ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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それでは、どうぞ。


189話

 夜が明けて、次の日。

 

 開会セレモニーの興奮冷めやらぬまま、ついに魔術祭典の試合は始まった。

 

 魔術祭典の試合方式は、特殊トーナメント方式だ。

 

 回戦ごとに、くじ引きで対戦カードを決め、勝ったチームが次の回戦へと進む。

 

 今回の、参戦国は、合計十ヶ国十チームなので、第一回戦、シードを含めての第二回戦、決勝戦の三回、二チームは四回を勝ち抜けば優勝となる。

 

 基本は、メイン・ウィザード一人+サブ・ウィザード九人の、合計十人一チームを組んで競い合う形式だ。サブ・ウィザードは試合で何人脱落してもOKだが、メイン・ウィザードだけは参加必須となる。

 

 ゆえに、メイン・ウィザードが脱落した瞬間、自動的にそのチームの敗北となる。

 

 その試合内容とルールも、試合ごとにランダムで決められ、対策はほぼ不可能。

 

 精々が過去行われた試合方式から、傾向を予測するくらいしかできない。

 

 それを不公平などとは誰も言わない。魔術師同士の戦いなど、平条件で戦えることの方が圧倒的に少ないのだから。

 

 例えば――初日の第一戦目。

 

 対戦内容は、競技場の環境制御魔導機能によってフィールドに形成された大密林を舞台に、湿地から無限湧きするゴーレムと戦い、その撃破数を競う……というものだ。

 

 無論、プレイヤー同士の潰し合いも認められている過酷なもので、ゴーレムを倒しにいくのか、頭数の上で優位に立つために敵プレイヤーを潰しに行くのか、非常に高度な状況判断が問われる試合内容である。

 

 対戦カードは、南東密林国家アルマネスの呪術大学チームと、東方の日輪の国の天帝陰陽寮チーム。

 

 フィールドが密林なだけに、当初、地の利があるアルマネスの勝利を誰もが予測した。

  

 実際、類感系呪術を駆使した魔術罠戦略が功を奏し、試合はアルマネスが常に日輪の国を圧倒し続けた。

 

 だが、日輪の国のメイン・ウィザード、サクヤ=コノハの陰陽術によって行使される式神使役術や索敵術が、アルマネスの攻勢を捌き続け、やがてはサクヤの式神使役術が、フィールドのゴーレムまでも支配し始める。

 

 無限湧きするゴーレムを片端から支配されたら堪らない。そもそも、ゴーレムには第三者に支配されないよう、強固なプロテクトがかかってたのだから。

 

 ゆえに、この勝負は見事、日輪の国の勝利となった。

 

 そして――続く第二戦目。

 

 対戦カードは、レザリア王国のファルネリア統一神学校チームと、セリア同盟の大魔術ギルドの初等科チーム。

 

 対戦内容は、陣取り合戦。環境制御魔導機能によってフィールドに形成された、疑似的な都市を舞台に、その各地に存在する無数の拠点を、二チームが競争で制圧し、旗を立てていくというものである。各拠点には小型ゴーレムによる防衛兵力が配備されており、当然、奪われた拠点の奪い返し、プレイヤー同士の潰し合いもありだ。

 

 点数が高く落としにくい拠点を一気に攻め落とすのか、それとも点数は低いが落としやすい拠点を数多く制圧していくのか……これまた高度な状況判断能力と作戦が問われる試合内容である。

 

 戦いは混沌化するように思われたが……終わった時、観客達の誰もがその予想外の結末に、度肝を抜かれることになった。

 

 結果は、ファルネリア統一神学校チームの圧勝。

 

 ファルネリア統一神学校のチームが全体的にレベルが高ったというのもあるが、中でもメイン・ウィザードのマルコフ=ドラグノフは別格であった。

 

 法術と呼ばれる聖エリサレス旧教秘伝の魔術を駆使し、セリア同盟のチームを全員、真正面から撃破し、ほとんどの拠点を制圧してみせましたのだ。

 

 世界に名だたる様々な神秘の御業が惜しげもなく振るわれ、それを目の当たりにすることができる幸運に、そして、予測不可能奇想天外な試合内容と結末に、セリカ=エリエーテ大競技場に集う観客達のボルテージは常に限界突破状態だ。

 

 こうして、初日に予定されていた試合は、熱狂の渦に包まれながら終了する……

 

 

 

 

 そんな、試合終了後の熱狂さめやらぬ、大競技場観客席の一角にて。

 

「凄いわ……皆、本当に凄い……」

 

 そこは、アルザーノ帝国代表選手団の面々が占拠する場所。

 

 今まで、試合を見学していたシスティーナは、目を瞬かせながら、どこか楽しそうに、嬉しそうに呟いていた。

 

「これが世界なんだ……こんな人達と、お祖父様は競い合ったんだ……」

 

「ええ、聞きしに勝るレベルの高さ……ふふ、これは柄にもなく昂ぶってしまいますね。明日の午後から行われる私達の初戦がどうなるか……実に楽しみですわ」

 

 武者震いするシスティーナに、リゼがクールに応じる。

 

「あわ、あわわわ、わたくし達……ひょっとして……?」

 

「ば、ば、場違いなんじゃね……?生まれてきてごめんなさい……」

 

「はぁ~、まったく……大丈夫ですって。お嬢様達も、実力を発揮できれば、ちゃんと通用しますから。今までの努力を少しは信じろよ、もう、面倒臭い」

 

 青ざめて、ぶるぶる涙目で震えているフランシーヌにコレットを、相変わらず皮肉げに宥めているジニー。

 

「しかし……くそ、どこの世界にも別格ってのは居るんだな……」

 

「ええ、まったくです」

 

 忌々しげに呻くギイブルに、レヴィンが楽しげに応じる。

 

「マルコフ……ふっ、もし戦うことがあるのなら、楽しい勝負が出来そうですね」

 

「僕はマルコフなんかよりも、あのサクヤ=コノの方が厄介だと思うね。あの状況判断力と対応力……どう立ち回るべきか……?」

 

「ふん。ゴチャゴチャうるせえ奴らだ。出てくる敵はぶっ潰す。要はそれだけだろうが」

 

 レヴィンやギイブルの批評を、ジャイルが一蹴する。

 

「大丈夫だよ、皆!こっちにはシスティがいるもの!スカしてイキってるレヴィンなんかより、ず~っと頼りになって、強くて、可愛くて、格好いいシスティがいるもの!」

 

「え、エレン……貴女、最近、なんかキャラが変わりましたね……?」

 

 システィーナの腕に組みついて自慢げに笑うエレンに、頬を引きつらせるその従兄弟のレヴィン。

 

 それからも、システィーナ達は、今日の試合について、和気藹々と話し合い続ける。

 

 元よりアクの強いメンバーの集まりではあったが、強化合宿を経て、世界で出会った強敵達を前にして、徐々にチームとしてまとまり始めたようであった。

 

「お?あれは、アルザーノ帝国代表の選手の皆さんではないですか」

 

 ふいに、背後から声がしたので振り返ってみると、そこには青と白を基調にしたコートローブに身を包んだ少年が立っていた。

 

 その少年は、昨日、マルコフと一触触発寸前まで対立していた少年――連邦代表選手のアレックスだった。

 

「あ、貴方は、あの時の……」

 

 なぜだろう、あんな出来事を見たせいか、妙に緊張が生じる。

 

 すると。

 

「ほら、アンタが昨日、銃を引き抜いたから怖がっているじゃない」

 

 ひょっこりと、アレックスの背後からシスティーナと同い年の少女が現れ、苦笑いしながらそう言った。

 

 黒髪のセミロングで黒瞳、端整な顔立ち。その容姿は帝国の人間というよりかは、サクヤと同じ東方の出身の人間らしい。口ぶりはお淑やかな少女ではないというのは想像できる。

 

「はぁ!?あれは連中が、聖書を開いて殺る気満々だっただろ!?それに、俺は別に殺すつもりで銃を引き抜いたんじゃない。聖書を狙っていたんだ。怖がる理由なんて――」

 

「確かに、ウチらが連中の聖書を狙っていたとしても、傍から見れば流血沙汰を起こす気しか見えないわよ。何とも思うなっていうほうが無理な相談よ」

 

「あ、あの……」

 

 何やら言い合っている二人にシスティーナが恐る恐る間に入ると。

 

「あー、ごめんね、今のは気にしないで。私達は、貴方達に挨拶に来たのよ。本当は、昨日するつもりだったんだけど、レザリアと揉めちゃったからね」

 

 すると、東方系の少女が穏やかな表情でそう言い、自己紹介を始める。

 

「私は、ルーシー=リン。東方の出身よ。といっても、日輪の国のサクヤ=コノハとは違う国なんだけど。よろしくね」

 

「俺は、アレックス=ジレット。陸軍の軍学校から連邦代表のメイン・ウィザードを務めることになったんや。因みに、彼女も同じ陸軍の人間な。よろしくな」

 

 ルーシーに続いて自己紹介するアレックス。

 

「私はシスティーナ=フィーベル。えっと、帝国代表選手団のメイン・ウィザードを務めさせていただいているわ。こちらこそ、よろしくね。えっと、アレックスさんと、ルーシーさん」

 

「呼び捨てでいいわよ。そんなに堅苦しくしなくても大丈夫よ」

 

 微笑みながらそう言うルーシー。

 

 別チームでお互い優勝の座を争う敵。なのに、彼らはこうもフレンドリーに接してくる。

 

 独立戦争で帝国から離れたといっても、元は、本国と植民地の関係であるからか、親しみが湧き、システィーナもリラックスしていき、普段通りになっていく。

 

「それはそうと、アンタらは明日の午後試合あるんやろ?となると、これから練習?」

 

「ええ、明日に支障が出ないほどにだけど。……貴方達連邦は……」

 

「私達は、明後日だわ。シードになっているから二回、試合することになるわ」

 

 そう言って、肩を竦めるルーシー。

 

 そして、アレックスはというと――

 

「あーあ、二回も試合するとかマジでキツイんすけど?初戦なんて加減考えながら、戦わないといけないとか――」

 

「しょうがないじゃない、そうなってしまったんだから。ほら、アンタがそんな調子でどうすんのよ。シャキッとしなさいな、シャキッと」

 

「あ、あはは……」

 

 なんか仲間っていうよりも、夫婦みたいな感じに見える二人に、システィーナは苦笑いする。

 

「と、なると、時間がないわね。まぁ、今回は挨拶に来ただけだし。じゃあ、今度、落ち着いたらゆっくりお話でもしましょう、システィーナ」

 

「うん、そうね。また今度ね、ルーシー」

 

「ええ、また、今度。明日の試合、頑張ってね、応援しているわ」

 

「ありがとう、じゃあ、明後日の連邦の試合、私達も応援するわ」

 

 ん、と。ルーシーが微笑むと、手を振りながら、二人とも去って行った。

 

 そして、二人が何やら言い合っている様子を見て、穏やかな顔になって見送るシスティーナであった。

 

「ところで!先生はどこへ行ったのよ、もうっ!」

 

 そして、システィーナがようやくグレンの不在に気付き、声を荒げていた。

 

「総監督が、他のチームの試合を見てないなんて有り得ないでしょう!?やっぱり、監督としての自覚が足りないんだからッ!一体、どこをほっつき歩いて――ッ!?」

 

 すると、そんな風にカリカリするシスティーナへ、

 

「グレンは今、とある人物と面会しているわ」

 

 観客席に深く腰掛け、腕組みしているイヴが、淡々と言った。

 

「実は、ちょっとしたトラブルがあってね。それを解決するため、今、マネージャーのルミアと一緒に動いているところ」

 

「イヴさん?」

 

「だから、そう目くじら立てないことね。決してサボりとか、そんなんじゃないから。少しは愛しの師匠を信じてあげなさい?システィーナ」

 

 意外にも、あのイヴがグレンのことをかばい立てしたので、その衝撃でシスティーナは戸惑いながら頷くしかない。

 

「べっ!?べ、別に愛しくはないですけどっ!で、でも……そういうことでしたら……わかりました……」

 

 システィーナは頬を赤らめながら、不服そうに頷く。

 

「でも、トラブルって……何があったんですか?大丈夫なんですか?」

 

「…………」

 

 すると、イヴは一瞬、間を空けて。

 

「……そうね。状況次第では、貴女にもちゃんと話し、協力してもらうわ。でも……今は気にしないで。貴女は、今、貴女がすべきことに専念なさい」

 

「は、はい……」

 

 第二の師匠たるイヴからの言葉だ。頷くしかない。

 

「皆!ほら、試合は終わったわ!これから、明日に支障が出ない程度に、軽く練習するわよ!ほら、立って!」

 

 そして、システィーナは、未だだらだらと試合や他国チームについての議論を続ける生徒達を促す。今回の件で、すっかり皆のリーダーが板についてきたようだ。

 

「エレン、お願い。競技場の使用許可を取ってきてくれないかな?」

 

「うん、わかったよ、システィ」

 

「それと、マリア。今日の試合見てて気付いたんだけど、白魔術が得意な貴女に、相談があって……」

 

 と、そこで、システィーナは再び気付いた。

 

「あれ?マリアは?確かにさっきまで試合見てたはずなんだけど……」

 

 

 

 

 

 





今回は、ここまでで。
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