どうぞ
そこは――混じりけのない闇の中だった。
年中を雪と氷に覆われた極寒の地スノリアの、人知れぬ深淵の渦中だった。
一体、其処は何処にあるのか。陽の下を歩く堅気の者は誰も知らないだろう。
だが、知る人ぞ知る。蠢く闇の底に、それは確かに存在する。
彼の地に在りて、古より伝えられし秘奥を実践する者達の祭壇――銀竜神殿。
ここは≪銀竜教団≫の本部であった。
「あの愚か者共めがッ!勝手に先走って、勝手に失敗しただとッ!?」
闇が支配する空間に、ヒステリックなしわがれた叫びが反響する。
その声の調子から、叫びの主は初老の男性と思われた。
思われたと表現を濁すのは、≪銀竜教団≫のご多分にもれず、その男も三角白頭巾と白ローブで全身を覆い隠し、見た目から年齢と性別の判断をつけるのが難しいからだ。
ただ、その男のローブには、竜頭を戯画化した奇妙な紋章が刺繍されており、組織内では高い立場にある幹部であろうことだけは、おぼろげながらに窺い知れた。
この≪銀竜教団≫の本部は、何処かの古代遺跡の中にある、奇妙な幾何学紋様が刻まれたブロック石を積んで作られた円形の空間だ。
天井は高く、闇に吸い込まれて見えない。本当に天井があるのかどうかすら疑わしい。
そして、同じく不可思議な紋様が刻まれた巨大な円柱が、その円形空間のあちこちに幾本も突き立っており、その円柱の先端はやはり高き闇の中へと溶けている。
そんな円形空間の要所要所には篝火が幾つもくべられ、その炎の揺らめきだけが、空間を暗黒に塗り込めようとする重い闇を辛うじて焼き払っている。
その中央には、四角錘型の巨大な石造りの祭壇がある。
祭壇の斜面には階段があり、祭壇の天辺に続いているようだ。
そして、そんな祭壇の階段の傍に、先ほどヒステリックな叫びを上げた幹部教団員――エルネストは佇んでいる。
彼は、年若い同志達の先走りによる決起の失敗報告を受け、さらに怒鳴った。
「新参者め!なぜ、我々の指示を待てないッ!なぜ、我らが大長老様の、そして、白銀竜様の御遺志を理解できぬッ!?」
改めて祭壇周りを見渡してみれば、そこは異様な光景であった。
祭壇を中心に、何十という三角白頭巾達が何重にも円を作って囲み、祭壇に向かって祈るように手を組んで跪き、何事かをぶつぶつと一心不乱に呟いている。
その白頭巾達を繋ぐように、床には巨大で禍々しい魔術法陣が描かれている。
その三角白頭巾達のささやかな祈りの呟きは、幾十にも折り重なることで増幅反響し、その円形空間の内部を不気味に木霊していく。
そんな祭壇の上には――巨大な氷塊があった。
知る人ぞ知る。その氷塊は決して溶けず崩れない『永久氷晶』という呪氷だ。
そして、その氷塊の中には、一人の少女が閉じ込められていた。
何かの人柱だろうか?祈るように手を組んで安らかに眠る幼い少女だ。
常識で考えれば、生きているはずはない。だが、それを凍死体と断ずるには、氷越しに覗けるその顔や肌には生気があり、本当に眠ってるようにしか見えなかった。
謎の氷塊少女を取り囲む怪しげな魔術儀式場……そこはそんな場所であった。
「ええい、忌々しいッ!この誇り高き≪銀竜教団≫の恥さらし共めッッッ!」
そして、エルネストの吠え声に、報告に来た三角白頭巾達がひたすら恐縮した……
……その時であった。
「まぁまぁ、そう目くじらを立てないでくださいませ、エルネスト様……」
ず……と。
その女は、その空間にわだかまった闇の中の闇から、まるで染み出るように現れた。
暗闇に、鮮血で朱を引くように、その唇の笑みの形を作る。
黒の喪服を典雅に纏った奇妙な女だ。
歳の頃は二十代の半ばほど。鳥の濡れ羽を思わせる黒髪に黒瞳。頭に被ったトークハットから垂れるシースルーのベールが、その女の顔を奥ゆかしく覆っている。
だが、ベールに覆われて尚、その女のどこまでも昏い瞳に渦巻く闇と狂気は、隠しきれぬほどに周囲へ滲み漏れるようであった。
その場に在るだけで、周囲の闇がより一層濃くなるようなその女は――
「え、エレノア殿……ッ!?いらしていたのか……ッ!?」
天の智慧研究会内陣・第二団≪地位≫――エレノア=シャーレット。
研究会の構成員でありながら、かつて女王の秘書官を務め、帝国政府内を我が物顔で闊歩し、様々な暗躍を行った知謀の外道魔術師が、装い新たにそこに居たのだ。
「先ほど先走った教団員の方々は、≪銀竜教団≫の外陣……教団の内陣である貴方達には何の影響もございませんこと?」
秘密結社のご多分に漏れず、≪銀竜教団≫もその構成員は内陣と外陣に分かれている。
組織の秘奥や運営を管理する、限られた者のみが入陣できる組織の中枢部――内陣。
そして、内陣の先兵や手足として動く外陣。
外陣がいくら捕まろうが、決して内陣の情報が外部に漏れることはない。そういう組織構造と仕組みを取るのが、秘密結社の基礎中の基礎だ。
「しょせん、彼らは”ちょっと危険な火遊び憧れて入団した、やんちゃな子供達”……そういった連中を計画実行前に足切りできて、むしろエルネスト様にとっては、好都合だったのでは?」
くすくす、とエレノアが笑う。笑うだけで周囲の温度がみるみる下がる。
そんなエレノアに気圧されてはならぬとばかりに、エルネストが感情を荒げた。
「それはその通りだが……しかし、口を挟むのは止めて頂きたいものだなッ!これは我々の組織の意義の問題なのだッ!」
エレノアとエルネストでは、明らかに格が違った。それを誤魔化して威厳を保とうとするエルネストの有様は、最早、滑稽以外の何物でもない。
「ああ、嘆かわしいッ!最近の若い団員は、我らが≪銀竜教団≫の崇高な意義を何一つ理解していないッ!忌々しいッ!」
だが、それでも入団させなければ、活動に必要な人数すらおぼつかない。保有する魔術師の数も少ない。秘密結社という区切りで言えば、≪銀竜教団≫は弱小結社なのだ。
「まぁまぁ、エルネスト様」
そんな滑稽なエルネストをも受け入れ、抱擁するように、エレノアが微笑んだ。
「そんな状況を打破するために……今回、貴方方は我々と結託したのですよね?」
「そ、その通りだッ!」
エルネストが苛立たしげに言った。
「今回の儀式が上手くいけば、我々の教義、信仰、意義――その全てが、この現代に復活するのだッ!その時こそ、この大いなるスノリアに真の信仰が蘇るッ!我々の時代がやってくるのだッ!」
「はい。≪銀竜教団≫が、古代より連綿と現代に語り伝えてきた秘奥……そして、我々が保有する魔術の業……その二つが合わさった時、貴方方の数千年に渡る悲願は達成されるのですわ……」
くすくすくす……エレノアが笑う。
どうして、この女は笑うだけで原初的な本能に根ざす恐怖を逆立てるのか。
「……どうか、この儀式に御専心頂けるよう……よろしくお願いしますわ」
喪服のスカートの裾の両脇をそっとつまみ、優雅に一礼するエレノア。
こんなに下手なのに、いまいち主導権を握れていない気がするのは、なぜか。
「し、しかしだな、エレノア殿……本当に
エルネストが、三角白頭巾の下を流れる冷や汗の感触を堪えながら、問う。
「無論、件の儀式完遂は我々の永年の悲願だ。しかし、本当にそれが為せるなど……」
「ご心配は無用ですわ。理論的には充分に可能なこと。実は私、その手の儀式はとても詳しいのです。それに……」
ちらりと、エレノアが祭壇の上――氷塊の隣へ目を向ける。
エルネストもそれにつられて、そこを見る。
氷塊の傍らには、一際豪華な刺繍を施された三角白頭巾と白ローブの人物が、豪奢な杖をついて、眼下の光景を睥睨していた。
その背筋の曲がり方から察するに、どうやら老人であるらしい。
「≪銀竜教団≫の現マスター……大長老様」
エレノアがエルネストに視線を戻し、くすりと微笑んだ。
「かの御方が今回の計画の遂行を決意して我々に打診し、我らの大導師様がそれに応じたのです。研究会の尖兵に過ぎない私は、大導師様の命に従って、大長老様に尽力するだけですわ。貴方も大長老様の意を汲み、儀式を実践するだけではありませんか?」
「む、むぅ……そうなのだが……」
エルネストが、祭壇上の大長老をじっと見上げる。
すると、エルネストの視線に気付いたのか、大長老が力強くエルネストに頷き返す。
そう。最早、全ては動き出し、エルネストは任されたのだ。後戻りは許されない。
ならば、後は計画の完遂を目指し、突っ走るしかない。
「”全ては白銀竜様のために”……わかった。これからも協力、頼むぞ、エレノア殿」
「はい、かしこまりましたわ。お任せくださいませ」
エルネストの言葉に慇懃に一礼しながら。
――エレノアは、どこまでも冷たく微笑みながら、物思った。
(ふぅ……お子様達のお守りも大変ですわ)
表の慇懃さとは裏腹に、エレノアは内心どこまでも≪銀竜教団≫を蔑みきっていた。
(ですが、ここまでは順調。少々トラブルもありましたが、まぁ、この程度は想定内。件の儀式は概ね予定どおり進行中……問題ありません……)
そして、ふと、エレノアはその表情を引き締める。
(それに今回は、
くすり、と。エレノアは暗闇に朱を引くように嗤った。
塗り潰すような深淵の闇の中、どこまでも昏く冷たく嗤うのであった。
――≪銀竜教団≫によるホテル占拠事件の終結後。
人々の混乱が次第に収まり、やがて日も落ちた、その夜。
グレン達は、ホワイトタウン市長宅に招かれ、晩餐の歓待を受けていた。
「いやぁ……まさか、貴女があの第七階梯、セリカ=アルフォネアさんだとは」
長テーブルの食卓に並んでつくグレン達の対面に腰かけるのは、三十五歳の若きホワイトタウン市長、ジョン=マイヤール氏だ。その高貴な細面はやや童顔で、年齢よりも若く見える紳士であった。
「ホワイトタウン市議会や銀竜祭実行委員会、警備官関係者各位の皆様達も、話を聞いて驚きに驚いていましたよ。いや、こうして直に会えて本当に光栄です」
氏は穏やかな笑みを浮かべながら、セリカを褒め称えていた。
「そして、セリカさん。貴女のお陰で≪銀竜教団≫とのいざこざも無事に早期解決しました。件のホテル占拠に参加していた教団員は全員、現行犯逮捕できましたし、軟禁されていた人々も皆、怪我一つなく無事に救出されました。市議会では色々と今後の事で揉めましたが、なんとかこのまま明日からの『銀竜祭』を開催することができそうです」
「ふっ、そうか、それは良かった……(中止とか言ったら、この街を地図から抹消してやる所だったぞ)」
ナイフとフォークで優雅に魚料理を切り分け、すまし顔で口に運ぶセリカ。
ぼそっと聞こえた物騒な囁きを、隣のグレンは全力で聞こえない振りであった。
「しかし……軽傷とはいえ、ホワイトタウン警邏署の警備官達に多数の負傷者が出てしまったのは、やはり残念ですね。明日からの業務に支障ないようですが……」
そして、ジョンは痛ましそうに目を伏せる。
その言葉に、グレンがぎくりとフォークを噛んだ。
「それに、我がホワイトタウン市が総力を挙げて築いた高級ホテル、シャトースノリアも完全倒壊してしまって……それというのも全て……」
「そ、そ、そうなんですよぉーーッ!さっきボクが正直に供述しましたとおり、全てあのにっくき≪銀竜教団≫の仕業でしてーーッ!」
途端、汗だらだらのグレンが慌てて、弁明し始めた。
「まったく、あいつらって本当に質が悪いですよね!?あんな凶悪な爆弾まで持ち込んでいたなんて!セリカに制圧されて計画が頓挫しそうになったからって、苦し紛れにその爆弾を起爆させて、栄えある高貴なホテルを破壊しちゃって、もう本当にド許しがたい連中ですよね!?ね!?」
「ん?グレン?なんか話が違くないか?だってあれは、私が――」
「いいから黙ってろ!頼むから黙ってくれ、お願いしますッ!」
慌てて手を伸ばして、隣に座るセリカの口を塞ぐグレン。
グレンからは何も聞かされていないが、なんとなく事情をお察しなジョセフとアリッサ、システィーナとルミアは、戦々恐々と頬を引きつらせながら苦笑いを浮かべており……
「……はむはむ」
リィエルは我関せずとばかりに、デザートの苺タルトを山のように皿に積んで、ひたすらリスのように頬張っていた。
「市長さんッ!連中はホテル爆破について、きっと、”ボクじゃなーい”とか、しらばっくれると思いますから、しっかりと責任追及しちゃってくださいね!?爆弾の破片という動かぬ証拠があるんですから、是非、連中に正義の鉄槌を!」
「ええ、それはもちろんです」
「ああ、それにしても本当に残念だなぁ――ッ!俺達がもうちょっと上手く立ち回れば、あの高級ホテルを爆破されなくて済んだのかもしれないのになぁ――ッ!?」
「いえ、それには及びません。どうか気に病まないでください、グレンさん」
すると、義憤に燃えている(ように見える)グレンを宥めるように、ジョンは穏やかに言うのであった。
「ホテルは所詮、物です。壊れたなら、また建て直せばいいんです。ですが、人はそうもいきません。だから、はるばるこのスノリアを訪れたお客様方が、皆無事だったことをここは素直に喜びましょう」
そして、ジョンはセリカとグレンへ深々と頭を下げた。
「もし、お客様方の身に何かあれば、本当に『銀竜祭』を中止しなければならないところでした。市を代表してこの私、ホワイトタウン市長ジョン=マイヤールが、お二方に心からお礼を申し上げます。……本当にありがとうございました」
「くっそ!この人、聖人過ぎる!心が痛ぇ!?心が痛ぇ!?」
「おいおい、グレン?食事中になんだ?行儀が悪いぞ?紳士淑女たるもの常に余裕をもって優雅にだな……あ、すまん、そこの給仕、食後の紅茶を頼む。そうだな……リフレスの特級熟選茶葉を八分煎じで、カモミールを一摘まみ合わせてくれ」
「面倒臭ぇ注文してんじゃねーよ!?お前はもっと、心を痛めろッ!」
すまし顔のセリカに、目を血走らせて吠えかかるグレンであった。
そんなグレンとセリカのギャーワーうるさいやり取りを尻目に。
「あの……市長さん?」
ルミアがおずおずと手を上げて、問う。
「ええと、あんなことがあっても、明日からの『銀竜祭』は行われるんですよね?」
「ええ、そうです。予定どおりに」
「はは、確かに。余所から来られた方々には、少し奇妙に思えるかもしれませんね」
特に気分を害した風もなく、ジョンが苦笑すると。
「……拘るのは、『銀竜祭』が今のこのスノリアの生命線だからです」
ジョンの傍らに影のように付き従っていた歳若い女給仕が、突然、口を挟んだ。
先ほど、ジョンから紹介された、ジョンの侍女兼秘書の女性――ミリアだ。
「元々、このスノリアは帝国の辺境……近代化の波に取り残された、限界集落の見本のような土地だったのです。ここは只でさえ人が住むには厳しい地域。過疎化は年々激しく進行し、もうスノリアは静かに滅び行くしかなった……どういう地方だったのです」
すると、ジョンが何か物言いたげにミリアへ目配せするが、ミリアは”いいえ、言わせて頂きます”とばかりに続けた。
「そんな故郷を救わんと立ったのが、ここにおわす我が主……ジョン市長です。帝都のアルザーノ帝国大学で最新の経済学を修めた市長は、政府高官職のスカウトも蹴ってスノリアに戻り、郷土復興政策を推進しました」
「官職を蹴った?ほう?そりゃあなんとも豪気な……」
「市長は、その卓越した施政手腕を振るい、観光事業を主軸にスノリアを瞬く間に蘇らせたのです。こんな辺鄙なスノリアに鉄道が敷かれたのも、市長の交渉手腕と、大学時代に培われた人脈の賜物……」
どうやらグレン達の前にいる人物は、思った以上の傑物のようであった。
「今では、ウィーナス商会やレイディ商会などの各有力商会の協力も得て、スノリアは見違えるほど発展することができたのですよ」
「そ、そうだったんですか……凄いですね……」
「そういえば、確かにスノリアが観光名所として有名になったのって、本当にここ最近の話だって……」
ルミアとシスティーナが目を丸くして驚く。
「ははは、大したことじゃありません、私は生まれ育ったこのスノリアのために何ができるか……それを考えて実行しただけなんです」
「そして、市長が推進した観光事業の一つの目玉が、明日からの『銀竜祭』というわけです。これによって生まれる経済効果は周辺地域の住民達の生活を……」
「はいはい、ミリア、ストップ」
面はゆそうにミリアの弁舌を遮り、ジョンがその後を続ける。
「『銀竜祭』は、このスノリアに根強く残る白銀竜信仰に根ざした伝統祭事なんです」
「白銀竜……あ、それ知ってます!なんでも遥か大昔、この地方一帯は、白銀竜と呼ばれる竜の神様が加護してくれたおかげで、平和で豊かに暮らせていたんですよね?」
「おお。流石、アルザーノ帝国魔術学院の生徒さん。勉強家ですね」
システィーナの言葉に、ジョンが満足そうに頷く。
「その通りです。その逸話が嘘か真か、そのような竜が本当に実在したか否か……今となっては真実は知り得ませんが、私は観光事業の一環として、その白銀竜を祭る『銀竜祭』を復活させたのです」
「ふーん……話がだいぶ見えてきたな。連中、それを商業利用されるのが嫌なんでしょう?」
「ええ、恐らくお察しの通りです」
ジョンが少し疲れたように、口を挟んだジョセフへ頷いた。
「≪銀竜教団≫は、辺境特有の排他的性質を持った白銀竜信仰の最右翼集団です。その幹部構成員の殆どが年配の方々で、自分達だけの物だと信ずる神聖な祭事を、我々若輩者や余所者に勝手に執り行われ、商業利用されることが我慢ならないのです」
「それは……根が深い問題ですね……」
「僕も、なんとか彼らの理解を得ようと、今もなお交渉を続けているのですが、彼らは頑なに話しを聞いてくれません。ですが、今を生きるこのスノリアの住人たちの生活のためにも、今さら『銀竜祭』を止めることはできないのです」
「ふん、≪銀竜教団≫の老害どもなど、放っておけばよいのですよ」
すると、よほど腹に据えかねているのか、ミリアが強い語気で言った。
「かつて、長年に渡ってスノリアを牛耳っていた≪銀竜教団≫……彼らはスノリアを滅びゆくに任せ、何もしてこなかったではありませんか」
「ミリア」
「教団のトップの居座る連中は、教団内の権威と地位を護ることばかりに執心し、人々に竜の教えを一方的に押し付け、ふざけたお布施を要求するばかりで、寒村で飢えた私達にパン一つ配ることもしなかった!そんな私達が今、こうして人間らしい温かな生活を享受できるのは、全てジョン市長のお陰だというのに!あまつさえ、最近の若者の間では遊び半分で≪銀竜教団≫を支持する者達も居て――ッ!」
「ミリア、君は優秀な秘書だけど、すぐ感情的になるのがいけない」
苦笑いしながらミリアを宥め、ジョンがグレン達を振り返る。
「……とまぁ、そういうわけで。色々と私達にも事情があるのです。貴女達には納得できないかもしれませんが、どうかご理解いただけると助かります」
「い、いえ……こちらこそ、何も知らないくせに、込み入ったことを聞いてしまって、すみません」
ルミアが恐縮したように頭を下げた。
「いえいえ、いいんですよ。それよりも、我々は貴方がたを歓迎します。ようこそ、我らがスノリアへ」
ジョンはルミアを安心させるように、穏やかに微笑んだ。
「この時期、スノリアには様々な見所やイベントが用意されています。貴方がたはこの街の恩人、滞在費用や遊興費は全て私がもちますので、どうか、目一杯、スノリアでの秋休み休暇を楽しんで行かれてください」
「おい、グレン、聞いたか?市長もそう言ってるし、遠慮なく遊び倒そうぜ!?」
そんな聖人君子なジョンにつけ込み、どこまでも図太すぎるセリカ。
「ぁあああああ、もうッ!お前ってやつぁ!?心が痛ぇ!心が痛ぇえええ――ッ!」
そんな彼女の前には、流石のグレンも、ロクでなしの称号を返上せざるをえないようであった。
ここまでで