ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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それでは、どうぞぉ~~


145話

 

 

 

 ――こうして、スノリアでの二日目は、慌ただしく過ぎていった。

 

 祭は客として回るのも楽しいが、裏方に回って準備に勤しむのも楽しいものらしい。

 

 なんだかんだで、忙しくも充実とした時間を、グレン達は過ごすのであった。

 

 そして、その夜――

 

 

 

 

 

「それでは、明日の銀竜降臨演舞の成功を祈りまして……乾杯!」

 

「「「「乾杯~~っ!」」」」

 

 ジョン市長の取り計らいで、銀竜祭関係者や奉納舞踊に協力するグレン達、聖リリィ魔術女学院の生徒達と準備に参加していなかったがジョセフとアリッサが呼ばれ、市長宅で立食形式の宴会が宴会が開かれる運びとなっていた。

 

 大広間に長テーブルを並べ、その上に様々な食べ物や飲み物が並べられている。

 

 当然、まだ途中なので、宴会の規模としてはささやかな物だが、今日一日の準備を通して親交が深まった者達が賑やかに談笑し、楽しい時間が流れていた。

 

「いやぁ、本当に助かりましたよ、セリカさん。貴女のおかげで……」

 

「何、まだ、終わってないさ。まぁ、全力は尽くすよ、面白そうだしな」

 

「はい、よろしくお願いします、セリカ様」

 

 向こうでは、ジョン市長、ミリア、ハイネ座長、セリカらが談笑している。

 

 そんな様子を遠目に眺めながら……

 

「ったく……疲れたぁ……」

 

 グレンは、ぐったりとぼやいていた。

 

「お疲れ様です、先生」

 

 グレンの手のグラスに、ルミアがいたわるようにワインを注いでいく。

 

 そして、お皿にローストビーフやフィッシュ&チップスなど、こころなしかグレンの好物を多めに取って来たシスティーナが、心配そうにグレンへ問う。

 

「で?結局、どうだったんですか?その……演舞は本当に大丈夫なんですか?」

 

「ああ、舞踊の振り付けは、セリカが魔術で俺の脳へ強制的に記録しやがった」

 

「うっわぁ……なんていう荒療治……」

 

「この手の強制記憶魔術は、精神に負荷がかかるから、さっさと解呪してえんだが……まぁ、明日一日の辛抱だ。とにかく、そういうわけで動きは大丈夫だ。問題は、俺の演技力なんだが……どう考えても学芸会レベルです。本当にありがとうございました!」

 

 そんな風に、グレンががっくりと頭を落としていると。

 

「まぁ、大丈夫ではないかと」

 

 ジニーが淡々と無表情に慰めていた。

 

「セリカさんに比べたら、ぶっちゃけ、皆、どんぐりの背比べです。観客達の目は皆、セリカさんに釘付け。よほどやらかさない限り、悪目立ちはしませんよ」

 

「……ん。グレン、頑張って、これ食べて元気出して?」

 

 そして、リィエルが大皿に山と盛られた苺タルトを、グレンへずいっと差し出した。

 

「お、おう……あんがとな……」

 

 見ただけで胸やけしそうな大皿から視線を逸らし、グレンはリィエルの頭を撫でた。

 

「ま、まぁまぁ、なんとかなりますって!」

 

「そうですよ、私達も全力で先生のサポートをしますから――」

 

「まぁ、先生がやらかしたらやらかしたで、学院の連中の笑い話にしますんで、心配しないでくださいな」

 

 明日の舞台への不安からか、げっそりしているグレンを励まそうと、システィーナとルミアが、笑顔で何事か檄を飛ばそうとし、ジョセフは笑顔でさらりと慰め(?)ようとする。

 

 だが、その時。

 

「ぐれんしぇんしぇぃ~~」

 

「のんでぇるかぁああ~~っ!?」

 

「うおッ!?」

 

 そんなグレンの左右から、しがみつくように抱きついてきた二人の少女がいた。

 

 フランシーヌとコレットだ。

 

 二人とも顔が真っ赤で口元が緩み、潤んだ目は焦点を結んでいないようであった。

 

「なんだ、お前ら!?酒臭ぇ!?さては飲んだな!?この不良娘どもが!」

 

「いいじゃないれふかぁ~~しぇんしぇもぉ、わらくひたちとぉのみましょおよぉ~~」

 

「おしゃくすりゅぜぇ~~」

 

 だらりとグレンに縋り付いてしなだれかかり、フランシーヌがグラスを、コレットがワインの入った瓶を、グレンの両頬を挟むように押しつけてくる。

 

「にゃ~~ん、ごろごろぉ~~」

 

「しぇんせぇ……またあえてうれしいぜぇ……もうはなさにゃい……」

 

 そして、胡乱な意識のまま、グレンにべったりと甘えまくる二人を前に……

 

「ちょ、ちょっと!二人とも!?何やってるの!?ふざけすぎでしょ!?」

 

「ふふっ、そんなにくっついたら先生が迷惑だよ?……だから、離れよう?ね?」

 

 嫉妬に狂った白猫が目くじらを立てて、同じく嫉妬に狂った大天使様が朗らかな笑顔で、フランシーヌとコレットをグレンから引き剥がしにかかる。

 

「いだだだだだだ!?こら、お前ら、引っ張るなぁああああああ――もごっ!?」

 

「食べて」

 

 そして、悲鳴を上げるグレンの口の中に、苺タルトを玉入れの如く容赦なく詰めるリィエル。

 

「……おいしい?」

 

「もごもがぁあああ――ッ!?(息が詰まる!?殺す気か!?)」

 

「うん、先生はおいしいって言ってるよ(いいぞ、もっとやれ)」

 

「そう。よかった。もっと食べて」

 

「もがーーーーーーーーッ!?(詰めるな!?これ以上詰めるな!?ジョセフ、テメェ後で覚えてろよ!)」

 

 少女達にもみくちゃにされて、どたばたと暴れるグレン。

 

「なんですか、このカオス……」

 

「んー、あれだ。酔っ払ったアホお嬢と猪突猛進娘に対し、嫉妬に狂った白猫と大天使様……そして、発情期の雌猫といちゃつく先生の口の中に情け容赦なく苺タルトを詰め込むナチュラルボーン破壊神と喜びのあまり暴れる先生……題名『最後の晩餐』」

 

「こんなカオスな最後の晩餐は、きっとここしか見られないでしょうねー」(もしゃもしゃ)

 

「ここしかっていうより、この面子が揃った時だろうねー」(もしゃもしゃ)

 

 お互いもしゃもしゃとローストビーフをつまみながら、溜息を吐くジニーとジョセフ。

 

 因みに、ジョセフィーヌの正体は、システィーナ達が、フランシーヌ、コレット、ジニーに明かしているため、ジョセフは男性のままでいる(こっちのほうは、短期留学の時にジョセフが男に戻っていなかったため、ジニーですら珍しく驚いていた)。

 

 そんな姦しくも、楽しげで賑やかなグレンの様子を……

 

「ふっ……」

 

 セリカは穏やかな笑みを浮かべ、遠くから最愛の息子を見守る母親のように優しげな目で、じっと見つめているのであった。

 

 

 

 

 ――やがて、そんな宴と騒ぎも一段落が付く。

 

「はぁ、疲れた……」

 

 ジョセフは疲れたため、宴会場を離れ、自分に割り当てられた部屋へと戻っていた。

 

 窓の外を見ると、雪は止んでいた。空気は冷たく澄み渡り、夜になって上空で風が強くなったせいか、そらの雲は綺麗に払われ、天に銀差を鏤めたような星空が広がっていた。

 

 部屋内は、暖炉で暖気に包まれていたが、宴会場の熱気に当てられた今のジョセフとっては、少し暑く感じた。

 

「……そういや、あいつは今どうしてるんだろ……」

 

 ふと、星空を眺めながら、ジョセフは今、故郷に帰省しているツインテールお嬢のことを考えていた。

 

 まぁ、特になんの大きなトラブルもなくテレサとリンと一緒に過ごしているんだろうが、なんかこう、しばらく会っていないとなぜか気になってしまう。

 

「……まぁ、大丈夫だろう」

 

 やがて、気にするのをやめて、ベッドに横になろうとすると。

 

 がちゃ。

 

 突然、部屋の扉が開いたため、そちらを振り返ると。

 

「なんだ、アリッサか……」

 

 部屋に入ってきたのは、アリッサだった。

 

 そういやこいつ、宴会の時、フランシーヌとコレットと一緒だったような……

 

「ん?どしたん?お前、あいつらと一緒に楽しんで――」

 

 あの二人の酔った姿を思い出しながら、そう軽く声をかけようとした、その時だった。

 

 がばっ!

 

 そのままアリッサはジョセフの元へ近づき、そして、ジョセフに向かって飛び込んできた。

 

「ぶへらぁッ!?」

 

 同い年の少女がダイナミックジャンピングしてきたことで、直撃したジョセフは 変な悲鳴を上げた。

 

「じょせふぅ~~」

 

 そして、ダイナミックジャンピングしたアリッサはジョセフを上目遣いで顔を上げる。

 

 ジョセフの嫌な予感は当たっていた。アリッサの顔は真っ赤であり、空色の瞳は熱く潤んでいる。

 

 つまり、酔っ払ているということだ。

 

「ねぇ、じょしぇふぅ……なぁんで、わらしをおいてへやにぃ~~もどってるのぉ~~?」

 

「……あの、アリッサさん?」

 

「わらしぃ~~ひっしになってぇ、さがひらんらよぉ~~?なぁんでぇ、もどっひぇるのぉ~~?」

 

 駄目だ。完全にデキあがってやがる。

 

「もひかひてぇ~、うぇんでぃのこひょぉ……どうひへるのかぁ、おもっていはんでひょぉ?」

 

「はい!?」

 

「やっぴゃりぃ……むぅうううううう」

 

 いや、確かにふとそうは思っていたんだが。

 

 今もそう思っていると思い込んでいるアリッサは頬を膨らませるという、素面では絶対見せない表情をしていた。

 

 なんていうか、これは可愛い。

 

「いや、そうじゃなくて、あの~アリッサ――むぐッ!?」

 

 ジョセフがなにか言おうとした、その時。

 

 それは突然のことだった。

 

 口が何かに塞がれ、言葉が続かなくなり、それと同時にアリッサの顔が急に現れた。

 

 ふわふわしたマシュマロのような、弾力とハリがある甘いマシュマロのような柔らかいものがジョセフの唇を塞いでいる。

 

 ジョセフは一瞬、なにが起きたのかわからず、硬直していたが。

 

「!?!?!?!?!?!?」

 

 やがて、自身の唇を塞いでいる正体がアリッサの唇だということを気付いた。

 

 要するに、アリッサはジョセフとキスをしていた、ということである。

 

 我に返ったジョセフは、離れようとアリッサを引き剥がそうとするが、アリッサは腕をジョセフの首に回していたため、引き剥がせない。

 

 それだけじゃない。

 

(こいつ、俺の片脚を自分の両脚で挟んでいやがるッ!?)

 

 足を動かそうにも、左脚が思うように動かない。

 

 アリッサが意識的なのか、無意識なのかわからないが、ジョセフの左脚に絡みつくように両脚で挟んでいたのだ。

 

 これでは、逃げられない。

 

 そして、それから十秒ぐらいその状態になり。

 

「ぷはっ……」

 

 やがて、アリッサが呼吸を再開するかのように唇を離す。しかし、身体を密着させ、両脚はジョセフの左脚を解放する気配はない。

 

「お、おい、アリッサ、お前……」

 

 ジョセフが目を白黒させ、狼狽えていると。

 

「わらしがいるのにぃ~~うぇんでぃばっかりぃ~~かんがえてぇいるからぁ、だから……じょしぇふにはぁ~~いまからぁ、わらひと……」

 

 頬を赤らめ、目をさらに熱く潤ませるアリッサの顔は、まさに女の顔だったのかもしれないし、雰囲気も甘い色気を纏っていたかもしれない。

 

 そんなアリッサだったが、何か言おうとしていた途中で、ジョセフの胸に顔を埋める。

 

 そして。

 

「……すぅ」

 

 ……寝てしまった。

 

「……えぇ……」

 

 これ、どうすればいいの?

 

 ていうか、目が覚めたら大丈夫なの?

 

 ジョセフに覆い被さり、両足を挟んだまま、寝てしまったアリッサに、ジョセフは戸惑うしかなかったのであった。

 

 

 

 






短いけど、今回はここまでで

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