というわけで、十二章突入だにゃあ!
138話
ついにやってきた、その日。
アルザーノ帝国魔術学院の全校生徒千六二四名が、学院アリーナに整列して集っていた。
そして、そのアリーナ奥に据えられた壇上にて……
「――うむ、以上。本日をもって、一八五三年度、前学期を終了する」
先日、学院長職へ復帰したリックが、前学期終業式の結びの講話を行っている。
「さて、諸君らは、明日から学期間長期休暇…特に一年次生にとっては、初めて秋休みに入るわけだが……」
ふと、リックが話を続けながら、生徒達を見渡す。
すると、やはり明日からの楽しい毎日に思いを馳せ、そわそわと浮き足立つ生徒達が大半だ。リックの話など、ほとんどの者がまともに聞いていない。
そんな生徒達の様子に、己の若かりし頃を思い出したリックは苦笑し、要点だけ押さえて、手短に話しを終えることに決めるのであった。
「……諸君は、自身らが誇り高きアルザーノ帝国魔術学院の生徒であることをゆめ忘れぬよう、学生らしい節度を保ち、また、この機会に自己研鑽も忘れぬよう――」
――やがて、そんな前学期終業式もつつがなく終わる。
解散した生徒が、浮き足立ちながら、それぞれの教室に戻っていく。
「秋休み、ねぇ…いいなぁ。皆、いいなぁ……」
大勢の生徒達の流れに身を任せながら、ジョセフは深い溜息を吐くのであった。
そして――放課後。
前学期最後のHRを終えた二年次二組の教室にて。
「……本当に終わっちまったなぁ」
壇上の教卓で、グレンがだらりと頬杖をついてそんなことをぼやいていた。
グレンの目の前では、生徒達が明日からの休暇について姦しく話し合いながら、ウキウキと帰宅の準備をしている。
「なぁなぁ。お前ら、明日からの休み、どう過ごすんだ?」
「……どうって。ふん、課題と来期の予習をするに決まってるだろ」
「僕はアルバイトかな?実は欲しい本があるんだ」
「わたくしは、久しぶりにナーブレスの故郷に帰省いたしますわ!今年は、テレサやリンも一緒に、わたくしの領地で休暇を過ごすんですの!」
「ナーブレス領は水も空気も良くて、とても過ごし易い所だから楽しみです」
「……ほ、本当にいいのかな…?その…私なんかがお邪魔して……」
「うーん、帰省かぁ。故郷ねぇ…あんな辺鄙なド田舎、もう二度と戻るかって思ってたけど…俺も、たまにゃジジイに顔見せに帰るかなぁ?」
カッシュ、ギイブル、セシル、ウェンディ、テレサ、リン…二組の主立った生徒達を中心に、教室内の浮ついた空気は収まるところを知らない。
アルザーノ帝国魔術学院の年度課程は、前学期と後学期の二つに分かれている。
その学期間に差し挟まれる一ヶ月ほどの休暇が、学期間長期休暇…いわゆる、秋休みであった。
「あれ?ウェンディ達がナーブレス領に行くなら、ジョセフは誘わなかったの?」
セシルの何気ない問いに、ウェンディ以外、確かにと物思う。
「……セシル。俺達にはな…休暇という二文字はないんや」
そのセシルの問いに答えたのは、机に突っ伏していたジョセフであった。
「それって……」
「フェジテに待機だよ、ド畜生……」
「あ、あはは……」
机に突っ伏して力なく言うジョセフに、セシルは苦笑する。
「しかも、再来週ぐらいには、連邦に戻らなきゃいけないし?大統領直々に呼ばれてるし?何?俺、なにかしましたか?ちゃーんと仕事しますし、ちゃーんとクソ高い税金払ってますよ?脱税なんてしてませんよ?ていうか、給料爆上げしろ。いつも、戻ってきたら、イカれてる連中の相手をするためにホイホイ現地に投げ込みやがって。……命がいくつあっても足らんわ――」
ぶつくさ愚痴を零しまくるジョセフに、カッシュ達は脂汗を流しながら顔を引きつらせていた。
そうこうしているうちに、ハイテンションで教室を出て行く生徒達を横目で見送りながら、ジョセフは深い溜息を吐いていた(ウェンディには両親によろしくと伝えて)。
明日から、ジョセフとアリッサは、フェジテでの待機を命じられている。
待機を命じられているとはいえ、何事もなければ、それはそれでいいことなのだが。
それに、待機をはいえ、ある少女の行動次第では、フェジテ外に出ることもあり得る。
(まぁ、ルミアの動向次第では、な……)
そう物思いながら、ジョセフは、教卓上で、ぼんやりと何かをぼやき、溜息を吐いていたグレンを見る。
そして、溜息を吐いた後、懐から一冊の古い手記を取り出していて眺めていた。
(なんだ、あの手記?)
ジョセフはグレンが持っていた手記を見ると、グレンの下へ向かう。
側にいたアリッサも、ジョセフが動くのに合わせてグレンの下に向かう。
「先生、その手記はなんです?」
「ん?ああ、これか?いや、先の『裏学院騒動』の時に、メイベルから手渡されてな」
ジョセフ達の存在に気付いたグレンは、手記を手で弄びながらそう言う。
「まぁ、長期休暇中はこれをじっくり調べてみようかなと思ってな。今から、学院の附属図書館で、調べようかなと思っていたところだ……」
背伸びを一つ、欠伸を一つ。グレンはそう言って立ち上がる。
「ふーん、こっちは待機ですよ。ルミアの動向を見守りながら、ですけど」
「そうか…お前んとこも大変だな」
「まったくですよ…んじゃ、俺達も帰ります。先生も調べもの、頑張ってください」
「あいよ」
そして、グレンとジョセフ、アリッサは、すっかり閑散としてしまった教室を後にしようとした…その時であった。
「せ、先生っ!」
そんなグレン達の背中に、すこし甲高い声が浴びせられた。
何事かと、ジョセフとアリッサは、足を止めて振り返り、グレンは面倒臭げに振り返ると、そこにはシスティーナ、ルミア、リィエル…いつもの三人娘が並んで立っていたのだ。
「……どうした?お前ら。帰ったんじゃなかったのか?」
「えっと、その、ちょっと聞きたいことがありまして……」
先頭のシスティーナが、ちらちらと余所見をしながら、しどろもどろに聞いてくる。
(ほほーん。システィーナ、ついにアプローチをしかけるか?)
それを見たジョセフは、思わず顔をニヤニヤしながら見る。
「先生って…今回の秋休み、何か外せない重要なご予定とか、ありますか?」
「予定?」
藪から棒に妙なことを聞かれ、首を傾げながらグレンが応じる。
「……うんにゃ?別に、なーんもねーけど?」
「そ、そうですか……」
「それがどうかしたのか?
すると、システィーナが意を決したように、グレンを真っ直ぐ見て、言った。
「で、でしたら、その…私達と一緒に、どこか旅行へ行きませんか!?」
「はぁ?りょ、旅行ぉ~~?」
まるで予想外のその言葉に、グレンは目を白黒させるのであった。
――ここで少々時間は前後し、時分は昨日の深夜。
フィーベル邸の談話室でのこと。
お風呂に入って、寝間着に着替えて、さて寝ようか…そんな雰囲気になっていた時。
「ねぇ、システィ。私達、このままじゃ駄目だと思う」
普段はほんわかした雰囲気のルミアが、いつになく真剣な表情でそう宣言していた。
「このままじゃ、駄目って…一体、どうしたの?ルミア」
就寝前のホットミルクのカップに口をつけながら、システィーナが目を瞬かせる。
「……?」
ソファで船を漕いでいたリィエルも、薄ら目を開いて、ルミアを見上げていた。
「もちろん、グレン先生のことだよ、システィ」
「……先生がどうかしたの?」
「うん。イブさんという、かつてない強敵が現れた以上、先生がいつか私達の気持ちに気付いてくれる、受け入れてくれる…そんな受け身のスタンスじゃ駄目だと思うの」
途端、ぶ~っ!と。口の中のミルクを噴き出してしまうシスティーナ。
隣のリィエルの髪と横顔が、ミルクでびしゃびしゃになってしまう。
「…………」
ちょっと哀しそうに目を伏せ、肩を落とすリィエル。
そんな彼女に気付かず、システィーナは顔を真っ赤にして慌てまくる。
「ちょ、ちょ、ちょ!?る、ルミアったら、何を言って――ッ!?」
すると、ルミアはリィエルの髪と顔をお手拭きで優しく拭きながら、続けた。
「確かにグレン先生とイブさん、今はお互いにいがみ合っているけど。でも、何かを切っ掛けに、くるっと感情がひっくり返って、そのまま…って、そんな気がして」
「……う」
不安げなルミアの言葉に、システィーナは思わず言葉に詰まってしまう。
確かに表面上は、グレンとイブは犬猿の仲だ。あまり詳しくは知らないが、二人の軍時代に何か確執と事情があったであろうことはわかる。
今はその事情が、二人の距離を絶対的に隔てている。その事情がある限り、二人が決してその道を、本当の意味で交わらせることはないだろうこともわかる。
だが、もし、その事情とやらが二人の中で決着してしまったら?
たださえ、どうも根本的には似た者同士っぽい、グレンとイブはどうなるのか?
「べ、別に?わ、わ、私は先生が誰とくっつこうが、か、か、関係ななな……」
この期に及んで、システィーナは顔を真っ赤にしてそっぽを向き、指に髪を巻き付けてくるくるしながら、そんなことをしどろもどろに言っている。
相変わらず恋愛面に関してはどうにも奥手過ぎるシスティーナに、ルミアは苦笑するしかない。
「安心して、システィ。別に、今すぐどうこうしたいって話じゃないから」
「だだだ、だから、わわわ私は別に――」
「ただ…先生にはもうちょっと、私達のこと、女の子として見て欲しいなって」
ルミアの指摘に、システィーナがはっとする。
ルミアの言うとおりなのだ。とにかく、グレンはシスティーナ達のことを、あくまで生徒として見ていて、女性として見てない節がある。
グレンとシスティーナ達の関係は、あくまで教師と生徒なのだ。
時折、グレンはシスティーナに対し、セラという女性の面影を見ているようだが、それにしたって、昔を懐かしんでいるような雰囲気ばかりで、女性として見てくれているかと問われれば、全然、違う気がする。
これでは勝負以前の問題だ。
「私は、先生と生徒っていう今の関係も大切だけど…やっぱり、いつかは一人の女の子として認めて欲しい。いつまでも子供扱いされるのは…嫌かな」
「い、いいい言っている意味が、よくわからないけど!」
動揺しっぱなしで、挙動不審なシスティーナが言った。
「ま、まぁ!あいつに女性として見てもらえるようになるってのは賛成だわ!あいつも少しはレディの扱いというものを理解してくれるかもしれないし!」
「ん。私も立派な、れでぃ?だし。わたしをすぐ、ぐりぐりするグレンは、そろそろ認識を改めるべき」
多分よくわかってないリィエルが、場の雰囲気だけでコクコクと無表情に頷く。
「で、でも、具体的にはどうするの?あいつ、ロクでなしのくせに、そういうとこだけは、やたらしっかり線引いているわよ?多分、並大抵のことじゃ……」
あの唐変木に、自分達を女の子だと意識させる?
なんかもう、考えただけで頭が痛くなってくる壮大な事業だ。
苦い顔でこめかみを押さえるシスティーナへ、ルミアは悪戯っぽく言った。
「うん、私もちょっと考えてみたんだけど…学院内にいる限り、やっぱり先生にとって私達は、どこまでも生徒なんだと思う。一度、学院から離れなきゃ。だから――」
――とまぁ、そんな事情があって。
「ほら?私達って、普段は学院に閉じこもりがちじゃない?だから、こういう機会を利用して、積極的に外の世界を見て、見聞を広めたいなって思ってまして……」
「でも、学生の旅行には保護者が必要ですよね?残念ながら、システィのご両親は仕事で忙しくて。だから、先生にその役を引き受けて欲しいなって思ったんです」
「ん。わたしにはよくわからないけど。グレン、旅行、行こう?きっと楽しい」
今、グレンは、システィーナ、ルミア、リィエルに取り囲まれているのであった。
「お前らな……」
ジョセフは、システィーナとルミアの意図を何となく察して苦笑いしている。
「ん~?旅行ねぇ?」
グレンは何かを期待するような表情の三人娘達と、手の中の手記を見比べる。
たまにはサービスを。教室に戻る途中で交わしたイブの言葉も蘇る。
やがて、グレンは、それもアリかと呟いて、手記をポケットに押し込んだ。
「ま、いいぜ?どーせ、なんもやることなくて暇だったしな」
「えっ!?本当に!?」
「ああ。正直、面倒臭ぇけど、お前らには普段から世話になってるからな」
「や、やったわ!ルミア!ゴネるかと思ったけど、わりとあっさりいったわ!」
グレンの快諾に、システィーナは喜びの表情を浮かべるが……
(うーん。こんな風に、特に何の躊躇いもなく簡単に了承してくれる辺り、私達をまったく女の子として見てくれてないってことなんだけどな……)
ルミアは複雑な心境で苦笑いするしかない。
「ふーん…旅行ねぇ……」
「ジョセフ、どうするの?」
それを聞いたジョセフとアリッサは顔を見合わせる。
というのも、この長期休暇の期間に出された命令は原則、フェジテに待機であった。
ただ同時に、王女――ルミアの動向を最優先にという命令も出されていた。
つまり、だ。
「これは、ウチらもお供するしかないでしょう」
ジョセフはそう言うと、自分達も加わりたいという旨を伝えるべくグレン達の元へ向かう。
「でも、旅行って、お前ら、どこ行きたいんだ?」
「えっとですね。実は色々と候補を考えてまして……」
グレンが了承してくれて、なぜかふわふわ浮き足立つ気分を抑えられないシスティーナが、旅行先の候補を思い浮かべていると。
ドタタタタ――ッ!
何者かが、廊下を走って猛然と近づいてくる音が聞こえてくる。
そして、次の瞬間。
「ぐぅ~~~れぇ~~~んッ!」
ばぁん!激しく教室の扉が開かれて、一人の女が飛び込んできていた。
その一瞬、棚引く豪奢な金髪の煌めきが、窓から差し込む夕日の光を跳ね散らし、鮮やかに目を灼いた。
よもや美の女神でも降臨したのだろうか。その女が存在を空間に主張しただけで、何の変哲もない教室が戯曲舞台上の終幕のように華やぐようであった。
「なっ!?お、お前は――うぶっ!?」
「やぁ、久しぶりだなぁ~~っ!会いたかったぞ、グレン~~ッ!」
呆気に取られて硬直するグレンを、その美女が体当たりするように抱きしめる。
その魔性の美女の正体は――
「ア、アルフォネア教授!?」
グレンの養母にて師匠、セリカ=アルフォネアその人であった。
久々に見るその姿…どうやら、たった今、旅先から帰還したらしい。
セリカは旅装のままで、入室と同時に放り捨てた旅行鞄が教室の床を転がっていった。
「ぐおぉおおお!?ぐ、苦じ――ッ!?」
セリカの重く柔らかに実る双丘の中へ顔を埋没させられ、グレンは苦しげに呻く。
そんなグレンに構わず、セリカはどこまでも力一杯グレンを抱きしめ、振り回し、その頭を撫でまくっていた。
「よーしよしよし!ふふん、私に会えなくて寂しかったか?寂しかったろ?うん、ごめんな!お前をしばらくほっぽり出しちゃって!もう、大丈夫だぞ!?」
「ええいっ!放せッ!ベタベタすんじゃねえッ!」
なんとかセリカの抱擁を振りほどき、飛び下がるグレン。
「なんだ、つれない男だな。たかが母と子のスキンシップだろう?」
ニヤリと笑って腕を組み、流し目を送るセリカ。
「じゃかあしいわッ!何度も言うが、俺とお前は赤の他人だっての!いちいち無遠慮にベタベタくっつくんじゃねえ、鬱陶しい!」
「おやぁ?ひょっとして意識しちゃってるのか?くっくっく……」
「ちゃ、ちゃうわ!」
傾国の悪女のように妖しくほくそ笑むセリカへ、グレンがうんざりだとばかりに吠えかかる。そんなグレンに、いつもの飄々とした余裕はない。
(……ん?)
(あ、あれ……?)
そんな二人の様子を、硬直していたシスティーナとルミアがじっと見つめていた。
……なんだか猛烈な焦燥を覚えながら。
「まぁいい。そんなことよりも、グレン。お前、早く荷物を纏めろ」
システィーナ達を置き去りに、セリカは勢いのままに続けた。
「はぁ?荷物?なんでだよ?」
「旅行だよ!旅行。私とお前の二人で旅行に行くんだよ。親子水入らずってやつだ」
「「「えぇ――ッ!?」」」
唐突なセリカの宣言に、グレン、システィーナ、ルミアが愕然と口を開けた。
「せっかくの秋休みなんだ、楽しまないと損だろ?行く先はもう決めてあるんだ!いやぁ~、お前と旅行なんて、何年ぶりなんだろうな!楽しみだな!」
「は、はぁ!?ちょ、待て、旅行!?」
誰かが口を挟む暇もなく、状況は容赦なく進行していく……
「ば、バッカじゃねえの!?俺とお前の二人きりで旅行とか!色々とマズ――」
「ん?何か問題か?昔はよく一緒に行っただろ?」
「何年前の話だっつーの!?あのな、俺とお前は夫婦でも恋人同士でも何でもねえんだぞ!?今さら二人きりで旅行とか、そんなん――」
「おっやぁ?やっぱり意識しちゃってる?母親相手に?ふっ、この変態め!」
どこまでも悪女な表情でグレンをからかいまくるセリカ。
「おいおい…しっぽり旅行先で、状況と勢いのまま、私はお前にナニされちゃうんだ?これが、禁忌の
「い い か げ ん に し ろ よ ? てめえ!」
大人の余裕綽々でしなを作るセリカを、妙に余裕のないグレンがぐぎぎと睨み付ける。
そんな二人を前に……
(な、なんで私達……)
(今まで、気付かなかったんだろう……?)
システィーナとルミアは、額に冷や汗を浮かべながら口をパクパクさせていた。
イブどころの騒ぎではない。
こんな身近なところに、自分たちにとって、最大最強の敵がいたではないか。
曲がりなりにもグレンが女性と意識していて、かつ誰よりもグレンに近い場所にいて、誰よりもグレンと親しく、おまけに誰よりも深くグレンを知る人物。
ちょうど二十歳ほどで肉体年齢が固定された不老の
セリカ=アルフォネア。
システィーナ達が真に警戒せねばならない敵とは彼女のことだったのだ。
「さぁーて、さっそく明日からの旅行に備えて、駅馬車と列車の切符をとってくるかぁ」
「待ちやがれ、こら!話を聞け!俺にはすでに先約がぁーっ!?待てって!?」
いつも通りと言えば、いつも通りのやり取りをしているセリカとグレン。
暴れるグレンが為す術もなく、セリカに首根っこ引っつかまれて引きずられていく。
「…………」
「…………」
そんな二人を見ながら、システィーナとルミアは物思う。
なにせ、相手はセリカだ。
セリカがグレンを連れて行くと宣言すれば、もうそれは動かし得ぬ確定事項だろう。
こうなってはもう槍が降ろうが、嵐が来ようが、隣国が攻めて来ようが、魔王が降臨して世界が滅びようが連れて行く。それがセリカ=アルフォネアという女だ。
グレンが妙齢の女性と二人きりで旅行に行く。
ならば、この未曽有の大ピンチに、システィーナ達が取れる行動とは――
「あ、アルフォネア教授!?いいですね、旅行!羨ましいなーっ!?」
「そ、その…私達も一緒に旅行に連れて行ってくれませんか!?」
――もう、これしかなかった。
「ん?お前達も来るか!?いいぞいいぞ!この子が喜ぶしな!」
「ぐへぇ!?放せっつーの!?」
セリカは背後からグレンの首に腕を絡めて、グレンの肩越しに笑った。
(はぁ…なんでこんなことに……?)
(あはは…前途は多難だね……)
一方のシスティーナとルミアは、がっくりと肩を落として、溜息を吐くしかない。
「……お前ら…教授、その旅行、ウチらもついていってよかですか?彼女との親交も兼ねて」
「お?お前らもか!?いいぞ!お前には、この子がいつも世話になってるしな!お前も、先日、グレンを助けてくれたらしいからな!二人とも、ついて来てもいいぞ!」
「よろしくお願いします、アルフォネア教授」
一方でジョセフはそんなシスティーナとルミアを苦笑いしながら、セリカにそう申し出て、アリッサは笑っているセリカにペコリとお辞儀をする。
「ん。皆、一緒。……楽しみ」
唯一、リィエルだけが、嬉しそうに目を細めているのであった。
結局、この展開という……