ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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ニャンちゅうだにゃあ!


14話

 アルザーノ帝国魔術学院では、魔術競技祭開催前の一週間は、競技祭に向けての練習期間となっている。

 

 具体的にはその期間の全ての授業が三コマ――午前の一、二限目と午後の三限目――で切り上げられ、放課後は担当講師の監督の下、魔術の練習をしてよいことになっている。

 

「『殲滅戦』は、先生が言ったとおり、十人いっぺんに魔術戦を繰り広げるから……」

 

 放課後。針葉樹が囲み、敷き詰められた芝生が広がる学院中庭にて。

 

 ジョセフは適当な木に背中を預けて座り込み、『殲滅戦』のルールの確認をしていた。

 

「せやなー。【ショック・ボルト】をなるべく、それも連射に近い速度で撃ちたいな…西部のガンマンみたいにズドドドドーみたいな。あとは、追尾機能とか。とにかく、最後まで生き残らんといかへんからな」

 

 【ショック・ボルト】を改造して競技に臨むことにしたジョセフは、クラスメイトが競技祭に向けて魔術の練習を行っているさまを、眺める。

 

 因みにジョセフは改造するのが得意で、改造できるものは改造してしまうぐらい改造好きだった。

 

 呪文を唱え、空を飛ぶ練習をしている生徒がいる。

 

 念道系の遠隔操作魔術でキャッチボールをしている生徒達がいる。

 

 攻性呪文を唱え、植樹に向かって撃つ練習をしている生徒がいる。

 

 中庭の向こう側では、システィーナとルミアがベンチに腰かけて呪文書を広げ、難しい顔で羊皮紙に何かを書き連ねており、その周りを何人かの生徒達が、あれこれ相談しながら取り囲んでいる。彼女達は競技用の魔術式の調整をしているらしい。

 

 グレンはそのさまを疲れたような遠目で眺めていた。

 

 グレンのクラス一同は今、一週間後の競技祭に向けて静かに盛り上がっていた。

 

「何やかんや言って皆楽しそうやん。なんや、ホンマにヤバいイベントかと思った自分がバカに思えるくらいや」

 

 皆、楽しそうだった。昨日までは気後れして尻込みしていたようだが、皆、なんだかんだで少しでもいいから競技祭に参加したかったのだろう。生徒達は生き生きとしながら、自分が出場する魔術競技の練習をしていた。

 

 ジョセフにはその光景が、数ヶ月前のあの血生臭い戦場とは比べ物にならないほど、ほっこりしていた。

 

「眺めるのもここまでやな。さてと、それでは今から【ショック・ボルト】の改造を……」

 

 ジョセフが【ショック・ボルト】の改造に取りかかろうとした、その時だ。

 

「さっきから勝手なことばかり…いい加減にしろよ、お前ら!」

 

 突然、激しい怒声が飛び込んでくる。

 

「おおう?」

 

 ジョセフがその方向へ目を向けると、どうやら自分のクラスの生徒達と他のクラスの生徒達の何人かが、中庭の隅で言い争っているらしかった。

 

「……何やってんねん」

 

 ジョセフはため息をつき、その場所へ向かう。グレンも同時に動いていた。

 

「……おーい、何があったんだ?」

 

 グレンが声をかける。件の生徒達は、今まさに相手へ掴みかからんばかりの一触即発の雰囲気を放っていた。ここから大乱闘に発展…というのが連邦では日常茶飯事だが、ここは帝国である。流石にそこまでは行っていなかった。

 

「あ、先生!?こいつら、後からやってきたくせに勝手なことばかり言って――」

 

 カッシュが興奮気味にまくし立てる。

 

「うるさい!お前ら二組の連中、大勢でごちゃごちゃ群れて目障りなんだよ!これから俺達が練習するんだから、どっか行けよ!」

 

(いやぁ、中庭モテるね~。恋する男達の奪い合いが始まったよ~)

 

 ジョセフが心の中で茶化す中、カッシュに相対する他クラスの男子生徒も、やはり興奮気味に言葉を吐き捨てる。

 

「なんだと――ッ!?」

 

「はいはい、ストップ~」

 

 グレンは取っ組み合いを始めたカッシュと男子生徒の首根っこを掴んで、左右へ強引に引き剥がした。

 

「あがが……く、首が…痛たた……」

 

「うおお……い、息が……く、苦し……」

 

「ったく、くっだらね―ことで喧嘩してんじゃねーよ…お前ら沸点低過ぎだろ」

 

 生徒達が大人しくなったのを確認して、グレンが手を離す。

 

「えーと?そっちのお前ら……その襟章は一組の連中だな。お前らも今から練習か?」

 

「え…あ、はい。そうです…その…ハーレイ先生の指示で場所を…」

 

 比較的大柄な生徒二人を、腕力だけであっさり制したグレンの姿に萎縮してしまったらしい。一組の生徒は先ほどまでの威勢を引っ込め、殊勝に応じる。

 

「ふーん、そう…」

 

 がりがりと頭を掻きながら、周囲を見回す。

 

「うーん、まぁ、確かに俺ら、場所取り過ぎか…悪かったな。全体的にもちっと端に寄らせるからさ、それで手打ちにしてくんね?」

 

「ば、場所を空けてくれるなら、それで…」

 

 なんとなく丸く収まりそうな雰囲気に、様子を見守っていた生徒達も安堵し、ジョセフも元いた場所に戻ろうとするが――

 

「何をしている、クライス!さっさと場所を取っておけと言ったろう!まだ空かないのか!?」

 

 怒鳴り声と共に二十代半ばの男がやってくる。学院の講師職の証である梟の紋章が入ったローブを羽織り、眼鏡をかけた神経質そうな男だ。その男の名は――

 

「えーと、ハゲ先生だっけ?」

 

「あ、ユーレイ先輩、ちーっす」

 

「ハーレイだ!ハーレイ!ユーレイでもハーレムでもないッ!ハーレイ=アストレイだッ!グレン=レーダス、貴様、何度、人の名前を間違えれば気が済むのだ!?てか、貴様、私の名前を覚える気、全ッ然!ないだろッ!?あと、誰だ!?私に向かってハゲと言ったのは!?」

 

 二人の間で、このやりとりはもうすっかりお馴染みらしい。てか、ハゲって聞こえてたのね。かなり気になってるんだ(笑)

 

 気楽に挨拶したグレンに、学院の講師ハーレイは物凄い形相で詰め寄った。

 

「…で?ええと、ハー…なんとか先輩のクラスも今から競技祭の練習っすか?」

 

「……貴様、そこまで覚えたくないか、私の名前」

 

 ぴきぴきと拳を震わせるが、ハーレイは付き合ってられんとばかりに話を続ける。

 

「ふん、まあいい。競技祭の練習と言ったな?「あれは嘘だ」嘘ではないッ!」

 

 話の腰を折られたハーレイは誰に向かうことなく声を荒げる。

 

「誰だ、話の腰を折ったのは!?明らかに二組の方だよな!?」

 

 二組の中でこのように話の腰を折る人物は一人しかいない。視線がジョセフに向く。

 

「貴様か!?ジョセフ=スペンサー!さっきのハゲといい、話の腰を折るといい…「それよりもグレン先生、全体的に端に寄せましょうや」貴様ぁああああッ!」

 

 ジョセフとグレンに振り回されるハーレイに、一組はもちろん、こればかしは二組も同情した。

 

「ハァ、ハァ……もういい。当然だ。今年の優勝も私のクラスがいただく。私が指導する以上、優勝以外は許さん!今年は女王陛下が直々に御尊来になり、優勝クラスに勲章を賜るのだ。その栄誉を授かるに相応しいのは私だ!」

 

「あっはっは!うわー、凄い熱血すねー、頑張ってください、先輩!」

 

 道化じみたグレンの態度に、ハーレイは忌々しそうに舌打ちした。

 

「それよりもグレン=レーダス。聞いたぞ?貴様は今回の競技祭、クラス全員をなんらかの競技種目に参加させるつもりなのだとな?」

 

「え?ああ、うん、はい、まぁ、そうなっちゃったみたいっすね…不本意ですけど」

 

「はっ!戦う前から勝負を捨てたか?負けた時の言い訳作りか?それとも私が指導するクラスに恐れをなしたか?」

 

(今日もハンガクベントウソウダツ先生は元気です)

 

 グレンは困ったように頭を掻いた。

 

 なぜハンガクセールス先生は、こうもグレンを敵視しているのだろうか。それともかまってちゃんなのか。

 

「いやぁ、そうかもしれませんねー、なにせ、ハー…なんとか先輩のクラスには学年でも上位の生徒達が特により集まっていますからねー、いやー、もう優勝は先輩のトコで決まりかもしれないっすねー、あー、女王陛下の勲章羨ましいなー」

 

 グレンは適当にあしらうらしい。ひたすら道化を演じるグレンに、ハーレイは苛立ったように歯噛みする。

 

「ちっ…腑抜けが。まあ、いい。さっさと練習場所を空けろ」

 

「あー、はいはい、今すぐ。ええと、あの木の辺りまで空ければ充分ですかね?」

 

 グレンはハーレイのクラスの生徒達が練習するのに必要だろうと思われる面積分を充分に考慮して、場所割を提案するが――

 

「何を言ってる?お前達二組のクラスは全員、とっととこの中庭から出て行けと言っているのだよ」

 

 そんなハーレイの一方的な言葉に、その場の二組の生徒達が凍り付いた。

 

(おいおい、ここの講師は先着順っちゅうもんを知らんのか?)

 

 ジョセフは呆れて言葉もでない。

 

 グレンも流石に渋面でこめかみを押さえ、抗議する。

 

「先輩…いくらなんでもそりゃ通らんでしょ……横暴ってやつですよ」

 

「何が横暴なものか」

 

 ハーレイが吐き捨てるように言い放つ。

 

「もし、貴様に本当にやる気があるのであれば、練習のために場所も公平に分けてやってもいいだろう。だが、貴様にはまったくやる気がないではないか!なにしろ、そのような成績下位者達…足手まとい共を使っているくらいなんだからな!」

 

「――っ!?」

 

(おいおいおいおい…)

 

「勝つ気のないクラスが、使えない雑魚同士で群れ集まって場所を占有するなど迷惑千万だ!わかったならとっとと失せろ!」

 

「ギイブルの昨日の言い分といい、今日のハゲの言い分といい、何でここの連中はイライラさせるのかな~?」

 

 ジョセフがそうつぶやき、こめかみを押さえる。

 

(第一、何だよコイツの言い分は!?完全に役割放棄してるよ。使えない奴がいるなら使えるように育てるのが自分の役目じゃろうが!何のための講師や、ボケ!)

 

 さすがにイライラがピークに達しようとしたその時。

 

 グレンがいきなりハーレイの鼻先へ、びしりと指を突きつける。その勢いで両袖に腕を通さず羽織ったローブがばさりと翻った。

 

「お言葉ですがね、先輩。うちのクラス、これはこれで最強の布陣なんですよ。やる気がない?勝負を捨てた?ふっ、馬鹿言わんといてくれませんかね?無論、俺達は狙ってますよ?優勝をね。まぁ、せいぜい油断してウチにな首を掻かれないことっすね」

 

 口の端を吊り上げ、グレンは不敵な笑みを浮かべている。

 

 そんなグレンの放つ不思議な威圧感に気圧され、ハーレイが脂汗を浮かべる。

 

「……く、口ではなんとでも言えるだろうな、口では。だが、事実、お前のクラスはシスティーナやギイブルといった優秀な生徒達を遊ばせているではないか……ッ!」

 

「ほう?なるほど……つまり、えーと…ハー?なんとか先輩は、あくまでウチのクラスの布陣を伊達や酔狂の類、と、おっしゃりたいわけですか……?」

 

「そ、そうだ…それ以外の何がある!成績上位者を使い回すのは競技祭の定石だ!私のクラスだけではない、どのクラスも毎年やっていることだろう!?」

 

「くっくっく……どうやら先輩だけではなく、学院中の講師共は皆、ボンクラの無能だったようだ……まーさかまさか、成績上位者で出場枠を固めるだけで、勝てるなどと思っていらっしゃったとは……ふはーっはっはっは!笑止!」

 

 ひとしきり悪役のように哄笑し、グレンはハーレイに堂々と宣言する。

 

「いいっすか?先輩。俺達は全員で勝ちに行く、全員でな。目指す一つの目標の前に、誰が主力だとか足手まといとか、んなもん関係ない。皆は一人のために、一人は皆のために、だ。その一体感こそ何よりも最強の戦術なんですよ?わかりませんかね?」

 

「くっ……そんな非合理的な精神論が通用するとでも……ッ!?」

 

 だが、そんなハーレイの反論を、グレンは胸を張って切り捨てるように返す。

 

「給料三ヶ月分だ」

 

「な、何ィ……ッ!?」

 

「俺のクラスが優勝する、に俺の給料三ヶ月分だ」

 

 グレンの宣言に、ハーレイは当然、周囲全員がどよめいた。

 

 特にグレンのクラスの生徒達が、ぽかんとした表情でグレンを見つめている。

 

(うわ、賭けにでやがったな、先生。当然、ハクサイ先生も乗らざるを得ないな)

 

「しょ、正気か、貴様……ッ!?」

 

「さて、どうしますかね?先輩。この賭け乗りますか?いやぁ、三ヶ月分は大きいですよねぇ?もし負けたら先輩の魔術研究が、しばらく滞っちゃいますよね……?」

 

(よし、ここは煽るだけ煽ってやろうか…)

 

 ジョセフはニヤリと笑い、煽ることにした。

 

「いやぁ、ウチやったら乗りますねぇ。だって、先生曰く雑魚集団の担任講師が、ただでさえ貴重な給料を三ヶ月分も賭けるんやさかい。乗らない手はないなぁ。あ、すんまへん、連邦に長く居ると、金の話にはつい飛びついてしまうもんで」

 

「ぐ……ぅ……ッ!」

 

 嫌味たっぷりに煽るジョセフにハーレイも退くに退けなくなった。生徒達の手前、というのもあるのだろう。

 

「くっ……いいだろう!私も、私のクラスが優勝するに、給料三ヶ月分だ!」

 

 脂汗を浮かべながら、ハーレイは忌々しそうに宣言した。

 

「ふっ……流石、先輩。いい度胸です。気に入りましたよ?やっぱ、、そうこなくっちゃね……くっくっく……いやぁ、ごっつぁんです、せ ん ぱ い?」

 

 どこまでも余裕綽々に、不敵に笑うグレン。

 

「ちぃ……ッ!こ、この私に楯突いたこと、必ず後悔させてやるぞ……ッ!」

 

 恨み骨髄とばかりに、ハーレイはグレンを烈火のごとく睨みつける。

 

 

 

 

 そんな二人の様子を、はらはらしながら見守る生徒達。

 

 そんな中、グレンの内心は。

 

(……やっちゃった――――ッ!?)

 

 表面上、不敵な表情を見事に保ったまま、グレンは心の中で頭を抱えていた。

 

(うちのクラスの生徒達バカにされて、なぜかイラっとして、ついやっちゃったけど、おいおい、どうすんのコレ?冗談じゃねえ!いっくらなんでも三ヶ月断食とか保たねーぞ、俺死ぬぞ?東方の仙人じゃあるまいし……ッ!)

 

 要するに、威風堂々たる態度でグレンは戦々恐々としていた。

 

 策?そんなものは当然、ない。

 

(しかも、ジョセフッ!お前、ハー、なんとか先輩を煽りやがって……この悪魔め!)

 

 ジョセフを恨めしそうに見るグレン。ジョセフは笑顔で右手の親指を立てる。

 

(グッドラックじゃねえ、チクショウッ!)

 

「おのれ、グレン=レーダス…貴様という男は……ッ!魔術師としての誇りも矜持もない、たがが第三階梯の三流魔術講師がこの私を愚弄するなど……ッ!」

 

(うっわー、怒ってらっしゃる…めっちゃ怒ってらっしゃるがな…あっはっは、やっべえ、どうしよ!?)

 

 グレンは思わず売り言葉に買い言葉で喧嘩を売ったことを今、激しく後悔していた。

 

(よし…土下座だ。こうなったら、土下座しかねえ。今から一生懸命、心を込めて謝ればきっと許してくれる――いざ、目で見よ!俺の必殺固有魔術【ムーンサルト・ジャンピング土下座】を――)

 

 グレンが見栄もプライドも恥も外聞も全てまとめて大遠投しようとした、その時だ。

 

「そこまでです、ハーレイ先生」

 

 凛と涼やかに通る声が、グレンの機先を制してハーレイの言葉を封じた。

 

「それ以上、グレン先生を愚弄するなら、私が許しませんから」

 

 声の主は、いつの間にか駆けつけてきたシスティーナだった。

 

(なんてタイミングで出てきやがんだ、この白猫ぉ――ッ!?)

 

 グレンは泣きたくなってきた。

 

「貴様、システィーナ=フィーベル!?あの名門フィーベル家の…くっ!?」

 

 ハーレイはシスティーナの介入に明らかな狼狽を見せている。

 

「そもそも、練習場所に関する貴方の主張にはどこにも正当性がありませんし、グレン先生に対する侮辱行為も不当です!これ以上、続けるなら講師として人格的に相応しくない人物がいることを学院上層部で問題にしますが、よろしいですか?」

 

「ぐぅ…ッ!?こ、この親の七光りがぁ……ッ!」

 

 明らかに余裕をなくしたハーレイに、システィーナは余裕の笑みを向ける。

 

「今、ここでそんな低俗な争いをせずとも、グレン先生は逃げも隠れもしません。一週間後の魔術競技祭で正々堂々とハーレイ先生率いるクラスと戦うでしょう……」

 

 そして、どこか嬉しそうな、期待に満ちた表情でシスティーナはグレンに振り向いた。

 

「ですよね、先生!?」

 

「お、おう……」

 

 としか言えなかった。ここで違うとか言ったら単なる極悪人である。

 

「くそ、覚えていろよ、グレン=レーダス!集団競技になったら、まずお前のクラスから率先して潰してやるからな!首を洗って待っていろ!」

 

(なんでこんなにハードル上がっていくの?誰か助けて……)

 

 と、心の中で涙さめざめと流しつつも――

 

「おととい来やがれ」

 

 親指を下に向け、首をかっ切る仕草と共にメンチを切るしかない。この世の中には抗えない流れというものがあるのだ。

 

 鼻を鳴らし、忌々しそうに肩を怒らせながら去っていくハーレイ。

 

 一難は去ったものの、残された――ジョセフの煽りにより生まれた――超特大の爆弾に、グレンはがっくりと首を落とした。

 

 

 ハーレイのクラスが去り、一難が去った後、真っ白になったグレンをよそにジョセフは改造の作業に取り掛かるため、今度こそ元の場所に帰ろうとしていた。

 

「煽るだけ煽りましたわね」

 

 ふと横にウェンディがさっきのジョセフの煽りの様子を苦笑いで言った。

 

「まぁ、ちょっとイラっとしたからな~。これでも抑えてる方よ?」

 

「はぁ…昨日もギイブルに対して苛ついてましたものね」

 

「あ、バレてた?」

 

「バレバレですわ。今日もそんな感じだったから…私も今日は流石に苛つきましたけど。とりあえず、暴力とかは駄目ですわよ?」

 

 ウェンディがこちらを見てまるで親が子を諭すように言う。心配そうな顔をして。

 

「流石にそこまではせんよ」

 

「心配ですの」

 

 ジョセフの右手を両手で取り、さらに心配そうな目でこちらを見る。

 

「…分かりましたよ。約束する」

 

 そんなに見つめられたら流石に敵わないと思い、ジョセフは約束する。

 

(やっぱり伝わってしまうもんなのかな?)

 

「約束ですわよ?それはそうと、ちょっと手伝ってほしいのですけど」

 

「手伝ってほしいって、『暗号早解き』の?」

 

「ええ、そうですわ」

 

 ジョセフは頭を掻きながらどうしようかと考えていた。できるだけ早く改造を終わらせて、練習に臨みたかったし、だからといって彼女のことを無下にするのは気が引ける。

 

 それに、ウェンディはさっきから手を離さない。

 

「……」

 

 なんか強制的に手伝えと言われているような気がするのは気のせいだろうか。

 

「分かったよ、手伝いだけならええよ」

 

 なんかさっきから一部の男子生徒の殺気に似たような視線がこちらに向けられているような気がしたので、早く手を離すようにジョセフは、ウェンディの依頼を承諾した。

 

「ふふっ、助かりますわ」

 

 そう微笑みながらいうと、彼女の柔らかい感触を持った手が離れる。

 

「んで、何すればええの?」

 

「それはですね――」

 

 手伝いの内容を聞きながら歩く二人を見て。

 

(本当に仲良いよね、あの二人)

 

 複数の女子生徒が生温かく見ていた。

 

 

 

 

 そんなこんなで、瞬く間に一週間が過ぎた。

 

 今日はアルザーノ帝国魔術学院、魔術競技祭、開催当日。

 

 そして、アルザーノ帝国女王アリシア七世を来賓として学院に迎える日である――

 

 




今回はメリーランド州です。

人口600万人(D.Cは含まれません)。州都はアナポリス。主な都市はボルチモア、ヘイガーズタウン、ソールズベリ。

州の愛称は、伝統ある州です。

独立十三州の一つで、七番目に加入しました。

港町ボルチモアがある州です。また、州域にワシントンD.Cが食い込んでいるなど、D.Cとの関りが深い州です。教育熱心な州として有名で、平均所得は全米一位。優秀な人材を輩出している一方、落ちこぼれも多く住み、治安が悪くなっている一因になっています。ボルチモアのインナーハーバーは世界のウォーターフロント開発第一号です。

日本でそれを真似たのが神戸のポートアイランドです。

以上!!

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