これ、あと何話かで終わりますね(笑)
というわけで、どうぞ。
「さて、これから、封印書庫に向かうのだが……ここで、エレンのことをざっとまとめるか
」
附属図書館にある封印書庫に向かいながら、ジョセフは誰へともなく呟く。
「エレンはクライトス主家筋の生まれで、父にグラハムを。兄にレオスがおり、エレンはレオスの妹だ。確か、グラハムとシスティーナの父、レナードが友人同士だったため、エレンはシスティーナとは幼馴染の関係となるな」
ジョセフはメモ用紙に簡単な相関図を書きながら呟く。
「レオスとエレンとの間で喧嘩とか揉めたことがないことから、仲は凄く良かったらしいな。だが、レオスが魔術の才に恵まれている一方、エレンにはお世辞にも魔術の才はなかった……」
そう、だから、本来は代表選手選抜会に出れるはずがないのだが。
「不幸なことに、クライトス家は奉神戦争後に設立したクライトス魔術学院を機に魔術師の家系に連なっている新興の魔術師の家系。ゆえに、クライトス家は完全に才能偏重主義……一族はエレンに対して冷たかったはずだ。養子に出される話もあったはず……だが、そんな圧力を当主であった父親と兄が守っていた。だから、エレンはクライトス家にいられたはずだ」
レオス=クライトス。あれだけの才能を持ちながら、ジャティスの手によって犠牲になった彼は、もしかしたらあの時のシスティーナへ結婚を迫ったのは、フィーベル家を取り込むことで自分の地位を盤石にし、弱い立場の妹エレンを守るためだった……それも理由の一つかもしれない。……今となっては死人に口なしだが。
「だが、父が病気で早世し……唯一、エレンの心の拠り所だったであろうレオスも、ジャティスが仕掛けた件の事件で亡くなってことで彼女はいよいよその重圧にさらされることになった」
グラハム、レオスと立て続けに失ったクライトス主家は次世代がエレンしかいない。レオスが亡くなった以上、エレンが次期当主になるわけだが……分家にはレヴィンがいる。となると、だ。どっちが次期当主に相応しいかで主家と分家は揉める。お家騒動だ。
「そんな状況だから、エレンが何か鍛錬を重ねたのかもしれない」
だが、一体どうやって?
「システィーナにあれほど張り合うんだ。先生のように元・軍人でもない限り、かなりの魔力容量と魔力濃度はあるはず。だが、エレンの場合、魔力容量945、魔力濃度43……魔術師を名乗るに、何とかぎりぎりの水準。……兄レオスと父グラハムの指導の下、必死の努力をして、だ」
このように、生まれ持った初期基礎魔力容量から必死の努力をすれば、上がることはできるのだが。
「エレンの場合、かなり異常な数値になっているはず……おそらく約十倍ぐらいの魔力容量、約四倍の魔力濃度ぐらいはあるはず。……一ヶ月でこんな数値の上昇はあり得ない」
いや、できないわけではないのだが。
「確かに、生きるか死ぬかの瀬戸際の中で、大きな魔力容量に覚醒することはままある……システィーナが良い例だ。けど、それだって、潜在魔力容量があってこそなんだけどなぁ」
魔力容量には、潜在魔力と顕在魔力の二つがある。
システィーナの場合、潜在、自分の意思では操作できないけど、容量上限としてはある魔力が元々持っていたから、その潜在魔力が意識的に利用できる魔力として顕在化し、急に魔力容量が伸びたように見えているだけだ。
伸び代があったシスティーナは、ここ最近、急成長したのも潜在魔力容量があったからこそ魔術理論的に”あり得た”。
とはいえ、それでも半年はかかっている。
一方でエレンの場合はというと。
「エレンの場合、伸び代は……ほぼ0だ。元々の伸び代がないのに魔力容量がシスティーナに匹敵することはあり得ない。先生のように軍にいたこともない」
と、なると、だ。
ジョセフはある手段を考えた。
それは。
「ここであのループだ。エレンは恐らく、ループするたびに前回の記憶を引き継いでいるはずだ。要はゲームで全クリしてもう一回ニューゲームを開始する時、前回のデータを引き継いで始める。全クリしたらもう一回同じことをする。それを何回も、何回も、何回も……そして、五千回を超えて今に至っている。……それだったら、あの異常な成長ぶりも頷ける。魔力の錬成……霊的感覚の鍛錬は肉体鍛錬とは違い、
にしても、と。ジョセフはエレンのメイン・ウィザードの執着ぶりに内心驚く。
(普通、ループを使うなら、精々五回、どんなに続けても十回くらいが限度だ。これ以上すると……飽きて心が折れる。百年相当のループなんてやったら、普通の人なら壊れるぞ)
エレンはなぜ五千回も、時間軸がねじ切れる危険を冒してまでメイン・ウィザードを欲しがる?
そこまでして欲しがる理由は一体、なんだ?
要は何が言いたいのかというと……エレンの執着ぶりは普通じゃないということだった。
今回の奇妙な案件の最大の謎であった。
そう物思いながらジョセフは、魔術学院付属図書館の地下書庫区画の入り口に着く。
その通路の奥は、闇でまったく見えない。
「……エレンが一体、どうしてそこまで執着するのか、まったくわからんが……」
そう言いながら、鞘から刀を抜くジョセフ。
「とりあえず、エレンが持っていたあの時計のような物……あれは多分、魔導器かなんかの類だと思う。そして、それを調べるために、ここに来たんだが」
そう言って、ジョセフは十文字に刀を振り、転移魔術のような異次元の空間が現れる。
「時間が恐ろしくらいかかるぞ……システィーナとかいれば何とかなるんだが。まぁ、ないものねだりしてもしょうがない」
そう、今あるもので、事態を切り抜く。
軍学校から≪連邦の狂犬≫から耳にタコができる程、言われていた。
「動けるのは今のところ、俺しかいない。ナムルスが先生に接触出来たとしても、連携は厳しい」
でも、やるしかない。
ふと、茶髪のツインテールお嬢のことを思い出す。
いつも強気でシスティーナをライバル視していて、でも実力者であり、同時に不器用でどんくさくて肝心なところでドジる幼馴染。
そして、フェジテ最悪の三日間の時、抱きしめ合ったあの温もりをなぜか思い出す。
はぁ、こんな時に何考えているんやら。
「……約束だしな。約束は守らなきゃな」
そう言ってジョセフは、異次元の空間に入り、封印書庫に入っていくのであった。
――――。
――ジョセフ、ジョセフッ!聞いてくださいましっ!わたくし、帝国代表選手候補に選ばれましたの!
――おっ!マジでか!?良かったやん!
――ふふん!選ばれた以上、誇り高きナーブレスの名にかけて、華麗に――
――華麗にドジを踏むんですね。わかります(笑)
――ちょ!?ドジなんて踏みませんわ!華麗に代表選手に選ばれてみせますわよ!?
――そうですか、そうですかー。それは、楽しみですわ(笑)……ドジのほうを(笑)
――むっきぃいいいいいいいいいいいい――ッ!
――じゃあ、そんな華麗な活躍(笑)を暖かく見守りましょうかね~
――その(笑)はどういう意味なんですの!?
――そのままの意味です(笑)
――ですよねぇ!そうだと思ってましたわよ!くぅううう……ッ!ジョセフぅううううう――ッ!
――――。
そして、やがて辿り着いた、禁断封印書庫にて――
「ふーん……そうかそうか……この古代文字は……象徴学的に……モリア王朝の王室秘匿書式の応用解読法が流用できるかもしれないな……」
据えられた読書台に、山ほどの文献がその周囲に積まれている。
ジョセフはふと手に持っている文献を、一心不乱に読み漁っていた。
当初は、着いたはいいものの、どこか手をつけようかと迷っていた。
とにかく、考えてもアレなので、ジョセフは片端から文献を読み漁っていたのである。
実際は、何一つ進まず、苛ついていたため、気分転換がてら(?)に読み漁っていただけなのだが。
台の上に置いたランプの淡い光を頼りに、ジョセフは読み漁っていた。
「これなら、確か『旧古代大ルーン外法辞典』があったはずなんだが……あ、これこれ――」
「――と、後、『古代象徴学秘術書』は……あった、あった」
ジョセフはまわりに積まれた本の群れから、二冊の本を取り出し、読み耽る。
「……飽きた……」
ジョセフはそう言うと、本を閉じ、溜め息を吐く。
「……一体、なにやってるんだ、俺は?こんなことしている暇はないのに……」
そう、ジョセフがそうこうしている内に、今もループをし続けているのだ。
ナムルスのあの言い分だと、長くは保たない。
しかも、グレンに接触出来たのか、あれ以来、ナムルスから何の話もきていないのだ。
「時間もない。手段はわからない。あの時計の正体もわからない……くそ、いや、あの時計は確かに見覚えがあるんや……ッ!ただの高級な時計ではない。あれは魔導器の一種かなんかで――」
ジョセフがそう言いながら頭を抱えていた……その時だ。
「――ん?」
ジョセフはある本の一冊が無造作に広げられている本を見る。
その開かれた頁にはある像が載せられていた。
まるで、人間の少女と鳥類を交配させたかのような、冒涜的な像だ。
正直、見ているだけで、吐き気がしてくる気持ち悪さ、禍々しさがあった。
「この像……確か、ボストンで母さんの話に……」
ジョセフは、ボストンにいた時の母エヴァの話を思い出すのであった。
「ねぇねぇ、ジョセフ。これ見てよ」
「ん?……って、何、この気持ち悪い像。……これがどうしたん?」
それは、ジョセフがまだボストンにいた頃。
母エヴァがある本を広げながら、ソファでくつろいでいたジョセフにその像を見せた。
反応は、まぁ本当に気持ち悪いというのが最初に出てくる像であった。
「これはね……そうね、まず、ジョセフは『天空の双生児』は知ってるわよね?」
「まぁ、それは母さんから聞いているし。……耳にタコができるほど。……えーと、古代文明の主要宗教……星辰信仰における、最高神格の神性でしょう?双子の姉妹神だったはず」
「そうそう。で、連邦と帝国とレザリア王国等が国教とする聖エリサレス教における第一位:
「え?」
ジョセフがエヴァの主張した説に、目を丸くする。
「全知全能たる至高神の、忠実で神聖なる意思の代行たる天使が異教の最高神格?……
「まぁ、そうなるんでしょうけど。でも、そう考えられる根拠はあるのよ。まず、北セルフォード大陸の各地に散逸する古代神話と宗教体系を分析し、その主幹の星辰信仰が、時代の変遷と共に聖エリサレス教に改宗されていく過程と順序、聖エリサレス教の祭典の礼式変化と編纂過程を追えば、必然的に出てくるの。つまり(略)――そもそも、ラ=ティリカ、レ=ファリアという名前の語源は(略)――(略)――(略)」
「ふーん、つまり、星辰信仰は、北セルフォード大陸各地の民族風俗に根深く存在しているんね?だから、聖エリサレス教の布教には、星辰信仰の神性を取り込んでいかなければならなくて、でも、教会としては、自分達の奉ずる至高神より、異教の神格の方が人気者だったってことの証明であって、不本意で不名誉だから隠匿していると……」
なんかこのままだと、話が延々と続きそうだと思ったため、結論を強引に纏める。
「で、この像は、その天空の双生児とどう関係が?」
ジョセフがそう言うと、エヴァはドヤ顔で言葉を続ける。
なぜ、ドヤ顔なのか、ジョセフにはわからない。
「この像はね、天空の双生児の片割れの≪時の天使≫ラ=ティリカの眷属ではないかと、思ってるわけ」
「はぁ、さいで……」
エヴァの言葉に、気のない返事をするジョセフ。
「で、その像の真名は?」
「えーと、確か、その像の真名は――」
「――”アルキオ”……いや、それはまだ新しかったはず……”アーキオ”……じゃない……もっと旧い名前だったはず」
ボストンにいた頃の話を思い出し、像の名の候補を呟いては、それよりももっと古い名を思いそうとする。
「”ルー=キオ”……だったような気が……いや、≪時の天使≫ラ=ティリカの眷属なんだ。一千年近くのブランクがあると思っていたほうがいい」
ジョセフが、必死に名前を思い出そうとする。
そして――
「”ル=キル”……そうだ、ル=キルだッ!あの像の名前はル=キルだ!」
ジョセフは、ようやくあの像の名前を思い出した。
「ル=キル。あれは確か天空の双生児達が、古代に超魔法文明を築き、この世界で最初に”王”となった者――『賢王ティトゥス=クルォー』を加護するために、その人外の力を貸した。自身らが加護する”王”が、この世界を管理するため、多くの眷属を作って与えた。その一柱が、ル=キル……≪時の天使≫ラ=ティリカの眷属」
段々と、エレンがループを繰り返していた手段が見え始める。
「ル=キルは、≪時の天使≫ラ=ティリカが生み出した眷属達の中では、もっとも強い力を持つ眷属だったらしい。そして、ル=キルはラ=ティリカと同様の能力を持っていた。それが、時間を操る力を持っていた……限定的なんだが」
そう。ル=キルはそういう能力を持っていた。
「そして、そのル=キルの伝承が良く伝わっている所は……クリュトゥース……そう、今で言う
ようやっと、背景が見え始めた。
この奇妙な案件にはクライトス家が絡んでいたのだ。
次々と、ピースが嵌まっていく。
「そして、ある時、ル=キルは王に逆らってしまったらしい。ル=キルは、怒った王の手によって、とある魔術機能を持った時計へと改造された……それがエレンが持っていたあの時計だ」
やっと手段が判明した。
「≪ル=キルの時計≫の機能は、”時間を巻き戻す”。……これが、この奇妙な案件の正体だ。そういや、これは魔導器ではなく、魔法遺産だが、クライトス家は初代クライトス卿が蒐集していた大量の魔導書や魔法遺産を多く所有していたな。伝承がある≪ル=キルの時計≫を持っていてもおかしくないはずや」
事態の裏側が見えてきた。
時間を操る力を持つル=キル、それを改造して作った≪ル=キルの時計≫――時間を操作する強力な魔法遺産。エレンはそれを使って、自分が望む結末を引き寄せるため、この一週間を繰り返している。それがこの繰り返す一週間の正体――
だが――
(そうなると、やっぱりあの疑問があるんだよなぁ)
その疑問は、エレンはなぜ、馬鹿正直に五千回も繰り返しているのか?
元々、馬鹿正直に繰り返す必要はないのだ。
エレンがメイン・ウィザードを獲得する上で、最大の障害は言うまでもなくシスティーナだ。ならば、何回かシスティーナと対戦して、次で罠を予め張ってシスティーナを潰せばいいのだ。
そうすれば、数回、数十回で終わるはずだ。わざわざ何千回もシスティーナに負けて、精神的におかしくなりそうなところまでいかなくてもいいはずなのだ。
なのに、エレンは馬鹿正直に繰り返しているのだ。
一体、何故なのか?
やはり、ジョセフはここがどうしてもわからなかった。
(……もし、エレンがこの事態の黒幕ではなかったら?)
となると、エレン以外にいるクライトス家の人間は、分家筋のレヴィンと……
(……いや、もう一人いる。この事態の背景がクライトス家内部の問題だとするならば――)
エレンではなく、もう一人、この事態で益を得られる者。
その人物を知った時、ジョセフは席を立ち上がり――
「――そう、この事態はエレンが黒幕ではない。黒幕に見えて彼女は被害者だった。この事態の黒幕は……
ジョセフはそう言うと、再び鞘から刀を抜く。
黒幕と仕組みがわかった以上、この部屋に用はない。
後は、あの繰り返しているであろう一週間の世界――グレン達の世界に戻り、全てを終わらせるだけだ。
ジョセフは刀で、空間を十文字で斬り、異次元の空間に入っていくのであった。
ここまでで。