ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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どうぞ!


134話

「ところで、先生…その古本回収作業を始めるにあたってなんですが……」

 

「ああ、わかってる……」

 

 グレンは、この場所に集う者達を見回しながら、作戦を考えていた。

 

 敵の質は大したことないが、とにかく物量が凄まじい。

 

(俺やイブ、ジョセフ、アリッサだけじゃとても手が回らんな。とにかく、こっちも頭数が必要だ……)

 

 単純な戦術的見地から、グレンがそう結論づけると。

 

「当然、私達もついていきますからね!先生」

 

 システィーナ、ルミア、リィエルがグレンの前に出る。

 

「まぁ…こいつらは来るだろうとは思っていたけど……」

 

 それでも数が足りないと、ジョセフは頭をかく。

 

「先生は戦い方が危なっかしいから、背中を守る人が必要でしょう?」

 

「足手まといにはなりませんから。だから、先生、お願いします。私達も一緒に……」

 

「ん。わたしはグレンの剣」

 

 そんな頼もしい三人娘達の言葉に、グレンが思わず頬を緩めていると。

 

「へっ!この期に及んで仲間ハズレはなしだぜ、先生!」

 

「ふん、さっさとこのくだらない騒動、終わらせましょう」

 

「ええ!わたくし達も先生のお力になってさしあげますわ!」

 

 カッシュ、ギイブル、ウェンディら二組の生徒達も、次々グレンの下へ集まってくる。

 

「さすがに、リンみてーな、戦い苦手なやつは、ここに置いていくけどさ…なんか、敵の数、スゲェ多いだろ?頼むよ、先生。俺達も連れてってくれよ!」

 

「わたくし達でも、先生の露払いくらいはできますわ!」

 

「自惚れかもしれませんがね。……むしろ、僕達がいないと戦力的に難しいのでは?」

 

 カッシュやウェンディ、ギイブル達が縋るようにグレンへ頼み込む。

 

 ジョセフはそんな生徒達を見て、驚愕していた。

 

 生徒達は皆、あれほどの恐怖を前にしても、折れていない。

 

 グレンが教えてきた通り、冷静に客観的な事実を見極め、今、自分達が為すべきことを見据え、自分にできることをしようと決意を目に漲らせている。

 

 理性で感情を制御し、常に怜悧なる思考の中に身を置く…もう、立派な魔術師だ。

 

(ったく…あのヒヨッコどもが、いつの間にか頼もしくなりやがって……)

 

 グレンが苦笑いしながらそんなことを、密かに呟いて。

 

「ああ、わかった。むしろ、こっちから頼む。今回はお前らの力を貸してくれ」

 

「よっしゃあああああああああ――っ!」

 

 グレンに認められ、任された…その嬉しさに二組の生徒達が沸き立つが。

 

「わ、私は行かないぞッ!」

 

 そんな叫びが、その場に水を差す。

 

「あんな狂ったモノに立ち向かうなんて…どうかしている!?」

 

 マキシムであった。目を血走らせ、冷や汗を滝のように流し、見ていて不安になるほど、過呼吸を繰り返している。まさに理性崩壊寸前といった有様であった。

 

 見れば。

 

「誰か助けて…誰か助けて…誰か助けて……」

 

「嫌だ、嫌だ…本にされるなんて嫌だ…嫌だ……」

 

 その周りの模範クラスの生徒達も、皆一様に恐怖に支配されているようであった。

 

 皆、あの狂気に呑まれ、正気と精神を削られ、心が折れてしまったのだ。

 

口先だけの、中身のない連中ね(ウン・ムッキオ・ディ・ボッキェ・ヴォテ)

 

 そんな連中の無様な姿を見て、アリッサはそう吐き捨てる。

 

「も、もう私達お終いだ…あんな化け物に敵うわけがない…私達は一人残らず本にされてしまうのだ…嫌だ…本にされるくらいなら、いっそ……」

 

「おい、てめぇ、しっかりしろよ!?ンな情けねぇこと言ってる場合か!?」

 

 グレンが呆れたように、苛立ったように、マキシムへ吐き捨てる。

 

「う、うるさいっ!君こそなぜだ!?なぜ、あのような恐怖に立ち向かえる!?あんな吐き気がするほど悍ましい、狂った存在に…どうして戦いを挑める!?」

 

 そんな、マキシムの問いかけに。

 

「うるせぇ、そりゃ俺が教師だからだよ!」

 

 グレンはきっぱりと答えていた。

 

「そりゃ俺だって、本当はあんな狂気の産物に関わるなんざゴメンだ!けどよ、俺は教師だ!教師として、生徒を守らにゃならねーし…何より、生徒達が俺の背中を見てんだよ!真の魔術師とはなんたるやを、俺の背中にその目で問いかけてんだよ!」

 

「――ッ!?」

 

「だったら…ここで、みっともねぇ真似なんざできるか、面倒臭ぇ」

 

 そう言い捨てて、くるりと背を向けるグレンを。

 

 マキシムは、呆然と打ちひしがれたように、見つめるしかなかった。

 

 ――そして。

 

 リンなど、戦闘が苦手な生徒達、心が折れたマキシムや模範クラスの生徒達を、結界の張られた安全な大講義室に待機させて。

 

 グレンは有志の生徒を引き連れ、メイベルの案内で裏学院内を歩いていた。

 

 総勢十数名。『Aの奥義書』が潜んでいるという区画を目指して、校舎内を歩き続ける。

 

 黒幕も、グレン達の決意に気付き、来るべき戦いに備えているのだろうか。

 

 先ほどから、本の怪物の出現は、すっかりなりを潜めていた。

 

「ったく、マキシムのやつらめ…こんな時こそ、自称戦闘専門家どもの出番だろうが」

 

「形だけで中身のない連中に、それを要求するのは酷よ」

 

 グレンの呆れたような呟きに、隣を歩くイブが素っ気なく応じる。

 

「てか、それにしてもよ」

 

 ふと気付いたグレンは、先頭に立って道案内するメイベルに声を投げる。

 

「一つ聞きてえんだが…お前、そこまで今回の事件の真相を知っておきながら、なんで今の今までずっと黙っていたんだよ?もっと、早く公にしてりゃ――」

 

「黙ってたっていうよりも、()()()()()()んじゃないですか?」

 

 グレンの質問の途中で、グレンについてきているジョセフが口を挟んだ。

 

「多分、狂気のアリシア三世によって、邪魔されないように何らかの制限がかかっていたのでしょう。メイベルが辛うじて正気を保っていたアリシア三世の執筆によってできたものだとしても、狂気のアリシア三世の影響を受けた可能性もなきしもあらずですし。だから、初日にあの胸糞悪いクソ野郎どもを引き連れて決闘戦を先生に提案したり、警告のメモを先生とマキシムの部屋に置いたりとか、そんな回りくどいことをしていたんだと思いますよ。もちろん、アリシア三世の不始末だから、自分一人で決着をつけるというのもあったんでしょうけど」

 

「……ジョセフ、お前…絶対キレてるだろ……」

 

「……別に?連中を見て思っただけのことを口にしただけですよ」

 

 うん。こいつ、絶対キレてる。とグレン達は頬を引きつらせていた。

 

「……んで、メイベル。どうなんだ?」

 

「おおかた、彼の言う通りです…これは、私の…アリシア三世の不始末です。だから、私は一人で決着をつけるつもりでしたし…何より、公にすること自体が不可能だったのです」

 

 メイベルが淡々と答えた。

 

「……どういうことだよ?」

 

「私は正気のアリシア三世によって執筆されましたが、同時に、狂気のアリシア三世の検閲も受けていて、気付かぬうちに、私の行動原理(プログラム)は書き換えられていました。それゆえに『Aの奥義書』の行動原理を邪魔する行動に制限がかかっていたのです。

 そんな私には、暗示の魔術でマキシムの生徒になりすまし、彼の行動を監視することだけで精一杯でした。この『裏学院』に突入し、私自身を『インク』で再編纂し、元の行動原理を修復するまで、こうして貴方達に真実を話すことすらできなかったのです」

 

「インク?再編纂?……なんだそりゃ?」

 

 すると、メイベルはポケットから、一つのインク壺を取り出した。

 

「インクとは、生前のアリシア三世が、私や『Aの奥義書』執筆に使った、特殊な魔術インク。その調合法は、生前のアリシア三世以外は誰も知らない完全な失伝魔術(ロスト・ミスティック)です」

 

「ひょっとして…さっき、ホールであの妙な女を倒した弾丸は……?」

 

「はい、そのインクを弾丸にしたものです。このインクだけが、炎を封じられたこの空間で、『Aの奥義書』を害せる唯一の手段。貴方に渡しておきます。……この銃も」

 

 メイベルは、単発式の火打ち石式拳銃とインク壺をグレンに手渡す。

 

「いいのか?」

 

「いいんです。私、銃の扱いは得意というわけじゃないし…それに、やっぱり、その銃には嫌な記憶しかありませんので。……なにせ、私を殺した銃ですから」

 

 グレンがインク壺を開くと、中には球状になったインクがいくつか入っていた。

 

 触ってみると、小さなビー玉サイズのそのインク球はぶよぶよで弾力があり、不思議と形は崩れない。これならどんな口径の銃にも合いそうだ。

 

「インクは…あまり無駄遣いしないでください。私の再編纂に相当量を使ってしまったから、もう残りはそれしかないんです。それがなくなったら…終わりです」

 

「……ああ、了解だ」

 

 グレンは早速、そのインク弾を、自身の使い慣れたパーカッション回転弾倉拳銃(リボルバー)の空弾倉に、慣れた手つきで装填し始めるのであった。

 

「先生。それ一発、貰っていいですか?」

 

「はぁ?一発貰うって…ジョセフ。お前の銃はこれに対応――」

 

 ジョセフの意図が読めず、グレンが呆れながら振り返ると。

 

「これなら、対応できますけど?」

 

 ジョセフは圧縮していた一つの小銃を、取り出して、グレンに見せる。

 

 ジョセフが持っていた小銃は、メイベルから渡された火打ち石式拳銃に似ているような…いや、むしろ、≪隠者≫のバーナードが持っているマスケット銃の銃身を長くした小銃であった。

 

「ライフル・マスケット銃…持っていたのかよ」

 

 グレンは、ライフル・マスケット銃を見ると納得し、ジョセフにインク壺を取り出してインク弾を一発手渡す。

 

「まぁ、もしもの時というか、おやっさんから貰ったものなんですがね」

 

 ジョセフはそう言いながら、こちらも慣れた手つきで炸薬類、インク弾を、銃口に入れて装填するのであった。

 

 ……やがて。

 

「ここです。この部屋の最奥に『Aの奥義書』は…狂ったアリシア三世、もう一人の私がいます」

 

 メイベルの案内で一同が辿り着いた場所は――

 

「なるほど…図書室、か。まぁ、らしいっちゃらしいよな」

 

「と、図書室?」

 

 その部屋の門扉をくぐって、その部屋に入室したシスティーナは、グレンの呟きに首を傾げるしかなかった。

 

 比較的広い幅の通路が、まるで無限回廊のように消失点の果てまで続いている。

 

 その通路の中央には、読書のための机と椅子が等間隔に並び、やはり消失点の果てまで続いている。

 

 そして、そんな通路の両脇に壁のように立ち並ぶ無数の書架、書架、書架――ぎっしりと古書が詰まったその一つ一つの書架の高さは見上げるほど高く、その頂点は濃厚な暗闇の果てに吸い込まれて目視できないほどだ。

 

「どう考えても、図書室ってレベルじゃないでしょ…図書館って呼んだ方が……」

 

「しっ、来ましたよ」

 

 メイベルの忠告に、その場に集う一同が表情を引き締める。

 

 すると……

 

 ぞるり、ぞるり、ぞるり……

 

 書架の陰から。脇に逸れる通路の陰から。

 

 わらわらと、件の本の怪物が次から次へと群れるように現れる。

 

 ばさっ…どさどさっ……

 

 はたまた、書架から本が勝手に抜け落ち…その本が件の怪物へと変貌していく。

 

 グレン達の行く手は、あっという間に、折り重なる本の怪物たちに阻まれてしまう――

 

「……ゾンビの群れかよ……」

 

 ジョセフはげんなりした顔で、溜息を吐く。

 

「ちっ…なんちゅう数だよ、まったく……」

 

 グレンが黒魔【ウェポン・エンチャント】で、魔力を漲らせた拳を打ち合わせる。

 

 拳に漲る魔力が紫電となって弾け、一瞬、辺りの闇を鋭く払った。

 

「……おい、お前ら、ここが正念場だ…頼りにしてるぜ!」

 

 そんなグレンの叫びに。

 

「はいっ!背中は任せてくださいっ!」

 

「援護します!」

 

「ん、突貫する」

 

 システィーナ、ルミア、リィエルが応え……

 

「ああああ、もうっ!やってやらぁあああああ――っ!」

 

「……ふん。さっさと終わらせよう」

 

「こ、こ、こ、怖くありませんわ――っ!」

 

 カッシュ、ギイブル、ウェンディも……

 

「あ、足を引っ張らないようにしないと……」

 

「そうですね。できることをしないと……」

 

 セシル、テレサも……

 

 グレンに着き従う生徒達皆が力強く頷いて、身構える。

 

「さて…アリッサ、準備OK?」

 

「いつでもいける……」

 

 ジョセフは大鎌を、アリッサは小銃(M1903)を構えて。

 

「んじゃ、先生。先陣切らせてもらいます。……行くぞ(ヴァモス)ッ!」

 

 ジョセフとアリッサは、本の怪物の群れへ向かって、突っ込んでいった。

 

「おい、イブ」

 

「……何よ?」

 

 そして、グレンは隣に立つイブを見向きもせず、言葉だけを投げる。

 

「言っておくが…俺はお前が嫌いだ」

 

「そう、奇遇ね。私もよ」

 

「だが、今だけは力を貸してくれ。俺のためじゃねえ、生徒達を護るためだ。頼むッ!」

 

 そう一方的に言い捨てて。

 

 グレンは、ジョセフ達に続くように本の怪物の群れへ向かって、拳を振り上げて駆け出した。

 

「……ふん、勝手な男」

 

 イヴは忌々しそうにそんなグレンの背中を見送るが――

 

「いいわよ。盛大な貸し一つ――一生かかっても返済してもらうからッ!」

 

 そう叫んで。

 

 イブは右手を構え、援護の呪文を唱え始める。

 

 その右手に、膨大な魔力が紫電を立てて漲るのであった――

 

 

 

 

 

 ――駆ける。駆ける。駆ける。

 

 無限に続く書架の回廊を。

 

 グレンを先頭に、生徒達の集団が必死に駆ける。

 

 そんなグレン達を、阻むように押し寄せるのは、無数の本の怪物の群れ。

 

『キシャアアアアアアア――ッ!』

 

 その頁の腕を伸ばし、前後左右から、生ける屍(ゾンビ)のように襲いかかってくる。

 

 だが、押し寄せる津波のような、本の怪物達を――

 

「ぉおおおおおおおおおおおおおおお――ッ!」

 

 グレンが魔力の灯った拳で殴り飛ばし――

 

「大人しく、書架に戻ってろぉおおおおおおおおおおおおおおおお――ッ!」

 

 アリッサが銃床で本の怪物を殴り飛ばし――

 

「いいいいいいやぁあああああああああ――ッ!」

 

 リィエルが旋風のように振るう大剣が薙ぎ払い、血路を開く。

 

 散発的に襲いかかっては駄目だと、一度に数十体、大挙して本の怪物が迫れば――

 

「はいはいっ!通行の邪魔でごさいます、お客様ッ!」

 

 ジョセフが大鎌を縦横無尽に振り回し、本の怪物を薙ぎ払い――

 

「システィ!」

 

「ありがとう、ルミアッ!≪集え暴風・戦鎚となりて・撃ち据えよ≫――ッ!」

 

 ルミアの≪王者の法≫でブーストされた、システィーナの黒魔【ブラスト・ブロウ】――壮絶に渦を巻く風の破城鎚が、本の怪物を纏めて空へと吹き飛ばす。

 

 バラバラと、本の怪物の雨が降ってくる中――

 

「≪大いなる風よ≫――ッ!」

 

「≪大いなる風よ≫――ッ!」

 

 左右の書架の陰から迫ってくる本の怪物たちを、ウェンディやテレサを筆頭とした生徒達が【ゲイル・ブロウ】の呪文を唱え、突風の弾幕を張って、押し返していく。

 

 背後から迫ってくる、本の怪物の群れは――

 

「≪寄りて集え・土塊で創られし・白痴の巨人≫ッ!」

 

 ギイブルが唱えた、召喚【コール・ファミリア】。それによって召喚されたアースエレメンタル…土塊の巨人が、その大きな両手を広げて掴みかかり、進行を妨げる。

 

 そして――

 

 どうしても、グレン達の攻撃を抜けて迫ってくる本の怪物達へ――

 

「≪蒼銀の氷精よ・冬の円舞曲(ワルツ)を奏で・静寂を捧げよ≫」

 

 暗闇を鋭く斬り裂く、輝くレーザー光が襲いかかる。

 

 その高速レーザー光は、まるで意思を持った生物のように、弧を描いてその空間を踊り狂い――されど、グレン達だけは避け――本の怪物達だけを次々と撃っていく。

 

 無数に翻り、跳弾するレーザーによって、一瞬、一同の視界が無数の断片に分断される。

 

 そして、次の瞬間。

 

 レーザーに撃たれた本の怪物だけが、巨大な氷柱に閉じ込められ、沈黙した。

 

 黒魔【アイシクル・コフィン】。

 

 冷凍光線によって対象を血液まで氷漬けにする、B級軍用魔術であった。

 

 当然、こんな芸当ができるのは――

 

「イヴ!?」

 

「ふん」

 

 殿を務める彼女は、右手の人差し指を上に立て、淡々と己の仕事をこなしていた。

 

「お前!炎の魔術だけが能じゃなかったんだな!?」

 

 正面から襲いかかってくる本の怪物を殴り倒しながら、グレンが叫ぶ。

 

「は?私はエリートよ?なんでもできるわよ。……ただ、炎が一番得意ってだけ」

 

 憮然と応じて、予唱呪文の黒魔【アイス・ストーム】を時間差起動(デイレイ・ブート)する。

 

 巻き起こる凍気の嵐と氷礫が、迫る本の怪物達を押し返し、薙ぎ払い、凍てつかせる。

 

 こうして、決して倒せない本の怪物達を、触れずに捌きながら、一同はメイベルの案内に従って、複雑に通路が絡みあう図書室内を駆け抜けていく――

 

「しっかし、倒せねえってのは厄介だな!敵は増えるばっかりってこった!」

 

 こうして何とか、迫り来る敵の群れを押し返して捌いているが、こうしている間にも書架から次々と新手の怪物が現れ、グレン達に迫ってくる――

 

「先生の【イクスティンクション・レイ】でも駄目なんでしょうかね?」

 

「……やってみるか」

 

 システィーナの疑問に、グレンが懐から虚量石(ホロ―ツ)――黒魔改【イクスティンクション・レイ】の起動触媒を取り出すが――

 

「やめなさいっ!」

 

 その動きを察したイブが、呪文で本の怪物を薙ぎ払いながら、鋭く警告を発する。

 

「その呪文は、炎熱、冷気、電撃の三属性複合呪文でしょう!?例の”火遊び厳禁”のルールに違反に引っかからない保証も、連中に通用する保証も、どこにもないわ!」

 

「――ッ!?」

 

「特異法則結界空間を甘く見ないで!たまたまルール的にセーフだったみたいだからよかったものの、本来なら貴方の銃だって危なかったのよ!?今は貴方の銃技とインク弾だけが、こっちの切り札なの!それを忘れないで!」

 

「ちっ…厄介な……」

 

 グレンが渋々と虚量石をしまう。

 

「と、なると…アレも通用する保証はない以上、使えないか……」

 

 大鎌で本の怪物を薙ぎ払いながら、ジョセフはあの”刀”が使えないとわかり、呟く。

 

「おい、メイベル!その『Aの奥義書』とやらがいる場所はまだなのかよ!?」

 

 己に伸びてくる頁の触手をひらりとかわし、カウンターの拳を本の怪物へ叩き込む。

 

「すみません…まだです……ッ!」

 

「ああ、そうかよ!」

 

 そして、敵の攻勢は刻一刻と激しくなる一方であった。

 

(確かに、この本の怪物は大したことない連中だ。そんなに動きが速いってわけじゃねえし、簡単にぶっ飛ばせる。この程度なら生徒達でも対応可能。だが……)

 

 炎や特殊インク弾以外では倒れないという、この特異法則結界空間限定の不死身さ。

 

 そして、今もなお、数を増やし続ける本の怪物の、その底なしの物量。

 

 それが、じわり、じわりと、グレンの胸中を焦燥で蝕んでいく……

 

 

 

 

 そんなグレンの懸念は、徐々に現実となっていくのであった――

 

 

 

 

 

 

 








今回はここいらで
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