ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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 それでは、どうぞ。


139話

 

 

 セリカの弦の一声で、グレン達は秋休みの旅行へ行くことになった。

 

 次の日、帰還以来、やたらハイテンションなセリカに引きずられるような勢いで、グレンと連邦二人組、三人娘達は、慌ただしくフェジテを発ったのである。

 

 セリカ曰く、目的地はスノリアらしい。

 

 スノリアは、アルザーノ帝国に存在する辺境小地方の一つであり、北方山岳地方とも呼ばれている場所だ。

 

 学級都市フェジテがあるヨクシャ―地方。その北に帝都オルランドを擁するイテリア地方が隣接しており、そのイテリア地方の北西に、以前、リィエル達が短期留学を行った聖リリィ魔術女学院を擁する湖水地方リリタニアがある。

 

 件のスノリアがあるのは、イテリアの北東、リリタニアの東。その敷地の八割以上が永久氷山とも呼ばれるシルヴァスノ山脈と盆地で占められる高山帯なのだ。

 

 そんなスノリアの北方は、北海と呼ばれる広大な氷海に面している。さらにその北に、世界地図における北の最果て『白の大氷原』と呼ばれる前人未踏の領域があり、霊脈の関係でそこから押し寄せる極寒の気団を、シルヴァスノ山脈が一身に受け止めている。

 

 よって、スノリアから南は、過ごし易い『海洋性温帯気候区』だが、スノリア地方そのものは年中が雪と氷に覆われた『山岳性氷雪寒帯気候区』に属しているのだ。

 

 まぁ、要するに、だ。

 

「……寒いのよ、そこは」

 

 列車の窓から外の景色をぼんやり眺めながら、ジョセフはアリッサにそう言っていた。

 

 今、ジョセフがいるここは、帝都からスノリアへ向かう鉄道列車の個室席の中だ。

 

 その個室席にの中には二つの長座席が向かい合うように配置されている。列車の進行方向に向かって右の窓際に座るジョセフから見れば、正面にアリッサが座っている、といった位置関係であった。

 

 因みに、グレン達は隣の個室席にグレンから見て、左隣にシスティーナ、正面にルミア、斜向かいにリィエルが座っている。

 

 人数が人数だったため、グレン達とジョセフ達で、二つの個室席に分かれたのだ。

 

 慌ただしく旅行準備を整え、駅馬車でフェジテを発ったのが数日前。

 

 一息吐く暇もなく、帝都で蒸気機関の鉄道列車に乗り換えたのが数時間前。

 

 グレン達を乗せた列車は、力強く蒸気の煙を吐いて地を駆ける。その客車の窓の外を流れていくのは、どこまでも緩く穏やかで雄大な平原と丘陵の光景だ。

 

 そして、その遥かな遠方――そこに連なる山脈の雪化粧が徐々に濃くなっていく様を眺めながら、ジョセフはグレンはきっと嫌気をさして、ダダをこねてるぞ、と。物思っていた。

 

 現に隣の個室席からは――

 

「絶対、寒いわ。なんでンな寒い場所にわざわざ連れて行かにゃならんのだ」

 

「もう、さっきからぶつぶつうるさいですね」

 

 案の定、愚痴ばかり零していたグレンに、システィーナが口を尖らせながら抗議する。

 

「アルフォネア教授が決めたことでしょう?いい加減、覚悟決めてくださいってば」

 

「嫌だぁ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ~~っ!寒いの嫌い!暑いのも嫌いだけど!」

 

「はぁ~、もう、子供なんだから……」

 

 頭を抱えてダダをこねるグレンに、システィーナは呆れたように溜息を吐いた。

 

「……なんなら、寒さに慣れるために、今から先生を冷凍保存させたほうがいいんじゃないかしら?」

 

 それを壁越しで聞いていたアリッサが、さらりとそう言うと。

 

 シーン。今までダダをこねていたグレンがぴたりとダダをこねるのを止めた。

 

 ていうか、グレン達の個室席の気温が氷点下に達したような気が、こちらにも伝わってくるんだけど(笑)

 

 そして。

 

「嫌だぁあああああああ――ッ!?氷漬けなんて嫌だぁああああああ――ッ!?」

 

 グレンは再び頭を抱えてダダをこねるのであった。

 

「それにしても、ジョセフ。スノリアってどんなとこなの?」

 

 そして、何事もなくアリッサは不思議そうに話題を変えてきた。

 

「スノリアは先生の言う通り、めっちゃ寒いところなんやけど、実は今回の目的地のホワイトタウンは、近年、帝国では有名な観光地になっているらしくてな」

 

「そうなの?」

 

「そうそう。確かほんの一昔前は、とても観光どころじゃない、閉鎖的な辺境の田舎町だったらしいけどな」

 

 へぇ~っと、相槌を打つアリッサに、ジョセフは話を続ける。

 

「せやけど、最近は鉄道を敷いて、スノリア地方伝統の『銀竜祭』を中心に、雪山景勝地巡りや雪像コンテスト、スキーやスケート場などの各種イベントや設備を整えて、連邦はもちろん、近隣諸国でも話題に上る、ちょっとした帝国の名所になりつつなってるんや」

 

「ふーん?じゃあ、アルフォネア教授はもしかして……」

 

「うん。今はちょうど『銀竜祭』が行われる時期やから、それなんだろうよ」

 

「そうなんだ。私はてっきり、家族禁断の旅行かと……」

 

「……家族禁断の旅行とは……?」

 

「先生とアルフォネア教授が、デートの途中で人知れない場所で、■■して、■■■■■■して、アツく■■■して、ホテルに行って部屋に入った途端、■■■■■■しながら■■■■■■、そして再びアツく――」

 

 アリッサ、グレンとセリカがしそうなことを、オブラートに包まず、赤裸々に語る。

 

「お前な…一応後ろの壁越しに先生達いるからな。もう少しオブラートに――」

 

「……?なんで?先生と教授の仲って――」

 

「全っ然、そういう関係じゃないよ!?お前が思っているような関係じゃないよ!?師弟関係みたいな家族みたいなかんけいだからな!?」

 

「でも、教授がそう言っていた」

 

「うっそだぁ!?先生、本当なん!?」

 

 一方、隣の個室席では。

 

「違うからぁああああ――ッ!?あの野郎、なにアリッサに妙なこと吹き込んでんのぉおおおおお――ッ!?」

 

「あ、あわわ…あわわわわわわわわわ……」

 

「うわぁ…うわぁ……」

 

 壁越しから聞いたアリッサの隠喩もクソもない妄想を聞き、グレンは頭を抱えて叫び、システィーナとルミアはそれを想像して、顔を真っ赤にさせていた。

 

「……?皆、変。どうしたの?」

 

 唯一、リィエルだけがこの状況に理解できていなかった。

 

 

 

 

 

 グレン達を乗せた列車は、淡々と地を走ってゆく。

 

 草原を横切り、丘を越え、峠を乗り越えて。

 

 窓の外の風景を千変万化させながら、北東に向かって、昼も夜も淡々と走っていく。

 

 やがて、列車の前に大きな山々が連なって立ちはだかり、列車はその麓に掘られた鉄道トンネル内へと吸い込まれていった。

 

 暗いトンネルに突入した列車内は、弱々しいランプの光だけがぼんやりと闇を払う心細い空間へと変貌した。

 

 窓の外は、暗黒一色に塗り潰されていた。そのあまりにも濃厚な闇は、この列車が深淵の底へどこまでも落ちてゆくかのように、覗き込む者を錯覚させる。

 

 等間隔ごとに過ぎるトンネル灯の火が、時折、真っ暗なキャンバスに、一条の線を描いては消えていき、不安と錯覚を微かに払拭していく。

 

 ……ジョセフとアリッサは連邦で普段使っているせいか、慣れっこだったが。

 

 ゴトン、ゴトン。車輪が線路の継ぎ目を踏む重低音だけが耳朶を打ち続ける。

 

 時折、鳴り響く汽笛が、山彦のように反響し、方向感覚を狂わせていく。

 

 …………。

 

 ……どのくらいの時間を、列車は闇の中を進んでいっただろうか。

 

 それは――本当に唐突の出来事だった。

 

 暗黒一色に塗り潰されていた窓が、不意に純白一色に反転した。

 

 ようやく列車がトンネルを抜けたのだ。

 

 窓から爆発的に溢れる白銀の奔流。一気に塗り替えられる世界。

 

 闇に慣れた目が眩き白に眩み、思わず目を細めさせる。

 

 やがて、徐々に慣れた目が窓の外に結像した世界は――

 

 

 

 

 

 ――辺り一面、白く輝く銀世界であった。 

 

 雄大に広がる草原が、遥か遠き丘が、遠方に連なる山々が、茂る林が、森が。

 

 世界の全てが、真っ白にピュアな雪で化粧されている。

 

 清らかな処女を思わせる、足跡一つ無い、穢れ無き白亜の雪景色。

 

 そして、今も尚、花弁の如き雪が、はらはらと舞い散るように静かに降りしきり、純白の光彩を世界へと敷き詰めていく。

 

 仰ぐ天空に厚き雲、その微かな切れ目から奇跡のように差し込む鮮烈な一条の陽光。

 

 それを降りしきる雪の結晶が跳ね散らし、冷たく燃えるように輝かせる。

 

 一言で言えば、絶景。この世の光景とは思えない。

 

 凍てつく白銀の芸術が、列車の窓のキャンバス一杯に広がっているのであった――

 

「……降ってるな」

 

 その光景を、神妙な目で見ながらジョセフが呟く。

 

「……ええ。降ってるわね」

 

 アリッサも同じく、神妙な目で窓の外の光景を見つめている。

 

 二人とも、それ以降、何も言葉を発することなく、窓の外の光景を見つめ続ける。

 

「……あの時の雪とは違って、綺麗ね」

 

「ああ…あの時の雪は本当に残酷だった……」

 

 やがて、アリッサのあの時――あの戦争――を思い出したのか、そう言い、ジョセフは頷く。

 

 あの時、二人はかけがえのない存在を失った。

 

 今まで苦楽を共にしてきた友人を失ったのも、かつての味方に裏切り者として両親を失ったのも、どちらも雪の降り積もる、寒い日の出来事であった。

 

 あの時の雪は…ただただ残酷だった。

 

「ねぇ、二人とも」

 

 ジョセフとアリッサがそれぞれそう物思っていると、個室席の扉が開き、システィーナが入ってきた。

 

「アルフォネア教授が、そろそろホワイトタウンに着くから、降車準備しとくようにだって」

 

「うぃ、了解、了解」

 

 降車準備しとくように伝えに来たシスティーナに、ジョセフはそう返すが、ふと、何かを思い出したのか、ニヤリと笑う。

 

「な、何よ…?なんで、ニヤニヤしてるのよ?」

 

「いやぁ、ただね……」

 

 訝しむシスティーナに、ジョセフはそっと耳打ちするように。

 

「……先生との関係、進展するとええな」

 

「――ッ!?」

 

 すると、ぼんっと。音を立てそうな勢いで、顔を真っ赤にするシスティーナ。

 

「な、な、な、な、ななな――ッ!?」

 

 顔を真っ赤にしたシスティーナは口をパクパクさせ、その場で硬直する。

 

「さぁて、準備するか」

 

 それを見て、ジョセフは笑いながら、準備を進めるのであった。

 

 

 

 

 やがて、列車は観光目的地であるホワイトタウンへと辿り着き、停車する。

 

 ホワイトタウンとは、現在、スノリアでもっとも発展した地方都市だ。

 

 四方を渓谷と山岳、氷湖に囲まれた盆地に存在する街であり、スノリアで唯一、鉄道列車駅が据えられた、スノリアの中心地でもある街であった。

 

 一同は列車から降りると、駅の改札口から駅前広場へ出る。

 

 途端、一同をホワイトタウンの街並みと、肌を刺すような寒気が出迎えていた。

 

「うわぁ!ここがホワイトタウンなのね!?素敵!」

 

 厚手の毛皮コートに、スノーブーツ、手袋にマフラー、ばっちりの防寒具に身を包んだシスティーナ。身を芯から切るように澄んだ寒さをものともせず、両手を広げてくるりと踊るように回り、白い息を吐いた。

 

 立ち並ぶは煉瓦造りの建物だ。帝都のものより鋭角的な三角屋根と、大きな煙突、アーチ型の格子窓が特徴的で、そのどれも満遍なく雪化粧が施されている。

 

 ここが山間の盆地であるためか、起伏に沿って建物は並び、街は上下に立体的だ。

 

 白い綿毛に飾られたような三角錘型の針葉樹が、広場や街路など街の各所に群生し、それがやはりフェジテや帝都とはまったく異なる景観を演出している。

 

 遠くを見渡せば、街を囲むように連なる雪山。その偉容は見る者を押し潰さんばかりに威圧的で圧倒的だが、凍てつく純白の連峰はそれでも尚、畏怖を超えて美しい。

 

 噂の『銀竜祭』が近いからだろう。駅前広場や、そこから続く大通りには様々な屋台が所狭しと並び、華やかに着飾った雪だるまが踊るように立ち並んでいる。

 

 軒先、看板、店頭、街の彼方此方で、橙、赤、青、緑…色とりどりのキャンドルが煌々と燃えている。その灯火の煌めきが、街を包み始めた薄闇のヴェールを燦然と払い、羽毛のように降りしきる粉雪を七色に輝かせ、幻想的な雰囲気を醸し出している。

 

 そして、人、人、人…街は大勢の観光客で賑わい、活況に溢れていた。明日からの楽しい一時を予感させ、否応なく心を躍らせてくれる――そんな街並みであった。

 

「ほう、これは随分、賑やかなこって」

 

「……凄い、活気……」

 

「あっ!見て見て、あそこで大道芸やっている人がいるよ!面白そう!」

 

「むぅ…苺タルトの屋台は…どこ?」

 

「この時期、スノリアには見所が多いぞ?きっと楽しい旅行になるさ」

 

 ルミアも、リィエルも、セリカも、システィーナ同様、きちんと防寒具に身を固めており、空調魔術も付呪しているので、この身を切る寒さをものともしない。

 

 因みに、ジョセフとアリッサもしっかり防寒具に身を固めているが、連邦東海岸で冬の時に――これよりも少し暖かいが――身を切るような寒さには慣れてしまっているため、空調魔術は付呪していない。

 

 一行は、ただ街を包む楽しげな雰囲気を堪能し、それに身を任せている――

 

「さっぶぅうううううううううううううううううううううう――ッ!?」

 

 ――唯一、グレンを除いて。

 

「寒ッ!?なんだこれ、バカじゃねーの!?寒すぎだろッ!?」

 

 システィーナ達が、くるりとグレンを振り返る。

 

 そこには、普段のワイシャツとスラックスの上から、魔術学院の講師ローブを纏っただけという、あまりにも寒冷地を舐めきった格好のグレンが、自分の身体を抱いて、ガタガタと震えていた。もうすでに唇も顔色も真っ青である。

 

「クッソ、スノリアの寒さを舐めてた!死ぬ!余裕で死ねる!おい、セリカ、効いてねえぞ!?貫通してる!冷気がお前の空調魔術すら貫通してるって!?」

 

 グレンは周囲の観光客達の注目を集めながら、みっともなく叫き散らしている。

 

「……先生。はっきり言いますけど。バカじゃないんですか?その格好」

 

 そんなグレンへ、システィーナは呆れたように、冷ややかに言った。

 

「先生なら、自分の周囲の気温・湿度を調整する【エア・コンディショニング】の術にだって調節限界があるって、当然ご存知ですよね?なのになんで、そんな薄着を……」

 

「ぅるっさいわい!家、吹っ飛んだんだぞ!?今の俺が上等な防寒具を持っているわけも、買う金あるわけもねーだろ!?」

 

 グレンは早くも涙目であった。

 

「ぷっ…あははは、悪い悪い。流石にそんな薄着じゃ効果は薄かったか」

 

 そんなグレンを宥めるように、セリカは楽しげに言った。

 

「まぁいい、後で防寒具、買ってやるよ。それでもっと強力なやつを付呪してやる」

 

「そんなことより、お師匠様。ボクもう帰りたいんですけど…」

 

「ほら、行くぞ。とりあえず、予約したホテルへチェックインだ!」

 

 すると、グレンの愚痴などまったく聞かず、セリカはグレンの腕に自分の腕を絡めて身を寄せ、そのまま引っ張っていく。

 

 その様は、まるで夫婦か恋人同士であるかのようだ。

 

「お、おい!?こら、くっつくなって!?」

 

 そのまま為す術なく引っ張られていくグレン。

 

「な……」

 

 そんな二人の後ろ姿を、呆気に取られた表情で見送るシスティーナとルミア。

 

「……なんか、今回のアルフォネア教授……」

 

「みょ、妙に、積極的っていうか……いつにも増して先生にベタベタしているっていうか……どうしたんだろうね、あはは……」

 

 得体の知れないセリカの攻勢に、どうにも一抹の不安が拭えない二人であった。

 

「ねぇ、ジョセフ。やっぱり二人は――」

 

「違うからな、絶対違うからな……」

 

 一方で、目を爛々と輝かせながら、アリッサはグレンとセリカの関係を勝手に妄想していたのであった。

 

 こういう恋愛関係に興味があるぶん、やっぱりこいつも年頃の少女だとジョセフは突っ込みながら、そう思うのであった。

 

 そんな風に、グレン達は連れ立ってスノリアの大通りを歩いて行く。

 

 すると、やがて幾つかの建物の向こう側に、一つ大きなホテルが見えてくる。

 

 そのホテル――シャトースノリアは、高台に設営された最高級ホテルだ。 

 

 その名の通り、城のような偉容を誇るそれは、スノリアを訪れる観光客達の中でも特に富裕層向けに用意されたホテルであり、要するに、グレンのような薄給零細魔術講師が泊まるなど、ひっくり返ってもおこがましい高貴な施設である。

 

 煉瓦積みで作られた重厚な宮殿造り、空に向かって突き立つ無数の尖塔…それらが雪化粧で美しく飾られているその様は、まさに雪の城と形容するに相応しかった。

 

「……え?マジ?俺達、マジでアレに泊まるの?嘘でしょ?そ、その…ボクのような下賤な平民ごときが、かように高貴なる方々御用達の寝所に?」

 

 あまりにも格違いなホテルを前に、すっかり萎縮してしまっている小市民なグレン。

 

「す、凄い…流石にあんなに凄い宿泊施設は、私も初めてかも……」

 

 グレンよりは遥かに格式高い施設に慣れ親しんでいるものの、システィーナも緊張を隠せないようだ。

 

「あの……アルフォネア教授?本当に私達もご一緒してしまっていいんですか?急に押しかけてしまった私達五人は、別の宿泊施設でも……」

 

 流石に元・王女のルミアに動揺はなく……

 

「むぅ、でもルミア。わたし、皆、一緒がいい」

 

 どこでも寝泊まりできるリィエルもいつも通りであった。

 

「ははは、気にすんなって!今回お前達の旅費は全部、私が持ってやるさ」

 

 申し訳なさそうなシスティーナとルミアに、セリカはただ豪快に笑ってみせる。

 

「なんだかんだ、今回の旅行をこの子が楽しむなら、お前達五人の存在は必須だろう?なら、必要経費さ。遠慮するなよ」

 

 ぐるんとグレンの首に腕を回して引き寄せ、セリカは悪戯っぽく笑った。

 

「こら、放せ!だから、抱きつくなって!?」

 

「ええと、その……」

 

「あ、ありがとうございます、アルフォネア教授……」

 

 実に複雑な気分でお礼を言う、システィーナとルミアであった。

 

 なんだか、色んな意味で、まるでセリカに勝てそうな気がしなかったのである。

 

「マジすか!教授、ありがとうございます!」

 

「では、お言葉に甘えますね」

 

 一方、そんな複雑な気分であるシスティーナ達とは裏腹に、旅費を負担してくれるセリカに、素直にお礼を言い、何の罪悪感もなくセリカの言葉に甘えるジョセフとアリッサであった。

 

 一行がそんなやり取りをしているうちに、シャトースノリアが近づいてくる。

 

 だが、ホテルが近づくにつれ、グレンは周囲の妙な雰囲気に気付いた。

 

「……なんだ?」

 

 どうも、ホテルに近づけば近づくほど、先ほどまで辺りを支配していた楽しげな空気はなりを潜め、どこか緊張したような、張り詰めた空気が漂い始めたのだ。

 

 強張った表情で辺りを警邏しているスノリア警備官の姿も、目立って増えていく。

 

「……な、何かあったのかしら?」

 

 その異様な雰囲気を察したシスティーナも、訝しむように周囲を見渡す。

 

「………」

 

 いつも眠たげな無表情のリィエルも、微かに目を細め、警戒心を強めているようだ。

 

「まぁ、何かは起きているだろうね」

 

「……暇な人達が、騒ぎを起こしてんじゃない?」

 

 ジョセフとアリッサもぼやきながら警戒心を強めている。

 

「おーい、お前達!早く、早く~っ!置いて行っちゃうぞ~っ!」

 

 ただ、一人先頭を行くセリカだけが能天気だった。

 

 

 

 

 

 





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