、負けじとその場に割って入るが…その表情には決死の覚悟しかない。もし乱闘になれば、負けるとわかってしまっているからだ。

 

「あん?なんだよ…弱ぇ連中が逆らうなっての」

 

「もう一回、”試合”すっか?まーた返り討ちにしてやろうか?ん?」

 

 二組を完全に格下だと舐めきったザック達が、薄ら笑いをカッシュ達に向ける。

 

「くっ……」

 

 カッシュやギイブルの額に脂汗が滲む。

 

 二人にできることは、ただ退かないこと、それだけであった。

 

「はっ、腰抜けだなぁ」

 

 そんなカッシュ達を挑発するかのように、ザックが吐き捨てた。

 

 そして、ザックがウェンディをどう料理しようかと舌を舐めずり回して振り向いた、その時だった。

 

「――は?」

 

 ザックは確かにウェンディの腕を掴んでいた。

 

 決して嘘でも、妄想でもない。確かなのだ。

 

 だが――

 

「どうも~、初めまして~」

 

 今、ザックが腕を掴んでいたのはウェンディではなく、男子生徒だった。

 

 綺麗な茶髪に、女顔、そして金目銀目のオッドアイの少年。

 

 その少年はニッコリと笑顔を見せながら、掴まれていない腕でザックに手を振る。

 

「な、なんだぁ?お前――」

 

 ザックが男子生徒に何か言おうとしたが、その言葉は続かなかった。

 

 ゴッ!ザックの顔面に、何か硬い物でも思いっきりぶつかった音がしたのだ。

 

「ブ――ッ!?」

 

 ザックはその衝撃で鼻血をまき散らしながら、地面に倒れる。

 

 なぜ鼻血を出しながら倒れたって?それは、男子生徒がザックの顔面に頭突きをしたからである。

 

 男子生徒はそれを見届けもせず、ウェンディを自分のところに抱き寄せ、グレン達の元へ向かう。

 

 そして、もう一人、テレサの手を掴んでしつこく絡んでた取り巻きは――

 

「う、うぅ……」

 

 うめき声を上げながら、股間に手をあて地面に蹲っていた。

 

 そして――こっちはグレン達も見覚えのない女子生徒がテレサの手を引き、グレン達の元へ向かってきていた。

 

「いやぁ~、カッシュとギイブル、ナイス。注意を引いてくれたおかげでなんとかなったわ」

 

 男子生徒はカッシュとギイブルに親指を立てる。

 

「どうも、先生。すんませんねー、遅れてしまって」

 

「ジョセフ!?と…えーと、どちら様?」

 

 グレンは男子生徒――ジョセフを見て、そして、見知らぬ女子生徒を見て、ジョセフに問う。

 

「あ、彼女が、せっかくの機会だから、顔を合わせとこうかなと言ってた人です」

 

 ジョセフは、グレンにそう言うと、女子生徒――アリッサに目配せする。

 

「来期から連邦から留学生としてこの学院に編入されます、アリッサ=レノです。よろしくお願いします」

 

 アリッサはテレサの手を離し、グレンにペコっとお辞儀をする。

 

「んーーー?お前、どっかで見たような……」

 

 グレンが、アリッサの顔をまじまじと観察するが――

 

「て、てめぇッ!何しやがるッ!?」

 

 鼻を抑えながら、ザックがジョセフに向かって叫ぶ。

 

 しかし、ジョセフは――

 

「まぁ、会ってますね。先の事変で、校舎南館のほうにいましたから」

 

 完っ全無視だった。

 

 まるで、模範クラスなど、そこにいないかのような、眼中にないような感じでグレンにアリッサのことを話している。

 

「あ、貴女は、もしかして連邦軍の……ッ!」

 

 すると、テレサがアリッサの顔を見て、思い出したかのように目を見開いていた。

 

「久しぶり。えーと……」

 

「テレサな。彼女がテレサ。っでこっちがウェンディ」

 

 アリッサにテレサとウェンディを紹介していくジョセフ。

 

「おいっ!何無視してんだよ!?」

 

 一方、ザックはジョセフに苛立ちながら声を荒げるが、ジョセフとアリッサは無視。

 

「それにしても先生、何があったんです?皆も、お通夜になっちゃって」

 

「あ、あぁ…ちょっと、模範クラスの連中とな――」

 

「模範クラスですか!あれ、でも、おかしいですね~」

 

 グレンから事情を聞いたジョセフはわざとらしく顎に手をあて、眉間にしわを寄せる。

 

「確か、模範クラスってマキシム学院長の教え子達のことですよね?その人達って、貴族の三男坊とかですもんね?」

 

「あ、あぁ…そうだが……」

 

「まぁ、でも、三男坊とはいえ、帝国の貴族ですからね~。それなりに教養とかありますしね~。紳士的な人達だと思っているんですが?」

 

「あのな、ジョセフ。模範クラスは後ろに――」

 

「後ろですか?あの~、先生。冗談はよしてくださいよ~(笑)後ろにいるのは()()()()()()()()()()しかいませんよ?」

 

「!」

 

 グレンはこの時、ジョセフの心情を察することができた。

 

「な…ッ!?さ、サル……ッ!?」

 

 自分達をサル呼ばわりされ、絶句する模範クラスの連中。

 

誰よ?(クィー・エ)|こんなところにサルを置いて行ったのは《オ・ラシャト・ウナ・シミィエ・イ・ウン・プスト・コメ・クェスト》」

 

 アリッサが模範クラスを蔑んだ目で見て、グレン達にはわからない言葉でぼそりと呟く。

 

 すると。

 

「|もしかしたら、山から降りて、迷ったんじゃない《|フォールセ・セイ・シェスォ・ダラ・モンターニャ・エ・ティ・セイ・パラソ》?」

 

 ジョセフがこれに反応し、これまたグレン達には聞き慣れない言葉で返す。

 

あー、そういうこと(ウー・クェル・ジェネリェ・ディ・コゼ)?」

 

そういうこと(シー)

 

「お、おい…お前ら、何言ってるんだ?俺、まったくわからないんだけど?」

 

 そんなジョセフとアリッサが二人にしかわからない言葉で話し始め、グレンは突然蚊帳の外に出されたように困惑している。

 

「さて、んじゃ、ちょぉーっと、山に帰してきますね~」

 

「いや、そこで、普通に喋られても俺達何のことかさっぱりわかんないんだが……」

 

 ジョセフが突然普通に話すが、そもそも何を言っているのが、わからないので、どう反応すればいいのかわからないグレン達。

 

 ジョセフはパンッと手を叩き、模範クラスの連中に振り向く。

 

「さ~て、紳士の皆さ~ん、あ、違った。()()()()()()()の皆さーん、大丈夫?人の話理解できる?理解できない?でしょうね」

 

 模範クラスの連中をサル呼ばわりし、小馬鹿にしたように笑いながら言うジョセフに模範クラス達は苛立ちを募らせる。

 

「て、てめぇ……ッ!」

 

 こんな雑魚どものクラスの一人に、しかも、遅れて女を連れてきたやつにこんなにバカにされるなんて――

 

「なーんか、ウチらがいない時に楽しそうなことしてたらしいから、ウチらも入らせてもらうで。一対一のサブストなんだろうけど」

 

 くすくすと笑いながら、そう言うジョセフ。

 

「まぁ、先生はこういう時は嘘をつかないと思っているから、本当に模範クラスなら一回手合わせを願いたいと思っていたからなぁ?アリッサ」

 

「そうね。『模範』って言われているから、さぞや大した実力なんでしょうけど」

 

 二人は口々にそう言い合っているが、そこに賞賛が込められていないのは明らかだ。むしろ、バカにしている。舐めている。

 

 明らかに模範クラスを格下と見ているようだ。

 

「あー、でも、時間がないかぁ…せやな、んじゃ、これでいこう」

 

 一瞬、ジョセフは時間がないとわかると、白々しく困ったような顔をするが、やがてポンっと、手を叩き、模範クラス達に言い渡す。

 

「ウチら二人で行くからさ、アンタら全員で来な。そしたら、早く終わるやろ?」

 

「は?」

 

 こいつ、一体、何言ってんだ?

 

 ジョセフのとんでもない宣言に、模範クラスの生徒達がそんな表情をしている。

 

「はぁ~~~~~~~始まるぞ、虐殺が……」

 

 一方、グレンは怒る気も失せ、むしろ模範クラス達に同情と憐憫な視線を送る。

 

 いや、最早虐殺ではなく、瞬殺なんだろうが。

 

 だって、今からザック達が相手にするのは()()()()()()。そして、模範クラスの生徒達のようにアマチュア軍人ではない。

 

 二人は――”殺し”の訓練を受け、実際に数々の死線を掻い潜った()()()()()であるからだ。

 

 連邦軍(戦争のプロ)のプロの軍人に、知らないとはいえアマチュア軍人が立ち向かっても、結果は火を見るよりも明らかだ。

 

 ジョセフとアリッサはくるりと背を向け…すたすたと決闘フィールドの中央に立つ。

 

 そして、模範クラスの生徒達を振り返って――

 

「あれ?どうしました?さっきまでの『弱ぇやつらは~』みたいな威勢はないようですけど?ひょっとして、ビビっちゃってます?」

 

 ジョセフとアリッサの佇まいは…何一つ変わっていない。

 

 相変わらず、くすくすと模範クラスの生徒達を見下したような…ムカつくし、生意気な二人組だ。

 

 なのに、なぜか…何かがおかしい。

 

 さっきの宣言もそうだが、この二人、なんでこんなに余裕なんだ?

 

 強がってるとか、ただのバカとか、そんなんではない。

 

 この二人の表情は…なぜか、自分達よりも余裕が感じられるのだ。

 

 それに、ジョセフとアリッサの背丈がとてつもなく大きくなったような…そんな錯覚がある。

 

 師であるマキシムを相手にしても、感じたことのない圧迫感と存在感だ。

 

 この二人は相手にしはいけない。相手にしたら、瞬殺される。そんな危険信号がザックに知らせる。

 

「はっ…こ、後悔すんなよ?」

 

 そんなはずはない。気のせいだ。俺達は強い。

 

 あんなムカつく、生意気な二人組に負けるはずがない――俺達は強いんだ。

 

 そう自分に言い聞かせ、ザック達は散開し、ジョセフとアリッサを囲む。

 

 この二人は徹底的に負かす。負かして、二度と逆らわなくさせてやる。

 

 それに、あの女は今までで一番上玉だ。二度と逆らわせないように調教してやる。

 

 精々余裕ぶっこいているがいい。ザックはそう思い、舌を舐めずり回していた。

 

「じゃあ、イブさん、合図よろしく!」

 

 そんなザックの心中なぞ露知らず、ジョセフはイヴにそう言う。

 

 イヴは、溜息を吐き――

 

 そして。

 

「……始め」

 

 イヴが、そう宣言すると共に。

 

「くたばれぁあああああああああああああ――っ!」

 

 ザック達が一斉に呪文を唱え始め――

 

「≪雷精の――≫」

 

「≪紅蓮の――≫」

 

 だが、二人は――()()()()()()()()()()()()

 

 紫電が誰もいないところを虚しく飛んでいき――

 

「うぉ――ッ!?」

 

 ザック達は体捌きで飛んできた紫電を躱すが、五人が気付くのが遅れ、倒されてしまう。つまり、同士討ちだ。

 

 同時に、二人がいた場所に、誰かが放った【スタン・ボール】が着弾。

 

 その地点は、ちょうど土肌が見えており……

 

 ぶわっ!と、猛烈な砂塵が上がった。

 

 その大量の砂塵が、その場の者達の視界を完全に覆い尽くしてしまう。

 

「お、おいっ!?何やって――ぎゃあああ――っ!?」

 

「ど、どこ行きやがった、見え――あぐぉおおおおお――っ!?」

 

 すこぶる悪くなった視界に戸惑う模範クラスの生徒達。

 

 そんな彼らを、砂煙に紛れてジョセフとアリッサが黒魔【ショック・ボルト】で、片端から打ち倒していく。

 

 な、なんだ?

 

「ち、ちくしょう!?なんでだ!?向こうだって、こっちは見えないはず――ていうか、一体、どこに消えやがった――ぎゃあああああ――っ!」

 

 一体、なんなんだ?

 

「た、助けてぇ――ぐわぁあああああああ――っ!?」

 

 一体、何が起きているんだ? 

 

 あれからジョセフとアリッサは姿を見せていない。

 

 なのに、模範クラスの生徒達は二人を見つけられず、狩られていく。

 

 そんな、あまりにも一方的な展開に、二組の生徒達は目を瞬かせるしかなかった。

 

「くそぉっ!誰か、このうぜぇ砂煙を吹き飛ばせ――ぎゃぁああああ――っ!?」

 

「お、≪大いなる風よ≫――ッ!」

 

 砂塵の中、一向に姿を現さず倒しまくる二人に、恐怖を抱きながら、模範クラスの誰かが【ゲイル・ブロウ】を闇雲に撃ち込むが――

 

 当然、そこにはジョセフとアリッサの姿はなく――

 

「ちょ、お前、こっちに向かって撃つなぎゃあああああああああああ――っ!?」

 

 その突風の戦鎚は、砂煙ごとその方向にいた模範クラスの生徒を三人、吹き飛ばす。

 

 おかげで、視界を覆う砂煙はすっかり晴れたが――

 

「ば、馬鹿な……」

 

 ザックが見た光景は――信じられない光景だった。

 

 中央のフィールドにはアリッサが佇んでいて――

 

 その周囲は死屍累々の模範クラスの生徒達がいた。

 

 ザック以外、誰も二つの足で立っている者など一人もいなかった。

 

 そして。

 

「……チェックメイトや」

 

 不意に、後ろからコツン、と。何かに突きつけられ、男の声がした。

 

 ジョセフがザックの後頭部に左手の人差し指と中指を突きつけていた。

 

何これ、弱すぎ(コゼ・クェスト、トゥラッポ・デーボレ)

 

所詮、こんなもんやって。(ドゥポラット・ルファット)|うちらの次元が違うだけよ《ソロ・ラ・ノストラ・ディメンシオーネ・エ・ディヴェルッサ》」

 

 二人はまた、聞き慣れない言葉でやり取りしているが、ザックはこれが自分達を嘲笑しているということはなんとなくわかった。

 

と、いうわけで(ベーネ・エッコ・ペルキェ)…≪お休み(レ・ヴァカンツェ)≫」

 

 ジョセフはそう言い、ザックに【ショック・ボルト】を撃ち込んだ。

 

 ザックに、止めを刺した後、ジョセフとアリッサは、最早彼らには興味ないとばかりに背を向け、二組の下へやってくる。

 

 二組の生徒達は呆けたように、二人の退屈そうな表情を見つめていた。

 

 彼らは、こないだの戦闘で、ジョセフとアリッサの戦闘を見ていたわけではない。

 

 ただ、この二人が連邦軍の中でも、最強の部隊に所属している。これだけしか知らない。

 

 ゆえに、以前とは違い、二人のそのあまりにもレベルが高い戦闘に、ただただ驚くしかなかった。

 

「で?…どうだった?」

 

 ぼそりと漏れたイブの問いかけに、

 

「そ、その…二人とも、凄いっす……」

 

「け、桁が違いすぎる……」

 

「これが、本当の連邦軍人の力ですの……?」

 

 カッシュも、ギイブルも、ウェンディも口々にジョセフとアリッサを賞賛するが……

 

「……あのね、彼らじゃないわよ」

 

 イヴが眉を顰め、呆れたように言った。

 

「貴方達よ、貴方達。貴方達が連中とやりあって、どう感じたかって聞いてるの」

 

 すると。

 

 二組の生徒達は、しばらくの間、顔を見合わせて…やがて。

 

「……正直…勝てる気がしねっす……」

 

 カッシュが無念そうに皆の胸中を代弁した。

 

「技量が違いすぎる…あれが、マキシム魔導熟なのか……」

 

「ああ、くそ…無謀だったかなぁ…あんなやつらと勝負するなんて……」

 

「私達は…この学院は一体、どうなるんですの……?」

 

「グレン先生…すみません…僕達の技量じゃ、とても……」

 

 皆、口々に悔しさや不安を口にしていく。

 

 場をどんどん鉛のように重たい空気が支配していくが……

 

「あら、そう?おかしいわね」

 

 イヴが髪をかき上げながら、そんな生徒達へ、つんと言った。

 

「私の目には、連中と貴方達の間に、魔術の技量にそれほど差があるようには、とても見えなかったんだけど?」

 

「……えっ?」

 

 イヴの意味不明な指摘に、生徒達の視線が一斉にイヴへと集まった。

 

「技量に差があるとは見えなかったって…貴女、どこに目がついてるんです?」

 

 下手な気休めや慰めはよしてくれとばかりに、ギイブルがイヴへ噛みつく。

 

「どう考えても、僕達、ボロ負けだったでしょう?」

 

「はぁ…貴方達は、その派手な負け方に囚われすぎよ」

 

 イブがギイブルを流し見る。

 

「思い返しなさい、どうして負けたか。魔術そのものの技量で劣っていたから、貴方達は負けたの?本当にそう?」

 

「そんなのそうに決まって――」

 

 反射的に、ギイブルが苛立ち交じりに反論しようとするが、

 

「……いや…待てよ……?」

 

 ふと、何かに気付いたように押し黙る。

 

 それを筆頭に、他の生徒達の間にも徐々に、沈黙が広がっていく……

 

 そうだった。自分達と連中とで使っていた呪文に差はないし、一節詠唱に連唱(ラピッド・ファイア)…魔術的な技巧もそこまで違いはない。

 

 むしろ、グレンの教えのおかげで、呪文の即興改編などを使える分、魔術の技量に関しては、自分達の方が上とまで言ってもいいくらいだ。

 

 では、なぜ、ここまで強弱に差がついたのか?

 

「気付いたようね」

 

 生徒達の考察が充分に行き渡ったであろうタイミングで、イヴが口を開いた。

 

「そうよ。貴方達と彼ら…魔術の技量…つまり、使ってる手札の強さや数は、左程差はなかったはずよ」

 

「ま、マジか……ッ!?」

 

「じゃあ、何が貴方達と彼らを分けたのか。それは――手札を出す速度。つまり、次の手を打つ判断の速さや、その善し悪しで負けたのよ、貴方達は」

 

 その指摘に、ギイブルが微かに目を見開いた。

 

「そういえば…僕はあの時、一瞬、対処を迷って、それで……」

 

「お、俺も…もう、次、途中でどうしたらいいかわからなくなって……」

 

 他にも身に覚えがある生徒が口々に言った。

 

「いい?マキシム魔導塾の連中は武力重視の実戦派を謳ってるわ。でもそれは、早々にある程度の手札を揃えたら、後はその手札を使う訓練ばかりを重視しているってこと。手垢のついた手札だけしか使わずに訓練してるんだから、判断力は速くなって当然よ」

 

「…………ッ!?」

 

「一方、グレンに教わった貴方達は何をやっていたか?それは、手持ちの手札をひたすら増やし続ける作業をしてたってわけ。わかる?手持ちの手札を使い慣れた()()の連中と、手持ちの手札を多く持っている()()の貴方達。連中と貴方達の違いはそこよ」

 

 ざわざわざわ…あまりにも明確で的確なイブの指摘に、なるほどといった感情が生徒達へ広がっていった。

 

 だが――

 

「……でも、だからなんだっていうんです?」

 

 ギイブルはさらにイブに噛みつく。

 

「連中が僕達より圧倒的に強い、という事実は変わらないでしょう?そんな慰めを言われても……」

 

「……ねぇ、貴方…馬鹿なの?」

 

「なっ――馬鹿……」

 

 今まで黙っていたアリッサにそう言われ、目を白黒させる。

 

 そんなギイブルをスルーして、アリッサが何かを言おうとするが、

 

「はーい、こっからは、俺が言うからね~、お前はちょっと黙っとこうか」

 

「むぐ――むぐぐ――……」

 

 ジョセフがアリッサの口を抑え、彼女から出てくる言葉を未然に防ぐ。恐らく、これを聞いたらギイブルがキレる。うん、多分、キレる。

 

「さっき連中とやり合って確信したわ。はっきし言うと、連中の強さはもう()()()。マキシムに師事している限り、もうあれ以上は伸びない。まぁ、要するに、評判倒れっちゅうこっちゃ」

 

「えっ?」

 

「逆に。お前らは伸びるわ。あんな連中、目じゃないくらいにな」

 

 何を言ってるんだ?

 

 嘘だろ?

 

 俺達があいつらより?

 

 動揺と困惑が、生徒達を支配する。

 

「そう、彼の言う通りだわ。とりあえず、メイベル…彼女だけは何か別格みたいだから置いておくわ。本当にマキシムに師事したのかどうか怪しいくらいの上級者だし。アレはシスティーナとジョセフ、アリッサ以外はマトモに相手にしたら駄目な子よ。

 で、その他の連中なんだけど…彼らは本当に戦闘訓練()()しかやってないわ。彼らは魔術そのものに関しては、非常に脆弱な土台しか持っていなかった。あの土台じゃその上に積めるものは今のが限界よ。でも、貴方達は違うわ」

 

 ばさり、と。イヴは懐から書類を取り出す。

 

 それはどこから入手してきたのか――グレンの授業カリキュラム表と成績表だ。

 

「貴方達には、連中と違って、すでに非常にしっかりとした土台がある。グレンが作ってくれた、非常に強固で大きな土台がね。つまり、幅広い魔術の教養、地力、基礎…これだけの土台があれば、その上にはいっくらでもモノが積める」

 

「…………」

 

「……貴方達、グレンに感謝することね。魔術師って、土台に物積む作業は比較的、簡単なんだけど、土台を作るのは本当に時間がかかるの。おまけに土台作りの最中はまったく伸びた気にならないから、継続的に行うのは、非常に苦痛を伴う困難な作業。

 まぁ、今までは教師がグレン一人だけだったから、貴方達の魔術師としての土台作りだけで手一杯で、それ以外のことには、なかなか手が回らなかったみたいだけど」

 

「…………」

 

「そうね。これから生存戦で連中と競うことを念頭に置いて…土台の上にモノを積む訓練を、みっちりつけてあげるわ。グレン一人だけじゃ手の届かないところを、私がやってあげる。すでに土台はできてるんだもの。二週間で見違えるほど伸びるでしょ」

 

「…………」

 

「まぁ、余所者の頼りない左遷軍人に出しゃばられたくないっていうんなら、別に……」

 

 相も変わらず、ふて腐れたように、イヴがそっぽ向いてそう締めくくる。

 

 だが、そんなイブを前に、生徒達は顔を見合わせ……

 

「「「「よ、よろしくお願いしますッ!」」」」

 

 生徒達は一斉に頭を下げていた。

 

「な……ッ!?」

 

 突然、生徒達に大声で迫られ、イヴは目を白黒させた。

 

「イヴさんっ!いや、イヴ先生っ!俺達を鍛えてくださいっ!」

 

「グレン先生に、イヴ先生が加わってくれれば、百人力ですっ!」

 

「僕達、このまま負けっぱなしじゃ終われないんですっ!」

 

 次々と、生徒達に詰め寄られて……

 

「ああもう、わかった!わかったから!?そう興奮しないでよ、鬱陶しいっ!」

 

 イヴはうんざりしたように、生徒達を突っぱねるのであった。

 

 そんなイブと生徒達のやりとりを、システィーナはぼんやりと見つめていた。

 

 イブの言葉や生徒達の復活から力を貰ったように、敗北に打ちひしがれたシスティーナの目に、徐々に力が戻ってくる。

 

「イヴさんって…やっぱり、凄い人なんだ……」

 

「システィ?もう大丈夫なの?」

 

「……ごめんね、心配かけて」

 

 心配そうなルミアに薄く笑いかけ、システィーナが立ち上がった。

 

「そうよ、私なんてまだだったのよ…まだ、イヴさん達には遠く及ばない…もっともっと、頑張らなきゃ!たった一度の敗北くらいで……ッ!」

 

「ふふっ…システィは、やっぱりそうじゃなきゃ」

 

「ん。なんだか、らしくなった」

 

 立ち直ったシスティーナを、安堵したように見つめるルミアとリィエル。

 

 こうして、波乱に満ちた初日の特訓は、お開きとなって。

 

 生徒達は意気揚々と合宿所へ戻っていくのであった。

 

「はぁ~、終わった……」

 

 ジョセフは溜息を吐き、合宿所に戻っていくクラスメート達を眺める。

 

 そこには、アリッサがカッシュを筆頭に男女問わず、先の試合を賞賛されたり、質問攻めにあって――

 

「!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 目を白黒させていた。

 

「まぁ、なんとかなるかな」

 

 それを見て、安心したジョセフの背後では――

 

「≪死ね≫ッッッ!」

 

 ちゅっどぉおおおおおおおんっ!

 

「ぎゃああああああああああああああああああ――ッ!?」

 

 イヴが巻き起こした派手な爆炎が、イブの性格の激変に対しニセモノだと疑って身体をまさぐっていたグレンを、お空に吹き飛ばすのであった。

 

 そして、グレンとイブは、至近距離で額と額を突き合わせ、噛みつくように睨み合いながら、子供じみた口喧嘩を始める……

 

「……本っ当に何やってるんですか、貴方達は……」

 

 ジョセフはそれを呆れながら眺め――

 

「ねぇ、システィ…しばらくの間…私達、共同戦線を張らない?」

 

 と、ルミアが背中を焦がす妙な焦燥に身悶えしているシスティーナに、曖昧に笑いながら言った。

 

「ええええええええ――ッ!?何、言っちゃってるの、意味わかんないんだけど!?」

 

「多分…私とシスティのペースだったら、間に合わないかも……」

 

「だだだだ、だから、一体、なななな何のことかしらららら」

 

「別にイヴさんを邪魔したりするわけじゃないけど…でも、私達ももう少し、攻勢に出てみない?……ね?多分…私達、結構、ピンチだよ?」

 

「るーみーあ――っ!?こ、こないだの一件から、なんかちょっと、少し変わっちゃったみたいなんだけどぉーっ!?」

 

「うん、私、変わったかも。だから、後からああしてればよかったなんて…もう、後悔したくないから」

 

 穏やかに、それでも静かな決意を湛えて微笑むルミア。

 

「ええええええ――ッ!?やっぱり、私、意味わかんないわかんないわかんない!」

 

 ひたすら慌てまくってテンパるシスティーナ。

 

 そんな二人を余所に、相変わらず、グレンと激しく喧嘩しているイヴ。

 

「ジョセフゥー?」

 

「ん?どしたん、ウェン…ディ……?」

 

 背後から声がしたから、振り返ると――

 

「ちょぉーっと、アリッサさんの関係について聞きたいことがあるんですけど、よろしくって?」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ――

 

 なぜかどす黒いオーラか何かを背後に纏っているウェンディに脂汗を垂らしながら、硬直するジョセフ。

 

「……なんか…最近、皆、変。なんなの?」

 

 さすがに、自分の周りの少女達の何かしらの変化を感じとったのか。

 

「……グレン?グレンがどうかしたの?」

 

 リィエルは、グレンと少女達を見比べて、何事かを無表情で考え始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 








今回は、ここまで。
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