ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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それでは、どうぞ


152話

 

 さて、システィーナ達と合流する前、ジョセフとアリッサが甘く、熱く、激しい一時をしていた頃。

 

 スノリア地方から遠く離れたある有力貴族の領地。

 

 その領地は、一人の少女の実家であるため、秋休みに二人の親友を連れて帰省して過ごしていた。

 

 そしてその夜、その少女の実家である領主の屋敷の、ある部屋にて。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 時分はまだ深夜。

 

 そんな時、普段、ツインテールて纏めていた髪を下ろしていた茶髪の少女は、さっきまで見ていた夢でベッドから跳び起きていた。

 

 自分の部屋で、幼馴染と身体を重ねていた夢はまだ記憶に残っている。

 

 すごく身体が熱くなっていて、思考が、理性が奪われていく感じ。

 

 時に小刻みに、時に激しく幼馴染のモノが自分の中で動き、変な声が出て、段々と息が荒くなっていく感じ。

 

 そして、最後に何か込み上げそうになって――それが脳まで来た時に、そこで夢は終わった。

 

 でも、その記憶がなぜかはっきりしており、心臓がばくばくと暴れている。

 

「……ハァ……ハァ……んっ……」

 

 なんだろう、この気持ち。

 

 いや、本当はわかっている。この気持ちの正体をその少女は知っている。

 

 もう誤魔化せないほど、強くなっている。

 

「……ジョセフ……」

 

 会いたい。

 

 まだ一ヶ月も経っていないのに、会いたい。

 

「……会いたいですわ、ジョセフ」

 

 そう呟きながら、少女――ウェンディは両手を胸元でぎゅっと握りしめていた。

 

 一方、別の部屋でも。

 

「ん……あっ……うぁ……ぅ……んくぅ……んんっ……ッ!」

 

 声を押し殺しながら疼く自分の身体をまさぐっているモデル顔負けの体形の少女。

 

 彼女もまた、自分の気持ちが抑えきれなくなっていた。

 

 あの時の休み時間で自分の気持ちに気付いてしまい、それ以降、彼に対する想いは強くなっていくばかりであった。

 

 今日は、どういう男性が理想なのかとか、そういう話をしている途中にふと彼のことを考えてしまい、結婚して子供何人欲しいとかそういう話になった時、そういう想像をしてしまったのが、彼女の身体を疼かせてしまうことになってしまった。

 

「んっ、んっ、んっ……はぁはぁはぁ……と、止まらない。はぁはぁ……止まらない……んぁぁ……ッ!」

 

 どうしよう、今までで一番、疼いている。

 

 もう無理。彼に会いたい。会って、この気持ちを告白して抱きしめたい。

 

 そんな思いが、彼女をさらに激しくさせる。

 

「あきゃ……ッ!あっあっあっ……ッ!ジョセフッ!ジョセフゥ……ひぐぅ……ッ!?」

 

 もうダメ、好き。好きで好きで好きすぎてどうにかなりそう。

 

 彼女――テレサはそんなことを思いながら、さらに熱く疼く自分の身体をまさぐりまくるのであった。

 

 ウェンディとテレサ。

 

 彼女もまた、アリッサと同じようにジョセフのことが好きになっていた。

 

 そして、その気持ちは――もう抑えきれなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、アヴェスタ山脈のどこかにある洞窟にて。

 

 色んな誤解を解いて、ようやく騒動は落ち着いた。

 

 一同は、焚き火を囲んで腰かけ、顔を突き合わせている。

 

「……そう言えば、誰か遭難した時のために、互いに魔導発信器持たせてたなぁ」

 

 身支度を整えたグレンは、焚き火の揺らめきを目で追いながら、ぼやいていた。

 

 その手が弄ぶのは、宝石型の魔導発信器だ。

 

「ごめんなさい、先生。もっと早く迎えに行きたかったんですが……あの後、私達、ホワイトアウトに見舞われてしまいまして……」

 

「ん。一歩も動けなかったから、かまくら作って休んでた」

 

 申し訳なさそうに弁明するルミアに、リィエルが捕捉する。

 

 そして。

 

「……で、これからどうするんですか?」

 

 むっすぅー、と。ひたすら不機嫌そうなシスティーナが刺々しく言った。

 

 やはり、早急に決めねばならない案件は、次なる行動についてだ。

 

 システィーナはそれを改めて、一同の前に突きつけたのだ。

 

「あまり長くこの場所に留まっていられませんよ?一刻も早く白銀竜を倒さないといけないんだし。……それに、こんな所にいたら、私達の貞操も危ないし?」

 

 じとっと、グレンを睨むシスティーナ。含むものがありまくりであった。

 

「だから、もう誤解は解いたろうに……畜生め」

 

 グレンは溜息を吐きながら、頭をかく。

 

「まったく、お前は……しっかし、本当にどないしますか?先生」

 

 ジョセフが呆れ半分に苦笑いすると、話を進行させる。

 

「大分流されてしまっているでしょ?ルミア、地図ではどうなっとん?」

 

「うん。今、地図で確認したんですけど……ジョセフ君の言う通り、雪崩で大分流されてしまいました。この位置から山頂を目指すと、地形関係的に、もの凄い迂回路を取らないと……」

 

「ああ、わかってる。凄まじいタイムロスだ。山頂に着く頃には、冗談抜きでホワイトタウンが滅亡してる」

 

 グレンが苦々しく歯噛みする。

 

「ったく、助かったとはいえ……随分と辺鄙な場所へ来ちまったもんだ」

 

「ですよね……ここ、昔の坑道?でしょうか?」

 

 システィーナが周囲の洞穴内部を見回しながら、呟いた。

 

「ここに坑道ね……一見、なにもなさそうなんだが、なぜ、人工洞穴がここに……?」

 

「まぁ、こんな辛気臭い場所は、とっととおさらばするとして、だ。問題は……」

 

 グレンが何かを言おうとすると。

 

「ん。皆、もう、かなり疲れてる。ここを出て山頂を目指せば、もっと疲れる」

 

 察したらしいリィエルが、ぼそりと口を挟んだ。

 

「でしょうね。これ以上、疲労が重なると……白銀竜に勝てませんし。どうしたものか……」

 

 これまで数多くの死線をくぐり抜けたジョセフが言わなくとも、誰もが薄々わかっている。

 

 一体、どうしたものか?そう手をこまねいているうちにも、貴重な時間が、残り少ない燃料が、刻一刻と出血し続けている。

 

 八方塞がり。重苦しい沈黙が、グレン達にのし掛かっていると。

 

 それは唐突だった。

 

「……こ、ここは……?いや……まさか、そんな……」

 

 先ほどから、ずっと洞穴の奥を見つめていたセリカが……ふと、立ち上がったのだ。

 

「……セリカ?」

 

 グレンの言葉に応じず、セリカが洞穴の奥へ、ふらふらと進む。

 

 ……まるで何かに引き寄せられるかのように。

 

「お、おい……どこ行くってんだよ?あんまり奥へ行くと……」

 

「嘘だろ……私は……ここを知っている……?」

 

「はぁ?」

 

「それに……誰かが、私を呼んでいる……?」

 

 意味不明なことを呟き、セリカはそのまま奥へと歩いて行ってしまった。

 

「……おい、お前ら、動く準備しろ。……追うぞ。何か様子がおかしい」

 

「は、はい……」

 

 グレン達は慌てて荷物を纏め、火の後始末をし、セリカの後を追うのであった。

 

 

 

 

 セリカを追うように洞穴内を奥に向かって歩いて行く。

 

(はぁ……『タウムの天文神殿』の二の舞はごめんなんだけど)

 

 以前、似たことがあったようなことを思い出し、ジョセフは溜息を吐く。

 

 セリカは、指先に灯した魔術の光を頼りに、淡々と歩いて行く。

 

 まるで何かに急かされるように歩いて行く。

 

(しかし、教授、本当にここを知っているのか?)

 

 まるでかつてここに来たことがあるのか、道を知っているように迷うことなく歩いてくセリカ。

 

 歩く、歩く、ひたすら歩く。

 

「おい、セリカ。マジでどうしたっていうんだ……?」

 

 ほんの少し苛立ったようについてくるグレンの言葉も耳に入っていないようだ。

 

 まるで、何かを追っているようにも見える。

 

 ジョセフは追いながら坑道を見る。

 

 ここは、恐らく昔の廃坑道なのだろう。複雑に分枝する道を、右へ、左へ、また右へ。

 

 坑道の奥へ。さらにさらに奥へ。

 

 指先に灯した光を頼りに、セリカはひたすら進んでいく。

 

 ……やがて、どれくらい歩いただろうか。

 

 不意に、狭苦しい視界が一気に広がった。

 

「ここは……ッ!?」

 

 背後で、グレン達の驚く声がする。

 

 石積みで作られた円形の空間だ。複雑な紋様が刻まれた円柱が幾本も聳え立ち、天井は遥か高く闇に吸い込まれて見えない。本当に天井があるのかも疑わしい。

 

 間違いない、この空間は――

 

「嘘!?古代遺跡……ッ!?こんなところに古代遺跡があったの……ッ!?」

 

 一瞬、システィーナが驚きにも歓喜にも満ちた叫びを上げるが。

 

「ひ――ッ!?」

 

 次の瞬間、真っ青になって言葉を失っていた。

 

「……なんてこった、酷ぇな」

 

 グレンが顔をしかめて呻く。

 

 ルミアも口を押さえて息を呑み、リィエルが無言で周囲を警戒する。

 

 ジョセフとアリッサはソレの下へ向かい、懐中電灯で当てる。

 

 この円形空間には……無惨に干からびたミイラが、大量に転がっていたのだ。

 

 そして、そのミイラが纏う特徴的な三角白頭巾と白ローブから察するに……

 

「こいつら、≪銀竜教団≫のメンバーか……?となると、ここは……」

 

 ジョセフはミイラ化した≪銀竜教団≫のメンバーを見る。

 

 長年、放置されたわけではない。先日までホテル占拠を起こした連中だ。

 

 ではなぜ、教団員達はミイラ化して転がっているのか?

 

 ジョセフが周囲を見回すと、そんな惨状をまるで無視して空間の中央へと進んでいくセリカの姿があった。

 

 ジョセフはアリッサに中央に指さすと、アリッサは頷き、二人はセリカの後を追うように中央へと進んでいく。

 

 中央には、四角錘型の巨大な祭壇があり、正面の斜面には階段があった。

 

 セリカは階段を上り……やがて祭壇の天辺に立つ。

 

 ジョセフとアリッサもセリカに少し遅れ、祭壇の天辺に立つ。

 

「おい、アリッサ……これ……」

 

 ジョセフが祭壇の中心を見やると、そこには、白骨死体とミイラと……割れ砕けた氷塊の破片が一面に広がっていた。

 

「これ、永久氷晶ね。封印の魔力を感じる……それが砕け散っているということは……」

 

「何かが封印されていたんだろう。そして――」

 

 ジョセフは氷塊の破片を拾って、白骨死体とミイラ化した――恐らく教団員の死体と、周囲に転がっていたミイラを見て、状況を推理する。

 

「その封印を解くために、こいつらは生け贄として魂やらマナやらなんでもかんでも吸い取られちまった、ってわけだ。そして封印されていたのは……あの白銀竜や」

 

「でも、それって極めて高度な技術でしょう?それに、自分の魂を犠牲にしてまで白銀竜を解き放つかしら?連中、とてもそういう度胸持ってなさそうだけど」

 

「恐らくこいつらの背後にいた別の組織がやったんだろうよ。尤もらしいこと言って、そう仕向けたのさ。悲願だとかそう唆してな」

 

「となると、こんな高度かつ、非人道的な行為を躊躇わない組織は……」

 

「ああ、()()()()しかいないだろうよ。……ったく、こんなところにまで出しゃばりやがって」

 

 しかし、動機はなんだ?今回はルミアが狙いではないのは確からしいが。

 

 ジョセフがあの組織が起こした今回の行動の動機を考えていると。

 

「おい、セリカ……お前、本当に大丈夫なのか?」

 

 階段を駆け上がってきたグレンが、セリカの隣に立った。

 

「って、なんだこりゃ?」

 

 そして、グレンは祭壇の中央に転がっている白骨死体とミイラと割れ砕けた氷塊の破片が一面に広がっている光景を見やる。

 

「おい、これって、永久氷晶だぞ?封印の魔力を感じる……それがこう砕け散ってるってこては……ここには、何かが封印されていたってことか?」

 

 グレンが訝しげに氷塊の破片を拾って、状況を推理する。

 

 と、その時だ。

 

「グレン」

 

 セリカがグレンに背を向けたまま、ぼそりと口を開いた。

 

「どうした?」

 

「まだ、全てを思い出したわけじゃない。というか失った過去のほとんどが、未だ白い霧の向こう側だ。私が一体、何者なのか……なんとなくわかった気がする」

 

 神妙にそう呟くセリカに、グレンは表情を硬くする。

 

 しばらく、二人の間に奇妙な沈黙が漂う。

 

 なんと声をかけてやったら良いかわからず、グレンが困惑していると。

 

「……ふっ」

 

 セリカが背を向けたまま笑った。

 

「……セリカ……その、お、俺は……」

 

「おいおい、どうした?グレン。傷つくなぁ。なんだ、その反応は?……私が何者だろうが、お前には関係ないんだろう?」

 

「…………」

 

「しっかし……まいったなぁ。私は、どうも思った以上にロクでもない存在だったっぽいぞ?ははは……なんか、自分でもしんじられん。だが……」

 

 くるり、とセリカが振り返る。

 

 その表情にグレンは驚きを隠せなかった。なぜなら――

 

「関係ないね。私は私だ。私が何者だろうが、私をお前は家族。……そうなんだろ?」

 

 輝かんばかりの自信に溢れた不敵な笑い――いつも通りのセリカがそこに居たからだ。

 

「セリカ……?」

 

「それに、お前、私に『正義の魔法使い』になって欲しいんだっけか?お前が一生かかっても追いつけないくらいの『正義の魔法使い』に?いいぜ、なんつーか、ガラじゃないけど……なってやるよ。だから――」

 

 だが、その笑顔は、いつも通りに不敵で力強かったが――

 

「頼む、グレン。私のことを……どうか最後まで見ていてくれ。たとえ何があっても」

 

 ――今にも泣き出してしまいそうな、笑顔であった。

 

「先生!」

 

「アルフォネア教授!」

 

 と、その時、システィーナ達が、慌ただしく階段を駆け上ってくる。

 

 セリカがくるりと背を向け、システィーナ達から顔を隠す。

 

「どうしたんですか?何かあったんですか?」

 

 グレンとセリカの間の奇妙な空気に、システィーナが小首を傾げて聞いてくるが。

 

「い、いや……別に……」

 

 グレンは、そんな気の利かない曖昧な返答しかできない。

 

 すると。

 

「さて。お前達……準備しろ」

 

 セリカが突然、そんなことを言い出した。

 

「早速だが、竜退治だ」

 

「はぁ!?何を言ってるんですか、教授!?私達、こんな所に居て――」

 

「竜は、あっちに居る」

 

 セリカが頭上を向く。

 

 そこには、天井の見えない無限の闇が広がっていた。

 

「そ、それって、どういう……?」

 

「感じるんだ。理由はわからない。だが、私は確かに竜の存在を感じる。竜は、あっちで……私を待っている」

 

 呆気に取られる一同の前で、セリカが指を打ち鳴らす。

 

 ぼんっ!と、召喚されたのは一本の古びた箒であった。セリカの飛行魔導器である。

 

「過去、因縁、怨恨、罪……そんなものはもう知らん。今を生きるお前達のために、私は戦おう。あの竜をブチ殺してやる。……私の『正義の魔法使い』としての初仕事だ」

 

 だから、と。

 

 セリカはグレン達を振り返って、言った。

 

「お前達も、私に力を貸してくれ」

 

「あ、あったりまえだぜ!」

 

 迷いなく、頷くグレン達。

 

「……ありがとうな」

 

 セリカはそんなグレン達を、どこか眩しいものを見るかのように、どこか手の届かないものに憧れるかのように……目を細めて見つめるのであった。

 

 

 

 

 

 







ん~、冒頭のやつ、多分大丈夫でしょ(笑)

感想、お待ちしてますおすし(?)

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