ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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それでは、どうぞ


161話

 

 こうして、グレンはリィエルを救うため、アルベルトの真実を知るため、再び特務分室の装備を身に纏うこととなった。

 

 サイラス達が学院に現れた翌日――まだ日の光も上りきらない、暗く肌寒い早朝。

 

 ジョセフはフェジテ郊外に設置された連邦軍の野営地のテントにて、各種装備を整えていた。

 

 小銃、拳銃、銃剣、トマホーク、閃光手榴弾……等々。

 

 それぞれの状態を徹底的にチェックしていく度、気が重くなっていく。一時的にとはいえ、これが軍から発せられた命令だとしてもグレン達と敵対しなければいけないと思うたびに、得体の知れない罪悪感が心を蝕んでいくかのようであった。

 

(……今までこんなことはなかったんだがな)

 

 装備を整えていく中、溜め息を吐くジョセフ。

 

 そんなジョセフの様子を察したのか、アリッサが背後から優しく、大丈夫だと諭すようにジョセフを抱きしめる。

 

 彼女なりの優しさに、幾分か気が軽くなっていく。

 

 だが。

 

 ――気が乗らない。

 

 やがて準備を終えたジョセフは一息吐いて、アリッサの手を優しく振りほどき、テントから出るのであった。

 

 

 

 

 

 

「さて……特務分室の方はどうなっているかな?」

 

「ふーん、やっぱり少数精鋭の部隊を編成してきたわね」

 

 そこは連邦軍の野営地――フェジテから少し外れた、とある平原。

 

 その野営地の中心に設営されているテントの中で、ジョセフとアリッサは、フェジテ郊外再開発地区の、ある寂れた広場の上空周辺に飛行しているドローンから、サイラス率いる帝国宮廷魔導士団がアルベルト討伐の準備しているところの映像を見ていた。

 

 当然、そこにはグレンの姿も映し出されている。

 

 まず目についたのは、数騎の神鳳(フレスベルグ)存在だ。

 

 神鳳(フレスベルグ)とは巨大な鳥の魔獣である。白鳥に似たフォルムと、きらびやかな飾り羽根が美しい魔鳥であり、翼で風を操る能力を持っている。

 

 帝国軍ではそれを飼い慣らし、様々な用途で運用しているのだ。

 

「この神鳳(フレスベルグ)達は、空戦用の騎鳥じゃないな。兵士運搬用、物資運搬用や」

 

 それもそのはず。映像に映し出されている帝国軍が作業をしているのは、二十名弱からなる魔導士の小隊だった。帝国宮廷魔導士団の平団員達から精鋭の魔導士達を抽出したのだろう。

 

 今、彼らは長期行軍に必要な物資を手分けして、神鳳(フレスベルグ)に積載している最中であった。

 

「んで、その積み込み作業を指揮しているのが、≪月≫のイリア、か……」

 

 ジョセフは、その中に交ざって、魔導士達にテキパキと指示を飛ばし、出撃準備の指揮をとっているイリアを見て、目を細めた。

 

「……ほんまに、恐ろしすぎやろ……誰も違和感に気付いていやしねえ……」

 

 こりゃ、下手したら俺達も死ぬぞ、とジョセフは物思う。

 

「そして、先生はまったく歓迎されていないらしいわね」

 

 アリッサは、見知らぬ特務分室の三人組が、グレンを不愉快そうな目で、遠巻きに見つめている姿を見る。

 

「まぁ、先生が帝国軍にいたころの評判は好き嫌い分かれていたらしいからな。いや、多分、嫌いの方が多かったんじゃないかな?」

 

 ましてや、軍が抜けた経緯も経緯だし、それをあの三人が知っているのなら、無理もないと思う。

 

「まぁ、それはさておいといて……連中、どうやら、あそこに集まっている全戦力を神鳳(フレスベルグ)で運ぶらしい」

 

「≪星≫討伐で、ここまで動員するなんてね……貴重な神鳳(フレスベルグ)を六騎出すあたり、帝国軍上層部は本気ね」

 

「まぁ、≪星≫さんだからな。一個軍集団ぐらい必要なんじゃね?≪星≫さん相手なら」

 

 と、まぁ冗談気味に言ってみるが。

 

(いや、マジで一個軍集団必要かも……)

 

 今までのアルベルトの戦いぶりを見て、ジョセフは顔を青ざめるのであった。

 

「ジョセフ、リィエルが……」

 

 アリッサが昨日、サイラス達に連れ去られたリィエルが担架上に運ばれ、貨物運搬用の神鳳(フレスベルグ)に積載されようとしている光景を目撃する。

 

 ジョセフもその光景を目撃し、目を細める。

 

 そんなリィエルに矢も楯もたまらず、駆け寄るグレン。

 

「ジョセフ、これって……」

 

「ああ。()()()()()()なんだろうよ」

 

 ジョセフは目を細めながら、サイラスを見る。

 

「普通、≪星≫さんを討伐するぐらいなら、この時点でリィエルは()()()()はずや。なのに、なんとしてでもリィエルを連れて行く。先生には尤もらしいこと、例えば、人質とか言って従軍せざるを得ない状況に持ち込む……確定だな。サイラスの目的はそういうことだ」

 

 それだけじゃない。

 

 ジョセフ達は帝国軍の部隊編成――装備、携行物資、機材、人員……その全てに違和感を感じていた。

 

 今、映し出されている帝国軍部隊の編成は、純粋な討伐部隊というよりも――未開地や遺跡の遠征調査部隊を急造で、アルベルト討伐用の戦闘部隊に再編成した。戦闘用の魔導士を団から抽出し、元の調査能力を残しながら、討伐部隊に仕上げ直した……そんな雰囲気だ。

 

 アルベルトは帝国宮廷魔導士団特務分室のエースで、帝国軍の中では最強の部類に入る魔導士だ。

 

 連邦軍もアルベルトのことを”戦うよりも逃げた方が得策”と評価されている。

 

 そんな魔導士を相手にあんな部隊で挑むというのが、いかにサイラスが本気でアルベルトと事を構える気がないのか、この編成で大体わかった。

 

 つまり、サイラスの目的は、アルベルトではなく別にあるということだ。

 

「さて……奴さんもそろそろ動く頃合いかな?」

 

 帝国軍の小隊が出撃準備を終え、各神鳳の横で軍隊らしくきちんと整列しているところを見ると、ジョセフは映像から目を離した。恐らく、そろそろ動くのだから、これ以上見ても無意味だろう。

 

 映像から目を離し、席を立とうとした、その時。

 

槍騎兵(ランサー)の出撃準備が整った。いつでも飛ばせるぞ」

 

「了解。んじゃ、こっちも動きましょうかね」

 

 連邦兵がジョセフ達に槍騎兵の出撃準備が終わったことを告げると、ジョセフとアリッサはテントから出る。

 

 すると、テントを出た目の前に一騎の巨大な黒鳥が姿を現わしていた。

 

 神鳳よりも一回りデカい。きらびやかな飾り羽根を纏っている神鳳とは違い、槍騎兵はそんなのない。

 

 黒、黒、黒、ただただ黒い。

 

 きらびやかな飾り羽根で存在感を誇示している神鳳とは違い、槍騎兵はひたすら日陰にいる、そんな存在の騎鳥だ。

 

 それもそのはず。槍騎兵は派手な空戦をする神鳳とは違い、隠密に地上目標に接近し、攻撃するいわば隠密爆撃型の騎鳥だ。

 

 隠密で爆撃するため、索敵系魔術に引っかかりにくく、引っかかったとしても反応は一瞬だけで、中々見つかりにくい。

 

 要するに、今回のような追跡にはもってこいの騎鳥だった。

 

 因みに、なぜ槍騎兵という名がついているのか?

 

 それは、わからない。いや、多分、名付け親がこれがカッコよくね?っていう感じで名付けただけだと思う(連邦軍の名付け方は大体、こんな感じである)。

 

 海軍の戦闘騎鳥なんて、鳥なのに猫シリーズ付けちゃってるし。

 

「よし、アリッサ。ここからは言語コード≪R≫でやり取りするで。連中に傍受されないようにな」

 

「えーと……了解、了解(ダー、ダー)

 

 うん、まぁ、上出来。

 

こちらリガ1(エテ・リガ・アジン)出撃準備が完了した(ミ・ガトヴォイ・ザポスコ)。|離陸許可を要請する《プライシト・ラズレシェイニヤ・ナ・ズィオト》」

 

 淡々と槍騎兵にまたがり、離陸許可を求めるジョセフ。

 

リガ1、離陸を許可する(リガ・アジン・パラズレシィエト・ズィオト)

 

 離陸を許可した瞬間、槍騎兵が翼を大きく広げて。

 

「|目的地は、帝国東部カンターレの遺跡都市マレスや《ナプラヴレイニヤ・ヴィチェートゥ・カヴ・パルィーニ・インペリウル・ヴァストチュイニ・カンタ》。|途中、准将と合流するで《ヤ・プリセーディニ・ゲニェラル・ポ・ダローギェ》。んじゃ、行くで(クラショ・ダヴァイチェ)

 

 ジョセフはアリッサに行き先を告げる。

 

 そして。

 

 グレンとサイラス達が大空を飛び立って数分後に、ジョセフ達も大空を飛び立ち駆け抜けていくのであった――

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃――

 

 青々とした芝生、よく手入れされた植木と花壇が並ぶ、魔術学院の中庭にて。

 

 そこに旅支度を整えたイヴ、システィーナ、ルミアの三人が集まっていた。

 

 イヴが手に持った水晶玉からは、窓のような映像が宙に投射されている。

 

 それは、グレン視点からのグレンの周囲の光景の映像であった。

 

 今のグレンは、イヴと仮サーヴァント契約しており、グレンはイヴの疑似的な使い魔となっている。ゆえに、グレンが得た視覚、音声情報はイヴに送られ、それらを、イヴは水晶玉によって、この場に投射放映していたのだ。

 

「……行ったみたいね。さて、私達もそろそろ動きましょうか」

 

 映像を注視していたイヴがそう言って、映像を切った。すまし顔でポケットに水晶玉をしまい込みつつ、その美しい炎髪をかき上げる。

 

 すると、そんなイヴへ、システィーナとルミアがおろおろしながら交互に尋ねた。

 

「あ、あの……イヴさん……?私達、今から、先生達を追うんですよね?なんか皆、もの凄い勢いで飛んで行っちゃいましたけど……」

 

「ど、どうやって、追うんですか?ば、馬車じゃ到底、間に合わない……」

 

 そんな二人を前に、イヴは呆れたように溜め息を吐く。

 

 そして、不意に呪文を唱え始めた。

 

「≪いざ来たれり・翼持つ誇り高き風の朋友・我汝の契約を此処に果たせ≫――」

 

 右手で複雑な印を結びながら、イヴがその右手を地面へつける。

 

 すると、その手から輝く魔力の線が、無数に縦横無尽に地面を走って行き――五芒星の魔術法陣をたちまちのうちに形成する――召喚法陣だ。

 

 そして、その法陣が眩い光を放ち、虚空に『門』を開く。

 

 すると、その門から一騎の大鳥が翼をはためかせて、システィーナ達の前に降り立った。

 

 美しい紅の飾り羽根に、飾り尾羽、流線的なフォルム、雄々しき翼。

 

 その鳥は、まさしく――

 

「――神鳳!?」

 

「イヴさんも持っていたんですか!?」

 

「まあね。この子は、私の子供の頃からの友達よ」

 

 首を伸ばして頭をすり寄せてくる神鳳をなでながら、イヴが少し得意げに言った。

 

「この子を使うわ。……大丈夫、この子は空戦型よ。あんな運搬型に負けるわけがない。軍の空戦型にだって、速度でこの子に勝てるものなんて、そういるもんですか」

 

 まるで貴族が自慢の馬でも紹介するように、この時ばかりはイヴも表情が緩んでいた。

 

「とはいえ、グレン達の本隊に近づき過ぎれば、必ず感づかれるわ。相当の距離を取りつつ、先回りで目的地を目指すことになる。……飛ばすわよ?言っとくけど、かなり辛いから覚悟しておいて。……ほら、乗って」

 

「え?……え?」

 

「あ、あの……イヴさん?」

 

 嫌な予感に戸惑うシスティーナとルミアは、促されるまま、神鳳の背に乗せられる。

 

 そして――

 

「ハイッ!≪飛べ≫ッ!ピエラッ!」

 

 イヴの発した令呪と共に、神鳳は力強く、鋭く翼を羽ばたかせ――その羽根が、周囲の風を操って集め、凝縮して、凝縮して、増幅して――

 

 その圧倒的な風エネルギーの際限ない上昇が、あるレベルに到達した、その瞬間。神鳳は突如、もの凄い勢いで空へ向かって、鋭角にかっ飛んでいく。

 

「――っきゃぁあああああああああああああああああああ――ッ!?」

 

 システィーナの悲鳴が、遠い山の向こうの空へと吸い込まれていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 東のマレスまでの行程は、槍騎兵を使えば、二日の距離だ。

 

 早朝に飛び立ったジョセフ達は、サイラス一行に気付かれないようにするため、低空飛行で追跡、マレスへ向かっていた。

 

 槍騎兵と共に低空を翔け、平野を越え、山を越え――

 

 ひたすら、東へ東へと進む。

 

 サイラス達に見つからないように低空で飛行しているため、高空を飛んでいるサイラス一行とは違い、景色は楽しめない。

 

 まるで、走馬灯のように景色が変わっていく。

 

 やがて、低空を翔け続けるジョセフは、東から昇る日が、ゆっくりと頂点を過ぎり、次第に傾いていって、西へ沈んでいくのを横目で追う。

 

 そして、その日の入り。

 

リガ2を見つけた(ナイディナ・リガ・トゥヴァ)|。チェックポイントAに到達《カントローナヤ・トチュカ・アー・デスティーノタ》」

 

 予定を順調に消化したジョセフ達は、途中、マクシミリアンを乗せた槍騎兵と合流し、サイラス率いる討伐隊一行が、野営する湖畔から2キロス手前で降り立つのであった。

 

 

 

 

 

 

 







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