ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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ファーガス、ニコル、シャルロッテ、この三人だけは無性にボコりたかった。反省も後悔もない!(まぁ、なんとかなるっしょ)

というわけで、どうぞ(笑)


164話

 

 

 

「なぁ――ッ!?」

 

 直後、建物の四方八方から無数の火線が、グレン達がいる路地裏一帯の区画を埋め尽くしたのだ。

 

 まともに食らったら、身体が粉微塵になるような、恐るべき破壊の火線が、その一帯を穿ちまくり、破壊し尽くす。

 

「なんだ――今のは!?罠か!?」

 

「一体、誰が――ッ!?」

 

 驚愕の表情で、眼下の破壊跡を見下ろす一同へ――

 

「お、やっとこさ見えた、見えた。どうも、お三方は初めまして~。そして、お久しぶりです、グレン先生?」

 

 と。何者かが頭上から陽気な声で告げた。

 

 下を走る通りを挟んだ向こう側――一際、高い崩れかけの建物の尖塔の天辺に。

 

 月を背後に背負った人影があった。ベレー帽の下に茶髪が見え、その夜でも目立つオッドアイで、一同を見下ろしている。

 

 その時、グレンの胸に去来したのは、”まさか”というより”やはり”。いや、やっぱり”まさか”。

 

 もしくは――”お前が来るとは”。

 

「ジョセフぅうううううううう――ッ!」

 

 頭上に向かって吠えるグレンを。

 

 ジョセフは、ちらりと一瞥し、見下ろすのであった。

 

 現在の位置関係的には、尖塔上のジョセフを中心に、ファーガスが正面、ニコルが左舷、シャルロッテが右舷。皆、それぞれ、建物の屋根の上に陣取っている。

 

「おい、てめぇ……これは一体、どういうつもりだぁ?あぁ?」

 

 ファーガスが、ジョセフを見上げながら、パキポキと手を鳴らした。

 

「はは、これは一体、何の真似かな?≪黒い悪魔≫?」

 

「それに本隊が壊滅したって……貴方、何をおっしゃっているんですの?ありえないことくらい、貴方なら、おわかりでしょう?」

 

 ニコルも、シャルロッテもまさかの相手からの不意討ちに一瞬動揺したものの、すぐさま臨戦体勢を取りながら、余裕の表情でジョセフに向かって身構える。三人の誰もが、あの≪黒い悪魔≫が相手であっても、自分達の勝利を信じて疑っていない。

 

 だが――

 

「え?いや、だからそのままの意味なんですけど?後は貴方達なんですけど?」

 

 こいつら何言ってんの?といわんばかしのジョセフのキョトンとした声が、彼らの勝利感と陶酔感に冷たく水を差す。

 

「いやぁ、あれだけ警告したはずなんだけどなー。それでも来ちゃうんだから、後は≪星≫さんに任せましたー。ちゅうわけで、≪星≫さんはウチら連邦軍が保護しましたので、回れ右してお帰りくださ~い」(笑)

 

「ああ?吹かしてんじゃねーよ?本隊を片付けた?一体どうやってだ?」

 

 すると、ジョセフは”え?アンタ、何言ってんの?”といわんばかしの顔でファーガスを見て、告げる。

 

「えーと、お宅ら、あの≪星≫のアルベルトを追ってるんですよね?なら、魔術狙撃に決まってるでしょう?」

 

「……は?」

 

「いやいや、あれほど、姿を晒しての進軍……ありゃ、”私は的ですよ~、どうぞ、狙撃してくださいー”って言っているようなもんですよ?相手が相手なんだからもっとよく考えてくださいよ。アホすぎるでしょ」

 

 何か……ジョセフの言っていることは、おかしかった。

 

 おかし過ぎて、ファーガス達はしばらくの間、絶句するしかない。

 

「……強がりやはったりも大概にして欲しいな。彼ら本隊は、交代で小区画ごとに防御結界を張りながら進軍していたんだよ?いくらアルベルト先輩が魔術狙撃に長けていたとしても、そもそも、彼らに魔術狙撃が通るはずがないんだけど?」

 

 ニコルが微かに苛立ちながら言う。

 

 防御結界を張り替えながらの進軍法は、敵に魔術狙撃手がいる際の定石なのだ。

 

 ゆえに、アルベルトの魔術狙撃は通るはずがない。それが道理。

 

 だが――

 

「ええ、ええ、確かに防御結界を張り替えながらの進軍は、定石中の定石ですよね。なんせ相手はあの≪星≫さんなのですから。だから、駄目だったんですよ。だって、その定石戦法で進軍するには、進軍に合わせて、常に結界を張り替え続ける必要があるわけでしょう?防御結界は対象指定ではなく、座標指定なんですから。ならば、その結界張り替えの隙を彼は射貫けばいいだけなのですから」

 

 そんなジョセフの言に、三人はついに絶句するしかなかった。

 

 確かに、()()()()()()()()

 

 移動に合わせて新しい結界を張るには、古い結界を消さなければならない、近過ぎる同種の防御結界は、互いに干渉作用を起こして相殺されてしまうからだ。

 

 つまり、今まで自分を守っていた結界を消すと同時に、新しい結界を未踏領域に張る。

 

 そこに隙ができることは、事実なのだが――

 

「ふざけんなッ!ンなの、コンマ何秒以下の隙だと思ってるんだ!?そんなのできるわけが――」

 

「あのね、何度も言いますけど、()()()()()()()ですよ?≪星≫。社交舞踏会の時に、≪魔の右手≫が持っていたこんなクッソ細い指揮棒を()()()()()()()()()()()()あの≪星≫ですよ?そんなことを平然とする彼ならば、こんなのできないわけないじゃないですか」

 

 お前、頭大丈夫?と、ジョセフから言われているような気がしたのか、ファーガスの頭にかっと血が上るのであった。

 

(……そういうことかよ)

 

 だが、グレンだけは妙に納得していた。

 

 結界張り替えの隙を突いて、まず結界形成手達を狙撃し、行動不能にする。

 

 次の瞬間、グレン達別動隊への通信連絡手を、狙撃で即座に始末する。

 

 ようやく自分達が狙撃の的になっていることに気付き、魔導士達は戦闘態勢に入ろうとするが――もう遅い。圧力をかけるために見通しの良い通りを進軍していたのが、完全なる裏目。後はもう一方的な阿鼻叫喚のつるべ撃ちだ。それだけのことを為すのに三分という時間は、アルベルトにとって、あまりにも充分過ぎたのだ。

 

 確かに、普通ならば、そんなこと不可能である。できるはずがない。

 

 だが、アルベルトならできるだろう――それは、かつての相棒としての確信であった。

 

「まぁ、ということですので、さっさと回れ右して帰ってくださいな。言っときますけど、ウチはもちろん≪星≫さんにも手を出そうと思っているのなら……わかりますよね?」

 

 そう意味深に言って、再度撤退を勧告するジョセフ。

 

 アルベルトが連邦軍に保護されている以上、今、アルベルト討伐を強行すればそれは連邦への攻撃とみなされるのは、グレンでも知っていた。

 

 そうなったら、帝国と連邦の国際問題に発展する可能性もあるし、最悪、全面戦争とまではいかないまでも連邦軍が帝国へ武力制裁する恐れもある。

 

 つまり、これはもう、作戦は失敗だ。連邦が後ろ盾になってしまっている以上、もうどうすることもできない。

 

 ジョセフの言う通り、撤退するしかない。

 

 だが――

 

「あはは、それが事実なら……確かに、アルベルト先輩の魔術狙撃、聞きしに勝る腕前だね。正直、彼を見くびっていたよ」

 

「ですが……撤退するなど、それはできませんわ」

 

 流石は特務分室、練達の魔導士達。すぐに冷静さを取り戻したニコルとシャルロッテが、油断なくジョセフの隙を窺いながら、言った。

 

「撤退?悪いね、それはできないんだ。僕達は、なんとしてもアルベルト先輩を倒さなくてはならないのだから、それは無理な話だね」

 

「なにせ、彼は女王陛下を暗殺しようとした大罪人。そんな大罪人を保護するのは、連邦にとっては百害あって一利なしなのではなくて?」

 

「言っておくが、抵抗するなら容赦しねえぞ?このアメリカ人が。虫けらのように一方的にブチ殺されたくなきゃ、さっさとどきやがれ、おいこら」

 

 ファーガスも屋根伝いにゆっくりと、ジョセフへ向かって歩いていく。

 

 最早、誰の目から見てもジョセフは絶体絶命。

 

 凄腕の魔導士三人に囲まれて、進退ここに極まれり……そんな状況。

 

 しかし――

 

「ふーん」

 

 自分達が不利な状況に置かれているにもかかわらず、引く気配がない三人に、ジョセフは目を細め、溜め息を吐く。

 

「……やるの?」

 

 その時、今までのお気楽な雰囲気から一転。

 

 ジョセフの雰囲気が一気に気温が氷点下にまでに達する。

 

 その氷点下に達する雰囲気はグレン達にも伝わる。

 

「ええよ、アンタらがどうしてもっていうのなら、相手しちゃる。まぁ、向こうがどうしても引き下がらないのなら、強行するんなら、交戦の許可もらってるからな」

 

 そして、拳銃を二丁展開し、スライドを引く。

 

「≪星≫さんには、この場で最も脅威となる人に備え、魔力を温存したほうがええし」

 

 ジョセフは冷めた目で三人を見回して、グレンを一瞥するし、淡々と告げた。

 

「アンタらの相手は、俺で充分や。いや……本当は一般の部隊でも務まるんじゃない?お宅らの相手」

 

 その発言に相手を侮る意図も、見下す意図も……あったはあったが、ただ一つ、慢心はなかった。

 

 それが厳然とした覆しようのない事実ゆえに発言した――ただ、それだけであった。

 

「……野郎ぉ……ッ!?言わせておけばぁッ!?」

 

 そして、そんなジョセフの冷ややかな物言いは、ファーガス達を苛立たせる。

 

「聞き捨てられないね……ただ、弱い敵を三百人葬っただけのくせに」

 

「ジョセフ様。失礼ですが、貴方様は私達と違って、固有魔術は貧弱ですし、眷属秘呪も、何か突出した火電魔術も、何一つ持っていません。つまり、貴方は高位の魔術師かもしれませんが、同時に凡庸なんです」

 

 ニコルも、シャルロッテも、苛立ちを隠そうともせず、吐き捨てる。

 

「へっ。てめぇが使うのは、元・≪女教皇≫の我流で教えられた魔術と、規格化され、誰でも使えるあり来たりな軍用魔術とそれよりも劣る連邦の軍用魔術だけ……しかも、その魔術ですらあんまし使わねえ始末。この古臭ぇ、カビの生えた魔術師の教科書以下の野郎がデカい口叩きやがってッ!」

 

「教科書以下……教科書以下、ね。……まぁ、否定はせんわ。てか、現に魔術はあんま使わずに、銃やらトマホークやら大鎌やらがメインになってしまっているし?特に最近は」

 

 そんないきり立つファーガス達へ、ジョセフは溜め息を吐いてやはり冷めた目で告げる――

 

「まぁ、アンタらはそんな教科書以下のウチよりも下なんだけど?ウチ、アンタらみたいな連中に魔力使うの無駄やと思うねん」

 

 その、どこまでも小馬鹿に受け取れる態度に、ファーガス達が怒髪天を衝いた。

 

「後悔するなよッ!?このアメリカ人がぁあああああああ――ッ!」

 

「本当にムカつく人だよッ!まったく!」

 

「是非とも、その人を小馬鹿にした顔を地に這いつくばらせてみたいですわ――ッ!」

 

 ジョセフに向かって、一斉に駆け出す三人。屋根の上を凄まじく鋭い身のこなしで跳び抜け、三人は一気にジョセフへの距離を三方から詰めていく――

 

 対するジョセフは、揺らがず、臆せず、”あー、やっぱ来るのね”と思いながら、眼下を冷ややかに睥睨して言った。

 

「警告したのに……まぁ、ええわ。かかって来なはれ、素人共。――連邦軍(戦争のプロ)が戦闘というものを教えてやんよ」

 

 こうして。

 

 三人に加勢することも、ジョセフにアルベルトを引き渡すよう要求することもできず、ただ事の成り行きを見守るしかないグレンの前で。

 

 アルベルトを巡って、ファーガス達とジョセフの戦いの火蓋が、切って落とされたのであった――

 

 

 

 

 

 

 









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