ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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原作二巻に突入だにゃー!


第2章
13話


 放課後のアルザーノ帝国魔術学院、東館二階。

 

 その時、魔術学士二年次生二組の教室は、びっくりするほど盛り下がっていた。

 

「はーい、『飛行競争』の種目に出たい人、いませんかー?」

 

 壇上に立ったシスティーナがクラス中に呼びかけるが、誰も応じない。

 

「…なあ、カッシュ…」

 

「……どうした、ジョセフ?」

 

「今、俺達は何をしてるん?」

 

「魔術競技祭の種目決めだ…」

 

「……そうか、ところで俺は今、ある疑問を持っている」

 

「…何だ?」

 

「何で、こんなにもウチのクラスはテンションダダ下がりなん?」

 

 ジョセフが疑問に思ってたこと、それはあまりにもクラスの雰囲気が沈んでいることだ。

 

 クラスメイト達は皆、一様にうつむいたまま、教室は葬式のように静まり返っている。さっき話したカッシュはもちろん、セシルもウェンディもテレサもうつむいている。

 

 あまりの暗い雰囲気にジョセフもさすがにボケをかませられなかった。

 

「……じゃあ、『変身』の種目に出たい人ー?」

 

 やはり、無反応。教室は静まり返ったままだった。

 

(何!?そんなにヤバいイベントなの魔術競技祭って!?皆が出たがらないほどヤバいやつなの!?)

 

「はぁ、困ったなぁ……来週には競技祭だっていうのに全然決まらないなぁ…」

 

 システィーナが頭を掻きながら、黒板の前で書記を務めるルミアに目配せする。

 

「魔術競技祭ってそんなにヤバいイベントなの?」

 

 ジョセフは囁くようにセシルに聞く。

 

「あー…ヤバいというわけではないんだけどね…」

 

「……無駄だよ、二人とも」

 

 その時、この膠着状態にうんざりした眼鏡の少年が席を立った。

 

 少年の名はギイブル。このクラスではシスティーナに次ぐ優等生だ。

 

(お、彼が解説してくれるのか席を立ちました)

 

 なぜか心の中で実況しているジョセフ。

 

「皆、気後れしてるんだよ。そりゃそうさ。他のクラスは例年通り、クラスの成績上位陣が出場してくるに決まってるんだ。最初から負けるとわかっている戦いは誰だってしたくない……そうだろ?」

 

(あ、そうなん?ってこんなに多い種目を上位者だけで回すのか!?)

 

「……でも、せっかくの機会なんだし」

 

 むっとしながら反論しようとするシスティーナを無視し、ギイブルが続ける。

 

「おまけに今回、僕達二年次生の魔術競技祭には、あの女王陛下が賓客として御尊来になるんだ。皆、陛下の前で無様をさらしたくないのさ」

 

 嫌味な物言いだが、ギイブルの言はジョセフを除くクラスに蔓延する心情を的確に突いていた。

 

(あーなるほどね。それでか…)

 

 ジョセフは納得する。

 

「それより、システィーナ。そろそろ、真面目に決めないかい?」

 

「……私は今でも真面目に決めようとしてるんだけど?」

 

「ははっ、冗談上手いね。足手まとい達にお情けで出番を与えようとしてるのに?」

 

(おいおい、それは言い過ぎだろ…)

 

 心の中で呆れるジョセフ。

 

 ギイブルは皮肉げな薄笑いを口の端に浮かべ、クラスの生徒達を一瞥する。

 

「見なよ。君の突拍子のない提案のおかげで、元々、競技祭に出場する資格があった優秀な連中も気まずくなっちゃって萎縮している……もういいだろう?」

 

(へ~、資格があるんだ~)

 

「わ、私はそんなつもりじゃ!?それに皆のことを足手まといだなんて…?」

 

 眉を吊り上げ、声を荒げるシスティーナ。

 

 ギイブルはそれをさらりと受け流し、さらに歯に衣着せぬ言葉でたたみかける。

 

「綺麗事はいいよ、そんなことより、さっさと全競技を僕や君のようなクラスの成績上位陣で固めるべきだ。そうしなければ他のクラスに…特にハーレイ先生が率いる一組に勝てるわけがない」

 

(……アホか)

 

 ジョセフはギイブルの提案を心の中で――決して口には出さない――一蹴した。

 

(こんな雑多な種目をたった数人で回すとか正気か?二つ三つならともかく、それ以上やったら持たないぞ。こんな提案、連邦軍の連中が聞いたら馬鹿にされるぞ)

 

「勝つことだけが競技祭の目的じゃないでしょう?それに、それ去年もやったけど……なんか凄くつまらなかったし…」

 

「勝つことだけが目的じゃない?つまらない?何を言ってるんだ、君は。魔術競技祭はつまるつまらないの問題じゃないだろう?」

 

 ギイブルはシスティーナの言い分を鼻で笑った。

 

「めったなことじゃ魔術の技比べができないこの学院において、誰が本当に一番優れた魔術の技を持っているのか――それを明白にできる数少ない機会が魔術競技祭じゃないか」

 

(あほくさ)

 

「それはそうかもしれないけど……ッ!」

 

「しかも、この競技祭には学院の卒業者…魔導省に勤める官僚や、帝国宮廷魔導士団の団員の方々も数多く来賓としていらっしゃるんだ魔術競技祭は将来それらを目指す生徒達にとって、絶好のアピールの場でもある。僕ら成績優秀者にその機会がより多く与えられるのは当然と思わないかい?」

 

(自惚れるなよ、お前)

 

 ジョセフは内心、ギイブルの言葉にイライラしていた。一年前の自分ならとうの昔にギイブルの顔面に銃床を殴りつけただろう。

 

「ジョセフ?」

 

 イライラしているのが伝わってしまったのか、ウェンディがこちらを向く。その顔は怖がっているような表情をしていた。

 

「ねぇ、貴方、それ本気で言ってる……?」

 

 怒りを露にシスティーナがギイブルを睨みつける。

 

 だが、ギイブルはどこ吹く風で、さらに持論を展開していく。

 

「それにさ、今回の優勝クラスには、女王陛下から直々に勲章を賜る栄誉が与えられるんだ。これにどれだけの価値があるのか、君にもわかるだろう?システィーナ?だから、だだこねてないで大人しく出場メンバーを成績上位陣で固めるんだ。これはこのクラスのためでもあるのさ」

 

(もう、下らなさすぎだろ…)

 

「ギイブル…貴方、いい加減に――」

 

(あ~、これはヤバいわ…さっきまで黙っていたが、止めに入った方がええな)

 

 恐らく場の雰囲気は最悪になるだろう――システィーナも我慢の限界だった。システィーナが怒声を上げる前にジョセフが止めに入ろうとしたその時だった。

 

 ドタタタタ――と、外の廊下から駆け足の音が迫ってきたかと思えば……次の瞬間、ばぁんっ!と、派手に音を立てて教室前方の扉が開かれた。

 

「話は聞いたッ!ここは俺に任せろ、このグレン=レーダス大先生様にな――ッ!」

 

 両袖に通さず羽織ったローブが、無意味にバサリと翻る。

 

 開け放たれた扉の向こうには、人差し指を前に突き出し、不自然なほど胸を反らして、全身をねじり、流し目で見得を切る、という謎のポーズを決めたグレンがいた。

 

「……ややこしいのが来た」

 

(……ホッ)

 

 システィーナが頭を抱えてため息をつき、ジョセフは胸を撫でおろす。

 

 あまりにも意味不明な登場の仕方に思わず呆然とするクラス一同を前に、グレンはシスティーナを押しのけるように教壇に立った。

 

「喧嘩はやめるんだ、お前達。争いは何も生まれない…何よりも――」

 

 グレンはきらきらと輝くような、爽やかな笑みを満面に浮かべて――

 

「俺達は、優勝という一つの目標を目指して共に戦う仲間じゃないか」

 

(――キモい)

 

 その瞬間、クラス一同の心情は見事に一致した。なんとも悲しい統率力だった。

 

(てか、絶対よからぬコト考えてるやろ)

 

 ジョセフはジト目でグレンを見る。

 

「まぁ、なんだ。なかなか種目決めに難航しているようだな、お前達」

 

 そんなクラスに流れる微妙な空気を微塵も読まず、グレンはどこまでもマイペースに話を続ける。実にいつも通りである。

 

「ったく何やってんだ、やる気あんのか?他のクラスの連中はとっくに種目を決めて、来週の競技祭に向けて特訓してんだぞ?やれやれ、意識の差が知れるぜ」

 

「やる気なかったのは先生でしょ!?」

 

 あまりにもあんまりな言い草に、流石にシスティーナが突っ込みを入れる。

 

「大体、先生ったら先日、私が競技祭について聞いた時、『お前らの好きにしろ』って言ってたじゃないですか!なんで今頃になってそんなこと言うんですか!?」

 

「……え?」

 

 いかにも心外だとばかりに、きょとんとするグレン。

 

「……俺、そんなこと言ったっけ?いや、マジで覚えがないんですけど」

 

「あぁ…やっぱり面倒臭がって、人の話、全っ然、聞いてなかったんですね……」

 

 グレンの相変わらずの平常運転ぶりに、システィーナは激しく脱力して突っ伏した。

 

「まぁ、んなことはどうでもいいとして、だ。お前らに任せて決まらない以上、ここはこのクラスを率いる総監督たるこの俺が、超カリスマ魔術講師的英断力を駆使し、お前らが出場する競技種目を決めてやろう。言っておくが――」

 

 野心と熱情に煌々と燃えた瞳で、グレンが偉そうに宣言する。

 

「俺が総指揮を執るからには勝ちに行くぞ?全力でな。俺がお前らを優勝させてやる。だから、そういう編成をさせてもらう。遊びはナシだ。心しろ」

 

 ざわざわ。普段の低温動物ぶりからは想像もつかないこの熱血ぶりに、クラス中の生徒達がどよめきながら顔を見合わせる。

 

「これは、面白そうなことになるな…」

 

 ジョセフはそうつぶやく。

 

「おい、白猫。競技種目のリストをよこせ。ルミア、悪いが今から俺が言う名前と競技名を順に黒板へ書いていってくれ」

 

「人を猫扱いするなって言ってるのに…もう!」

 

「はい、わかりました、先生」

 

 システィーナが不満そうにリストを渡し、ルミアがチョークを構えた。

 

「ふむ…」

 

 グレンが真剣な眼差しで、競技種目とそのルールが書かれたリストに目を通し始める。

 

「なぁ、おい、白猫。これって毎年同じ競技なのか?」

 

「違うわ。『決闘戦』とかいくつかの例外を除いて、去年とまったく同じ競技をやるということはほとんどないわ。今までになかった新しい競技も突然作られたりするし、一見同じ競技でもルールが変わっていたり……」

 

「なるほど、生徒達の応用力を試す意味合いもあるか。つーことは…ふむ……」

 

 

「これはマジだな……」

 

 真剣に考えているグレンを見てジョセフは楽しみにそう言った。システィーナはなぜか諦めモードになっていたが。

 

「でも、勝ちに行くってことは…」

 

「うん、成績上位陣で固めるんじゃないかな?」

 

 カッシュの言葉を引き継ぐようにセシルが予想する。

 

「ていうか、何でそこまで成績上位陣で固めるのに拘るんだ?」

 

「理由は大体ギイブルが言った通りなんだけど、他に優勝したクラスの担任は特別賞与がもらえるんだよ」

 

「特別賞与?」

 

「そう。それで位階を上げるために研究費に当てるんだよ」

 

 研究費に当てるという言葉にジョセフは疑問に思った。

 

「ちょっと待て、もしかして研究費って講師の自腹なのか?」

 

「教授職になれば学院から研究費が多く下りますけど、講師は基本、自腹ですわ」

 

「マジで?国が援助するわけじゃないのか?」

 

「そんな物ありませんわ。連邦はあるんですの?」

 

「そりゃあ、研究費が莫大になるからな。連邦政府が負担するもんやで?」

 

「そうなんですの?」

 

 お互いにそれぞれの研究費の事情が違うようで驚いていた、その時。

 

「……よし、大体わかった」

 

 グレンが顔を上げる。とうとう参加メンバーを発表するらしい。

 

「心して聞けよ、お前ら。まず一番配点が高い『決闘戦』――これは白猫、ギイブル、そして……カッシュ、お前ら三人が出ろ」

 

 えっ?と。その時、ジョセフ除くクラス中の誰もが首をかしげた。

 

「え?何で皆首かしげてるん?」

 

 事情が分からないジョセフがセシルに聞く?

 

「えーっと、『決闘戦』って三対三で行われる団体戦なんだけど、この競技には各クラス最強の三人を選出するのが定石なんだよね」

 

「ほんほん」

 

「で、成績順に選ぶなら、システィーナ、ギイブル、ウェンディのはずなんだけど…」

 

「あー、それで皆首をかしげてるんやな。ってウェンディ三番目なんや」

 

 カッシュを見ると、カッシュ自身もこの謎の選抜に戸惑いを隠せないようだった。

 

 だが、グレンはクラス中に渦巻く困惑を完全に無視し、さらに続ける。

 

「えーと、次…『暗号早解き』、これはウェンディ一択だな。『飛行競争』……ロッドとカイが適任だろ。『精神防御』…ああ、こりゃルミア以外にありえんわ。えーと、それから『探知&解錠競争』は――『グランツィア』は――」

 

「これは…」

 

 ジョセフはグレンの意図がわかった。成績上位陣で固めるのではなく、全員出場させるつもりらしい。

 

 ただ、全力で勝ちに行く、遊びはナシなのに、なぜあえてそれでやろうと思ったのか。

 

(何か考えがあるな)

 

 グレンは、こう見えてもかなり頭がキレる。ジョセフは質の高い授業をするグレンに対し、そう認識していた。

 

「――『変身』はリンに頼むか。そして最後、『殲滅戦』はジョセフ、お前に任せた。よし、これで出場枠が全部埋まったな」

 

 グレンのメンバー発表が終わった。結局、選を漏れた生徒は一人としていない。全員、最低一回は何かしらの競技に出場することになっていた。

 

「何か質問は?」

 

「私は納得いたしませんわっ!」

 

 生徒達がざわめく中、ウェンディが早速言葉荒々しく立ち上がる。

 

「どうして私が『決闘戦』の選抜から漏れているんですの!?私の方がカッシュさんより成績がよろしくってよ!?」

 

「あー、それなんだがな……」

 

 少し言い辛そうにグレンがこめかみを掻いた。

 

「お前、確かに呪文の数も魔術知識も魔力容量もスゲェけど……」

 

「どん臭いとこあるし、突発的な事故に弱いし、たまに呪文噛むからなー。お前、ホンマ不器用な所は変わらへんな」

 

 グレンが何を言いたいのかわかったジョセフは、グレンの言葉を継ぐように苦笑い交じりにウェンディに言う。

 

「な――ッ!?」

 

 確かにウェンディの呪文の数も、魔術知識も、魔力容量も凄いのは、ジョセフも認めていた。特に魔力容量は、ジョセフよりも上回っている。だが、一つだけ短所があるとするならば。

 

 彼女、すごい不器用なのだ。

 

 ジョセフが学院に来て一ヶ月は経つが、ウェンディに対して確信して言えること――

 

 十年ぶりに再会して、美少女になっていたとしても、成績が三番目に入っているとしても、お嬢様言葉になっているとしても――

 

 彼女の不器用さだけは死んでも変わらないということを。

 

「まぁ、ジョセフの言うとおりだ。だから、使える呪文は少ねーが、運動能力と状況判断のいいカッシュの方が『決闘戦』やるなら強ぇって判断した。気を悪くしたなら謝る。その代わり『暗号早解き』、これはお前の独壇場だろ?お前の【リード・ランゲージ】の腕前は、このクラスの中じゃ文句なしのピカ一だしな。ここは任せた。ぜひ点数稼いでくれ」

 

「ま、まぁ……そういうことでしたら……ジョセフの言い方が癪に障りますけど……」

 

 怒るにも怒れず、反論もできず、ウェンディはすごすごと引き下がる。

 

 他にも、どうして自分がこの種目に選ばれたのか、疑問に思った生徒達が次々と手を挙げ、グレンに問いかける。

 

「そりゃ、【レビテート・フライ】も【グラビティ・コントロール】も結局は同じ重力操作系の黒魔術だし、黒魔術は運動とエネルギーを操る術ということでどれも根底は同じだ。カイ、お前ならいけるはずだ」

 

「テレサ、お前、この間、錬金術実験で誰かが落としかけたフラスコを、とっさに【サイ・テレキネシス】で拾ってたろ?お前、自分で気づいてないだけで念動系の白魔術、特に遠隔操作系の術式に相性がいい」

 

「『グランツィア』は、個々の能力うんぬんよりチームワークだ。いつも仲良し三人組のお前らがやるのが多分、一番良いんじゃなねーか?お前ら同時詠唱も上手いしな」

 

 だが、それら生徒達の疑問にグレンは一応、筋の通った答えを返し続ける。

 

 要するに、グレンは生徒達の、普段は目立たなくとも実は尖っている長所を最大限生かした編成をしたらしかった。

 

 なぜグレンが突然、やる気になったのかは不明だし――多分、特別賞与目当てだろう――、全力で勝ちに行くと言うわりには非効率なことをやっている感は否めないが――ジョセフはそう思っていない――、グレンはグレンなりに最強の編成を考えたようだった。

 

(お見事)

 

 ジョセフは、生徒一人一人を見ていないようで、実は見ているからこそできるグレンの采配を賞賛した。

 

 システィーナの方を見ると、グレンが来る前の怒りはどこにもなく、少し微笑ましくグレンを見ていた。

 

「――さて、他に質問は?」

 

 グレンが辺りを見渡す。

 

「はーい、先生。『殲滅戦』ってなんですか?」

 

 すると、ジョセフは手を挙げ、問う。

 

「ああ、そうだな…これ、今年から初めてやる競技らしいが、各クラスから一名ずつ出して、最後の一人になるまで戦う競技だ。つまり、最後に残ったクラスにスコアが加算されるっていうことだ」

 

「うわ…マジすか……」

 

 それを聞いた途端、ジョセフは疲れる競技になるなと思った。

 

「しかもこれ、決闘戦ほどではないが、結構配点高いな。午前の部ではこれは取っておきたいと他のクラスも思っているだろうな」

 

「おおぅ……」

 

 何、プレッシャーの高いやつに出させようとしてんねん。

 

 いや、別に負けるというわけではないが。

 

「ちょっと、先生。大丈夫なの?ジョセフにそれを出して……」

 

 それを聞いたシスティーナが心配そうにグレンに聞く。

 

 それは彼女だけではなく、他のクラスメートも同じ思いだった。

 

 『決闘戦』に次ぐ、高配点、つまり、他のクラスは成績優秀者を出してくるのは、明白だ。

 

 そこに、未だ実力が未知数な(グレンとシスティーナは学院爆破テロ未遂で知っているが)、ジョセフを出すのというのだから、当然、心配になるのも無理はない。

 

「ん?そりゃ、大丈夫に決まってんだろ?ていうか、ジョセフじゃないと無理だな、こりゃ」

 

「え?」

 

 どういうことなのだろうか?

 

 クラスの生徒達もグレンの言葉が理解できない。

 

 ジョセフじゃないと無理、というのはどういうことなのだろうか?

 

「お前らは、『決闘戦』と同じように一対一でやるもんだと思っているらしいが…とんでもない大間違いだ」

 

 グレンはそんなクラスの生徒達にそう言うと、『殲滅戦』について解説していく。

 

「まず、『決闘戦』だが、これはお前らの思っているとおり、一対一で魔術戦をやるものだ。これなら、目の前の相手のみ集中すればいいから、白猫やギイブル、カッシュが適任だと思う。だが、『殲滅戦』は別だ。さっき俺が言ったが、『殲滅戦』は一クラスから一人、出場させる。十人いっぺんに魔術戦を繰り広げるんだ。この場合、一対一になるとは限らねえ。一時的に手を組んで複数対一もあるかもしれんし、一対一でやりあってる最中に第三者が突然乱入してそいつらを討ち取ったり、つまり、なんでもありっつーことだ」

 

 グレンはそう言うと、しばらく間を空け。

 

「要するに目の前の相手に集中するだけでなく、周りの状況にも注意を払い、それで立ち回らないと生き残れねーってことだ。お前らのように『決闘戦』みたいに一対一でやりあうものと勘違いしているやつは、真っ先にやられる。魔術師は騎士じゃないからな」

 

 グレンは一通り解説すると、ジョセフを見る。ジョセフは頬杖をついて次の言葉を待っている。

 

「ジョセフ。お前は他の連中とは違い、周囲の注意力、状況把握はこのクラス…っていうか、この学院ではぶっちきってトップクラスだ。ていうか、負ける要素がない」

 

「ふーん」

 

 ジョセフはそれを聞き、胸中で呟く。

 

(まさか、そこまで見ていたなんてな…多分、レイク戦の時なんやろうけど)

 

 レイクと交戦中、そこまで余裕がないように見えたのだが、どうやらそうではないらしい。

 

「さて、これで納得したか?納得したなら他に質問は?」

 

 グレンは再び辺りを見渡す。

 

 もはや、グレンの編成に対する反論は何一つない。

 

「じゃ、これで決まりってことでいいか?」

 

 一瞬、グレンがニヤリと笑ったのをジョセフは見逃さなかった。

 

(絶対、特別賞与目当ててだな……それも研究とかではなく、生活費として)

 

 ジョセフは内心呆れながら同時に、疑問を持っていた。

 

(先生は、何で生徒を使いまわすという考えは持たなかったのだろう?)

 

 ジョセフはそういうやり方は好きではなかったが、金に困っているグレンのことだから、成績上位陣――特にシスティーナ――をコキ使うつもりだろうと思っていた。

 

(なのにそれをやらないで全員出場とは一体……?)

 

「やれやれ……先生、いい加減にしてくださいませんかね?」

 

 ゆらりと、生徒の一人が立ち上がった。ギイブルだ。

 

(お前、見た目によらず我が強すぎだろ…)

 

 もう呆れを通り越して、素晴らしいと思うジョセフ。

 

「何が全力で勝ちに行く、ですか。そんな編成で勝てるわけないじゃないですか」

 

「ほう?ギイブル。ということはお前、俺が考えた以上に勝てる編成ができるのか?よし、言ってみてくれ」

 

「……あの、先生、本気でそれ言ってるんですか?」

 

 苛立ちを隠そうともせず、吐き捨てるようにギイブルは言い放った。

 

「そんなの決まってるじゃないですか!成績上位者だけで全種目を固めるんですよ!それが毎年の恒例で、他のクラスがやってることじゃないですか!」

 

「………え?」

 

 ギイブルがそう言い放った瞬間、グレンの動きが固まる。

 

 その様子から、ジョセフは先の疑問が、すとん、と腑に落ちた。グレンはただ知らなかっただけなのだ。

 

「うむ……そうだな、そういうことなら……」

 

 グレンがギイブルの意見に首肯しようとした、その時だ。

 

「何を言っているの、ギイブル!せっかく先生が考えてくれた編成にケチつける気!?」

 

 ギイブルに真っ向から反論する少女がいた。システィーナだ。

 

 グレンが焦燥に満ちた顔でシスティーナを見るが、システィーナはそんなこと露知らずクラス一同に向き直ると、真摯な表情で訴えかける。

 

「皆、見て!先生の考えてくれたこの編成を!皆の得手不得手をきちんと考えて、皆が活躍できるようにしてくれているのよ!?」

 

 システィーナの必死の訴えに、クラス中がざわめく。

 

 そう言えば……とか。確かに……とか。あちこちからひそひそと声が漏れる。

 

 グレンの顔から血が引いていく。

 

「先生がここまで考えてくれたのに、皆、まだ尻込みするの!?女王陛下の前で無様な姿を見せたくないとか、そんな情けない理由で参加しないの!?それこそ無様じゃない!陛下に顔向けできないじゃない!」

 

 システィーナがグレンのライフを、知らずにゴリゴリ削っていく。

 

「大体、成績上位者だけに競わせての勝利なんて、なんの意味があるの?先生は全力で勝ちに行く、俺がこのクラスを優勝に導いてやるって言ってくれたわ!それは、皆でやるからこそ意味があるのよ!」

 

(もうやめてフィーベル。先生のライフはゼロよ!)

 

 そして、システィーナはグレンに振り返って言った。

 

「ですよね、先生!?」

 

「お、おう……」

 

 真っ白になったグレンはそれしか言えなかった。

 

「た、確かにシスティーナの言う通りだよな……」

 

「あぁ、そうだ……俺達だって…」

 

 そして、クラス全体の雰囲気は明らかにシスティーナに追従モードだった。

 

 グレンは縋るような視線でギイブルを見つめるが…

 

「ふん、やれやれ。君は相変わらずだね、システィーナ。…まぁ、いい。それがクラスの総意だというなら、好きにすればいいさ」

 

 ギイブルは皮肉げに冷笑して着席してしまった。

 

(おま、あんなに我が強かったのにあっさり引いちゃったよこの人!?)

 

「ま、せいぜいお手並み拝見させていただきますよ、先生?」

 

 ギイブルが挑発的に言う。

 

「あはは、よかったですね。先生の目論見どおりに行きそうですよ?」

 

 システィーナがそんなことを言って、くすりと笑った。

 

「ま、せっかく先生がたまにやる気出して、一生懸命考えてくれたみたいですから、私たちも精一杯、頑張ってあげるわ。期待しててね、先生」

 

「お、おぅ……任せたぞ……」

 

 珍しくご機嫌なシスティーナと、どこか引きつった笑みを浮かべるグレン。

 

(話が全然かみ合ってないな…)

 

「なんか…かみ合ってないような気がするなぁ……なんでだろう?」

 

 そんな二人の様子を、ルミアとジョセフは苦笑いで眺めていた。




今回はデラウェア州です。

人口95万人。州都はドーバー。主な都市にウィルミントン、ドーバー

愛称は、最初の州です。

独立13州の一つで、愛称の通り、1番目に加入しました。

野菜栽培や酪農が盛んで、ニューヨークやフィラデルフィア方面の食糧庫となっています。

また、最も法人に優しい州として知られ、円滑な裁判をここで行えるように大手企業の半数以上はここに何らかの籍を置くらしいです。

この州も小さく、面積は栃木県ぐらい、更に人口に至っては香川県くらいの人工しかいません。

とはいえ、ウィルミントンはフィラデルフィアの衛星都市で、デュポンのお膝元と金融拠点となっており、ドーバーには米国最大の空軍基地があるなど、けっこう侮れない地です。

以上!

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