Youtube のおすすめに、銀魂でドラえもんの歌があって、聞いてみたら、腹筋が崩壊しました(笑)
というわけで、どうぞ。
――ふと、グレンは思い出す。
それは――いつか、どこかの酒の席の肴……ほんの戯れの話題だったか。
「連邦の特殊部隊のことを知りたい……じゃと?」
とある酒場で、当時、特務分室の執行官だったグレンは、たまたまそこに居合わせたバーナードに、そんな話題を振ったことがあった。
「はぁ~、そりゃまた随分と好奇心があるのぉ……なにせ、連邦の特殊部隊は陸、海軍、海兵隊にそれぞれあるからのぉ……どの特殊部隊も、強襲、破壊工作、偵察……必ずどこかでドンパチしまくっているせいか、これらの能力も世界随一だし、戦闘経験も桁外れじゃ。連中に正面から戦って勝てる一般の部隊なんか、この世界におらんじゃろ。特殊部隊でも勝てるかどうかわからん」
そうか、だよな、連中はそういうやつだったよな……と苦笑するグレンに。
「中でも、陸軍第一特殊部隊デルタ分遣隊は他の特殊部隊の中でも頭一つ抜けておる。特に、その中でも五十の州とナンバーを持つ五十人は、わしら特務分室と同等の腕前を持っている連中じゃ」
その五十州という連中はどのくらい強いんだ?
そんなグレンの問いに、バーナードはあご髭をなでながら答えた。
「そうじゃな、もし、特務分室とその五十州それぞれ全員で全面衝突した場合、街一つは消滅するじゃろうな」
マジかよ……
「特に五十州の中でも、十三州はこれまたヤバい連中でのう」
十三州?もしかして独立十三州のことか?
「うむ。≪デラウェア≫、≪ペンシルベニア≫、≪ニュージャージー≫、≪ジョージア≫、≪コネチカット≫、≪マサチューセッツ≫、≪メリーランド≫、≪サウスカロライナ≫、≪ニューハンプシャー≫、≪バージニア≫、≪ニューヨーク≫、≪ノースカロライナ≫、≪ロードアイランド≫……独立戦争から成立した州だからか、この十三の席は魔術師の中でも最強格の魔術師しか名乗れない、いわば”最強の中の最強”の集団じゃよ」
なんだよ、それ……めちゃくちゃヤベえ連中じゃねえか?
肩を竦めるグレンに、バーナードは苦笑いで言った。
「まぁ、そうじゃな、あの十三州を打倒しうる可能性のある魔術師は、伝説の秘術使いでも、強力な固有魔術持ちでも教科書みてーな野郎でもなんでも……とりあえず、習得呪文と本体性能が桁違いの野郎が何人もいないと厳しいじゃろうのぉ」
ますます、勝てる見込みがないじゃねえか。
すると、バーナードは何か思いついたように、無邪気に言ったのだ。
「そーいえば、その中でも、ある一つのナンバーは、その中でもさらにヤバいやつじゃないと名乗れないらしくてのう。確か、そのナンバーと州の名は――……」
(あの時は、ただの酒の席での冗談だとか、ありえんとか思っていたけどよ……)
グレンは戦慄と共に、眼前の光景を睥睨しながら、物思う。
(しかも、白猫やルミアと同い年だったから、なおさら信じられなかったが……あの話、マジでマジかもしれねえな……ッ!?)
派手に焼け爛れ、焼け落ちた破壊跡の中心。
炎柱が囂々と上がり、まるで灼熱地獄の如きその場所に――ジョセフが大鎌を背負って立っている。
その足下には――手足と胸部を射貫かれたシャルロッテが、力なく倒れ伏していた。
「――あれだけの大天使を憑依させながら、なんですか、あの温い炎は?」
ジョセフは、つまらなさそうに事実を告げる。
「アンタは、分不相応な力を、何の工夫もなくただ派手にまき散らすだけ。だから温いんです。言っておきますけど、≪魔術師≫さんと≪ジョージア≫、この二人が振るう研ぎ澄まされた炎は、こんな物ではないですよ」
――圧倒的だった。
(……強ぇ)
全身を流れる冷や汗の感覚も忘れ、ただただグレンはそう短く形容するしかない。
この一戦だけを見れば、あの三人はただの三下の雑魚に見えてしまう。
だが、実際に戦った身として、それだけではないと断言できる。
今の帝国軍の魔導士で、あの三人に勝てる者など、ほとんど居ないはずだ。それだけは間違いない。それほどの力を、あの三人は確かに持っていたのだ。
だが、ジョセフはそれを一蹴した。まるで相手になっていない。
ゆえに単純な話――ジョセフがそれを遥かに超えて強かった――ただ、それだけ。
そして、どんな相手だろうが、自分の持ちうる魔術や知識、武器。全てを総動員して相手を打ち破る圧倒的な強さ。
それが連邦陸軍第一特殊部隊デルタ分遣隊ナンバー6≪マサチューセッツ≫――革命という独立戦争の産声を上げた州――だったのだ。
(ははは……俺は……なんていう生徒を持ってしまったんだ……?)
グレンが戦慄を噛み殺し、ジョセフを凝視する。
(……勝てるのか?……アルベルトはもちろん、俺はこいつに勝てるのか?)
グレンがそう固く身構えていると。
ジョセフは、ゆっくりと歩み寄ってくる。
そして、二人は彼我の距離約数十メトラを開けて、互いに向き合った。
「……お久しぶりです、先生。待ってましたよ」
「……ッ!」
言葉に詰まるグレンを置き去りに、ジョセフが告げる。
「先生がサイラスの命令で≪星≫さんの討伐に参加するというのは、フェジテで見てました。無論、イヴさん、システィーナ、ルミアもここに来ているというのも知っています。さて、先生はどうします?戦いますか?ならば、残念ですが……容赦はしません」
何もしてないのに、場に膨れあがるジョセフの存在感が、グレンを飲んでいく。
駄目だ。飲まれてはいけない。
グレンは魂を奮い立たせ、主導権を握ろうと言葉を発した。
「てめぇ!アルベルトによる女王陛下の暗殺未遂!そして、じじい達をアルベルトが殺ったってのも、連邦に亡命しようとしているのは、事実か!?」
「事実です」
少しは言い淀むかと期待したが、ジョセフはあっさりとそれを肯定した。
「な――……ッ!?」
信じられなかった。ジョセフからとはいえ、アルベルトがそんな暴虐をしたということがなお信じられない。
そんなグレンを見咎めるように、ジョセフが冷ややかな目で流し見る。
「相変わらずですね。そんなことを聞くために、わざわざここに来たんですか?」
「なんでだ……なんでアルベルトはそんなことをした……ッ!?」
グレンが血を吐くようにな思いで、吠える。
「≪星≫さんは、帝国にとって、必要なことをしたまでです。それ以上もそれ以下でもない」
「ジャティスみてーなこと言ってんじゃねえよッ!?ちゃんと質問に答えろッ!なんで、連邦はアルベルトを保護してんだよッ!?てめぇ、自分達がなにやってるのかわかってるのかッ!?」
すると。
ジョセフは、しばらくの間、沈黙を保ち……やがて、言った。
「……蒼天十字団」
「はぁ?蒼天十字団……?」
蒼天十字団。それは帝国政府魔導省の極秘魔術研究機関の名だ。
『Project:Revive Life』などの禁呪法を、極秘で研究開発し続けているという、帝国魔術界の最暗部。晩年、狂気に陥ったアリシア三世がその開祖とも言われ、存在だけが噂される都市伝説的な組織だ。もっとも、グレンとジョセフの場合は、以前、リリタニア地方で遭遇した誘拐事件で、実際にその機関が存在するらしいということは知っていたのだが……
(どうして、今、その名が出てくる?)
グレンには、まるでわけがわからないのであった。
「……話は終わりですか?」
戸惑いを隠せないグレンへ背を向け、ジョセフが歩き去っていく。
「戦う気が無いのなら、この場から立ち去ってください。正直、目障りです」
「……ま、待てッ!」
グレンが拳銃を引き抜き、その銃口をジョセフの背へと向けた。
「まだ話は終わってねえッ!お前、今、リィエルがどうなっているのか、わかってるはずだろッ!?」
すると、ジョセフは足を止める。
「あいつがエーテル乖離症を患って、死にかけだということを知っているだろ……ッ!その命を救うには、特務分室新室長のサイラスの取引に応じるしかねえんだ!応じて、リィエルの霊域図版を入手しなければならねえんだッ!事態は一刻を争うんだよ!」
「……やっぱり、サイラスの目的はそういうことだったのか。リィエルを使って、例の計画を……」
すると、ジョセフは何事かを考え込むように呟き始める。
「……頼む、ジョセフ。アルベルトを俺達に引き渡してくれッ!」
そんなジョセフへ、グレンは懇願するように言った。
「このままじゃ、リィエルは死ぬッ!俺は、どうしても霊域図版を手に入れなければならねえんだッ!だから――……」
だが、そんなグレンへ。
「悪いけど……ますます≪星≫さんを引き渡せなくなりました」
ジョセフは、今まで以上に強い意志を込めて拒絶した。
「なんだと……?なら、せめて事情を教えてくれッ!お前らは一体――」
「それも無理です。何故なら、
「は?俺が俺?そりゃ一体、どういう……?」
そんなグレンの疑問に答えず――
「抑、リィエルを救うために、≪星≫さんに死ねと?……随分、虫の良い話ですね」
ジョセフがグレンへ微かに振り返り、冷たく薄ら笑う。
「ち、違うッ!俺は――……」
「違わないです。現実を見てください」
ジョセフの鋭い叱責に、グレンは押し黙らざるを得ない。
「目に映る物を全て救いたい……先生のその信念は、青臭いですが尊いです。正直、ウチの目には眩しく映ることもあります。ですが――現実は何処までも残酷です」
「――ッ!?」
「先生も、そうやって取捨選択をし続けてきたはずです。もし、リィエルを救いたいと願うのであれば――覚悟を決めてください」
「……ジョ……セフ……」
「言っときますけど、≪星≫さんは退きません」
打ち拉がれた表情をするグレンへ、ジョセフが鋭く言葉を突き立てる。
「≪星≫さんとて背負っている者があります。彼を信じた者と、彼に全てを託した者達がいる。……それを裏切る事だけは彼には出来ないでしょう。もちろん、俺達連邦軍も。そして――それは、先生も
「…………ッ!?」
グレンの脳裏に不意に浮かぶのは――リィエルと、そんなリィエルを囲むシスティーナにルミア、二組の生徒達の姿。
「十は救えない。一を切って九を救う。それが彼のやり方です」
「ジョセフ……お前……」
「仮令、彼が地獄の業火に焼かれようと……俺もアリッサもあいつらから白い目で見られることになろうとも……自分達の目的のために戦う。立ち向かってくる輩には容赦しません。それが、先生が相手であっても、です」
「…………」
「≪星≫さんはすでに覚悟しています。先生はどうなんです?決して届かぬと知る理想に縋り付き、喚くだけですか?本当に大切な物を守り抜きたいのならば……先生も覚悟を決めてください」
そう冷酷に告げ、ジョセフは、そのまま去って行くのであった。
「……おい……待てよ……」
苦悩に歪む表情のグレンが、改めてジョセフの背に銃口を向け直すが。
「今、戦うつもりですか?……出直してください。
振り返りもせず、ジョセフはそう指摘し、構わず去って行く。
その指摘通り、グレンの指は石のように固まっており……引き金を引くことなど、到底できそうになかった。
「…………」
グレンはそんなジョセフを見送ることしかできず、やがて、ゆっくりと銃口を下ろし……誰へともなくぼそりと呟くのであった。
「……畜生……ッ!」
夜が――深くなる。
天蓋には、不気味に白く輝く月。
長い夜は、まだ始まったばかりであった――
――その頃。
古代遺跡都市マレスから遠く離れた、アルザーノ帝国魔術学院。
その医務室内にて――
「……ふぅ」
医務室の床に構築されたマナ遠隔供給法陣に手をつき、ウェンディは自身のマナを一心不乱にリィエルへ送り続けていた。
だが、ふと目眩がするのを感じ、マナを送る手を止めて頭を上げる。周囲を見れば、二年次生二組の生徒達が同じように、床の法陣を囲み、手をついてマナを送っている。
「……よし」
そんな生徒達の姿を見て、ウェンディは頭を振って気合を入れ直し、再び法陣へマナを送る作業へ戻ろうとして……
「駄目よ、ウェンディ。貴女は少し休まないと」
……傍らのテレサに止められていた。
「貴女は昼間もマナを供給し続けていたでしょう?いくら魔力容量に優れているとはいえ、もうマナ欠乏症が近いわ。リィエルのためでも、貴女まで倒れてしまっては本末転倒よ。だから、貴女は休んで」
そう諭してくる親友へ、ウェンディは何か物言いたげに口を開こうとして、沈黙し……
「…………そう、ですわね……」
溜め息をふぅと一息吐いて、傍らのベッドに力なく腰掛けるのであった。
……本当は、休みたくはなかった。
マナを供給している間は、何も考えずにいられるのだが、休ん途端、ここにいない幼馴染のことを考えてしまうのだ。
あれから、学院中をくまなく探したり、学院から出て、ジョセフの自宅まで行って探したが……結局、いなかった。
とするならば、ジョセフとアリッサが一体、どこにいったのかは大体想像がつく。そして、そこにはグレンもアルベルト討伐隊として向かっているというのも。
もし、サイラスという男の言う通り、グレンとジョセフが最悪、敵味方にわかれて、戦っていたとしたら……
駄目だ、考えただけで、頭がおかしくなりそうであった。
大丈夫、きっとなにか意味があるはず。彼が先生と戦うなんてあり得ない。
そんな風に無理矢理考え、嫌な予感を振り払う。気持ちを落ち着かせる。
ウェンディがそんな重たい頭を上げれば、床の法陣に魔力線を通して接続されたモノリス型魔導演算器の前で、セリカとセシリアが、何事かをひっきりなしに話し合っている。
そのモノリスの表面上には、光のルーン文字の羅列が洪水のように流れている。それらが疑似霊絡で遠隔的に繋がっているリィエルの、あらゆる生体情報を示しているらしい。
セリカ達の痛ましい表情を見る限り……リィエルの容態は芳しくなさそうだ。
「……リィエルは……本当に、私達の元に戻ってくるのでしょうか……?」
だから、いつも強気なウェンディの口から、ついそんな愚痴が零れてしまう。
「未だに実感が湧きませんが……リィエルは……もう……」
もうジョセフのことだけでも、弱気になりかけているのに、そこにリィエルの芳しくない容態を見て、さらに弱気になりかけたウェンディを、テレサが優しく窘めた。
「信じましょう、先生達を」
「!」
「それに……ここで、リィエルの命の綱を握っている私達が信じなければ……リィエルもきっと、どこに帰って来たら良いのか、迷ってしまいますよ」
「…………」
「……ジョセフとアリッサも大丈夫だと思います。あの二人と先生が戦う事なんてないわ。きっと、何か意味があって私達の前から姿を消したんだと思う。だから、あの二人も信じましょう」
「…………」
ウェンディはしばらくの間、重苦しく押し黙っていたが。
「……そう、ですわね」
やがて、自分の弱きを振り払うように顔を上げ、力強く頷き返していた。
「私達は、私達にできることを精一杯しますわ」
「はい、そうしましょう」
ウェンディやテレサだけない。
カッシュも、ギイブルも、セシルも、リンも、カイにロッド達も。
残された生徒達は皆、グレン達を信じて。
ひたすら祈りながら、リィエルの命を繋ぎ続けるのであった――
今回はここまでで