ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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それでは、どうぞ。


160話

 

 

 

「一体、全体、どういうことなんだよ!?説明しろ、イヴ!」

 

 とりあえず、サイラス達がリィエルだけを確保し、学院を去って行った後で。

 

 グレンは、雑木林が茂る校舎裏の薄暗い空間へイヴを連れて行き、詰め寄っていた。

 

「もう、何がなんだかわけがわからねえ!お前、知ってること、全部教えろ!」

 

「うるさいわね、がなりたてなくても聞こえてるし、話すわよ」

 

 校舎の壁に背を預けて腕を組むイヴが、嫌そうに髪をかき上げ、溜め息を吐く。

 

「知っていることから追って説明するわ。まず、私がこの一週間……つまり、貴方達が正攻法でリィエルを救おうとしていた間、何をやっていたのか。……薄々お察しの通り、私は私の情報網の古い伝手を頼っていたわけ」

 

「伝手?」

 

「目的はわかるでしょう?リィエルの霊域図版。リィエルは『Projecrt:Revive Life』で造られた魔造人間なんでしょう?リィエルが『Projecrt:Revive Life』で生まれたっていう事実は、貴方とアルベルトが改竄隠滅したけど」

 

 イヴに刺すような目を向けられ、グレンが無言で目をそらす。

 

「別に、今さら咎めはしないわよ。今の私は特務分室室長じゃないし。とにかく、そんな禁呪法でリィエルを造ったなら、少なくともリィエルの制作者――天才錬金術師シオン=レイフォードは、リィエルの正確な霊域図版を所持していたはずでしょう?リィエルの代替霊魂たる『アルター・エーテル』は、シオンが調整したのだから」

 

「あ……」

 

 イヴの言うとおりであった。リィエルの霊魂は、いわば、複数枚のジグソー・パズルをバラして、それぞれをちょっとずつ使用しながら、強引に一枚絵に仕上げたようなもの。だから、霊域図版の作成が不可能になっている。

 

 だが、実際にパズルをその一枚絵に仕上げた者ならば、一枚絵になる前……複数枚の絵図面の全てを持っていて当然。そして、そこから霊域図版を作ってしかるべきである。

 

「二年前……当時、≪愚者≫だった貴方は、天の智慧研究会の内情を得るため、稀代の錬金術師シオン=レイフォードの取引に応じ、イルシア=レイフォードとライネル=レイヤーを保護しようという任務に従事していたことがあったわね?」

 

「……ああ。まぁ、結局、ライネルの裏切りで失敗しちまったけど」

 

「でも、天の智慧研究会の極秘研究所の一つは潰せた。その際、シオンが行った『Projecrt:Revive Life』研究関連の様々な資料や記録の集成――通称『シオン・ライブラリー』を、軍が押収したのだけど……私は、ひょっとしたら、その中にリィエルの霊域図版があったかもしれない可能性を考えた」

 

「あぁ――ッ!?」

 

 そうだ。どうして、その可能性に思い至らなかったのか。

 

 グレンは自分の愚鈍さに嫌気が差す。

 

「……それだけ愛しの妹分の危機に、気が動転していたんでしょう。それに、どっちみち貴方がそれに思い至っても、今の貴方は軍の記録を閲覧できないから無意味だし」

 

 ふぅ、とイヴは息を吐いて、話を続けた。

 

「とにかく、私はまぁ、一応、イグナイト家出身ってことで、今もまだ手元に残ってる情報網があってね……凄く細いけど。二年前の任務回り……シオン・ライブラリーのことを信頼できる協力者に調べてもらったのよ」

 

「それで……どうだった?」

 

「ハズレ。あの時に軍が押収したシオン・ライブラリーはいつの間にか、軍の資料室から根こそぎごっそり消えていた……当然、霊域図版は見つからないというオチ」

 

 イヴが疲れたように首を小さく振った。

 

「は?どういうことだ?シオン・ライブラリーそのものが消えているなんて……」

 

「閲覧記録とか貸し出し記録とかほ細々と追うとね。シオン・ライブラリーそのものを、何者かが何者かに、密かに横流しした可能性がある」

 

「横流し?シオン・ライブラリーを?」

 

「ええ。でも、証拠はない。多分、その持ち出した何者かの後ろには、もっと大物が存在するのでしょうね。横流しの証拠は完全に潰されてるわ」

 

 ここまで来ると、グレンにも少しずつ、話が読めて来る。

 

「……サイラス=シュマッハか?」

 

「ご名答。あの時、その何者かが持ち出して消えたシオン・ライブラリーは、どういうルートで流れたのかは不明だけど……今はサイラスが独占している可能性が高い。なにせ、彼はあの事件以降に、恐らくシオン・ライブラリーを参考にしなければ、決して出てこない魔術理論の論文を幾つも提出して、彼の帝国軍内における地位を盤石にしている。彼が持っているとしか思えない。限りなく黒に近いグレーよ」

 

「……やつが持っているそのシオン・ライブラリーの中に、リィエルの霊域図版もあるってことか。……やつは一体、何者なんだ?」

 

「あら?貴方は会ったことなかったかしら?サイラス=シュマッハ……元・帝国宮廷魔導士団、魔導技術開発室室長……”神の頭脳の持ち主”と噂された天才魔術師よ」

 

「魔導技術開発室……?実働・戦闘任務を行う中央十室や特務分室と異なり、帝国宮廷魔導士団の軍用魔術や各魔術装置の開発を行う後方支援部署の一つだな?」

 

「ええ。ただし、サイラスに限ってはデスクワーカーと侮るのは禁物よ。彼は魔導技術開発室室長になる前は、東の国境付近で戦い続けたバリバリの実戦派でもある」

 

「頭が切れて、武力もある……厄介な野郎だ」

 

「……あの白金魔導研究所の、魔導技術開発派遣武官だったこともあるわ」

 

「天の智慧研究会と組んで『Project:Revive Life』をやってたバークス=ブラウモンが所長だった、あの研究所か……って、滅茶苦茶臭ぇじゃねえかッ!」

 

 あまりの臭さに、頭が痛くなってくるグレンであった。

 

「で?そんな臭っさい野郎が、今は特務分室室長か?帝国軍終わってんな」

 

「なぜ、イグナイト家以外の者が、特務分室室長に据えられたのかは、まだわからないけど……とにかく、今はそんなのどうでもいいわ。カマかけが成功して良かった。少なくとも、サイラスがリィエルの霊域図版を所持しているのは、ほぼ確定だわ」

 

「って、カマかけだったのかよ!?確信はなかったのかよ!?」

 

「当然でしょ?その可能性があるってだけで、証拠は何一つないって言ったでしょ?まともに行っても、とぼけて話すら聞いてくれないわ。ただ、霊域図版はそこまで秘匿レベルの高いデータじゃない。研究のために複製して所持していたと主張すれば、彼の立場ならほとんどお咎めもない。……そんな逃げ道をあえて残しつつ、彼の私に対する警戒、十中八九ありえないけどひょっとしたら、私が彼のシオン・ライブラリー独占の証拠を掴んでいるかもしれない可能性、貴方の戦力的有用性、≪世界≫の脅威度、取引に応じるメリットとリスク……それらをサイラスの天秤にかけさせたってわけ。結果、うまく取引に応じさせることに成功して、本当に良かったと思ってる」

 

 そう。あのイヴの吹っかけた取引は、一歩交渉の仕方を間違えれば、サイラスが証拠隠滅のためにシオン・ライブラリーを完全放棄して、リィエルの死が確定してしまう絶妙なさじ加減を要する取引だったのだ。

 

 まぁ、なんていうか、こいつ、やっぱ人の上に立つタイプなんだろうな……いけすかないけど、と。グレンは不思議に納得するのであった。

 

(こんな切れ者でデキる女が、なんで時たま、あんな意味不明な暴走してたんだ?)

 

 特務分室時代のヒステリックで余裕のないイヴを思い出しながら、グレンは続けた。

 

「わかった。とりあえず、サイラスとの取引に応じ、俺はリィエルの霊域図版の入手を優先しよう。だが……アルベルトのやつのことなんだが……マジでマジか?」

 

 これが心底、わからなかった。アルベルトが、バーナードやクリストフを殺害して、女王陛下の暗殺を狙った……それが信じられないことだ。

 

「…………事実よ」

 

 だが、イヴは無念そうに目を閉じて、はっきりとそう呟き、グレンへ背を向けた。

 

「……私も信じられなかった、でも、この一週間、私が独自に動いていた間、入ってきた情報によれば……アルベルトは、本当に女王陛下の暗殺を目論み……その際、クリストフとバーナードを手にかけたらしいわ」

 

 そう淡々と語るイヴの声は、いつもらしからぬ重く沈んだものだった。

 

「マジか……」

 

 グレンが苦悩に満ちた表情を、片手で覆い、呻く。

 

「サイラスの語り口から判断しても、彼が冗談やカマかけを行っているとは到底思えないわ。間違いなく、アルベルトに何かがあったのよ……私達が知らない所で。背後に連邦がいるあたり、連邦が唆した可能性もあるわ……妙なことだけど」

 

「…………」

 

 シビアに現実を見るイヴを前に、グレンは押し黙る。

 

「グレン……わかってると思うけど」

 

「わかってる!皆まで言うな、わかってるっての!」

 

 アルベルト討伐。それはつまり、当然、アルベルトと戦う、ということだ。

 

 あの特務分室の最強エース、≪星≫のアルベルト=フレイザーと。

 

 迷えば死ぬ。だが、アルベルトを討たねば、リィエルは救えない。

 

 それだけじゃない、下手したらデルタ――しかも、十三州の面々という化け物集団とも戦わないといけない。

 

 そこには、当然、ジョセフとアリッサも含まれる。

 

 これはもう、アルベルト達を切るか、リィエルを切るか……そういう話だ。

 

(戦えるのか?俺は……本当にアルベルトのやつと戦えるのか?あいつが女王陛下の暗殺を狙ったなんて……クリストフとじじいを殺ったなんて……その裏に連邦がいて、ジョセフ達がアルベルトを保護・亡命の手助けするなんて……マジで信じられねえ)

 

 思考の袋小路に迷い込んだグレンが思い悩んでいると。

 

「はぁ……やっぱり、わかってないわね。グレン、貴方、また視野が狭まってない?」

 

 イヴが呆れたように、呟くのであった。

 

「なんだと?」

 

「その二者択一に絞るのは、まだ早いって言ってるのよ」

 

 目を瞬かせるグレンへ、イヴが突き放すように言う。

 

「少しは考えなさい。理由は不明だけど、アルベルトが女王暗殺を試み、連邦に亡命し、そして、それを阻止・討伐のためにサイラスがリィエルを人質にして、貴方をその討伐部隊に抜擢したのは……まぁ、わからなくもない。一応、筋が通った話よ。貴方ほどアルベルトとジョセフなどを知っている人は他にいないでしょうしね。でも、どうしても解せないのは、エーテル乖離症で戦力にならないリィエル迄、わざわざ連れて行く、ということ」

 

 イヴが淡々と状況を分析してく。

 

「いや、だから……そりゃ、俺に対する人質で……」

 

「あのね……霊域図版という究極の人質がもうあるのよ?もうリィエルの身柄は必要ないでしょう?むしろ、最初からリィエルの霊域図版を、貴方への交渉テーブルに乗せるべきじゃなくて?」

 

「あ……ッ!そ、そうだ、そういえば……ッ!?」

 

 ”リィエルの霊域図版をくれてやるから、同行しろ”

 

 最初からこう言えば、グレンは一も二もなく同行せざるを得なかったのだ。

 

「なのに……それでも、リィエルを人質にして連れて行くことに拘っている。貴方に対する人質とはいうけど、それはちょっと無理のある話じゃない?しかも、『Project:Revive Life』で生まれたリィエルを連れて行くのは、同じく『Project:Revive Life』関連で何かときな臭いサイラス。……これって偶然かしらね?」

 

「確かに、これをただの軍前で片付けるには臭過ぎる……」

 

「ここで仮設。もし、サイラスがシオン・ライブラリーを持っているなら、リィエルがエーテル乖離症で倒れるだろう時期も容易に予測つくはずよね?」

 

「そうだな、リィエルが『Project:Revive Life』で生まれたリィエルであることを知っていて、その関連データを読み解く専門知識がありゃ、そのくらいは可能だろう」

 

「つまり、サイラスは、リィエルが今回の討伐戦で、ちょうど倒れて戦力にならないことは最初から知っていた、としたら?これを前提に考えたら、どうなる?」

 

「むしろ、サイラスは、リィエルがエーテル乖離症で倒れるのを待って、リィエルの前に現れたってことになる……リィエルを連れて行くこと自体が目的だった?」

 

「ええ。そう考える方が余程自然でしょう。そして、ここを今回の事件の全ての起点にすると、アルベルトの女王暗殺未遂が、このタイミングに重なったのも、連邦が、アルベルトを保護するという利益にもならない行動を取ったのも、ただの偶然とは思えない。サイラスに対する何かしらの意図があるように思えてくる」

 

 イヴの言う通りだ。アルベルトの女王暗殺未遂が全ての発端だと思っていたが、その因果関係の順序をひっくり返すと、また違う絵図面が広がっているように思える。

 

「いずれにせよ……リィエルを中心に、何かあるってことか」

 

「ええ。そして、そこに今回の事件の突破口があるはず。ならば貴方のやることは決まってるでしょう?」

 

 何かを深く見極めるような流し目を送ってくるイヴ。

 

 グレンはしばらくの間、それを沈黙で受け止め、やがて頷いた。

 

「……真実を見極める。アルベルトがなぜ、女王陛下を暗殺しようとしたのか。なぜ、連邦が女王陛下という自国に利益になる存在を捨ててまでアルベルトを保護・亡命させようとしているのか。リィエルに何があるのか。とにかく、まずは事の真相に迫るしかねえってことか……ええい、クソッ!やってやるよ!」

 

「ふん、ようやく”らしく”なってきたわね。それでいいのよ、単純な貴方は」

 

 イヴがたちまち皮肉を突き刺してくるが、もう関係ない。

 

 足掻く。足掻くしかない。リィエルもアルベルト達も救えるような……そんな都合の良い結末を目指して……ただ、全力で突き進むしかないのだ。

 

 たとえ、一人きりだろうが、最期の最期まで全力で抗う。

 

 グレンが、そんな決意を新たにしていると。

 

「……さて。忙しくなるわね。私も色々と準備しないと」

 

 なぜか、イヴが奇妙なことを言い出していた。

 

「……何よ?グレン、その目は?」

 

「え?何?イヴ……お前……ひょっとしてついてくる気なの?」

 

 そんなグレンの意外そうな表情から、イヴはしかめ面で目を背ける。

 

「貴方はこれからサイラス達と行動を共にするんでしょう?彼の近辺じゃ逆に動きが取れないこともあるわ。事件の裏を探るなら、自由に動ける別動隊も必要でしょう?」

 

「い、いや……そりゃわかるけどさ。……え?何?お前が?俺に?力を貸してくれるつもりなの?マジで?」

 

「…………何で、そんなに驚くのよ?」

 

「い、いや、だって、あのイヴだぞ!?あの残虐非道冷酷無比のイヴだぞ!?高飛車で高慢で手柄キチのイヴだぞ!?手柄や戦果以外、まったく興味なくて、自分以外の人間は全て駒かゴミのように考えてて、ヒステリックで行き遅れの――」

 

「≪うるさい≫ぃいいいいいいいい――ッ!」

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ――ッ!?」

 

 ぼんっ!イヴが改変一節詠唱で魔術を起動し、グレンを爆炎で吹き飛ばす。

 

「貴方、私のことを本当になんだと思ってるの!?何度でも言うけどね!別に貴方のためじゃないから!リィエルのためで、生徒達のためだから!いい、わかった!?万が一にも変な勘違いしないでよね、気持ち悪いからッ!」

 

「するか、アホッ!そんな展開、こっちだって気持ち悪いわ!ぺっ!ぺっ!」

 

「……はぁ?き、気持ち悪い……ですって……?」

 

「な、なんだよ?お前が自分で言ったことだろうが……ッ!」

 

「こ、この……デリカシー絶滅駄目男……ッ!?」

 

 イヴが焦げたグレンの胸ぐらを掴み上げ、至近距離で互いに睨み合い、互いにこめかみにビキビキ青筋を立てていた……その時だった。

 

 ざっ!遠くに響いた物音に、グレンとイヴが弾かれたように振り返る。

 

 そこに居たのは……

 

「白猫……?ルミア……?」

 

「ごめんなさい、先生……盗み聞きしていました」

 

 ルミアが申し訳なさそうに頭を下げ、システィーナがグレン達の前に歩み寄る。

 

「先生は……軍の任務で、イヴさんはそんな先生を助けるために……これから、フェジテを発つんですよね?リィエルとアルベルトさん達を助けるために」

 

「……まぁ、結果としてはそうなるわ」

 

 イヴがグレンを突き放し、すまし顔で応じる。

 

「で?それがどうかした?私がどこで何をしようと私の勝手でしょう?」

 

 こいつはどうしてこう、冷たく人を突き放すような物言いしかできないんだ?

 

 グレンは呆れるしかない。

 

 だが、もうそんなイヴの不器用な態度にも慣れっこなのだろう。

 

「だったら……イヴさん!私達も一緒に連れていってくれませんか!?」

 

 システィーナが頭を下げた。

 

「軍の任務に従事する先生についていくことができないのはわかってます!でも……そんな先生を別働で補佐するなら……私達でもできることが、きっとあると思うんです!」

 

 そして、システィーナに続き、ルミアも頭を下げる。

 

「お願いします!先生!イヴさん!私達もリィエルを救うために、何かできることをしたいんですっ!先生達に守られて待っているだけなんて、もう嫌なんです!学生に過ぎない私達の自惚れと思われるかもしれません……でも、システィと一緒に考えたんです!リィエルは今まで何度も私達を助けてくれました……だから、今度は私達がリィエルを助けなきゃいけないんだって!ここで何もせずにただ待っていたら、もう二度とリィエルに顔向けできないんだって!だから――」

 

 多分、駄目だろう。恐らく駄目だろう――そう思いつつも、それでも決意をぶつけずにはいられない、そんな健気な少女二人。

 

 必死に懇願してくる少女二人を、グレンとイヴはしばらく見つめる。 

 

 やがて――

 

「わかったわ。いいわよ」

 

 イヴの意外過ぎる言葉に、システィーナとルミアが目を見開いて顔を上げていた。

 

「何、驚いているわけ?貴女達が自分で申し出たことでしょう?」

 

「えっ!?そ、それは……そう……ですけど……」

 

「でも……」

 

「別に貴女達の熱意に絆されたとか、そういうわけじゃないわ。合理的な判断よ

 

 戸惑うシスティーナ達を前に、イヴが素っ気なく髪をかき上げ、淡々と言う。

 

「システィーナ。貴女は、グレンと共に、私の魔術戦の薫陶も受け、わりと信じられないレベルになってきてる。戦闘技術や実戦経験は、まだ圧倒的に不足しているけど……プロ同士の魔術戦で決して通用しないわけじゃない。……実力を発揮できればね」

 

「えっ!?そ、そうなんですか……ッ!?う、嘘ですよね……?だって、まだ私、イヴさんからは、模擬魔術戦で一本も取れたことない……」

 

「あのね、私、腐っても、元・特務分室室長よ?あまり舐めないで欲しいわね」

 

 ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らし、今度はルミアを見る。

 

「それと、ルミア。貴女の法医呪文は一線級だし、何より度胸がある。システィーナの補佐をすれば、彼女の力をより引き出せる。確かに戦闘は苦手かもしれないけど、それがイコール足を引っ張るとは、私は思ってない。それに、貴女には件の『異能』もある。貴女がいることで、私一人じゃどうしようもない壁を突破できる可能性もあるわ」

 

「……ッ!?」

 

「素人二人をお守りするメリットと、素人二人から得られるメリット……その両者を天秤にかけた結果、後者の方が総合的に上と判断した。……ただ、それだけよ」

 

 そう言い捨てて、イヴは腕組みをしたまま、明後日の方向を向くのであった。

 

「……何よ?私の判断が不服?それとも怖じ気づいた?」

 

「いえ……その……願ったり叶ったりなのですが……」

 

「ええと……でも、先生は……?」

 

 システィーナとルミアはちらちらと、無言で押し黙るグレンを見る。

 

 すると、イヴは溜め息交じりに答えた。

 

「……ったく、察しなさい。もし、この過保護の甘太郎が、貴女達の随行に反対なら、とっくに反対してるわよ。今の今まで沈黙している……それが彼の答えよ」

 

「あっ……」

 

 システィーナが声を上げると、グレンは苦い顔で頭をかき、ようやく口を開いた。

 

「ったく、知ったような口利きやがって……相変わらず嫌な女だぜ」

 

「あら嬉しいわね。貴方に嫌がられるなんて、望むところだわ」

 

 減らず口のイヴを無視し、グレンはシスティーナ達に向き直る。

 

「まぁ、大体、そんなところだ。もうお前達は、自分の力量、やれること、やってはいけないことの判断がちゃんとついてる。魔術師としちゃまだヒヨコだが……もう立派な一人前だ。なら、お前達自身の意思を尊重して然るべきだろう」

 

「せ、先生……?」

 

「そもそも、今までだって、俺はことあるごとに散々、お前達に頼り続けてきた。きちんと自身の力量をわきまえたお前達に、今さら、今回は危ないから手を出すなとか、生徒の出る幕じゃないとか、保護者面して言う資格なんてないさ。お前らの判断を信じる」

 

 それはつまり……グレンはついにシスティーナ達を認めてくれたのだ。

 

 守るべき生徒ではなく……背中を預ける仲間として。

 

「せ、先生……あ、ありがとう……ありがとうございます……」

 

 その嬉しさに、システィーナもルミアも胸が一杯になる。

 

「だが、油断するなよ?くどいが気をつけろ。行くべき時と引くべき時……その線引きの判断を決して間違えるなよ?」

 

「は、はいっ!」

 

「わかりました、先生!」

 

 元気良く、勇ましく返事をするシスティーナとルミア。

 

 そして――グレンは、いつになく真摯な表情で、イヴを真っ直ぐ見据えた。

 

「……何よ?」

 

「イヴ。二人を頼んだぞ」

 

「ふん、誰に物言ってるわけ?」

 

 すると、グレンとイヴは珍しく不敵に笑い合って。

 

「……全員でリィエルを救うぞ。このクソったれな状況をブチ壊してやろうぜ」

 

「はいっ!」

 

「精一杯頑張ります!」

 

「……ふん」

 

 システィーナとルミアが気合い充分に返事し、イヴが鼻を鳴らして応じて。

 

 アルベルト討伐隊に参陣するグレン。

 

 それとは別に、今回の事態の裏を探るイヴ、システィーナ、ルミアの別働組。

 

 この最悪の状況を打破するため、今、各々が行動を開始するのであった――

 

 

 

 

 

 

「……話はまとまったみたいやな」

 

 そんなグレン達の様子をドローンから送られてくる映像で見届けたジョセフとアリッサも、フェジテを発つべく移動する。

 

「そろそろ動くで。連中は明日の早朝には動くはず。俺達はそれを気付かれずに追跡する……というのが、≪星≫に合流するまでの段取りや」

 

「イヴさんの方は?」

 

「うーん、あの様子じゃ、サイラスの行動を怪しんでいるってのは確かだとしても……やはり接触は避けた方が無難やろ」

 

「まぁ、それもそうね」

 

「俺達も、連中を追跡するために、フェジテ郊外に向かわないといけない。でないとバレる可能性が高いからな。あんまり余計なことを起こしたくない」

 

 ジョセフはドローンを指定の座標に着陸させるように操作し、その後、自動操縦モードにして装置を片付ける。

 

「はぁ、明日から忙しくなるわね」

 

「まぁ、しゃあないだろ、状況が状況なんだし」

 

 相変わらずのアリッサに、ジョセフは淡々と言う。

 

「んじゃ、行きましょうかね、相棒」

 

 ジョセフがそう言って、立ち上がると、アリッサもそれに続いて立ち上がり、暗闇の中に包まれたフェジテを発つのであった。

 

 

 

 

 

 









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