ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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それでは、どうぞ。


183話

 

 

 

 そんなこんなで、一同は休憩時間に入った。

 

「お疲れ様、ジョセフ。水、持ってきた」

 

「ん、ありがと」

 

 代表選手達一人一人に水を配ったルミアから、アリッサは二人分の水を持ってくる。

 

 ジョセフは、水入りのカップをアリッサから受け取ると、傍らに設置されていたベンチに腰掛け、一気に呷った。

 

 システィーナとレヴィン二人相手に、一発も当てられることなく、逆に、二人にぺちぺちと余裕で攻撃を当てていたジョセフであったが、学生離れしていた実力を持つ二人同時を相手にしていたのだ。

 

 いくらジョセフでも、多少は疲れていたので、冷たい水は渇いた喉に染み渡るように美味しかった。

 

「ところで……どうなの?あの二人は?」

 

 アリッサがジョセフの隣にちょこんと腰掛けながら聞いてくる。

 

「ああ、流石はメイン・ウィザードに選ばれたのと、それに匹敵する実力を持つ二人だよ。良い仕上がりになっていると思う」

 

 ジョセフは、システィーナを遠目で見ながら、言った。

 

 そのシスティーナの所には。

 

「システィ!システィ!やっぱり、システィは凄いね!格好良かった!」

 

 そこでは、クライトス校の女子生徒エレンが頬を上気させ、嬉々としてシスティーナの世話をしていた。エレンもルミア同様、マネージャーとして参加しており、選手達のために細かな雑務を行ってくれているのだ。

 

 もっとも――

 

「はい、システィ、お水!」

 

「ふふっ、ありがとう、エレン」

 

「システィのために、レモンの砂糖漬け作ったの!良かったら食べて」

 

「あ、本当だ!これ、疲れに効くのよねぇ。わざわざありがとうね」

 

 ――エレンはシスティーナが好き過ぎて、最早、システィーナ専属になりつつあるが。

 

「午後からもシスティが全力で訓練できるように、私、マッサージしてあげるね!」

 

「え!?いいわよ、そんなの!悪いから――」

 

「遠慮しないで、私がシスティにやってあげたいの。だから、ほら横になって……」

 

「ひゃ!?も、もう、エレン、ちょっと強引……」

 

「あはは、行くよ、システィ……」

 

「きゃん!?ちょ、エレン!?どこ触って!?そ、そこは……あ、あんっ!?」

 

「ああ、システィ……システィの肌ってやっぱり綺麗だね……」

 

 ――なんか、システィーナが好き過ぎて、危険領域に達しつつあるような気がするが。

 

「……まぁ、いいだろ」

 

 先の無限ループの代表選手選抜会の黒幕であり、被害者でもあったエレン。

 

 グレン曰く、あの時の絶望に打ちのめされ、壊れかかっていたエレンと比べれば、今のエレンは遥かに健全だ。何千回ものループで培った絶大な力も経験も、エレンはその全てを失ってしまったが……あんな風に幸せそうに笑っている方が、余程良い。

 

 グレンがシスティーナの父レナードの手引きで、虐待を受けていたクライトス本家の実家から離れ、近々、アルザーノ帝国魔術学院へ長期留学することも決まっている。

 

 因みに、現当主であり、真の黒幕であったゲイソンはあれ以降、自室に引きこもっており、「殺される」、「助けてくれ」「連邦に殺される」と意味不明なことを呟いているらしかった。

 

 まぁ、あの後、ジョセフが事の顛末を国防総省に報告したところ、連邦政府は直ちに国家安全保障会議を開き、結果、ゲイソン=ル=クライトスを”己の私欲のために、連邦ならびに世界を危機に陥れた非常に危険な人物”と認定。

 

 連邦捜査局が、秘密裏に帝国・クライトス領に入り、ゲイソンを一時的に拘束、取調べを開始したのである。

 

 まぁ、要するに、こってりとシメられたというわけだ。

 

 もっとも、次もゲイソンがまた同じことをしでかそうものなら、クライトス家の命運よりもゲイソンの命運が尽きることになりそうだが。

 

(ま、これで全てが良い方向へ向かうだろ――)

 

「はぁー……はぁ……んうっ!?だっ!ダメぇ……エレン、そこはぁ……あっ!」

 

「……システィ……あぁ、システィ……」

 

(――向かっている……よね?大丈夫だよね!?)

 

 うつぶせに寝そべるシスティーナを組み敷き、切なげな吐息を漏らしながら妖しく絡みつくエレンの姿に、ジョセフは頬を引きつらせるしかない。

 

 もう、声だけ聞いたら、完全に行為をしている声を出すシスティーナ。

 

(なんだか、反動のあまり、エレンさん、変なベクトルに向かっていません!?あれ、エルザ以上にヤバいことになっているよ、エレンさん!?ていうか、誰か止めろよ!?あれ、完全に誤解を招くで!?)

 

 とまぁ、色々と問題はあるような気はするが。

 

 すると、それを見ていたアリッサは――

 

「……ふーん、ああいう風に強引に押し倒せば……」

 

 ……なんか、嫌な予感がするんですが。

 

 猛烈に嫌な予感をしたジョセフが、そぉ~っと、ベンチから離れようとすると。

 

 がしっ!

 

 アリッサは見逃さずジョセフの右腕を掴む。

 

「あ、あの……アリッサさん?その手を離してくださいませんかね?」

 

 だらだらと脂汗を垂らしながら振り向くと、アリッサがジョセフの顔を見ている――

 

 ――目が完全にスイッチが入っているような気がするんですが。

 

 そして、アリッサは強引に、ジョセフを押し倒した。

 

「ぐへぇッ!?」

 

 あまりにも強引に押し倒されたのか、そんな声を上げるジョセフ。

 

「あ、あの、アリッサさん?」

 

「……マッサージしてあげるから、横になって」

 

「もう横になっているよ!?ていうか、お前に強引にさせられたんだけど!?」

 

 しかも、お前、馬乗りになっているじゃねえか!?

 

 おかげで動けない。動いたら、なんか当たりそうで怖い。

 

「ていうか、目!目が怖いよ、君!?」

 

「大丈夫よ?私はいつも通りよ?」

 

「全然、いつも通りじゃないです、はい!」

 

 ジョセフが好きなあまり、暴走し始めていくアリッサ。

 

 そんなアリッサの背後には――

 

「…………」

 

 黒いオーラを発して見下ろす二人の少女を見て、ジョセフは固まった。

 

 その二人は、にっこりと微笑んでいるが、決して笑っているわけではないということは明白だ。

 

 そんな二人の少女――ウェンディとテレサの存在に気付いたアリッサは振り向くが。

 

「…………」

 

 すぐにジョセフに振り向き、ジョセフの顔に近付こうとした……その時。

 

 がしっ!っと、アリッサが何をしようとしていたのか、察したウェンディとテレサが同時にアリッサの左右の両肩をそれぞれ掴んで阻止する。

 

「……どうしたの?二人とも」

 

「いえ。なんか、これ以上は危険だと察知しまして……」

 

「それを、止めようとしただけよ?大丈夫、安心して」

 

(俺は全然、安心できません!)

 

 お互い微笑みながら――目は全然笑っていない――向き合う三人に、ジョセフは心の中で悲痛な叫びを上げている。

 

「そう……でも、大丈夫よ。心配しないで」

 

「いえいえ、そういうわけにはいきませんわ」

 

「そうよ。ほら、ジョセフが嫌がっているじゃない」

 

(今の状況が、むしろ嫌だよ!)

 

 今の状況より前の状況の方が良かったのは、言うまでもない。

 

 ていうか、なんで二人はここにいるんだ!?

 

「それに……ジョセフはわたくしと付き合っているのですよ?」

 

 ウェンディが意図的なのか、ついそう言ったのかわからないが。

 

 アリッサとテレサに纏っている黒いオーラが、一段と濃ゆくなる。

 

(ウェンディ!?バカ野郎!それここで言ってはあかんやつや!)

 

 心の中で悲鳴を上げるジョセフ。

 

「あら、そうなの……でも、わたしは――」

 

(あぁああああああああ!?アリッサ、それは特大の爆弾や!やめろぉおおおおおおおおお――ッ!?)

 

 しかし、ジョセフの願いも空しく。

 

 アリッサは誰にも聞こえないように、二人に何事かを囁いている。

 

 何を囁いているのかって?スノリアのあの一件しかないに決まっているでしょ。

 

 それを聞いた、ウェンディとテレサは。

 

「ウフフフフフフフフフフフフ……」

 

「アリッサ……いくらなんでも、そんなに強引にしてはダメでしょう?それは、ナシです。……こうなったら、私も――」

 

(いやぁあああああああああああああああああ――ッ!?)

 

 さらに黒いオーラを発して笑うウェンディとなにやら物騒なことをのたまうテレサ。

 

 なんか、この後がめっちゃ怖い。ウェンディとテレサの目がジョセフを獲物を見るような目で――絶対に、独り占めしてやる。そのためには、手段は問わない――みたいな目、してるんですけど。

 

 ジョセフが、一瞬で修羅場と化している状況を心の中で泣いていた……その時。

 

「先輩方、愛人ってどう思いますかっ!?」

 

「「「はぁ!?」」」

 

「皆で一緒に、先生の愛人になりましょうよ!そうすれば、喧嘩せずに済みます!」

 

 グレンにベタベタとくっつくマリアが、グレンとマリアがくっつくのを阻止しようと凄んでいたフランシーヌ、コレット、そして、今までいたルミアに対してそう提案していた。

 

 それは運悪くアリッサ、ウェンディとテレサの耳にも届いて――

 

「「――こうなったら、いっそのこと愛人になって……」」

 

 アリッサとテレサからそんな物騒な言葉が漏れ、ジョセフは真っ青になる。

 

 一方、これを聞いたウェンディは。

 

「一刻も早く、ジョセフをわたくしのものにしないと……こうなったら」

 

 もう、なんか、のたうち回っていた。

 

「…………」

 

 これ、帰りの時、この三人を避けよう。いや、逃げよう。

 

 ジョセフは、この後、起きる事態に備え、放課後の方針をまとめるのであった。

 

 一方で――

 

「だ、だめぇ!エレン!ひぅ!?だ、誰か、助け……ッ!?」

 

 システィーナ達はシスティーナ達で不純()()交遊の領域に片足を突っ込みかけているのであった。

 

 因みに、システィーナ達はグレンに止められたのだが、ジョセフ達の方はあまりの修羅場に、誰も止められなかった。

 

 そして、その後。

 

「ねぇ、ジョセフ……この後、わたくしと……」

 

「うふふ……この合宿が終わった後でも……」

 

「ねぇ、終わった後、部屋に来てもいいよね?……何も予定ないし、良いよね?」

 

 これ、どうすればいいの?

 

 なんかものすごく迫ってくる三人にジョセフは、脂汗を垂らして硬直するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで合宿の日々は過ぎていき――

 

 やがて、各人、確かな成果を出しつつ、合宿はつつがなく終了する。

 

 魔術祭典の開催日は、あっという間に近づいて。

 

 いよいよ、システィーナ達が、世界の舞台へ羽ばたく時がやってくるのであった。

 

 







今回は、ここまでで。
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