ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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どうぞ。


143話

 

 

 ――しばらくして。

 

「「レーン先生が、実は男性ぃいいいいい――ッ!?嘘ぉおおおおお――ッ!?」」

 

「いや、気付くっしょ、普通。どんだけ鈍いんですか」

 

 案の定なリアクションをするフランシーヌとコレット、そしてジニーであった。

 

「そそそそそ、そんな!先生が本当に殿方だったなんて、そそそそれってつまり、わたくしとレーン先生、むむむ結ばれることが可能なわけでででで――」

 

「お、お、お、女同士だからって諦めてたのに、え、え、え、え!?マジでワンチャンありありあり――」

 

 フランシーヌとコレットは、真っ青になったり、真っ赤になったり、うっとり乙女の表情になったりと忙しい。

 

「……だっから、話したくなかったんだけど」

 

「あ、あはは……」

 

 なんとも複雑になるしかないシスティーナとルミアであった。

 

「そういうことなら、なおさら許せませんの!いくらアルフォネア教授が、先生のお師匠様だからといって、わたくしの愛しい先生を独り占めするなんて言語道断ですの!」

 

「その通りだッ!先生はアタシのもんだッ!」

 

「お前ら……重い。重過ぎる……」

 

「……別に、貴女達のものじゃありませんから。この発情期の雌猫共が」

 

「ジニー……貴女、毒舌の切れ味、増してるわね」

 

 しかも、ジニーはそれを全部、リィエル以上の無表情でさらりと言うのが怖い。

 

 まぁ、それはともかく。

 

「……というわけで、どうしようかなって思ってるわけ」

 

「このままじゃ、せっかくの旅行なのに、何も進展がなさそうで」

 

 事情を一通り説明したシスティーナとルミアが、苦い顔をして溜息を吐く。

 

「なるほど、教授は強敵だから、手をこまねいてしまっているのね」

 

 すると、それを聞いていたアリッサが何か考えがあるといわんばかりの顔で、話に割り込む。

 

「私にいい方法がある。グレン先生を落とすいい方法が」

 

「えっ!?あるの!?」

 

「アルフォネア教授に私達が勝つ方法があるの?」

 

 あの世界最強の魔術師からグレンの主導権を取れるかもしれないという希望が出てくるかもしれないと、目を輝かせてアリッサを見つめる。

 

「どういう考えなのですの?」

 

「アタシもアリッサの考えが、気になるぜ!どんな考えなんだ?」

 

 フランシーヌもコレットも、グレンに心酔し、想っている身(重過ぎるほど、想っている)。聞いてみたいとアリッサに集まる。

 

「相手があのアルフォネア教授である以上、受け身では駄目。もっと積極的に能動的にいかないと。それこそ、連邦の女性のようにぐいぐいいかないと埒が明かない」

 

「そ、そうだわ!ここは、連邦の女性並みに動かないと!」

 

「うん!相手がアルフォネア教授である以上、大人しめじゃなくて連邦の女性みたいに強気でいかないといけないよね!」

 

「そこでどうやったら、グレン先生を落とせるのか、それは――」

 

 アリッサが四人にグレンを落とす方法を教えている。

 

「んー。なんだろう、すっごい嫌な予感がする……」

 

 対する、ジョセフは絶対にこいつらにはできないなと予感し、四人の表情を見る。

 

 すると、アリッサの考えを聞いていた四人は段々と顔を真っ赤にさせ――

 

 ぼぼぼぼっ!

 

 四人の頭から同時に沸騰し、そして。

 

「な、な、なんて大胆なのぉおおおおおおおお――ッ!?」

 

 顔を真っ赤にしたシスティーナの素っ頓狂な叫び声を皮切りに、大混乱が始まった。

 

「な、ななななんて大胆な――ッ!?いいいいやややや!確かにそれなら……って、やややややっぱりそれは……ッ!それは……ッ!し、し、したくはないというわけではないけど、それは……ッ!」

 

「うわぁ……うわぁ……」

 

「そそそそそそれは……ッ!でも、それなら確かに先生はわたくしの……で、でででででも、こ、こここここ心のじゅ、じゅじゅじゅじゅ準備が……ッ!」

 

「た、たたたたた確かに、それは、確実に、先生をも、も、も、ものにでき、でき、できるけどよ……う、うわわわわわわわわッ!ま、まままままままマジかよ……ッ!マジかよ……ッ!」

 

 と、このように。

 

 さっきまで真っ青になったり、真っ赤になったり、うっとり乙女の表情になっていたフランシーヌとコレットはもちろん、システィーナとルミアも真っ赤になったり、アリッサが言ったソレを想像したのか、うっとりとするなど大忙しである。

 

「うん、あいつ、絶対システィーナ達にはできないことを言ったな……あの四人にそれができたら……うん、すごい修羅場になるな……あ、ジニー。これ食べる?」(もしゃもしゃ)

 

「まぁ、発情期の雌猫共がそれをしたら、先生は持たないですねー。それ、いただきますね」(もしゃもしゃ)

 

「ん。わたしにはよくわからないけど」

 

 一方、その四人娘のあたふたした様子を、ジョセフとジニーは屋台に売ってあった焼チョコパイを食べながら眺め、リィエルはいつも通りの眠たげな目で眺める。

 

 ……かな~~り、距離を取って。

 

「さ、さすがに、そ、それは、れれレベルが高すぎますわッ!で、でも、そこまでしなければいけないほどとは……教授は強敵ですわね!」

 

「だが、そういうことなら、アタシ達にも少し考えがあるぜ?」

 

 すると、まだ混乱してはいるが、落ち着きを取り戻し始めたフランシーヌとコレットが、そんなことを言い始めた。

 

「えっ?」

 

「耳を貸しな。実は――」

 

 コレットが提案した、その作戦とは――

 

 

 

 

 それは、、ちょうど昼を過ぎた頃。

 

 グレンが、セリカの言いつけで、そこら中の屋台へ全員分の昼食を購入しに行かされ、その場から姿を消した時の事だ。

 

「ねぇ、アルフォネア教授……私達と勝負しませんか?」

 

 システィーナは唐突に、そのようなことをセリカに提案し始めた。

 

「ん?どうした?システィーナ。……勝負、とは?」

 

 不意を討たれたセリカは、一瞬、驚いたように目を見開くが……やがて、なにやら面白そうなことの予感に、余裕の笑みを零して見せた。

 

 すると、ルミアが街頭で配られていた一枚のチラシをセリカに見せる。

 

「何々?『ホワイトタウン最強決定大雪合戦大会』?東のリーネ雑木林にて?」

 

「はい、結構な豪華な賞品が出るみたいなんですが、それはいいんです。この大会で、私達の中でもっとも好成績を残した人が……そ、その……明日一日、グレン先生と一緒に銀竜祭を見て回る権利を得られる……というのはどうでしょうか?」

 

「……ほう?」

 

 セリカが微かに目を細めて不敵に笑い、システィーナ達を流し見る。

 

「わ、私はそんなの別にどうでもいいんですけど!でも、教授ばかり先生のお守り、大変かなって思いまして!ええい、なんか無茶苦茶ですけど、勝負です!勝負!」

 

「ごめんなさい、教授。私達も先生と一緒に遊びたいって思っていまして……この勝負、受けていただけませんか?どうか、私達にもチャンスをください」

 

「ん、セリカ、勝負」

 

 三者三様に、セリカをじっと見つめてくる。

 

 照れと混乱、恥じらいと決意、よくわからないけどノリと勢い。その表情は様々ながら、その目はしっかりと恋する乙女達の目であった。

 

「…………」

 

 セリカはそんな三人娘達を、しばらくの間、じっと真摯に見つめて……やがて、ぷっと吹き出した。

 

「そうか、すまなかったな。私はちょっとグレンを独り占めにし過ぎたらしい。許せ」

 

「教授?」

 

「実はな。私は、こうしてグレン分を定期的に補充しないと死ぬんだ。マジで」

 

「えっ!?」

 

 本気とも冗談ともつかないようなことを、茶目っ気たっぷりに言われて、システィーナ達が目を瞬かせる。

 

「なにぶん、グレン分を補充するのは久しぶりでな……私としたことが、少々はしゃぎすぎてしまったらしい。くっくっく……」

 

 そして、セリカは……

 

「……ふっ、なるほど。あいつの周りには、もったいないほど良い娘達がいるな。これならば、いつか、私が私でなくなっても……」

 

 そんなことを、一瞬、寂しげな表情で、ぼそぼそと呟く。

 

「えっ?教授、今、なんて……?」

 

「いいぞ。その勝負、受けてやる」

 

 だが次の瞬間、セリカは勝ち誇ったように満面な笑みを浮かべて宣言した。

 

 それは、一瞬前見せた表情が嘘のような、真夏の向日葵の笑顔であった。

 

 だから、システィーナ達は、それを追求しる機会を逸してしまう。

 

「たーだーし!勝負と言ったな?勝負と名をつけたからには、全力だ。言っておくがどんな勝負でも私は強敵だぞ?心しろよ?お前達の全てを尽くせ。それこそ助っ人でも、久々に再会したお友達の力でも、なんでも使ってな」

 

「うっ……」

 

 なぜか、フランシーヌ達のころがバレている。一体、どこからこちらの状況や情報を収集したのだろう。やはり、第七階梯は計り知れない。

 

 だが、こうなった以上、最早、尻込みも後戻りもできない。

 

「や、やるわよ、ルミア、リィエル」

 

「うん、わかったよ、システィ」

 

「ん、任せて」

 

「頑張れ、頑張れ~お前ら~」

 

「頑張れ~」

 

 こうして。

 

 なんか嫌な予感がしたから(主にルール面で)、早々と戦闘放棄したジョセフとアリッサを除くシスティーナ達は、セリカを連れ、意気揚々と雪合戦会場へ向かうのであった――

 

 

 

 

 ――そして。

 

「……これって、酷くね?」

 

 グレンが大量の食べ物を両手に抱え、ようやく元の場所に戻ってきてみれば。

 

 そこのベンチで待っていたはずのセリカ達の姿は、誰一人いなかった。

 

「人をパシッといて、何これ?新手のイジメ?泣いていい?」

 

 この食べ物、どうしよ?……深い溜息を零すしかないグレンであった。

 

 

 

 

 

 こうして。

 

 ホワイトタウンの東、リーネ雑木林で開催された『ホワイトタウン最強決定大雪合戦大会』は、最終的にシスティーナ、ルミア、リィエル、フランシーヌ、コレット、ジニーvsセリカの構図になっていたが、本来、魔術の使用禁止という大会のルール規定を、()()()()()()()()()使()()()()と見事に勘違いしたセリカを皮切りに、システィーナ達も攻性呪文以外の魔術を使用したため、全員失格という果てしない徒労の内に終わるのであった。

 

 因みに、来年以降、大会のルール規定に、しっかり”あらゆる魔術の使用禁止”という項目が書かれることになるのだが……今のシスティーナ達は知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、混沌とした大騒ぎのままに、銀竜祭一日目は終了した。

 

 すっかり日も暮れて夜になると、さらに寒気が強まり、身体を蝕み始める。

 

「いやー、遊んだ、遊んだ!」

 

 意気揚々としたセリカが、先頭を歩きながら伸びをした。

 

「つ、疲れた……お風呂入りたい……」

 

 システィーナがくったりと呻く。

 

 大会終了後、皆で独り寂しげなグレンを迎えに行き(その際、グレン絡みでシスティーナ達とフランシーヌ達の間で一悶着あった)、その後、引き続き、食べ物を制覇していたジョセフ達と合流した後、フランシーヌ達と別れた一行は、ジョン市長邸への帰路についていた。

 

「……なんだよ、お前達。俺をほっぽって、楽しそうなコトしやがって……ふーんだ」

 

「あ、あはは……ごめんなさい、先生……」

 

 殿でふて腐れているグレンを、ルミアが申し訳なさそうに苦笑いしながら慰めている。

 

「zzz……」

 

 珍しく疲れてしまったのか、リィエルはグレンの背であどけない寝息を立てていた。

 

 やがて、グレン達は、ジョン市長邸に到着する。

 

 玄関広間内へと進入し、屋敷内の暖かな暖気が一同を迎えた……その時だった。

 

「……はぁ、困りましたね」

 

「≪銀竜教団≫……なんて、どこまで……ッ!なんて、恥知らずな……ッ!」

 

「しかし、どうしましょうか!?今さら中止するわけには……ッ!?」

 

 ジョン市長、その秘書ミリアを筆頭に、恐らく銀竜祭運営関係者と思しき数名が顔を突き合わせてそこに集まり、何やら深刻そうに溜息を吐いていた。

 

「……ん?どうしたんだ?市長さんよ」

 

 なんとなく無視も気が引けるので、グレンがとりあえず声をかけてみる。

 

「あ、グレンさん、お帰りなさい。実はですね……」

 

 ジョン市長は愛想良くも、苦々しげに事情を話し始めた。

 

「……グレンさんは、銀竜祭の銀竜降臨演舞をご存知ですか?」

 

「銀竜降臨演舞?ああ、確か、祭りの三日目に行う白銀竜への奉納舞踊……銀竜祭の神事の一つじゃなかったか?演目名は確か『白銀竜と魔法使い』……」

 

 銀竜降臨演舞……それは、このスノリア地方に伝わるとある伝承を、音楽と舞踊で表現し、このスノリアの地のどこかに眠るとされる白銀竜への供養として奉納する……そんな趣旨の、スノリア伝統の奉納舞踊だ。

 

「それがどうしたのか?」

 

「ええ、その奉納舞踊なのですが……ちょっと、トラブルが起きてしまいまして」

 

 すると、言葉を濁すジョン市長に代わって、ミリアが説明を始める。

 

「実は、その奉納舞踊における中心的な配役に、白銀竜役、魔法使い役、魔王役の三つがあり、それぞれ有名なダンサーを雇って、演舞の練習をしていただいていたのですが……もっとも重要な白銀竜役の人が急遽、契約を反故にして、このスノリアを去ってしまわれたのです。他にもバックダンサーなど、多くのスタッフが急遽抜けてしまって……」

 

「え――ッ!?どうして!?なんでそんなことに!?」

 

 システィーナがぎょっと目を剥く。

 

「恐らく≪銀竜教団≫の仕業でしょう。恫喝か、買収か……いずれにせよ、メイン役のダンサーに外部の人間を雇ったのが失敗でした。このままでは、奉納舞踊を執り行うことができなくなるでしょう」

 

 ミリアの淡々とした状況説明に、ジョン市長や関係者達が溜息を吐く。

 

「あの、市長さん。≪銀竜教団≫の今回のような行動は、前にもありましたか?」

 

「いえ。以前にも、奉納舞踊に抗議文書はいくつか送られることはありました。しかし、今回のような事態は初めてです」

 

 怪訝そうにジョセフが尋ねると、ジョン市長がこの初めての事態をどう対処していいかわからず、困惑気味にそう返す。

 

 ジョセフは、それを聞いて、アリッサに振り返る。アリッサも≪銀竜教団≫の動きが気になっていたのだろう、怪訝そうな表情でジョセフを見る。

 

 やはり、おかしい。なんか、おかしい。

 

 二人とも同じような考えを抱く。

 

「おいおい、大丈夫なのか?三日目の奉納舞踊が、銀竜祭最大のメインイベントじゃなかったか?それを目当てに来てるやつだって……」

 

 グレンのぼやきに、ミリアが眼鏡を押し上げて無念そうに応じた。

 

「その通りです。今年の奉納舞踊は、銀竜祭のメインイベントに相応しいものに仕上げるため、特に予算がかかったものでした。さらなる集客効果を期待し、あのマリー=アクトレスを白銀竜役に招いていたのです」

 

「おいおい、マリー=アクトレスって、今、帝都で超有名な、超一流のプロバレリーナじゃねえか!?やつが舞台で舞うだけで、世界が塗り変わるとかなんとか……」

 

 唐突に出た大物の名に、グレンがぎょっとして、目を剥く。

 

「はい。今回の銀竜祭の開催の際、彼女の出演を大々的に事前告知したので、彼女目当てに銀竜祭へお越しいただいた方も大勢いたでしょう……ですが、彼女は契約を破棄し、引き上げられてしまった」

 

「今年はスノリアの宣伝のため、各新聞社の方にも多くお越し頂いています。このまま彼らの目玉だった奉納舞踊が流れたことが報道されれば、今後のスノリアの観光業に計り知れないダメージが及ぶことでしょう……困ったものです」

 

 ジョン市長の総括に、周囲の関係者達も口々に嘆いていく。

 

「ああ、どうしたらいいんだ?ずっと前から準備に余念がなかった奉納舞踊が、こんな形で駄目になるなんて……ッ!」

 

「くそっ、≪銀竜教団≫め……あいつらはスノリアを滅ぼしたいのか……ッ!?」

 

「諦めるのは早いですよ。とにかく、足りないスタッフは急遽こちらで募集手配します。それでハイネ座長……なんとか、今から主演のマリーの代役は立てられませんか?」

 

「……はっきり言って、不可能ですな」

 

 小太りチョビ髭の中年男性――奉納舞踊座長ハイネは、溜息交じりに首を振った。

 

「はっきり言って、マリー=アクトレスは何十年かに一人の天才ダンサーです。そこらの踊り手とはモノが違う。他者の追随を許さぬ圧倒的な美貌、持って生まれた華、立っているだけで滲む大スターとしてのオーラ……彼女の代役など立てられっこまりません。よしんば立てても、彼女目当てでやってきた大勢の観光客が納得するわけが……」

 

 重く暗い雰囲気が、銀竜祭運営陣を包んでいた。

 

 すると、戸惑うグレン達に気付き、ジョン市長が頭を下げる。

 

「ああ、すみません。みっともない場面をお見せしてしまって……」

 

「いや、その……なんか、大変っすね……」

 

「市長、まだ後一日あります。なんとかしてマリーの代役を探して……」

 

 と、ミリアが何か言いかけた、その時だった。

 

「マリーの代役……?」

 

 ジョン市長達が、何かに気付いたようにグレン達へと視線を向ける。

 

 正確には、グレンの後ろで目を瞬かせている女性陣を。

 

「他者の追随を許さぬ圧倒的な美貌……?」

 

「持って生まれた華があり……?」

 

「立っているだけで滲む大スターとしてのオーラ……?」

 

 しばらくの間、その場を奇妙な沈黙が支配して。

 

「「「「居たぁ――っ!?」」」」

 

 やがて、女性陣を見つめる市長達が声を揃えて、そんなことを叫んでいた。

 

「え、ええええええええええええええええええ――ッ!?」

 

 システィーナが素っ頓狂な声を上げ、ルミアが目を瞬かせて、リィエルが小首を傾げる。

 

「わ、私がマリーの代役!?ちょ、ちょっと待ってください、心の準備が――ッ!?」

 

「そ、その……ごめんなさい、私、舞踊なんてとても……」

 

「わたしにはよくわからないけど……照れる」

 

 システィーナ、ルミア、リィエルが、三者三様にどぎまぎしていると。

 

 歩み寄ってきた市長達が、そんな彼女達の傍らを通り過ぎていって……

 

「お願いします!セリカさん!」

 

「マリーの代役を務められるのは、貴女しかいません!」

 

 ……その後ろのセリカを取り囲んでいた。

 

「うん、実はわかっていた。言ってみただけ」

 

「あはは、そうだね……」

 

「むぅ」

 

 ちょっと残念そうに肩を落とすシスティーナ、ルミア、リィエルであった。

 

「ほう?私が奉納舞踊を?なんか面白そうだな?」

 

 そして、市長達に囲まれたセリカが、にやりと笑う。

 

「おい、ちょっと待て、セリカ。お前、舞踊なんかできんのか?そもそも、後一日しかないんだぞ?一日で振り付けなんか覚えられるわけねーだろ」

 

「はぁ?お前、私をバカにしてんのか?ぱらぱら一読すりゃ、辞書を最初から最後まで、完璧にそらんじられる私だぞ?それに、いざとなりゃ、私には【ロード・エクスペリエンス】がある。衣装から過去の踊り手の記憶を読み込めば問題ない」

 

 このチートめ!才能の差が妬ましくなってくるグレンであった。

 

「市長、行けます。あの伝説の第七階梯、セリカ=アルフォネア女史が代役を務めると告知すれば、話題性はマリーに勝るとも劣らないでしょう」

 

「しかし……観光客達がそれを受け入れてくれるでしょうか?」

 

「無論、リスキーでしょう。彼女には偉大なる勇名と共に、嘘か真かも知れぬ悪名もあります。が、そこらの名も無き凡人をマリーの代役に立てるよりは遥かに上策のはず――」

 

「ここは、観光客の怖い物見たさの冒険心と好奇心に賭けましょう、市長!」

 

 どうやら、市長達の間で結論は出たようであった。

 

「すみません、セリカさん。話の通りです。どうか、マリーの代役……務めていただけませんでしょうか?お願いします」

 

「この街のために……どうか、この通りです!」

 

 市長達が深々と頭を下げると。

 

「いいぞ」

 

 どうやら興味を引かれたらしい。セリカはあっさりとそう答えていた。

 

「……マジかよ?」

 

 グレン達はそんな様子を、呆然と眺めるしかない。

 

「……ただし、条件がある」

 

 そして、セリカが得意げに、そんなことを付け足す。

 

「条件、とは?」

 

「私を、その奉納舞踊とやらに出演させたいのなら……」

 

 セリカが、さも当然とばかりに、出した、その条件に。

 

「はぁああああああああああああああああああああああああ――ッ!?ナンデ!?」

 

 思わずグレンは、素っ頓狂な声を上げるのであった。

 

 

 

 

 

 





今回は、ワイオミング州です。

人口58万人。州都はシャイアン。主な都市にシャイアン、カスパー。

愛称は平等の州で、44番目に加入しました。

平等の州とは、1869年12月10日、まだワイオミング準州時代に当時の準州知事ジョン=アレン=キャンベルが普通選挙法に著名して法が成立し、投票権が女性に拡大されました。これは、アメリカ合衆国の州の中では初のことでした。

さらに政治の世界で女性にとって初の事がワイオミング州では続いており、1870年、ララミーでは女性が初めて陪審員を務めました。

同じく1870年のララミーではメアリー=アトキンソンが女性初の廷吏となり、同年サウスパスシティではエスター=ホバート=モリスが女性初の治安判事になりました。

女性知事を選んだのもワイオミング州が最初であり、1925年就任のネリー=テイロー=ロスでした(ワイオミング州と同じ年にテキサス州も女性知事を選んだが、ロス知事の方が先に就任しました)。

これら女性に与えられた権利の故に、ワイオミング州では「平等の州」という愛称が付けられました。

ワイオミング州憲法には女性参政権も含まれ、また水利権に関する条項も新しいものでした。ワイオミングは1890年7月10日にアメリカ合衆国44番目の州に昇格しました。

全米随一の山岳州です。全米で最も人口が少ない州であり、鳥取県といい勝負です。

イエロ―ストーン国立公園など自然公園が多く、年間州内人口の10倍以上の観光客が訪れます。



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