ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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それでは、どうぞ。


157話

 

 

 

 

「グレン先生、ジョセフさん、システィーナさん、ルミアさん……お辛いと思いますが、法医師として正直に言います。リィエルさんは、もう……()()()()()()

 

 白い寝台と薬品棚が並ぶ、学院の医務室にて。

 

 法医師セシリアが痛ましそうにそう断言するのを聞いて、グレンは目の前が真っ暗になるような思いだった。

 

「う、嘘……」

 

「……ッ!?」

 

「…………」

 

 グレンの背後から、システィーナが呆然とし、ルミアが息を呑み、ジョセフが嫌な予感が当たったと言わんばかしに目を閉じるような気配が伝わってくる。そんな三人の動揺と困惑と一種の諦観を背中で感じとりながら、グレンは脂汗を額に浮かべ、苦悩の表情で目を閉じ、拳を握り締めていた。

 

 ジョセフのみならず、皆、嫌な予感はしていたのだ。教室で急に倒れたリィエルは、法医呪文を何一つ受け付けなかった。霊的な視覚で見れば、そのリィエルの体内マナはかつてないほど弱々しく、まるで()()()()だ。まるで風前の灯火。寿命が尽きかけているかのようだったのだ。

 

 リィエルがただの病気ではないこと、すでに死神の鎌に捕まっているであろうことは、あの教室内の誰の目から見ても明らかだったのだ。

 

「今の私に可能なのは延命処置だけなんです……本当に申し訳ありません……」

 

「そ、そんなの嘘です……ッ!」

 

 がたんっ!と。隣で青ざめたシスティーナが椅子を蹴って立ち上がり、眼前に座るセシリアの両肩を両手で掴んだ。

 

「い、一体、なんでですか!?だって、リィエルは昨日まで元気に剣を振り回してたんですよ!?苺タルトだって、美味しそうに食べてて……それが今日になって、一体、どうして急にこんなことに!?なんで!?」

 

「システィ、だめ!お願いっ!落ち着いてッ!」

 

「お願いします、セシリア先生っ!リィエルを治して!早く治してくださいよぉ!」

 

 取り乱して喚くシスティーナを、ルミアがセシリアから引きはがし、取り押さえる。

 

 すると、システィーナはルミアの腕の中で身体を震わせてすすり泣き始める。そんなシスティーナを宥める気丈なルミアも、今にも泣き出しそうだ。

 

「…………」

 

 システィーナが取り乱してくれたことで逆に冷静になったグレンは、医務室の奥のベッドの上で、今は死んだように眠るリィエルをちらりと見やる。

 

 彼女が眠るベッドの下や周辺には、様々な魔術法陣や魔導装置、石盤型魔導演算器が設置され、装置から伸びる様々なチューブや不可視の霊的経路が、リィエルの全身に繋がれている。装置が拾う微かな生命反応だけが、リィエルのか細い生の証だった。

 

 そんなリィエルの姿をしばらく見つめたグレンは、やがて意を決したように、視線と頷きでセシリアに話の先を促した。

 

「……リィエルさんの患った病は……『エーテル乖離症』と呼ばれるものです」

 

「は?『エーテル乖離症』……?」

 

 どんな難病・奇病かと構えていたグレンは、その意外な病名に目を瞬かせる。

 

 それは通常の病のように肉体に罹患するのではなく、霊魂に罹患する病気であり、”肉体と霊魂の結合が緩み、霊魂が肉体から乖離していく”という恐ろしい魔術性疾患だ。

 

 当然、病が進行し、肉体から霊魂が完全に乖離しきれば、死は免れない。

 

 長年、無理な魔術を行使し続け、魂に負担をかけ続けてきた魔術師が晩年にかかる病気として有名であるのだが――

 

「それ、おかしくないっすか?『エーテル乖離症』ならもう治療法があるはずだ」

 

 グレンの言うとおりであった。

 

 確かにこの『エーテル乖離症』、一昔前は不治の病であり、”魔術師の寿命”とまで恐れられてきた病気だが、今はすでに治療法が確立し、心霊手術で充分に治療可能だ。

 

 老魔術師ならともかく、若いリィエルを治せないはずがないのだ。

 

(『エーテル乖離症』という治療可能な病に対し、セシリア先生は無理だと言った。それはつまり……)

 

「普通の人に対してなら、ほぼ100%治療できるのに、()()()()()()はそれができないんですよね?彼女の霊魂……エーテル構造が解析できないとかで」

 

 ジョセフは、何か思い当たったのか、セシリアが治せない理由を言ってみる。

 

「はい、ご名答です。わからないんです、リィエルさんのエーテル構造が、まるで……解析できないんです」

 

 セシリアが心底苦悩に満ちた表情で、絞り出すように白状する。

 

 だろうなと、ジョセフは治せない原因を確信した。原因はアレしかない。

 

 エーテル構造……それは要するに『魂の形』だ。魂は視覚や三次元では目視・表現できない、異相次元・虚数量の形を持っており、それが十の霊域を形成している。

 

 このエーテル構造を魔術的解析して、霊域図版を作らなければ、心霊手術を執り行うことは不可能だ。この霊域図版なしに心霊手術を行うなど、目を瞑って、手の触覚すらも封印して、外科手術を行うようなものだ。

 

 霊魂を弄る心霊手術系の白魔術儀式に必須のデータ――それが霊域図版なのだ。

 

「それこそ、バカな……魂紋解析ならともかく、セシリア先生ほどの人がエーテル構造を把握できねーなんて……エーテル法医学の初歩の初歩じゃねっすか……」

 

「はい……初歩の初歩です。でも、なぜかリィエルさんの霊魂は普通じゃないんです」

 

 セシリアが己の無力さを嘆くように言った。

 

 だが、ジョセフは無理はないと思っていた。なぜなら、リィエルは自分達とは違い、()()()()()()のだから。

 

「多分、リィエルの魂は、俺達とは違い、十の霊域の境界がグチャグチャで、全体像が見えないはずです。当然、霊域同士を繋ぐ霊脈の通り方もわからない。まるで()()()()()()()()()()()()()()()ような感じでね」

 

 そんなジョセフの言葉に、グレンはやっと閃いた。

 

「――ッ!?まさか……『Project:Revive Life』……?」

 

「そのまさか、です」

 

 グレンの言葉に、ジョセフが頷く。

 

 そう、失念してたが、リィエルはただの人間じゃない。『Project:Revive Life』という、死者蘇生復活の禁呪によって生み出された魔造人間だ。

 

 エーテル構造が解析できないというのは、まさにこれだったのだ。

 

「……グレン先生、ジョセフさん。リィエルさんの霊魂について、何かご存じなのですか?」

 

 グレンの顔色が変わったのと、こうも簡単に原因を特定したジョセフに何かを察したセシリアが、声のトーンを抑えて問う。

 

 リィエルの真実は、絶対に他者に知られてはならないことであったが、最早、この緊急事態に是も非もない。

 

「……セシリア先生。落ち着いて聞いてくれ。できれば他言無用で。実は……」

 

 グレンは、神妙に構えるセシリアに、自分の過去とリィエルの全てを語り始めた。

 

 

 

 

「なるほど……そういうことだったんですね。にわかに信じがたいことですけど……」

 

 グレンの長い話の後、セシリアは合点がいったように頷いていた。

 

「『Project:Revive Life』は、肉体、霊魂体、精神体の代替魂を別途調整し、それらを共重合してなすとされる禁呪法です。その際、霊魂体の代替となる『アルター・エーテル』は複数人の霊魂から複製されます。エーテル構造が複雑怪奇になるのも頷けますね。

 そのシオン=レイフォードさんが執り行った『Project:Revive Life』にも、まだ術式に隙があったのでしょう。時間経過によって、肉体と霊魂体の複合にずれが生じた。だからこそ、本来ありえない『エーテル乖離症』が、リィエルさんに発症してしまった」

 

「そういうこと……なんだろうな」

 

 グレンが複雑な心境でそう応じ、本題に切り込む。

 

「セシリア先生。リィエルを助ける方法……もう、まったくないんですか?」

 

「症状自体は、ただの『エーテル乖離症』です。だから、なんとかしてエーテル乖離症を解析し、霊域図版さえ作れれば、すぐにでも心霊手術で治療を……でも……」

 

 問題は、リィエルの魂は解析不可能で、霊域図版を作ることが不可能ということ。

 

 グレンが眉間にしわを寄せ、苦悩と苦渋に満ちた表情で虚空を睨む。

 

 重苦しい時間が、しばらくの間、無作為に流れていく。

 

 と、その時だった。

 

「……ん……?ぐ、れん……」

 

 ごそり……医務室の奥のベッド上で気配が動いた。

 

 見やれば、胡乱ながらもリィエルが意識を取り戻していたらしい。顔だけを動かし、今は本当に眠たそうにグレンをぼんやり見つめている。

 

「……どう……したの……?ぐれん……なんだか……怖い、顔……してる……」

 

「…………」

 

「……わたし……どう……なってるの?眠い……なん、だか……すごく……眠い」

 

「…………」

 

「……怖い……ぐれん……なんだか……わたし……消えそうで……怖い……」

 

 リィエルが今にも消え入りそうな声で、不安げに呟いた。

 

 すると、グレンは静かに立ち上がり、リィエルの側へと寄った。

 

「……ぁ……」

 

 グレンは無言でリィエルの頭をなで、リィエルは気持ち良さげに目を細めた。

 

 しばらくの間、グレンは無言でリィエルの頭をなで続け……やがて、意を決したように、システィーナ達を振り返った。

 

「おい、白猫……泣いている場合じゃねえぞ」

 

「――ッ!?」

 

 そんなグレンの力強い言葉に、ルミアに抱きしめられて泣きはらしていたシスティーナが、力なく顔を上げた。

 

「魔術ってのはいつだって、不可能を可能にしようと発展するんだ。リィエルの霊魂が解析不可能?霊域図版を作るのは無理?だったらなんだ?たとえ不可能でも、俺達はリィエルの霊魂を解析して、霊域図版を作るしかねえ」

 

「先……生……」

 

「システィーナ、ルミア、ジョセフ……やるぞ。俺達でリィエルを救うんだ。手伝ってくれ」

 

「……は、はいっ!」

 

「私達にできることなら、なんでもします!」

 

「んじゃ、俺は連邦の連中を巻き込んで、方法を探します」

 

 システィーナが涙を拭い、ルミアが決意を込めて頷き、ジョセフはそう言って医務室を出る。

 

「……ぐれん……しすてぃ、な……るみあ……じょせふ……、……」

 

 リィエルはそんな四人の姿を、ぼんやりと遠い目で見つめていて。

 

 こうして――グレン達の苦闘の日々が始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

「――と、まぁ、当てはあるんだよなぁ」

 

 医務室を出たジョセフは、そう言いながら、通信機を取り出す。

 

 これはあくまでジョセフの推測なのだが、シオンは、こういうことを予測できたはずだ。

 

 と、なると、当然、そのための備えはしているはずなのである。

 

「まぁ、問題はそれがある場所なんだけどなぁ」

 

 なんせ、リィエルは特務分室時代のグレンが保護していたのだから、その備えになるものが保管されている場所は多分、あそこなのだろう。

 

「だからこそ、ガルシアさんの出番なんです」

 

 そう言って、通信機を耳に当てる。

 

「あ、ガルシア?実は、調べてほしいことあるんやけど……シオン=レイフォードのことなんやけど――」

 

 ジョセフは、ガルシアに何か言いながら、廊下を歩くのであった。

 

 

 

 

 グレンとセシリアを中心に、リィエルの複雑怪奇な霊魂を、なんとか解析しようとする研究の日々が始まった。

 

 当然、その解析は困難を極めた。グレンとセシリアは昼夜を問わず、リィエルと向き合い、システィーナとルミアは図書館に籠りきり、最新のエーテル学や法医学関連の魔術論文をひたすら集めて徹夜で読み進め、その要諦をまとめていく。

 

 リィエルの霊域図版を割り出さなければならない。リィエルに使われた全ての霊魂を解析して、そこから逆算することで、ようやくリィエル専用の霊域図版は完成する。

 

 それがどんなに困難なことか、少し魔術を齧った者であれば、誰でもわかることだ。

 

 だが、グレン達はそんな解決を、文字通り血反吐を吐く思いで進めていく。

 

 そして、そんなグレンに、学院内の協力者は多かった。

 

 

 

 

「……わかったよ、グレン先生。リィエル君に必要な『アストラル・コード分離術式』回りは、私が開発を進めよう。白魔術の精神関連は、私の専門分野だしな」

 

「ま、マジっすか!?いいんですか、ツェスト男爵!?」

 

「ああ、構わんよ。何、可愛い女の子を失うのは人類の損失だからね」

 

「あ、ありがとうございます!男爵!」

 

 ツェスト男爵が、グレンの協力要請に快く応じた。

 

 

 

 

「ふむ。グレン先生の計算どおり、その術式構想では、恐らく現在の魔導演算器の機能と処理能力では、到底足りないだろう」

 

「だよな……クソ、一体どうすりゃいいんだ……」

 

「ふっ!心配するな!魔導演算器の機能拡張ならば、この天才魔導工学教授オーウェル=シュウザーに任せるがいい!」

 

「お、オーウェル……?いいのか……?」

 

「フハーッハハハハハハハハハ――ッ!これも我が心友のため!お安い御用よッ!」

 

 オーウェルも、進んでグレンに協力を申し出た。

 

 

 

 

「グレン=レーダス。ふん……これを持って行け」

 

「せ、先輩?こ、これ、エーテル法医学の世界的権威で第一人者、アイネスト=シュバイツァーの最新論文じゃないっすか!?こんな貴重なもん、どうやって――ッ!?」

 

「はっ。愚鈍な貴様には、魔術学会にコネなどなかろうよ」

 

「!?」

 

「いいか、勘違いするなよ?グレン=レーダス。私は貴様が大嫌いだし、件のリィエル=レイフォードには何度か煮え湯を飲まされたかわからん!きっちり落とし前をつけてやる前に、勝手に逝かれてはたまらんからなっ!それだけだっ!」

 

「……先輩……ありがとうございます」

 

「ふん。礼など言っている暇があったら、さっさと仕事に戻ることだな」

 

 法医学に関しては門外漢のハーレイまでもが、協力をしてくれた。

 

 

 

 

 無論、協力的なのはグレンの同僚達だけではない。

 

 エーテル乖離症が進行し、肉体と霊魂にずれが生じている現在のリィエルは、たとえるなら、ヒビが入った水差しだ。凄まじい勢いで身体から水が抜けていく。

 

 延命するためには、他人からの大量のマナ供給が何よりも必要なのだ。

 

 その事情を知った二組の生徒達は、自分達のマナを、マナ欠乏症も恐れず惜しみなく、交替でリィエルへと供給してくれた。それも昼夜問わずに。彼らは学院に泊まり込みでリィエルの元へ集まり、リィエルを励まし続けるのであった。

 

「頑張れよ、リィエルちゃん……病気ごときに負けるなよ……」

 

 装置を通してマナを供給するカッシュが、リィエルの手を握り締めながら言った。

 

「……おい、お前。勝ち逃げは許さないからな」

 

 同じくギイブルが、不機嫌そうに、ぼそりと呟く。

 

「大丈夫……大丈夫ですわ。きっと、先生がなんとかしてくれますわ」

 

「ええ、そうですね。先生ならきっと……」

 

 ウェンディやテレサも、リィエルの手を握り、祈るように言う。

 

「リィエル……早く、元気に……なってね?」

 

「また、僕らと一緒に学院生活を過ごそうよ……ね……」

 

 リンも、セシルも。

 

「ぅおおおおおんっ!リィエルちゃぁああああああん――っ!」

 

「俺達のマナを持って行ってくれぇええええ――っ!」

 

 ロッドも、カイも。他の二組の生徒達……アルフ、ビックス、シーサー、ルーゼル、アネット、ベラ、キャシーも。

 

「リィエルさん、駄目ですよ。……貴女がいなくなると悲しむ人がいるのですから」

 

「ふん。……まぁ、ルミア=ティンジェルには色々と借りがあるからな」

 

 時には、余所のクラスのリゼ=フィルマーや、ジャイル=ウルファートまで。

 

 さらには、リィエルの容態を聞きつけた学院中の生徒達が、交替でリィエルにマナを供出していくようになる。

 

 かつてフェジテ最悪の三日間で学院を救った英雄の一人であり、自分達の恩人でもあるリィエルに報いようと、皆が皆、リィエルの命をなんとかこの世に繋ぎ止めようと、自分達のマナを惜しみなく供出し、励ましの言葉をかけていく。

 

「……みん、な……」

 

 リィエルは時折浮上する胡乱な意識の中、そんな生徒達を眩しげに眺めていた。

 

 

 

 

 皆一丸となって、リィエルのために。

 

 リィエルを助けるために。リィエルを救うために。

 

 だが。これだけの想いを一身に集めても……セシリアの必死の対処療法を受けても――リィエルの容態が快方に向かうことは当然、なく。システィーナやルミアの必死の研究成果も芳しくなく、グレンの霊魂解析の進行は遅々として進まず。

 

 リィエルの生命反応は、刻一刻と無慈悲に弱くなっていくのであった。

 

 

 

 

 

 寒々しい夜のこと。

 

『ガルシア、シオン=レイフォードが残した例の物はどうなった?』

 

『はい、大佐……じゃなくて、准将。シオン・ライブラリーがどこにあるのか、調べてみましたが……准将の思った通りでした。シオン・ライブラリーは押収した軍からは紛失されていました』

 

『紛失したっていうよりも、()()()()()()()()()と言うべきだろうな。そして、奴さんは≪戦車≫の正体と『エーテル乖離症』で倒れることも知っていたはずだ』

 

「と、なると……そう遠くないうちに動きますかね?≪戦車≫を回収しに」

 

『動くだろうな。そして、目的を果たすために計画を実行するだろう』

 

「そろそろ、俺達も動きますか?」

 

『ああ、時間だ。俺とナンバー6と7は≪星≫と合流して作戦を実行する。ナンバー6、7。チェックポイントAで俺と合流だ。その後、≪星≫と合流する』

 

「連中の後をつけながら、動いた方がいいでしょうか?」

 

『そうだな、槍騎士(ランサー)で連中の後をつけろ。槍騎士(ランサー)なら、そう簡単に見つかるまい』

 

「了解。では、その通りに動きますわ」

 

『各々、抜かりなきよう。じゃ、切るぞ』

 

 通信を切られ、通信機をしまうジョセフとアリッサ。

 

「んじゃ、行きましょうかね」

 

 ジョセフが腕を上に伸ばしながら歩くと。

 

 ぎゅっと、アリッサがジョセフの裾を掴んだ。

 

「どうした?」

 

「何も言わなくていいの?」

 

 アリッサの問いに、ジョセフが頭をかく。

 

「……これは、極秘や。あいつらは愚か、グレン先生にも、イヴさんにも、教授にも、誰にも話してはいけない」

 

「……そうね。ちょっと、罪悪感あるけど、仕方ないよね」

 

「俺達は上がそうしろと言われたら、そうするしかないんや。死ねと言われたら、死なないといかん」

 

 ジョセフは少々大げさに両手を広げながら肩を竦める。

 

「まぁ、ウェンディにぶたれる覚悟はできているさ。んじゃ、行きましょうかね」

 

 そして、ジョセフとアリッサは夜の、誰もいない廊下を歩くのであった。

 

 

 

 

 

 









今回は、ここまで。

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