十四章、始まりマスタング
174話
「それでは、これから魔術祭典のアルザーノ帝国代表選抜会の閉会式を始める――」
そこはアルザーノ帝国魔術学院敷地内、南東部にある学院アリーナ。
およそ二千人を収容できるその広々とした空間に、集まった生徒達が整列している。
居並ぶ生徒達の制服は、当然、アルザーノ帝国魔術学院のものだが、ごく一部、違う学校の制服に身を包む生徒達も固まって並んでいるようだ。
そして、アリーナ奥の檀上中央にある講壇前に立つその男――単眼鏡の老紳士が、そんな生徒達を睥睨し、労うように言った。
「アルザーノ帝国魔術学院、聖リリィ魔術女学院、そして、クライトス魔術学院。我らが帝国を代表する選手候補の生徒諸君。この一週間、お疲れ様でしたな」
女王府官房長官――女王アリシア七世の政務の補佐を務める、グラッツ=ル=エドワルド卿だ。
壇上を見渡せば、他にもアルザーノ帝国魔術学院学院長リック=ウォーケン、聖リリィ魔術女学院新学院長ローナ=ローゼンバーグ、クライトス魔術学院の学院長ゲイソン=ル=クライトス……そうそうたるメンバーが、エドワルド卿の後ろに並んでいる。
彼らは、この一週間、ここアルザーノ帝国魔術学院で行われた、アルザーノ帝国代表選手選抜会の選考員なのだ。
ここに集った三校の代表選手候補の生徒達に課された様々な選考は、全て終了した。
後は、この帝国の威光を背負って魔術祭典に出場する生徒達の名前の発表を待つのみ……そんな状況であった。
(これで選考会が終わった。さて、誰になることやら……)
アリーナの隅にいるジョセフが、閉会式の様子を眺めていた。
この一週間はアルザーノ帝国魔術学院の生徒――二組の生徒の代表選手候補のサポートをしていたが、とりあえず無事に選抜会が終わってくれて、ほっとしていた。
「――と、言うわけで、今回、代表選手に選ばれた生徒はそれに慢心せず、祖国のためにさらなる研鑽を、惜しくも選ばれなかった生徒もそれに腐らず、常に――」
壇上では、先程からエドワルド卿が、いかにも眠たくなる訓示を、長々延々と話し続けている。集う生徒達の間に、”早く発表しろよ”という、うんざりとした空気が醸成されつつあるが、卿がそれに気付く気配はない。
エドワルド卿の話を右耳から左耳へ聞き流しながら、ジョセフはちらりと視線を動かす。
その視線の先には、この群衆の中でも一際目立つ、美しい銀髪の少女と、ツインテールの幼馴染の少女がいた。
システィーナとウェンディだ。
一人は人一倍緊張に溢れた面持ちと、もう一人はちょちょくあった凡ミスをしてしまい、落ち込んでいるような面持ちで代表選手の発表を待っている。
そんな、二人の様子を見て、ジョセフは苦笑いしていた。
(……ったく、システィーナはあれだけの好成績を叩き出しておいて、なんで緊張してんだよ)
そう、システィーナも代表選手候補として、この一週間、選抜会を戦い抜いたのだ。
すでに学生離れした成長を遂げているシスティーナだ。
その成績結果は最早、言うまでもない。
一方で。
(ウェンディはまぁ……ドンマイだな。あいつ、腕は良いんやけど、肝心な所でドジるからなぁ……後で愚痴の相手にでもなりましょうかね)
ウェンディも代表選手候補として、一週間、戦い抜いた。
システィーナ、ギイブルに次ぐ成績を誇るウェンディは、かなり良い線をいっていたが、不器用でどん臭い性格が災いしてか、肝心な所でドジを踏んでいたため、代表選手に選ばれるのかは微妙な状態だった。
終わったら、彼女の愚痴の相手をしとこう。
ジョセフは、そんな幼馴染を流し見て、肩を竦めた。
そして――
「――では、我らが厳選した代表選手を発表する。皆、心して拝聴するように。我らが帝国の威光を背負う彼ら彼女らを、盛大なる拍手と畏敬の意をもって讃えるように」
長々とした話もついに尽きたのか、エドワルド卿が発表へと移った。
途端、生徒達の間に広がる、さらなる緊張。
誰かがごくりと唾を飲む音が、妙に大きく辺りに響く。
「まず、今回の選抜会における最優秀者――代表選手団のメイン・ウィザードを務めていただく生徒だ。何度も繰り返し言うが、これは非常に名誉なことなのだ」
祈るように手を組んでいた、システィーナがさらに身を固くする。
目をぎゅっと瞑り、恐る恐る発表を待ち続ける。
(いや、だから、お前が落ちるようなことがあったら、ある意味怖いからな!?史上最強の代表選手団になるからな!?連邦も思わず、連邦軍を出すほどヤバいからね!?)
なんて、心の中でツッコミまくるジョセフ。
「その生徒の名は――……」
そして、エドワルド卿の口から、最も高き名誉を拝命する生徒の名が、ついに発表されるのであった――……
――――。
――――。
――……
――――。
「……、……ん?」
目を覚ます。
「ふわぁ……思わず寝てもうた」
欠伸をしながら、机に突っ伏していた頭を上げ、眠い目を擦った。
胡乱な頭で周囲を見回せば、ここは二年次二組の教室内――
――なのだが。
「……ん?あれ?」
なんか様子が変だ。
この時間だと、グレンやシスティーナ、ルミアにリィエルはもちろん、アリッサ、カッシュ、ウェンディ、ギイブル、テレサ、セシル、リン、ロッドにカイ……いつものメンバーがいるはずなのだが。
「あれ?もしかして、皆、先に行ってしまった?」
ジョセフはそう思い、席を立つ。
が、ぴたりと止まる。
違う、先に行ってなんかいない。
動きを止めて、耳を澄ませ、人の気配を感じようと、五感を集中させる。
やはりそうだ、これは明らかにおかしい。
静かすぎる。静かすぎるのだ。
いや、そもそも、ここにはジョセフ以外誰もいない、というような静けさだ。
「…………」
なにかただ事ではないことが起きている。ジョセフがそう思うと。
「ん?」
ジョセフは、左手に何かを掴むような感覚を感じ、見下ろすと。
そこには、刀がなぜか握られていた。
ラザールに止めを刺した刀。裏学院でも使っていた、あの刀である。
(一体、何が……?)
ジョセフは、何がなんだかわからず、教室の扉を開ける。
廊下には誰もいない。本当に人っ子一人いない。
「先生ー?」
ジョセフは一応、声を上げ、グレンに呼びかける。
もしかしたら、ジョセフの勘違いで、呼びかけに答えるかもしれない。
しかし、ジョセフの呼びかけに反応しない。
「システィーナ?ルミア?リィエル?」
続けて、例の三人組にも呼びかけるが。
反応なし。
まったく、反応がない。
「……おかしい」
こんなに静かなのはどう考えても、おかしい。
一体、何があったのか、ジョセフが考え込むと。
『いた。やっと、話せる相手を見つけた。どうやら、時間軸と時間軸の狭間に投げやられたらしいけど、まだ、なんとかんるし、とにかく話せる相手がいただけで良かったわ』
ふと、聞き覚えのある少女の声がし、ジョセフが声の方向に振り向くと。
そこに、一人の少女の姿があった。
ルミアに似ていて、背中に異形の翼があるその少女は。
「……ナムルス?」
ジョセフは時折、グレン達の手助けをしてくれる神出鬼没の謎の少女――ナムルスを見るが、なんかいつもと違う。
”肉体を失い、今は精神存在である”――とはナムルスの弁だが、普段はもっと実体に近い、はっきりとした姿を取って現れる。
なぜ、今は、そんないかにも幽霊みたいな姿で現れたのかはわからないが――
「久しぶりやな。……と言いたいが、当ててやろう。絶対にロクでもない話だろ?ていうか、こんな異常事態な上に、アンタが今にも姿が消えそうな姿になっているし。とにかく、一体、何が起きてるんです?」
『そうね。貴方の言う通り、異常事態よ。とりあえず、順を追って説明するわ。そうね……まず、取り急ぎ、私から貴方に言いたいのは……』
はぁ、と。ナムルスは溜め息を吐くような、拗ねたような仕草を見せて、言った。
『5044回』
「……5044回?それはなんです?」
『貴方がこの一週間……ええと、なんとか代表選手選抜会だっけ?とやらを、貴方が繰り返した回数』
「…………」
ナムルスの言う事は意味不明なことが多い。
だが、確かなことは決してデタラメなことは言わない。
つまり、彼女の言っていることは……無茶苦茶で信じられないが、事実だということだ。
「つまり、俺はあの一週間を、何度も何度も繰り返しているって言うこと?……100年近くも?」
『そうよ。まぁ、貴方だけではなく、グレンも、他の人達もね。はぁ、まったく、少しは100年近く、代り映えのない光景を見せ続けられた私の身にもなってよ、もう!』
未だ信じられずに呆気に取られるジョセフに、ナムルスはうんざりしたように言った。
『まぁ、実際見たらわかるわ。今は、時間がないわ』
すると、ナムルスは少し焦ったように半透明の手を伸ばし、ジョセフの額に指をつける。
『やっとよ……あの刀のおかげで、やっと、僅かながら突破口が見つかったんだもの。この機を逃してなるもんか……ッ!』
そう言って、ナムルスは目を瞑った。
「ジョセフ、何千回ものループの記憶を一度に戻すと、容量オーバーで脳と精神をやられるわ。だから、ここ最近の十数回のループに限定して、貴方の記憶を蘇らせる」
ばちり!
次の瞬間、ジョセフの脳内に、稲妻のような衝撃が走った。
「――ッ!?」
蘇る。ジョセフの頭の中に次々と蘇る。走馬灯のように蘇る。
延々と繰り返される一週間。その閉ざされた軌跡の記憶が――
「これは――……ッ!?」
最初の十数回のループは、ほとんど展開が同じだ。
一日目に、グレンがシスティーナに叩き起こされ、交流歓迎会に参加。
二日目の第一の試験、魔力測定会。三日目の第二の試験、座学試験。
この座学試験の結果発表の時に、ある一人の女子生徒の点数がヤバいということで、その日はそのことで話題になっていた。
こうして、その後の選抜会は順調に進み……
そして、四日目から第三の試験、『総当たり魔術決闘戦』が始まる。
文字通り、六十人の代表選手候補達が総当たりで一対一の決闘戦を行って、その成績を競うという、今回の代表選手選抜戦でもっとも配点が大きい試験だ。
その中でも、システィーナと……確かクライトス校の男子生徒――
いや、違う。男子生徒ではなく、先の女子生徒だ。この二人が圧倒的な強さでお互いに勝ち星を上げ続け――
だが、最後にシスティーナがその女子生徒を下し、システィーナがトップに立つのだ。
一週間を何度繰り返しても、途中、多少の違う展開は交じるが、毎回同じだ。
(そして、その後すぐ、代表選手選抜会の閉会式が行われて……エドワルド卿の退屈な長話の果てに、メイン・ウィザードの名前が発表される。その名前は当然――)
システィーナだ。もっとも配点が高い決闘戦で全勝したのである。当然だ。
確かに、クライトス校の女子生徒も健闘した。
魔力測定はシスティーナに迫り、座学試験に至ってはシスティーナの一歩上を行った。
そして、決闘戦でも、女子生徒はシスティーナを相手に健闘したのだが――どうしても、システィーナには勝てなかった。何度やっても、この結果だけは変わらない。
クライトス校の女子生徒は結局、システィーナには届かなかったのである。
(そして――、そこが
そう。
メイン・ウィザードにシスティーナの名前が発表された瞬間、全てが暗転し――
全てが闇の中へと包まれて――
――先生!先生!先生って!先生ったら!
――もうっ!いい加減、起きてくださいってば、先生っ!
――システィーナにグレンが叩き起こされる、繰り返しの
ジョセフは、いや、今でもグレン達は、あの学院に集う全ての人間が――いや、それこそ、帝国、連邦問わずこの世界に生きている人人間が――知らず知らずのうちに、その代わり映えのない一週間を、延々と繰り返し続けてきたのだ。
「……なぜ?」
ジョセフはあまりにもクソな状況にそれしか言葉が出なかった。
(この現象は自然現象ではない。あり得ない。となると、考えられるのは……誰かの手によって繰り返されているということ。今も、だ)
まだ頭が整理できる状態ではないが、出来る限り状況を整理する。
「……OK。信じがたいが、面倒臭くてヤバい状況だってことはわかった。せやけど、なんでもっと早く、教えてくれなかったんですか?ていうかこれ、グレン先生は知っているんですか?」
『今まで干渉出来なかったのよ……繰り返される一週間の時間だけ、通常の時間軸の流れから……分枝世界から切り離されていたの』
「……?」
『少し真理の一片を明かすけどね。以前、私は肉体を失って、この世界の霊脈に縋りつく思念体のような存在って言ったでしょう?
より正確には、私の根源的な存在本質は、この世界とは違う世界――外宇宙にあって、そこから、私の存在の一部を霊脈……アマラ経路を通じてこっちの世界へ飛ばし、それをインターフェイスに、貴方達と接触していたわけ。
なぜ、そんな回りくどいことをしてたかと言えば、私の根源的な存在本質が貴方達人間には理解し得ないものだから。というか理解したら正気がぶっ飛ぶし。だから、貴方達人間でも、まだ理解し得る姿――名無しとして現れたって、そういうこと』
今、何かもの凄い重要な情報が明かされている気がするが――いや、聞きたいことがいくつかあるのだが……それについて言及しているほど、のんびりできる状況ではない。
「……つまり、アンタって、要するに存在概念の分霊みたいなもんってことか?」
『まぁ、厳密には違うけど、そう思ってくれて構わないわ。とにかく、本来の私は、このグレンがいる世界の”外”に居るの。だから、この繰り返される一週間が、その”外”と完全に切り離されていたから、貴方達に干渉できなかったてわけ』
「ん?ちょっと待てよ?じゃあ、まだ繰り返しの一週間が続いているとするならば、先生はこのことを知らないと?それに、なんで俺に接触出来たんです?てか、なんでここには俺以外の人間がいないんです?」
すると、ナムルスが順々に言った。
『そうね、このことはまだグレンは知らない。グレンにはまだ干渉できない。何回か、グレンに干渉しようと試みたけど……結果は同じだったわ。そして、なぜ、私が貴方に接触することが出来たのか。それは、その刀が貴方を一週間繰り返している時間軸から本来の時空間の狭間に出したのよ』
「刀?これがか?」
ジョセフはいきなり召喚されていた刀を見て、首を傾げる。
『そう。一体、どういう原理になっているのか。理屈になっているのか、正直に言うと、私にもわからない。そもそも、誰が何の目的でどうやったらこんな世界の理を無視するだけ無視して作ったのか……≪鉄騎剛将≫アセロ=イエロが纏っていた神鉄よりも実在していのかどうか疑わしい刀だったし……まぁ、とにかく、その刀が貴方に対し、何らかの危険を察知してこの空間に飛ばしたと思っていいわ』
「あー、確かに、俺もこいつを使っているが未だに完全に知っているわけじゃないしな。何でも斬れるのと、転移出来るのと、魔力をバカ食いするくらいしか知らんわ」
なぜ、そうなっているのか、ジョセフにもわからない。軍学校に入る前に、母エヴァから貰ったからエヴァは知っていると思うが、母はもうこの世にいない。
「で、狭間に出されてしまったからなのか、アンタは俺を接触することが辛うじて出来たってわけか」
『そういうこと。今でも、”外”から延々と観測し続けることはできても、グレンに干渉はできてないの。……一体、原因はなんなのか、わからないわ。貴方は何か心当たりある?さっきのフラッシュバックを見て』
「心当たりか……誰がこんなアホなことやってんのかわからへんけど」
ジョセフはさきのフラッシュバックで見た時、一人の女子生徒の存在が気になっていた。
「ある一人の女子生徒の存在が気になっている。あの選抜会で一番注目されていたのは、システィーナとクライトス校の男子生徒だった。そして、この二人のどちらかがメイン・ウィザードになれるという下馬評だった。だが、あのフラッシュバック――最近の十数回のループでは……システィーナとその女子生徒だった。しかも、座学試験でも、とんでもない点数叩き出していたしな。……なんで、彼女のような人が注目されなかったんだ?」
『彼女?ああ、エレンっていう負け犬のこと?』
「……かもな。名前知らんけど。せやけど、あれは普通じゃなかった。今回のループ現象に何らかの関与があると俺は思う」
『その負け犬は、関与しているとして、なんで繰り返しているわけ?方法はともかく、その動機は?』
ナムルスの疑問に、ジョセフはしばらく考え込む。
「選抜会の最終日のエドワルド卿からメイン・ウィザードの名前を発表される時、システィーナと言った時点で全てが暗転し、また初日に戻った。これはあくまで現段階での推測だが、恐らく彼女は今回の選抜会で勝たなくてはならなかった。だから、勝てるまでに繰り返す――彼女のそういった背景が何なのかわからないし、いくつか疑問点があるが、それが動機だと思う」
『そう。だとしたら皮肉ね。そこまでしてシスティーナに一度も勝てないなんて』
「根本的な器の差ってやつかもしれません。悲しいですけど、世の中には怏々として”そういうこと”がありますし。……”どんなに努力しても、絶対に敵わない奴”っていうのが存在するんです」
極限まで鍛え上げても、天才であるシスティーナには叶わない。
それが、この女子生徒の限界――壁なのだ。
その壁を越えるには、新しい何かに開眼しないといけないわけなのだが……こんな閉ざされた世界と時間の中では、そんなもの望むべくもない。
凡人が我流で剣を稽古しても、天才の剣には絶対に敵わないのと同じだ。
凡人が天才に勝つつもりなら、せめて、長き歴史の中で多くの先達が洗練させ、磨き抜いてきた剣術を、良き師の下で一から習うとかしなければ、お話にならない。
一個の懸絶した才覚に対しては、歴史の重さで対抗するしかないのだ。
「とにかく問題は、この馬鹿げた状況をどうやって、元に戻すのかっていうとこなんだけど……とにかく、今んとこ手かがりは彼女しかいない以上、彼女のことを調べないといけない」
『そう……』
ジョセフが自分の方針をナムルスに伝えた……その時であった。
ナムルスの姿が、不意に蜃気楼のように揺らぎ始めた。
「……ナムルス?」
『時間みたいね』
揺らぐナムルスの姿は、ゆっくりと薄らいでいった。
『ジョセフ、聞いて。世界は矛盾を許さない、知ってるでしょう?』
「魔術の基本理論やからな。言いたいことはわかる。あと、どれぐらいループしたら
『勘の良い子。そうね、何千回もループしたこの時間……もうすでに限界に達し始めているわ。これ以上、ループしたら、時空間が本来の時間軸からねじ切れて隔離されてしまう……見て?』
「――ッ!?」
ナムルスが何かを念じると、ジョセフの世界が不意に様変わりした。世界――空間が、ぐるぐると捻じれて歪んで、虚空に無数の亀裂が編み目のように走っているのだ。
今にも世界の全てが崩れ墜ち、崩壊してしまうそうであった。
「あ~あ~あ。こんなことになってまで、ループするなんて……バカじゃないの?」
『この通り、貴方の……グレンの世界はもう崩壊寸前なの。不自然なループを繰り返し続けることによってね』
ナムルスが指を打ち鳴らす真似をすると、世界の歪みは再び不可視となる。
だが、歪みに歪みきった世界の真実の姿に、ジョセフは溜め息を吐くとともに、この奇妙な案件の黒幕をぶん殴ってやりたいと思っていた。
『完全にねじ切れてしまえば、グレン達はもう、”どこにも向かわない”。同じ一週間を永劫に繰り返す羽目になるわ。そして、貴方はこの狭間の空間で独り孤独に永劫に彷徨うことになる。……そう、永劫に』
「はぁ~、なんでこんなことになってまで、メイン・ウィザードになりたがるのかね~?さっぱりわからん」
『ジョセフ、わかってるとは思うけど――』
「ああ、このループを抜け出して、先生を助けてくれっていうことでしょ?先生には役目があるから」
『お願い。私も引き続き、グレンに干渉できるか、試してみる。それと、その刀が過去のループされた記憶を追うことが出来るはずだわ。世界の理を捻じ曲げてるからなせる業なのか、わからないけど。とにかく、貴方はそれで今回の真相を追って。そして、グレンとループから抜け出して。彼はこんな鳥籠の中で足踏みしてはいけないの。……未来と、そして、過去のために。そしてなにより、グレンのために。だから――』
懇願するように言葉を紡ぎながら、ナムルスの存在は希薄になっていき――
――やがて、完全に消滅してしまうのであった。
「……未来と過去のために、ね。ていうか、お前、ほんとにどないなっとんの?なんでもできるの?」
ジョセフは、手に持っている刀に対して、そう言う。
「さて……これから動くんだが、まずはあの女子生徒――エレンだっけか?を見つけないとだな」
と、なると。
「可能性が一番高いのは、初日の歓迎会だよな。あそこはウチらはもちろん、聖リリィとクライトス校の代表選手候補の連中がいつはずや。そこで、彼女を見つける」
そう言いながら、ジョセフは刀を鞘から抜き、目の前の空間に十字を切る。
すると、その空間は捲れ――光って見えないが、恐らく、過去のループされたところに行くとこに繋がると思われる――別の空間が見えてくる。
正直、こんなクソったれな状況から一刻も抜け出したかった。
「――それに、先生達の未来も……もちろん、あいつの未来も閉じさせるわけにはいかへんしな。動きましょうかね」
ジョセフは決意を胸に、その空間の中に入っていくのであった。
ループから、一人だけ追い出されるスタイル。
というわけで、今回はここまで。