ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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先日起きた、京都アニメーション放火事件で33人亡くなられるという今までにない、非常に悲惨な事件が起きました。

自分は、あんまりアニメを見ないのですが、今、二次小説を執筆しているロクアカと共に数少ないお気に入りのアニメ作品が、京アニで制作されたヴァイオレット・エヴァ―ガーデンでした。

小さいことながらも、この作品にもジョセフの義手にヴァイオレット・エヴァ―ガーデンから着想を得ました。

今回の事件では、とにかく非常にショックを受けております。

それと共に、過去に京アニと何があったのか、自分にはわかりませんが、いかなる理由であれ、取り返しのつかないことをした犯人には許しがたい怒りを感じております。

来年には劇場版のヴァイオレット・エヴァ―ガーデンが公開される予定ですが、例え、延期になったとしても、観に行きたいと思いますし、自分がやれることは非常に小さいことですが、京アニの再建に貢献できることはしたいと思います。

今回の放火殺人事件で亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、怪我された方のご回復をお祈りします。

そして、再び京アニの作品が日本に、世界に羽ばたかれる日が来るのを心からお祈り申し上げます。

長くなりましたが、それではどうぞ。





151話

 

 

 

 

 ――。

 

 ――――。

 

 ――どれくらい時間が経っただろうか。

 

「……ぅ……ん……?」

 

 まだ帝国に来る前の、ある夢を見たアリッサの意識が徐々に覚醒する。

 

 暖かい。あの冷たく突き刺さるような風雪が感じられない。

 

 洞窟か何か、風雪を凌げる場所にいるのだろうか?

 

 泥濘を漂う泡が、ゆっくりと浮上していくように。

 

 徐々に、徐々にアリッサの意識が覚醒し、やがて、その重たい瞼が開かれる。

 

「……、……こ、ここは……?」

 

「おう、気付いたか?アリッサ」

 

 呼ばれてアリッサが視線を動かせば、隣にタオルケットにくるまれたジョセフが明後日の方向を向いていた。

 

 実は、雪崩に埋もれる直前に、ジョセフは黒魔【グラビティ・コントロール】で体重を軽くし、白魔【ウォーター・ブリージング】で呼吸を確保して凌いだ。無論、右手で口元を覆い、エアポケットを作っておく――雪崩対策の基礎の基礎も忘れない。

 

 こうしておけば、雪崩に巻き込まれても、左程深く埋もれずに済むし、気絶しなければ呪文も唱えられる。呪文さえ唱えられれば、後はどうとでもなる。

 

 まぁ、賭けみたいなものではあったが、上手くいった。

 

 その後は圧縮したシャベルを展開し、雪の中にかまくらを作るようにスペースを確保し、上部に通気確保のための人一人分の穴を開けて、風雪を凌いでいた。

 

「……ジョセフ……?」

 

 アリッサが呻く。身体がとてつもなくだるい。

 

 未だ意識に白みがかかっているアリッサは、ゆっくりと周囲を見る。

 

 周囲を見ながら、自分とジョセフの置かれたこの状況を、ゆっくり認識していく。隅に立て掛けてあった自分とジョセフの衣服があることに気付く。

 

 そして、タオルケットにくるまれた自分の身体を見る。

 

 ――やがて。

 

「~~~~ッ!?」

 

 自分があられもない姿になっていたことに気付いたアリッサが、顔を真っ赤にして、慌てて身体をタオルケットに隠した。

 

 空間を作ったジョセフは、その後、濡れて重くなっていた自分の衣服を脱ぎ、上半身裸の下着姿になり、同じく濡れて重くなっていたアリッサの衣服を剥ぎ取った。

 

 防寒具とセーターを脱がし、冷たく湿って透けたブラウスを脱がし、肌着と上の下着(ブラジャー)を、その腕からそっと抜く。

 

 帝国に派遣された最初はフェジテと帝都オルランドにそれぞれいた二人だが、これまで任務を共にこなしていた同い年の女子の衣服を勝手に脱がす……そんな行為に、抵抗はあったが、今はそれどころではないと、体温を奪われないようにしなければならないとジョセフは切り替え、まだマシな状態であった自分の防寒具のコートを地面に敷き、背嚢から大きなタオルケットを取り出して、体温の確保に努めていたのだ。

 

「ちょ、ちょっ!?じょ、ジョセフッ!?これは、どういう――……ッ!?」

 

 だが、()()()()()()をしてしまったアリッサは、しばらくの間、口をぱくぱくさせて、言葉を失っていたが。

 

 やがて、なぜこんな状況なのか、すぐに理解し、溜息を吐く。それでも気恥ずかしさからか、視線をそらして頬を赤くしたまま言った。

 

「……助けてくれたのね」

 

「……当たり前だ」

 

 ジョセフの態度は素っ気なかった。

 

 それから、二人の間に気まずい沈黙が漂い続けた。

 

 上の穴から見える外は、風雪の勢いが激しい。

 

 やがて、そんな沈黙に堪えかねたのか、アリッサがぼそりと口を開いた。

 

「……これで、何回目なんだろう?貴方に、助けられたの」

 

「これで、三回目だ」

 

 ジョセフは即答だった。

 

「最初は、北部戦線の時。次はクスコ帝国のカルテルの首領の暗殺の時。そして、今日で三回目だ」

 

 ジョセフから淡々と助けられた回数を言われたアリッサは、ジョセフから顔を背ける。

 

「……なぁ、アリッサ。お前、なんで、フェジテに来ようと思ったんだ?」

 

「……え?」

 

 突然、要領を得ないジョセフからの問いに、アリッサはきょとんとする。

 

「フェジテ最悪の三日間の後、大佐から聞いたんやけど……人員を再配置する時、お前が名乗り出たんだろ?」

 

「…………」

 

 あの騒乱の後、マクシミリアンからそう聞かれたジョセフは、顔を背けるアリッサからの答えを待つ。

 

 すると。

 

「……貴方よ」

 

 すると、まるで今まで何か溜めこんでたものがこれ以上、抑えきれない。そういいたげな表情で、アリッサが零した。

 

「……貴方よ、ジョセフ」

 

「……どういうことや?俺が何……?」

 

「貴方を取られたくなかったからよ」

 

 ジョセフは一瞬、どういうことなのかわからなかったが、いつになく真摯な表情で、アリッサの眼を見やる。

 

 冗談とかを言っているような表情ではなかった。

 

「あの時、貴方に助けられて、軍に入ってからしばらくは本当にただの同僚だと思っていたわ……あの騒乱までは」

 

 そう言って、一旦、言葉を切るアリッサ。

 

 ジョセフはアリッサの言っていることがほとんど理解できない。だが、決して無意味な話ではないことは理解できた。

 

 なにより――今回の彼女の学院の編入には自分が絡んでいるのは間違いないのだから。

 

「ふふ、もう本当に、私も年頃よね……貴方にこんな気持ちを持つなんて。いえ、貴方だから……なのかな」

 

 まるで気持ちを抑えられないとばかりに、自分の胸にぎゅっと手を握りしめながら呟くアリッサに、ジョセフは無言で押し黙る。

 

「ねぇ、ジョセフ」

 

「…………」

 

 アリッサはジョセフの元に寄り添ってくる。

 

 アリッサの顔は……奉納舞踊前日に見せたあの酔った時の顔だった。

 

 頬は赤くなっており、目は熱っぽく潤んでいる。口は半開きになっており、息が微かに荒いのがジョセフにもわかった。

 

 今まで抑えて、抑えていた気持ちがもう溢れてしまっているような、そんな顔だ。

 

「アリッサ、お前……」

 

 ここに来て、もしかしてと思ったジョセフが何か言おうとした、その時。

 

 突然、アリッサが自身をくるんでいたタオルケットを脱ぎ捨てたのだ。

 

 そのためか、アリッサの生まれたままの姿が露わになる。

 

「ちょっ!?おま――」

 

 この突然の行動に、さすがのジョセフも固まってしまい、反応が遅れる。

 

 その隙を突くようにアリッサはガバッとジョセフに飛びつき、ジョセフのタオルケットをこじ開ける。

 

 ジョセフの少年らしい程よく引き締まった身体が露わになり、アリッサは抱きついた。

 

 そして、素早くジョセフのタオルケットを取り出し、自分とジョセフをくるんでしまう。

 

 アリッサはその白い細腕をジョセフの肩と背中に回し、自分の細腰を引き寄せ、密着する。

 

 ジョセフの胸元には、アリッサの豊満な双丘が形を変えて密着し、それを通してお互いの鼓動がジョセフとアリッサにそれぞれ伝えあっている。

 

「おまっ!?バカ、一体、なにを――ッ!?」

 

「あの娘に取られたくないの……ッ!」

 

 きつく抱きしめながら、アリッサがそう言う。

 

「私、フェジテの騒乱の時の学院の屋上で、貴方とウェンディが抱きしめ合っているのを見たの」

 

「……ッ!?」

 

 その言葉に、ジョセフは魔人との決戦前日の夜のことを思い出す。

 

 確かあの時、ジョセフはウェンディを失うのが怖いという心境を泣きながら吐露し、ウェンディとしばらく抱き合っていたのだ。

 

 アリッサがあの娘には取られたくないと言った、その意味がようやく理解できた。

 

 あの娘というのは、ウェンディのこと。

 

 そして、なぜそう思っているのか?とか、聞く必要はなかった。

 

 なぜなら――

 

「ジョセフ。私、貴方のことが好きなの。あの時、今まで経験したことないような、気持ちに襲われて……なんだか、モヤモヤのような、胸を締め付けられるような、そんな感じがして……」

 

「…………」

 

「でも、学院に編入して、貴方と接していくうちに段々とこの気持ちがわかってきたの。ああ、好きなんだなって……」

 

「…………」

 

「その気持ちに気付いたら、どんどんと日増しに強くなっていって……もう、抑えきれないの」

 

 さらに身体を密着して、顔を近づけてくるアリッサ。

 

 もう、あと少しでお互いの唇が触れそうになるほど近い。彼女の熱っぽい息が感じる。

 

「ねぇ、ジョセフ。私の傍にいて。私を一人にしないで」

 

「…………」

 

「私は貴方しかいないの。何もかも、あの戦争で失って……だから、ウェンディのところに行かないで。一人にしないで」

 

 アリッサの、熱っぽく潤む目の奥は、まるで、親鳥を探す迷子の雛鳥のような、弱々しい目をしていた。

 

(……そうか、姉さんの言っていたことはそういうことなんか)

 

 今にもキスしそうなアリッサを横目に、旅行に行く前に言われたダーシャの言葉を思い出し、納得した。

 

 ジョセフはダーシャにアリッサのことも見てと言われたのだ。

 

 あの時は、彼女の言葉の真意はわからなかったが、今となってその意味もわかった。

 

 アリッサは、連邦とレザリア王国との戦争で、裏切り者として両親が殺されている。

 

 それだけじゃない。

 

 母を亡くしたが、≪連邦の狂犬≫とか、帝国ではウェンディがいるのに対し、アリッサは今まで親交のあった親戚、友人ですらも失っていたのだ。

 

 そんな状態なのに、そこにジョセフがもし、連邦軍を辞めて離れてしまったら……

 

 ダーシャのアリッサを見てという言葉の真意は、アリッサのことを寄り添えられるのは、似たような経験を持つジョセフしかいないということを言いたかったのだ。

 

(……我ながら、罪な男やな)

 

 そう思うと同時に、そう遠くない頃に、決めなければならないとジョセフは思っていた。

 

 片や軍を辞めて欲しいと思っている幼馴染。

 

 片や軍を辞めてほしくなく、傍にいてほしいという距離が近い同僚。

 

 ジョセフは今、この二人にそれぞれの腕を掴まれている状態であった。

 

「ジョセフ……」

 

 もう抑えきれないのだろう、今にでもキスしそうな感じで身体をさらに密着してくるアリッサ。

 

 ジョセフが逃げないようになのか、片脚を両脚で挟んでホールドしている。

 

「……すぐに、返事しなくてもいいの。でも……」

 

 ジョセフの頬にアリッサの白くほっそりとした両手が添えられる。

 

「私、もう抑えきれないの。……だから、私の気持ち……受け取って……」

 

 そう言うと。

 

 アリッサはジョセフの返事を待たずに唇と唇を重ねた。

 

 最初は唇をついばむような感じの、軽いキスから始まる。

 

「んっ……ふぅ……」

 

 そして、段々と二人のキスは、熱く、激しく、情熱的なキスになっていく。

 

「ふっ……はっ……はふっ……ん……んんっ……」

 

 アリッサは何度も何度も角度を変える。酸素が、思考が奪われていく。

 

 ジョセフは息苦しかったのが耐えきれなかったのか、口元が緩んだ。

 

 アリッサは無意識なのか、そこに自分の舌を入れ、さらに激しくキスをした。

 

 そして、二人の熱く、甘く、激しい営みが空間を支配して行われていくのであった。

 

 

 

 

 

 

「……よし。服は乾いてるな」

 

 それからしばらく経って。

 

 ジョセフは自分の服の乾き具合を手で確かめ、乾いていると判断し、すぐ着替える。

 

 その隣では、アリッサが下着を付け、服を着る。

 

 先に着替え終えたジョセフが穴から顔を出し、現在地を確認する。

 

 そこは、どうやら山間に口を開いた、狭い谷底のような場所だ。

 

 辺り一面に降り積もった雪と渦巻く吹雪は相変わらずで、雪崩で流されたせいか、山頂への正規ルートを大きく外れてしまっているようだった。

 

 雪崩で流されでもしない限り、絶対に足を踏み入れないような場所だろう。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 ジョセフは、一旦、頭を引っ込めて事態の打開方法を探る。

 

 と、その時。

 

「ねぇ、ルミア。本当にここなの?ジョセフ達が流されたのは」

 

「うん、ここに二つの反応があるし、ここから少し先にも反応があるから、間違いないと思う」

 

「でも、ここ、かまくらもなにもない」

 

 どこからか、聞き覚えのあるような、三人の声がこちらに近づいてきているような気がした。

 

 まさか。

 

 ジョセフはもう一回頭を出し、誰かいないか辺りを見回す。

 

 すると。

 

「ジョセフ君!システィ、ジョセフ君を見つけたよ!」

 

「えっ!?どこ、どこ!?って、なんで、頭だけが出ているの!?」

 

 声がした方へ振り返ると、そこには三人の人影があった。

 

 システィーナ、ルミア、リィエルだ。

 

「あ、お前ら、来てたんか。おい、アリッサ、三人娘が来たで」

 

 ジョセフは穴から出て、かまくらにいるアリッサに声をかける。すると、アリッサも穴から出てくる。

 

「良かった、二人とも無事で」

 

「まぁな。地中にかまくらみたいな空間作っていたからな。それにしても、ようここだってわかったな」

 

「だって、魔導発信器の反応がここにあったから、もしかしてと思って探したの。でも、ここにかまくらとか風雪を凌げる場所がなくて、もしかして、埋もれているんじゃと思っていたから……とにかく、良かったよ、二人とも無事で」

 

 そう言えば、そうだったなとジョセフは遭難した時に魔導発信器を持たされていたということを思い出した。

 

「で、先生はまだ見つかってないんか?」

 

「うん。でも、あと一つ、ここからちょっと先に反応があるから、もしかしたらそこに先生がいるのかも」

 

「了解、じゃあ行くか、長居はしたくない」

 

 反応がある方向を指さすルミアに、ジョセフはその方向に向かって歩き始める。

 

 ただでさえ、大幅なロスタイムが出来てしまったのだから、一秒たりとも無駄にはできなかった。

 

 それについてくるように、アリッサ、システィーナ、ルミア、リィエルもついていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

「最低ぃいいいいい――ッ!?最低最低最低最低最低ぃいいいいいい――ッ!」

 

 今、いるのは洞窟内。

 

 そこでは、ぐるぐるお目々で詰め寄ってきて、ぎゃんぎゃんわめき立てるシスティーナと。

 

「どう見ても()()です。本当にありがとうございました」

 

 セリカと一緒に上半身裸で一つのタオルケットの中に入っていたグレンが、顔を掌で覆って、盛大な溜息を吐いていた。

 

 今の状況を考えて、決してアッチのことではないというのは明らかなのだが。

 

((……バレなくてよかった))

 

 システィーナ達が来る前までは、()()()()()()()()()ジョセフとアリッサはそっとそう思うのであった。

 

「……システィーナ。これは、本当にマズいことになってしまったわ。このままだと――」

 

「やめてぇええええええええ――ッ!?それ以上、言わないでぇええええええええええ――ッ!」

 

「――ばっ、違うって!?いいから落ち着いて話を聞け――」

 

「うるさいうるさいうるさいっ!このバカバカバカバカバカぁ――ッ!」

 

「あわわわ……そ、それが大人の……大人の……あ、あぅ……」

 

「ねぇ。なんで裸なの?なんで?」

 

 アリッサがわざとグレンとセリカは()()()()()()()()()()耳打ちし、そこからはもう大騒ぎであった。

 

 てか、システィーナ、うるさい。

 

 それを尻目にセリカは、ふっと口元を微かに緩ませる。

 

「……ありがとうな、グレン。お前が居てくれて、本当に良かった」

 

 そう呟いて、セリカは火にかけて乾いた衣服を纏い始めるのであった。

 

 

 

 






今回は、ここまでで

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