それでは、どうぞ。
180話
「で、お前は、他にも俺に頼みたいことあるんじゃないの?」
「うっ……」
唇を重ね、離れた後。
ジョセフは、ウェンディににやりと笑いながらそう言うと、ウェンディは図星だったらしく目を逸らす。
そんなウェンディに、ジョセフはやれやれと肩を竦め、ポンと彼女の頭に手を置いた。
「お前なぁ、言っとくけど、お前が代表選手候補に選ばれた時、マジで嬉しかったんやで?別にからかいはせんよ」
「ジョセフ?」
「まぁ、お前なら、メイン・ウィザードはシスティーナとレヴィンというやつがいるから、まぁ、厳しいけど、代表選手に選ばれるとは思うけどな。……ドジがなければな」
「……ドジがなければ、ですね……ええ、知ってますわよ。どうせわたくしなんて……」
そう言いながら、いじけるウェンディ。
お前な……
そんなウェンディに、ジョセフは苦笑いしながら。
「まぁ、お前のサポートぐらいはしてやるさ。その方がお前も楽やろ?」
「……いいんですの?」
「まぁ……その……あれだ、お前のためっていうか、まぁ、その……も、元々、そういうつもりだったんだよ。べ、別にお前が好きだからとか、幼馴染から恋人関係になろうが、関係なくサポートしようと思っただけだし?」
「……ふふっ」
そっぽを向きながら、しどろもどろに言うジョセフに、ウェンディは優しく抱きしめる。
「おい、抱きつくな。動きにくい」
「いいじゃないですか。わたくし達、付き合っているんですから。……ついさっきからですけど」
そういうウェンディの表情は、嬉しそうな表情で、上機嫌にそう言う。
「では、わたくしのサポート、お願いいたしますわね?」
「……かしこまりました、お嬢様」
腕に絡むウェンディに、ジョセフは満更でもなさそうに言うのであった。
こうして、代表選手候補であるドジっ娘お嬢と、現役の軍人の不器用で凸凹なコンビが選抜会に向けて、準備を進めていくのであった。
次の日。
「さて……今日、お前らにやってもらうのは、魔力測定だ」
魔術競技場内の広場へ辿り着くと、そこにはすでに大勢の生徒達が集まっていた。
アルザーノ帝国魔術学院、聖リリィ魔術女学院、そして、クライトス魔術学院の代表候補の生徒総勢六十名。皆、もうすっかり準備は万端のようだ。
測定会場には、不思議に青く輝く液体で満たされた巨大なガラス円筒が、三角形の頂点の位置に三つ配置されている。
それぞれのガラス円筒の液体の中には、小さな結晶体が浮いており、ガラス円筒の傍には、モノリス型魔導演算器が地面に描かれた魔術法陣で円筒と直結している。
三校の生徒達は、そのガラス円筒を囲むように集合していた。
「各学院で定期的にやっているだろうが、改めて最新のデータを採取させてもらう」
「ねぇねぇ、グレン」
すると、傍らのリィエルが不思議そうに聞いてくる。
「これから……魔力?を、測定するんだよね?」
リィエルがつんつんとガラス円筒をつつきながら、小首を傾げる。
「どうやって測るの?」
「お前……軍で、何度も、このマウザー式魔力測定器で測っただろ……まぁいい、ここにいる生徒達にも、使い方と仕組みを改めて復習させる意味で、説明してやる」
グレンはガラス円筒を叩きながら、周囲の代表候補の生徒達を見回して言った。
「これは、マウザー式魔力測定器……帝国でもっとも使われている標準規格魔力測定装置だ。これを使うと魔力容量、魔力濃度を一度に計測することができる。さて、魔力容量と魔力濃度……これは一体なんだったか?そうだな……コレット、答えてみろ」
「えっ?えー……」
コレットがほんの少し冷や汗を垂らしながら……しどろもどろに答える。
「どっちがどっちだっけ……確か魔力容量が……その人が肉体という器に保有できるマナの最大総量で……魔力濃度が……そのマナから練った魔力の密度……だったかなぁ?」
「正解。なんだ、お前でも一年次生の最初に習う問題くらいは解けるんだな、偉い!」
「やったぁ!先生に褒められたぁ!ふっ、どうだ、見たか、アルザーノ校の連中!」
「……馬鹿にされてますわよ」
どや顔のコレットに、ウェンディがジト目で溜息を吐いた。
(まぁ、恋は盲目だからな)
そんな姦しい連中はさておき、グレンは話を続ける。
「通常、肉体という器に呼吸や生命活動などによって、外界から取り込んだマナは、内界マナとなって蓄積していくが、この蓄積マナ量には限界があり、一定値を超えると取り込んだマナは体内に蓄積されず、体外へと排出される。この蓄積限界値が『魔力容量』だ。
魔術師は、内界マナを魔力操作によって、魔力へと昇華させて魔術を行使するので、体内マナ量が多いほど、多くの魔術を行使出来ることになる。
だが、マナを昇華させた魔力だが……これにも当然、質の善し悪しがある。
同じ呪文、同じ消費量でも、魔力の濃度が高ければ、その呪文は高い威力を発揮するだろうし、濃度が低ければ呪文の威力はしょぼくなる。
この、練った魔力の濃度や質……そう言ったものが『魔力濃度』だ。
魔力容量が大きければ、たくさんの呪文を撃つことができて、魔力濃度が高ければ、強い威力の呪文を撃つことができると覚えておけば間違いない。
一般的には、男は内界マナを魔力へ昇華させる感覚、つまり魔力濃度に優れ、女は外界マナを内界へ取り込む速度と量、つまり魔力容量に優れている。よって、男は女よりも強い威力の魔術を行使することが可能で、女は男より多くの魔術を撃てるってのが通説だ」
ごく一部を除き、誰もが知っている知識ではある。
だが、その程度は教科書で自分で学べという教師も多く、さらりと流される箇所だ。
改めて、グレンから明快な解説を受けた生徒達が、感嘆の息を漏らした。
「さて、それを踏まえて、このマウザー式魔力測定器……このガラス円筒のここに、魔術法陣が描いてあるだろ?ここに手を当てて、魔力を練るとだな……」
グレンがガラス円筒の側面に描かれた魔術法陣に手を当て、魔力を練る呼吸をすると、魔術法陣が自動で起動し、光り輝き始めた。
「この魔術法陣が自動で、練った魔力を吸い取る。すると……」
ぱき、ぱき、ぱきり……
円筒の中に浮いている結晶体が、音を立てて成長し始め、大きくなっていった。
「吸った魔力で、中の結晶体が周囲の特殊な魔術溶液を変換して成長していく。吸わせた魔力量が、結晶体の増加した質量、吸わせた魔力の密度が、結晶体の根元素配列構造に反映される。それらを、この傍のモノリス型魔導演算器で測定解析させれば……ルミア」
「はい、わかりました、先生」
グレンの指示を受け、ルミアがモノリスを操作する。
すると、モノリスの表面上を光の文字の羅列と構造が踊っていき……やがて、モノリスの上部に文字列と数字が現れた。
「こんな風に、マウザーの単位で数値として出力されてくれるわけだ」
≪魔力容量:1865.MP≫
≪魔力濃度:121.AMP≫
「「「「…………」」」」
そんな数値を見た生徒達が、なんとも微妙な顔をする。
別に魔術師として極端に悪い数値というわけではないのだが……世界最高峰の魔術学院の講師を務めるほどの者が出す数値としては……その、なんていうか、お察しだ。
「ちなみに、一流と呼ばれる水準の魔術師の魔力容量は約3000で、魔力濃度が約150だから……あ、あれぇ?なんか涙が出てきたぞぉ?ボク……」
「せ、先生っ!な、泣かないでくださいっ!先生はその……魔術の知識とか、格闘技とか、すごいですから!だからっ!」
目に手の甲を当てて震え始めるグレンを、ルミアが慌てて慰めるのであった。
そして、それに追い打ちをかけるかのように。
「へぇ、そうなんや。連邦が使っているウィンチェスター式とはちょっと違うけど……どれ、試してみるか」
ジョセフが興味津々で、マウザー式を見て、そして、グレンと同じ要領で試してみる。
それをアリッサが、ルミアと同じ動作でモノリスを操作すると。
≪魔力容量:7000.MP≫
≪魔力濃度:175.AMP≫
「…………」
その数値を見た瞬間、生徒達は固まり。
グレンは運悪くその数値を見せつけられる。
しかし、ジョセフとアリッサ、連邦組はそんなことお構いなしに。
「あ、そんなに違いないんね。アリッサ、お前も計ってみろよ」
「うん」
そう言って、交代で同じようにすると。
≪魔力容量:6750.MP≫
≪魔力濃度:180.AMP≫
「うん、まぁ……実にお前らしい数値やな」
「ジョセフこそ、ジョセフらしい数値」
二人がそうやり取りする中。
「…………」
生徒達は固まる。
何、この二人?
自分達と同じ、学生だよね?数値がおかしくない?
ていうか、この二人、連邦からの留学生なの?あれ?連邦って今回の魔術祭典に出るよね?
この二人は、代表選手に選ばれないの?
もしかして、連邦にはこれ以上の……
そう、思っている中。
グレンは二人の学生離れ(※二人は現役の軍人です)の数値を見て――
「――アメリカ人なんて、大っ嫌いだぁああああああああ――ッ!」
そう叫ぶのであった。
魔力測定が終わった後の、夜のフェジテ東地区にて。
「魔力容量2024、魔力濃度94……うん、2000の大台を乗せているし、濃度も安定している。やるじゃん、ウェンディ」
「ふふん!このくらい当然ですわ!だって、わたくしはナーブレスを継ぐ者ですもの!」
ジョセフに褒められたのか、余程嬉しかったのか。
ウェンディは胸を張ってそう答えるのであった。
今日の日程が終わり、帰宅する時、ジョセフはウェンディを家に送るために、正反対である東地区を歩いていた。
(まぁ、なんやかんや言って、こいつは優秀だからな。本当に、誇らしいよ)
ジョセフがそう思っていると。
「……でも」
すると、ジョセフの肩に寄りかかるウェンディ。
「……でも、貴方には全然、届いていませんわ」
2000という大台を乗せても、ジョセフには届かない。
それどころか、そこにはアリッサがいる。
ジョセフがアリッサを相棒として頼っているのは、ウェンディはわかっていた。
本当は、自分がジョセフを支えたいのに、頼られたいのに。
なのに、魔力容量も濃度も、この二人とは隔絶している。
二人と、自分の立ち位置に改めて痛感する。
その思いが、表に出てしまったのか。
ジョセフの袖をぎゅうっと、掴む。
「……ウェンディ?」
ジョセフがウェンディに振り向くと、ウェンディは複雑そうな表情をしていた。
そして。
「……ジョセフ」
裾から義手を両手で優しく握るウェンディ。
「……今日も……泊ってくれませんか?」
「え?」
「今は、一緒にいたいですの。ジョセフ、今日は傍にいてくださいまし」
そう言って、身体を寄せるウェンディ。
心なしか、柔らかい何かが当たっている。
「ちょ、ウェンディ……」
ジョセフは何か言いかけようとしたが。
「……わかったよ。一緒にいてやる。寝るときは別々でな」
「そ、そんなのわかってますわよ!」
からかい気味に、そう言うジョセフ。
一体、なんの想像をしていたのか、頬を赤らめて必死に否定するウェンディ。
まったく、可愛いなぁ。
ジョセフはそう思いながら、ウェンディの家に泊まるのであった。
そして、次の日の座学試験、その次の日の一番重要な模擬魔術戦のことについて話した後――
「んっ……はふっ……んんっ……ジョセフ……好きですわ。……大好きですわ。……んんっ!」
ウェンディが好きな気持ちを抑えきれず、ジョセフの身体に自身の身体を妖艶に絡ませながらアツいキスを交わし合うのだが、それはまた別の話である。
ここまでで。
あと一話、投稿した後、十五章――魔術祭典本番に入ります。