ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

152 / 230

それでは、どうぞ


148話

 

「しかし……あいつ、体調悪そうだったからな……少し気が引けるな……」

 

 グレンは、セリカの部屋を目指して歩いて行く。

 

 確かに、セリカは世界最強の魔術師、第七階梯だ。

 

 軍の救援が望めないこの状況下で、白銀竜討伐を行うことができる人物は、セリカ以外にあり得ない。この未曽有の危機に、セリカの力は絶対必須なのだ。

 

 ただし、同時に無茶もさせられない。以前のタウムの天文神殿の一件で、彼女の力は未だ相当に制限されている状態にある。

 

「そのための俺達だ。あいつに負担をかけないよう、なんとか白銀竜の居る山頂まで連れて行く。そして、ひたすらあいつの戦いを援護する……単純だがそれしかねえ」

 

 問題は、セリカがこの話に首を縦に振ってくれるかどうかなのだが。

 

「……振るよな?振ってくれよ、マジで。こんな時まで、気が向かない~とか我が儘、マジで勘弁してくれよ?俺達、凍死は嫌だぞ……?」

 

 言って、あながち冗談にも思えないそんな展開に、グレンが戦々恐々としながら、セリカの休んでいる部屋の扉の前に立つ。

 

 そして、ノックしようとグレンは、扉に向かって手を振り上げた。

 

 と、その時。

 

「ん?」

 

 グレンは、その扉の向こう側から激しい風音が聞こえてくることに気付いた。

 

 室内の窓が開いているのだろうか?

 

「……は?窓が開いている?……風?」

 

 おかしい。寒冷地であるここの家屋の窓は、二重窓のはめ殺しになっているはず。

 

 本来、窓の開閉なんてできないはずなのだ。

 

「――ッ!?」

 

 猛烈に嫌な予感がしたグレンが、ノックも忘れて扉を蹴り開ける。

 

 途端、真っ白な風と世界がグレンの視線を叩き付けた。

 

「セリカッ!?」

 

 グレンが吹雪の吹き荒れる室内へと乱暴に踏み込む。

 

 すると、奥の窓が内から外にかけて蹴破られたような形で壊されているのが見えた。

 

 当然、極寒の吹雪が吹き込む室内は、降り積もった雪で真っ白だ。石炭ストーブなど、もうとっくの昔に完全に凍り付いてしまっていた。

 

 そして。

 

 案の定、そこにセリカの姿はなかった――

 

 

 

 

「アルフォネア教授がいない!?嘘!?どうしてなんですか!?」

 

 泡を喰って戻ってきたグレンの報告に、システィーナが真っ青になって問い詰める。

 

「わからねえ!あいつ、こんな時に一体、どこに行ったんだ!?」

 

 嫌な予感がする。猛烈に嫌な予感がする。

 

 前にもこんなことがあった。あの時は確か、セリカは一人で――

 

「決まってるでしょう。教授は多分、一人で――」

 

 グレンが、そんな焦燥に身を焦がしている中、ジョセフが思い当たる節を言おうとしていると。

 

 ずんっ!

 

 不意に、地響きがホワイトタウンを揺るがした。

 

「なんだ!?まさか、また白銀竜が襲いかかってきたのか!?」

 

 グレンを先頭に、その場の一同は弾かれたように邸宅の外へ駆け出すのであった。

 

 

 

 

 市長邸の前庭先に出れば、当然、凄まじい吹雪と凍気がグレン達を殴りつけた。

 

 容赦なく体温が奪われていく。……が、構っている場合ではない。

 

 地響きの正体を探ろうと、グレン達が周囲を見回すと――

 

「先生、あれ!?」

 

「なっ……ッ!?」

 

 システィーナが指さす先を見て、グレンが目を剥いた。

 

 この市長邸は比較的、高台に存在するゆえ、遠くがよく見渡せる。

 

 そのおかげか、この猛吹雪の遥か遠く向こう側に、燃え上がった紅蓮の猛火が闇の中に小さく一点を灯す光景が見えた。

 

「あれは方角的に……アヴェスタ山脈の麓あたりですね。一体、何が……?」

 

 その炎の点を見て、ミリアが疑問に首を傾げる。

 

 だが、この極寒の氷結地獄の中、あれほどの火力を発揮できるものは限られている。

 

「セリカの攻性呪文だ!何だ!?何かと戦っているのか!?」

 

 それを裏付けるように、再び地響きが街を揺るがし……グレン達の見ている前で、ぱっぱっと、幾つかの灯火がその遠い闇の中に連続で上がった。

 

 最早、間違いない。セリカがあの場所で戦っている。

 

 戦いの相手は白銀竜か、それとも別の何かか。

 

 いずれにせよ、こんな悪天候の中、あんな派手な戦闘行動が取れるのは、セリカ以外に考えられなかった。

 

「こりゃ、教授、まさかね……」

 

「ああ、恐らく、そのまさかだろうよ」

 

 ジョセフの呟きに、グレンが拳を握り固め、歯噛みする。

 

 グレンの脳裏に蘇るのは、あの竜が、セリカに告げていた言葉だ。

 

 

 

 

 ――決着を付けよう、空ッ!私は貴女との約束の地にて、貴女を待つ――

 

 

 

 

「あの馬鹿野郎……自分一人でケリを付けに行きやがったんだ……ッ!」

 

 理由はわからない。なぜ、一人でそんな無謀な行動に出たのか。

 

 だが、状況証拠が、何よりもそれが真実だと語っていた。

 

「どうするんですか!?先生」

 

「どうするも、何も――」

 

 今から追うに決まってるだろ、お前ら、急いで準備しろ。

 

 グレンがそう返そうとした……その時であった。

 

「たっ、大変だぁああああああああああああああああ――っ!?」

 

 この猛吹雪の中、数名の集団が、市長邸を目指して駆けてくる。

 

 それは、ホワイトタウンの警備官と自警団の面々だった。皆、その手にサーベルやら警棒やらなどの武器を持ち、酷く慌てふためいていた。

 

「ああもう、今度はなんなんだよ!?」

 

「これは、良い知らせしゃないな……」

 

「市長、大変です!大変なんですッ!?このままでは街が……街がぁ……ッ!?」

 

「落ち着いてください、皆さん。一体、何がありました?」

 

「ば、化け物が……ッ!アヴェスタ山峰の方角から、化け物の群れがぁ……ッ!?」

 

「なんですって!?」

 

 その知らせを皮切りに、事態はさらなる悪化の一方を辿るのであった――

 

 

 

 

 ホワイトタウン市の北の玄関口となる北区画街。

 

 そこは、今、悪夢のような光景が展開されていた。

 

 まさに地獄からの使者とも呼べる者達が、大挙して押し寄せ、徘徊しているのだ。

 

「な、なんなんだ、こいつらは……ッ!?」

 

 大広場で、隊列を組んで身構える警備官達の前に現れた者達――

 

 それは一言で言うなら、”氷で形作られた骸骨”だ。氷の骸骨達が顎をカクカクさせながら、二本の足で歩き、その氷の骨の腕を伸ばし……警備官達へ襲いかかってくる。

 

 だが、仮にも市民を守るため、常日頃、戦闘訓練を受けている警備官達だ。その程度の化生には怯まず、サーベルや警棒、拳銃などを手に、必死の応戦を続ける。

 

 が――

 

「だ、駄目です、隊長ッ!やはり、突いても、叩いても倒せません!?」

 

「くっ!?」

 

 何度攻撃を加えて、氷の骨のパーツをバラバラにしてやっても……氷の骸骨達はひとりでに組み上がって復元され、すぐに起き上がって、再び襲いかかってくる。

 

 そして、北から押し寄せる敵の数は増す一方……最早、どうしようもなかった。

 

「ひぃ!?こ、ここは一旦、引きましょう、隊長!?」

 

「駄目だ!こいつらは窓や玄関を破って家屋へ侵入し、片っ端から住民へ襲いかかっている!住民達を避難させるまで、我々がここで食い止めなければならんッ!」

 

「しかし、我々の装備ではこいつらは倒せないッ!このままでは――」

 

 警備官達の間に、徐々に動揺と絶望が走り始めた――その時。

 

「ぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――ッ!?」

 

 何者かが吹雪をかき分け、猛然とその場へ突進し、飛び込んでくる。

 

「くたばれッ!」

 

 魔力を付呪した、グレンの拳の一撃が。

 

「お客様、山はあちらでございますッ!」

 

 ジョセフの大鎌の一振りが。

 

「いいいいいいやぁああああああああああああああ――ッ!」

 

 グレンと同じく魔力を付呪した、リィエルの大剣の一閃が。

 

「さっさと、成仏しろやぁああああああああ――ッ!」

 

 アリッサの周囲に無数に浮かんだナイフが、氷の骸骨達に向かって高速で飛翔し。

 

 警備官達へ押し寄せていた、氷の骸骨の群れの先鋒を吹き飛ばし、粉砕する。

 

「≪紅蓮の獅子よ・()()()()()()()()()・吼え狂え≫――ッ!」

 

 続いてシスティーナの黒魔改【セイクリッド・バースト】の浄炎が――

 

「≪聖なる送り火よ・彼等を黄泉に導け・その旅路を照らし賜え≫――ッ!」

 

 ルミアの、白魔【セイント・ファイア】の聖炎が――

 

 合わさって圧倒的な火勢で渦を巻き、その場の氷の骸骨達を瞬時に呑み込む。

 

 グレン達に粉砕された氷の骸骨達や、システィーナ達の浄化の炎で溶け崩れた氷の骸骨達は、そのまま二度と復活する気配を見せなかった。

 

「なんと!?まさか、倒せた……のか!?」

 

「警備官の皆さん!その氷の骸骨達は、白銀竜将の眷属です!」

 

 システィーナの叫びに、警備官達が戸惑いに顔を見合わせた。

 

「白銀竜将の……眷属?」

 

 そう、この氷の骸骨達についても『メルガリウスの魔法使い』に記載されていたのだ。

 

 それを引用するならば――

 

「彼らは、かつて白銀竜将に殺され、あの雪山に凍てついて囚われた魂の亡霊達です!彼らに普通の武器は通用しません!警備官の皆さんは退避して下さい!」

 

 唸る吹雪の中、声を届かせようとシスティーナが必死に叫ぶ。

 

「聞きましたね、警備官の皆さん!貴方達は住民や観光客達の避難誘導を!南側地区へ急がせて下さい!今、その境界にバリケードを作っています!」

 

 続いて、息せき切ってやってきたジョン市長が、必死に指示を出した。

 

「市長!?なんだかよくわかりませんが……」

 

「……わ、わかりました!我々は避難誘導に回ります!」

 

 そうして、浮き足立っていた警備官達がなんとか統制を取り戻し、動き始めた。

 

「しかし――アカンな、これは」

 

 ジョセフが大鎌を振り回して、氷の骸骨達を薙ぎ払いながら、歯噛みする。

 

「これじゃ、いつまで経っても、セリカを助けにいけねえじゃねえか!?」

 

 グレンが魔術的視覚を駆使して、遠くを見渡せば――氷の骸骨達は、アヴェスタ山峰の麓から続々とやってくるようだ。その攻勢はまるで終わりが見えない。

 

「で、でも、私達がここを放棄したら、ホワイトタウンの人達が――」

 

 イブ仕込みの炎術を放ちながら、システィーナも焦りを色濃くする。

 

「だが、白銀竜をぶっ倒さなけりゃ、いつまでも続くぞ!?このままじゃジリ貧――」

 

 セリカを援護して、白銀竜を倒さなければならない。

 

 しかし、セリカを援護したここを放棄すれば、今度はホワイトタウンの危機だ。

 

 この八方塞がりな状況に、グレン達は手をこまねくしかない。

 

 そして、街の備蓄燃料の在庫切れというタイムリミットは無情に迫っている。

 

「先生、ここはウチとアリッサがやるから、先生達は教授の元に行ってください!」

 

「ジョセフ!?いくら貴方達でも、こんな数を相手にするなんて無理よ!」

 

「誰かがここで足止めせんきゃ、いつまで経っても教授の元に行けないし、白銀竜も倒せない。ここで俺達が足止めしてお前達が行った方がええ!」

 

「でも……でもぉ……ッ!」

 

 グレンに囮を申し出るジョセフと、顔を真っ青にして止めに入るシスティーナが言い合っている中。

 

(くそ……ッ!どうする!?どうしたら……ッ!?)

 

 グレンが歯噛みをしていた……その時であった。

 

「ふっ――ここは――」

 

「わたくし達に――」

 

「……任せてください」

 

 突如、三人の少女達がグレンの前に躍り出て、氷の亡霊達の中心に突っ込んでいった。

 

「ぉおおおおおおおおおおおおおおおお――ッ!」

 

 両手の拳に灯した爆炎――魔闘術を振るい、氷の亡霊達の群れを爆砕するコレット。

 

「や――ッ!」

 

 続いてジニーが、破邪のルーンを刻んだクナイを、両手で無数に投げ放ち――その悉くが亡霊達の眉間を正確無比に貫いて。

 

 次の瞬間、氷の骸骨達の間を、白い影が神速で翔け抜けた。

 

「≪鑑覗くは我・映るは汝・我等表裏に在りて・真理目指す輩≫――」

 

 召喚【コール・アドヴェント】フランシーヌが召喚した白い天使(マルアハ)だ。

 

 彼女の魂の在り方を生き写した魔術的従者たる白い天使(マルアハ)が、翼を広げて飛翔し――その細腕が振るう鋭い細剣が、氷の亡霊達を粉々に切り裂いたのであった。

 

「おお!?つ、強い!?」

 

 瞬時にその一角が掃除され、警備官達が驚愕に目を剥く。

 

「ほう?こりゃあ……」

 

「……や、やるじゃない……」

 

「これはまぁ、成長したもんで……」

 

 グレンやシスティーナ、ジョセフも、思わず感嘆の声を漏らしていた。

 

「どうだい?先生よぉ?」

 

「わたくし達も、なかなかやりますでしょう?」

 

「あれ以来、私達も必死に修行していたんですよ。……本物になるためにね」

 

 コレット、フランシーヌ、ジニーが、得意げにグレンへと振り返る。

 

 そして、そんな三人へ続くように……

 

「皆さん、フランシーヌさんに続け!ですわ!」

 

「皆、コレット姐さんを援護よ!」

 

 このスノリアへ来ていた聖リリィ魔術女学院の生徒達も駆けつけ、氷の亡霊へ魔術を振るい始める。

 

 総勢四十名。皆が皆、獅子奮迅の活躍で、亡霊達を押し返していく。

 

 そんな混戦の中……

 

「なぁ、先生!アルフォネア教授を助けに行ってやれよ!」

 

 コレットが炎の拳を振るい、氷の亡霊を片っ端から殴り倒しながら叫ぶ。

 

「そうですわ!ここは私達に任せてくださいですの!」

 

「まぁ、一緒に命がけの雪合戦した仲ですしねー、死なれると寝覚めが悪いんで」

 

 フランシーヌ達凸凹トリオは、なんだかんだ抜群の連携で亡霊達を仕留めていく。

 

 押し寄せる氷の亡霊の群れをものともしない、実に頼もしい立ち回り。

 

 安心してこの場を任せられる――そんな確信が、グレンの中に生まれる。

 

「……先生」

 

「ああ、わかってる!」

 

 そんなルミアの促しに、グレンは力強く頷いた。

 

「お前ら!ここは、任せたぜッ!行くぜ、白猫、ルミア、リィエル、ジョセフ、アリッサ!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

「「りょ」」

 

 グレンの言葉に、四人が声を揃えて応じて。

 

 いつもの三人娘と二人の連邦組を引き連れ、グレンはその場を後にするのであった。

 

「警備官!隊の一部を割いて、ここで戦う彼女達を援護してください!敵を倒せぬとも、足止めなどの援護は可能なはず!よろしくお願いします!」

 

「了解ですッ!市長ッ!」

 

 そんなジョン市長の指揮に警備官達も応じ、フランシーヌ達の援護に動いて。

 

 今、吹雪の中のスノリア攻防戦が、幕を上げるのであった――

 

 

 

 






今回はワシントン州です。

人口720万人。州都はオリンピア。主な都市にシアトル、タコマ、スポケーン、トライシティーズ(州の南部に位置する三つ子都市の総称)です。

愛称は常緑の州で、42番目に加入しました。

1846年にオレゴン境界紛争を解決するためのオレゴン条約が結ばれた結果、イギリスから割譲されたワシントン準州の西側が現在のワシントン州になりました。1889年にアメリカ合衆国42番目の州として認められました。

カリフォルニア州、オレゴン州と共にリベラルな気風で、保守的な中西部に対して「レッドウッド・カーテンの向こう側」と称されます。

近年ではマイクロソフトの本拠地であり、スターバックス発祥の地などとして知られます。

日本では、州の中心都市シアトルがMLBシアトル・マリナーズの本拠地がある点、任天堂のアメリカ本社がある点でも知られています。

州の名はアメリカ建国の父で初代アメリカ大統領ジョージ=ワシントンに由来しており、大統領の名が付けられたことでは合衆国の中で唯一の州です。

そのため、首都ワシントンをわざわざD.Cと付けて区別しています。

元々、ワシントン州のある地域は、コロンビア川にちなんで「コロンビア」と呼ばれており、ワシントンD.Cがコロンビア特別区と呼ばれることから、混乱を避けるためにワシントン州とされました。

アメリカ大陸北西端に位置し、見た目は辺鄙な場所なのですが、全米有数の大都市シアトルがあるお陰で人口も順調に増加しています。

酪農が盛んで、人口の2倍以上の牛がいるとも。

オレゴンと並び最もリベラルな州としても知られ、新しい物が好きです。そんなわけで、アメリカで最も早くサッカーが浸透した地となっています。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。