ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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それでは、どうぞ


146話

 

 

 

 そこは――阿鼻叫喚の地獄絵図であった。

 

「ぁああああああああああああああああああああああ――ッ!?」

 

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい――ッ!?」

 

 彼の地に古より伝えられし秘奥を実践する者達の本拠地――≪銀竜教団≫本部。

 

 今、そこは混じりけのない高純度の恐怖と絶望で満たされた、地獄の釜底であった。

 

 闇が支配するその空間、その中心に聳え立つ四角錘型の巨大な祭壇。

 

 それを囲み、昼夜ひっきりなしに祈りの言葉を捧げていた教団員達が、突如、魂が割れ砕けたような苦痛の絶叫を上げ始めたのだ。

 

 それと同時に、嗤う髑髏の戯画にも見える禍々しき魔術法陣が、祭壇を中心に、全ての教団員を絡め取るように床に浮かび上がっていた。

 

 それが今、秘めたる力を発揮し、その恐るべき冒涜的な力を振るい始めたのだ。

 

「あぎゃあああああああああああああああああああ――ッ!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 生命力、魂、マナ……人を人たらしめ、一個の生命として息づかせる超自然的なエネルギー……教団員達のそういったモノを、髑髏の法陣が容赦なく暴飲暴食しているのだ。

 

 命を吸われていく教団員は、みるみるうちに痩せ細り、手足は枯れ木のようになり、肌はしわくちゃになり、髪は抜け落ち……乾いたミイラと成り果て、倒れていく。

 

 そこは、生け贄の血で満たされた盃だ。

 

 貪欲な死神が、それを片っ端から飲み干していっているのだ――

 

「これはどういうことだ、エレノア殿ぉおおおおおおお――ッ!?」

 

 徐々にミイラ化していくエルネストが、この惨劇の中に平然と佇むエレノアに向かって這い寄っていく。

 

「あ、貴女は……我らを裏切ったのか!?騙したのかぁっ!?」

 

「……別に騙してはいませんわ」

 

 そんなエルネストを、冷酷な微笑を浮かべながら、エレノアが見下ろしている。

 

「これで、貴方達の悲願は達成されるのですよ?貴方達の奉ずる偉大なる主が、この現世に目覚めるのです……そう、貴方達の血と命を以て」

 

「……ッ!?」

 

「むしろ、喜ばしいことでしょう?自分達の奉ずる神の血肉になれるんですもの。全ては貴方達の悲願であり……そして、貴方達が信じる大長老様の望みなのですわ」

 

「嘘だ……信じられない……ッ!我らが偉大なる指導者……大長老様が……本当にこんなことをお望みになるなんて……ッ!我々を切り捨ててまで……ッ!?」

 

 

 エルネストが祭壇を見上げる。

 

 その天辺には、今回の計画の実行を指揮した大長老が悠然と佇み、眼下の地獄を睥睨している。……このエレノアと協力することを決めた大長老が。

 

「なぜです、大長老様……一体、なぜ、このようなことを……ッ!?」

 

 ずりずり……と。

 

 エルネストが、徐々にミイラ化しながら、なんとか階段を這い上がっていく。

 

「一体、なぜなのですかぁああああああ――ッ!?」

 

 そして、大長老の足下へ取り縋るように倒れ込み……そんなのローブを掴んだ。

 

 すると、びり、と。大長老の纏うローブが破れ、その下の相貌が露わになった。

 

 そのろローブの下は――ぞろりと並ぶ乱杭歯に、変色してむき出しになった筋肉、闇色を湛え落ち窪んだ眼窩――ドロドロに爛れた腐乱死体であった。一目で、とっくの昔に死んでいると理解出来る。

 

「な、なんだこれは……ッ!?じゃ、じゃあ、今日まで、私達をお導きになっていた大長老様は……ッ!?」

 

「……あら、バレてしまいました?殿方を死人形にするのは趣味じゃなかったので、防腐術式が雑でしかたしら?」

 

 くすりと笑い、エレノアが茶目っ気たっぷりに、ぼそりと何事かを呟く。

 

 すると、元・大長老だったものは、その肉がどろどろに溶けて足下に流れていき……やがて、綺麗な白骨となって、がらがらと崩れ落ちた。

 

「”真に、かくあれかし(ファー・ラン)”」

 

 エレノアが右手で十字の聖印を切り、祈りの聖句を捧げる。

 

 エルネストは大長老の白骨の隣で完全にミイラ化して、すでに息絶えていた。

 

「……さて、いよいよですね」

 

 エレノアが祭壇の天辺へ改めて目を向ける。

 

 その視線が向かう先には巨大な氷塊があった。

 

 その氷塊の中には、相変わらず祈るように手を組んで閉じ込められ、眠る少女。

 

 氷塊の下には、やはり法陣が描かれており、下の生け贄の巨大法陣と直結している。

 

 それを通して、氷塊へと流れ込んでいく、命、命、大量の犠牲者達の命。

 

 やがて、決して溶けず崩れないはずの永久氷晶の表面に、ビシリとヒビが入った。

 

 ――どくん。

 

 何か不穏な魔力が、その空間に胎動し始めた。

 

 どくん、どくん、どくん。

 

 氷塊の中で眠る少女に、異常が発生した。

 

 びしびし、と音を立てて、少女の肌に白銀の鱗が生まれ、身体を覆い始める。

 

 めきめき、と音を立てて、少女の手足の爪が、刃物のように伸びる。

 

 ばきばき、と音を立てて、少女の身体が、筋肉質に膨れ上がっていく。

 

 どくん、どくん、と。魔力の胎動ごとに、少女が異形の姿へと変貌していくのだ。

 

 やがて、不滅の永久氷晶が、内部に閉じ込めた少女の変貌に耐えきれず、木っ端微塵に四散する。

 

 だが、祭壇上に投げ出された少女は、なおも止まらず変態を続けていく。

 

 どんどん大きく膨れ上がる鋼のような体躯。まるで山と見紛うほどに。

 

 背中を突き破って生え、大きく成長していく翼。全身はすっかり銀色の鱗で覆われ、その美しかった相貌は、流線型のフォルムを持つ蜥蜴じみた異形と化す。

 

 やがて、その閉じられていた瞼が、ばっちりと開かれ、その氷のような青眼が暗闇を切り裂くように露になる。

 

 そして、その巨大な異形は、天に向かって顎を開き――

 

 連なるシルヴァスノ山脈の峡谷に、げに恐ろしき獣の咆哮が木霊するのであった。

 

 

 

 

 

 その日――陽も沈んだ夕時。

 

 ホワイトタウンの中心にある、中央大広場にて。

 

 初日に開催セレモニーを行ったその場所は、今、大勢の観光客で賑わっていた。

 

 視線が集まる先は、即席の暗幕で覆われた舞台上だ。

 

 薄暗い暗闇のヴェールが辺りを包む中、並ぶランタンでライトアップされる世界。

 

 そこで始まる奉納舞踊の開始を、観光客達が今か今かと待ち受けているのだ。

 

「ねぇねぇ、奥さん、聞きました?」

 

「ええ、あのマリー様が出演をご辞退なさったとか……」

 

 舞台を囲む観客席からは、ひそひそ声が、ひっきりなしに聞こえてくる。

 

「はぁ……今年は、あのマリー様が主演を務めるというから来たのに……」

 

「なんでも、マリー殿の代役を、あのセリカ=アルフォネアが務めるらしいですぞ?」

 

「ああ、そういえば、市の銀竜祭実行委員会が、突如、大々的に告知していたな……」

 

「セリカ=アルフォネア?あの≪灰燼の魔女≫?生きた伝説よ呼ばれる?」

 

「わたくし達を馬鹿にしていますの!?彼女は俳優でも踊り手でもない、ただの魔術師でございましょう!?畑違いも良いところですわ!」

 

「はぁ~……今年は銀竜祭始まって以来、最悪の年ですな……」

 

 メインイベントなので一応集まったはみたらしが、観客達の間には期待外れと残念そうな気配が、ありありと漂っていた。最初からこんな調子では、恐らく奉納舞踊が始まれば、観客達は次々と席を立っていくことだろう。

 

「……人間て本当に身勝手よね」

 

「あ、ああ、せやな。まぁ、実際、観客達の言う通り俳優でもないし踊り手でもないからな。あながち的外れかというとそうでもないしな」

 

 そんな観客達の中に混じっていたジョセフとアリッサは、視線を舞台に向けたまま、始まるのを待っていた。

 

 ジョセフは昨夜のアリッサが酔った勢いに任せて、キスしてきたという快挙……もとい、暴挙をなんとか頭の隅に寄せようとしていた。

 

 当のアリッサは、昨夜のことをあまり覚えておらず、今朝、なぜ自分がジョセフの部屋でジョセフに覆い被さって寝ていたのか、皆目見当もついていないようであった。

 

 その後、まぁ、良いかという風になったから何事も起こらなかったが。

 

 因みに、今朝は……

 

「あ、アリッサさんがジョセフに覆い被さって寝ている……」

 

「あ、あれが連邦の女性の攻め方……うわぁ……うわぁ」

 

「わたしにはよくわからないけど、とりあえず、無事で良かった」

 

 アリッサが部屋に戻ってきていないので、もしかしてと思いジョセフの部屋に来ていた三人娘がジョセフとアリッサの様子を見て、一人は顔を赤らめて硬直し、もう一人はそれを見て、自分もそれが出来たらと、とある先生とのシチュエーションを妄想していたり、もう一人は平然と何とも思っていないように呟くなど、三者三様の反応をしていた。

 

「それにしても、今のところ何も起きていないわね」

 

「ああ、結局、ただの恫喝・買収したのはいいものの、まさか、教授が代役として出て、他の連中も手伝うなどというのは≪銀竜教団≫は予想もしていなかったんだろうよ」

 

「それにしても、最近の連中、やけに大人しすぎない?」

 

「ああ、大人しすぎる」

 

 奉納舞踊の開始を待ちながら、ジョセフとアリッサは≪銀竜教団≫の動きに違和感を感じていた。

 

 なんせ、天才プロダンサーや、大半のスタッフを恫喝・買収してまで、スノリアから出ていかせたのだ。ということは、≪銀竜教団≫は本気で奉納舞踊を潰すつもりだったはずだ。

 

 なのに、現に今、こうして開催をしようとしているのに、連中の動きはまったくない。

 

 マリーの代役が、セリカという畑違いの魔術師だから出来の悪い奉納舞踊になると高を括っているのか、それとも別の事情があるのか。

 

 今の所は、≪銀竜教団≫内でどのようなことになっているのか、まったくわからない。

 

「ま、これから何か仕掛けてくるというのもあるしな。それよりも、そろそろ始まるで」

 

 ジョセフとアリッサは一応、奉納舞踊を観賞しながら周囲に目を光らせることにするのであった。

 

 

 

 

 

 夜の深まりと共に、暗闇と寒気が強まっていく。

 

 舞台周囲に集まる観客達のざわめきが、次第になりをひそめていく。

 

 焚かれた無数の篝火の煌々とした光の揺らめきがだけが、舞台を闇の中から浮かび上がらせている。

 

 そんな厳かな雰囲気の中。

 

 しゃん。

 

 頃合いを見た舞踊合奏隊が、ベルを打ち鳴らす。

 

 その澄んだ音色が、奉納舞踊の開始を告げるのであった。

 

 観客席の中央を貫いて舞台へと続く道がある。等間隔に篝火が灯されたそこを、今、一人の白い女性が、舞台に向かって厳かに進んでいく。

 

 セリカだ。

 

 白のフードを目深に被って顔を隠し、両手で衣装の裾を軽く持ち、翼のようなヴェールを引いて……鳴り響く澄んだベルの音に合わせ、静かに歩いて行く。

 

「……マジかよ」

 

「……綺麗」

 

 ただでさえ美と存在感が圧倒的なセリカなのに、白い衣装のデザインとフードを目深に被っているためか、セリカの美と圧倒的な存在感を次元の違う高さに上げたその姿に、ジョセフとアリッサは目を丸くしてその姿を見とれるしかなかった。

 

「ほう……?あれがマリーの代役の……?」

 

「噂のセリカ=アルフォネア……?」

 

 正直に言えば、観客達は、今回の奉納舞踊に何一つ期待していなかった。

 

 何しろ、皆、マリーの演舞を見に来たのだ。

 

 ゆえに、その代役を務めるセリカとかいう、かの悪名高き魔女が、畑違いの分野でいかほどのものか?むしろ、無様な有様を嘲笑ってやろう。

 

 そんな、少し下世話な興味や好奇心で、なんとなく集まったに過ぎなかったのだ。

 

 だが――

 

 しゃん。

 

 セリカがベルの音に合わせて、一歩一歩ゆっくり歩を進めるごとに、徐々に観客達に動揺と困惑が広がり、ざわめきが伝播していく。

 

「……な、なんだ……?この畏れ多い雰囲気は……?」

 

「ま、まるで呑まれるようだ……」

 

 まだ、何も始まっていないのに。

 

 ただ、セリカは舞踊の歩法に従って、静かに歩いているだけなのに。

 

 その所作、振り付け、仕草、佇まい、腕振り、足運び、息づかい……篝火に浮かび上がるセリカの全身から滲み出る風格、存在感、神秘性――そういった言語化不可能なオーラのようなものが観客達を呑み込み、圧倒し始めているのだ。

 

 しゃん。

 

「…………」

 

 セリカは、白銀竜を模した衣装を身に纏う人間の女に過ぎない。

 

 だが、彼女が紛れもない白銀竜そのものであるかのような――そんな強大な存在感が、セリカから滲み出ていたのだ。

 

 やがて、観客達が固唾を呑んでセリカを見守っていると。

 

 合奏隊が氷の鐘――アイス・ベルを打ち鳴らし、それに合わせて、角笛を束ねて作ったリャーマ・ホルンを、針葉樹で作られたスノリッシュ・フルートを吹き始める。

 

 山間を吹き抜ける風のような不思議に通る音色が、澄んだベル音に同調し……

 

 やがて、雪楓と呼ばれる樹から作られたメープル・ハーブ、スノリア地方特有の伝統楽器、スノリッシュ・ブズーキ――ギターに似た弦楽器――らが厳かに爪弾かれ始め、主旋律を奏で始めた。

 

 いつしか観客達は、無言で、夢中で、セリカを目で追い始めていた。

 

 辺りを奏で包むスノリア伝統奏楽と、観客達の視線に後押しされるように、セリカは階段を上り……舞台の中央に立ち……観客達を振り返る。

 

 そして、セリカは舞踊式に従い、頭上で手を大きく交差するように、目深く被っていたフードをふわりと下ろした。

 

 その相貌が露わになった、その瞬間。

 

 おおおおおおぉぉぉ……

 

 観客席を、感嘆の衝撃が津波のように伝播した。

 

 その不明な存在を明らかにすることで、セリカの存在感が、最早、誤魔化しようもなく観客達を圧倒し、魂を根こそぎ刈り取っていたのだ。

 

 セリカの目は遠くを見るかのごとく虚ろ――崇高なる何かをその身に降ろしたかのようだ。その絶世の美貌も相まって、全ての視線が、心が、彼女へと吸い込まれていく。

 

 空を墜とすような衝撃から始まった、その奉納舞踊。

 

 やがて変わる曲調。

 

 ふわり、ふわりと、舞式に従い、舞い始めるセリカ。

 

 優雅に振るわれる腕、滑るように運ばれる脚。

 

 翼のように広がる衣装、そのどれもが美しく夢のような軌跡を描き――

 

 すでに観客達は、もう完膚なきまでにセリカに魅了されてしまったのであった。

 

 

 

 

 

「はぁ……とりあえず、舞踊の入りは上手くいったみたいだな……」

 

 安堵の息を吐きながら、グレンが楽屋裏から舞台を見ている。

 

 そこでは、篝火に照らされ、心地良い不思議な旋律と共に、セリカが踊っている。

 

 時に水が流れるように、時に空を飛ぶように――舞台上を目一杯使って、あらん限りにセリカが白銀竜を舞で表現している。

 

 舞台上に、偉大なる伝説の竜が顕現した――そんな幻視が現れるほどであった。

 

「それにしたって……俺、アレの相方すんの?マジで?うっそだろ……?」

 

 あまりものハードルの高さに、青ざめ頭を抱えて蹲るグレンであった。

 

 なんていうか、一光年くらい助走しても届きそうにない。

 

「なぁ、白猫。逃げていい?なぁ、俺、逃げていい?」

 

「き、気持ちはわかりますが!駄目です!」

 

 セリカの舞に魂を奪われていたシスティーナが我に返り、厳しくグレンを責める。

 

「ほら、しっかりしてください!今は、第一楽章『竜の降臨』です!このスノリアの大地に白銀竜様が初めて降臨なさり、この地の人間に恵みをもたらした時のことを表現する章です!」

 

「次の第二章『竜と魔王』で、白銀竜と魔王の壮絶な戦いが表現されるんですよね?」

 

「ええ、私やリィエルさんの出番です」

 

 ルミアの呟きに、ジニーが応じ、リィエルがこくりと頷いた。

 

「ここで、一旦、アルフォネア教授が衣装直しをして、第三楽章『魔法使いと巫女』……先生の出番はここからですね!気合入れてくださいよね!」

 

「ああ……死刑執行の時間が刻一刻と近づいてくる……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……」

 

 グレンのそのみっともなく情けない姿に、その場の一同が溜息を吐くのであった。

 

 

 

 

 そんなグレンの葛藤を置き去りに。

 

 観客達の魂をな根こそぎ持って行ったまま、セリカの演舞は続く。

 

 楽曲がセリカの舞を動かすのか、それともセリカの舞が楽曲を牽引するのか。

 

 夢とも現とも取れぬ時間と空間を演出しつつ、神秘的な余韻を残しながら、第一楽章から第二楽章へ移行する。

 

 ここからは、スノリアの地を攻めてきた魔王と、スノリアを守る白銀竜の戦いを表現する演舞が始まるのだ。

 

 舞台に魔王の意匠を纏った魔王役のダンサーが現れる。

 

 邪悪な魔王が、白銀竜の守るスノリアの地へ侵攻してきたのだ。

 

 そして、魔王の軍勢の尖兵役であるリィエルとジニーも、魔王役に付き従って現れる。

 

 魔王役が黒い剣を振り回し、残酷な動きで、剣の舞を踊る。

 

 やがて、魔王役のダンサーと白銀竜役のセリカが、演舞の流れのままに、幾度となく互いにすれ違い始めた。二人は入れ替わり立ち替わり、交錯しながら、激しいステップ、激しい振り付けで踊り始める。

 

 途端、背景で奏でられる曲調が、荒々しく昂ぶるようなものへと変貌する。

 

 ついに、白銀竜と魔王の戦いが始まったのだ。

 

 バックダンサー達が吹き荒れる極寒の吹雪を演じ、リィエルやジニーが、魔王役と共に剣の舞を踊り、セリカを攻め立てる。

 

 そんな邪悪達に、たった一人で立ち向かう白銀竜。

 

「……マジで、教授ってなんなん?とんでもないことになってるんやけど」

 

 ジョセフはもう呻くしかない。

 

 やはり、セリカの演舞の前には、他の全ての踊り手達の存在が霞む。

 

 魔王役の人もプロダンサーの意地を見せているし、リィエルやジニーも頑張っている。

 

 だが、どうあっても、セリカ演じる白銀竜が全てを圧倒している。

 

 舞踊のストーリーライン上では、ここは白銀竜が魔王に屈する場面だが、これはどこをどう見ても完全に勝ってしまっている。

 

 それほど、セリカの演舞は、次元が違う領域のものだったのだ。

 

「これ、魔王役をマリーっていう人に置き換えても……」

 

「ああ、多分教授の前では、彼女でも絶対存在感が霞む。それぐらい、次元が違う。まるで、本当にその場面にいたんじゃないかと思わせるくらい、凄い」

 

 それぐらい、セリカの踊りは迫力と実感が感じられる。

 

「す、凄い……凄すぎる……ッ!あれがセリカ=アルフォネア……ッ!?」

 

「今年の奉納舞踊は過去最高――いや、未来永劫最高の完成度なんじゃないか!?」

 

 そして、観客達は否応なく期待を高め、今回の奉納舞踊の大成功を確信し始めている。

 

「でも、これって、グレン先生は……」

 

「ああ……絶対頭を抱えてるな……」

 

 現に。

 

「……もう駄目だぁ……おしまいだぁ……」

 

 グレンは自分のクソ下手な演舞のせいで、今回の奉納舞踊が大失敗となることを確信し、頭を抱えて蹲っている。

 

 様々な思いが渦巻きながら、奉納舞踊は進行していく。

 

 そして……

 

 それは、唐突だった。

 

 

 

 

「……教授?」

 

 それまで天衣無縫に舞い続けていたセリカの動きが――不意に止まったのだ。

 

 

 

 








今回は、ここまで
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