ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

129 / 230

ジョセフの出番?今回はほぼない……


127話

 

 ……こうして、グレン達の強化合宿の日々は始まった。

 

 イヴ主導で行う早朝のスパルタ猛特訓、その後のグレン主導で行う反省会。

 

 昼休みは反省会で出た反省点を元に、イブとグレンの監督下、徹底的に反復練習。

 

 放課後は、再び日が暮れるまでイヴ、ジョセフ、アリッサを相手に魔術戦の地稽古。都度、生じた個々の問題点や課題は、グレンが個別に指導して潰していく。

 

 そして、夕食後は再び反省会。その後、生徒達は圧縮睡眠魔術を使って合宿所で泥のように眠って――また次の朝、叩き起こされ、再び猛特訓の一日が始まる。

 

 グレンとイブが二人三脚で指導し、とにかくジョセフやアリッサのような自分達より遥かに高レベルな術者を相手に魔術の対人戦の経験を無理矢理積みまくる、という荒行の日々が続いた。

 

 イヴの実戦形式の特訓は非常に厳しいものだった。

 

 生徒相手にまるで容赦がない。

 

 かなり手加減している…とはイヴ本人の談だが、生徒達にはとてもそうは思えない。

 

 これで、もしイブが左手を使えたらと考えると、震えが止まらなかった。

 

 そして、ジョセフもアリッサも、とにかくこの二人も手加減しているとはいえ、攻性呪文が飛び交っている中で自分達に猛然と突っ込んでくるその姿に、誰もが恐怖していた。

 

 当然、生徒達の身体は一日ごとに精も根も尽き果て、ボロボロになってしまう。それを、法医魔術で強制的に治して続けられる特訓は、最早拷問だ。

 

 それでも、不満が出なかったのは――合宿から逃げ出す者がいなかったのは。

 

 イヴのその厳しさの裏に優しさがあることを、徐々に理解していったからだ。

 

 一見、無駄に厳しいだけだが、その根底には”勝たせてあげたい”(本人は絶対に言わないだろうが)という情がある。

 

 ”ついてこられない子は知らない”

 

 ”嫌ならやめれば?”

 

 そんな突き放すような態度でありながら、なんだかんだで、イヴは親身に粘り強く生徒達を指導し、見捨てない。

 

 彼女は、どこまでも素直じゃない天邪鬼なだけだったのである。

 

 だが、最初の三日は――本当に地獄だった。

 

 生徒達はただただ一方的にボロボロにされ、あまりの特訓のきつさに口も利けず、食べ物も喉に通らない始末。

 

 同時並行の前期期末試験はジョセフ以外当然、散々で、初日の夜の合宿所の雰囲気は最悪であった。

 

 ただ、この学院という大切な場所を守りたい…グレンをクビにさせたくない…その一心で、必死にイヴについていっているだけ。そんな状態であった。

 

 変化が現れたのは四日目の午後からだ。

 

「……そうね。今までは三人交互で四十人まとめて相手していたけど…今日からは三十人にして、残りの十人をジョセフかアリッサにローテーションしていくやり方でいこうかしら?」

 

「……え?なんでっすか?」

 

「いいから。早く準備なさい」

 

 そして、相変わらず地獄が始まる。

 

 四十人でかかっても全然敵わないのに、三十人でやっても無意味でしょ?

 

 生徒達は誰もがそう思ったし――やはり案の定、イヴにボコボコにやられた(もちろん、ジョセフを相手にしていた十人も)。

 

「……いやぁ、それにしても、イヴさん。彼ら、初日とは段々動き方が違ってきてますよ?本人達が気付いているのかはともかく」

 

「……でしょうね。年齢的にも今一番伸びる時期だし…やっぱり、上質の実践訓練を集中してやっているっていうのが、特に効いているわね」

 

「まぁ、普段の学院生活じゃできねーからな、こんな無茶苦茶な戦闘訓練」

 

「彼らの意識の高さもあるわね。()()()()()()()なら、こんな特訓に効果なんてないわ。()()()()()からこそ効果があるのよ。……ふん、よほど慕われているのね、貴方」

 

「うるせぇ、ほっとけ」

 

 その日の特訓の終わり。

 

 黄昏の中、生徒達が疲労困憊で地面に這いつくばっている中、イブとグレンとジョセフが何事か話しているが…生徒達の朦朧とした頭はその意味を結ばない。

 

 そして、その日から…毎日、少しずつ特訓に変化が生じていった。

 

 イブ、ジョセフ、アリッサと、交互で一度に相手をする人数が、三十人から二人減り…次は、三人減り…と。

 

 地稽古の特訓の都度、少しずつ減っていったのだ。

 

 また、最初の三日は、生徒達は皆、食事も喉を通らないほど疲れていたのだが――

 

「ぉおおおおお――ッ!終わったぁああああああああ――っ!」

 

「腹減ったぁあああああ――っ!メシだっ!メシをよこせぇええええええ――っ!」

 

 数日も経てば慣れてきたのか、いつの間にか、日に三度、しっかり食べられるようになっていた。

 

 食事の時間になる度、学生食堂の一角が、ボロボロになったグレンのクラスの生徒達で占拠され、そこは飢えた生徒達の大戦争となった。

 

 そして、動画映像による反省会の時も――

 

「お、ギイブル。今の立ち回り、なかなかいいんじゃねーか?」

 

「……ふん」

 

 合宿開始当初は、映し出されるのは無様で格好悪い立ち回りばかりで、グレンからは駄目出しの指導しかなかったのに、ぽつぽつと褒められる回数が全体的に増えていった。

 

 また、生徒達の意識の高さもあった。

 

「うーん…ここだ。ここで、いつもイヴさんに撃たれるんだよなぁ……」

 

 少し余裕ができてくると、生徒達は就寝前に学生会館の談話室に集合して、借りた映像再生魔導器で、自主的に作戦会議や戦術研究をし始めるようになる。

 

「やっぱ、僕達、攻め手がワンパターンなのかもね……」

 

「そう言えば、私達、知ってる呪文の数のわりに、使ってる呪文はいつも同じですね」

 

「なんか、他の呪文も攻め手に加えてみねーと駄目なのかな……?」

 

 考えて、工夫して、ボコボコにされて、改善点の指摘を受けて。

 

 また、考えて、工夫して、ボコボコにされて、改善点の指摘を受けて。

 

 全身全霊で鍛錬に励む日々が、あっという間に過ぎていく……

 

 ……そして、十日目の晩。

 

 いつものように、行われた反省会にて。

 

 そろそろかなと思ったグレンが、生徒達の前の初日の特訓風景と本日の特訓風景を、比較して投射再生してやると……

 

「……な、なんだこれ……?」

 

「う、嘘だろ……?」

 

 生徒達の誰もが、驚きと動揺を隠せず、唖然としていた。

 

 なぜなら――

 

「こ、これ…本当に俺達か……ッ!?」

 

 ――初日と比べて、自分達の立ち回りが格段に上達していたのだ。

 

 イブ達にボコられるのは相変わらずだが、その内容と練度の違いは一目でわかる。

 

 自分達のあまりにも急激な変化と成長に、驚きを隠せない生徒達へ。

 

「別に驚くことじゃないわ。貴方達くらいの魔術の土台があれば、元々このくらいの立ち回りができて、当然なのよ」

 

 壁際で腕を組んで背を預けているイヴが、淡々と言った。

 

「ただ、それを使いこなす訓練が圧倒的に不足していたから、宝の持ち腐れだっただけ」

 

「ほ、ほへー……」

 

「もちろん、このまま、どこまでも伸び続けるってわけじゃないわ」

 

 呆ける生徒達の気を引き締めるように、イブが警告する。

 

「今の土台に積めるものには限りがあるってことを忘れないこと。貴方達のこの成長は、グレンが今まで作ってくれた土台があればこそよ。

 これからも魔術師として成長したかったら、その土台を地道に作っていくことをゆめ忘れないように。慢心せず、グレンの教えをよく聞きなさい。……いいわね?」

 

「「「「はいっ!イヴ先生っ!」」」」

 

 一斉に声を揃えて、返事をする生徒達。

 

「な、何よ…?皆、一体、どうしたの?」

 

 そんな予想外のリアクションに、イブが目を白黒させる。

 

「いや、なんつーか…俺達、イヴ先生に教えてもらえて本当に良かったっす!」

 

「ありがとうございますっ!」

 

 満面の笑みを向けてくる生徒達を前に、イブは微かに頬を赤らませ、そっぽを向く。

 

「……別に。一応これ、仕事だし。お礼言われる筋合いなんかないし」

 

 いつものように、イブがそうツンケンと突っぱねても。

 

 生徒達はにこにこと、イブに向ける信頼のこもった表情を崩さない。

 

「はぁ~~、あのねぇ、貴方達。弛んでない?強化合宿はまだ終わってないの。残りの日は仕上げよ。明日から特に厳しくいくから覚悟なさいね」

 

「「「「はいっ!よろしくお願いしますっ!」」」」

 

 やっぱり、声を揃えて嬉しそうに叫ぶ生徒達。

 

 イブは、なんなのこいつら?と、ばかりに半眼で溜息を吐くしかなく……

 

「……素直じゃないなぁ」

 

「……やれやれ」

 

「……ふふっ……」

 

 そんなイブを前に、ジョセフは苦笑いし、グレンはどこか複雑な表情で肩を竦ませ、アリッサは微笑みながらその様子を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 そして――その日の晩。

 

 談話室に、カッシュを筆頭としてカイにロッド、アルフにビックスにシーサー、ルーゼルなど、二組の男子生徒の過半数が集まっていた。

 

 彼らは、いつものように再生機を借りて特訓光景を食い入るように見つめている。

 

「……俺達は…強くなった」

 

「ああ、強くなったな……」

 

 カッシュの呟きにカイが応じる。

 

「でも…確かに、合宿前と比べたら凄く強くなったけど…それでも、あの化け物みたいに強い模範クラスに通用するのか……?」

 

「そうだな…ぶっちゃけ不安だ」

 

 ロッドの言葉に、カッシュが己の心情を素直に吐露する。

 

「なぁ、皆。今の俺達に必要なのは、やっぱり自信…自分を信じる心なんだと思う」

 

 カッシュが男子生徒達を振り返って、そう言うと。

 

 男子生徒達は皆、静かに頷いていた。

 

 そんな彼らの頭上では、再生機から特訓光景が窓のように投射され、流れている。

 

 思い起こされるのは、今までの地獄の特訓の日々……

 

「行こうぜ、皆…今こそ、俺達自身を試す時だ」

 

「ああ、そうだな、カッシュ。これは俺達が乗り越えなければならない壁だよな……」

 

 そう言い合って、男子生徒達は顔を見合わせて、席を立った。

 

 この強化合宿の間に、すっかりボロボロになってしまった運動用ローブを羽織り…その部屋を、確固たる意志を漲らせる足取りで、出て行くのであった。

 

 

 

 

 

 一方、その頃――学生会館宿泊棟にある大浴場にて。

 

 脱衣所で衣服を脱ぎ捨てて髪を下ろすアリッサがいた。

 

 戦いを生業としているとは思えない、白く透き通る傷一つない肌、十六の少女にしては女性らしく均整が取れた優美な曲線を描く肢体が、露になる。

 

(むぅ…まだ本気出していないのに、汗をかいている。思っている以上にやる、この子達……)

 

 訓練後に、汗ばんでいることに気付き、アリッサは周囲を見渡す。

 

 周りは二組の女子達がきゃいきゃいと姦しく話ながら衣服を脱いでいた。

 

「…………」

 

 この子達の適応力がなんか凄すぎるんだけど、という風な目で見て、裸体にタオルを巻いたアリッサは一足先に、浴場に踏み入れる。

 

 すると――

 

「あ、イブさん。……どうも」

 

「あら……」

 

 どうやら先客がいたらしく、イブが湯船に浸かっていた。

 

「…………」

 

 お互いそこまでフレンドリーというわけじゃなく、イブとアリッサの間に沈黙が流れる。

 

 そして、結局、アリッサは何も話すことはないと、壁に設置されたカランを捻り、熱いシャワーで身を清め始める。

 

 訓練後の、それなりに汗ばんだアリッサの身体に、降り注ぐ湯が心地よく流れていった。

 

(ふぅ~…気持ちいい……)

 

 ほんの微かに目を閉じ、アリッサは降り注いでくる湯に、その艶めかしいうなじを、豊かな胸の双丘を、妖艶な細腰の曲線を、しなやかなおみ足を撫でさせた。

 

「やっぱり、お風呂の時間が楽しみなのよねーっ!」

 

「あはは、そうだね」

 

「ん」

 

 しばらくすると、裸体にタオルを巻いたシスティーナ、ルミア、リィエルを先頭に……

 

「あら、イブさん、先に入ってらっしゃいましたの?」

 

「うふふ、ご一緒させてくださいね」

 

「あ…その…お邪魔します……」

 

 ウェンディ、テレサ、リンら、その他二組の女子生徒達も一斉に浴場へと入ってくる。

 

 すると、先ほどまでの静寂と静謐の空間は一変。

 

 浴場は無数の悩ましい肌色が戯れる、とても賑やかで姦しい空間へと変貌した。

 

 黄色い声はひっきりなしに上がり、浴場という閉鎖空間に耳うるさく反響していく。

 

「…………」

 

 女性が風呂場に集まればこうなるのは、別に学生も女性軍人も変わらない。例え、違う国だろうと。

 

 アリッサは特に気にした風もなく、一通り身を清めると、カランを捻ってシャワーを止め、湯船に向かっていく。

 

 今さらだが、大理石をふんだんに使った泳げそうな(アメリカ人なら絶対にやる)ほど大きな湯船には、熱いお湯が張られており、沸き立つ白い湯気で向こう側の壁が見えないほどであった。

 

「……ぷへらぁ~…ほっ」

 

 湯船に身を沈めて、息を吐く。

 

 身体に刻まれた微かな疲労が、お湯に溶け出して、流れていくようであった。

 

 やがて、その瑞々しい身体を清めた女子生徒達が、イヴとアリッサと同じ湯船に浸かり始めて……

 

「ねぇねぇ、イヴさんって、本当に帝国軍の軍人さんなんですか!?」

 

「うんっ!信じられないくらい、お肌綺麗ですよね!?ああん、素敵!」

 

「その炎みたいに鮮やかな赤い御髪も素敵!綺麗~っ!」

 

「ねぇねぇ、何か、お手入れのコツみたいなものあるんですかぁ!?」

 

 あっという間に、イブは女子生徒達に取り囲まれてしまっていた。

 

「…………」

 

 何でだろう?

 

 何で彼女達はここまでハイテンションなんだろう?

 

 正直、あれだけ厳しい訓練受ければ、こんなにハイテンションにはならないはずなのだが――

 

 そうアリッサが思っていると。

 

「そういえば、アリッサも、本当にお肌綺麗よね!」

 

「うんうん!スタイルも良いし、本当に連邦軍の軍人さんには見えない!はぁ~っ、羨ましい!」

 

「髪も綺麗で…ああん、もう羨ましいっ!ねぇねぇ、イヴさんもだけど、アリッサは何か、お手入れのコツとかあるの!?」

 

 今度はアリッサも取り囲まれてしまう。

 

 何か、もう、アリッサの頭の中は彼女達の事で大渋滞を引き起こしていた。

 

 どれぐらいかというと、ニューヨークの通勤ラッシュぐらいの大渋滞を引き起こしていた。

 

 と、そうなりつつも。

 

「イヴさんはどうかは知らないけど…私は特に何か特別なことはしてないというか…普通にリンスとかシャンプーで……」

 

 無視するのも気が引けるので、一応、適当に無難な返答をしていくアリッサ。

 

「えぇ!?それなのに、こんなに綺麗なの!?」

 

「きゃ――っ!持って生まれた美をお持ちだわ~~っ!」

 

「う、羨ましすぎる――っ!」

 

 だが、女子生徒達は、アリッサのつまらない返答にいちいち喜び、大騒ぎをする。

 

 これは、イヴの所でも同様なようで。

 

「きゃ――っ!ナルミオイルですって!?」

 

「セレブだわ~~っ!」

 

「イヴさん、さっすが――っ!」

 

 手入れのコツについて、適当に無難な返答していたイヴに、こちらも大騒ぎである。

 

「ねぇねぇ、イヴさんの初陣ってどんな感じだったんですかぁ!?」

 

「イヴさんのことですもの、きっと大活躍だったんですよねっ!?」

 

「ねぇねぇ、アリッサの初陣ってどんな感じだったのぉ!?」

 

「アリッサのことですもの、きっと大活躍だったよねっ!?」

 

((……な、なんなの?))

 

 同じような質問をされたイヴとアリッサは目を白黒させる。

 

 特訓の時は、圧倒的な実力を生徒達に見せていた二人は、今や、二組の女子生徒達にたじたじである。

 

 そんな戸惑う二人を余所に、女子生徒達は次々と楽しそうにイヴとアリッサに話しかけていく。

 

「そ、そうねぇ…初陣は、さすがの私も緊張したかしら?あれは確か四年前……」

 

「わ、私は、確か…まだ帝国に来る直前のジョセフと組んだ任務が初陣で……」

 

 イヴもアリッサもその勢いに呑まれ、柄でもなく饒舌に語ってしまう。

 

 女子生徒達は皆、楽しそうにイブとアリッサの話に耳を傾け、どんどん盛り上がっていく……

 

 と、その時だ。

 

 

 

 

 

 

 ちゅっどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!

 

「「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ――っ!?」」」」

 

「ルーゼルぅうううう――っ!?傷は浅いぞ、しっかりしろぉおおおおお――っ!?」

 

「カッシュ!これって多分、性別を条件起動式にした魔術罠……ッ!?」

 

「くそっ!?退けッ!退けぇええええええええええええ――ッ!」

 

 

 

 

 

 

 大浴場の外の廊下の方から…何かの爆発音と悲鳴が上がった…ような気がした。

 

「……あれ?イヴさん…何か今、変な音が……?」

 

「さぁ?気のせいじゃない?」

 

 戸惑う女子生徒達とは裏腹に、湯により深く身を沈めたイヴはすまし顔だった。

 

(……これは、もしかして、覗き…?本当に来るんだ……)

 

 アリッサはジョセフから言われたことを思い出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 それは、システィーナ、ルミア、リィエル、ウェンディ、テレサ、リンと一緒に、浴場に向かう前のこと――

 

「――覗きには気をつけろ?」

 

 ジョセフからの忠告に、きょとんとするアリッサ。

 

「そうそう。というのも、ウチらの男子生徒達の大半はこういう行事には必ず覗きをするからな」

 

 まぁ、いつものことよ、と。肩を竦めながら溜息を吐くジョセフ。

 

「……地雷とか仕掛けておく?」

 

「……それをしたら、あいつらの足が吹っ飛ぶだろうが……」

 

 アリッサの口から炸裂する過剰防衛発言を、ジョセフは突っ込む。

 

「それはな、多分、イブさんが魔術罠を仕掛けておくから大丈夫や。徹底的に殺さない程度にするだろうからな」

 

「……ジョセフは来ないの?」

 

「……俺に死ねと……?」

 

「ジョセフなら皆、許してくれるから、大丈夫――」

 

「んなわけあるかいッ!?」

 

 瞬時にハリセンを召喚し、アリッサの頭にスパーン!っと、突っ込むジョセフ。

 

「……痛い」

 

「ったく、お前は……」

 

「じゃあ、私のを――」

 

「見せるなぁああああああああああああああああ――ッ!?」

 

 アリッサの相変わらずの自然なボケにジョセフは盛大な突っ込みを入れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、現在。

 

 アリッサが物思いに耽っていると。

 

「あの…アリッサ?」

 

「うふふ…お隣いいですか?」

 

「あの…お邪魔します……」

 

 ちょうど身体を洗い終えたウェンディ、テレサ、リンがアリッサの隣に入ってくる。

 

「……ん、どうぞ」

 

 ジョセフ曰く、仲良し三人組も人達ね、と。

 

 特に突っぱねる理由もないので、そう返す。

 

(彼女達が、ジョセフと仲良くしているのは、まぁ、だいたい、わかる…ジョセフって、本人は気付いてないけど、モテるから)

 

 アリッサがちらりと、三人を流し見る。

 

「ふぅ~、とてもいい湯加減ですわね」

 

「そうですね、お湯が気持ちいいですね、アリッサ」

 

「あ、あはは…そうだね……」

 

 アリッサは、三人を流し見て、

 

(ジョセフって…普段は嗅覚が優れているのに、こういう場合だけ、嗅覚悪いよね)

 

 多分、一人はそうではないが…残り二人は、ジョセフのことを想っている。

 

 しかし、ジョセフはそのことに気付いてない。本当にどこまで鈍感なのよ、彼は。

 

「ねぇ…アリッサって、ジョセフと本当はどういう関係なんですの……?」

 

 アリッサが溜息を吐いていると、ウェンディが恐る恐るそんなことを聞いてくる。

 

「ジョセフからは、連邦軍で、ただの同僚…とは聞いていたんですが…なんか、とても仲が良いというか、気安いご関係に見えて…ちょっと、気になってしまって……」

 

 同僚。なんかジョセフからはこういう風に見られていないと思うと…無性に腹が立ってくる。

 

「そうですね。……それは私も気になりますね」

 

 テレサも便乗してそんなことを聞いてくる……

 

(……本当に、年頃よね。私もこの二人も……)

 

 さっさと気付け、このバカ…アリッサは、ジョセフに心の中で悪態をつくと。

 

「……ジョセフとは、同僚なのは、同僚なんだけど……」

 

「……なんだけど…?」

 

 ずいっと、ウェンディとテレサが身を寄せる。

 

「…………」

 

 ヤバい、この二人…本気だ。

 

「……私は、この前の戦争で彼に救われたの」

 

「……え?」

 

 アリッサの言葉に、ウェンディとテレサは目を瞬かせる。

 

「……この前の戦争でって…貴女……」

 

 アリッサは溜息を吐くと。

 

「私はね、元々、隣国のレザリア王国の人なの…連邦じゃなくてね……」

 

「……え?」

 

 ウェンディ、テレサ、リンが目を瞬かせると、アリッサはその時のことに思いを馳せる。

 

 

 

 

 

 ちゅっどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!

 

「「「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ――っ!?」」」」

 

「カッシュ!?カッシュぅうううう――ッ!こっちも地獄だぞぉおおおお――ッ!」

 

「「「「ぐわぁああああああああああああああああああああああああ――ッ!」」」」

 

 外では相変わらず爆音と悲鳴が響き渡るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






今回は、ここまで

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。